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「はぁい、アンニフィルドです。ブレストったらエルフィア籍を捨てて、言っちゃ悪いけど、たかだかカテゴリー2の地球の合衆国に亡命して終わり・・・とは思っていなかったけど、まさかね・・・。エルフィア文明促進推進支援委員会を根底から揺るがすようなことを実行に移してたなんて、とても信じられないわ・・・」

■例外■




エルフィアでは、エルドを含めた文明促進推進支援委員会の地球支援賛同派数人により、ブレストの裏の活動における調査に対し、臨時打ち合わせがエルドの執務室奥で行われようとしていた。


「ブレストの拠点は天の川銀河のイラージュという世界なのですか?」

理事のミクセラーナが驚いた様子でエルドを見つめた。


「リーエス。天の川銀河だ」

エルドは深く頷いた。


「350年ほど前に調査を打ち切られており、以後25年毎の観察になっていますね?」

別の女性理事のロンバルディーナがそれに続いた。


「文明レベルがカテゴリー1・・・?」

理事のグレンデルが納得がいかないような顔になった。


「それは発見時、350年前の話ですよ、グレンデル」

ディリスが正した。


「では今はカテゴリーは2になっているというのかね?」

グレンデルはさらに困惑したように言った。


「カテゴリー3かもしれませんね・・・」

ミクセラーナがエルドを見やった。


「ありえん」


「エルド、あなたはどう思っているんです?」

ロンバルディーナもエルドを見た。


「驚きと困惑です。ここは、みなさんの自由な発言を・・・」

エルドはそれをさらりといなすと、再び理事たちを見回した。


「それより、イラージュについての情報はもっとないのか?」

パルメンダールはエルドの秘書のメローズに片手で合図を送った


「何度か訪れているはずです。情報が不足していてはなんの判断もできません」

ディリスもメローズに視線を合わせた。


「だめです。アクセス情報ありません」

メローズは落ち着いた声でそれに答えた。


「どういうことだ?委員会のシステム特別監査でアクセスできないなどありえん」

グレンデルも首を横に振った。


「アクセス不可というより・・・。データそのものが初めからないんです」

メローズは両手を広げて処置なしのポーズを取った。


「データがないだと?そんなバカな・・・」

パルメンダールは呆れ顔になった。


「なんということでしょう・・・」

ディリスは目を大きく開いて一同を見回した。


「ブレストの証拠隠滅ですか?」

ミクセラーナも渋い顔で一同を見回した。


「ナナン。とにかくないんです。なんにも・・・」

メローズは3Dスクリーンに結果を表示させながら理事らの質問に答えた。


「エルド、イラージュの定期観察の報告は行われていたんではなかったのか?」


パルメンダールはイラージュの発見以来のエルフィアの対応がどうなっていたかの確認を最高理事に求めた。


「定期報告は受けている。そうだよね、メローズ」


「リーエス。それによると、ここ350年間というもの文明進化に変化はありません。主だった報告は数十ページに及んでいますが、とにかく今後もカテゴリー1に留まるのは確実と・・・」


