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359 夜桜

「アンニフィルドですわ。今日もみなさま、よろしくお願い申し上げます。おほほ。ってな柄でもないわよねぇ。お花見会も夜に入り、なにやら二宮がやらかしそうな感じだわ。というより、本当はわたしがけしかけたんだけどね。あは。でも、あのタイミングで、あのシチュエーションで、なんでするかなぁ・・・。やっぱりアホだわあいつ・・・」

■夜桜■




セレアムにイザベルを取られた道場生たちは、石橋に向かって話しかけた。


「あの、石橋さんとおっしゃられるんですか?」

「はい、そうです」


「可憐な石橋さんかぁ・・・」

「石橋の可憐です」


--- ^_^ わっはっは! ---


石橋に訂正された二十歳代の若い道場生は少し緊張している様子だった。


「わたしたちが無理矢理入っちゃってご迷惑だったんじゃないですか?」

「おす。とんでもない。二宮さんからうかがっていましたが、本当に女性が多いんですね?」


「道場は男性が多いんですね?」

「おす。そりゃもう、武道ですから」


しかし、足利道場には女性黒帯のイザベルをはじめ、けっこう女性が入門していた。


「あのぉ・・・、そっち行っていいすか?」


「おーーー、道場生、こっち来ていいぞぉ。ここは道場の盛り場だからな。わははは」

俊介が彼に手招きをした。


「おす。じゃ、遠慮なく」


すっ。

さささ・・・。


その道場生はあっという間に石橋のそばにやってきた。




「お疲れ様、あなたたち」


地上32000キロで待機中のエストロ5級母船内でのフェリシアスの聞き取りは、ドクター立会いの下無事に終了していた。


「頭脳のプロテクトは発動してないようだ・・・」

Z国の元エージェント、リッキー・Jは側のジェニー・Mに確認を取った。


「ええ。わたしも大丈夫・・・」


「ということは、今聞いたことはZ国に取って特別機密に触れるようなことでもないってことね」

ドクター・エスチェルがフェリシアスと目で合図した。


「で、これからどうする?」

リッキーはフェリシアスに確認した。


「そうだな。二人とも疲れたと思うから、身体をさっぱりしてもらったら、食事でも出そう」

フェリシアスはそう言うと中を見つめた。


「リーエス。そりゃありがたい」


「部屋まで案内しよう。アンデフロル・デュメーラ?」

「リーエス、SS・フェリシアス」


すぐにアンデフロル・デュメーラが現れ、リッキーたちを部屋に案内すべく二人に向かい合った。


「こちらへ、リッキー・J、ジェニー・M。お部屋は快適ですか?」

「上々だ」


「パジューレ(どういたしまして)。ジェニー・M、あなたはいかがですか?」

「問題ないわね」


「パジューレ(どういたしまして)」


そして3人は用意された部屋に戻るため歩き始めた。


「お食事は、お二人が身体をさっぱりしていただいている間に、地球料理をご用意いたしますが、肉類を召し上がりますか?」

エルフィア人は基本菜食主義で、めったに肉類は口にしなかった。


「ああ。そうしてもらいたい」


「どんなものがあるの?」

ジェニーがきいた。


「なんでもありますけど?」


「そう?じゃ、わたしはタンドリーチキン。あなたは、リッキー?」

「オレは、ラムステーキをレアで」


「リーエス。承知しました」

アンデフロル・デュメーラは頷いた。


「でも、お肉って、あなたたち食べないんでしょう?」

「リーエス。もちろん、わたしは肉類も野菜類もなにも食しません」


--- ^_^ わっはっは! ---


エストロ5級母船のCPU擬似精神体は冷静に答えた。


「ま、あんたはそうだろうが、ユティスやフェリシアスたちはどうなんだ?」

「ほとんど食べないと思われます」


「そういうことなら、どこで調達して来るの?」

ジェニー・Mは当然の質問をした。


「心配ありません。国分寺俊介を通じて日本政府から必要量はいつでも確保できます」

「ふぅーーーん、さすが日本ね」


