360 割出
「アンニフィルドです。二宮ったら、ついにイザベルの返事をもらったようね。でも、それは言葉じゃないの。人間、目と口はウソを言うけど、無意識の仕草はウソを言わないものよ。ってことだけど、エルフィアでは本格的に転送システムのエンジニア特定やあの不思議な5重層の建造物などの割出が進められてるの。早く、安心したいものよねぇ・・・」
■割出■
すくーーー。
その間も、二宮は構えたままイザベルが消えた方向をじっと見つめて、一言発せず瞬きもせず、黙ったまま微動だにしていなかった。
「・・・」
さて、はたしてイザベルは仲良くアンニフィルと一緒に足利道場と合同の宴会に戻ってきた。
「おい、ちゃんと戻ってきたぞ・・・」
「おす。喜連川さん、どうするんでしょうねぇ・・・?」
「わからん、女心は・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
一同が一斉にイザベルを見つめ、イザベルはそさくさと自分の位置に戻った。
「・・・」
二宮の表情は別に硬くもなく、無の気持ちでイザベル一点を静かに見つめていた。
ぽん。
アンニフィルドがイザベルの肩に右手を当てた。
「アンニフィルドさん・・・」
「遠慮することないわ」
にこ。
アンニフィルドはイザベルに微笑んだ。
「二宮さん、もう一度言ってください・・・」
「・・・」
イザベルは先ほどの宣言の取り直しを要求した。
「・・・」
ややあって、おもむろに二宮は口を開いた。
「オレの嫁になってくださいっす!」
今度は剛速球で蛇足はなかった。
「・・・」
「ごめんなさい。今はお受けできません・・・」
「・・・」
「・・・」
がらがら・・・。
がっしゃーーーんっ!
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたし入社したばっかりで家庭に入るのは嫌です・・・。お仕事もしたいし、カラテも続けたいし、デートだってちゃんとしたいです。まだまだ、やりたいことがいっぱいあるんです。だから・・・、だから・・・」
「・・・」
「だから、3年はください。ときめきの時間をください。恋人期間もないなんてつまんないです・・・」
「・・・」
すすす・・・。
そう言うとイザベルは二宮に遠慮がちに身を寄せた。
ぎゅ・・・。
ふぉさっ。
二宮がゆっくりとイザベルを抱きしめると、イザベルはその胸に顔を埋めてすすり泣いた。
ぐす・・。
「ううう・・・」
「・・・」
ぱちぱちぱち・・・。
疎らで静かな拍手が起こった。
ぱちぱちぱち・・・。
それはやがて大きな拍手となっていった。
「いいぞぉ!」
「二宮ぁ!」
「こら、止めろ!」
びしっ!
それを囃し立てようとした道場生を師範が厳しく戒めた。
エルフィアでは超銀河間転送システムのメンテナンス・エンジニアの総チェックが続けられていた。
「リーエス。ルーレン、ちょっと、これを。これを見てください」
ネスミルはジニエドとランベル・ベニオスの超銀河間転送システムのメンテナンス・エンジニア退役年を指摘した。
「退役したのは196年前か・・・」
「ジニエドの退役は98年前です」
エルフィア人の寿命は1000年を超えるが、100年はそう短い期間ではなかった。
「ふむ。時間がかなり空いているな。やはり同一人物ではないのか・・・?」
「リーエス。もちろん調査しなくてはなりませんが、登録データどおり別人物でしょう」
「なるほど・・・。ぬか喜びか・・・」
ルーレンは腕を組んだ。
「それに、ランベル・ベニオスの専門は転送システムのメンテナンスとなっていますが、彼はシステムの改良時には現場スタッフとして設計チームに加わっています」
ネスミルはさらに付け加えた。
「それに、重要なのはここです」
ネスミルの指した情報は、ランベル・ベニオスがエストロ5級母船にその技術を流用する際のサブチーフであったことを示していた。
「なに?エストロ5級母船の超銀河間転送システムへの展開に関わっていただと?」
ルーレンは登録データがランベル・ベニオスがジニエドと違う人物と示していたが、どういうわけが引っかかるものがあった。
「それに、彼は委員会専用の転送システム以外にも、エストロ5級母船にも関係していますね。メンテナンスエンジニアでありながら、最後にはエストロ5級母船という最新鋭宇宙機の中核システムの設計に係わることになったのです」
「極めて優秀だということだな?」
「リーエス。メンテナンスエンジニアは本当にオペレーションレベルでシステムを知り尽くしています。設計者なら気づかないことも経験で知っています。それだけに、エストロ5級母船への技術流用の際、チームメンバーに選ばれたのでしょう。それには幸運も左右しているのかもしれませんが・・・」
「幸運・・・?」
ルーレンはネスミルに鸚鵡返しにきいた。
「リーエス。委員会に知人がいたようです」
「コネか?」
「リーエス。ランベル・ベニオスの父親は、どうやら委員会の理事をしてたようなのです」
