348 歓談
「アンニフィルドです。パーティーも進んできて、参加者は思い思いの話し相手を見つけては歓談しているんだけど、今後のストーリー展開に繋がる会話もあるから、注意して見てね。だれがどこでってのは内緒よぉ。あは!」
■歓談■
「・・・」
「・・・」
エルドのショッキングは説明を聞き、和人の両親はしばらく話せずにいた。
「・・・」
何分か経ち、やっと和人の父親が口を開いた。
「けっこうです。わたしは宇都宮の名前より息子が生き続けることの方が重要だ。エルドさん、あなたの申し出を了解しますよ。母さんは?」
「もちろん、けっこうですわ」
母親も同意した。
「じゃあ、エルドさん、このことはここだけの秘密ということにしましょう。わたしらも誰にも言うつもりはありません。沙羅や亜矢にもね・・・」
に・・・。
父親がにやりとした。
「アルダリーム・ジェ・デール(ありがとうございます)・・・」
エルドはほっとしたように微笑を湛えた。
「それで、お父上が触れられた宇都宮さんの名前についてですが、それについて、一つ訂正があるんですが・・・」
エルドがさらに微笑を大きくした。
「はい、なんでしょう?」
「ユティスたちは日本人としての国籍を日本政府より特別に付与されました」
エルドは日本政府がなぜそうする必要があるかまでは説明しなかった。
「ええ?」
「では、日本人なんですか、あの三人のお嬢さんたち・・・?」
「リ-エス。そこで必要になるのが姓でして・・・」
「姓・・・?苗字のことですね?」
「いかにも。で、お名前を拝借したとの連絡を受けております」
「名前?だれのです?」
「ですから、宇都宮さんの・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ?」
両親は互いを見合った。
「宇都宮ですか?」
「左様。宇都宮ユティス。宇都宮アンニフィルド。宇都宮クリステアです」
「・・・」
「・・・」
ぽん!
母親が手を打った。
「まぁ、ステキ・・・。既に籍を入れてるんですね、ユティスさん?」
--- ^_^ わっはっは! ---
母親は大いに喜んだ。
「そりゃ、けっこうな話だが、民法上、三人はまずくないかい、母さん・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いいじゃ、ありませんか、お二人は姉妹ですわよ」
「あははは。そういうことか!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、そういうわけではなくでして・・・、単に苗字を宇都宮で登録したというだけのことです・・・」
「ええ?籍は入ってないんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、会社の方でも、彼女らの寮の表札も宇都宮だけで済むとか
で・・・」
にこ・・・。
エルドは少し困ったような笑いを浮かべた。
「いわゆるコスト削減ですか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そういうわけで、苗字登録イコール婚姻成立というわけでは・・・」
エルドはそれはしばらく先になると踏んでいた。
「よかった・・・。式の前に双方の両親に内緒で入籍したのかと思いましたわ」
「わたしたちがそうだったというように?」
「まぁ、お父さんたら!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わははは!」
「ははは・・・」
エルドも力なく笑った。
「現状はそういうことですが、そうは言っても、まだ、時間は数十年あります。そのうちに、もっといい解決策が出てくるかもしれませんからね。できない、難しいは禁句でして・・・」
父親はエルドに言った。
「できるまで考え抜くでしたな・・・」
ぺこ。
エルドも両親に礼をした。
「はい。リーエス」
ぺこり。
一方、株式会社セレアムの面々も話が弾んでいた。
「ユティスの講演も大成功だったし、後はイザベルちゃんの卒業とセレアム入社っすね」
「あ、はい。でも、二宮さんの昇段審査が・・・」
にこ。
「イ、イザベルちゃん・・・。えへ」
二宮の頭には自分の予定など入っていなかった。
でれでれぇ・・・。
株式会社セレアムの一団では、にやけまくった二宮がイザベルの側をしっかりキープした。
「ずうっと側に置いてあげるっすよぉ。でへ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ニ宮、あんたねぇ、イザベルはあんたの秘書じゃないんだからね。入社したからといって、あんたの自由にはならないわよ」
岡本が二宮に釘を刺した。
「でも、新人教育係りは、新人の希望で決まるんっすよね?」
にやにや・・・。
(つうことは・・・、当然、席はオレの隣ってことに・・・。でもって、でへへへ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
余裕の二宮は嬉しそうにイザベルを見た。
「あのっすねぇ・・・」
「あ、それだけど、内々にわたしにオファーがあったわよ」
「そうそう」
「ねぇーーー!」
岡本が茂木と目配せし合った。
ぴしゃぁーーーん!