「おれたちの本国だったら、請求書を10倍ふっかけてあんたのところによこすかもな」


--- ^_^ わっはっは! ---


「その線はありません。日本政府がありますので」


「でも、知ってる?」

「なんでしょうか?」


「日本政府の台所事情は1500兆円の大赤字だって」


--- ^_^ わっはっは! ---


「とりあえず、お二人のお肉はそんなにはしません」

アンデフロル・デュメーラはいたって平静だった。


「あっそう」


--- ^_^ わっはっは! ---


日本の経済問題はさておき、3人はすぐに部屋に着いた。




そして、足利道場と株式会社セレアムの合同お花見会は盛り上がり、夜桜見物まで続いていった。


ぶるっ。

ささ。

女性たちがセーターやカーディガンを一枚着け始めた。


「うーーー・・・」

「どうしたの?」


俊介が辺りを見回した。


「春とはいえ、さすがに夜になると冷えてくるな・・・」

俊介はすぐ側に来たアンニフィルドを振り向くと小声で囁いた。


「おねだり?」

にこ。


「うむ。ビールは止めだ。日本酒にしよう」


ちくっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「なんだよぉ、つねるなよ、痛いじゃないか」

「寒いんでしょ?」


ちょん。


アンニフィルドが俊介に身を寄せると、すぐに温かくて柔らかい感触が伝わってきた。


「おい、おい。くっつき過ぎだって」

「いいじゃない。みんな見た振りだけだってば・・・」


「もっと悪い」


--- ^_^ わっはっは! ---


「じゃ、こうしてる・・・」


ぴとぉ・・・。


しかし、アンニフィルドの身体の温もりは実に心地よかったので、俊介は酔っ払ったことにして照れ隠しをしようとした。


「ああ、いい気分だ」


「あの灯り、なんだかとってもムードあるわ・・・」

アンニフィルドは桜並木に沿ってぶら下げられた電気提灯を見つめた。


「わははは。どうだ、アンニフィルド?これが日本の春の風情だぞ」


俊介は電気提灯のオレンジ色に浮かび上がった桜並木を指して、アンニフィルドに酒を勧めた。


「キレイね・・・」

「ははは。この中で飲む酒は格別だな。ほれ、飲めよ」


「ダメ。わたしSSよ。酔っ払ってたら任務が遂行できない」

「酔う?きみがかい、うわばみのくせして?」


むっ。


「ロイ・ルデレールのこと忘れたの。シャンパン、グラス半分で落っこちちゃったんだからね・・・。ほかでもない、あなたが飲ませるから・・・」


アンニフィルドは悪戯っぽく俊介を睨むとすぐにトロンとした目つきになった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「おほん・・・」


「昼間より、夜の暗い方がムードあるわ・・・」


こて・・・。

するる・・・。


アンニフィルドが頭を俊介の肩に預け右腕を絡めてきた。


「だから、くっ付き過ぎだってば。いくら夜でもみんな見えてるんだぞ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「もう、意気地なしなんだから。じゃ、離れた方がいい?」


すす・・・。


アンニフィルドが腕を解くと俊介が今まで感じていた温もりが去っていった。


ぶるっ。


「ほら、ごらんなさい。意地っ張りね・・・」


きゅ。

アンニフィルドは再び腕を絡め豊かな胸を俊介に押しつけていた。


ぽよよぉん。


「なにか柔らかくて暖かいものが腕を押してるんだが・・・?」

「なにかじゃなくて、わたしのおっぱい・・・」


ぷよん。


「ぶふっ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「直接的に言うな」




じゃんじゃかじゃん!


「あらよっと・・・!」


ふらふら・・・。

あちこちで宴会が盛り上がっていった。


「歌え!」

「踊れ!」

「ほれほれ!」


ぱち、ぱちん!