「なに・・・?」
ネスミルとルーレンは互いに見合った。
「どうしました、ルーレン?」
「トルフォの叔父のジニエドと同じだ・・・」
「どういうことです?」
「ちょっと待ってくれ・・・」
ルーレンはしばらく考えていた。
「・・・」
そして数秒の沈黙の後、ルーレンはネスミルを見つめて言った。
「ランベニオなる人物の音声データ、エルドはまだ入手してないのだろうか?」
「ナナン。確認していません」
「わかった。それもエルドに依頼してみたいところだな・・・」
「リーエス」
一方で、超銀河間転送システムのメンテナンス・エンジニアのリーダークラスたちには、文明促進推進支援委員会に招集されていた。
「ほかでもない。予備調査で地球に派遣中の超A級エージェント・ユティスの拉致に関わる情報によると、近々予定されているエルフィア一時帰還について、極めて悪意のある計画が進められているとのことだ。超銀河間転送システムは、宇宙母船を含めて全機、安全確保のための基本制御アルゴリズムの見直しをすることになった」
転送システムの最高責任者のディカールが一同を見渡した。
「リーエス」
「ついては、委員会のすべての転送システムは早急に執り行うので、各自チーム編成を依頼したい」
「リーエス」
「それと、現在派遣中のエストロ5級母船が全船対象となるが、作業のためきみたちエンジニアを送る転送を作動させるとなると、もしもの場合に、こちらの打つ手が限られてくる」
「リーエス」
「エンジニアの派遣は面倒でもエストロ4級宇宙母船で現地に出向いて欲しい」
「リーエス」
「対象となるエストロ5級母船は、現在200機を越す。かなりの数になるが、きみたちの働きに全エージェントとSSの安全が掛かっている。よろしくお願いする。エルド、なにかありますか?」
「いや、けっこう。ディカールの話のとおりだ。アルゴリズの見直しに3日掛かる予定で、全機チェックに取り掛かれるのはその後となる。大変な役目だが、十分に注意して事故なく遂行して欲しい」
「リーエス」
「では、解散する」
「リーエス」
ディカールの言葉で説明は終わり、そして、エンジニアノリーダーたちは持ち場に戻っていった。
「それで、ランベル・ベニオス自身は委員会の理事をしなかったのか?」
「そのようですね。かれには幾人か年上の兄がいるようですから」
「委員会の参事以上にもなれたのに、ただのメンテエンジニアとは変わった男だな・・・」
「リーエス。趣味はハイパーリアル萌え系シミュレーションゲームのようです」
「萌え系・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。3D実物大の擬似精神体の超可愛い女の子を口説く過程を楽しむというスーパーリアルなゲームです」
「よく知ってるじゃないか?」
「わたしもお世話になりました」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なるほど、面白そうだな・・・?」
「リーエス。擬似精神体には触れないのが難ですが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「で、はまったわけか・・・?」
「リーエス。そりゃぁ、もう!」
「一度、わたしもやってみたいものだ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ん、ん!」
「幾度か銀河チャンピオンになったこともあるようですね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「今はエルフィアにいないのか?」
「ナナン。いませんね。何度か星々を渡り歩いてるようですが、最終居住地は50年前にトレアル・マヌスというカテゴリー3の世界、というところまで追えます。そこに住み続けているのかどうか、現在は不明ですね」
ネスミルは映し出された情報を、システムの読み上げる声に合わせて、チーフのルーレンと一つ一つ確認していった。
「現在地が不明か・・・。なるほど。ネスミル、この人物を詳しく調べられんか?」
「リーエス。もちろんです」
「転送システムは細かな改良を加え続けられているが、中核テクノロジーはそうそう変わるべきものではない。たとえ、現役は200年前だとしても、今でも十分通用するかもしれん。もし、ランベル・ベニオスが係われる可能性があるなら、調査をして欲しい」
「リーエス。至急詳細を報告します」
「リーエス。よろしく頼む」
ネスミルは頷いた。
「それから、同じく両方のシステムに通じた人物がいないか徹底的に調べてくれ。結果はもれなくエルドにも」
「リーエス。そう多くはありませんが、今でも数十名は上がっています」
超銀河間転送システムのメンテナンス・エンジニアたちの説明を終えて、エルドは自分の執務室でネスミルの報告を受けた。
(ジニエドは本当にジニエドその人物なのか・・・?)