青天の霹靂が二宮を襲った。
がらがらがら・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「えーーー!そんなぁ!」
くるっ。
二宮はすぐにイザベルを振り返ると、確認するように見つめた。
「それ、ウソっすよねぇ、イザベルちゃん・・・?」
「え、いえ・・・、わたしは・・・」
「イザベルちゃん、ウソっすよねぇ・・・?」
二宮は繰り返しきいた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「え、いえ・・・、わたしは・・・」
「イザベルちゃん・・・?」
ぺこり。
「ごめんなさい。わたし、Webクリエイターに応募して営業希望じゃないんで・・・。そのぉ・・・」
イザベルはすまなさそうに二宮に頭を下げた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんな殺生なぁ!」
「ちゃんと会社も承認しておいたわよ」
ぱち。
真紀がイザベルにウィンクした。
「真紀さん・・・。て言うか、承認早過ぎるっす!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うちは小さい会社だからね、稟議なんか必要ないの。議題は即決裁よぉ」
「んなぁ・・・!」
「というわけでな、二宮、イザベルがおまえの隣の席に来ることは金輪際見送りだ」
--- ^_^ わっはっは! ---
いつの間にか俊介と真紀がセレアムの輪に戻ってきていた。
「常務!入れ知恵したんっすね!?」
きっ。
二宮は恨めしそうに俊介を睨んだ。
「滅相もない。人聞きの悪いことは言うな、二宮。仕方ないだろう、本人の希望じゃなあ。わははは」
あくまで爽やかな俊介の笑顔はどこ吹く風だった。
「本人の希望だ。本人の」
--- ^_^ わっはっは! ---
「真紀さん、オレもWebクリエイターの開発部に異動してくださいっす!」
二宮はオプション2、『一緒にいれる条件のクリア』、に入った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい、はい。却下。自分の能力はちゃんとわきまえようね、二宮」
にこにこ。
岡本が微笑んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「えーーー!じゃ、イザベルちゃんは本当に岡本さんのとこなんすかぁ・・・?」
くる。
二宮は岡本を振り返った。
「そうよ。彼女、わたしのところで悪い虫が着かないようにちゃんと守ってあげるわよ」
にこ。
開発部長の岡本が笑った。
「お、ここにも悪い虫が!しっ、しっ!」
岡本が二宮を打ち払おうとした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ごめんなさい、二宮さん。わたし、どうしても自分の能力を発揮できるところが良くて・・・」
ぺこ。
イザベルはまたまた二宮に頭を下げた。
「オレとじゃ、発揮できないんすかぁ・・・?」
二宮がいかにも残念そうな顔になった。
「スケベな言い方するな、二宮、セクハラだぞぉ」
俊介が言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも、オレ・・・。そうだ!和人はなんでユティスと一緒にいれるんすか!?」
二宮のオプション3、『他人の実績を自分にも適用するフェアな精神』、に向け、矛先が変更された。
--- ^_^ わっはっは! ---
「だって、ユティスはマーケ担当だもの。本人の希望だし。会社も承認済みだし。第一、日本国政府の指示だし。エルドの依頼もあるし。異星人の扱いは和人に任すしかないし。会社も潰したくないし。銀河間戦争なんかになって欲しくないし。ユティスの恨みは買いたくないし。とにかく、面倒くさいし、いちいち二宮の意見を聞く必要ないし・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
つらつら・・・。
真紀は笑いながら理由を列記した。
「よく、そんなにたくさん理由思いつくっすよねぇ、最後は別として・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮は恨めしそうに真紀を見つめた。
「事実だもの」
けろっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「それに、壇上で恋人宣言しちまったしな」
トドメを俊介が刺した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「えーーー!そんな無茶苦茶なぁ!それならオレたちだって!」
二宮は大いに不満をぶちまけた。
「オレたちなら・・・」
二宮は、オプション4を用意していなかったので、問うようにイザベルを見た。
じぃ・・・。
「・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレたちは・・・、ぜんぜん恋人同士までいってないんでしょう?」
岡本がイザベルに目配せした。
「そんな恥ずかしいこと・・・」
「宣言できないわよね、イザベル」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ウソっすよぉ!ねぇ、イザベルちゃん、国際見本のデッカイサイトじゃあ・・・」
かぁ・・・!
