375 連鎖
「わたし、アンニフィルドよ。さてと、和人の葛藤はエルフィア往きが近づくに連れて大きくなってきてるわ。わたしが彼の立場だったら、やっぱり悩むでしょうね。かといって、和人自身が納得して決めなくちゃいけないことだから、わたしたちがしゃしゃり出ちゃいけないのよ。だれか、いいアドバイスをくれる人がいればいいんだけど・・・」
■連鎖■
「リッキーにジェニー、あなたたちの精神プロテクトを完全解除してあげることができそうよ」
にこ。
地球上空にステルス待機しているエストロ5級母船の中で、ドクター・エスチェルは元Z国エージェントの二人に話しかけた。
「どうも感謝します」
「ご配慮、ありがとうございます」
二人は簡潔ではあるが丁寧に礼を言った。
「ここに精神ヒーリングの専門家を連れてきているわ。あなたたちには了解してもらってるから、今から始めることにするわね」
エスチェルは予め二人にユティスの施術を話して了解をつけていた。
「ユティスですね?」
「リーエス。今、別の打ち合わせをしているけど、その後あなたたちの処置についてお願いをしてあるの」
「それで完全に本国の仕掛けた精神爆弾は完全に解除されるということですか?」
ジェニーはエスチェルをじっと見つめた。
「リーエス。そうよ」
既に、エスチェルのレベルで二人の精神医学的な処置は済んでいたが、脳内シナプスまでの複雑な処理はできていなかった。
「これで、あなたたちは自由よ・・・」
もし、二人がなんらかのキーワードを口にすると、Z国の精神専門家の仕込んだ特殊プログラムが作動したら、リッキーとジェニーの頭脳は赤ん坊レベルまで初期化されてしまうかもしれないのだった。
「貴重な情報もいただいたことだし、少しばかりのお礼だと思って」
「そんな・・・」
「いいのよ。精神的にはいつも背中にナイフを突きつけられているようなものね。そんなあなたたちを放っとけないわ。ユティスにしたってそうよ。あの娘がそうするのはお礼とか義務とかじゃなくて、そうしたいからよ。自由を奪われた人間を解放してあげたいという・・・」
「ドクター・・・、本当に申し訳ない・・・」
リッキーは頭をたれた。
「そういうことだから、もう少しリラックスしてくれない?」
「わたしたちはリラックスしていますよ」
にこ。
ジェニーが微笑んだ。
「なら、いいんですけどね。お二人ともあちらへ・・・」
トレムディンは丁寧に頭を下げると右手でベッドを指した。
「ユティスの処置中はベッドの上で安静にしてる必要があります。ユティスがくるまで瞑想していてくれませんか?」
「了解だ」
「わかったわ」
そう言うと、二人はそれぞれのベッドに向かった。
「リッキー?」
歩きながらジェニーがリッキーに小さく声を掛けた。
「なんだ、ジェニー?」
リッキーはジェニーを振り返ると、ジェニーの不安そうな顔が見えた。
「これで、わたしたち本当に本国から解放されるのかしら?」
「いや・・・。オレたちはどこまでもZ国人としてのレッテルがついて回るんだ。逃れることはできん・・・」
(こらこら、そこぉ。そろそろ自分を許したら?)
突然、エスチェルの声が二人の頭に響いた。
(ドクター・・・)
(あなたもテレパスなのぉ・・・?)
(エルフィア人ならみんなそうよ)
にっこり。
ぱち。
エスチェルは笑顔で頷くと二人にウィンクした。
(自分を許すのはまだ難しいかなぁ?)
エスチェルが悪戯っぽく言った。
(すぐには無理というものさ・・・)
(そうね。わたしもできそうにない・・・)
ドクターと精神波で会話する、元Z国のテレパス・エージェントの二人の表情は硬かった。
(なるほど。二人ともこちんこちんだわね。じゃあ・・・、精神安定剤欲しい?)
にこ。
「わぁっ!」
「いきなり声に出さないでくれます・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あっはっは。あなたでもびっくりするのね?」
「ドクター・・・」
「精神安定剤のことだけど、よく効くって話だから地球式に注射でしてあげよっかぁ?」
ぴゅっ!