「あーら、よっと」


和人たちのすぐ近くで、手拍子に合わせて男性の一人が踊り出した。


「随分立派なお腹ですこと・・・」

それを見ていたユティスが和人に耳打ちした。


「毎日の努力の結果だよ」

「そうですか・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「すっかりできあがちゃってるみたいだね?」

「わたくしたちもそうしないといけないんですか?」


「ええ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ナナン。それは無理にそうしなくてもいいんだよ、ユティス」

「そうですか。でも楽しそうですわ。うふふ」


ぶる・・・。

そして、和人に少しだけ身を寄せた。


「寒いのかい?」

「リーエス。少しの間こういさせてください」


ぴとぉ・・・。


「それよりか、焼酎のお湯割りを飲むかい?身体が芯から温まるよ」

「ナナン。お酒より和人さんの方がいいです」


和人が焼酎のビンに手を伸ばそうとするとユティスは断った。


むっちぃ・・・。

ユティスの胸が和人に押し付けられた。


「あ・・・」


「うふふ。地球では、みなさん総出で夜のピクニックを楽しまれるのですね」

「夜のピクニックは確かにいいけど・・・」


ぽよん・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


がやがや・・・。

辺りは暗くなるにつれ、ますます人出が増えてきた。


「昔から夜桜見物はあるし、歴史は夜に作られるって言うからねぇ・・・」

「それ、今も有効なんですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---




「あ・・・」


そんな二つの熱々カップルを見ていた道場のお堅い武道家たちは、羨ましげに横目で見ながらわざと自分たちだけで話し始めた。


「そうだった!師範、自分まだ注いでないっすよぉ」

ちらちら・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「おお、そうか。では、もらおうか。冷えてきたんでお湯割がいいなぁ」

ちらちら・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「おす。すぐ作ります」

ちらちら・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「西方さん、自分も作りましょうっすか?」

そんな時、二宮が西方の側まで来ると焼酎ビンに手を伸ばした。


「二宮か?」


「うす」

そして西方はイザベルを一瞥して言った。


「いいよ、二宮。おまえは喜連川の相手をしてろ」


西方は一応妻子持ちで、それくらいことでは動じなかった。

「うす?」


「冷えてきたんで、嫁さん寒がってるんじゃないのか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


イザベルは、西方にとっては既に二宮の恋人という位置づけだった。


「うす。自分も寒くなってきたっす」

二宮も西方の言葉に反論しなかった。


「だから、早く戻れ」

「うす・・・」


一方、イザベルは俊介とアンニフィルドの寒いのに関わらず、お暑い会話に聞き耳をそばだてていた。


「ねぇ、俊介ぇ・・・」

ちょん・・・。


「こら、よさんか・・・」

さ・・・。


そして、西方の側から戻った二宮はイザベルを横目に見た。


「寒いっすかぁ・・・?」


どし。

二宮はイザベルの横に腰を下ろした。


「ちょっとだけです・・・」

イザベルは次のシーンを容易に想像できていた。


「自分が風除けになるっすよ」


すぅ・・・。

二宮がイザベルの肩に手を伸ばした。


ぴしっ・・・。


「ダメです・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おす。だから・・・」

「無理・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おす」

「みなさんが見てられますよ・・・」


「おす。だから、イザベ・・、あ、喜連川さん・・・」


二宮は道場生たちの手前、「イザベルちゃん」と言いいかけた言葉を思わず飲み込んだ。


「イザ、喜連川さんが側にいてくれるだけでいいっす・・・」

二宮は拗ねるでもなくイザベルを見つめた。


「そんなに見つめないでください・・・」

かぁ・・・。


イザベルの顔が赤いのは上にぶら下がっている提灯の灯りのせいでも、寒さのせいでも、酒のせいでもなかった。


「自分はこれで十分っす。ほかに見つめるものもないっす・・・」

じぃ・・・。


「え?」

どっきん!


