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354 練習

「はい、アンニフィルドです。今日はイザベルの歓迎会兼お花見会なんだけど、二宮ったら、イザベルを内緒で別の場所に呼び出して、二人だけの時間を作ろうとしてるのよぉ。アイデアとしては月並みだけど、二宮もやるじゃない。それで、イザベルったら案外・・・。あはは。面白くなりそうね!」

■練習■




「さてさて、二宮の昇段も決まったし、イザベルの入社式も無事済んだし、エメリア・エメリアナも地球数周したし、まぁ、上出来だな・・・」


ぱん、ぱん。

俊介が営業書類に判子を押しながら言った。


「ほれ、持って行っていいぞぉ」


ほい・・。


「どうも。で、常務、地球数周ってなんですか?」

石橋がそれを受け取りながら質問した。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ああ、それか・・・」

「各国の要望を聞いていたら一周じゃ終わらなかったのよ」

側で真紀が答えた。


「そんなにたくさんのところに降りたんですか?」

石橋もニュースでセレアムの母船が地球で外交活動していることを知っていた。


「ああ。セレアム土産があっという間になくなったらしい・・・」

にた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そんな超ハイテク品をばら撒いて良かったんですか?」

石橋は心配そうに言った。


「心配いらないわ。完成品の類は渡していないもの。お土産に渡したもののほとんどは特産品だけよ」


「特産品?」

「そうだな。農産物や海産物、それに貴金属類」

俊介は答えた。


「うわぁ・・・、すてき・・・。金とか銀とかプラチナのアンクレットとかネックレスとか、ピアスですか?」

石橋は夢見るような目になった。


とろぉーーーん。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あのなぁ、石橋。仮にもカテゴリー4手前の文明人が手土産にそんなものを与えると思うか?」

俊介は石橋の単純な思考にもの申した。


「常務がそうしたようにビールとか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はずれ!」

「え?他になにがあるんですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「友好の象徴だ。友好の象徴」


「友好の象徴ってなんですか?」

仕方なしに真紀が俊介の後を続けた。


「地球で言う盾よ。友好記念で訪問国の元首に授与したの」


「盾ですか・・・。」

石橋にとって貴金属は身につけるべきもので、盾ではあまり有難くない使い方のように思えた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ああ。地球人には作れない金属セラミック製のな」


「ええ?金属セラミック製ってどういうものなんですか?」

石橋はこういうことにはほとんど知識がなかった。


「金属とセラミックの中間物質とでも言うかな。極めて軽くて強固なんだ。ダイヤモンドで傷つけることもできない」

俊介は石橋がわかり易いように説明した。


「わたしなら、ダイヤの方がいいです」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そりゃ、わたしだってそうよ」


にこ。

真紀が石橋に同意した。


「だが、経済的にも科学的にも、地球人にとって価値はそっちにあるんじゃない・・・」

俊介は静かに言った。


「あのね、石橋、エメリア・エメリアナやアンデフロル・デュメーラ等の宇宙母船はそういった金属セラミックで作られているのよ」


真紀はそれがどれだけ重要で各国政府が欲しがっているものか、石橋に教えようとした。


「じゃあ、船体の材料の見本サンプルなんですね?」

突然、その価値がいかほどのものか石橋にもわかってきた。


「まぁ、今の地球のテクノロジーじゃ作れんがな・・・」

「あのサンプルを分析するのが精一杯ね」

俊介と真紀は見合った。


「それほどの価値を、各国が見極められるかだ」

「そういうことよ、石橋。大叔母様は盾の材質について一言も言ってないの」


「一つのテストさ、地球人のな」

真紀と俊介は石橋が理解しているか待った。


「とっても貴重なんですね・・・。わたしも欲しいです」

「ああ、オレもだ。大儲けできること請け合いだな」

俊介は石橋に頷いた。


「実はここにサンプルがある。これだ・・・」

俊介はその虹色に上品に輝くそれを石橋に見せた。


「うゎぁ、きれい・・・」


「でしょ?」

真紀がにこやかに言った。


「真紀さん、大叔母さまにお願いできますか、ペンダントにできますかって?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「石橋・・・?」

