347 説明
「はぁい、アンニフィルドです。懇親パーティーに現れたエルドだけど、和人の両親にどうしても了解してもらわなければならないことがあるの。もちろん、和人のためを思ってのことだけど。地球人とエルフィア人は姿形は一緒だけど、いろいろ違うところもあって・・・、まぁ、それはお話で確認してよ。わたしからは言えないわ」
■説明■
「まぁ、そこまでしていただかなくても、わたしは精神体ですから、ご両親にしか聞こえないように精神波で会話できますよ・・・。ふぅ・・・」
エルドは一息ついた。
「なるほど・・・」
「それで、あなたのそのお話とやらをお聞かせくださいますか?」
両親はエルドの話を聞く覚悟ができていた。
「ご両親、よくお聞きください。とても大切なことですから・・・」
エルドはそう前振りをすると本題に入った。
「それは、エルフィア人と地球人の寿命の違いによるものです。ユティスはもちろん、わたしも、和人にはユティスと同じ時間を共有してもらいたい。つまり、和人に老化速度を制御することを望んでいます。」
「やはり、そういうことでしたか・・・」
父親はじっとエルドを見つめた。
「お察しになっておられたのですかな?」
「ある程度予想しておりました」
「わたしも人の親、娘の幸せは長く続いて欲しい・・・」
エルドはユティスをちらりと見た。
「エルフィアの方たちはどのくらい生きていらっしゃるんですか?」
母親がやんわりと尋ねた。
「それは・・・」
一瞬エルドはどう言おうかと迷った。
「実際、地球人の平均寿命は、宇宙でも極端に短いと言っておきましょう。カテゴリー2の世界において、地求人のように寿命が短い世界はそうありません。一方、われわれエルフィア人は、ざっと、地球人の10倍近くはあります。老化は極めて緩やかで、20代の若さを500年以上保ちます。かく言うわたしも、実際は500歳を超えています」
そして真実を率直に語った。
「・・・」
「・・・」
両親はエルドを見つめ、エルドも真っ直ぐに両親を見つめた。
「そんなぁ・・・!」
「信じられません、500歳以上だなんて・・・」
「30代にしか見えませんわ・・・」
両親はエルドを見つめて、その言葉を噛み締めていた。
「では、ユティスさんも・・・?」
それは当然出てくる質問だった。
「リーエス。もちろん、20歳なんかではありません・・・」
少しためらってエルドは真実を語ることにした。
「エルフィア人は地求人と比べて遥かにゆっくりと成長します。成人になるには180年以上必要になります。ユティスは地球人でいうとせいぜい二十歳くらいにしか見えないでしょうが、実際は・・・。それだけでも、ご想像を遥かに超えることだと思いますが・・・」
エルドはユティスがいくつか正確に言ったわけではないが、両親には十二分だった。
「180歳以上ということですか・・・?」
「ユティスさんが・・・」
両親はエルドの言葉にショックを受けていた。
「和人は知っているんでしょうか?」
「ある程度は・・・」
エルドは両親の反応を待った。
「例えば、今から30年後のことを考えてください。ユティスは200歳を超えても、なお、まったくその若さを保ったままです。しかし、地球人の和人は53歳。いくら若さを保ったとしても、明らかに老化の兆候が出ることは否めないでしょう。そして、その20年後は?和人は73歳。差は著しくなります。ユティスは相変わらず20歳くらいにしか見えません・・・」
「・・・」
「・・・」
両親は黙りこくった。
「まったく歳を取らないユティスの目の前で、和人はどんどん老いていき、やがて死を迎えることになるでしょう。先に逝くものもつらいでしょうが、残されたユティスは・・・」
「・・・」
「頭が混乱しそうだ・・・」
父親は目を閉じた。
「いえ、混乱してますよ、お父さん」
両親はショックでなにも考えられないように頭を静かに横に振った。
「二人が連れ合いになるということは文明や文化の違い以前の問題なんです。エルフィアは、基本、支援先の人間の歴史や寿命に直接介入はできません。支援先の人間の寿命が極端に違う場合、お互いに連れ合いに望むなら、常にそういう問題が起きることになります。率直に言って、地求人の寿命は極端に短い部類に入ります・・・」
「地求人というのは、そんなに短命なのですか?」
「リーエス。ほとんど例外的とも言えるくらいに」
エルドは静かに言った。
「でも、二人は愛し合っています・・・」
母親はエルドに訴えかけるように見つめた。
「リーエス。ユティスと和人の場合・・・。そうなることは、悲劇でしかありえません」
エルドは両親に理解してもらえるよう、わかり易く説明した。
「わたしも二人の将来を大変憂慮しています。解決策は和人の細胞の老化制御ですが、厳しい条件がつきます」