そして、ますます確信を強めた。
「メローズ、きみはどう思うかね?」
「同一人物と思われる違う名前の3人ですね?」
「リーエス。転送システムのメンテナンスに関わった時期は微妙にずれている」
その時、タリアの精神体がエルドの前に現れた。
ぽわん・・・。
「エルド、タリアです」
「リーエス。どうしたんだい、今回は随分と早いじゃないか?」
「ふふふ。徹底的なヒントとなる情報を掴みました」
「徹底的なヒント?」
エルドは思わずタリアに聞き返した。
「今、どこにいるんだい?」
「トルフォがチャーターしたプライベート宇宙機の中です」
「なんだってぇ・・・。きみはいつの間に・・・?」
エルドは感心したようにタリアの精神体を見つめた。
「実は宇宙機のクルーとして潜入したのは数日前ですが・・・」
「おいおい、そんな危険な・・・」
「任務ですから」
「だが、タリア、こんなことをしていたら、それこそ感づかれるんじゃないのかね?」
エルドはタリアの身を案じた。
「ナナン。ここの超時空バリアは船内の各部屋ごとに張ってあります。プライベート・ラインの量子カオス暗号文を読み取ることはできません」
「それならいいが、きみがトルフォの喉下にいただなんて・・・」
「それで、本題です。音声サンプルを再生します」
にやり。
タリアは小さな笑みを見せるとトルフォの会話を再生した。
「ランベニオ、トルフォからです」
それは、超時空通信を伝えるシステムがランベニオに告げる音声から始まった。
一方、別のチームがフェリシアス経由のキャムリエルがもたらした円錐に円盤を5重に組み合わせたような巨大建造物の検索・照合を続けていた。
「この5重の総の建築物がなにかわかったぁ?」
それを指揮していたのは女性リーダーのリューカだった。
「リーエス。びっくりしますよ、リューカ」
その男性は検索結果を空中の立体スクリーンに表示させた。
ほわぁーーーん。
それは5重の搭と構造が良く似てはいるが、規模がまるで違う巨大なハイテク文明の産物だった。
「ヤナンなによ、これ・・・?」
ぽかぁーーーん。
リューカはそれを見入ったまま、しばらくあんぐりと口を開けていた。
「ある世界の首都に聳える政府の中央庁舎です」
「カテゴリー3文明ね・・・?」
「リーエス。カテゴリー2のテクノロジーではこのような形状でデッキ部を重力に逆らって維持するのは容易ではありません」
「5層のデッキ部はそのままじゃないわよね?」
リューカはそれが重力を打ち消すような働きを起こすジェネレーターを備えているように思えた。
「知ってるわ、これと同じもの・・・」
リューカはそれを思い出そうとして頭を振った。
「リーエス。リューカのお察しのとおりです。デッキ部分にはある種の重力軽減装置かなにかあると思われますが、これはどこの世界の産物だと思いますか?」
ヤナンの質問にリューカは記憶を辿った。
「ダメ。思い出せそうで・・・、思い出せないわ・・・」
リューカは首を横に振った。
「いいでしょう。お教えいたします・・・」
ヤナンはゆっくりと言った。
「支援世界登録番号、第1254678809876002113、ケームという世界です。そこの首都、グルデオン・デュル・ケームにある建物です」
「ケーム・・・?リーエス・・・。確かにそうだわ。でもどうして・・・?」
通常文明が進むと日常の生活に必要なものやサービスは自動で提供されることになる。つまり、無償提供してもなんら差し支えがなくなるのだ。
しかし、惑星によっては、政治経済の既得権者たちがこの経済システムを放棄せず逆に階級制度の強化をするところもある。ケームはそういう世界の一つだった。
「ここはエルフィアの支援の下、カテゴリー2を脱したばかりですが、残念ながら、エルフィアのその後の文明支援には90年以上も前から消極的な態度を取り続けています」
ヤナンは残念そうにリューカを見つめた。
「なぜ、カテゴリー3と委員会は認めたんでしょう?それって、とっても不思議なんだけど?」
リューカは理解できないという風に顎に手をやった。
「確かに恒星間移動は実現しています。しかし、貨幣経済に基づく階級制度を克服できないんですよ。エージェントたちは既得権者たちの意見に左右されるようになり、エルドは委員会にかけて支援中断とスタッフ引き上げを指示したんです。今では、エストロ5級母船が待機観察をしているに過ぎません」