「わかっとらんな・・・」

真紀は首を横に振り俊介は頭を抱えた。




そして土曜日になり、二宮の言うとおりに桜満開の公園に来たイザベルは、二宮にしてやられたと思った。


「あのぉ・・・二宮さん、会社のみなさんは?」


「うす。ちゃんとオレがいます。必要かつ十分っすよね?」

にんまり。


--- ^_^ わっはっは! ---


「二宮さん・・・?」

「うっす?」


「デートならデートとそう言ってください・・・」

ぷくぅ・・・。


「いや、そうなんすが、自分みんなを誘ったんすよぉ、一応・・・」

「一応なんですか・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あ、あはは・・・。ダメっすかねぇ・・・」


「知らない・・・」

ぷい。

イザベルは横を向いた。


「けど、みんなどういうわけか、今日に限って忙しいって・・・」

「ご自分でみなさんに頼んで気を利かせてもらったってことですね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


(あり・・・。バレてたんすか・・・。ここはとにかく・・・」


「そうとも言うんすかねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あのですね、二宮さん?」

「うす・・・」


「正直言って、二宮さんと二人きりのお花見デートってのは、そんなに嫌でもないんです」

にこり。


「うす・・・」


「でもです!」


きりっ。

イザベルは一転少し語気を強めた。


「うす・・・」

「ウソはいけません。わたし、それを言ってるんです。おわかりですよね?」


「うす・・・」

二宮は神妙な目になった。


「・・・」

「で、おっしゃることはそれだけですか・・・?」

イザベルは二宮の謝罪の一言を待っていた。


「うす・・・」

「・・・」


「イザベルちゃんと、二人っきりのデートがしたかったっす・・・」

「・・・」


「イザベルちゃん・・・?」

「ばか・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---




「てな具合で、絶対見ものだって!」

「でしょぉ!?」


「きゃははは!」

「うわぁ、面白っ!」

「二宮は二宮だからねぇ!」


そろそろ・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


どん。


「こら、押さないでよ、岡本」

「しぃーーー!二人に聞こえちゃうじゃない!」


「茂木、あなたこそ、声大きいわ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わかったから、ちょっと離れなさいよぉ」

「へいへい・・・」


そろり、そろり・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「しかし、あなたたち、人のメールを盗み見するのは例え社内だってよくないわ」

真紀が岡本と茂木を窘めた。


「固いこと言わない、真紀」

「そうよ。イザベル宛てのメールに、なにげに社員グル-プのBCCを入れる二宮がアホなのよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そうそう。何時に公園のどこそこだって、社内全員にばればれじゃない?」


「あいつ・・・、どこまで抜けてるのかしら・・・」

真紀は頭を抱えた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「いつもビジネスの癖かしら。俊介の指導が効きすぎたのね・・・」。

岡本は俊介のやり口を承知していた。


「そりゃそうでしょうけどぉ・・・」

真紀は不満そうに言った。


「第一、社のメールを個人的な用事に使う二宮が悪い」

開発部長でセキュリティの管理者を代表する岡本は断言した。


「そうそう」


「おーーーい、そこで何してるんだぁ?」

だしぬけに、岡本たちのところに俊介が現れた。


「何してるって、二宮とイザベルのデート・・・」

「げげ・・・」

「俊介!」


真紀たちが振り返ると俊介がにたにたしながら立っていた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「うら若くもない女が3人、一緒に後輩の恋人たちのデートの覗きかぁ?」

「なんですってぇ?」


きっ!

