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371 越境

「アンニフィルドです。なんで地球の梅雨っていうのは鬱陶しいのかしら。どんより曇った空でしとしとされると、気が滅入っちゃうわぁ・・・。てな、ことじゃないけど、いろいろと、ほら、みんな悩みって抱えてるじゃない?ええ?わたしにはないだろうって?失礼ね、もう!」

■越境■




「さ、さぁ、こちらへ・・・」

黒磯はレストランの隅にある4人掛けのシックな丸テーブルに真紀を案内した。


「大受けですよ」

黒磯は満面笑顔でいきなり言った。


「あ、ははは・・・。それはどうも・・・」


「グローバル本社の重役たちが世界展開することに決めたんです」

「それはステキですわ」


真紀たちが提案した会員によるヴァーチャル3Dファッションショーは、シャデルの会員になればだれでも利用できるようになっていて、無料会員でも年4回シャデルの新作発表ドレスをWeb上で試着できるようになっていた。


「それはおめでとうございます」

にっこり。

黒磯は真紀に微笑んだ。


「黒磯さんもですわ。シャデル日本の面目躍如ですわね。うふふ」


会員が自分の実際のフォルムと理想のフォルムの両方で、1着ン百万もするようなものでも、まるでファッションショーのランウェイで歩いているように、Web上でシャデルの新着ドレスを試着堪能できるのだ。


「決定打はマダムなんです。試しにマダムにユーザー登録をしてもらったんです」


こっくり。

黒磯は深く頷いた。


「マダム?」

「ええ。パリ本社の副社長のカトリーヌ・シャデル、その人です」


「まぁ、社長婦人さんですか・・・?」

真紀はびっくりしていた。


「ええ。自分でも一度ランウェイ上に上がってみたかったとかで・・・」

「それで、いかがされたのですか?」

真紀は興味が湧いてきていた。


「それが、実際の3Dフォルムで秋冬モードを試着され、Webのヴァーチャル・ランウェイ上で闊歩したらしいんですが、『いいね』クリックが鰻登りに上がりまして・・・」


「それは、それは・・・」

にこ。

真紀は黒磯に微笑んだ。


「そのマダム・シャデルなんですが、お年の割りにはと申し上げてはなんですが、意外に華奢な方でして、ある程度お年を召されたご婦人のモデルとしては立派に通用するかと・・・」


「社長婦人さんはとっても美しい方なんでしょうね?」

「ええ。ただ、息子を猫可愛がりですからね・・・」


「ギョームさんですね?」

「その通りでして・・・」




その頃ユティスたちは夕食を兼ねて例のカフェ、スターベックスにいた。


(あん・・・。俊介ったら、ちゃんと今日中に仕事片付けてくれるのかしら・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


アンニフィルドはカフェの時計を見つめた。


「これで、ほぼ一週間ね。どう、二人で同じ部屋での生活は?」

クリステアはカフェラテに一口つけるとユティスと和人を見比べた。


「どうって、壁の両側でテレパスの二人に聞き耳をそばだてられていると思うと、おちおち眠れやしないさ。第一、ベッドはオレのを1階からユティスの部屋に上げたんだからね」

どうだとばかりに、和人がSSたちを見返した。


「クイーンサイズの隣にシングルを並べたの・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ナナン。60センチ離してね」

和人はSSたちに開き直った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ホントなのユティス?」


「リーエス。真ん中は通路なんです」

にこ。


「一つ部屋に通路を?」

クリステアが半ば呆れてユティスを見つめた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あなたたち小学生並みね・・・」

「本当に60センチあるか確かめてみるかい?」

和人は目を細めてアンニフィルドに言った。


「・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「失礼だわねぇ」

「リーエス。わたしたちはそんな覗き趣味なんてないわよ」

アンニフィルドに続いて、クリステアが冷静に答えた。


「リーエス。わたとしたちはエージェントとコンタクティーの安全を確保するのが使命だから、それを淡々とするだけよ。あは」


ぱちり。

アンニフィルドはユティスにウィンクした。


「そのわりには、妙に期待するような目つきだよね、アンニフィルド?」

和人はアンニフィルドに不安げな視線を送った。


「別に悪いことなんか期待してないわ」

「いいことも期待しなくていいんだけど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「え、やっぱりいいことあったってわけ、ユティス?」

