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372 尻目

「わたしはアンニフィルド。このお話の語り部よ。今日のお題目は「尻目」だけど、「お尻に目がついてる」なんて変なこと考えないでね。「身体は前のまま目だけちらっと後ろを見る」って意味なんだから。わたしがエルフィア人で地球語にあんまり明るくないからって、ここで笑ったら酷いからね・・・!あら、わたしとしたことが・・・。おほほほ・・・」

■尻目■




「さてと・・・」

にたり。


アンニフィルドが俊介のもとに消えていった後、クリステアはユティスと和人に視線を戻した。


「ユティスに和人、わたしはアンニフィルドみたくあなたたちを興味本位でなんか見ていないから、本当のことを話して。SSとしてあなたたちを見守るのに、今後の参考にしたいの」


「なにをお話するのですか?」

ユティスがクリステアを見つめた。


「そうだよ。本当のことを言えたって・・・」


じぃ・・・。

和人もクリステアの視線を受け止めた。


「和人・・・」

クリステアは真っ直ぐに和人を見つめた。


「な、なんだよ、あらたまって?」

「本当は迷ってるんでしょ?」


「迷う?なにを?」

クリステアの意外な言葉に和人はぎくっとした。


「本当なんですか、和人さん?」

ユティスが心配そうな顔になった。


「ユティスとの仲は良し。エルフィア行きも良し。エルドの養子になるのも良し。でも、あなたは地球人。エルフィア行きが近づいてくるってことは・・・」


「でも、地球人って?」

和人はクリステアが彼の葛藤を見抜いていることを知らなかった。


「そうね、これからのスケジュールから話そうかしら。詳しいことは帰ってからよ。あ、お勘定!」

クリステアはそう言うと、通りかかったウエィトレスを呼んで、和人の方に視線を送った。


「はい、ただいま」

ウェイトレスが寄ってくると、彼女は和人の前に来た。


「4500円でございます」


「ほら、和人・・・」

つんつん。


「え、オレなの?」

「当然」


--- ^_^ わっはっは! ---


「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)。ごちそうさまでした、和人さん」


にっこり。

ユティスの最高の微笑みに和人は思わずにやけた。


「仕方ないなぁ、もう、きみたちは・・・」

ささ・・・。

和人は文句を言いながら財布をまさぐった。


「あら、どうせ政府に補填してもらうんでしょ。レシートはもらっときなさい」

クリステアはそう言うとユティスと見合って微笑んだ。


「うふふ。リーエス、和人さん。1000兆円以上もお持ちの政府というのはお金持ちなんですから」

「それ、累積赤字だよ、政府の・・・」


「まぁ・・・!」

ユティスは政府の累積赤字を貯金だと思っていた。


--- ^_^ わっはっは! ---


そうして、和人たちは大使館に戻っていった。




時間を少し遡って、イザベルを蛇の目傘で送っていった二宮は、駅のホームでイザベルのフランス語にどっぷり浸かっていた。


とろぉーーーん。


「テュ・ヴァ・ビアン(大丈夫ですか)?」

「うす。トレビ、ヤァーーーン(大丈夫)っす」


「変なフランス語ですね。うふふ」

にこ。

イザベルは二宮のイントネーションに思わず笑みをこぼした。


「うす。あのぉ・・・」


ぷわぁーーーん。


二宮の声はイザベルの駅方面の電車がホームに入って来てかき消されてしまった。


「イザベルちゃん・・・」


ぷしゅうっ。

イザベルの前でドアが開いた。


「だぁーーーめ、今日はここまでです。講義終了」


「イザベルちゃん!」

「ア・ドゥマン(また明日)、ユウキ!」


たったった・・・。

そしてイザベルはほぼ満員の車両の中に消えていった。


ぷわぁーーーん。

ぷしゅう・・・。

がたごと・・・。


そしてドアが閉まり、二宮の目の前でイザベルは電車と共に去っていった。


「ハーフかなんかの女の子か・・・」

「すっげぇ可愛くない?」


「そうだな。ひょっとしてアイツの恋人かぁ?」

「うっそぉ。ありえん・・・」


「いや、別れ際のあのキッスしそうで寸前で思い止まったような表情・・・」

「おまえの視線に感づいたんじゃねぇ?」


「うっせぇ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「羨ましいよなぁ・・・」

「だよなぁ・・・」


二宮の後ろで2、3人の若い男たちの声がした。


くる。

二宮は男たちを振り返った。


(へへへ。オレとイザベルちゃんのことだなぁ・・・)