3人娘たちは俊介を睨んだ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「おーお、怖ぇー、怖ぇー」

俊介は肩をすくめた。


「場所取ってあるんだ、俊介?」

真紀が確認した。


「当ったり前だ。出てくる前に石橋たちに指示したぜ」

「ありがとう。で、アンニフィルドたちは?」


「ユティスと和人のお守りだあ」


「じゃ、あなた独りでここに来たわけね・・・?」

真紀は気の毒そうに言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「そんなわけないだろ、姉貴?」

俊介は構わず一歩踏み出した。


「だって独りじゃん?」

茂木も周りを確かめながら言った。


ぽわぁーーーん。

その時、俊介の左の空間が揺らぎ、人影が現れた。


「お待たせ、だぁりーーーん!」

姿がはっきりすると、それはアンニフィルドだった。


「おう」


ぎゅぅ・・・。

ちゅ。


アンニフィルドは半ば目を閉じて俊介の首に抱きつくとさっとキッスした。


「おいおい、いきなりだなぁ・・・」

「いいじゃない、だれもいない・・・」


「・・・」

「・・・」

「アンニ・・・」


その時アンニフィルドは目を点にした会社の3人娘を目にした。


「いた・・・。覗き魔」


--- ^_^ わっはっは! ---


「だ、だれが覗き魔よぉ!」

むっかぁ・・・。


「そうよ。そっちがいきなりいちゃつき始めたんじゃない!」

むかむか・・・。


「俊介、アンニフィルド、ここは公共の場所よ。少しはわきまえなさい!」


きっ。

真紀が俊介とアンニフィルドを睨んだ。


「おーお、みっともない。一人もんの僻みよぉ。気にしないで行きましょう、俊介」

にこ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「お、おおう・・・」


ぴとぉ・・・。


アンニフィルドはまったく動じる様子もなく、右腕を俊介の左腕に絡ませると、頭をその肩に完全にあずけた。


「僻みですってぇ・・・」

「・・・」

「う・・・」


アンニフィルドの止めの一言で3人娘は黙り込んだ。


「く、悔しい・・・」

「真紀・・・」

「俊介、見てらっしゃい・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---




お花見会は当初イザベルの歓迎会を兼ねていたが、二宮の独断プレーで社員たちはばらばらに集まることになった。


「よく、場所、取れましたね、石橋さん?」


和人は辺りの人だかりを見回しながら、桜の花が満開の広々とした場所で、ブルーシートを広げている石橋に感心した。


ばさ、ばさ・・・。

和人はそれを手伝った。


「ええ。前日に場所取りに置いておいたんです」


にこ。

石橋は自然な笑顔で答えた。


ぱさ、ぱさっ・・・。


「でも、シート張りは当日の6時以降じゃないと公園事務所に怒られちゃうんじゃないんですか?」

和人はブルーシートを広げるのを手伝いながら石橋のことを気にした。


「ふふ。ですから、これ・・・」


ささ。

石橋はバッグからあるものを取り出した。


「それはなんでしょうか?」


可愛い犬の横にそれは描かれていて、ユティスはそれを覗き込み確認したがった。


「チョコ・ソフトクリームの看板ですね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ユティス・・・?」


和人は、地球人なら日本人なら、たちどころにわかる、その危険なサインを認めると笑い始めた。


くすくす・・・。


「チョコ・ソフトじゃないの?」

真面目くさってクリステアも不思議そうに言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「犬もチョコ・ソフトが好きなの?」

「クリステア・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはは。クリステアまで、なにを言ってるんだい、きみたちは!」

和人はついに笑い転げた。


「うふふ。お二人ともなにをおっしゃってるんですか?これはですね・・・」


石橋が正解を口にしようとした時だった。


「なにそれ?あ、ワンちゃんの落し物じゃない。それ、そんなに面白いの?」

アンニフィルドが俊介に腕を絡ませたまま4人を見つめた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ワンちゃんの落し物ですか?」

ユティスはわけがわからない様子で、アンニフィルドを見た。


「リーエス。確か正確な地球語では『ウンコ』でしょ?」

アンニフィルドはこういう地球語だけはユティスよりたくさん知っていた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あ、言っちゃったぁ・・・。あははは!」

和人はお腹を抱えて笑い転げた。


「『犬のクソ』の絵持ってなにしてんだ、石橋?」

俊介はにこりともしないでその様子を眺めた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「これを前の日にこの辺りの芝生に刺しておいたんです。うふふ」


「そういうことか・・・。やるな、石橋」

俊介は感心した。


「はい。ありがとうございます」




その時、隣の女の子数人のパーティーの一人が言った。


「気をつけたほうがいいわよ。この辺りネコの糞だらけだったって、さっきの人たち場所変えしちゃったから・・・」


じぃ・・・。

彼女はそのグループが去っていった方向を見つめた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「うっそぉ・・・?」

「ホントらしいわ。あ、そこ!」


ころん・・・。


「きゃあ!」


ぴょん!