きらきら・・・。

アンニフィルドの目が輝いた。


「キッスのことですか?」


がたっ。

アンニフィルドはさらに身を乗り出した。


「おお、やっぱり!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「で、それ以上のことなかったのぉ?」

「ないです!」


「あなたには聞いてない、和人」

きっ。

アンニフィルドが和人を軽く睨んだ。


「今日はえらくひつこいんじゃないか、アンニフィルド?」

和人はアンニフィルドのことには慣れっこではあったが、今日の彼女の追及は様子が変だった。


「ほっときなさい。で、ユティスさぁ、眠りに着く前なんかにさぁ・・・」

一転して、アンニフィルドの声が甘くなった。


「眠る前には和人さんが優しく境界線通路を越境してきて・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


かぁ・・・。

ユティスははにかみながらも嬉しそうな表情になった。


「優しく越境?」

「境界の意味ないわねぇ、それじゃ」

アンニフィルドとクリステアが頷き合った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「止めろよ、二人とも」


「ベネル・デューム(ステキな夢を:おやすみすみなさい)とご挨拶をいただいて・・・」


がく・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「挨拶だけなのぉ?」

「ベッド越しにぎゅうっとお互いの手で握り締め合うんです」


「それで、それで、どこを・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「お互いの手に決まってるじゃないか」


「あなたには聞いてない!」

ぷん!


「それで胸がいっぱいになって・・・」

「胸がおっぱいになって、それで?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「待った、ユティス!アンニフィルドに言っちゃだめだよ。変に誤解されるから」

和人が必死でユティスを止めようとした。


「あーら、随分と失礼な言われようじゃない」


じとぉーーーっ。

アンニフィルドは和人に冷たい視線を向けた。




ぱちぱち・・・。

かたかた・・・。

セレアムの事務所では、まだ石橋がPCを操作していた。


「石橋、いい加減明日にしたら?」


かつかつ・・・。

開発部マネージャーの岡本が心配そうに石橋のそばにやって来た。


「あ、岡本さん、どうも。でも、シャデルの第二フェーズの中間報告は明日の午後ですから・・・」


「真紀が今夜黒磯さんに確認してるだろうから、それからでも遅くないんじゃない?せっかく作った資料に手直することになりかねないわよ」


ぽん。

岡本は石橋の肩に右手を置いた。


「岡本さん、ありがとうございます。それはそうでしょうが、画像の差し替えは今日でもできますから・・・」

「画像?」


なるほど、先日、エルフィア娘たちがモデルとなって協力したシャデルの秋冬物の最新モードの写真に総入れ替えされていた。


「ステキですよねぇ」


かち。

石橋はそれを見ながら、その一つを拡大させた。


「ホント、あの娘たち、あきれ返るくらい着こなしてるわ・・・」

「はい。それでわたし思ったんですけど、秋冬モードって言う割りには、あまり厚手って感じがしないんですよね・・・」


「そうね。多くは黒っぽくていかにも冬を連想させるけど、白いのはぜんぜんそんな感じはしないわねぇ・・・」


「ほら、これなんか」


かち。

ぽわん。


石橋は別の画面を開いて、白を基調とした割と薄手の膝上5センチくらいのエレガントなドレスを着こなしているクリステアの360度回転画像をクリックした。


くるくる・・・。

ドレスを着たクリステアがPC上で前、横、後ろ、前をゆっくりと回転した。


「あは、面白い!3Dアニメみたいだわ」

岡本は感心したように言った。


「3Dデータはちゃんと採ってあるんで、上からのアングルでも見れるんですよ」


にこ。

かち。

ぐりぃ・・・。


そう言って岡本に微笑むと、石橋はクリステのかなり斜め上からのアングルで俯瞰するように変えて見せた。


「マジ?これ、どんなアングルでもできるの?」


きらきら。

岡本は目を輝かせ石橋にきいた。


「はい。お望みなら、どんなアングルからでも映し出せますよ」

「じゃぁ、舞台の下からあおるようなカックいいやつもできるの?」


「もちろん、できますよ。ほら・・・」


石橋がPC画面でアングル補正をすると、画面上のクリステアはその長身がさらに強調され、いかにもランウェイ上のスーパーモデルのようだった。


「わぉ!ステキ!」

岡本はそれに釘付けになった。


「やっぱり、美人って得よねぇ・・・」

「はい・・・」


こっくり・・・。

岡本と石橋は頷き合った。


「どれどれ、わたしにちょっと貸してみて」

「はい、どうぞ」


すす・・・。

岡本の依頼で石橋は席を代わった。


「どうやるの?」

「そこのポインタを見たいアングルのところに持っていくんです」


「こう?」

「え、はい」


ぐりぃーーーん。

ぐりっ!