にたにた・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


さささっ。


二宮が振り返ると同時に、男たちはそっぽを向いて二宮の視線をかわした。

(へっへ。ざまぁ見ろってんだ。おまえらも最高の女の子が欲しいなら、てめえの命を賭けろってんだ)


二宮はコンビニ強盗からイザベルを守ろうとして、わき腹に刃渡り20センチのナイフを喰らい、2ヶ月の重症を負ったのだった。


(ま、無理だろうけどな。しっかし、抜糸痛かったよなぁ、あの藪医者め!)


--- ^_^ わっはっは! ---




「ただいまぁ」

「お帰り」


イザベルがマンションに着くと、イザベルの姉、喜連川ミレーヌが妹をにこやかに迎えた。


「あら、今日は一人なの?」

にこ。

二宮との仲を知るミレーヌは妹の折り畳み傘を沸きに置くと微笑んだ。


「うん。二宮さん連れてくると、姉さんが休めないでしょ?」

「まぁ、生意気言っちゃって。わたしなら大丈夫よ」


ミレーヌはフランス航空のキャビン・クルーで、大体はパリと東京や大阪を行き来していた。


「でも、なんか、わたし・・・」

「いいのよ。ぜんぜん気にしてないから。今の生活を楽しんでるしね」


ミレーヌは基本パリでの生活だったが、東京線のデューティはパリから日本に飛んで3日オフ、パリに戻って3日オフだった。


「メルシィ(ありがとう)、姉さん」


「で、結局、二宮さんのプロポーズ受けたんでしょぉ?」

にこ。

ミレーヌはイザベルをリビングに案内した。


「ノン。保留のままなの・・・」

ぽっ。

イザベルは頬を少し赤く染めた。


「そりゃ、二宮さんが可哀想なんじゃない?」


「そんなこと言ったって、いきなり家庭に入るなんて嫌だもの・・・」

イザベルは上着を取るとイスの背に掛けた。


「じゃあ、フランス流にここに一緒に住んじゃえば?」

にこ。


「姉さん、わたしはまだ二十歳なのよ。仕事も甘い恋人時代もお友達のようにエンジョイしたいの」


「おーお、贅沢だこと」

ミレーヌはにこやかにそれに応えた。


「なによ、姉さんだってその歳で世界を又にして独身時代を楽しんでるんじゃない?」

ミレーヌはイザベルと8つ違いだった。


「まぁ、言ったわねぇ。ふふふ・・・」

ミレーヌは怒るわけでもなく楽しげに妹との会話を楽しんでいた。


「そう言えば、真紀さんも常務さんも、姉さんと同い年だったわ・・・」


「なにか言った?」

ミレーヌは二人の夕飯を手際よく暖めてテーブルに並べた。


「わたしの会社の社長さんと常務さんの姉弟なんだけど、姉さんと同じ歳なの」

「まぁ、じゃぁ、ずいぶんと若いのね」


にこ。

微笑んだミレーヌは22、3歳くらいに見えた。


「姉さん・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「気にしない。気にしない」

ミレーヌは妹に面白そうに笑った。


「で、常務さんはパリ出張の時、姉さんのフライトだったんでしょ?」


「ウィ。そうなのよ。イケメンのステキなひとが乗ってるなぁって思ってたけど、まさか、あなたの会社の常務さんだったなんて・・・。奇遇よねぇ・・・」


とろろぉーん・・・。

ミレーヌはうっとりした表情になった。


「あ、それ、聞いたわ。で、ステキって、常務さんが姉さんの趣味なの?」