女の子は慌てて飛び退いた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「わたし踏んじゃったぁ・・・?」

「ぎりぎりセーフね」

「ふぅ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「変えよ、変えよ・・・」

「うん」




「二宮さん、それでもこれだけ満開だと素敵ですね」

「うす。そう思ってっすね、自分は・・・」


さく、さく・・・。


二宮とイザベルの二人は、くっ付くでもなく離れるでもなく、くっ付いたり離れたりしながら一緒の歩調を取り、桜の続く公園の道を歩いていた。

す。


ぴた・・・。

イザベルが立ち止まった。


「うす?」


「もう、その道場挨拶は止めにしていただけませんか?わたし、なんか稽古の続きしているみたいで、緊張しちゃうじゃないですか・・・」

「うす。すいません・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「二宮さん、もう黒帯なんですよぉ・・・?」


にこ・・・。

イザベルはちょっと嬉しそうな笑みをこぼした。


「うす。でも、まだ自分もらってないっすから・・・」


「大丈夫です。十人組手を完遂したんですよ。自信を持ってください」

にっこり。


「本当っすかねぇ・・・?」

二宮はそれでも心配そうだった。


「そうです。もう、いつも道場言葉じゃ、わたし落ち着きません。せっかく二人きりなんですし、ムードってのが・・・」


イザベルは稽古中は髪を上げて動きの邪魔にならないようにしていたが、今はそれを下ろしてさらさらのスーパーロングを波打たせていた。


ふんわり・・・。


「手くらい繋いでください・・・」


ぽ。

そう小声で言ったイザベルの頬が赤く染まった。


「お、おす」


--- ^_^ わっはっは! ---


ささ。


きゅ・・・。

きゅ・・・。


二宮はイザベルの手を握るとイザベルはそれを握り返し、二人は幸せ感いっぱいになった。


「イザベルちゃん・・・。めちゃ可愛いっす・・・」

「もう・・・。そんなの、今日、会った瞬間に言って欲しかったです・・・」


「言ったすよぉ・・・。心の中で・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わたしには聞こえません」


(原点100・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


む・・・。

イザベルは少し拗ねたように顔を背けた。




和人たちは隣の女の子が退いていった理由を知る由もなかったが、辺りは優に十数人が座れるほどブルーシートを敷き終えていた。


「これで、落ち着けるわね」


す・・・。

クリステアがそこに腰を下ろした。


「それにしても、イザベルさんも真紀さんたちも遅いですわ・・・」

ユティスは辺りを見回した。


「姉貴なら、もう着いてるぜ」

俊介はアンニフィルドにウィンクすると断言した。


「リーエス。またどっかのカップル覗いてるのよぉ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「まぁ・・・」

ユティスは二人を見て呆れたように言った。


「覗き?真紀さんが?」

和人がありえないというようにユティスと見合った。


「まだ、任務が完了してないのよぉ」


--- ^_^ わっはっは! ---


にた・・・。

アンニフィルドがクリステアと石橋に笑いかけた。


「任務ですか?」


くす・・・。


「あははは!」

「ふふふふ!」


突然、石橋とクリステアが笑い出した。


「二宮先輩たち、もう着いてるんなら、どうして、こっちに来ないんだろう?」

和人がいぶかって俊介とアンニフィルドにきいた。


「野暮天ねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そりゃな、あまえにはユティスがいて、オレにはアンニフィルドがいて、ヤツにはイザベルがいる。だが、二宮はイザベルがいると感じることができん。つまりだな、物理的チャンスを得られないでいる・・・」


「物理的チャンスですか?」

和人が首を傾げた。


「そ。二宮、キッスどころか手も繋げないで、フラストレーションの塊になってるってことね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