--- ^_^ わっはっは! ---


二宮にしては滅多にない気の利いた台詞になった。


「わ・・・、わたし困ります・・・」


すく・・・。

ぴっ。

ぴっ。

ぴっ。


「おす。上から失礼するっす」


突然、二宮は立ち上がって道場生や指導員やセレアムの面々に向かって三度十字を切った。


「お、なんだ、二宮のやつ?」

「なにをし始める気?」


「臍踊りは勘弁してもらいたいわ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


セレアムの人間は、二宮がまたなにかをやらかそうとしていることには慣れっこだった。




「うはうは・・・。二宮の決定的シーンの始まりよぉ」

アンニフィルドは興味津々で成り行きを見守った。


「愛の告白かしら?」

茂木がアンニフィルドに同意を求めた。


「あは。それ以上のことかもよぉ・・・」

「それ以上って?」


ごっくん。

茂木は生唾を飲み込んだ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「わたしにもわからないわ・・・」

わくわく・・・。


「そこまで言っときながら、どうして?」

「だってされたことないもの」


--- ^_^ わっはっは! ---


「されたことって・・・?」

茂木はその先を聞きたくてうずうずしていた。


「されたことって、されたことってことに決まってるじゃない」


「なにを?」

「ナニのことじゃない」


「きゃあっ、エッチぃ!」


--- ^_^ わっはっは! ---




「おす!あー、みなさん、本日はお日柄もよく、夜になっては冷えてきましてぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「えーーー、自分の黒帯授与をしていただきまして、えーーー・・・」

「二宮、何が言いたいんだ、おまえ?」

師範が笑いながらきいた。


「おす。ですから、まずは、ありがとうございましたっす!」


「おう!」

ぱちぱちぱち・・・!


たちまち大きな拍手が巻き起こった。

「で、なんだ?」


拍手が鳴り響く中、西方がにたにたしながら二宮を煽った。


「えーーー、みなさん、お静かに」

二宮が神妙な顔つきになり一同を見回した。


「で、本日、二宮祐樹は・・・、喜連川イザベルさんにプロポーズするっす!」

二宮はイザベルをしっかりと見据え気持ちを込めて言い切った。


「ええ?!」

「はい!?」


一同から驚きの声が上がった。


くるっ。

二宮はそう言うとイザベルを振り返った。


「喜連川さん、オレの嫁になってくださいっす」


すぅ・・・。

二宮は大きく息を吸うと一気に続けた。


「返事は3年後でも構わないっすが・・・、必ず、OKって言ってくださいっす」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぴっ!


二宮はイザベルを見つめると十字を切り、そこに自然体で立ち不動になった。


きりっ・・・。

そして、右手を伸ばしてイザベルに頭を下げるようなことはしなかった。


「・・・」

「・・・」


きーーーん。

座に緊張感が走りそこだけ沈黙が支配した。


「・・・」

「・・・」


どきどき。

みなはイザベルの反応を固唾を呑んで見守った。


「・・・」

「・・・」


どきどき。

すぅ・・・。


ややあって、イザベルがゆっくりと立ち上がった。


「お気持ちはとっても嬉しいです・・・。でも・・・」

二宮は両拳を握り締めたまま腰の位置に構え微動だにしなかった。


「必ずOKって酷くないですか・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うす・・・」

「それに3年後でもいいって、どういうことですか・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


イザベルは下を向いたままぼそりと言った。


「うす」


「それに、みなさんの前で、とっても恥ずかしいです・・・」

「うす」


--- ^_^ わっはっは! ---


それでも、二宮は立ったまま動かなかった。


「・・・」

「・・・」


どきどき。


「お時間をください・・・」

「うっす・・・」


「わたし、お手洗いに行ってきます!」


--- ^_^ わっはっは! ---


くるり。

ささっ。

たったった・・・。


そう言うとイザベルは提灯灯りの下、満開の夜桜の中に消えていった。


「・・・」

「・・・」


そして、座の緊張が解けた。


「二宮?」

「うす」


「どう解釈すりゃあいいんだぁ・・・?」

俊介がアンニフィルドに回した手を解いてお湯割を持った。


「うす。待つしかないっすよ・・・」

二宮は俊介に十字を切った。


「おい、オレらもわからなかったが、二宮は断られてはいないいよな・・・?」


「おす」

「おす」


道場生たちが頷きあった。




「あ、二宮先輩・・・」


和人はイザベルがいなくなってもそこに両手拳を握って腰に構えたまま突っ立ったままの二宮を仰天して見つめていた。


「大胆・・・」

クリステアが呟いた。


「ああ、びっくりしたわ。まさか本当にするとは思わなかった・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「アンニフィルド?」

