368 黒磯
「サヴァ(ちわぁ)!アンニフィルドです。さてさて、わたしたちにいろいろと世話を焼いてくれる社長の真紀さんなんだけど、会社の重要顧客、日本シャデルの総支配人の黒磯さんがホの字なのよねぇ・・・。俊介は実の姉だから気になってしょうがないみたいだけど。ホントはビジネスにどう利用しようかって思ってるだけじゃないか、ってぇ・・・?ん、まぁ、当たらずとも遠からずかしら・・・。あは」
■黒磯■
「まぁ、お久しぶりね」
にこにこ・・・。
「おい、アンニフィルド!」
俊介は愛想よくギョームに微笑むアンニフィルドに思わず語気を強くした。
「で、どちらさまでしたっけぇ、ムッシゥ?」
にこにこ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドはギョームなど会ったこともないような顔をして微笑んだ。
にこ・・・。
「ええ?忘れちゃったのかい、ぼくを・・・?」
ギョ-ムは心外だとばかりに驚きの顔になった。
ぎょ!
「ウィ。でなければ一度もお会いしてないとか・・・?」
にこにこ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなぁ、覚えてないなんて酷いじゃないかい、マドモアゼル」
「あら、ごめんあそばせ。わたし、いい人しか覚えられないのよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だったら、なおさら・・・」
ずんずんずん・・・。
「おい、ギョーム。オレが彼女の代わりに覚えてやってるぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
そこに俊介がやってくると、アンニフィルドを背にギョームと対峙した。
きょとん?
「はて、どなたでしたかな、ムッシゥ?」
今度はギョームがとぼける番だった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「懲りてないな、この野郎・・・」
ぴくっ。
俊介の眉が動いた。
「エレ・マ・ファム(彼女はオレの女)だと言ったろう、覚えの悪い兄さんよぉ?」
仏語ではだれそれのファム(女)といったら妻という意味になる。彼女はオレのガールフレンド(恋人)という場合は、エレ・マ・プティ・タミ(彼女はオレの恋人)と言う。
俊介はアンニフィルドをファムと言ってプティ・タミとは言わなかった。
じぃ・・・。
俊介はギョームを鷹の様な目でじっと見据えた。
「・・・」
ばちっ。
ばちばちっ。
二人の間に見えない火花が散った。
(きゃ、オレの女ですってぇーーー!もう、俊介ったら、嬉しいわぁ!)
にっこ・・・。
ぴとぉ。
アンニフィルドが俊介にぴったりとくっ付いた。
「わぁ、なんてことするんだ、アンニフィルドぉ!」
ギョームが小さな悲鳴を上げた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふん。彼女がきみの会社の従業員ということなら知ってるよ」
ギョームは俊介の視線を受け止めると、一見平然として負け惜しみを言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「従業員ではないな。オレの女だと言ったんだ」
俊介は一歩も譲るつもりはなかった。
「なるほどぉ、家政婦として雇ったんだね?」
「アンニフィルドを家政婦だと、この野郎・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
(あは、嬉しいわぁ。俊介、どうやって切り替えしてくれるのかなぁ?)
アンニフィルドの言葉が俊介の頭の中で響いた。
(待ってろ、アンニフィルド・・・・)
「オレの女とはこういうことだ、間抜け野郎!」
ぎゅ。
俊介は左腕を伸ばしてアンニフィルドを素早く抱きしめると、ギョームに向かってあかんべーをした。
「べーーーっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
(ほら、アンニフィルド、きみもしろよ)
俊介がアンニフィルドをせっついた。
(リーエス)
「べーーーっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「くっ・・・」
かちん!