「その報告をブレストがしていると?」

パルメンダールの関心はブレストの係わりだった。


「リーエス。彼が委員会の参事になった100年前からは、彼の承認の下に行われている」

エルドは静かに答えた。


「ですが、25年毎の観察を付けたという判断は、まず、100年以内にカテゴリー2へのテクノロジーの理論進化が成されるだろうという推測だったのではないのですか?」

ミクセラーナがエルドに確認を求めた。


「あなたのおっしゃるとおりですよ、ミクセラーナ」


「推測は推測だ。そんなものいくらでも誤りはある」

パルメンダールはさらに質問をした。


「しかし、カテゴリー2の寸前で、350年の文明停滞は長すぎるんではないのですか?」

ディリスが今までのケースから外れていると言う点を指摘した。


「確かに長い気はするね」

エルドはそれに同意した。


「どこでも標準モデルが通用するとは限らないと思いますが・・・」

ロンバルディーナがミクセラーナと見合った。


「リーエス。それでブレスト自身イラージュ訪問はいつかかどのくらい行われていたのですか?」

ミクセラーナは話題をブレスト自身のことに向けた。


「ブレスト自身の訪問は250年前より1回は確認できています」


「そいつは妙だぞ、メローズ・・・」

パルメンダールは腕を組んだ。


「リーエス。ブレストの計画拠点になっているくらいです」


「エルド、あなたの意見は・・・?」

グレンデルがそれに頷くとエルドに意見を求めるように言った。


「リーエス。今考えると実際はそんなものではないな」

エルドは新たな疑問に頷いた。


「それで、250年前というと・・・、経過はどうなっているかね、メローズ?」


「最初にエルフィアがイラージュにコンタクトして100年後ですね」

エルドの秘書は空中に浮かび上がった3Dスクリーンを確かめながら答えた。


「その間、委員会としては何一つアクションをかけてはいなかったと?」

グレンデルはさらに矛盾を突いた。


「リーエス。カテゴリー1の終わりの段階ではありましたが、自ら気づくカテゴリー2へは100年以上はかかると見積られましたから」

メローズがそれに答えた。


「メローズ、最初にコンタクトをつけたのはだれかね?」

エルドもスクリーン見ながらメローズに確認させた。


「ナナン。カテゴリー1につき、だれも現地住人との直接コンタクトはしていません。彼らの発信する電磁波から、イラージュに高度文明があることを察知した結果、現地に派遣された宇宙機の中で、イラージュ上空約3万キロから観察を続けてきたわけです」


「では、実際はイラージュ人にコンタクトしたことはないと?」

グレンデルが理事たちと見合った。


「リーエス。公式には」

メローズが答えた。


「非公式にあったというのかね?」

パルメンダールはさもありなんという表情になった。


「可能性はあります」


「リーエス。現にこうしてブレスト派が拠点としようとしているわけですからね」

メローズの言葉の後からロンバルディーナが答えた。


「しかし、イラージュ上空にモニター用の母船はアサインしてなかったと見えるが?」

グレンデルは報告が25年毎にしか上がっていないのを見た。


「ナナン。常駐観察ではありませんでしたから。現地には25年毎にモニター訪問をしていました」

メローズがこれも確認して言った。


「なのにチェックが入らなかったわけね」

ミクセラーナは胡散臭そうに目を細くした。


「そこです。まさに、この惑星の観察担当がブレスト派だったのです」


ぶわん。

報告担当の名前をアップにして、メローズが全員に確認させた。


「なんと・・・」


「これでは捏造報告だったとしてもチェックできないではないですかか?」

ディリスは結論を先走った。


「すると、報告内容にはブレストの指示が入ったというわけか?」

グレンデルは首を静かに振った。


「ディリス、グレンデル、本人の言葉を聞くまではわかりませんよ。彼がいつごろからイラージュをマークしていたのか確たる証拠はありません」

メローズはディリスとグレンデルに対して慎重に事実だけを言った。


「うーむ。イラージュの最新状況はどうなっているかね、メローズ?」

エルドはみなの意見が一通り出ると秘書に話しかけた


「それが・・・。150年前より変化なしとしか・・・」


「カテゴリー1のままだったというのかね?」

エルドはその言葉を予想していたのか、驚く様子もなく淡々として言った。


「リーエス。委員会のデータはそういうことです」


「ブレストたちはエルフィア中を見事に欺き通したわけね・・・」

ロンバルディーナは全員を見回した。


「リーエス。200年も気づかなかったなんて、わたしたち全員大間抜けだわ」

ディリスは憮然とした口調になった。


「システムに頼りすぎた罰さ。仕方ないな。だが、リカバーはせねばならん」

エルドがきっぱりと言った。


「ブレストは200年も委員会に内緒で、どうやってイラージュに影響を及ぼし続けることができたのだろう?」

グレンデルはあらためて腕を組み直すと目を閉じて考えた。


「リーエス。そこなんです。まったく足取りが掴めないわ」

ミクセラーナがエルドを見つめた。


「超銀河転送で行ったのではないことは確かなようだが、どうかね、メローズ?」

エルドは超銀河間転送システムのオペレーションログの検索結果をメローズに映し出させた。


「リーエス、エルド」


ぴつ。

結果はすぐに出た。


「やはりな・・・」


「足跡がつかないように、周辺銀河から複数回に分けて宇宙機で入ったわけね?」

ロンバルディーナが言った。


「恐らく・・・」

「大いにあるでしょうな」


「その場合は足取りやその他の記録を辿るのは容易ではありませんよ」

メローズが理事たちを見回した。


「そうだ。エルド、イラージュに超時空モニターを合わせることはできるかね?」

グレンデルがエルドに提案すると、エルドはすぐにメローズに指示を与えた。


「リーエス。すぐに映させよう。メローズ、超時空モニターの宇宙座標を合わせ、現地をリアルタイムで映し出せるかね?」

「リーエス」


超時空モニターはカテゴリー4のテクノロジーの賜物で、エルフィアの宇宙機が一度訪れた星系に設置されたアンカー情報を頼りに、数億光年先までの任意の時空の様子を数メートル単位の解像度でリアルタイムに観察することができた。