クリステアが解説した。


「ひたすらそのチャンスをうかがってんのね」

アンニフィルドが当然のように言った。


「あ、そういうことですか・・・」

「リーエス」


「二宮も手を焼いてるか。イザベル、あれでなかなか固いからな」

俊介が言った。


「しかし、主賓ですからね、イザベルさん」


ぱっ、ぱっ・・・。

石橋が用意したバスケットを広げ始めた。


「それ、あなたが作ったの?」

アンニフィルドは石橋のバスケットを覗き込んでびっくりしたように言った。


「あ、はい。でも、母も手伝ってくれたんで・・・。みんなで召し上がってください」


バスケットにはサンドイッチのほか、ウィンナーやら唐揚げやら、フルーツもあって、実にカラフルで思わずつまみたくなるほどだった。


「石橋さんステキです。とっても美味しそうですわぁ」


にこにこ。

ユティスが石橋を褒めた。


「そんなぁ・・・」

ぽっ。


「いや本当、実に美味そうだ。どれ・・・」


ひょい。

俊介は唐揚げを一つ掴むと口に放り込んだ。


ぱく。

もぐもぐ・・・。


「美味い!」


「こら、俊介、一人で平らげる気?」

アンニフィルドが俊介を睨んだ。


「いや、これは単なる味見だ。な、和人?」

「あ、そうです・・・」


「うふふ。では、こちらはわたくしからです」

ユティスも自分のバスケットを開け始めた。


「ほう。そっちはなんだい?エルフィア料理かい?」


ぴしっ。

覗き込もうとした俊介の手をアンニフィルドがしっぺした。


「なんだよぉ、アンニフィルド、痛いなぁ」

「お行儀が悪いわよ」




さく、さく・・・。


「真紀さぁ、女3人並んで歩いて、なんか空しくならない?」

茂木が二宮たちを追いながら呟いた。


「だから、わたしはそんなつもりないってば・・・」

真紀は反論しようとした。


「だったら、なんでここにいるのよぉ?」

岡本が言った。


「そうそう、早く約束の場所に行こうよ。俊介がみんなのお弁当の美味しいところを全部食べてしまってるわよぉ」

「でも、主賓がこれじゃぁ・・・」


真紀はイザベルを連れ出した二宮がちゃんと集合場所に戻ることに疑問を感じていた。


「じゃ、適当なところで、二人に声を掛けるしかないわね」

茂木が言った。


「適当なところって?」

真紀は茂木を見つめた。


「キッスの後に決まってるでしょ!きゃ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ば、ばか、こんな人がたくさんいて、そんなことできるわけないじゃない」

真紀は真っ赤になって茂木を否定した。


「じゃあ、どこで声掛けするのよぉ?」

「だいたい、なぜ真紀が赤くなってるのぉ?」

茂木と岡本は見合った。


「わかったわよぉ。今、行ってくる!」

さく、さく・・・。


「ちょっとぉ、真紀、なにも今行かなくても」


「直ちに新人歓迎会に拉致された主賓を連れ戻してくる!」

ずん、ずん・・・。


「大袈裟ねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


真紀はイザベルたちに近寄っていった。




ばくん、ばくん・・・!

イザベルの手を握った二宮の心臓は早鐘のようだった。


「どうかしましたか、二宮さん?」

「うす・・・、え、いや、はい。なんでもないっす」


(ど、どうしよう・・・。周りのみんなから注目されているようで、めっちゃ恥ずかしいっすよぉ。会社の集合場所からこれだけ離れてるから大丈夫だと思うけど、よもや・・・)


その二人に一人の女性が近づきつつあった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「満開の桜、きれいですねぇ・・・」


にっこり。

イザベルは、そこだけ周りから影になったところで、桜を見上げて最高の笑顔を見せた。


「はい。めっちゃ綺麗っす・・・」

二宮はイザベルに釘付けだった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「二宮さん、わたし、二宮さんのこと誇らしく思っています」

ゆっくりとイザベルは二宮に視線を移した。


「へ?」


「わたしの命の恩人だし・・・、ちゃんと約束通り黒帯を取ってくれました・・・。わたしを一本勝ちで見事に・・・」


うるるる・・・。

二宮を見つめるイザベルの瞳が潤んでいた。


「う・・、あ、はい・・・?」

「だから、決めてたんです。二宮さんが黒帯取ったらその時には・・・」


するする・・・。

イザベルは両腕を二宮の背中に回した。


どっきん!

ばくばく・・・!


「・・・」


こと・・・。

そして、イザベルは顔を二宮の胸に埋めた。


「・・・」

「こ、ここで・・・、け、結婚式っすかぁ・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぽん・・・。

二宮の両手はイザベルを抱きしめる代わりにその両肩に置かれた。


「はい?」

「・・すから、神父、いや神主・・・、いないっすよぉ・・・」。


--- ^_^ わっはっは! ---


がばっ!