にこ。

イザベルは姉と一緒にテーブルの上に皿とグラスを並べながら、悪戯っぽく微笑んだ。


「なんか日本人離れしてて、長身でお髭も似合ってて、とってもステキだと思うわよ」


「ウィ。常務さんは生粋の日本人じゃないの。クォーターよ。セレアムって星の」

「星?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「平たく言うと・・・」

「平たく言うとぉ?」


「宇宙人のお孫さん」


--- ^_^ わっはっは! ---


「オララ(あらあら)!」

「ホントだってば。おじい様は生粋の宇宙人なっだから」


「生粋の宇宙人?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぱちぱち。

ミレーヌは目を白黒させた。


「イザベル、あなた、二宮さんも宇宙人だなんて言いだすんじゃないでしょうね?」

「ノン、ノン。二宮さんは地球人よ。時々宇宙人みたいだけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうれは良かったわ。義理の弟が宇宙人だって言ったら、会社で笑いものになっちゃう」

「だから、まだ結婚なんかしないんだってば。でも、笑いものって、フランス航空なのに?」


ミレーヌの勤めるフランス航空はファッションも考えも世界の最先端だった。


「日本って、いつのまにかフランスより随分と進んでたのねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「もしかして、姉さん、常務さんを好きになっちゃった?」

イザベルは心配そうに姉を見つめた。


「いけない?彼とってもステキよぉ。女性なら、だれだってぐぐっときちゃうんじゃない?」


「ふぅーーーん・・・」

イザベルが身を乗り出した。


「なによ?」

「常務さんには既に恋人がいるんだから、ダメよ、姉さん」


すっすっす。

イザベルは右手を人差し指を顔の前で立てると、それを左右に素早く振った。


「そっかぁ・・・。だと思ってたわ。5人くらい?」

「ええ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「『5番目でもいい?」なんて言われたら、ダ・コール(わかったわ)、なんて言っちゃいそう。あはは」


--- ^_^ わっはっは! ---


ミレーヌは妹の忠告を余裕で笑い飛ばした。


「姉さん、ダメ、ダメ!常務さんは本当にダメなんだからね!」

イザベルは思わず大きな声を上げた。


「知ってるわよ。ホントは宇宙人の恋人さんがいるんでしょ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「え?なんで知っているの?」


ぎょ。

イザベルは姉にアンニフィルドのことを特に話したわけではなかったので、えらくびっくりした。


「あ、ホントだったんだ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「もう、姉さんったらぁ!でもね、あのエルフィアって星のアンニフィルドさんよ。プラチナブロンドのスーパーロングで目が濃いピンクなの。背が高くて信じられなくらいのプロポーションで、スーパーモデル並みの超美人なんだから」


