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377 選択

「わたしよ、アンニフィルド。地球じゃクリスマスって大イベントだったらしんだけど。イエス・キリストの誕生を祝う日だってね。誕生日じゃないらしいの。正確な誕生日は不明だって聞いたわ、二宮から・・・。二宮?やっぱり違うのかしら?ま、いいか。ところで、ブレストったら合衆国にアプローチしてる様子ね。イラージュといったいどうするつもりなのかしら?そうそう、それからわたしたちのお話しのタイトルの由来が聞けるわよぉ」

■選択■




次の朝、株式会社セレアムの事務所で和人たち社員一同は、俊介と真紀の話を聞いていた。


「じゃあ、朝礼をするわ。前に集まって!」


「へーーーい」

「おす」


ぞろぞろ・・・。


「みんな、おはようございます」

「おはようございます」

「おはよぉーーーうーーーす」


「俊介、例のこと説明して」

「了解だ」


真紀は挨拶が済むとすぐに俊介にバトンタッチした。


「ええーーー、ユティスたちがエルフィアから地球の文明促進支援で予備調査に来て、早1年が経とうとしていることはみんな承知していると思う。エルフィア側では今後についてのユティスの中間報告を求めているんだ。ついては、ユティスたちは一時帰国、いや、帰星する。おっほん」

俊介は咳払いして社員たちを見渡した。


「ええーーー、帰っちゃうのぉ?」

「うっそぉ!」


「ナナン。長くても2週間程度で、すぐに戻りますわ」

にこ。

ユティスが微笑んだ。


「3人ともエルフィアに帰っちゃうってぇ?」

「残念だわぁ・・・」


「大丈夫ですわ。キャムリエルが残ります」

ユティスが言うとキャムリエルは石橋に微笑んだ。


「リーエス。可憐、よかったね、ボクは残れて」

「はい・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「それでさぁ、現地調査報告って地球人の証人が必要なんでしょ?」

岡本が和人に目配せした。


「証人かどうかは知りませんけど・・・」

「なになに、じゃあ、和人も一緒とか?」

茂木が和人を羨ましそうに見つめた。


「いいなぁ。二人して婚前宇宙旅行かぁ・・・」


「婚前宇宙旅行ねぇ・・・」

にたらぁ・・・。

アンニフィルドがなにか言いたげに和人を見やった。


「ちょっと、待ってください、みなさん!」

和人が慌てた。


「なにか変でしょうか・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わぁお!」

「やっるぅ、ユティス!」


T大の講演でのユティスの和人に関する大胆発言はみんなの知るところだった。


「こらこら、まだオレの話は終わっとらんぞぉ・・・」

俊介が苦笑しながら社員たちの私語を制した。


「うーーーす」


「しかしだ。問題がある。ユティスたちを転送してきたシステムに問題が見つかり、その対応が済むまでしばらくは・・・、そのぉ、出発できん。そうだろ、アンニフィルド・・・?」

俊介は確認するようにアンニフィルドを見た。


「要は、わたしに行って欲しくないって言うことよね?」

にこ。


「おお!」

「常務!」

「俊介も、やるぅっ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「墓穴よね?」

クリステアがにやりとして真紀を見た。


「そ、大っきな墓穴。露天掘りのダイヤモンド鉱山並みだわ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あのなぁ・・・」

俊介はしまったというような顔をした。


「そんなことはどうでもいい。で、エルドから連絡が来たら、恐らく即日出発ということになろう。そこでだ」


ぴく・・。

俊介はユティスと和人を見て眉を上げた。


「仕事の引継ぎ準備は今日から怠りなくやって欲しい!」

びしっ!


「まったく、結局仕事のことばっかりなんだから・・・」

だらぁ・・・。

アンニフィルドが不満げにクリステアに耳打ちした。


「リーエス。しょうがないでしょ?仕事以外はビールと女の子しかないんだから。どれならいいの、アンニフィルド?」

「ん、もう!どれも嫌っ!わたしにしなさいって言うの!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あははは!」

「ふふふふ!」


「なにが可笑しいのよぉ?」

きっ!