--- ^_^ わっはっは! ---
「トレムディン?」
「リーエス」
エスチェルはトレムディンと一緒に注射を打つ真似をした。
「ナナン。けっこうです!」
「遠慮しとく!」
「わっはっは」
「ふふふ」
地上のエルフィア大使館、つまり株式会社セレアムの社員寮だが、元和人の部屋は地球の上空32000キロの静止衛星軌道上にステルス待機している、エルフィアのエストロ5級母船の中央司令室のロビーと常時繋がっていた。
「みんな、ちょっとぉ・・・?」
それを利用して、地上に待機しているはずのSSのキャムリエルが、ひょっこりフェリシアスやユティスたちの前に現れた。
「なんで、あなたがここにいるわけ?」
早速、アンニフィルドがキャムリエルに質問した。
「キャムリエル、きみは大使館に待機してるはずじゃなかったのか?」
フェリシアスも怪訝そうに彼を見つめた。
「ナナン、そのぉ・・・。本当に繋がってたんだね・・・?あはは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぽりぽり。
キャムリエルはバツが悪そうに頭を掻いた。
「どういうつもり、大使館を開けっ放しにして?」
アンニフィルドはキャムリエルに正した。
「大して意味はないんだけど、お客さんなんだよ」
「こんな夜更けに、だれ?」
クリステアがきいた。
「和人のご両親・・・」
「え?オレの親父とお袋・・・?」
ぽかぁん・・・。
和人は訳がわからないという風に呆けた顔になった。
「今、リビングに案内してるんだけど、合いに戻るかい、和人?」
キャムリエルは和人を見つめた。
「なんで、今頃、急に・・・?」
和人は困ったようにクリステアを見つめた。
「わたしにきかれても答えられないわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「行っておあげなさいよ、和人」
ひらひら・・・。
アンニフィルドが右手の掌をロビーの方へ振った。
「でも、今から重要な話があるんだろ?」
「大丈夫ですわ。わたくしたちはここでお待ちします」
にこ。
ユティスが和人に微笑んだ。
「ああ。そうしたまえ、和人」
フェリシアスは了承した。
「じゃ、待ってるからね、和人」
「リーエス・・・」
「あは。ご両親のお土産、お饅頭が美味しいんだよ、これが」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこにこ。
すたすた・・・。
キャムリエルは踵を返すと幸せそうにロビーに消えていった。
「それかい・・・」
俊介はキャムリエルの背中を目で追った。
「和人?」
「なんだよ、アンニフィルド?」
「お饅頭、人数分持って帰ってきてよね」
にっこり。
--- ^_^ わっはっは! ---
「お抹茶も忘れないでね。キッチンにパックがあるから持ってきて」
クリステアが淡々と言った。
「リーエス、わかりましたよぉ・・・」
かつんかつん・・・。
そう言うと和人はロビーに戻っていった。
「お饅頭とお抹茶をいただきながらお話する方がリラックスできて、いい考えが浮かんでくるかもしれませんわ」
にこ。
ユティスは微笑むとSSたちを見つめた。
「オレはビールの方がいいな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「却下。会議中よ」
アンニフィルドがすぐに俊介を制した。
「夜だぞ。晩酌くらいさせろよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お昼も午後もロイ・ルデレールで飲んでたじゃない」
「あれはシャンパンだ。ビールじゃない」
「同じじゃない。頭脳中枢を一時的に麻痺させる効果は」
--- ^_^ わっはっは! ---
「俊介、わたしからも一つ注文がある」
フェリシアスは俊介を真っ直ぐに見つめた。
「なんですかね、教官?」
俊介はフェリシアスの教育の下、SSのサポートをするためのSS見習い生だった。
「今日はもうよしたまえ」
「・・・」
フェリシアスに諭されたに見えたが、俊介は自分の腕時計を見てにやりと笑った。
「しょうがない。後、3、4時間待つか。そうすりゃ、明日だ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「バカ。べーーーだ」
アンニフィルドは俊介にあかんべーをした。
和人がエルフィア大使館のリビングに戻ると両親が笑顔で待っていた。
「やぁ、こんばんは、和人」
「元気そうで安心したわ」
和人の実家はエルフィア大使館とは何百キロも離れていた。
「どうしたんだい、父さん、母さん、こんな時間に・・・?」
和人は時計を見ながら心配そうに言った。
「なぁに、本当は明日にまた来ようかと迷ったんだが、たまたま通りかかったんでね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうなのよぉ。たまたまなのよぉ・・・」
