357 別名
「こんにちわ。アンニフィルドです。うーーーん、『ランベニオ』の包囲網が少しずつ狭まってきているわね。彼が超銀河間転送システムにどんな関与をしたのか明白にならないうちはエルフィア帰還は危険との判断よ。お花見会が始まったけど、俊介の隣の席はだれにも譲らないんだからね・・・。あは」
■別名■
地球上空に待機中のフェリシアスは、半ば亡命中のZ国の元エージェントたちに聞き取りをしているところだった。
「うん・・・?ドクター、立会いにトレムディンはいないのか?」
フェリシアスは立ち止まった。
「知るもんですか!さっさとしましょう!」
「リ、リーエス・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
とんとん・・・。
「どうぞ」
「入るぞ」
フェリシアスとエスチェルはZ国の二人がいる部屋に入っていった。
「それで、どうだろう?」
フェリシアスは気を取り直しZ国の二人に向き直った。
「オレたちのプロテクトされている脳内シナプスを振り解くことについてなら、前に言ったとおりだ。オレたちに選択権なんてないよ・・・」
「ええ。リッキーの言うとおりよ。できることなら、そのユティスに介添えしてもらいたいけど、それは望めることなのかしら?」
ジェニー・Mは一抹の不安を持っているようだった。
「ドクター、どう思うかね?」
フェリシアスは立会いに来たエスチェルにきいた。
「そうするしかないんじゃない。下で宴会が済み次第、ユティスを呼んでくれる?」
「リーエス。話の途中で、もしそういう兆候を感じたらすぐに言ってくれたまえ。即刻中止する。きみたちの人格を破壊することは望まない」
Z国のエージェントたちはその極秘任務ゆえ、他人に情報を話すことのないように精神科と脳神経外科の専門家により極めて強固なプロテクトをその頭脳にかけられていた。
「承知した・・・」
とりわけ、リッキー・Jやジェニー・Mのようなエスパーは厳重にプロテクトが施されていて、精神科医だけではとても解除できるものではなかった。
「わたしも同意するわ・・・」
もし、彼らがZ国の極秘事項に言及するなら、たちどころにプロテクト暗示が働き、彼らの頭脳は赤ん坊レベルまですべての記憶を消去されてしまうのだ。
「よし。では始めよう」
これは精神的なプロテクトを外すだけでは完全ではなく、脳内の関連シナプスを特定し、それを外すという高度な医療行為だった。
「いいわよ、フェリシアス」
エスチェルが少しの兆候も見逃すまいとZ国の二人を見守った。
「では、きみらがブレストと出会ったことから話してくれたまえ」
フェリシアスはゆっくりと静かに話しかけた。
「ああ。それは、オレの脳内への音声メッセージというものから始まった。耳に聞こえているというより頭の中で響いているという感じだった」
この二人に脳内プロテクトを施したZ国の専門家たちは、本国の当局により逮捕され既にこの世にはいなかった。
「コンタクトはシェルダブロウか?」
「そうだ。最初は非常に怪しげだった。オレはコンタクトを拒否していた」
「自分の感覚を疑っていたのか?」
「ああ。エルフィアの事情が変わり、ユティスの代わりにブレストが正式エージェントをして派遣されることになった。ユティスは本星に帰還されると・・・」
「なるほど。それで、嘘くさいと思ったのだな?」
「そのとおり。オレたち地球人より遥かに進んだあんたたちだ。そんなヘマをやらかすとは思えなかった」
リッキーは正直にしゃべっていたが、今のところ脳内プロテクトが発動する様子はなかった。
「ユティスが更迭される理由は聞いたのか?」
「ああ。なんでも私的にエージェントの立場を利用して、任務を放棄しているという内容だった」
「それを信じたのか?」
フェリシアスはブレストのあの委員会での言葉を思い出し、なんともいえない不快感を感じた。
「どうかな・・・。ただ、エルフィア人がコンタクティーとしてオレを名指ししたことに驚いていた」
「シェルダブロウがそう言ったのか?」
「ああ。そして、本国の重鎮への親書メッセージをよこしてきた。