岡本はマウスを誤ってクリックした。


「ありゃ、パンツ・・・」

「きゃあ!」


PC上では、クリステアの真下からのアングルで、データサンプル採取した時のありのままが映し出されていた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「このアングルは・・・、ちょっと危険ね・・・」

「はい・・・」


「ベータ版では絶対にプロテクトが必要だわ、石橋・・・」

岡本は慌てて事務所を見渡した。


「俊介は上がったみたいね・・・」

「はい、大丈夫です。だれにも見られていません。今日確認できて良かったです・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---




「アンニフィルド?」

その時、事務所で遊ばれてることを知らないクリステアが割って入ってきた。


「なによ、クリステア?」

「俊介を事務所に残してるからかしらね?あなたも、確かになにかそわそわしてるんじゃない?」


「いっ・・・!」


(わかっちゃったのかしら・・・)

アンニフィルドは乗り出した身を沈めた。


「そういうことでしたの、アンニフィルド。可哀想に・・・」

ユティスが気の毒そうな目をした。


「リーエス。実は俊介に伝えたいことがあるのよ・・・」


「そうなんですか・・・」

「リーエス。山ほど・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「好きよ。好きよ。好きよ。好きよ。大好きよ、俊介!だわね」

「クリステア!」


--- ^_^ わっはっは! ---


今度はアンニフィルドが慌てる番だった。


「お察ししますわ、アンニフィルド・・・」


よよよ・・・。

クリステアの突っ込みとユティスの同情で、アンニフィルドは一気に弱気になった。


(よし、今度はこっちの番だぞ。反撃だぁ)


にこ。

和人はこの時とばかりユティスに微笑んだ。


「あのさぁ・・・」


ずい・・・。

和人はユティスに心持寄った。


(和人さん!)

たちまちユティスは嬉しそうに微笑んだ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そう言えば、常務は書類処理で9時までかかりそうだっていってたよね、ユティス?」


「リーエス。確かにそうおっしゃてらしたわ」

和人の確認にユティスは頷いた。


「9時・・・?」

アンニフィルドはそれを知らない様子だった。


「リーエス。この雨ですし、アンニフィルドにお気遣いされて、早く無事に退社して欲しいと思ってらしたに違いありませんわ」


「俊介・・・」


きゅん。

しとしと・・・。


アンニフィルドはシュンスケに想いを馳せながら、カフェの窓の外で雨が降っているのを眺めた。


「真紀さんはシャデルに行っちゃったし、今宵は常務一人で赤提灯、じゃなくて、金座のロイ・ルデレールで春日さんと夜中まで語り明かすつもりかもなぁ・・・」

和人はアンニフィルドをちらりと見た。


「春日って、あのバーテンダーやってる謎の美女でしょ・・・?」

アンニフィルドが不安顔になった。


「別に謎なんかじゃないと思いますわ」

「わたしが知らないってことは謎ということよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あなたの見解はどうでもいいけど、俊介が落ち着ける場所の一つがそこってことよ。アンニフィルドも一度行ったことあるんでしょ?」


クリステアは二人が地球に着いた時のことをアンニフィルドに思い出させた。


「リーエス・・・」

「それに、彼、フェリシアスから毎朝SSの訓練を受けていますわ」


「よく頑張ってると思わない?」

クリステアは俊介の肩を持っていた。


「わかったわ、ユティス、クリステア」


「アンニフィルド、先回りして待ち伏せするってのもいいわよ」

クリステアが最後に静かに言った。


「え、いいの?和人のお守り番を放っぽといて?」

アンニフィルドは申し訳なさそうにクリステアを見た。


「お守りってなんだよぉ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


むす。

和人は少々むくれた。


「リーエス。わたくしたちでしたら大丈夫ですわ。クリステアがいますし、いざとなればアンデフロル・デュメーラにお願いできますし・・・」


「リーエス。ここはいいわ、アンニフィルド。行ってらっしゃいよ」

クリステアも言った。


「和人、確かに金座のロイ・ルデレールと言ったのね?」

「そうだよ。オレはそう言ったはずだけど」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あなたが言う前に俊介が言ったってこと!」