ぎゅぅ・・・。
ギョームは一瞬凍りついたようになった後、唇を噛むと、出し抜けにマイフォンを取り出した。
ささっ・・・。
ぴっ、ぴっ、ぴ・・・。
とぅるるるる・・・。
「ああ、ママン?ぼくちゃんだよぉ。日本にまで来て虐められるなんて聞いてないよぉ・・・!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「コマン、モン・シェリ(どうしたの、ぼくちゃん)?」
「アンニフィルドとシュンスケがあかんべーをしたんだぁ・・・」
「あら、それはご丁寧に。どんなご挨拶かしら?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だから、セレアムの俊介がぼくを馬鹿にしたんだよう!」
「しょうがないでしょ。あなた本当にお馬鹿なんだもの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あなたがビジネスのお勉強だと言うから日本に行かせたのに・・・。また、女の子のお尻を追っかけてるのね?お父さんと同じじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも、彼女は特別なんだよぉ、ママン!」
「しょうがないわねぇ、いくらするの、その特別なお人形?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「人形じゃないよぉ。女の子だってば!アンニフィルドだよ。エルフィア人の女の子!」
「アンニフィルドって、日本だけ特別販売の『エルフィアの3人の天使』ってお人形じゃないの?そこ秋葉原でしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違うったら。金座だよぉ。金座!」
「違ったのね。秋葉原かと思っちゃったわ・・・」
「うちの日本シャデルだよ。彼女とはママンもパリのシャデルのパーティー会場で会っただろ。プラチナブロンドのアンニフィルド!突然、日本からぱっと現れただろ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ああ・・・。そうだったわね。ムッシゥ・コクブンジの恋人の」
「だから、ぼくが彼女の恋人だってば!」
「彼女、そうは言ってなかったけどぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「これから、ぼくの彼女にするんだよぉ!」
「無理っぽくない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「エ・レ・テュヌ・ネルフィエーゼ(彼女、エルフィア人なんでしょ)?」
「ウィ(そうだよ)」
「他人の恋人にちょっかい出すなんて、超銀河法に抵触してるわよ、地球の法律はともかく」
--- ^_^ わっはっは! ---
「超銀河法って、なにを言ってるの、ママン?」
「モン・シェリ(ぼくちゃん)、あなた宇宙戦争を起こす気?」
「ママン!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「けっ、とんだマザコン野郎だぜ・・・」
俊介は毒づくと、マイフォンで母親と話すギョームを尻目に、アンニフィルの背中に手を回して、そこを離れようと考えていた。
「国分寺さん、それ以上は頼みますからお止めください」
それを見つけ、すぐに黒磯がすっ飛んできた。
「国分寺さん、ご容赦願いますよぉ・・・。グローバル本社の社長の息子さんになにかあったら、いくら国分寺さんとはいえ、わたしも庇いきれません・・・」
「プロジェクトがなくなると?」
「それもですが、とにかく、ギョームになにかあったら大変です」
つん。
そんな二人をギョームはマイフォンをしまいながら顎を上げて見つめていた。
「ギョームはわたしがなんとかしますから。さ、さぁ、せっかくの貸切パーティーなんです。いろいろ交流し合いましょう。そうでした、国分寺さん、パリから来たスタッフをご紹介しますよ。アンニフィルドさんもどうぞこちらへ」
そう言うと、黒磯は俊介の背中を軽く押して、フランス人スタッフのいるテーブルに案内した。
すすす・・・。
「ボン・ソワール」
「ボン・ソワール」
フランス人スタッフたちはシャンパングラスを片手にすぐに挨拶をしてきた。
「イレ・ペーデージェー(PDG:社長)、ムッシゥ・コクブンジ(社長の国分寺さんです)」
「アンシャンテ(よろしく)。ジュ・マペル・クロード(わたしはクロードだ)」
(蔵人さんか。さしずめ役人くずれってとこだな)
--- ^_^ わっはっは! ---
「エル・サ・プチタミ、アンニフィルド(こちらは彼のガールフレンドのアンニフィルドさんです)」
「アンシャンテ(ようこそ)」
「やぁ、アンニフィルド、やっぱり彼がきみのボーイフレンドだったんだな?」
主任デザイナーの男性のもう一人が言った。
「あは。わかって?」
にっこり。
アンニフィルドは嬉しそうに微笑んだ。
「そりゃもう、ばっちり。ステージ裏に隠れていっそ出てこないと思ったら、きみがメロメロになって現れるだもんな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「メロメロになったんじゃない。メロメロにしたんだ」
「俊介ったらぁ・・・。あは」
「まったくだ。きみは間違いなくジゴロだね」
ぱち。
彼は俊介にウィンクをした。
「おいおい、ギョームにゃ負けるよ。はは・・・」
俊介は今度はクリステアに言い寄ろうとしているギョームを笑いながら反論した。
「トワ・ケル・ベル・ファム(きみはなんて美しい女性なんだ)、クリステア・・・」