ユティスがぽかぁんとしているアンニフィルドを呼んだ。


「あ、なぁに、ユティス?」

「本当にするとは思わなかったって、どういうことでしょうか?」


「あは・・・」


「二宮になにか焚きつけたな、アンニフィルド?」

俊介がアンニフィルドを横目で見つめた。


「知らないわよ。ただ言っただけなんだから・・・」


ぺろ。

アンニフィルドは茶目っ気たっぷりに舌を覗かせた。


「黒帯締めたらプロポーズ宣言してみろってかぁ・・・?」

俊介が正解を言い当てた。


「大方、そんなところね」

クリステアがイザベルの消えたところを目で追った。


「いいじゃない、これで二宮たちも公認の中になれるんだから」

アンニフィルドは気にもしてない様子だった。


「なれないかもしれないじゃない」


--- ^_^ わっはっは! ---


「どうしてよぉ?」


「みんなの前であんなことされたら、女性は困るんじゃない?恥ずかしくてその場から逃げるって当然だと思うけど・・・。どう思う、ユティス?」

クリステアがユティスの意見を求めた。


「そのままお家に帰られるということでしょうか?」

「あ、それもありね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「どのみち、数分後に答えは出るさ。なっ?」


にた。

俊介も大して気にしない様子で、アンニフィルドに笑いかけた。


「リーエス。わたしたちも早く公認の仲にならないの?」


じぃ・・・。

少し拗ねたようにアンニフィルドは色っぽい瞳をして俊介を見つめた。


「うぉっほおん。そんな恥ずかしい話をみんなの前でするんじゃない」

「あーーー、恥ずかしいですってぇ?自分の言ったことに責任持たないつもりね?」


「なんの責任だ?」

「あのことよぉ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「こ、こら、そんな風に言うと思いっきり誤解されるだろうが!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「認めないつもりね、俊介・・・」