「そういえば、テレビかなんかで見たことがあるわ。確か3人だったわね?3人とも羨ましいくらいキレイな女性だったような気がする」


ミレーヌはエルフィア娘たちの歌う「天使の祈り」という曲のことをかすかに覚えていた。


「ウィ。それに、歌もすっごく上手なの。なんか魂が揺さぶられるようなと感じ・・・」

イザベルは夢見るような目になった。


「いいわね。あなたの会社、ステキな宇宙人ばかりで」

「あ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふふふ」


かち。

ミレーヌはチーズと白ワインが十分に融けているのを確認すると、電磁加熱器のスイッチをオフにした。


「冗談よ。はい、お夕飯できあがりよ」

にこにこ。


「うわぉ・・・」


今日はチーズフォンデュで、美味しそうな温野菜やソーセージなどがパリジャン・パンとワインと一緒に並んでいた。


「ふふふ。これならすぐできるしね」

にこ。

ミレーヌはイザベルに微笑んだ。


「ボ・ナペティ(召し上がれ)!」

「いっただきまぁーす」


こうして喜連川姉妹の夕食は始まった。




二宮はイザベルが無事電車に納まるのを確認して、自分のアパートに戻っていた。


「ただいまぁ!『お帰りなさい、祐樹さんなぁーーーん』なんちゃってぇ!」


にたにた・・・。

ぴっ。

二宮はおもいっきりにやけて部屋に上がるとテレビのスイッチを入れた。


「昼間はイザベルちゃんとすっと一緒で、夜は一人っすから、これがいいんすよぉ」


ぱかっ。

二宮はカップ麺を開けると一人ごちた。


「日本の誇るハイテク食品、カップ麺。今日はタイ風トムヤンクン味っすよぉ!」


とくとく・・・。

二宮はそれに熱湯を注いだ。


「イザベルちゃん、いただきまぁーーーす!」


ぱっちん。

二宮はイザベルのマンションの方向に手を合わせた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうだよなぁ。イザベルちゃんの言いたいこともよくわかるなぁ・・・。道場でも一緒だし、これで家に帰っても一緒だったら・・・」


にたぁ。


「そんなに嬉しいことはないっすよぉ!」

二宮は二宮だった。


--- ^_^ わっはっは! ---


るるるる・・・。


そして、テレビでは午後7時のニュースが流れ、1本の電話が二宮にかかってきた。


「おり、だれだよ、こんな草木も眠る夜中にぃ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


ばん!

テーブルを叩くと二宮はスマホを取り出した。


「おう、二宮、オレだ」

声の主は俊介だった。


「やっぱすかぁ・・・」

二宮は諦めたような声を出した。


「悪いな、二宮。イザベルと夕食中だったかぁ?」

「今日はオレ一人っすよぉ」


「だと思って電話したんだが・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ち・・・。オレ、常務嫌いっす」

「オレも、おまえにキッスしてもらっても困るんでな」


--- ^_^ わっはっは! ---


「常務、本気で怒るっすからね・・・」

二宮は声を低くした。


「それで話と言うのは、姉貴に届けたいものがあってな、社に戻って岡本から受け取ってくれ。今、姉貴はシャデルの会議室にいるはずだから、必ず頼むぞ。話はすべて通してある。わかったか、二宮?」

俊介はそう言うと、二宮の反応を待った。


「うーす。で、なんで、常務自身が行かないんすか?」

二宮にとっては当然の質問だったが、俊介の次の言葉で考えを変えた。


「オレはエルフィアと和人の件で、これからアンデフロル・デュメーラに乗り込む。地上には使える人間はおまえひとりしかおらん。いいか、二宮、おまえしかおらんのだ。必ず、姉貴に届けろよ。これは通常業務外の特別契約だ。オレの財布から2万出す」


「うっす。わかりましたぁ!すぐ行きます!」


--- ^_^ わっはっは! ---


二宮にとって、時給2万円は絶対に逃すことのできないビジネスチャンスだった。




「・・・」

ユティスは大使館こと株式会社セレアムの社員寮に帰る途中ずっと黙り込んでいた。


「クリステア、パスワード、***************」


クリステアが門の前でセキュリティ・パスワードを言うと、20秒の有効期限内に3人は4DKの寮に入った。


かつかつ・・・。


このセキュリティ・キーは、地球上空32000キロにステルス待機しているエストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラにより次元操作がしてあり、パスワードを言う人物の声や生体振動パターン、それにパスワードを瞬時に認識し、それのいずれが違っていると絶対に中には入れないようになっていた。部外者は門から一歩でも入ると、自分でも気づくことなく回れ右して、門の前に立つことになるのだ。