ぴぴぴ・・・。

ぽわぁん。


そして、空中の3D大スクリーンにイラージュの現在の様子が映し出された。


「なんだ、これは・・・?」


そこに映し出されたのは広大な宇宙港と思われるスペースだった。


「もっとアップにしてくれたまえ」

エルドはメローズにさらなる指示をした。


「リーエス」


拡大表示すると、そこには超時空エネルギーを利用した宇宙機らしきものが数機ほど並んでいた。


「これは明らかに宇宙機だぞ」

グレンデルが言った。


「化学反応式のロケットではないな」

それらは地球では典型的なペンシル形状のロケットではなかった。


「カテゴリー2の最終段階ではないかしら・・・?」

ロンバルディーナがメローズにきいた。


「ナナン。これは既にカテゴリー3の宇宙機です。しかも、近隣恒星だけでなく、銀河内、数千光年を航行できる能力がありますね」


「これをイラージュ人が建造したのですか・・・?」

ディリスはそれに見入った。


それらは直径が数百メートルはある、エルフィアのエストロ3級母船に似た厚い円盤状のものだった。


「銀河内恒星間航行用の宇宙機と宇宙港だとぉ?そんなバカな・・・」

グレンデルは大きく目を見開いた。


「信じられん・・・」

委員会の地球支援派の理事たちはショックにしばらく口がきけなかった。


「200年間でカテゴリー1の最終段階からここまで進化したというのか・・・」

パルメンダールは素早く計算した。


「カテゴリー2から3への時間がほとんどないわね」

ロンバルディーナもパルメンダールと頷き合った。


「これが本当なら、カテゴリー2はすっ飛ばしたように早い進化だ・・・」


「ありえないわ。こんなこと・・・」

「リーエス・・・」

ミクセラーナがディリスと頷きあった。


「それこそ、ブレスト派による強制介入があったことを暗示しているのではないですかな?」

エルドは一同を見回すと、自身の疑惑を理事たちに投げかけた。


「これは本当にイラージュなのか?」

パルメンダールの信じられない表情にだれもが頷いた。


「いかにも。イラージュに間違いはない」

エルドは3Dスクリーンの下に表示されている宇宙座標の数値を指し示した。


「しかし、信じられん・・・」


「ブレストは、地球では支援に対し強行に反対していましたが、その実、カテゴリー1における世界において、観察のみに徹することを常に疑問視していました」

ミクセラーナは一同にブレストの文明支援に関するスタンスを思い出させた。


「ありえん。委員会規定の根本だぞ?」

「リーエス。自律できるのはカテゴリー2からだ」


「しかし、カテゴリー1の観察において、自律した進化が見込めそうな世界には、カテゴリー2への支援を積極すべきというのが、ブレストの主張のそれです」

ディリスは疑惑でいっぱいの顔をしたグレンデルを見た。


「ばかな・・・。テクノロジーはカテゴリー1にいながら、精神が自律しているカテゴリー3だとぉ・・・?はぁ・・・」

グレンデルは大きく息をついた。


「その逆ならいくらでもあるが、そんな都合のいい状況があるわけないと思うぞ。実際、そんなケースがあるのか?」

パルメンダールもその可能性を否定した。


「カテゴリー2への前夜だと、どう判断するんだ?」

パルメンダールとグレンデルが同時にメローズにきいた。


「リーエス。みなさんのおっしゃるとおりですが、自然の進化に任せていたら、最初にイラージュを発見した人間とその時の判断のとおり、カテゴリー2へは100年かかっていたでしょう」


「だが、それだけではいかにも主観的判断だぞ」

パルメンダールはメローズに注文をつけた。


「カテゴリー1でそう見込めるには、惑星の全球統一が成されていないと、とてもじゃないがカテゴリー2への移行は望めないはずだ。カテゴリー1のイラージュがそうなっていたとでも言うのかね?」