ギョームはクリステアに新しいシャンパン・グラスを渡そうとした。
「ジュ・ボワ(知ってるわ)。みんなそう言ってくるもの」
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアはシャンパン・グラスを受け取ると静かに答えた。
「アロール。トワ・コマン・ミニョン(とにかくだね。きみは、なんて可愛いんだ!)!」
じぃ・・・。
ギョームはクリステアを見つめた。
「ジュ・ボワ(知ってわ)。みんなそう言うもの」
--- ^_^ わっはっは! ---
じぃ・・・。
クリステアは緑がかったグレイの瞳でギョームを見つめ返した。
「サン・クァール(つれないなぁ)・・・。じゃあ・・・」
しばらくの静寂の後、ギョームが観念したように口を開いた。
「アレテ・ヴ・ムッシゥ(お止めになって)」
すかざず、クリステアが答えた。
「プルコワ・マ・シェール(どうしてさ)?」
「それを口にする女性が増える毎に効果が薄れていくわよ」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「サリュ、ムッシゥ・ボ(それじゃあ、男前さん)」
こと。
すたすた・・・。
そう言うと、クリステアはテーブルニシャンパングラスを置きそこを離れていった。
「アタン(待ってくれよ)、クリステア!」
ちら。
「ほれ、また効果が下がったわ。負の領域に入ったんじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアは一瞬ギョームを振り向くと真紀たちのテーブルに向かった。
ぱさっ。
ギョームは前髪を掻き揚げるとクリステアの後姿を目で追った。
「プルコワ(どうしてさぁ)・・・。ぼくはこんなにお金持ちでイケメンなのに・・・」
(あなたにはハートがないのよ、坊や。それに礼儀もね)
--- ^_^ わっはっは! ---
びくっ。
ギョームは頭に響いたクリステアの声にびっくりした。
(ぼくの頭の中にクリステアがいる・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
丸テーブルの一つでイゼベルと二宮がこの豪華なパーティーに目を見張っていた。
「イザベルちゃん、シャデルってすごいっすね。みんなフランス語でしゃべってるっすよ」
「だって、祐樹さん、あの方たちはフランス人ですよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うす。そうでした。しかしっすよぉ、このシャンパンも最高級のクリステアだって和人たちが言ってたっすけど・・・。おっとっと・・・」
ずずず、ずるずる・・・。
二宮は、こぼれそうなくらいグラスの縁まで注がれたロイ・ルデレールのクリステアを、蕎麦出汁のようにすすった。
「祐樹さん、お蕎麦じゃないんですけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うす。知ってるっすよ。シャンパンすよね?」
「・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あの、祐樹さん?」
「うす?」
「はぁ・・・。わかりましたから、その、ずずずってのはよした方が良くないですか?」
「これっすか?おっとっと・・・」
ずずず・・・。
「ん、もう・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴちゃ!
二宮はさらに舌を打った。
「美味い!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だから、音を出すのを止めてください!」
ついにイザベルが語気を強めた。
「ええ?自分、おならしてないっすよぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
まだ若いフランス人の女性ファッションコーディネーターが、ユティスと和人に微笑みながら近づいてきた。
「ジュ・マペル・ジャンヌ(わたしはジャンヌよ)」
「アンシャンテ(よろしく)」
ぎゅ・・・。
ちゅ。
ジャンヌはアンニフィルドとユティスと抱きしめ合い頬を寄せ合ってキッスをした。
「まぁ、エルフィア風のご挨拶ですわ。うふふ」
ユティスが嬉しそうに言った。
「これが?わたしはフランス風だと思ってたけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこ。
ジャンヌは面白そうに笑った。
「リーエス。親愛を込めてのご挨拶ですわ」
ユティスはジャンヌに頷いた。
「しかし、あなたち、本職のモデルも顔負けね・・・」
ジャンヌはユティスたちの美しさに驚嘆していた。
「そんなことはありませんわ。わたくしはごくごく平均的なんですよ」
にこ。
ユティスは控えめに微笑んだ。
「ま、とにかくびっくりしたの。パリに送られてきた写真とプロフィールで、あなたたちのことはだいたいはわかってたけど、実物がこんなにステキだなんて予想外もいいところよ。着付けのしがいがあったわぁ」
にこにこ・・・。
「まぁ、嬉しいですわ、ジャンヌさん。こちらは和人さんです」
「アンシャンテ(よろしく)」
ぺこり。
すぅ・・・。
ユティスに紹介されて和人はジャンヌに礼をし、右手を差し出した。
ぎゅ。
ちゅ。
ジャンヌは和人の握手を断ると、和人を軽く抱きしめ、頬を寄せて口元でキッスする音を出した。
「わは・・・」
かぁ・・・。
和人は思わず声を出した。
(エルフィア風もいいけど、フランス風もいいな・・・)
(和人さん、どちらとも同じですわ!)