すく・・・。

アンニフィルドはそこに立ち上がって俊介を見下ろした。


「・・・」


「おいおい、まさか、アンニフィルド、二宮みたく宣言するつもりじゃ・・・」


「・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おお・・・」

「今度はアンニフィルドかよぉ・・・」


ぴきぃーーーん

その場を張り詰めたような緊張が包み込んだ。


すぅ・・・。

アンニフィルドは大きく息を吸い込んだ。


「わたしも・・・、お手洗いに行ってこようっと!」


--- ^_^ わっはっは! ---


くる。

さっさっさ・・・。


アンニフィルドはイザベルの後を追った。


「・・・」


「くっくっく・・・」

クリステアが忍び笑いを始めた。


「くくく・・・」

ユティスも下を向いて笑いを堪えていた。


「勘弁しろよ、アンニフィルドぉ・・・」

そして俊介の緊張は一気に解けていった。


--- ^_^ わっはっは! ---




転送システム室では徹底的に過去のエンジニアリストの再調査が行なわれ、可能性のある人物が何人か現われたが、そのいずれもが白だった。


「だめだ・・・。ランベニオを愛称とした名前を逆構成するのは骨が折れる・・・」


「可能性のある名前を全件リストアップしてくれ」

「リーエス」


ぴぴぴっ。


システムはあっという間にそれを映し出し、予め設定した条件に合った名前を読み上げた。


「クルトラン・ベノザーム。ラドベニクス・オルド。ランベル・ベニオス・・・」


「あーーー、待ってくれ!」


ぴた。

システムは読み上げるのをすぐに中止した。


「これ!これはどうだろう?」


エルフィアから移住していったエンジニアリストを調査していた一人のネスミルが、引退したシステムメンテナンスエンジニアにランベル・ベニオスという人物を発見した。


「どうした、ネスミル?」

「ランベル・ベニオスという人物です」


「どれ、見せてくれ」


ネスミルのチーフのルーレンは空中スクリーンに映し出された情報を食い入るように見つめた。


「ランベル・ベニオス・・・。ランベニオ・・・。通じるな・・・」

「リーエス。名前からするとほぼ間違いなく・・・」


ルーレンはシステムが読み上げる前にランベル・ベニオスのプロフィールに目を通した。


「転送システムの退役エンジニアだな?」


「リーエス。ルーレン、ここを見てください」

ネスミルはその情報の一つを指した。


「年齢的には違わないな・・・」

「リーエス」


その人物のDNA情報までは彼らのアクセス権限では確認できなかった。


「体格、顔、その他のバイオメトリクス情報の比較はどうだろう?」


ぴぴぴ・・・。

「これです」

ルーレンはその結果を見つめた。


「ランベル・ベニオス、身長174センチ、体重98キロ・・・」

システムがそれを読み上げ、ルーレンはそれにじっと聞き入った。


「体格もそっくりだぞ」


「でも、体重は大き過ぎる気もしますが、背丈やその他顔格好、そのような人物はエルフィアではいくらでもいます」

ネスミルは言った。


「待て、ネスミル・・・。どうして、ランベル・ベニオスもジニエドもエピカーロ・ネクルスも体型や顔かたちがよく似ているんだ・・・?」

「リーエス。人間ですから」


--- ^_^ わっはっは! ---


「しかし、慎重にしましょう。データが示す限り、ランベル・ベニオスはトルフォの叔父、ジニエドではありません」

「音声照合はできそうか?」


「リーエス。データ照合開始します」


ぴぴぴ・・・。


「どうだ・・・?」

「ジニエドのパターンと他の二人を比較しています」


「リーエス」


ぴぴぴ・・・。


「エピカーロ・ネクルスは信頼できるデータが存在しません」

「だめか・・・」


ぴぴぴ・・・。


「ランベル・ベニオス・・・」


ぴぴぴ・・・。


「微妙に不一致・・・。別人の可能性が高いとでました」


「違うのか・・・。実音声を出してくれ」

ルーレンはネスミルにさらなる要求をした。


「リーエス。二人のプロフィール読み上げを再生します」


ぴぴっ。


「名前はジニエド。超銀河間転送システムのメンテナンス・エンジニアです。現在は・・・」


「わたしはランベル・ベニオス。超銀河間転送システムのメンテナンス・エンジニアです。現在はエストロ5級母船のメイン転送システムの開発プロジェクトに・・・」


システムはデータベース上の二人の声を交互に再生した。


「もう一度・・・」

「リーエス」


ぴぴ。


「わたしは・・・」

「そもそも二人の声はキーは4、5度違うな」


「リーエス。ジニエドは高く、ランベル・ベニオスは低い」


「音程レベルを合わせます」

「リーエス。やってくれ」


ぴぴ・・・。

「わたしは・・・」


「違うように聞こえるな・・・」

「わたしもそう思います」


「一応、相関関係を数値で示してくれ」

「リーエス」


ぴぴぴ・・・。


「データ照合。声紋照合、相関係数0.76・・・」

「うん・・・?0.76だとぉ?これを見る限り意外に高いぞ」


相関係数とは二つの分布データがどれくらい一致、つまり関係があるかとう相関を数値で示したものだ。それが1なら完全相関、0.5以下なら実質二つの分布データに相関は存在しない。


「どうして別人判定が出たんでしょう?」

「わからん」


「DNA鑑定情報があればなぁ・・・」

ネスミルがルーレンを見た。


「ナナン。われわれでは権限がない。あるのはドクターくらいだな」

ルーレンはアクセス権限外であることを言った。


「では、目の虹彩パターンの比較は?」


「それもドクター権限だ。われわれではできん。われわれでできるのは、せいぜい入手した音声パターンの比較止まりだな」

ルーレンはそれでもいくつか確認できたことは収穫だと思っていた。


「とりあえず、エルドにはその旨報告だ」

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