「リーエス。本当ですわ、アンニフィルド」


「アルダリーム(ありがとう)、ユティス」

アンニフィルドはユティスに礼を言った。


「しかし、どうして常務はきみに言わなかったのかなぁ・・・?」


にたにたぁ・・・。

普段からアンニフィルドにやり込まれている和人は、ここぞとばかりにアンニフィルドへ突っ込み返した。


「え?うそぉ・・・。わたしだけ除け者扱いなのぉ・・・?」


「そんなことありませんわ」

ユティスはアンニフィルドを安心させようとした。


「まったくもう・・・。俊介を締めてあげるわ!行くわよぉ!」

「あ、アンニフィルド・・・!」


しゅん!


アンニフィルドが一瞬白い光に包まれると、次の瞬間にはカフェにその姿はなかった。




金座のシャンパンバー、ロイ・ルデレールはちょっと洒落た店で、その値段の割にはけっこう若いサラリーマンやOLたちも来ていた。


しゅわん・・・。


ぱたん。

かつん、かつん・・・。


アンニフィルドは店のお手洗いにジャンプすると、何食わぬ顔でカウンターで春日と話している俊介に近づいていった。


「ん、ん!」

アンニフィルドは俊介の左後ろ30センチに立つと咳払いをした。


くるり。


「よぉ、遅かったな」


にたぁ。

俊介はいきなり振り向いてアンニフィルドに笑いかけた。


「きゃあっ!」


ざざっ!

アンニフィルドは逆にびっくりして思わず後ろに一歩下がった。


「び、びっくりするじゃない!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「待ってたぜ。こっちに座れよ、アンニフィルド」


ぽんぽん。

俊介は自分の左のイスを叩くと、そこにアンニフィルドを座らせた。


「いらっしゃいませ、アンニフィルドさま」

にこ。


すっ。

すぐさま春日がアンニフィルドにお絞りを差し出した。


「あ・・・、ありがとう・・・」

出鼻を挫かれたアンニフィルドはすっかり毒気を抜かれてしまっていた。


「春日ちゃん、クリステアのロゼ、グラスを追加してくれる?」

「かしこまりました、国分寺さま」


春日はさっそくワインクーラーの中で冷やしたボトルを取り出して、新しいシャンパングラスに中身をゆっくりと注いだ。


「転送システムのことを聞いたぜ。近々エルフィアに戻るんだってな?」

俊介はアンニフィルドに静かに注がれるグラスを見つめて言った。


「リーエス。和人のエルドの養子手続きとDNA老化防止処方をするためね」


「オレも地球人だぜ。そのことはどう思う?」

俊介はそろそろ話さなければならないことを口にした。


「ナナン。わたしは心配なんかしてないわ。あなたも真紀さんもセレアム人の血が入ってる。トアロのお孫さんということで、セレアムでDNA老化防止の処置を受けたでしょう?」


「ああ・・・。みんなには内緒にしておいてくれ・・・」

俊介は一人隠し事でもあるかのようにアンニフィルドから視線を外した。


「リーエス・・・」


「とりあえずは乾杯だな」

「いいわ」


ちん。

軽く澄んだ音が小さく鳴った。


「10年やそこらは怪しまれはしないでしょうけど、あなたも20年後は身の振り方を考えるべきね。今のままの姿では地球には住み続けられない。わかっているんでしょ?」

アンニフィルドも真顔になった。


「ああ。少なくとも岡本や茂木など近しい人間とは一緒にいれない。特に姉貴はな・・・」

「リーエス。女性は年齢からくるものには極めて敏感よ。すぐに気づかれるわ」


「みんなオレたちの正体を知っている。言い訳できないな・・・」


俊介は、20年後においても20代のままの顔と肌をした真紀が同僚たちの注目を浴びて、なお、平気でいられるわけがないと思った。


「リーエス。突然の長寿を得る者はそれなりの責任と代償を負うことになるの。わかるわね?」

「ああ。浦島太郎兵衛だな」


「だれ?あなたの知り合い?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わは。とにかく、ユティスがショックを受けた時のことを思い出すぜ」