「周囲への軍事的な脅威はないのね?」
「リーエス。幸いなことに、他の世界の相手を威嚇してまで経済拡張をしようとは思っていないようです。カテゴリー3とはいえ彼らの銀河内のごく一部にしか到達できていませんし、今のところ、彼らは異星間活動のルールを守っています。したがって、委員会は時空封鎖までは考えていません」
ヤナンは表示された資料の要約をざっとした。
「手を広げ過ぎると酷い目に合うとわかっているのです」
「それでね・・・。観察レベルに引き下げになっているのは・・・」
「リーエス」
「エージェント以外の全員も引き上げたの?」
リューカは念を押した。
「リーエス。無理強いはお互いにマイナスにしかなりません」
「別に侵略は考えてない。けれど、自分たちの経済制度には手を出すなね・・・」
「リーエス。いわば鎖国状態に戻りつつあると言えるでしょう」
「精神的な停滞をもたらしかねない極めて危険なサインだと思うけど・・・」
「リーエス。リューカの意見は的を得ています。もし、軍事的な解決方法にケームが傾けば、いずれ、時空封鎖対象にリストアップされる可能性はゼロではないでしょう」
ヤナンはやれることはないという風に両手を広げた。
「ケームの宇宙座標はわかっているわよね?」
「リーエス。もちろんです」
「これが本当なら、ランベニオの位置を特定できることになるわ」
「そういうことですね」
二人は頷きあった。
「期待以上の成果だよ、タリア。アルダリーム(ありがとう)」
それを聞き終わったエルドはタリアに礼を言った。
「パジューレ。それを証拠として使用できますか?」
「リーエス。合成音声ではないという保証が取れれば十分に通用する」
「それに重要なのはその会話内容です」
タリアが指摘した。
「うむ。トルフォとジニエドが一連の事件との係わり合いを持っていることは明白になったな」
「リーエス」
タリアは大きく頷いた。
「ランベニオの居住地を割り出した後、ケームと連携して彼らの逮捕状を取ることはできますか?」
「きみがするつもりか?」
エルドは驚いてタリアを制止しようとした。
「ナナン。今のわたしはSSではありませんから。フェリシアスたち超A級SSに任せます。一応、それ相応のことはするでしょう」
「リーエス。万が一の時にはエストロ5級母船に救難信号をキャッチできるよう、SS用の超時空ビーコンを切るんじゃないよ」
エルドはタリアが極めて危険な領域に足を踏み込んでいるのを心配した。
「リーエス。アルダリーム(ありがとう)、エルド」
「パジューレ(かまわんよ)。くれぐれも気をつけてくれたまえ」
「リーエス」
しゅん・・・。
そしてタリアの精神体は消えていった。
地球上空のエストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラに待機している超A級SS・フェリシアスはエルドの連絡を受けて、ランベニオの本人特定と惑星ケームの確認を始めていた。
「キャムリエル、よくやった。きみの推測から事態が大きく進展した」
「そうですか。それは良かった」
にこにこ。
キャムリエルは嬉しそうに頷いた。
「それでだが、今度はブレストにケームの中央庁舎をぶつけてみたい。最終確認だ。きみが直接彼の反応を確認してきたまえ」
「ブレストに?」
現在、ブレストはエルフィア星籍を捨て、地球人として合衆国の国籍を持っていた。
「じゃあ、合衆国に行く準備をしなきゃ・・・」
地球は200余りの独立地域に細分されていて、それぞれと交渉しなければ地上に降り立つこともままならない。ユティスやアンニフィルドとクリステアは合衆国籍を与えられており、問題はなかったが、キャムリエルが行くとなると違法入国者になりかねない。
「待つんだ。早まるな。それをした瞬間、われわれがランベニオをも特定したことを彼に知らせることになる」
フェリシアスはまた別のリスクを指摘した。
「エルドたちが証拠を固めランベニオの素性を特定しその周囲を押さえるまで、ブレストには近づかないように。その指示は追って出そう。それまでは、エルフィア大使館でアンニフィルドたちとエルフィア帰還の準備をして欲しい」
「リーエス。やったぁ!可憐に合えるぞぉ!」
それを聞くとキャムリエルが飛び上がって喜んだ。