「それはこれをご覧になれば明らかでしょう・・・」


メローズが示す3Dスクリーンに映ったそれは、地球の数百年後を暗示するような未来絵図だった。


「ナナン。カテゴリー2の地球は現段階で全球統一などされてませんよ。それでも、カテゴリー2になり、一部地域ではカテゴリー3への理論は確立されています」

メローズはエルドに同意を求めた。


「地球は恐ろしく地域差がある。これはみなさんの認めるところではないのかね?」

エルドはこの宇宙には例外が多くあることを指摘した。


「ユティスたちを派遣しているあの地球だと・・・?」

グレンデルははたと思い出したように途中で口をつぐんだ。


「リーエス、グレンデル。地球がカテゴリー2になった時間は僅か数十年ですな。全球統一はさっぱりだが、テクノロジー進化はイラージュ以上の可能性がある。カテゴリー3へのテクノロジーの入り口まで来ているんだ。よもや、お忘れになったとでもおっしゃるのですかな?」

エルドは地球こそが例外であるかのように言った。


地球は数百の国と地域に別れており、主な言語も10数種、実際には数万の言語に別れており、国家間民族間での争いが絶えない。


「リーエス、エルド。しかしだね、カテゴリー2の世界がこちらの予測に反して、カテゴリー2手前で足踏み状態になることも珍しくはない」


グレンデルは地球のような分裂世界が急速な進化をすることは大いなる矛盾だと思っていた。


「では、イラージュは特別だったというの?」

ミクセラーナがグレンデルを見た。


「ナナン、ミクセラーナ。わたしが思うに、ブレストがイラージュをそう仕上げたと考える方が当たってるわ」

ロンバルディーナはブレストの文明支援介入を積極的に進めていたと主張した。


「委員会の規定もあったもんじゃないな、エルド・・・」

「ブレストの行為は重大な規定違反だぞ」

二人の男性理事がエルドに確認を求めた。


「リーエス。しかし、問題はブレストが行った文明支援でイラージュという世界がカテゴリー3となり、われわれの前に姿を現したことだ。もし、そうなら、場合によっては強制介入は功を奏すこともあると考えねばならん。まだ、まったく未確認のため、イラージュが精神的に成長しているのかどうかまではわからんがね」


エルドの言葉はイラージュへの強制介入がすべて悪いとは限らない一例だと匂わせた。


「リーエス・・・」

「なんともだ・・・」

「・・・」


理事たちは動揺し、エルドの私用会議室ではしばらく沈黙が支配した。


「みなさん、これがイラージュの現状で、ブレストが隠しに隠し通してきた世界なんだ」

エルドは理事たちがショックから立ち直ると一同を見回した。


「ブレストは目をつけた最初から、イラージュを彼の計画に加えたというのかね?」

ややあって、グレンデルが口を開いた。


「リーエス。そして、われわれには極秘にイラージュ文明への強制介入を続けてきたんですな」

エルドが自分なりの結論を言った。


「それがこの結果だと?」

「リーエス。そういうことだ・・・」


「この事実が世に出たら・・・」

「リーエス。エルフィアはどうすれば・・・


ぶるっ。

ディリスとミクセラーナは身震いした。


「委員会の規定などだれも守らなくなるな・・・」

グレンデルが言った。


「それどころか、宇宙中でエルフィアの主張そのものを揺るがしますよ・・・」

ロンバルディーナの顔が強張っていた。


「エルフィアの信用は失墜してしまう・・・」

パルメンダールが青ざめた。


「ナナン。みなさん、待ってくれたまえ。目に見えるものだけでカテゴリー3と判断するのは時期尚早というものだ。イラージュ人の精神はこれではわからんと思うが」

エルドは次なる手立てを考えるべきだと匂わした。


「イラージュの調査を考えているのか、エルド?」


「リーエス、グレンデル。イラージュ人がどうなっているか早急に把握する必要がある。ブレストを裁くなら、決して軽く片付けるわけにはいかんだろうね」


エルドはブレストを裁判にかけるには、彼の功績となるかもしれないことにも調査がなされるはずだと主張した。


「しかし、この時期にそんな余裕はないと思うわ」

「わたしもそう思う」

「リーエス」


女性理事たちは意見の一致をみた。


「事実ならまったく馬鹿げた話だ。われわれ、地球支援賛成派が今知ったが、反対派はとうの昔に知っていたということではないのか?」


「そんなはずはないわ。もし、そうなら、隠し通せるわけないもの」

ディリスが言った。


「やつらに確認するか?」

「ダメよ!そんなことしたら、ブレストに逃亡されてしまう」


「どうしてだ、ロンバルディーナ?」

「だって・・・」


「待ちたまえ。超銀河間転送が行えない今、すぐにイラージュに調査隊を派遣することなど、どだい無理というものだ」


「できないことを、どうやってできるようにできるか、それを考えるべきじゃないの?」

ディリスは理事たちを睨むように見つめた。


「わたしが思うに・・・!」


委員会の重鎮たちが喧々諤々互いに主張を譲らないのをエルドは静かに見守った。


わいわい!