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスがハイパーラインで和人に答えた。
「ユティス、ギョームは手が早いから気をつけてね」
ジャンヌは早速ユティスに忠告を与えた。
「ウィ、マドモアゼル(はい。お嬢さん)」
「ノン、ノン。ジュ・シュイ・マダム(いえ、わたしはマダムよ)」
「ブ・ザベ・マリエ(ご結婚されてるんですか)?」
「ウィ。モン・シェリィーーー(あなたぁーーー)!」
ぱっぱっ・・・。
ジャンヌが手を振るとフランス人男性スタッフの一人が大きく手を振り返した。
「イレ・モン・マリ、イヴ(夫のイブよ)」
「は、どうも・・・」
「で、あなたは彼女たちの付き人?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、そんなもんです。社員寮の管理人をしていますから」
「シュペール(偉いわねぇ)。大変でしょう?モデルは我儘なのが多いから」
「ウィ。若干、一人いますけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、和人さん、アンニフィルドに聞こえちゃいますよ」
「オレは名前まで言ってないからね。ユティス、きみが言ったんだよ」
「酷いですわ、和人さんたら・・・」
にこにこ。
幸い、アンニフィルドにはそれは聞こえなかった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ヴ・ゼット・ドロール(あなたたち、面白いわね)」
にこ。
ジャンヌは感心したように和人に微笑んだ。
「エ・・・。キ・エ・タ・プティ・タミ(で、だれが恋人)?セット・マドモアゼル?ウ・レゴイスト(このお嬢さん、それとも、我儘さん)?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「マ・プチ・タミ(恋人ですか)・・・?」
和人はいきなり図星を射抜かれ動揺した。
「ウィ。一つ屋根の下、朝昼晩を共にする女性のことよ」
ちら・・・。
ジャンヌはユティスと美しいSSたち目をやった。
「会社の寮だから、一緒に住んでるといえば一緒だけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「オララ(あらあら)・・・。ジャポンも予想以上に進んでるのねぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「進んでるかどうかは・・・」
「まさか3人全部じゃないわよねぇ・・・?」
「ウィ(はい)?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「和人さんと一緒に住んでいるのは3人とも一緒ですわ。でも、恋人は・・・」
ぽぉ・・・。
ジャンヌの前でユティスが頬を染めた。
「ふぅーーーん。こちらさんだけね。頑張んなさい、あなた。最高のお嬢さんだわ」
ぱち。
ジャンヌはそう言うとユティスにウィンクした。
パーティーも1時間を過ぎて、シャデル日本の総支配人の黒磯にもようやく少し余裕が出てきた。
「あのぉ、国分寺さん・・・」
黒磯は真紀のそばにやってきた。
「どうも、黒磯さん、今日はとってもステキなショーとディナーをわたくしどもに・・・」
真紀はかしこまって言った。
「いやぁ、そんな風に言わないでください、国分寺さん。助けていただいたのはこっちですから。3D測定のモデルも調達できたし、システムもこれで滞りなく進めることができます。本当に感謝していますよ」
ちらり・・・。
黒磯はエルフィア娘たちを目を細くして見やった。
「それは、当然のことをしたまでです。ほほほ・・・」
真紀は黒磯に微笑んだ。
「あの、それで・・・」
黒磯の表情はレストランのほの暗いライトで真紀にもよくわからなかったが、黒磯の次の言葉がどう出てくるかは大体予想できていた。
「これで、わたくしどももフェーズ2へスムーズに展開できますわ」
にこ。
真紀は黒磯に微笑んだ。
「フェーズ2ですね・・・?」
かぁ・・・。
黒磯は歳に似合わず顔を赤らめた。
「はい。フェーズ2です」
にこ。
「あのぉ・・・、それは二人のですか?」
「はい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
黒磯には、若干20歳台で株式会社セレアムの女社長、パーティー・ドレスに身を包んだ、エルフィア娘たちにも負けない美しさの国分寺真紀が、それこそ女神のように映っていた。
「姉貴、黒磯さんとよろしくやってたみたいだな?」
俊介は姉に近づきざま耳元で囁いた。
「バカ言わないでよ。営業よ。営業」