にこ。
「父さんたちの家から何百キロも離れたここに、たまたま通りかかったわけだね・・・」
「そうそう、奇遇でしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はいはい、奇遇だよねぇ、母さん・・・」
和人はテーブルに着くと頭を抱えた。
「で、なんの用?」
「実はだな・・・。会社で今日の宿を手配するのを忘れた・・・」
「お宿、忘れたのよぉ、お父さんったら・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「やっぱり、そんなことだと思った・・・」
「出張で大山市に来たわけなんだが、そばに来ながら息子夫婦に挨拶もしないで帰るなんて、親として冷たいとは思わんか?」
「あの、オレたち、まだ結婚してないんだけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「同じ部屋に寝泊りしてるんじゃないのかぁ?キャムリエルに部屋を見せてもらったぞ」
「いいお部屋じゃない。さすがユティスさんね」
--- ^_^ わっはっは! --
「キャムリエル?」
「あはは。そういうわけだよ。ご両親も気に入ってくれてね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ここぉ・・・。あ、そう言えば、お抹茶出してなかったよ。ボク入れてくるね」
すたすた。
さっさとキャムリエルはキッチンに消えていった。
「さすが大使館だわぁ。ちゃんと執事さんも雇っているのねぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「キャムリエルが執事・・・?」
和人は母親を見た。
「違うのか?」
「ああ・・・、そうだよ。彼は夜勤ガードマンなんだ」
「ほう。仕事熱心で素晴らしい執事だな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「で、本当の用事は?」
和人は少しまじめな顔になった。
「和人、おまえには幸せになってもらいたい」
「本当よ。心からそう願っているわ」
両親はそう言うと、和人を想いを込めてじっと見つめた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ややあって父親が口を開いた。
「だから、ためらうな」
「なんのことを言ってるんだい、父さん?」
「ユティスさんを幸せにしてあげて、和人。わたしたちは地球人。地球人として全うするわ。だけど、あなたはエルフィア人として、エルドさんの養子になりなさい」
「そして、それに相応しい生き方をするんだ。細胞DNA内のテロメア処置を受けなさい。おまえは千年の寿命を持つに相応しくなるんだ」
両親は優しくも真顔になった。
「家族のことは心配するな。わたしたちは自分たちの時間を大いに楽しんでるよ」
「でも、父さん、姉さんや亜矢だって・・・」
和人は家族を残して自分だけ時間をゆっくり進めることになるのに罪悪感を持っていた。
「親にとって子の一番の親不孝とはね、子が親より早く逝っちゃうことよ。少なくとも、和人、あなたは確実に親孝行してくれそう。だから、わたしたちは嬉しいの。本当よ・・・」
ぎゅ・・・。
母親は優しく微笑み和人の両手を取った。
「母さん・・・」
じわり・・・。
「おまえのことを沙羅や亜矢に話すつもりはない。おまえの辛さはわかる。だが、おまえは選ばれたんだ。それを無碍にするな」
「そうよ。あなたは選ばれたの・・・」
両親は優しい目のまま、和人を諭すように言った。
「わたしたちにしたいことがあるなら、生まれてくるだろうおまえの子供たちにしてやりなさい。それがわたしたちに対する恩返しだ。親が子のためにするのは辛くもなんともないことだぞ」
「あなたも、いずれわかる時が来るわ・・・」
「だけど、だけどだよ、父さん・・・」
「くどい。明日、明後日、みんなと永遠に時間がずれるわけでもあるまい。エルドの申し出をわたしたちは快く受けた。おまえが長生きするのは大歓迎だ」
「そうよ、和人。そうなるには、まだ何十年かあるわ。処置を受けた後ゆっくり考える時間はあるから・・・」
「母さん・・・。わからないよ・・・」
「考えれば、わかるようになるさ」
「いや、わかってないさ。ユティスが教えてくれた。わかるというのは実践できてはじめてそう言えるんだって・・・。頭じゃなくて、心で、感情で納得することだって・・・。それに・・・、感動を伴わない納得もないんだって・・・」
「あなたは感動してないの・・・?」
「どうかな・・・」
「ユティスさんと夫婦になることはどうなんだ?」
「あ、いや、それとこれは・・・」
「同じことよ。あなたはユティスさんを幸せにしたいって感じないの?」
「とんでもない。ユティスは大切な女性だよ・・・。オレの一番大切な女性・・・。幸せにしたいって、だれよりも強く思ってる・・・。たぶん・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしより?」