かちゃ。

和人が地球式のドアキーを開けた。


「何か深刻な話なのですか・・・?」

心配そうにユティスが玄関で靴を脱ぐとクリステアと和人を交互に見つめた。


「場合によってはね。和人次第よ」

クリステアが意味深に答えた。


「オレ次第って・・・」


「わかってるでしょ?さっさとリビングに行くのよ。そこから、旧和人の部屋を通って、アンデフロル・デュメーラに行くの。フェリシアスたちが待っているわ」

クリステアは二人を急かした。


「それで、クリステア、和人さんの葛藤とはなんですの?」

リビングに入るなり、ユティスはさっそく和人に尋ねた。


「生体細胞のDNA保護よ。和人がエルフィア人としてのね」


それは、和人が地球人である限り、エルフィア人の10分の1しか寿命も若さも保てないという問題を、エルフィア人の養子となることでクリアするためのものだった。


「和人さん、どういうことですか?」


一度、和人も承諾したはずのことのはずだったが、ユティスは不安でいっぱいの表情で和人に尋ねた。


「それは、オレだけDNA保護処置を受けても・・・」


もごもご・・・。

和人は歯切れ悪く語尾を濁した。


「話はアンデフロル・デュメーラでするから。二人とも早く」


クリステアはそう言うと、二人をリビングから旧和人の部屋、今はアンデフロル・デュメーラへの自動接続口に足を踏み入れた。


「どうするんだい?」


和人は部屋の中がもやもやっと揺らいでよく判別できないのを見て、思わず不安を口にした。


「ただ、ここをくぐるだけよ。心配ないわ。あなたは生体振動パターンを既に登録されているから、なにもなく行けるはずよ」


エストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラへのゲートは、登録されていない人間には決して開放されることはなく、ただの部屋でしかなかった。


「和人さん、いきましょう」

ユティスが和人の手を取った。


「リーエス・・・」


するん・・・。

和人は、なにかエネルギー場を通り抜けた微妙な感覚の下、ユティスとクリステアとでかつての自分の部屋をくぐり抜けた。




「俊介、二宮で丈夫なの?」


シャンパンバー、ロイ・ルデレールでアンニフィルドは俊介の左手を自分の右手で触りながらそっと言った。


「岡本じゃダメなわけ?」

「ああ。あいつは軽トラしか運転しないからな」


「軽トラ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぐぐ・・・。

俊介はグラスに口を付けた。


「あいつん家は小口専門の運送屋だった・・・、けなぁ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「石橋は?」

「同じくだ。ワゴンを運転したことは一度もない。ここの駐車場からバック出しはまず無理だし、シャデルに着く前に電柱かどっかに衝突して警察に捕まるのがオチだな」


--- ^_^ わっはっは! ---


「だったら、タクシーとか使えばいいじゃんない?」

「社に帰るのにまたタクシーを使うのか?それに、もう一度社に戻れと言うのも悪いしな」


岡本も石橋も車通勤なので、シャデルにタクシーで行ったら、一度、帰宅するのに車のある事務所に戻ってくる必要があった。


「しょうがないじゃない」

「まぁ、二宮に決まったんだから、いいじゃないか、そんなこと」

俊介はその話題を打ち切ろうとした。


「そんなに大切なものなの?」

だが、アンニフィルドが突っ込んできた。


「オレにはどうでもいいがね」

「冷たいのねぇ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そんなことがあるか。こうして、二宮にポケットマネーを出してまで、きみらの名誉を考えているんだぞ」


「わたしたちの名誉?」

「あ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「こら、俊介、白状なさい」

アンニフィルドは悪い予感がした。


「大したことじゃないが、ちょっとした使い勝手がな。誰もがどんなアングルからでもきみらの3D画像を見れることになったら、きみらも困るだろう?」


「なんで?」


「おっほん。それでなくとも、エレガント・セクシーなシャデルの最新モードが真下からのアングルでも観察可能としたら、どうするつもりだ?」


「あらまぁ・・・!」

にっこり。

しかし、アンニフィルドは俊介に微笑んだ。


「俊介にだけなら・・・、わたしはいくらでもいいわよぉ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うぉっほん。オレができるということは、オレ以外の人間にも可能になるってことだ」


「二宮も・・・?」

「二宮もだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はいはい。わかったわ。要はユーザーが見れるアングル制限をするってことでしょ?」