「準備ってもんが・・・」

二宮はほとんどパニックになっていた。


がらがらぁ・・・。

さっ。


イザベルは、二宮の言葉でいきなり数千光年ワープして現実に引き戻され、ムードをぶち壊しにされた気持ちになった。


「ん、もう、知らない!」


ぽろ・・・。

潤んだ瞳からは、最初の色とは別の色の涙がこぼれ落ちていった。


「イザベルちゃん・・・?」


ささっ。

イザベルは二宮に巻きつけた腕を解いた。


「ちっともわかってくれないんですね、私の気持ち!」




(あの馬鹿ぁ・・・)


その一部始終を見ていた真紀は、さっきの勢いが失せてしまった。


--- ^_^ わっはっは! ---


(こら、二宮!余計なことに気を移しちゃって!イザベルは今は自分だけを考えてもらいたいってところなのよぉ!あなたにぎゅっと抱きしめられたいのよぉ!ムードをじっくり味わいたいのよぉ!それが結婚式だの、神父だの、自分の都合を押し付けて・・・!ばか、ばか、ばか!この恋愛ど素人!白帯め!祐樹の勇気でなし!)


--- ^_^ わっはっは! ---


どん、どん!


「ん、もう!」


真紀は心でさんざん悪態をつくと、その場で足を踏み鳴らした。

たったった・・・。


さくさく・・・。

そこに、岡本たちが追いついてきた。


「真紀・・・?」

「ああ、岡本、茂木・・・」


「で、どうしたのよ?」

「どうしたもこうしたもないわ!」


むっかむか・・・。

真紀は頭にきていた。


「二宮のヤツ、黒帯返上だわね!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「え、取ったの黒帯?」

茂木が聞き返した。


「ええ。道場だけで有効のね!」


--- ^_^ わっはっは! ---


そして、岡本と茂木はへそを曲げたイザベルが二宮から離れていくのを見た。


「どうする・・・?」

茂木はイザベルを見てすぐに真紀を見た。


「しょうがない、助けるしかないでしょ・・・。イザベルを」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あ、そっちなの?」


くすっ・・・。

岡本は笑いそうになった。


「当然。被害者だからね。それに、今日は新人歓迎会よ。主賓がいないと始まらないわ!」


「そりゃ、そうだ」

茂木も同意した。


「二宮は?」

「ほっといて大丈夫よ。待ち合わせ場所にしか行く場所ないんだから」

「つぅことね・・・」


「行くわよ!」

「了解・・・」

「へいへい・・・」


3人はイザベル回収に向かった。




ユティスたちの場所には社員たちがぞくぞくと集まっていた。


「真紀さんは、まだ来てないんですか?」

社員の一人が言った。


「主賓も来てないか・・・」

そこにはイザベルの姿もなかった。


「そうなんです。これじゃ、新人歓迎会が始まらないです」

石橋は困り顔になった。


「お、和人、そいつらはさておき、ビールはどこだ?」

俊介が一番気になっていることだった。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あ、それなら、今出すわ・・・」


にっこり。

アンニフィルドが俊介に微笑んだ。


「アンデフロル・デュメーラ、俊介にビールお願い」

「リーエス、SS・アンニフィルド」


ぽん!

ぽん!


--- ^_^ わっはっは! ---


「おお!」

「すごい!」


瞬時に、社員の輪の中に世界中の有名ビールが50本くらい並んだ。


「これでいい?」

アンニフィルドが確認した。


「お、おう。ちゃんとハイネカンあるじゃないか。完璧だ」

俊介はすぐに好みのブランドを探し当てた。


「ほれ、みんなに配ってくれよ、和人」

「はい。さぁ、みなさん、ビールを持ってください」


「でも、乾杯は主賓が来ないと・・・」

石橋が不安そうに言った。


「心配するな、石橋。練習、練習だよ。和人、ということで練習してみろ」

にた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あ、はい。ではイザベルさんの歓迎会の乾杯の練習です・・・」


ぷしゅ・・・。

ぷし・・・。


そこにいる社員一同が缶を開け右手に持った。


「乾杯の練習の乾杯!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「乾杯!」

「乾杯!」


こうして、イザベルの歓迎会兼お花見会は主賓不在のまま幕開けた。

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