「ええ?」
どき・・・。
和人は母親の言葉に大いに動揺した。
「ここで選びなさい。わたしかユティスさんか?」
「そ、それは・・・、できないよ、そんなこと・・・。二人ともオレにとっては大切な存在なんだから・・・」
和人は困惑気味に答えた。
「・・・」
そして黙った。
「まぁ、合格だな・・・」
「ええ」
にこにこ・・・。
突然、両親は和人に優しく微笑んだ。
「どういうことぉ・・・?」
「もし、おまえが迷うことなくユティスさんと答えたら・・・」
「ユティスと答えていたら・・・?」
「よく言ったと言っただろうな」
にた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃあ、母さんと答えてたら?」
「考え直しなさいって言ってたわ」
にこにこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「で、なんで、答えれないが合格なの?」
「おまえがそれだけ真剣に考えてるってことだからだ」
「そして、ユティスさんのこともよ」
「おまえが真剣に考えてることの確認をしたかっただけだ。迷い悩んでもいいんだ」
「でも、わたしたちの答えは一つよ。エルドさんの申し出は受けなさい」
かつんかつん・・・。
そこにキャムリエルがお抹茶を入れて持ってきた。
「はぁい、お抹茶のできあがりですよぉ」
「どうも、執事さん、ありがとうございます」
「パジューレ(どういたしまして)。え、執事・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「せっかくだから、いただこうか、母さん?」
「そうですわね、お父さん」
ずず・・・。
そう言うと両親は抹茶をすすった。
「まぁ、美味しいお抹茶だこと」
「そうだね」
「なんかいいね、和人」
キャムリエルが和人たちを見て言った。
「リーエス。久しぶりなんだ、こういうの・・・」
「これからも来てくださいよ。歓迎しますよ」
にこ・・・。
キャムリエルは和人の両親に微笑んだ。
「それはどうも」
にこ。
それから、4人はしばらく会話を楽しんだが和人の心は揺らいでいた。
ぼーん、ぼーん・・・。
時計が鳴った。
「さて、10時か。さすがにホテルに戻らんとなぁ・・・」
「そうですわね、お父さん」
両親は見合って頷いた。
「あれ、ここに泊まりに来たんじゃないの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。本気にしたのか、和人?」
「だって、そう言ったじゃないか?」
「おまえはわたしたちに甘い夜をじゃまされたくないだろう?」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「同じく、わたしたちも甘い夜を邪魔されたくないの。うふふ」
「あ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃあ、執事さん、ごちそうさまでした。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「父さん、母さん・・・」
「じゃあね」
「いいご両親だね」
キャムリエルは和人の両親がホテルに帰った後、微笑みながら和人に言った。
「リーエス。父さんはああ言うけど、二人に受けた恩を自分お子供に返すことで、本当に恩返しなるんだろうか・・・?」
和人はぽつんと言った。
「あは。それ、カリンダがエルフィアに言った有名な言葉と同じだね?」
「リーエス。ユティスとエルドから聞いたよ。エルフィアの文明支援をしてくれたカリンダって世界だろ?」
「リーエス。絶対に自分たちの星の座標を言ってくれなかったんだ。それが面白いんだよ」
「どんな風に?」
「カリンダ人のAという人間は夜空の東南を指して、『カリンダはあそこだよ。エルフィアから20億光年先にあるんだ』と言うんだ。でも、別のカリンダ人のBという人間は北西を指して、『あっちに40億光年先にあるんだ』って言うのさ」
「ぜんぜん違うじゃないか」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。端から教えるつもりなんかなかったのさ。エルフィアはカリンダにとって子と同じだって。エルフィアがカリンダに恩を感じるなら、今度は別の世界をエルフィアの子と思い、カリンダがしたように文明支援しろってね。それがカリンダへの恩返しだってさ」
「うん。聞いたよ。善意の連鎖だろ?」
「リーエス。すごいね。エルフィア人なら、だれでも子供の時に聞かされる話だけどね。だから、エルフィア人も委員会を組織してエルフィアを上げて文明支援活動をしてるってわけさ」
「で、今度は、地球にその番が回って来ただけだって言ってたよ、ユティスが・・・」
