355 仏塔
「アンニフィルドでぇーーーす。暑いわね、毎日!エルフィア人には強烈過ぎるわぁ・・・。あ、それでね、お話なんだけど、二宮の昇段祝いだとかお花見だとかいろいろあるみたいね。わたしも俊介と一緒にいれる機会ができるなんて大歓迎だわぁ!」
■仏塔■
すっすっ・・・。
二宮の無粋な対応ですっかりロマンチックは気分をぶち壊されたイザベルは、一人、桜が満開の公園の中をどこに向かうでもなく足早に歩いていた。
(二宮さんたら、本当に気が利かないんだから・・・。もう!)
むかむか・・・。
イザベルはだんだん腹が立ってきた。
「イザベル?」
そこに、イザベルの背後から聞き慣れた声がした。
くる。
イザベルが足を止め振り向くと、そこに真紀たちがいた。
「真紀さん、岡本さん、茂木さん・・・」
「あなた歩くの速いわねぇ・・・。あは」
にこ。
茂木がイザベルに微笑みかけた。
「あ、はい、どうもすみません・・・」
ぺこ。
イザベルは頭を下げて謝った。
「そんなことどうでもいんだけど、お花見の場所、そっちじゃないわよ」
真紀が言うと、岡本が正しい方向に手を上げた。
すっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ・・・」
「迷っちゃったかぁ・・・」
イザベルの前方は公園事務所の迷子預かりのテントだった。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぺこり。
イザベルもそれがわかって、もう一度頭を下げた。
「す、すいませんでした!」
「ああ、それはいいけど・・・」
真紀がイザベル側により心配そうに囁いた。
「はい。なんでしょうか、真紀さん・・・?」
「ごめんね。二宮と話してるところ見かけちゃったのよ、偶然・・・」
その一言で、イザベルは真っ赤になった。
--- ^_^ わっはっは! ---
かぁ・・・。
「は、恥ずかしいです・・・」
「そうよね。二宮のヤツ、どうしようもないんだから・・・」
岡本がイザベルの言葉を肯定した。
「ええ?わたしのことなんですけど・・・」
イザベルはそう言うと下を向いた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あれ、そうなんだ?ごめん」
ぺろ・・・。
岡本は舌を出した。
「イザベル、あなたは悪くないわ。二宮ったら、肝心要な時にいつもひっくり返るんだもんね。でもさ、あいつ本気であなたのこと好きで好きでたまらないのよ。わかってあげて」
真紀は優しくイザベルに言った。
「はい・・・」
イザベルはぼそっと小さく答えた。
「みんな、主賓が現れるのを今か今かと待ちわびているわ」
「あ、はい・・・」
きゅ・・・。
茂木がイザベルの手を取った。
「さ、行くわよ」
「はい。でも、二宮さんが・・・」
イザベルは怒りが静まると急に二宮のことが心配になった。
「あいつなら心配ないわ。俊介がちゃんと指導するから」
茂木が言うとイザベルはためらいがちに頷いた。
「はい・・・」
「だから、心配なんでしょ?」
真紀が茂木を睨んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「悪りぃ、悪りぃ・・・。あははは」
茂木が笑って誤魔化した。
「エルド、フェリシアスです」
エルフィアのエルドの執務室に地球派遣中の超A級SS、フェリシアスの精神体が報告に現れた。
「リーエス。ご苦労、フェリシアス。例のユティスの転送データの更新を事前にやっておく必要があるとのことだが・・・」
「リーエス、エルド。いくらシステム上に異常が見つかっていないとは言え、未だに黒幕の正体が不明のままで転送を強行することは避けねばなりません」
フェリシアスは慎重な上にも慎重な人物で、ピンチになればなるほど冷静さを発揮するエルドにとっては極めて信頼できる男だった。
「うむ。ユティスの生体振動パターン自体は変わることはないが、転送システムにデータ転送時の暗号化はいつでも変えられる。もちろん、転送ごとにすべての人物のパターンは毎回変えてはいるが、もしもということもある・・・」
「リーエス。それです。ランベニオが入手したユティスのパターンは生のままのデータではないと思われます。量子カオスで暗号化されたデータをいくらシステムの設計者といえども、生データに戻すことは不可能に近いですから・・・」
「だが、可能性は無限分の一とはいえ、ゼロではない・・・。というのだね?」
エルドはフェリシアスに頷いた。
「リーエス。万が一・・・、いや、もしもユティスの固有振動パターンの生データをランベニオが入手しているとしたら、やはり、宇宙のどこにいようと転送とともに転送データを書き換えることは可能です・・・」
「・・・」
エルドは最悪の状況を想像して黙った。
「エルド・・・?」
「うむ。悪かった。そうではないことを祈ろう。とにかく、今、われわれにできることはずべてする。そうだね?」
「リーエス。今にも、ランベニオは宇宙のどこかでデータを盗もうと暗躍しているかもしれません」
フェリシアスはじっとエルドを見つめた。
「リーエス。すぐに指示を出そう。最新のデータを更新したシステムは、アンデフロル・デュメーラだね?」
「リーエス。地球での転送は彼女に託すしかありませんから」
「リーエス、承知した。すぐに取り掛かろう」
「アルダリーム(ありがとう)、エルド」
「パジューレ(どういたしまして)」
「イザベルちゃん・・・」
しゅん・・・。
二宮は一人足早に去っていくイザベルを追いかけることができなかった。
(なんで、なんで、オレ嫌われちゃったんだろう・・・?)