「条件というのは・・・?」
母親が尋ねた。
「例え、和人がユティスと連れ合いになりわたしの息子になったとしても、それは義理の息子になったというだけで、エルフィア人としての諸権利が発生するわけではありません」
「・・・」
「・・・」
両親は黙ってエルドの話の続きを待った。
「しかしです。和人がわたしの養子ということなら、それは彼が正式にエルフィア人ということにもなるわけです。そして、和人がエルフィア人となれば、エルフィア市民としての権利も発生します。エルフィア人の標準寿命を持つ権利をもです。つまり、細胞医学的な老化制御を受ける権利には問題がない、ということです」
「和人もあなた方エルフィア人と同じだけ生きられるようになる・・・。というわけですか・・・?」
概ねやっと理解できたように父親がしゃべった。
「リーエス・・・。しかし、ご両親やご姉妹は・・・」
「適用外ですわね・・・」
「地球人だからな・・・」
こくり。
エルドは最後を言わずに頷いた。
「そういうわけで、和人にもしこの処置を施すことになれば、大変な問題を抱えることになります。和人とご家族、友人・・・。どんなに秘密にしておいても、だれもが若さを保ち続ける和人に、気づかないわけがありません・・・」
「どうするというのですか?」
父親はエルドを真っ直ぐに見つめた。
「唯一の解決策は、そうなる直前、つまりこの数十年以内に、和人とユティスを地球からエルフィアに連れ戻すことです。代わりのエージェントやSSが地球のその後の支援を担当することになります。その時には、ユティスと和人はみなさんとお別れをすることになるでしょう。次に地球に戻る時には、二人の知り合いがだれ一人いなくなるでしょう。ナナン。非公式にはいつでも戻れますが・・・、若いままの二人がそのまま戻ることは・・・」
「覚悟しなきゃならんわけだ・・・」
「できます、あなた・・・?」
「いや、ぜんぜん」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしもですよ」
「あの、年をとったように変装とかはどうかしら?」
母親が一つのアイデアを出した。
「そうとも。ハリウッド風に年齢メイクをすればいいんじゃないかぁ?」
ぽん!
父親が手を叩いた。
「そうですよ。それなら、回りも違和感など感じませんわ」
「リーエス。確かにその手もあります」
一旦、エルドは頷いた。
「ですが、根本的な解決策ではありません。周囲の人間は誤魔化せても本人自身の精神は誤魔化せません。歳を重ねていく家族や友人たちの中で自分だけが若いまま・・・。本人たちが平常心を保ち続けることは容易ではありません。そして、その人間たちの寿命がつきた時には・・・。それでもなお、まったく本人の歳は変わらないのです。いつかは必ずその時が来ます・・・」
そして、エルドは反論を唱えた。
「葬式にも来てもらえんわけかぁ・・・」
「そりゃ、ちょっと寂しいわねぇ・・・」
「そりゃ違うぞ、母さん。死んだら感じることもない」
「まぁ、そうですわね。おほほほ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。そういうわけでもないですが・・・」
エルドの答えは歯切れが悪かった。
「しかし、家族や知人を避けエルフィアに行ったとしても、それで和人もユティスさんも幸せになれるんでしょうか?」
母親が言った。
「リーエス。お母さまのおっしゃるとおりです。しかし、二人が地球にそのまま留まることは、去るよりなお大きな問題を残すでしょう・・・。例えば・・・」
「だれもが、エルフィアの老化制御を希望するということでしょうか?」
「可能性は大いにあります」
「わたしもそうですが、そんな方法があるなら、地球の女性は全員われ先に争って殺到するでしょうね・・・」
「ああ。折り重なって下敷きになって、若くして圧死ということにならなきゃいいが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
父親は同意した。
「それに、わたしはその秘密を知ってしまいましたよ。そして、お友達に触れ回るかもしれませんけど・・・?」
母親が静かにエルドを見つめた。
「ナナン。あなた方はそうはなさらんでしょう・・・」
エルドは彼女を見つめ返した。
「あら、どうして、そうお思いなの?」
「あの二人を見つめられる目ですよ・・・」
「目?」
「リーエス。喜びと祝福と満足感・・・。それに安堵感・・・。それ以外には、なにもありませんでした」
にこ。
母親は急に微笑んだ。
「ふふふ」
「わたしには現状で十分だよ。80年やそこらも生きりゃもういいね。今後も100年も200年も、それ以上も生きる意味がわからん」