アンニフィルドは二宮を睨みつけた。


「うーす。へいへい・・・」


「二宮、石橋、いいか?わかんないことがあったら遠慮なく和人に聞くんだぞ」

アンニフィルドの声が聞こえてるのか聞こえてないのか、俊介はそのまま続けた。


「うーす」

「はい」


「システムはと・・・」

俊介が岡本を見ると彼女は首を静かに横に振った。


「まぁ、そっちは大丈夫そうだな。アンニフィルドもクリステアもシステムの監視ログを引き継いでおいてくれよ」


「まかせなさい。PCでサーバの監視ウインドウを全部開けとけばいいんでしょ」


ぱち。

アンニフィルドが岡本にウィンクした。


「だれでも閲覧可能よぉ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「こらぁ!そんな重要なものを開けっ放しにするんじゃない!誰かに見られたらどうする!」


「まぁ、なんてエッチな方・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「クリステア、きみまでもなにを言い出すんだ!?」


「女性が内緒のものを見られた時に言う言葉だって教わったわよぉ。ねぇ、ユティス?」


「リーエス」

にこにこ。


「内緒のものだとぉ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あら、違うの?」

「確かに重要機密ではあるが・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「だれだ、そんなこと教えるやつは?」


くるっ。

すぐに俊介は二宮のほうを向いた。


「お察しのとおり、二宮に決まってるじゃない」


「オレじゃないっすよぉ」


ひゅうひゅぅ・・・。

真紀が横を向いて口笛を吹く格好でとぼけようとしている二宮に目を向けた。


「また、おまえか。ロクな日本語を教えんヤツだなぁ・・・」

「うす」

俊介はそう言うとすぐに次に移った。


「それから、オレと姉貴はこれからじいさんのところに報告に行った後、シャデルの黒磯さんのところに行ってくる。今日は社に戻れんと思うから、そのつもりで」


「やだ、真紀さんお泊りかしら?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「バカ言ってないでちゃんと聞きなさい!」

「はぁい」

「怒られちゃった・・・」


「だから、岡本と茂木の言うことをちゃんと聞くように。わかったな、みんな?」


「はぁーーーい」

「はい」

「リーエス」

「おっす」




シャデル日本の金座本店では支配人の黒磯が、音楽プロデューサーの烏山ジョージとプロモーション企画についての打ち合わせをしていた。


「で、ユティスさんたちの音源やビデオを提供していただけると?」

黒磯は今は移籍した大物女性シンガー小川瀬令奈のプロデューサーだった烏山をよく知っていた。


「ええ。いっぱい撮らさせてもらいましたから、今回の企画に利用していただければと思いまして」


「しかし、著作権や肖像権は彼女たちにも・・・」

黒磯は心配そうに烏山を見た。


「ええ。説得しています。彼女たちの会社、セレアムの重役たちには説明済みです」

「それは伺っております。もうすぐ、お二人ともここに見えられますよ」


「ええ。わたしが手配しましたから・・・」

一呼吸置くと烏山は続けた。


「ユティスは自分たちの映像や曲を商売に使うなと言っていますが、一度は貴社のプロモーションビデオに出ています。世界に冠たる平和の象徴、ファッションとモードのシャデルさんだからこそ、OKが出たものと思っています」