「ほう。黒磯さんの売り込みかぁ。こりゃ、断れそうにないなぁ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ど、どう、解釈したらそうなるのよぉ、バカ・・・」
すぐに真紀は俊介に小声で反論した。
「オレの目に狂いはないぜ。姉貴を幸せにできるのは黒磯さんだけだ」
すっ。
そう言うと俊介は黒磯に近づいていった。
「こら、待ちなさい、俊介」
真紀は苦虫を潰したように顔をしかめて俊介の背中を見つめた。
すっす・・・。
とん。
「黒磯さん、今日はありがとうございました」
ぱち。
俊介はカウンターテーブルにいた黒磯に近づくと、片肘をテーブルに置きウィンクをした。
「ああ、国分寺さん、こっちこそ感謝しています」
黒磯は満面笑顔で俊介を迎えた。
「どうでした、姉は?」
俊介は黒磯の最大関心事に触れた。
「あ、それは、大いに感謝いただきまして・・・」
「社長としてではなくて、姉個人、女としてです」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ、わたしは嫌われてるんでしょうか・・・?」
すとん。
黒磯はにわかに肩を落とした。
「どうしたんですか?」
俊介はそんな落ち込んだ黒磯の表情が気になった。
「なんとかできなんでしょうか?とにかく、ものすごくガードが固いんです」
黒磯は思い切って俊介に打ち明けた。
「キュービック・ジルコニア(ダイヤと同じ金剛光沢をする人工宝石)やタングステンガーバイド(超硬合金)より?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ。少なくとも大理石ぐらいには・・・」
「それなら、ノミで削ることはできますな」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「酸で溶かすこともね。黒磯酸で、じゅっと・・・」
「酸で、じゅっ、とですか・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
そして、俊介は昔話を話始めた。
「手っ取り早く、金槌で粉々に打ち砕くことも可能ですな」
「国分寺さん、壊したらダメじゃないですか」
--- ^_^ わっはっは! ---
セレアムの社員たち約20名は用意された3つの丸テーブルに分かれ、それぞれ歓談していた。
「しかし、こんな体験なんて一生の内、何度もあるもんじゃないわよねぇ」
茂木が岡本に言った。
「そうね。シャデルの仕事を取ったのだって奇跡的だったけど、エルフィアの女の子3人がいなかったら、今頃こんなところにいれなかったでしょうね」
岡本は幸せそうに頷いた。
「それでさぁ、俊介ののヤツ、黒磯さんとなにやらひそひそ話ししているようだけど、例の真紀のとこじゃない?」
「あなたもそう思う?実は、わたしもそうだと睨んでいたんだ・・・」
ちらちら・・・。
茂木と岡本はカウンターテーブルについて背中を見せている黒磯と俊介を見た。
「そんなんだよねぇ。とんとん拍子にシャデルの商談が進んでいくのはいいんだけどさぁ・・・、なんか真紀の立場になって考えると、素直に喜べないのよねぇ」
岡本は今度は真紀を見やった。
「俊介のヤツ、最大限に真紀を商売に利用してるんだから・・・」
茂木も真紀を見つめて言った。
「
俊介は頃合を計って黒磯の耳に囁いた。
「黒磯さんには話してなかったでしょうかねぇ?」
「なにをでしょうか?」
「実は、姉には数年前まで恋人がいたんです。わたしと同じくT大のアメフト部出身で、社会人リーグで同じチームにいました」
「え・・・?いたということは・・・?」
黒磯は俊介が過去形で言ったことを聞き逃さなかった。
「お察しの通りです。わたしにも責任があるんですが・・・、最後のゲームでわたしの投げたロングパスをエンドゾーンでキャッチしたまではよかったんです」
「最後のゲームですか?」
黒磯は俊介の最後のゲームというのに引っかかった。
「はい。キャッチ後、エンドゾーンで倒れた後、敵のセイフティ2人が彼の頭部に強烈なタックルをかまして彼の上にそのまま重なるように倒れたんです・・・」
「なんと・・・」
黒磯はアメフトを大して知らなかったが、その強烈なタックルが織り成す最も勇敢でスリリングな、そして、一方危険なスポーツであることも知っていた。
「ばぎっ、と強烈な音と共に倒れた彼のヘルメットは割れていて、すぐに救急病院に運ばれたんですが、既に彼の意識はなく虫の息でした。緊急手術のかいもなく、彼はその日に息を引き取ったんです」
ごく。
俊介がそっと囁くと黒磯は思わず唾を飲み込んだ。
「その彼が、国分寺さんの・・・」