父親は苦笑いした。
「和人とユティスさんがそう望むのであれば、そうすればいい。子供が親より長生きすること、こんなめでたいことはないぞ、母さん・・・?」
父親は付け加えた。
「ふふふ。それもそうですわね。エルドさん、あなたにとっては、わたしたち地球人の人生は駆け足かもしれません。でも、わたしたちにとっては十分長い人生といえなくもないのですわ」
「そうです。わたしたちはいつも後悔のないように生きていますから・・・」
「ええ、そうですわ」
きゅ・・・。
二人は手を取り合った。
「和人がユティスさんに選ばれたのなら、それも運命でしょう・・・」
にこにこ。
最後は両親は心から微笑んだ。
「肝の据わったお方だ・・・」
エルドは感心して二人を見つめた。
「・・・」
「・・・」
そして三人は沈黙した。
キャサリンとZ国の二人の話は探り合いから核心に入ろうとしていた。
「で、エルドの招待ってことは、問答無用で来さされたってことかい?」
「圧力行使の矛先はオレたちじゃない。お国のお偉方へだ」
リッキーはようやくZがA級エスパーの二人を意図も簡単に国外に出したかわかってきた。
「そうね。お偉方はそうせざるを得なかったのよ」
ジェニーも頷いた。
「どうしてそうなのか興味があるところだけど、招待されたあんたたちにも、エルフィアからの講演記念のプレゼントでもあったってわけかい?」
「一つだけね・・・」
ジェニーはキャサリンを見つめて再びにやりとした。
「そりゃ優秀だ。で、なにを受け取った?」
「これからどうするか自分で決めてもいいんだということよ。それが最高のプレゼントだわ・・・」
「は、そんなことぉ?合衆国じゃ当然のことじゃないか・・・。は・・・」
キャサリンは軽く笑おうとして、二人がZ国ということを考え、それを引っ込めた。
「当然ね、あなたの国じゃ。でも・・・」
ジェニーは今度は口元を幾分引き締めて答えた。
「いや、なるほど、そういうことか・・・。で、あんたは、リッキー?」
キャサリンは二人がZ国だということを十分理解していた。
「どこにも身を置くところがないことだ・・・」
「・・・」
リッキーの答えにキャサリンは一瞬口をつぐんだ。
「そうかい・・・」
「逆も真なり。身を置けるならどこでもいい・・・」
「あんたたちの国がねぇ・・・。どうして死刑や鉱山行きにならなかったのかい?」
Z国のエージェントの報酬は安くないが、失敗の償いはさらに高くついた。
「エルフィアの文明支援と天秤に掛けられたのさ」
リッキーは表情を変える様子もなく淡々と語った。
「天秤?」
「ああ。エルドは、オレたちにどのような形でも、肉体的な罰を下そうとするなら、Z国は地球支援プロジェクトから永久に置いてけぼりになると・・・」
「つまり、わたしたち、お国から体よく追放されたってことね・・・」
ジェニーは半分やけ気味に言った。
「仮にもA級エスパーの二人をかい?冗談だろ?いくらエルフィアの支援がかかっているとしても、信じられないねぇ・・・」
キャサリンは眼光を鋭くさせた。
「オレたちは今どこの国のビザもない。パスポートすら持っていない」
リッキーたちはZ国の首都国際空港を出る時、要人特別ゲートから旅客機に乗り込んでいた。
「金もかい?」
「ないね。それを調達する銃も持ってないがね」
空の両手をキャサリンに見せた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そいつは大した皮肉だね。あっはっは!」
キャサリンは、合衆国では警察へ申請し許可さえあればだれでも銃を持てることへの、リッキーの揶揄を軽く受け流した。
「わたしは数万円ならあるけど・・・」
ジェニーはどうとなれというような顔をした。
ぴく。
キャサリンは驚いたように目を大きく見開いた。
「冗談じゃないのか・・・?本当に文無しかい・・・?まさか、Zがあんたたちに野垂れ死にを期待してるわけじゃないだろ?」
「お偉方がオレたちの始末にそういう消極的な方法を取るとは思えん」
「文無しとは信じられんねぇ・・・。偽札もなく、なんで日本に入れた?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「エルドの招待状さ。完全にフリーパス。日本政府もエルドから同様に釘を刺されているのだろう・・・」
「文明支援か・・・?」
「ああ。あんたのお国もそうだろうよ」
「合衆国がかい?」
「例外なくだ・・・」
「まさか・・・」
「だから、エルドの招待状以外には、オレたちの安全を確保してくれるものはないということさ」
「どうして国を出られたか、ようやくわたしたちもわかってきたところよ」
ジェニーは真相がわかったのは出国後だったことを打ち明けた。