がやがや!


「たかだか理事数人でもこの状態だ。メローズ、きみはどう思う?」

エルドは苦笑して秘書を見つめた。


「放っておくことしかできませんね。いずれ、お疲れになるでしょう」


--- ^_^ わっはっは! ---


それから2時間が経過し、理事たちが議論し尽くしいい加減疲れたのを見て、エルドはメローズに片目をつむると、理事たちを見回してゆっくりと口を開いた。


「みなさん、真剣に議論いただき感謝します。一旦、本日の臨時理事会は閉会しようと思うがどうですかな?イラージュがここ数日で変わるわけでもありますまい。明後日同時刻にもう一度お集まりいただくとして、各自、明日の午後までに意見をわたしに提出していただきたい。わたしがそれをまとめ、明後日の再打ち合わせで、われわれ地球支援賛成派の見解をそこで統一したい。理事会では反対派に突っ込まれることは必至だからね」


「明後日とは議論が足らないぞ」

グレンデルがエルドに異議を唱えた。


「リーエス。こんな重要な問題をたかだか1日半で結論するなど横暴極まりないわ」

ミクセラーナもエルドに反対した。


「もっともなご意見ですな。しかし、最高理事として言わせていただくと、イラージュよりもブレストの身柄の確保がさらに火急で重要だ。地球の混乱化や超銀河間転送システムへはすぐに対処する必要がある・・・。違いますかな?」


「リーエス・・・」

「わかってるわよ、エルド・・・」


「超銀河転送システムが使えないとしたら、イラージュに行くこともままならん」


「エストロ5級宇宙機があるではないか?」

パルメンダールはエストロ5級母船ならまだ緊急派遣できることを指摘した。


「それだって超銀河間転送システムが搭載されてるんですよ。システムの対処をほったらかしにしてイラージュに派遣など危なくてできません。もっとも、あなたご自身で行かれるというなら、わたくしはお止めしませんが・・・」

ミクセラーナがにやりとしてパルメンダールに意見した。


「く・・・。そうであったな・・・」

パルメンダールは舌打ちした。


「ご納得お礼申し上げる。そういうことで、イラージュへの対応は調査をまずせねばならないのは事実だが、ブレストの立件と身柄確保、転送システムの安全確保を最優先としたい」

エルドはもう一度閉会を提案した。


「リーエス」

「異議なし」


「メローズ、終わりだ」

にやり。


「リーエス」


ぴっ。

しゅん・・・。

エルドはメローズに合図し、メローズが3Dスクリーンを落とした。




しゅん。


エルドの執務室に一人のボーイッシュな頭をした美しい女性の精神体が現れた。


「タリアです」

その女性の精神体はエルドに一礼をすると続けた。


「トルフォは、やはりブレストの意のままのようです。ユティスを自分が手に入れられると本気で思っています」


「ご苦労だね、タリア」

エルドはまずはタリアの労をねぎらった。


「それで、トルフォはイラージュのことのを知らなかったんだね?」


「リーエス・・・。わたしも大そう驚きましたが、トルフォにも秘密として、ブレストがここまで壮大な計画を実行してただなんて・・・」

タリアは一段と目を大きくした。


「うむ。これも、きみの隠密行動で証拠が取れたんだ」


「委員会には?」

タリアは自分のもたらした情報の扱い方を気にした。


「ナナン。地球支援賛成派数人には口止めした上で説明し、ブレストの本心を認識してもらった。委員会本会では証拠のことはまだ言っておらんよ。今は、イラージュの調査よりもユティスと和人の身が心配だ。わたしも人の子の親、娘たちの身を案じるのはおかしいかね?」