「ええ、姉の恋人だったんです。その時、姉はチアリーダーで彼のすぐ近くで応援していました。彼のヘルメットが整備不良だったが一番の原因ですが、オレのロングパスがもっと取りやすいところにいっていたなら・・・」
「それは違います・・・。う・・・」
黒磯はその凄惨な情景を思い浮かべて息が苦しくなった。
「大丈夫ですか?」
「ええ・・・。で、国分寺さんは、まだ、その彼を・・・?」
「恐らく。本人は決して認めませんが、それ以外に理由はありません。わたしの知る限り、姉に特定の男がいる様子はありませんから」
「・・・」
黒磯は真紀の過去を知って思わず黙りこくった。
「黒磯さん、そういう訳だから、姉があなたを嫌っているのではないと思います。あの通り一応社長ですし、おまけにエルフィアだのセレアムだの異星人のお守りで、気が張り詰め通しなんです。安らぐ暇がないんです」
「・・・」
黒磯はテーブルに目を落としたまま俊介に囁いた。
「時間がかかりますね・・・?」
「そういうことです。もし、姉がそれをあなたに話すようになったら、勝利は目の前にあるようなもんです」
「しかし、今は・・・」
黒磯は最後まで言わなかった。
「それに、わたしがあまり出しゃばると黒磯さんにいいことになりませんから。申し訳ないですが、ここから先は、黒磯さん、あなたが自力で突破してもらうしかありません」
そう言った俊介は黒磯にはそれができると踏んでいた。
「わかりました・・・」
「それに・・・」
俊介はなにか言いたそうにして途中で止めた。
「それに?」
「姉を誘うなら、とにかく、わたしを介さないことです」
俊介はきっぱりと言った。
「ビジネスとシャンパンバー仲間ということ以外の関係は、われわれにはないと?」
黒磯は俊介の言葉を確かめずにはいられなかった。
「その通り。わたしが姉のことで個人的に黒磯さんを直接応援できるのは今日までです」
「・・・」
黒磯は沈黙して俊介の言葉を頭と心で反芻した。
「ご検討をお祈りします・・・」
ややあって、俊介は口を開いた。
こっくり。
「わかりました」
そう言うと、黒磯は笑顔に戻ってセレアムの一般社員たちの集まるテーブルに向かった。
つかつか・・・。
「なにを話していたのよ、俊介?」
黒磯が去った後、カウンターテーブルに真紀が寄ってきた。
「姉貴に言い寄るのにオレを使うなってね」
「え?」
どきっ・・・。
あまりに俊介が真紀の関心事を直撃したので、真紀は動揺を隠せなかった。
「ど、どういうことよ?」
「だからさ、姉貴を落とすつもりなら、自力でしてくれってな」
俊介はこともなげに言った。
「あなた、なにを言ってるのよ。わたし、黒磯さんを、そんな・・・」
「それとも、オレに二人の仲を仲介させたいのか?」
「じ、冗談じゃないわ」
ちら。
真紀は社員たちの接待に徹して会話に加わっている黒磯を見やると俊介にさらに顔を寄せた。
「余計なことしゃべったんじゃないでしょうね?」
「なにをだ?姉貴は、まだ、黒磯さんを恋人にするつもりはないんだろう?」
「まだ、ってどういうことぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「今後はわからんぜ。オレは知らんがな」
「なにを言ったの、黒磯さんに?」
「だから言ったじゃないか。姉貴を落とすなら、オレを使うなって言い渡したってな」
「・・・」
じぃ・・・。
俊介は双子の姉を静かに見つめた。
「どうしても黒磯さんをわたしに押し付けたい気ね・・・?」
真紀はゆっくりと俊介に囁いた。
「とんでもない。押し付けるだなんて。黒磯さんはナイズガイだぞ。たぶん、オレよりな、アンニフィルドは認めんだろうが。わは」
にっ。
「まぁ、しょってる・・・」。
--- ^_^ わっはっは! ---
「いいか、姉貴。確かに、オレは黒磯さんは姉貴にフィットする一番の男だと思ってるぜ。だがな、そうするのは黒磯さんの意思だし、男としての甲斐性だ。姉貴にも意思ってものがあるしな」
「意思じゃくてハートよ」
「そっかぁ?あんまり固いんで石かと思ってたぜ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それにオレが口出しや口添えするつもりは金輪際ない」
「本当かしら・・・」
こつこつ・・・。
真紀はカウンターテーブルを人差し指で叩いた。
「それがテストだって言いたいわけ?」
「黒磯さんのテストか?それとも、姉貴のテストか?」
「冗談じゃないわ。なんで、わたしが黒磯さんに・・・」
真紀はそう言うと、社員たちと楽しそうに歓談している黒磯の後姿を、それとはなしに見つめた。
「よし。恋のファースト・ステップ、無意識にその人を目で追う、と・・・」
「え?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんでもない」