「ファッションとモードが平和の象徴ですか・・・。えらく褒められたものですね。それでもビジネスはビジネスですよ」

黒磯は複雑な顔をした。


「まぁ、それはそうかもしれませんが、ファッション、モードで『あまねく人々を幸せに』。これですよ、キーは」


にっ。

烏山は一瞬くったくのない笑顔を見せた。


「エルフィアへのキーは人々に『あまねく幸せに』ですか?」


「そうです。『あまねく幸せに』です。そして、わたしの音楽も『あまねく人々を幸せに』します・・・。てことでどうしょうかぁ?!あはは」


にこにこ。

そして烏山は一気に表情を崩した。


「ははは。まさしくですね。まさか、瀬令奈さんの元プロデューサーさんとお知り合いになれるとは思ってもみませんでした」

黒磯もそれに連られて笑った。


「それは光栄です。しばらくは瀬令奈の元プロデューサーという名前は大いに利用させてもらうつもりです。瀬令奈の賞味期限が切れないうちに」


ぱち。

そして烏山ジョージは黒磯にウィンクした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そう言えば、セクシー路線に変更されたとか・・・」


「まぁ、性格が少なからず問題はありますが、歌唱力は相当なものがありますね。あの歳であせってセクシー路線に走る必要もないと、わたしは思っていますが・・・」


烏山は眉を上げた。


「まぁ、もうわたしの手を離れたことですし・・・」

「それで、契約の方はどうすればいいのでしょうか?」


「そっちは貴社のフォーマットをいただければわたしで用意します」

ぽん。

烏山は手を軽く叩いた。


「お高いんでしょ?」

黒磯は烏山がどれくらいのことを言ってくるのかと探りを入れた。


「本来ならば、他の音楽事務所のようにウンといただくことになります・・・」

烏山は真面目な顔になると黒磯を見つめた。


「うっ・・・」

プロモーションには年間何十億円も使うシャデルではあったが、黒磯は思わず呻いた。


「ですが・・・、今回、貴社からは一銭もいただくつもりはありません。あくまで、プロモーションにより音楽に興味を持ったファンたちがわたしどものサイトからダウンロードしたり、DVDを買っていただくことにより、収益を上げるということです」


にこ。

烏山はくったくない微笑みを見せた。


「なるほど」

黒磯は頷いた。


「それに売り上げの大半はユティスたちに返すつもりですよ。ビジネスに天使を利用して大儲けなどできませんよ。わたしは事務所がそこそこ生き延びれる金額があればいいんです」

烏山はさばさばした様子で言った。


「そんなんで烏山さんは大丈夫なんでしょうか?」

黒磯は音楽プロデユースにどれくらいの費用が掛かるかだいたい想像していた。


「ええ。なんとかなるでしょう。ユティスたちと一緒に仕事ができるだけ幸せです。なにしろ本物の宇宙人・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「いや・・・、天使ですから」

「天使!?」


黒磯はあの3Dデータ取得時の彼女たちを見て受けた印象が、烏山から出てきた言葉に凝縮されていたので、思わずびっくりした。


「ええ。天使ですよ、彼女らは・・・」

烏山はゆっくりと繰り返した。


「女神ではない・・・?」

黒磯は尋ねた。


「違います。美しくセクシーな女性を女神と呼ぶことはよくあること。しかし、それ故、ショービジネスの世界ではありふれてもいます。ちょっと可愛ければすぐに女神、女神ってね・・・。今では女神という表現は安っぽいんですよ・・・」


「そうですか・・・」


「ええ。実は瀬令奈の最初のキャッチフレーズが『歌って踊れる女神』でしたから・・・。もう、使う気はありません」


「そうでしたか」

こっくり。

黒磯は静かに頷いた。


だれもが認めるとおり、ユティスたちの美貌は内なる魂からくる本物の美しさです。だから、女神という言葉は彼女らのイメージには合いません。天使という清らかな響きこそ彼女らのイメージでしょう。3D撮影に際して、地球風のメークはしていませんでしたよね?」


烏山はユティスたちはほとんどすっぴん状態で撮影に臨んだことを知っていた。


「よくご存じで・・・」

黒磯はフランス人のメークが首を横に振ったことを思い出した。


「その必要がないくらい美しい・・・。わたしは素直にそう感じましたが・・・?」


「仰せのとおりです」

烏山の意見に黒磯は同意した。


「そういうわけで、彼女らはエルフィア銀河、つまり地球風に言うと、NGC4535銀河、別名『ロスト・ギャラクシー:失われし銀河』からやってきました。言いなれば、『失われし銀河の天使』というわけです」