エルドはにやりと笑った。


「ナナン。ふふふ・・・。あなたのそういうところが人間的でなんとも魅力的なんです」


にっこり。


タリアが微笑むと、ボーイッシュな頭にも係わらず、とても女性的な美しさが際立った。


「アルダリーム(ありがとう)。美しい女性にそう言ってもらうと妙に嬉しいな」

にたり。


「パジューレ(どうも)。ふふふ・・・」

「そっちは大丈夫かね?大分危険な任務だが・・・」


「構いませんね。わたしも元超A級SS。心配には及びません。それで、エルド、あなたに一つお願いがあるんですが・・・」

そう言うと、タリアは申し訳なさそうな顔になった。


「お忍びデートなら精神体で行くが、ランデブーはどこかね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふふふ。相変わらずですね」

一瞬微笑んだ後、タリアは再び真面目な表情に戻った。


「エルフィア大教会の総主教には了解を取ってある。連れ合い持ちでも業務上なら美しい女性と一緒になっても構わんとね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ、妻子持ちがデートに総主教の許可を求めるとは・・・。ふふふ・・・」

またしても、タリアは笑い出さずにはいれなかった。


「それで、きみの依頼というのはなんだね?」

今度は、エルドも真面目な目つきになった。


「ファナメルたちにも・・・、チャンスをやってもらえませんか・・・」

タリアは目を伏し静かにエルドに言った。


「それか・・・」


Z国を利用して地球からエルフィアにユティスを強制送還しようとして、元SSのファナメル、ゾーレ、シェルダブロウは、リュミエラやブレストと一緒に、一大事件を起こしていた。


「エルド、わたしはいい、ファナメルたちを・・・」


そのリュミエラは、委員会最高理事エルドの下、名をタリアと密かに変え、ユティスの拉致誘拐を諦めていないトルフォの身辺を探り、ブレストたちの陰謀の証拠を集めるべく、トルフォの訪問に張り付いていた。


「どうか、ファナメルたちをカテゴリー1の世界に一人で送らないで・・・」


それが彼女の罪に対する償いであった。


「わかった。わたし個人的には、そのような刑にはならないと思うが・・・」


エルフィアに罪の償いとしての最高刑に死刑はない。


「考えておこう・・・」


その代わり、罪に応じて支援世界での活動を強制されることになっている。


「ちなみに、シェルダブロウは・・・」


ユティス拉致を実行し、SSのクリステアに瀕死の重傷を負わせたリュミエラの罪は大きかった。


「彼はわれわれに協力してくれているよ」


人の命に係わる殺人、殺人未遂、それに順ずる罪には、エルフィアが観察中の初期カテゴリー1の世界に、文明の芽を摘み取らせないよう派遣されることがある。


「彼は大して知らなかったんです」


一人、丸腰で転送され、そこで一人で住人たちと暮らすことになるのだ。


「転送システムの問題が片付くまで、アンデフロル・デュメーラに拘束されている」


カテゴリー1への直接支援は委員会の重要禁止事項であるが、こういったケースは適用外である。


「しかし、待遇には配慮しているつもりだ」


文明段階の初期カテゴリー1は弱肉強食の世界だ。


「彼はわれわれに多くの重大情報を提供してくれている・・・」


時折、監視に来る宇宙機がたまた待機しているとしても、その支援は限られている。


「ランベル・ベニオスを追い込めることができるだろう」


カテゴリー1の世界においては、自分がエルフィア人であることは伏せておかねばならない。


「そうですか・・・」


主だった精神パワーは封じられ、その世界の住人と同じ能力しか持たず、自分一人でその世界に暮らし、カテゴリー4の知恵と経験だけで、文明支援の素地を作るために活動するのは十二分に危険で辛いものだ。


「では、裁判は・・・?」


暗殺、通り魔、戦争、事故、命の補償はない。


「わからんが、それは先のことになりそうだ」


場合によって、それは一生続く・・・。


「きみのことは最高理事権限で、わたし個人がしたことだ。なにがあってもわたしが責任を取る。ファナメルたちについても・・・」


エルフィア人の寿命は千年あり、罪の償いもよるが奉仕活動は何百年に及ぶことになる。


「感謝します・・・」


ただ、それに生きがいを見つける受刑者は多い。


「わたしに考えがある・・・」

「まさか、イラージュの調査に・・・?」


「まぁ・・・、そう言うことだから、少々わたしに時間をくれたまえ」


いや、見つけられないなら、そこで終わりだ。


「リーエス・・・」


カテゴリー1の世界においては、文明進化の時計は遅々として進まない。

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