「その発信人はエルドとあったわけだな?」
「そういうことだ」
フェリシアスはリュミエラたちの証言とリッキーの証言は一致していたので、先を進めることにした。
「で、ユティス更迭につき回収に協力して欲しいと・・・」
「リーエス。それで、ジェニー、きみにも確認したいが、その時、ブレストはその方法についてどう話したのかね?」
フェリシアスはジェニーの返事を一つも逃すまいとしていたが、アンデフロル・デュメーラが平行して4人の会話をモニターしていた。
「一度、わたしたちは失敗したわ。カメ横でね・・・。それで、信用してくれてるかはわからなかったわ」
「では、計画はブレスト中心で?」
「そうよ。大方のシナリオは彼で作ってた」
「ふむ・・・。まだ、頭の方は大丈夫かね?」
フェリシアスは慎重に聞き取りを進めていた。
「頭痛はしない」
「わたしも問題ないわ」
「では、次の質問に移ろう」
「ねぇ、クリステア?」
和人ははたと考えて立ち止まった。
「なぁに?」
「いや、ずっと思ってたんだけど、例の転送システムを操っているらしいというランベニオのことだけど・・・」
「ランベニオのこと?」
ぱたっ。
クリステアはすぐに立ち止まり和人を見つめた。
「和人さん、なにか知ってるというのですか?」
ランベニオについてはなにも知らないはずの和人の発言で、ユティスはびっくりしたように言った。
「ナナン。知ってるというわけじゃないんだけど、そのランベニオの名前ってのは、愛称のことじゃないのかい?」
和人は地球人の常で懇意な間柄で呼び合う愛称のことを言った。
「正式名じゃないと言うのですね?」
「リーエス。そういうことね・・・」
クリステアはゆっくりと目を閉じるとユティスに頷いた。
「前々から思ってたんだ。きみたちエルフィア人は友人や家族の間でも愛称で呼び合わないなぁって・・・」
それは地球人の和人にとってはとても不思議なことのように思えた。
「リーエス。確かに言えてるわね」
クリステアはユティスを振り向いた。
「ユティス?あなたは愛称で呼ばれたことある?」
「愛称ですか・・・?」
ユティスは困ったように二人を交互に見つめた。
「あ、いや、オレがユティスを愛称で呼ばないからって、きみのことを身近で大切な人だって思ってることには変わりないんだからね・・・」
「リーエス。わかりますわ」
にっこり。
ユティスはそれににこやかに答えた。
「わたしもクリスって呼ばれたのは、あのレジーナで出会ったセルジが初めてだったわ」
「じゃ、きみもいつもは・・・?」
「リーエス。クリステアよ」
「アンニフィルドもアンニフィルドですわ。だれも別の呼び方などしません」
ユティスが事実の裏づけ例を付け加えた。
「ふぅーーーん・・・」
和人は考え込んだ。
「愛称ですね・・・。アンニフィルドなら『アンちゃん』ですか?」
ユティスが言うと和人は噴き出した。
「あははは。それじゃ、アンニフィルドは男だよぉ。『兄ちゃん』になっちゃうじゃないか?」
「まぁ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぷふっ。お兄ちゃんか。あの性格なら言えてるかもね・・・」
クリステアも笑い出した。
「人がせっかく考えたのに失礼ですわ。うふふふ」
とは言ったもの、ユティスもそれがわかると可笑しくなって自分でも笑い出した。
「確か、常務がアンデフロル・デュメーラをアンディーって呼んだ時、アンデフロル・デュメーラも理解できてない様子だったしなぁ・・・」
「それで、ランベニオの正式名があるんじゃないかってことですか?」
ユティスが和人に尋ねた。
「リーエス・・・。ランベニオに近い名前ってどれくらいあるんだろう・・・?」
和人はクリステアに暗に調査するよう言った。
「わかったわ。フェリシアスにすぐに連絡するわ」
「おやぁ、あれは二宮と喜連川んとこの会社の人間じゃあ・・・?」
足利道場の宴会には道場生50人以上が一際大きいブルーシート上に陣取っていた。
「クリステアさんと、その隣はユティスさんだ」