「それが彼女たちのキャッチフレーズなんでしょうか?」

「そうです。貴社に因んでフランス風にすると、『レ・ザンジェ・ドゥ・ラ・ギャラクシー・ペルデュ』です・・・」


「『レ・ザンジェ・ドゥ・ラ・ギャラクシー・ペルデュ』・・・」

黒磯はそれを一言一言噛み締めるように言った。


「なんかグッときませんか?」

「なるほど・・・。確かに神秘的な響きがありますね」


こっくり。

黒磯は頷いた。


「でしょ?世界中が彼女たちを知っています。しかし、地球人の日常的衣装を着た彼女らではなく、本来のエルフィアの衣装に身を包んだ彼女たちこそ『失われし銀河の天使』なのです」


「・・・」

黒磯は先日の3D計測の3人娘ことを思い出した。


「それを実際に目にした人間はそう多くはありません。ましてや、それを超高解像度でビデオに収めたとなると・・・」

烏山は黒磯をじっと見つめた。


「しかし、シャデルの衣装はエルフィア風ではありませんが・・・?」

「まぁ、そうですが、そうばかりとも言えませんよ。彼女たちが身にした新作発表ショーでの衣装は十分非日常的です。お店に並んでいるものとは違いますよね?」


「ええ。それはもちろんそうですが・・・」


「まぁ、これをご覧ください。エルフィアの衣装はT大での講演時のものですが、わたし自身も呆れるくらいよく撮れています。これをあの3Dデータ取り時のビデオに織り交ぜて編集しました。バックの曲はそのままにして・・・」


「わかりました。とにかく拝見させていただきましょう」

「ありがとうございます」


ぴっ。

そういうと烏山はプロジェクタのスイッチを押した。




「俊介ったら、なにを言い出すかと思いきや、3Dデータ取得時に撮った烏山のビデオをシャデルのプロモーションに使わせろですって」

アンニフィルドが渋い顔をした。


「あら、いいじゃない。あなたの美貌が減るわけじゃないわ」

クリステアがアンニフィルドに目配せした。


「それもそうよねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「二宮の財布じゃあるまいし。ねぇ。ユティス?」

「リ、リーエス・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あなた不満なの、ユティス?」

クリステアが眉を少し上げた。


「ナナン・・・。けれど、少し二宮さんが可哀想ですわ・・・」

「少しなのね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「じゃあ、いいってことじゃない」

にっこり。

アンニフィルドの機嫌が直った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「こら、そこぉ!オレが黙って聞いてりゃ、好き勝手言ってくれるっすよねぇ!」


「そうですよ。二宮さんはそんなに浪費家じゃありません」

珍しくイザベルが二宮をかばった。


「わおっ、イザベルから思わぬ助け舟よぉ」

茂木がにたにたしながら話に加わった。


「止めなさい!真紀がいないとすぐこうなんだから!」

真紀と俊介がいないと時の代理の岡本は毅然として言った。


「それで、わたくしたちのビデオを烏山さんがシャデルの映像と一緒に編集したのですか?」

ユティスは少し不安そうに岡本を見つめた。


「そういうこと」


「わたくしたちは映像に手を加えて欲しくありませんと申し上げましたが・・・」

ユティスはさらに確認を求めた。


「そうね。確かに映像にディジタル加工はされてないわ。さすがにシャデルやあなたたちの名前とかのクレジットは入ってるけど、生の映像を編集してあるだけよ」


「とにかく見せてくれない?」

アンニフィルドが言うとユティスとクリステアと頷き合った。


「え、なになに、今そのビデオがあるの?」


がやがや・・・。

社員たちがざわめきだした。


「ええ。ベータ版のデモだけど・・・」

「きゃあ、早く見ようよ、岡本さぁん!」

「わたしも見たい!」


「こらぁ、あなたたちは自分の仕事があるでしょ!」

「ちぇ、岡本のどけち!」


茂木は学生時代よりの岡本の同僚で、他の社員たちのように遠慮などしなかった。


「和人、あなたは一緒に来なさい。そして、石橋、二宮、イザベル、あなたたちもよ」

岡本はてきぱきと要件を伝えた。


「は、はい」

「うっす」


「あ、差別!」

経理マネージャーの茂木が文句を言った。


「区別よ!区別!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「茂木!シャデルの商談に経理のあなたは絡んでないでしょうが!」