エルドから地球人の和人が短命だと知らされたユティスは、ショックのあまり失神してしまったのだ。


「何十年か後に地球に戻ることになれば、あなたも和人のようにあなたのままでは奇異な存在と見なされる。どこかで、あなたは自分の過去にリセットすることが求められるの」


和人より一足先に、俊介と真紀はセレアムで細胞老化防止処置を受けていた。


「わかるさ・・・」


(確かに、新しい女の子とのデートの前にはリセットが必要かもな・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


「あなたにはこれからの生活の下準備をしなくちゃならない。例えば、地球以外でも通じるサービスを提供できることなんかをね」

アンニフィルドは数十年後のことを言っていた。


「稼ぐってことか?カテゴリー3以上はすべてタダじゃないのか?」

カテゴリー3以上の世界は、衣食住を確保することに係わる労働からは完全に解放されていた。


「衣食住の基本はね。でも、ずうっとそうしていたいと思うの?だれかに頼りきった毎日。なにもしない毎日。なにもない毎日。だれにも強制はされないけど、やることのない毎日。それを千年も続けるわけ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「千年だってぇ?」

「リーエス。あなたはそうなったわけでしょ?わたしにはできそうもないわ。とっても辛いと思うけど・・・」


活動的な俊介が、なにもしないで毎日を1週間ですら平気で過ごせるはずがなかった。


「ああ、そうだな。みんなの世話になりながら肩身の狭い思いをするのはごめんだね。そう言えば、エルフィアじゃ、ボランティアはさかんなんだってな・・・?」


「リーエス。因みにエルフィアでは1日3時間程度ね。好きなこと、自分ができることをみんなに提供するわけよ。義務感からでじゃないわ。そうしたいからするの」


アンニフィルドは自分がそうではないということを自分に言ってないと俊介は思っていた。


「しかし、きみらはとても1日3時間勤務の熱心な宇宙人社員には見えんぞ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「リーエス。でもね、わたしやユティスも、文明促進推進支援委員会の関係者は好んでこの道に入ってるから、別に苦痛を感じてるわけじゃないの。地球風に言うと24時間365日勤務ってことかしら。あは」


「そりゃ、ご苦労なことで。どうして、委員会なんかに入ったんだい?」

俊介はその理由を知ってはいたが、納得してはいなかった。


「ユティスの言ったことを覚えてる?」


じぃ・・・。

アンニフィルドが俊介の目を見つめた。


「そこに委員会があったから・・・。のわけはないな」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あははは。あなたやっぱり面白いわ、俊介」

「そうかい?はは・・・」

アンニフィルドに受けたので俊介も笑った。


「リーエス。そういうところ好きよ・・・」

「オレもだ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはは。面白い。面白いわ!」


「で、なにを言ったんだっけ、ユティスは?」

俊介は話を戻そうとした。


「『人生の目的は愛することを学び、幸せになること』よ。忘れた?」

「いや、しっかり覚えてるぜ」


「真のボランティアは愛の精神を育むことになるわ。愛の精神だけが創造をもたらすの。愛なくて人は幸せには決してなれない。それで全宇宙を愛でいっぱいにするの。『すべてを愛でる善なるもの』の意思。宇宙の意思がそれね。エルフィア人にだってできてやしないけど、永遠の目標だから、ゆっくり取り組むことにしているの。だれもが自分のペースでね。あせってるわけじゃないわ」


「なるほど。それで、オレをSSに推薦したのか?」

「リーエス。あなたに、ビールを飲むことと、ボールを投げること、女の子を口説くこと、それ以外になにができて?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「最後はともかく、当たらずとも遠からずだが、ちと酷い言われようだな」

俊介は言葉の割には笑顔で言っていた。


「まぁ、それは冗談として、頭脳明晰、運動神経も体力も抜群、精神も安定していていて、とっさの判断にも確実にベスト、ベターの選択を迷わず実行する。地球に来て以来ずっと見てきたわ」