二宮は考えたがどうしてもイザベルの感情を害した理由がわからなかった。
ぽけ・・・。
そして、二宮は数分そこに突っ立ていた。
「ちょっと、きみぃ・・・」
すたすた・・・。
そこに見回りの警察官がやってきた。
「あ、はい・・・?」
二宮は警察官を振り返った。
「そんな風に、ぼぉーーーと突っ立てたら襲われるよ」
「襲われる・・・?」
「お尻が無防備だぞ・・・」
にまぁ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちょっと、待ってください!」
二宮は警察官の言葉を理解していなかった。
「本官は、きみがスリに狙われると言ってるんだが・・・」
「へっ、スリっすか・・・?」
(大丈夫かな、この兄ちゃん・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「後ろポケットから財布が覗いて落ちそうになっているが?」
警察官は二宮にそれを気づかせてやった。
「そんなにないっす・・・」
「お金がないか・・・。よぉし、今日は本官も財布が厚い。よかったら、電車賃くらいなら貸してあげるが・・・」
「駐車違反のノルマを達成したんすか?」
「きみぃ・・・。そういうことは、もっと小さい声で話したまえ」
「おす・・・」
こそこそ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あれ、キャムルエル・・・?」
和人は地上32000キロ上空のエストロ5級母船にいるはずのキャムリエルを認めた。
「キャムリエルさんですか?」
その名前に石橋は和人が見つめる方向に目をやった。
「間違いない。キャムリエルだ・・・。だよね、アンニフィルド?」
和人はそう言うと、アンニフィルドに確認を求めた。
「リーエス。キャムリエルよ」
「どうしてここにいるんだろう?」
「転送されて来たんじゃない・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そりゃそうだろうけど、なんの用だろう?」
「だれかを探してるんじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そりゃわかってるけど、だれだろう?」
「可憐じゃない?」
「わたしを・・・?」
石橋はびくっとした。
「リーエス。彼、可憐にお熱なのよねぇ・・・」
にやにや。
アンニフィルドはキャムリエルが辺りを覗っている様子を眺めた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたし、そんなことおっしゃられても困ります・・・」
ぽっ・・・。
石橋はすぐにはにかんだ。
「キャムリエルはさっさと乗り換えたからねぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
キャムリエルは石橋可憐に熱を上げる前、和人と恋仲のユティスにぞっこんだった。
「石橋さんは?」
「元カレが冷たいんで乗り換える気十分じゃない?」
「そんなぁ・・・」
石橋は和人から目を逸らした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「元カレって、オレじゃないですよね?」
和人は念押しをした。
「他にキッスだれかとしたっけぇ、可憐?」
ぱち。
アンニフィルドは遠慮会釈なしに石橋にウィンクした。
「ええ・・・?し、知りません!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのですね、キッスはともかく、石橋さんとは恋仲になったことはありません」
ずばっ。
和人は言い切った。
「あ、キッスは認めた・・・」
「和人さん?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ち、違うってば、ユティス!」
和人は火消しにやっきになった。
「可憐、傷つくわよねぇ。キッスしたのに薄い仲だなんて・・・」
「キッス?う、薄い仲?」
石橋はすっかりうろたえた。
「濃い仲じゃないんでしょ?和人も本人を目の前にしてよく言うわ、そんな冷たいことを・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド、オレはそんな冷たくはない!」
和人が石橋とユティスに同意を求めた。
「そうです、アンニフィルドさん。和人さんは冷たくなんかないです」
石橋が即座に同意した。
「リーエス。和人さんはとっても温かい方なんですから」
ユティスも反論に加わった。
「和人はとっても温かいか・・・。意味深よねぇ、アンニフィルド・・・」
にた。
いつの間にかクリステアが話しに加わっていた。
こっくり。
「リエース・・・」
にたらにたら・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティスだから言わせられる言葉ね・・・。このスケベ・・・」
にたぁ・・・。
アンニフィルドが和人に微笑んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「うわぁ、そんな意味に取るな!」