「わかったわよぉ、もう、けち・・・」

茂木は渋っ面で引っ込んでいった。


「ボ、ボクは?」

キャムリエルが会議室に向かう石橋を目で追いながら期待を込めて言った。


「そうねぇ・・・。とりあえず人数分のお茶を入れてきてくれる?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエス!」

キャムリエルは石橋と一緒にいれるならどんな役でも買って出た。


「岡本にこき使われちゃって、キャムリエルも可哀想ね」

「いやぁ、あれでカテゴリー4の宇宙人なんだから・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふふふ。ぜんぜん」

「キャムリエル、最近なんか二宮に似てきたと思わない?」

「うん。うん」


ぜんぜんらしくないキャムリエルに女性社員たちは面白そうに笑った。




「大統領、ブレストの提案をどうなさるおつもりで?」


合衆国大統領官邸ホワイトハウスでは、時の大統領と補佐官が眉一つ動かさないで執務テーブルをはさんで見合っていた。


「うむ。ようやく彼の意図が見えてきたな・・・」

「イエッサー」


ぽぉん。

大統領は右腕で顎を撫でるとおもむろにフォーンのスイッチを押した。


「ジョーンズ、きみらも入りたまえ」

「イエッサー」


こんこんこん。

威勢の声が大統領に返ってくるやいなや、ドアをノックする音が大統領執務室に響いた。


「どうぞ」

「イエッサー」


そこにはダークスーツに身を固めた2人のセキュリティーサービスがいた。


「して、ブレストはどんな様子だった?」

大統領はジョーンズにまず向いた。


「モニター、マイク、PC、スマホ、通信デバイスにはいずれも変わりありません。どことも接触をした様子はありませんが・・・」


「そうか・・・。しかし、彼は地球人になったとはいえ、それは彼自身の身柄の安全を確保したに過ぎん。肉体精神とも、中身はエルフィア人そのものだ。われわれの知らない通信手段を使っているに違いない」


「テレパシーでしょうか?」

補佐官が大統領を見つめた。


「ジョバンニ、きみはどうかね?」


「イエッサー。ジョーンズの言ったとおりですね。日本のエルフィア人たちがブレストのわれわれへの提案を知った様子は微塵もありません」


「ありがとう」

大統領はそう言うと、静かに3人に話しを始めた。


「エルフィア人をわれわれ合衆国が一人抱えているとはいえ、他国に先んじてブレークスルー・テクノロジーを手にしたわけではない。ブレストは・・・、やはり、ユティスの言うとおりエルフィアのテクノロジー支援プログラムを一人で実行できる人物ではないようだ。しかし・・・」


にやり。

そこで大統領は含み笑いした。


「思わぬ収穫もあった。この天の川銀河にブレスト率いるカテゴリー3の超高文明世界があり、そこは文明支援のパートナーを募っている。支援対象はカテゴリー2手前のカテゴリー1の世界。地球で言うと20世紀初頭だな。明らかにわれわれより遅れている世界だ」