アンニフィルドが俊介の左手の上に自分の右手を重ねた。


「だれの話だ?」

「だぁーりんのことよぉ・・・。あは・・・」


にっこり。

さっきの怒りも消えて、アンニフィルドの表情はいつになく優しかった。


「そいつはどうも。下げたり上げたり大変だな」


「そんなことないわ。あなた軽いもの」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わはは。まいったよ、きみには」

にたり。


「あは。誰かを守るってことはただ強ければいいってわけにはいかないの。エルフィアでも委員会に入ることはみんなの憧れの一つよ。エージェントとセキュリティー・サポート(SS)は特にね」


「エリートってわけだ」

「ナナン。訓練を受ければだれにも可能性はあるわ」


「フェリシアスの訓練は厳しいと言うか・・・、とにかく、とても変わっている」


毎朝の出勤前、俊介はフェリシアスの下、SSたちを支援するために、1時間程度のSS見習いの訓練を受けていた。


「あは。そのうち慣れるわよ」


「で、SSの補佐ができるようになれば、オレは地球を離れることになるのか?」

俊介にとって、それは遠くて近い未来だった。


「すぐにじゃないわ。ここ20年くらいはね。いつまでも地球にいて地球の文明進化を見守りたいのはわかるけど・・・」


「ああ、ここほど美味いビールがあるとも思えん」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ばか・・・」

「それで?」

俊介はさらりと流すと、アンニフィルドに先を進めさせた。


「とにかく急いではダメよ。必ず失敗する。エルフィアはそれで幾度となく痛い経験をしたんだから」


ユティスは地球の前のミューレスをいう世界でそういう苦い経験をしていた。


「地球の各国政府への強制は、彼らにとっては政府の転覆を狙うテロリズムと同じというわけだな?」

「そこまでは言わないけど。無用なおせっかいくらいには十分感じるはずだわ。自ら変わりたいと思えるまで、人は決して学ぶことはできないのよ」


「だな・・・」

俊介はアンニフィルドに頷いた。


「ところで、もし、そう思うことができなかったら?」


きらっ。

俊介の目が一瞬光った。


「その世界は自滅か侵略ね。委員会としては恒星系内に時空封鎖よ・・・」

「時空封鎖・・・。エルフィアにそんな権利があるのか?」


ぐぐ・・・。

俊介は濃いピンク色のアンニフィルドの瞳に吸い込まれそうな感じがした。


「地球では、他人の権利を侵す人物の身勝手を擁護することが、権利として正当とされるわけ?」


「だがな、アンニフィルド、『一人二人では犯罪者だが1万人を殺せば英雄になる』という恐ろしくも歴史を語る言葉がある。そうやって地球の文明が進んできたのも事実だ」

俊介は歴史のパラドックスをアンニフィルドに認識させようとした。


「もし、これからも適応されるなら救いがたいわね・・・」


ぷるるる・・・。

アンニフィルドは悲しそうに首を横に振った。


「だが、オレがそれを肯定的に思っているわけではないぞ」


「わかったわ。セレアムのことはとっても素晴らしいと思うけど、トアロは急ぎ過ぎてたかもね。大叔母さまの言うとおり、これからはもっとゆっくり構えた方がうまくいくと思うわ」

エルフィアは何百年でも待つと言っていた。


「エルフィアはどうするつもりだ?」

「ユティスの言ったとおりよ」


「そうか・・・。それで、きみも行くんだろ、エルフィアへ?」

「もちろんよ。SSだもの」


「どのくらい行っているのかい?」

俊介の声が心なしか沈んでいた。


「あなたがセレアムにいたくらいかな」

「それじゃ、その間、地球にはエルフィア人はだれもいなくなるんだ」


「ナナン。キャムリエルが留まるわ。大使館を空にするわけにはいかないでしょ?それにあなたの会社も・・・」


「石橋か。なるほどな・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


キャムリエルは石橋にさかんにアプローチしていた。


「あは。寂しがってくれてるわけ?」

「当然だろう」


「嬉しいわ。あなたがそう言ってくれて・・・」


すすす・・・。

アンニフィルドの右手が俊介の左手の上に重ねられていった。

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