「どう取ってもそう取れるわよぉ。あは」
アンニフィルドは陽気に言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「もう、きみたちの方がよっぽどスケベじゃないか!」
「あーら、からかってもらって嬉しいくせに」
にたにた・・・。
アンニフィルドはすっかり楽しんでいた。
「和人ったら女の子に冷た過ぎるわよねぇ。で、可憐はどうだったぁ?」
今度は、クリステアが石橋にきいた。
「え・・・?」
「だから、その時よ。その時」
「そ、その時は、和人さんお熱があったからです・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
そこで石橋は和人が風邪を引いてお粥を作った時のことを思い出した。
「その時、可憐にお熱だったんだてぇ・・・」
てにをはを大いに都合よく変換させて、アンニフィルドがユティスに流し目を送った。
「和人さん・・・?わたくし、お話があります」
「ち、違う。誤解だよ、ユティス!」
和人はまたしても慌てて両手を振った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。わたくし、存じ上げていますわ。大丈夫です」
にこ。
めっ。
ユティスが和人に一瞬顔をしかめた。
「ぜんぜん、大丈夫じゃないじゃないか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それより、キャムリエルさんはきっと秘密の任務なんです」
石橋はこれ以上SSたちにかき回されたくなかったので、話をキャムリエルに戻した。
SSたちが決して遊びで転送システムを使ったりしないことを知っていた。
「秘密の任務って、SSは全部そうじゃないですか。あは・・・」
和人がクリステアを見て苦笑いした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ということはと、キャムリエル、トレムディンにも内緒で来たわけねぇ・・・」
トレムディンは助手のドクターで石橋可憐を巡ってキャムリエルとはライバルだった。
「まだ、ご挨拶はしてません」
「可憐にも内緒とは、最重要任務だわぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
さく、さく・・・。
失意の二宮がようやく宴会場に辿りついたのは、イザベルたちに遅れること30分だった。
「うっす。遅くなりました」
「おい、二宮、どこをうろついていた?」
「うーーーす。ちょっと、花でも見てましたっす」
すすす・・・。
二宮を見つけたイザベルは真紀たちの影に隠れてしまった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ここだって満開だぞ。わざわざ他所へ行かんでも・・・」
にたらぁ。
--- ^_^ わっはっは! ---
俊介は、アンニフィルドたちキレイどころがお喋りに夢中になっているのを眺めて、楽しそうに言った。
「後は散るだけだけどな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんですって?」
きっ。
岡本が俊介を睨んだ。
「桜だよ。桜!」
「常務、わたしの名前、『桜』なんですけど・・・」
女性社員の一人が思いっきり俊介を睨んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「おわぁーーー!違うったら、桜というのはだな、オレたちの周りで満開の桜のことだ」
俊介は慌てて補した。
「知ってます。言ってみただけです」
彼女はぼそりというと、また自分たちのお喋り仲間の中に加わっていった。
「はぁ・・・」
二宮はそんな馬鹿話が聞こえてないようだった。
「そこにしかない花だったんすよぉ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ほう、満開の桜にあってなお目立つか。よほど綺麗な花のようだな?」
「うっす。しかも、今日の花見の主役っすよぉ・・・。ありゃあ・・・」
きょろきょろ・・・。
俊介は、SSたちの影に隠れたイザベルに気づいていない二宮が、猛烈に滑稽に見えた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「うっす・・・」
「大輪のバラを摘み損なって棘が刺さったのよ。ぐっさりとね・・・」
イザベルを庇いながら真紀がこっそり言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「くっくっく・・・」
岡本たちが忍び笑いを始めた。
「そこ、いいっすかぁ?」
「おう、座れ、二宮」
俊介はアンニフィルドが立った後に二宮を座らせた。
「失礼します」
どか・・・。
二宮はイザベルに気づかないまま俊介に話しかけた。
「常務、オレ、わかんないすよぉ」
「非常にまずいな・・・」
「まずいっすか、やっぱり・・・?」