「和人のご両親は同じことをきみに言ったわけだ。きみもそう思うんだろ?」
「リーエス・・・。でも、オレは父さんたちになに一つ返せやしない・・・」
「やっぱり、和人、きみもすごいよ・・・。ユティスが好きになっちゃうわけだなぁ」
キャムリエルはいたく感心したように和人を見つめた。
「止めてくれよ。そんな大したことじゃなんかないから」
和人は手を横に振ってキャムリエルを制した。
「きみにとってはそうかもしれないけど、ぼくはとってもすごいと思うよ」
「そう言えば、きみもユティスを好きなんだろ・・・?」
和人はユティスに恋をしていたキャムリエルに気を使った。
「リーエス。お友達以上の感情を持っていたよ。でも、ユティスはきみにぞっこんだし、相手がきみじゃ・・・、まぁ、仕方ないかな・・・」
にこ。
「それに、今は吹っ切れてるよ。可憐がいるし。そうだ、可憐もきみに恋をしてるんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
キャムリエルは実に答え辛いことを和人に突きつけた。
「ええ?」
「わかるさ・・・。キッスくらいしたんだろ・・・?」
キャムリエルはなにを考えているかよくわからない表情になった。
「こ、困るじゃないかぁ、そんなこと言ってくれたら・・・」
ぷるぷる・・・。
和人は慌てて首を振った。
「いいんだよ。今度は負けないからね」
「オレは別に張り合ってなんかないんだけどぉ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、そうかぁ。あははは。じゃあ、トレムディンにしとくよ。わい、負けへんでぇ!」
「だれに習ったの、その関西弁?」
「テレビ。『任屋真九郎』ってお笑い番組の司会者が言ってたよぉ」
「そっかぁ・・・」
「あはは」
キャムリエルはそれについてまったく心配してないように笑った。
「でも、それこそ、石橋さんと一緒になったら時間がずれていっちゃうんじゃないの?」
和人と同じ寿命の問題をキャムリエルが抱えるのは必至だった。
「なんとかするさ。エルドが使ったんなら、ぼくだって使えるはずだろ?」
「石橋さんを養子にするのかい?」
「ぼくじゃないよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人がエルフィア大使館に戻っている間、ユティスはリッキーたちの最終処置を施すことになり、彼らの部屋に案内されていた。
「脈拍、呼吸とも正常です」
トレムディンが静かに言った。
「二人とも瞑想中よ」
ドクター・エスチェルは二人の脈拍と呼吸のモニタを確認しながら、そっとユティスに耳打ちした。
「リーエス、ドクター。アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)」
ぺこ。
ユティスはエスチェルに一礼した。
「どのくらいかかるの?」
「施術はそんなに時間を要しませんわ」
にっこり。
ユティスはドクターに微笑んだ。
「こっちよ」
「リーエス」
リッキーもジェニーもベッドに仰向けになって横になり、アイマスクを利用して目を閉じていた。
(リッキーさん、わたくしの声が聞こえますか?)
(ジェニーさん、わたくしが聞こえますでしょうか?)
ユティスは精神波による呼びかけを交互に行っていった。
(リーエス・・・)
(リーエス・・・)
突然のテレパシーによるアクセスにも、エスパーの二人は驚いた様子もなかった。
(ジェニーさんからまいりますわ)
(リーエス)
ジェニーがユティスに答えた。
(すべてを愛でる善なるものよ、われ、ユティス・アマリア・エルド・アンティリア・ベネルディンが請う。ジェニー、彼のものに施されし悪しき記憶操作を元に戻したまえ・・・)
すぅ・・・。
ユティスは目を閉じると、まるでMRIで走査するように右手をジェニーの額にかざした。
すぅ・・・。
ユティスは無言でジェニーの頭脳をスキャンし、問題の脳内シナプスを特定した。
(ここですわ・・・)
ユティスはジェニーの頭すれすれに右手を近づけた。
ぽわぁーーーん。
そして、その右手がだんだんピンク色の淡い光に包まれてたいった。
ぽわぁぁぁ・・・。
(なにかとっても暖かい・・・)
ジェニーは、ユティスが手をかざしたところで、暖かくとても気持ちよくなっていくのを感じた。
すぅ・・・。
そして、数分後、ジェニーはリラックスの中で意識を失うようにして眠った。
ぽわぁん。
すぅ・・・。
ユティスの右手の淡いピンク色の光がまるで手の中に納まるようにして消えていった。
ぱち・・。
にっこり。
ユティスが目を開けてエスチェルに微笑んだ。
「ジェニーさんは無事終了ですわ」
「ホント?アルダリーム(ありがとう)、ユティス」
「朝までぐっすりお眠りになりますわ。お目覚めの時はとってもすっきりされてるはずです」
にこ。
ちゅ。
ユティスはジェニーの額に優しく唇を触れた。
「次はリッキーよ」
「リーエス」
そして、ユティスは後ろを振り返るとリッキーのベットに着いた。