たちまちイザベルは赤面した。
「あ、あれは・・・、二宮さんのエッチ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、ゴメン、イザベルちゃん。デッカイサイトのことは内緒だったんすよね?」
「も、もう、知らない!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それに、内緒のそこはデッカイサイトじゃなくて、ビッグサイトって言うんだけど」
茂木が飽きれたように訂正を入れた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなの、どうだっていいっすよぉ!」
「ああ、どうだっていいさ」
俊介はすまして言った。
「うちは社内恋愛には寛容よ。仕事さえしてくれりゃあね」
真紀が補足した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「うむ」
「うん、うん」
真紀が俊介と頷き合った。
「そうとも。和人たちは仕事を疎かにはせんぞ」
「オレだって!」
二宮にはもう反論する手立ては残っていなかった。
「イザベルはさておき、あんたじゃ、一日中デート気分で仕事はおっぽり投げるに決まってるわ」
岡本が俊介に同調した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなことないっすよぉ!ねぇ、イザベルちゃん・・・?」
ついに二宮は泣きそうな表情になった。
「あ、はい・・・」
その時、突然、石橋が発言を始めた。
「わたし、お仕事はちゃんとすべきだと思います・・・」
「おお・・・」
「石橋ったら・・・」
いつもと違う石橋の断言に二宮ばかりだけでなく社員一同がびっくりした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「おまえ・・・」
二宮も、到底ありえない石橋の発言にびっくりしていた。
「Webクリエイターとマーケ部門の人は同じプロジェクトになれば、数ヶ月一緒にチームになるんです。そっちの方がステキだと思います。教育期間から日常のお仕事まで、いつもお隣の席だったら、お仕事にもデートにも身が入らなくなると思うんです」
「デートぉ・・・?」
じぃ・・・。
二宮が石橋を穴が開くくらい見つめた。
「あら、いやだ・・・」
ぽっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ん!でもです。わたし、和人さんとは普段は席が違ってました。けれど、プロジェクトが一緒の時、とってもドキドキしてワクワクして、キュンとして、切なくて・・・。でもなんです。それがとっても楽しくて・・・、わたし毎日一生懸命お仕事できました。それじゃいけませんか・・・?」
にっこり。
石橋は和人と同じ仕事になった時のことを思い出し優しい笑みを浮かべた。
「あーーーあ、石橋、言っちゃったわよぉ・・・」
岡本は真紀に目配せした。
「ええ。そうね・・・」
こくん・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「石橋、おまえ・・・」
じぃ・・・。
二宮は石橋を見つめ続けた。
「は、はい・・・?」
石橋は不安になり目を伏せた。
「和人のこと、自分で言っちまったぞぉ・・・」
「あ・・・。きゃあーーー!」
かぁーーー。
石橋はたちまち真っ赤になった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ったく。きゃあ、じゃねぇよ・・・。はぁ・・・」
二宮は石橋を横目で見ながら溜息をついた。
くる・・・。
「恥ずかしい・・・」
その途端、恥ずかしくなったのか石橋は横に身体を向けてうつむいた。
「ま、みんな知ってるこ。とだし、あなたの真剣さをだれもからかったりなんかしないわ」
真紀が優しくフォローした。
「ええ?みんな知ってたんですかぁ・・・?」
「そうよ。一応内緒で・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぽん・・・。
岡本が石橋の肩にそっと手を置いた。
「石橋、うちには悪い人間はいないわ」
「はい・・・」
「しかし、石橋、おまえ、心も成長したなぁ・・・、胸並みに・・・」
「はい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮さん、セクハラです!」
ばしーーーん!