「うむ。キーパースンがだれだかわからんヤツに仕事は任せられん」
--- ^_^ わっはっは! ---
「し、仕事のことっすかぁ?」
「違うのかぁ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、それもそうっすけど・・・」
「と、思ってな、その花、姉貴が摘んで来ている。ほれほれ!」
俊介は真紀にそこを空けるよう合図すると、そこにイザベルが現れた。
「あ・・・」
二宮は口をあんぐり開けたままイザベルを見つめた。
「イザベルちゃん、悪かったっすよぉ・・・。おす・・・」
「また、おす・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
くす・・・。
イザベルはどうしても道場の癖が抜けない二宮が無性に可笑しくなった。
「オスって『押忍』って書くんでしょ?」
真紀がイザベルに確認した。
「はい。『押して忍ぶ』ってことです」
「押し捲ってばかり、ぜんぜん忍んでないわね、二宮・・・」
「おす・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮ったら、もう!」
「わっはっは!」
「あははは!」
二宮の返事にセレアムの一同は大笑いした。
「アンデフロル・デュメーラ、この辺が最初にブレストたちが転送された公園だね?」
「リーエス、SS・キャムリエル。桜並木を抜けた広場のようなところです」
しゅん。
エストロ5級母船のCPUの擬似精神体がキャムリエルの側に現れた。
「シェルダブロウの話だと、ここで一回ブレストはそのランベニオというヤツと会話したというんだ」
キャムリエルは慎重に辺りに目を配った。
「リーエス。しかし、何ヶ月も前のことです。ここにその音声痕跡を探すのは無駄ですが?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わかってるよ。ぼくが知りたいのは、その内容を確かめることだ」
ちらちら・・・。
じろじろ・・・。
花見に相応しいとも思えないいでたちのキャムリエルを花見客は横目で追った。
「注目を浴びていますよ」
「みんな、ぼくをロックスターか映画スターと間違えてるんだよ」
「地球人にとって、SS・キャムリエルはスターマンには違いないですけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
キャムリエルはちっとも気にしていない様子だった。
「うーーーむ・・・。とにかく、あの言葉だ・・・。なにを意味してるんだろう?」
「『予定通り、地球に到着したぞ、ランベニオ。ここは、あんたのいる・・・によく似ているよ・・・』という一言ですね?」
アンデフロル・デュメーラは冷静に言った。
「リーエス!それだよ!ブレストはその時にやりと笑ったんだ。なにかよほど面白いものだったんじゃないかな?なにかを皮肉ったとか・・・」
「それはエルフィアにはなくて、ランベニオの住む世界にあるものということですか?」
「かもしれない・・・」
キャムリエルは立ち止まってその手がかりを探そうとした。
「しかし、ここは桜という花が満開で、ブレストが現れた時とは様相がまるで違います」
「それなんだよ。ウィークデーの昼日中に可愛い女の子たちがこんなにいたわけがない」
「・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのですねぇ、わたしの意味するところは別ですが、SS・キャムリエル」
「知ってるよ。ほら、木々の間から聳えている建物がたくさんあるだろう。ああいうのが、そうじゃないんじゃないかなぁ」
「そういう景色は地球はおろか、カテゴリー2と3であれば、どんな世界にもあります」
「いや、それでも、なにかあるんだ。でなきゃ、ブレストは言わないよ」
「どうして、そう思われるんですか、SS・キャムリエル?」
「ブレストが地球人の男に語りかけた言葉・・・」
「テラですが・・・」
「そう、それ。テラだよ。テラ!」
「地球での意味としては、自星の呼び名のほかに、仏教寺院のことを『寺』と言います」
「寺院?よく知ってるんだね、アンデフロル・デュメーラ」
「アルダリーム、SS・キャムリエル。寺とはこういったものです」
しゅん。
キャムリエルの前に寺の立体映像が出た。
「うーーん・・・。実にすばらしいじゃないか・・・」
キャムリエルは大伽藍のイメージに思わず声を出した。
「で、ここに一番近い寺にはこういうものがあります」
アンデフロル・デュメーラの指差す方向には日本でも有数といわれる草浅寺の五重の塔がビルの谷間に控えめに聳えていた。
ちょこん・・・。
「なんだい、あれは・・・?」
「五重の塔と呼ばれる仏舎利を祭った建物です」
「仏舎利?」
「仏教の開祖のシャカの骨ということです」
「シャカの墓かい?」
「どうでしょう?シャカの時代は2000年以上も前です。今となっては確かめようもありませんが・・・」
「まぁ、いいさ。で、ブレストはあれを見たんだろうか?」
キャムリエルはビルの背景にした五重の塔をじっと見つめた。