「見返りは?」

補佐官は裏を取ろうとした


「われわれ合衆国がそうなれるまでのカテゴリー3のテクノロジーの無償サポート。むろん、ブレストたちは地球より遥か先を行ったテクノロジーをサポートする」


「カテゴリー3のテクノロジー・・・?」

それは合衆国が喉から手が出るほど欲しいものだった。


「イエス。どうかね?」

大統領は3人を順に見つめた。


「われわれ地球人が他の世界のサポートをするんというんですか?」

ジョーンズは信じられないという表情だった。


「イエス。われわれ、合衆国がだよ」


「イエッサー。しかし、それはエルフィアに則って無償でするわけですよね・・・?」


「いいや。だれも無償とはいっとらん」

にたにた。

大統領はその先が言いたくてたまらないようだった。


「支援先とは合衆国が独占貿易協定を結べる」


「しかし、そんな眉唾な・・・。本物かどうか知れたものでは・・・」

補佐官は驚いて、そして半ば呆れ、半信半疑で大統領の言葉を噛み締めた。


「さて、どうかな・・・」

大統領はとぼけた様子でジョーンズたちを見た。


「きみらはどう思うかね?」


「イエッサー。自分たちは大統領の言葉がすべてです」

すかさず、ジョーンズとジョバンニがコーラスした。


「ブレストがそう言ったのですか?」

補佐官はそれをじっと見つめて大統領に確認を求めた。


「これを見たまえ」


さっ。


大統領が引き出しから出した一枚の紙ともプラスチックともつかないものは、英語で書かれてはいたが、一見地球の上質紙のような感じではあるもの、見たこともないような材質だった。


「協定調印書ですか・・・?」

補佐官はそれに見入った。


「いや。そうではない。が、かなり近いな。イラージュ、これがわれわれにブレスト率いる文明支援を申し出た世界だが、そこの大統領らしき人物から地球を支援世界第一号に認定する用意があると書いてある。いや、もちろん、これが偽物かどうかという疑いは大いにあるがね」


大統領はその材質を確認しながら、ジョーンズとジョバンニに向き直った。


「イラージュ?」

補佐官が尋ねた。


「ああ、そうだ。われわれより100年から150年先を行っているらしい。恒星間航行は実現しているが、銀河間航行はこれからだ。文明カテゴリーでいうとカテゴリー3に入って間もないところだな」

大統領はそこで3人の反応を見た。


「しかし、大統領、ブレストのそんなわけのわからない話を真に受けるんですか?」

補佐官は眉をひそめた。


「OK。きみの言うことももっともだ。彼一流の冗談かもしれん」

「一流なんですか?」


「一応、敬意を表さんとな」

にたり。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そこでだ、ジョーンズ、ジョバンニ、国務省外交保安部のきみたちにはことの真偽をあらためて確認してもらいたい。副大統領をはじめとする閣僚に相談するのはその後だ。これはわたしの勅命だと考えてもらってけっこう。きみら二人には最優先権を与える。それまで、ブレストには回答を控ておこう。いいな、補佐官?」


「イエッサー」

「イエッサー」


「いつ、ブレストがそれを大統領に?」


補佐官は、ブレストがいつそのようなことを成し遂げられたのか、まったく予想もできなかった。


「それも、この二人の仕事だ」


ぱち。

大統領は楽しそうにSSたちにウィンクした。


「以上、行っていいぞ」

「イエッサー」


さっ。

かつん、かつん・・・。


敬礼をするとジョーンズたちは大統領執務室より出ていった。




「大統領閣下・・・」

くる。

執務室に残った補佐官は大統領に向き直った。


「二人をユティスたちの監視から解くのですか?」


「一時的にだ。彼女らにはエルフィア本星からのSSが二人張り付いている。今までの状況からすると、すぐにわれわれがどうこうできるようになるとは思えん。かと言って、地球のリーダーとして、われわれ合衆国がZ国のような真似をするわけにはいかんだろう?」


「イエス・サー。彼女らは合衆国市民です」

大統領は日本が与える前に彼女たちに合衆国の国籍を与えていた。


「住民税や所得税、あらゆる税金は取らなくていいぞ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「も、もちろんです。しかし、このままではブレークスルー・テクノロジーで日本に後れをとってしまいます」