イザベルの平手が二宮に飛んだ。
「痛ったぁ・・・」
二宮は左頬を手で押さえた。
「で、二人くっつけて、和人の仕事はなんで心配ないんすかぁ?」
ぷくぅ・・・。
それでも不満げに二宮は茂木に言った。
「だって、あの二人、とりあえずエルフィアと地球の使命ってもんがあるし、政府の指示だし、よく仕事はするし、離したところで精神体とかでふわふわ寄り添っちゃうんだから、意味ないっしょお?」
茂木が両手を上げて万歳の格好で言った。
「精神体っすかぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしも精神体はお手上げ!」
岡本も両手を上げた。
「わたしもよ!」
「わたしも!」
真紀に続いて社員たちは次々に万歳した。
「オレもな」
俊介も両手を上げた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「社則にも精神体への禁止条項はないし・・・」
俊介が真紀を見た。
にんまり・・・。
「設けるつもりもないわ」
真紀がにこやかに断言した。
にこにこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なるほど、お手上げつぅことっすか・・・」
俊介が続いて、二宮は反論に詰まり降参した。
「それより、二宮、昇段審査すぐ目の前だろ?イザベルにデレっとしてていいのか?」
俊介が二宮に耳打ちした。
「おす。デレっとなんかしてないっすよぉ」
しゃきっ。
たちまち二宮は正気に戻った。
「ゲンキンなやつ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
一方、アンニフィルドとクリステアの二人のSSは、ユティスが和人の姉妹と楽しんでいるのをすぐ近くで見守っていた。
「俊介の大叔母さんたちはここに来ているの?」
クリステアがアンニフィルドにきいた。
「ナナン。あんまりいっぺんに登場すると、せっかくの効果が薄れるとかでさ・・・」
クリステアの質問にアンニフィルドは淡々と答えた。
「じゃ、このまま母船に待機してるってわけね?」
「リーエス。それに、地球への着陸許可ももらってないらしいの」
アンニフィルドが真面目な顔つきで言った。
「一機一晩、成田か関空並みの宇宙港の使用料を支払えってことかしら?」
クリステアは真面目に考えていた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「かもね・・・」
アンニフィルドはそう言いながらユティスを目で追った。
「ところで、日本に宇宙港ってあったんだっけ?」
クリステアが根本的な疑問を投げかけた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃ、作るからその費用を負担しろってことじゃない?あは・・・」
アンニフィルドが役人の真理を突いた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなことばっかり考えているから、カテゴリー2になっても他所の星から来訪者が来ないのよぉ」
クリステアがやれやれという風に頭を横に振った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは。あなたもそう思うの、クリステア?」
アンニフィルドが頷いた。
「リーエス」
「エメリアったら、どっかの超新星の残骸からどっさり金塊を持ってきてやればいいのよ。連中、なんでも言うことを聞くわよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド?」
「なによぉ?」
「それって・・・、地球の経済、一気に崩壊しちゃうことになるんだけど・・・」
「そぉ?どっかの地求人の大学先生が何十年も前にのたまわってた『金塊ビッグバン』とかなんでしょお?願ったりじゃないのぉ?」
「意味も言葉も、ぜんぜん違うと思うんだけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あら、そうっだたかしら。とにかく、エメリアはここに来ないの」
アンニフィルドはユティスたちを目で追い続けた。
「はい、はい。わかったわ」
そして、国内外の特別招待者たちはそんなエルフィア娘たちを取り囲んだ。
「ユティス大使、素晴らしい講演でした」
「アルダリーム・ジェ・デーリア。はい、ありがとうございます」
ユティスはエルフィア語で答えた後、日本語で言い直した。
「いや、まったく。今まで地球であれこれ騒いでいることが馬鹿馬鹿しく思えます。先人も含めて、われわれは大馬鹿もんです」
「ナナン。ご自分たちの過去を簡単に馬鹿になさらないで。そこからなにか学ぼうとされるなら十分に意義があります。事実は事実として見据えることが大切ですわ」
ユティスは優しく答えた。
「は・・・。それは、まったくそのとおりで・・・。申し訳ありません」
「お謝りになるなら、ご自分に。うふふ」
にこ。
「え・・・?」
「エルフィアはカテゴリー4ですが、わたくしたちはそれが究極だとも思いませんし、カテゴリー3、や2の世界を批判するつもりもありません。かつてはわたくしたちも経験したことです」
「どういうことで・・・?」
「親はご自分の赤ん坊が言葉をしゃべれないからと言って馬鹿にしますか?数学ができないからと言って馬鹿にしますか?政治や経済がわからないからといって馬鹿にしますか?」
「いや、それとこれは次元も順番も違います」
「うふふ。そうでしょうか?」
ユティスは謎めいた微笑を浮かべた。
「逆も同様ですわ。ご両親がご存じなかった高等数学をご自分はお習いになったとして、それでご両親を馬鹿にする理由になりますか?」