「見たとは思われますが、果たして心に留めたかどうかまでは不明です」
「うーーーん・・・」
キャムリエルは腕組をしたまま、それを見つめ続けた。
「そうだ。あの四角い屋根を円にしてみてもっと滑らかな感じにするとどうだろう?」
キャムリエルは突然思いついたように言った。
「こんな具合ですか?」
ぱっ。
アンデフロル・デュメーラがキャムリエルの思念を映像化し修正を加えた。
「そうそう。それで、実物がもっと大きいと仮定してみたら・・・?」
「こんな具合ですか?」
ばん。
それは先細りの円錐に円盤が5つ重なった滑らかな建物だった。
「・・・」
キャムリエルはそのままそれを見つめた。
「小さな窓をたくさんつけてくれるかい、アンデフロル・デュメーラ。実物は4、5百メートルあるくらいの・・・」
「リーエス、SS・キャムリエル」
ばん。
「夜景にして見せてよ」
「リーエス」
ぶわんっ。
アンデフロル・デュメーラによってさらに映像に夜景修正が加えられ、それは究極のカテゴリー3の建物に見えた。
ちかちか・・・。
建物の明かりがいたるところで明滅して美しく浮かび上がった。
「アンデフロル・デュメーラ・・・」
「リーエス。これはカテゴリー2以上の極めて高度な建築テクノロジーを持った世界の建物です」
「これだ・・・」
キャムリエルは確信した。
「五重の塔のもっと近くに行ってみようよ」
「リーエス」
しゅん・・・。
そして、花見客の目の前でキャムリエルは草浅寺に向けジャンプした。
「きゃ!」
「わぁっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
エルフィアの文明促進推進支援で支援先に派遣されるエージェントやSSたちには、その活動支援のために、必ずエストロ5級母船がその支援先の惑星上の周回軌道にステルス待機することになっていた。
ぶわぁーーーん。
「リーエス。こちら地球待機中のアンデフロル・デュメーラ、データ共有のためのアクセス許可をリクエストします」
ぴっ。
エストロ5級母船は超銀河間転送を可能にしたエルフィアの最新鋭母船であり、直径が優に2000メートルあった。
「リーエス。いアンデフロル・デュメーラ、アクセスコードの確認を取りました。データ転送及び共有化を開始します」
ぴっ。
そして、そのエストロ5級母船は半径数十億光年の先にあっても互いに瞬時に連絡し合えるネットワークを築いていた。
「超A級エージェント・ユティスの生体振動パターンの照合をします。各機の照合を開始してください」
アンデフロル・デュメーラはユティスたちのエルフィアへの超銀河間転送に備えての準備に入っていた。
「最新振動パターンデータの更新をします」
個人の生体振動パターンは一つとして同じものはなく、したがって個人を特定するバイオメトリクス情報で、極めて高度なセキュリティ管理が行われていた。
「リーエス。照合開始します」
通常はこの類の個人情報は量子暗号化の上にカオス処理が成されており、地球のバイナリシステムはおろか、現状のカテゴリー4文明では唯一エルフィアのごくごく一部の人物だけにそれを解読できる権限が与えられていた。
「エルフィア本星のデータベースにアクセス開始」
ぴっ。
ユティスの転送中における拉致を防ぐべく、エルドの指示の下、アンデフロル・デュメーラは新たな暗号化パターンを掛け直して転送システムのデータを更新することにした。
ぶわんっ!
キャムリエルが草浅寺の五重の塔の前に現れると、そこでも観光客たちが度肝を抜いた。
「わぁ!」
「きゃあ!」
きょろきょろ。
「ちょっとジャンプしただけだってのに、なんだってみんな驚くのかな?」
--- ^_^ わっはっは! ---
キャムリエルがアンデフロル・デュメーラに言ったが、エストロ5級母船のCPU擬似精神体が見える人間は少なくなかった。
「気のせいでしょう・・・」
「そっかぁ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「さて、これが五重の塔だね?」
「リーエス。これが先程のイメージとどういうところが似てるかだけど・・・」
「まず中心の搭が先細りになっていることですね?」
「ああ。それに5層の屋根・・・。これが外に広がる居住区かなんかになるんだ・・・」
キャムリエルは感慨深げにそれを眺めた。
「リーエス。構造的には中心搭には問題はなさそうですが、5重のデッキ部分は補強が必要でしょうね」
「わかった。さっきのイメージと重ね合わせられるかい、アンデフロル・デュメーラ?」
「リエース」
ぽわん。
それはなんとも不思議な光景だった。
「・・・」
「・・・」
「なんの特撮かしら?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「さぁ・・・」
「ねぇ、ねぇ、22世紀の五重の塔ってあんな変な建物になるの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
観光客たちはキャムリエルとアンデフロル・デュメーラが合成イメージと並べて五重の塔を眺めているのを物珍しそうに見守っていた。