道場では師範の下、指導員の勤める西方が手を額にかざして、本人かどうか確かめるように見つめた。
「おす。男がいるが、あれは・・・」
「おす。付き人じゃないすか?」
「おす。そうっだったな」
--- ^_^ わっはっは! ---
そして師範もそれに気づいた。
「おお、あのクリステアゃじないか!おおい、クリステア!」
ずさっ。
師範の足利尊道は急いで立ち上がるとクリステアたちに大きく手を振った。
ぶるん、ぶるん・・・。
「おおい!」
「はぁーーーい、師範!」
師範の呼びかけにクリステアが手を振って応えた。
「いた。いた」
「いらっしゃいましたわ」
そして、3人が道場の宴会に着くと、師範はさっそくクリステアを真ん中に座らせた。
「よく来てくれたな、クリステア。やっと入門する気になったか?心配いらん、きみならすぐに黒帯を進呈するぞ。ちょっと、そこを開けてくれ。こっちだ、クリステア。おお、そうっだった。おい、世界チャンプ候補に一杯持ってきてくれ」
師範は道場生たちに矢継ぎ早に指示を出した。
「いっぱい、なにを盛るんですか?」
「ユティス、それ、誤解。危ない・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わはは。酒だ。酒を盛るに決まってるだろうが!」
師範はユティスの言葉をまったく気にもせず、日本酒を並々と注いだグラスを3人に渡した。
「ささ、ぐぐっと駆けつけ3杯やってくれぇ!」
「オレもですか?」
和人が困ったように言った。
「当たり前だ。きみも黒帯候補と二宮が言っておったぞ」
「まさか」
「いやいや、飲ましたら二宮より強いそうだな?」
師範は嬉しそうに言った。
「そんなことないです。オレ、まったく弱いんですよぉ」
といいつつ、和人は一杯目に口を付けた。
「美味ぁ・・・」
「わはは。そうだろう。そうだろう。うちの田舎の地酒だぞぉ!」
「なんという名前で?」
「乙女櫻だ」
ぴ、ぴっ・・・。
(めっ!和人さん、常務さんの言葉お忘れですか?)
ユティスが和人の袖を引っ張って、さっさと俊介の依頼を済ますように催促した。
「わ、わかったって・・・」
「わっはっは。確か乙女にゃ弱いかもなぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それで、師範、二宮さんの件ですが、オレたちも宴会張ってますんで、その、サプライズで・・・」
和人が師範に話すと師範は大きく頷いた。
「うむ。わかった。二宮への例のものは用意してある。すまんが、やはりここで道場のみんなの中で渡したい。二人を連れてきてはもらえんかな・・・?」
「リーエス。で、どういたしましょう。単にお二人を連れて来るなら、アンデフロル・デュメーラに頼めばすぐにでもできますが・・・」
ユティスが困ったように言った。
「師範、実はうちの会社でも感動のシーンを見たいという人間が多くいまして・・・」
和人がユティスに続けてた。
「なにか、お手伝いできますか?」
ぶわんっ。
そこにアンデフロル・デュメーラの擬似精神体が現れた。
「ぎゃ!」
「おわっ!」
足利道場の一同がおっかなびっくりでそれを見た。
--- ^_^ わっはっは! ---
「おーーーい、可憐!」
たったった・・・。
セレアムの宴会にキャムリエルが笑顔で手を振りながら走ってきた。
「ほらほら、噂をすれば影・・・」
「石橋、新しい彼よ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お、岡本さん、新しいもなにも彼なんていません・・・」
石橋は困ったように岡本の指す方に目をやった。
「おーーーい、可憐!」
にっこり。
「あ・・・、キャムリエルさん・・・」
石橋がその名前を口にした瞬間、セレアムの面々は白い光に包まれた。
ぽわぁ・・・。
「あ、ちょっと待って!」
すぅ・・・。
突然キャムリエルの前でセレアムの面々は空中に溶け込むように消えていった。
ぶわんっ。
そして、そこには可憐たちではなく、トレムディンが一人突っ立っていた。