「有頂天になってどうしたんだ?」
「いや、こっちのことですよ、フェリシアス・・・。わは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
フェリスアスは直ぐに視線を空中立体スクリーンに移した。
ぽわぁーーー。
「あ、まただ・・・」
真紀が空中に現れ始めた黄色身がかった白い光に人影を捉えた。
しゅん。
「戻りましたよ、可憐。今度はちゃんとフェリシアスの許可、じゃなくて指示なんだ。地上勤務に戻れってね」
にこにこ。
そう言うとキャムリエルは石橋の方に近づいていった。
「本当なんですか?」
石橋は疑い深げにキャムリエルを見つめた。
「まだ終わってないよね?間に合ってよかったぁ・・・」
「でも、そろそろお開きよ、キャムリエル」
くいっ。
クリステアが道場生たちが一斉に後片付けを始めているのを目で指した。
「そんなぁ・・・。これからって時に・・・」
キャムリエルは周囲を確認した。
「さぁ、そこをどいて。どいて」
さっさっ・・・。
岡本たちも紙の皿やカップを集めてビニールパケットに積み込んでいた。
「お手伝いをされに戻られたんですね?うふ」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこにこ・・・。
ユティスはそんなキャムリエルに微笑んだ。
「ナ・・・ナン・・・、じゃない・・・」
ちら。
「そういうことでしたら、はい、これ」
ぽん。
石橋がキャムリエルにビールの空き缶を集めた収集袋を渡した。
「シートの上とか周りのも全部拾ってくださいね」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ああ・・・。そうだね・・・。あはは・・・」
キャムリエルは元気なく笑った。
「残ってるのは飲んでもいいわよ、キャムリエル」
ぱちっ。
アンニフィルドがキャムリエルにウィンクをした。
「残り物をですか・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違うわよ。そっち、そっち」
まだ開けてないビール缶をクリステアが指した。
「だれも口を付けてないわよ。そっちの1缶を除いて」
「じゃ、お言葉に甘えて・・・」
ぷしゅっ。
ごくごく・・・。
ぷはぁ・・・。
「俊介の言ったとおりだね。ビールは宇宙一苦いや。けど美味しい・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おお、キャムリエル、石橋の缶に間接キッスかぁ?」
「ナナン。どれどれ?どれが可憐の缶なの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ほれ、それじゃないか?」
俊介が石橋の目の前の一缶を顎で指し示した。
「え、ホント?じゃ、ぼくがいただこうっとぉ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
ささっ。
ごっくん、ごっくん・・・。
言うが早いわ、あっという間にキャムリエルはそれ取り上げ飲み干した。
ぷはぁ・・・。
ぺろ。
そして、缶の飲み口を回りの人間にはわからないように、ほんの少し唇で舐め取った。
「間接キッスだね、可憐?!」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこにこ・・・。
キャムリエルはご機嫌な顔で石橋に笑いかけた。
(あはは。それ見たことか。トレムディンのやつ。ぼくの勝ちだね)
「いいえ、それ違いますけどぉ・・・」
石橋はキャムリエルに向き直ると静かに答えた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ?」
「あ、あんた、オレの飲みかけ飲んじまったなぁ・・・」
茶帯のサラリーマン道場生の一人が変な顔をしてキャムリエルを見た。
「ええ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレは病気なんか持ってないから安心しろよな」
「リーエス・・・?」
「おう、悪い、キャムリエル、間違いだったようだな。わははは!」
俊介はこともなげに言った。
(中年男の缶を舐めちゃったぁ・・・?)