補佐官はエルフィアの支援を独占したいという合衆国のエゴ丸出しで大統領に問うた。


「補佐官、きみは『損して得取れ』という言葉を知らんのかね?」

「なんですか、それは?」


「未来を見据えた一時的な譲歩はその後に莫大な利益を生む。日本の古くからの諺だ。実に興味深い。ブレストとイラージュの話は興味を大いにそそるのは確かだ。しかし、一時的にカテゴリー3のテクノロジーを手にしたとして、その後はどうなると思うかね?」


きらっ。

一瞬、大統領の目が光った。


「それはもちろん、われわれ合衆国が今後も地球のリーダーに居続けることを確定します」

補佐官は自信を持って答えた。


「本当だろうか?エルフィアはカテゴリー4だぞ、補佐官。われわれが手にすべきテクノロジーはイラージュのものか、それとも、今は日本にいるエルフィアのものか・・・?どちらが進んでいると思うんだね、きみは?」


にたり。


「それは・・・」

補佐官は困ったように大統領を見つめた。


「じゃあ、こう言い換えよう。きみはどっちを選ぶ?野球の指導を受けるとしたら、元草野球選手かね、それとも現役大リーガーかね?」


にた。

大統領は補佐官をからかうように微笑んだ。


「しかし、エルフィアのテクノロジーとはいえ、いつ手に入るかなど・・・。それに常に日本の後ろに回るなど・・・」


「いや、わたしの見解は反対だね。エルフィアが日本と合衆国を差別するとは思えん。支援するなら、同じ具合にするはずだ」


「大統領閣下、その理由は?」


「合衆国も日本も同じカテゴリー2だからだ。それに、わたしはブレストの話に両足を預ける気にははなからないな。一度エルフィアを裏切った人間だ。二度めには地球を裏切ることも容易に想像できる。一度でもイラージュへの賛同を示せば、われわれはエルフィアの信用を失うだろう。逆ならば、エルフィアは合衆国は理性的な決断を下したと見るだろう」


きっ。

大統領は口元を引き締めた。


「そうでしょうか・・・?」

「まぁ、ここは、しばらくブレストとイラージュには付かず離れず情報収集に徹することが正しい対応だと思うが?」


じぃ・・・。


「しかし、大統領、ブレストは2ケ月の回答期限を・・・」


「まったく押せつけがましいにも程がある。それこそ、相手が焦っている明確な証拠ではないのかね?それとも2ケ月でサミット参加国の意見を合衆国が変えられるとでも?」


「ノー。しかし・・・」

なおも、補佐官は大統領に言いたそうだった。


「イラージュの申し出へのイニシアチブは合衆国にある。ブレストではない。彼の思惑は合衆国の利益に一時的には合致するかもしれん。だが、手に入れるべきはカテゴリー4のテクノロジーであって、それ以下ではない。カテゴリー3のテクノロジーならエルフィアの文明支援を受けていればいずれ遠くない未来に達成できるはずだ。違うかね?」


「それこそ眉唾ものです。いったい何百年かかることか・・・」


「かもしれん。ブレストはイラージュがカテゴリー3になったのはカテゴリー2になって150年くらいだと言っている。われわれは既に70年以上経った」


「大統領、閣下の言われているのは、恒星間航行を実現しているというカテゴリー3ですよね?」


「イエス。だが、エルフィアは何万年も前にそれを達成したんだ。わたしはエルフィアは本物だと確信している。そして、エルドこそエルフィアの意思だ。ブレストではない」


「・・・」

補佐官はそれを聞いて沈黙した。


「さて、わたしも喉が渇いた。一緒にコーヒーでもどうかね?」


すっ。

そう言うと大統領はコーヒーサーバーに手をかけた。


「わたしがお入れします」

「そうかね。じゃ、頼むよ、きみ」


そう言うと、大統領はスマホを取り出した。

ぴぴ、ぴっ。


「ハロー、ミスタ・フジオカ。わたしだ」

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