たったった・・・。
キャムリエルはそこにたどり着くとトレムディンに言った。
「なんで、きみがここにいるんだ!?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「こういう事態に備えてだよ」
「なんの?」
「きみが仕事をサボって女の子に現を抜かすだろうことにね」
二人に険悪なムードが漂った。
「女の子に現を抜かすとはなんだよ?きみこそ、今はZの二人の立会い中じゃなかったのかい?」
「ドクター一人で十分ですね、お生憎」
ばちばち・・・。
しかし、花見客たちは白い光とともにそこにいた20人近くが消えたことの方がよほど重大だった。
「な、なによ、あれ・・・?」
「人が一瞬で消えたわ・・・」
「オレも目撃したぞ」
「わたしマイフォンで動画撮ったわよ」
「すぐに投稿だ」
「信じられん」
ぷちっ。
「痛い、なにしてるんだよぉ?人の頬をつねるな!」
「夢じゃないようね・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「で、あの二人の外国人は・・・?」
「大勢が一瞬で消えたなんて気づいてないよ」
「なんとも思ってないんじゃない」
「うっそぉ・・・」
「やや、痴話げんか始めたぞ・・・」
「止めなくていいの?」
「ダメだ。余計なとばっちりを受けるだけだ」
「なんて言ってるの?」
「オレ、英語はわかんないよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「よし、オレ、警察を呼んでくる」
「そ、そこにいるわよ、警官」
ぶわぁーーーっ。
どぉーーーん。
ぼむ!
「ぎゃあ!」
「きゃあ!」
「うわっとっと!」
足利道場の宴会には株式会社セレアムの20人がアンデフロル・デュメーラによって一気に転送され、宴会場は大騒ぎになった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「だぁーーー!」
「なんだ、なんだ・・・?」
師範はいきなり現れたほとんど女性の見知らぬ一団に目を丸くした。
「あ、あ・・・」
転送直前にイザベルは無意識に二宮に抱きついたのか、道場生たちとセレアムの社員の前で二宮としっかり抱きしめ合っていた。
「二宮・・・?」
「きゃあ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
ばっ。
イザベルは真っ赤になって二宮から急いで腕を振り解いた。
「ど、どこよぉ、ここ?」
「きゃあ!」
くる・・・。
岡本と茂木は一瞬のことにわけがわからず周りを見渡した。
「アンデフロル・デュメーラですわ・・・」
にこ。
ユティスはすべてを了解していたようで、笑顔で和人に言った。
「派手過ぎないかい・・・?」
「まぁ、どっちも二宮の感動の場面を見たいって言うんだから、こうするしかないんでしょうねぇ・・・」
クリステアが仕方なしというように両手を広げた。
「あのぉ、師範さん?」
ユティスは師範に状況を説明し始めた。
「はい。ユティスさん、こりゃ、いったいぜんたいどうなってるんですかな・・・?」
「ですから、みなさんをお呼びしましたの・・・」
「スマホで?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。わたしです」
ぽわん。
アンデフロル・デュメーラの擬似精神体が足利師範の前に現れた。
「ど、わぁ・・・!」
「ぎゃ!」
またまた道場生たちが悲鳴を上げた。
「あ、あなたは、今どっから湧き出でましたんで・・・?」
「いわゆる魔法の泉です」
--- ^_^ わっはっは! ---
今の今まで20人がいたえセレアムの宴会場はキャムリエルとトレムディンの二人が立ちつくしているだけだった。
「可憐はどこだい?知ってるんだろう?」
トレムディンはキャムリエルに迫った。
「きみこそ、なんだい?職務を放り出して」
「それはきみじゃないか。ぼくは終わったからここに来たんだ」
キャムリエルはむっとした。