「・・・」
おぇーーー。
げろげろげろぉ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ドクター・エスチェル、それでDNA鑑定は?」
フェリシアスは思わしくないのか表情を変えないエスチェルに声を掛けた。
「ダメ・・・。サンプルが見あたらないの・・・」
DNA情報の登録は義務ではなかった。
「そんなばかな・・・」
しかし、大怪我で身体の一部を失った時、身体細胞再生用のDNA情報を登録することはエルフィア人なら進んで申請しているのが常だった。
「両方ともよ・・・」
「信じられん。ジニエドもランベル・ベニオスも登録がないと言うのか?」
フェリシアスの眼光が鋭くなった。
「リーエス。その両者ともなしね・・・」
それは奇妙なことだった。
「ここ200年内に委員会に所属した人のDNA情報未登録者リストとそのパーセンテージを出して」
「リーエス、ドクター・エスチェル」
ぴぴぴ・・・。
エスチェルが依頼した結果はすぐに出た。
「因みに未登録者は0.3%いるけど・・・」
「10万分の1以下だな・・・。偶然ということもありうるが、二人ともというのはいかにも確率が低すぎる・・・」
「リーエス。怪しい二人の一致が偶然とは思えないわ」
「問題は、この二人が同じ時期に在籍していないということだ。登録時に意図的に・・・」
「システムは誤魔化せないわよ・・・。ランベル・ベニオス退役時とジニエドの就役時の時間差は?」
エスチェルがシステムに指示を入れた。
ぴぴ・・・。
「ランベル・ベニオスが300年の就役を終え196年前に退役後、3年を経てジニエドが転送システム担当部門に就役しています。そしてその退役は96年前、つまりジニエドの就役期間は実質97年間です」
「3年の空白を得てるけど、二人はダブって就役していないということね?」
「リーエス・ドクター・エスチェル」
「ふふ・・・。やっぱり、そうなんだ・・・」
システムの回答にエスチェルは満足そうに笑った。
「ドクター、わたしにもわかってきたぞ。あの二人は同時にいなかったからこそ、同一人物なんだ。そうじゃないのかね?」
フェリシアスはエスチェルの反応を待った。
「リーエス、そうよ。3年の空白中に名前を変えて再び超銀河間転送システムのエンジニアとして就役した」
「なんのためにそうする必要があったかだな・・・」
「リーエス。理由もそうだけど、システムをどうやって欺いたかも謎ね」
「まぁ、専門エンジニアには不可能ではあるまい。その腕と知識と自信がついたから、名前を変えて、なにかのために再度復活したんだ。しかも、2度目の就役は100年もない」
「リーエス。そこも不思議ね・・・。わざわざ、エストロ5級母船の担当に選ばれているのによ・・・。とにかく、エルドに報告よ」
エスチェルは一旦そこで考えるのを中断し、エルドへの報告を優先することを提案した。