「とんでもない。そんなことは決して・・・。そんな罰当たりな・・・」
「馬鹿にすることは、愛ではありません。学びもなにも生み出せませんわ」
ユティスは静かに首を振った。
「愛・・・?」
「リーエス。愛のみが創造をもたらします。過去を馬鹿にすることは簡単ですが、そこには愛はありません。歴史に意義があるとしたら、過去から学び続けることにあります。辛い過去に蓋をしたり、自分勝手に解釈したり、馬鹿にしたりして一蹴することは、事実から目を背けることになりましょう」
「はぁ・・・」
「事実を曇らせる先入観や独りよがりな歴史観を排除し、歴史を科学するのは容易ではありませんが、事実を事実として真摯に受け認め、そうすることによってのみ歴史を学ぶことができ、前に進むことができるのです。これは、ご自分を、そしてご自分の世界を真に愛していなければできないことです。わたくしも辛い経験をしています・・・」
ユティスは講演の冒頭に告白したことを思い出させた。
「なるほど・・・、そういうことでしたか・・・」
「うふふ。ご自身に呟かれる言葉には、十分にご注意してくださいね。それが愛に基づくものなら良し、そうでないなら・・・」
「はい。確かに傲慢でした・・・」
「うふふ。ですから、ご自身にお謝りくださいね」
「面目ない・・・。『我よ、我を許したまえ』、ですかな?」
「うふふふ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「本当にそう思えますかな?実行はなかなかできませんぞ」
話の中に大田原が加わってきた。
「大田原さん、あなたもセレアム人、つまり、宇宙人ということでしたな・・・?」
「左様。もう、隠し立てするつもりも、その必要もありませんからな」
大田原は静かにグラスを置いた。
「おお・・・!」
「ああ・・・!」
大田原の素性を白なかった面々は驚いて呻きにも似た声をあげた。
「しかし、何十年も日本人であることも事実。わたしは一生をここに捧げるつもりです」
「おお・・・」
また、感動の呻きが聞こえた。
「ユティス大使、間近でお目にかかるのは初めてですが、あなたはなんとお美しい・・・!」
「まぁ、アルダリーム・ジェ・デーリア。嬉しいですわ」
「宇都宮和人は幸せ者ですな」
「あ、どうも」
ぺこり。
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ。リーエス」
ユティスも微笑んだ。
「そして、あなたもね、ユティス」
ぱちん。
アンニフィルドとクリステアがユティスにウィンクした。
「おお、そうでした。SSのお二方も負けず劣らずお美しく!」
「はぁーい。賛辞は有り難く頂戴するわ」
「トアロ・・・、いえ、大田原さん、お久しぶりです」
ぺこ。
ユティスが大田原に挨拶した。
「どうも」
ぱ・・・。
ぺこ。
大田原はない帽子を取る仕草をしてみなを笑わせた。
「まぁ・・・。うふふふ」
「あははは」
「大田原さんもひょうきんですなぁ」
学長が言った。
「アンニフィルドさん、クリステアさん、立ち入ったお話で恐縮なんですが、SSのお二人が女性であるということは、そのぉ、業務上の問題はないんでしょうか?」
大学の講演会運営委員会の一人が尋ねた。
「そうねぇ・・・」
に・・・。
アンニフィルドが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あるわよ」
「ええ?やっぱり!」
じぃ・・・。
「うふ・・・」
アンニフィルドは今にもキッスしてきそうな色っぽい視線で彼を見つめた。
「あ、ん、ん!」
ささっ。
その魅力に溢れたピンク色の視線に耐え切れなくなり、彼は慌てて視線を外した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あらぬ誤解を生むことがあって・・・。業務に支障をきたすのよぉ・・・。ひょっとして、あなたもぉ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「い、いえ・・・。そっちじゃなくて・・・、セキュリティ上なんですけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ふわぁ・・・。
ゆっくりとクリステアの左足が上がった。
「女性だとですねぇ、なにかと問題が・・・、クリステアさん・・・?」
アンニフィルドもクリステアも上背は180センチ近くであり、彼もそうだったが、同じくらいの男性と比べればやはり細身だった。
「あのですねぇ、クリステアさん、なにかと問題が・・・」
「・・・」
ひゅっ!
ぴしっ!
そして、かれの顔面2センチ手前で、目にも留まらぬ彼女の超高速ハイキックが止まった。
「ひぃーーーっ!」
「ないわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「すいません、前言取り消します!」
「ははは。エルフィアのSSを甘く見ると後悔するぞ。銃すら効かないからな」
大田原は愉快そうに笑った。
「リーエス。クリステアはね、銃を赤熱させるのが得意なのよ」
ぱちり。
にたにた・・・。
アンニフィルドが講演運営委員会の男性に片目をつむった。
「銃だってぇ・・・?」
「お望みなら、あなたの銃もそうしてあげるわよ・・・」
「わたしの銃・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ・・・!」
くす・・・。
クリステアは面白そうに笑みを浮かべた。
「いえ、けっこうです!」
--- ^_^ わっはっは! ---
そんなエルフィア娘たちをブレストは遠目に見つめていた。