「ふん。アンデフロル・デュメーラ、可憐を返してくれ」
トレムディンは、これがアンデフロル・デュメーラの仕業と踏んだ。
「ご用ですか、ドクター・トレムディン?」
しゅん。
エストロ5級母船の擬似精神体が二人の目の前に現れた。
「そらとぼけないでくれるかい、アンデフロル・デュメーラ?可憐たちをどこにやったんだ?」
「とぼけているわけではありません。少しの時間差で転送依頼を実行しただけです」
アンデフロル・デュメーラは冷静に答えた。
「それで、それはどこだい?」
今度はキャムリエルが言った。
「この公園内です。足利道場のみなさんと株式会社セレアムのみなさんが、合同お花見会をしているところです」
「お花見がなにか知らないけど、そこにやってくれないか?」
キャムリエルが言った。
「わたしが先に依頼したんだぞ」
トレムディンがさっと前に進み出た。
「ここにいたのはぼくが先だ」
キャムリエルは引かなかった。
「あの、お二方とも・・・」
「なんだい?」
「どうかした?」
キャムリエルとトレムディンはアンデフロル・デキュメーラを見て同時に言った。
「歩いてもいける距離ですが?」
「ナナン。嫌だね、このやぶ医者と一緒なんて御免だね」
「こっちこそ。こんなSSと一緒にいると拉致されてしまう」
ぷいっ。
キャムリエルとトレムディンは互いにそっぽを向いた。
「リーエス。承知しました。第三の選択を実行します」
「第三の選択?」
「なにをする気だい?」
「可憐の意見を聞いてきます」
「え?」
「こら、アンデフロル・デュメーラ!」
「では、またすぐに戻りますので・・・」
しゅん。
そう言ってアンデフロル・デュメーラの擬似精神体は空中に溶け込んでいった。
和人の言葉から重要な手掛かりを得たかもしれないクリステアは、Z国の元エージェントたちの聞き取りをしているフェリシアスにその旨伝えていた。
「いや、二人ともよく言ってくれた。アリダリーム(ありがとう)」
フェリシアスはジェニーとリッキーに礼を言った。
「まぁ、もう国に忠誠を尽くす必要もないんでね」
リッキー・Jは顔色を変えずにジェニー・Mを見た。
「そうね。それにまだ本国のプロテクトに引っかかるような重要情報でもないみたいだし」
「リーエス。では、質問を変えよう。時に、二人はブレストがある人物の名を口にしたことがあるかを尋ねたい・・・」
フェリシアスは静かに二人を見つめた。
「ある人物?」
「だれ、それ・・・?」
リッキーとジェニーは見つめ合った後、フェリシアスを見つめた。
「ランベニオという名だ。ブレストたちと一緒の折に聞いたことはないか?」
フェリシアスは続けた。
「ランベニオ・・・?」
「ラテン系のようだな・・・。イタリア人か?とにかく、そのような名前は記憶にない」
リッキーが答えた。
「では、それに近い名前は?それが愛称であるとしたら、少し違う名前になっているかもしれん。どうだろう・・・?」
「ランベニオが愛称・・・」
「わたしはそれそのものがちゃんとした名前に思えるけど?」
ジェニーには心当たりがない様子だった。
「実は、これはエルフィア人の名前で、彼はユティス拉致を企む連中の中枢を担う大変重要な容疑者候補なんだ。通常、エルフィア人は家族友人であろうと愛称では呼び合わない。ちゃんとした正式名で呼び合うんだ」
フェリシアスは包み隠さずリッキーたちに話した。
「・・・」
「・・・」
Z国の二人は信じられないように黙りこくった。
「有りのままに話した方がいいとの判断をした。恥ずかしい話だが、エルフィア人もカテゴリー4とはいえ多くの間違いを侵す・・・」
フェリシアスは二人に真実を言った。
「ふぅむ・・・。それは知らなかった」
「わたしも・・・」
「もし、地球人のきみらなら、ランベニオとう愛称から元の名前をどう考えるかね?」
フェリシアスはじっと二人を見つめた。
「オレの意見でいいなら聞いてくれ」
「リーエス。続けたまえ」
こくり・・・。
フェリシアスは静かに頷いた。
「地球人は元の名前が長すぎる時それを縮めるように愛称を作る。例えば、オレはリッキーだが元の名前はフレデリクだ。同様にジェニーはジェニファーだ」