「そういうことだ」


「で、こんなお使いに本当に2万円も出すの?」


アンニフィルドは地球の経済価値がどのくらいなのかわかってきていたので、たかだかDVDのハンドキャリーごときに、俊介が二宮にそれだけ出すことに疑問を持った。


「ああ、もちろんだ。財布から出して、またしまう」

「はい?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「別に二宮にやるとは一言も言わなかったはずだが」


にたらぁ・・・。

ぱち。

俊介は意味ありげに笑うとアンニフィルドに片目をつむった。


「コスト削減ね。どけち・・・。あなた、最低だわ・・・」

アンニフィルドは本気で俊介に呆れた。


「冗談に決まってるだろ。ちゃんと支払うよ」


ごくん。

とん。

そして、俊介はグラスを飲み干しグラスをテーブルの上に置いた。


「ふぅーーーん・・・」


「信じてないな?」

「信じてるわ。コンマ5%くらい・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はっは。ゼロじゃなく良かったぜ」

俊介はアンニフィルドの皮肉を軽く笑い飛ばした。


「さて、わたしたちも行きましょう」

アンニフィルドはカウンターから立ち上がると俊介も立たせた。


「今すぐかい?」

「リーエス。アンデフロル・デュメーラ、やってくれる?」


「リーエス。SS・アンニフィルド」


しゅわぁ・・・。

すぐに二人を淡く白い光が包み始めた。


「こ、こら、よせ、アンニフィルド!まだ、店に勘定を支払ってないんだぞ。おい、アンデフロル・デュメーラ、待てったら!春日ちゃん、また戻ってくるよぉーーーっ!」


しゅわん。

そして、二人は口をあんぐりと開けたロイ・ルデレールの店員の目の前で消えていった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「春日ちゃん・・・?」


ぽかぁーーーん・・・。

マスターは気が抜けたようにバーテンダーを見つめた。


「はい。消えちゃいました・・・」


「御代は・・・?」

「一緒に消えちゃいました・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「国分寺さんに付けといてくれる?」

「はい、マスター・・・」




しゅん!


二宮がセレアムの事務所に着いた時には、既に真紀に届けるものはワゴン車に積み込んであった。


「お、二宮、随分と早いわね?」

「うっす」


「しっかり頼んだわよ。ワゴンの鍵はこれね」


ぽいっ。

にこ。

岡本はワゴン車のキーを放り投げると、嬉しそうに二宮に話しかけた。


「うっす」


「じゃあ、石橋、後頼むわぁ」

「はぁーーーい、わかりましたぁ」

石橋は岡本の指示ににこやかに答えた。


「ビールを飲む前でよかったすよぉ」


「あ、すみません、二宮さん。それで、真紀さんへのお届けものは社封筒に入れてワゴンに積んでありますから」


ぺこ。

石橋が二宮に微笑で、駐車場の方を案内する素振りを見せた。


「あ、石橋、いいって。いいって。オレわかるから」

二宮は手を横に振った。


「一応、中身を確認しますか?」

「おう。一応な。なんせ大金だから・・・」


「え、お金を運ぶんじゃないんですけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わかってる。わかってるって。こっちの話。えへへへ・・・」


すたすた・・・。

そして、二宮はワゴン車に乗り込むと、助手席に置いてある社封筒を見つけた。


「これだな、石橋?」

一緒についてきた石橋に二宮は確認を求めた。


「はい。そうです。DVDが一枚あると思うんですが・・・」


ぱさっ。

がさごそ・・・。

二宮が封筒を開けると、すぐにそれを確認した。


「うむ。確かに・・・」

そして、二宮は神妙な顔つきになった。


「スパイに命を狙われるようなことにはならないんだろうな?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ま、まさか・・・。それを真紀さんに直接手渡していただければ・・・」

石橋は慌ててそれを否定した。


「了解だ、石橋」


「はい。よろしくお願いします、二宮さん。いってらっしゃぁーーーい」

二宮はDVDを自分のカバンにしまうと、後ろで手を振る石橋を尻目に事務所を後にした。


ばたむ。

ぶろろろろ・・・。

そして、二宮は俊介のワゴンを発車させた。

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