「なるほど・・・。で、他にもあるのかね?」
「ああ。これは日本人がよくやる呼び方だが、苗字と名前をそれぞれ1音節ないし2音節ずつ取って愛称とするものだ」
「苗字?なんだsね、それは?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「家族名とでも思ってくれ。要は一族を表す名前だな」
「ふむ・・・」
フェリシアスは両腕を組んだ。
「どうしたの、フェリシアス?」
ジェニーはフェリシアスが理解してないのではないかと心配になった。
「正直な話、エルフィア人にはそちらで言う苗字に相当するものはない」
カテゴリー2までの世界は貨幣経済であり、資産の相続は大きな問題となった。
「苗字がないだとぉ・・・?」
それを一族で守るためには一族という一目一言で判断できるものが必要で、それが苗字だった。
「ええ・・・?」
ジェニーは信じられないような顔になった。
「ないんだ・・・」
そう言うわけで、カテゴリー3以上の世界になると、氏族名や家族名を名乗る必要性はどんどん無くなっていた。
「では、『フェリシアス』、あなたの正式名はそれだけなのか?」
「ナナン。正式名は自分個人に両親が考えた名、母の名、父の名、歴史上の偉大な人物の名もしくは聖人の名、そして伝説や神話にある精霊や守護神もしくは天使などの名、そういう5つのパートからエルフィア人の名前は構成されている」
「5つもあるのか、あんたたち?」
「リーエス。多いのか少ないのか、われわれには大した問題にはなっていない。それで、その2つの名前を摘み食いするような愛称という呼び方とは、どのようなものなのか聞かせてくれたまえ」
フェリシアスはそう言うとリッキーに次の言葉を待った。
「例えば日本のアイドルに『ふかきょん』という女の子がいる」
「それは正式にはどう言うのかね?」
「『深ノ澤恭子』。『ふかのさわ・きょうこ』だ。前の名から『ふか』だけ取る。そして、後の名から『きょう』を取る。それを繋げて・・・」
「『ふかきょう』になるのではないかね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それでは日本人には言いにくんだろうな」
「だから『ふかきょん』というわけよ」
ジェニーが答えた。
「本当のところはわからんが、『ちゃん』までを『ふかのさわ・きょうこ・ちゃん』を縮めた言い方なのかもしれん・・・」
「『ん』は『ちゃん』だな?」
「そういうことよ」
「ふむ・・・」
フェリシアスは二人に頷いた。
「それで『ちゃん』とは?」
「ああ、それは元々相手を敬称する時に名前の後ろに付けるもの。『さん』が可愛らしさを込めて『ちゃん』に訛ったものね」
ジェニーが答えた。
「リーエス。なるほど・・・。たしかに『ふかのさわ・きょうこ・ちゃん』では、集合号令時には長すぎる」
--- ^_^ わっはっは! ---
フェリシアスは納得した。
「それで、オレが思うに、『ランベニオ』がもしその類だったとしたら、『ラン』と『ベニオ』に分かれるのが自然ではないか?」
「『ランXXX』と『ベニオXXX』か・・・?」
「もしくは、『XXXラン』と『XXXベニオ』。またはその組み合わせ。とにかく『ン』は特殊な子音だ。その場合『ラ』が一字になると、次の『ン』が名前の最初にくる。そういうことはまずないとみていいだろう」
リッキーは自分の意見がフェリシアスに伝わったかどうかじっと確かめた。
「ふむ・・・。『XXXラ・ンベニオXXX』はなしか」
フェリシアスは自分の考えをまとめているのか、その後目を閉じてじっとしていた。
「『ランベXXX・ニオXXX』はどうかしら?」
ジェニーが別の案を提示した。
「それもありだな・・・」
リッキーはジェニーに頷くとフェリシアスを見つめた。
「こんなもんだが、参考になったかな・・・?」
「リーエス。とても参考になった。礼を言おう」
フェリシアスは礼を言うと、もう一度それを口にした。
「『ラン・ベニオ』・・・」
 