「オレたちには身の置き場がない。国も日本も合衆国も、世界のどこだろうが・・・」
「このパーティーが終り次第、日本政府に逮捕ってわけだ・・・」
キャアリンは状況を把握した。
「それはないかもな・・・」
リッキーはやんわりと答えた。
「T大キャンパスは一種の治外法権扱いなのよ。大学側が要請しない限り、警察はやって来ないわ」
ジェニーが答えた。
「そういうことか・・・」
キャサリンは少し考えて再びきいた。
「で、これからどうするつもりなんだい、二人とも?」
「さぁて・・・。自分の意思で決めれるんだけどね。本国の意図がはっきりしてるんじゃ、国に戻る選択肢はないわ。かといって日本も難しい・・・」
ジェニーがリッキーと目を合わせた。
「だから言ったはずだ。どこにも行き場がないとね・・・」
それを受けてリッキーがキャサリンを見つめた。
「だったら、あたしたち合衆国へ・・・」
キャサリンが言いかけたところでリッキーがそれを制した。
「いや、あんたの申し出はわかるが、合衆国が仮にオレたちを迎え入れてくれるにしろ、代償は大き過ぎる」
「代償・・・?Z国の機密情報の開示かい?」
キャサリンはZ国の機密情報の提供は当然だと思っていた。
「ええ。そうよ。わたしたちが機密情報を開示をしようとすれば、催眠プログラムかなんかで、一切の記憶がデフォルトに戻されてしまうわ」
「デフォルトってことは・・・、記憶操作ってこと・・・。マジかよ?」
キャサリンはさもありなんと思った。
「ああ。あるキーワードないし文を口にした途端、オレたちは赤ん坊に戻る」
「まさか・・・」
「でないと、エスパー二人を放出するリスクを国がどう回避するというの?」
ジェニーはキャサリンに告げると、ユティスのいる方を見つめた。
「そのキーワードとやら、はったりじゃないのかい?」
そんな深層心理まで、第三者が制御できることは極めて困難なはずだった。
「いいや。オレたちはそう誓わされている。エージェントになって以来、実際、そうなった人物を何人も見てきているしな・・・。口から涎を垂らして廃人さながら・・・」
「けど、それこそエルドの言う罰だろ?そんなことをすれば・・・」
キャサリンは突然すべてが見えた。
「あんたがオレたちの立場なら、どっちを取る?」
「言わずもがなだよ・・・」
リッキーとジェニーの冷めた視線が覚悟を語っていた。
「どうにかなんないのかい・・・?」
「どうにもならないわ」
「そのキーワードがなにか、オレたち自身も知らないんだ」
「言わば精神の時限爆弾・・・。それを抱えて生きていくしかないのよ」
ジェニーは顔色一つ変えなかった。
「そいつを仕込んだ輩は解除方法を知ってるんだろ・・・?」
「既に粛正された」
リッキーはそれについては八方塞りであることをキャサリンに仄めかした。
「消されたというのか・・・?」
「合衆国風に言えばね・・・」
に・・・。
ジェニーは乾いた笑いを浮かべた。
「きっと・・・」
「きっとなに?」
ジェニーはキャサリンが言いかけた言葉を尋ねた。
「『くそったれのお偉方め、てめぇの母ちゃん出べそ!』だよ・・・」
にっ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「・・・」
「・・・」
「文句あるのかい?」
「下品だな・・・」
「はっ、もっと強烈なのもあるよ」
「けっこうだ」
--- ^_^ わっはっは! ---
一方、大学側と科学者たちはアカデミックな会話を展開していた。
「どうですか、あのユティス大使の公演は!」
「大したものですなぁ!」
「真に恐れ入りました」
「しかし、ああも簡単に2000人が地球外に行ったとなれば、NASAも面子丸潰れなんじゃ?」
「いやいや、だからです。NASAがあったからこそエルフィアは地球をカテゴリー2と認め、われわれも宇宙に招待してもらえたんです」
コーネロ大のサンダース教授が言った。
「そうですとも。でなけりゃ、今頃、われわれはこうはしておれません」
「ふむ・・・。しかしですな、みなさんも科学者であるならば・・・、既に執筆したものはともかく、現在書き溜めている論文はどうするおつもりで?」
T大の太田学長が教授陣を見回した。
「むろんボツということになりましょう。ゴミ箱行きです。大学回り専門の古紙回収業に転職しますか」
ぱ・・・。
世界的宇宙生物学の大家が自嘲気味に言うと両手を広げた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「それは名案だ」
「今日を境に、地球の科学は古典的科学に加えられましたからな・・・」
「左様。ガリレオやニュートンと同じです」
「ガリレオと同等ですか。そりゃ、けっこうな話で。大いに名誉ですな」
「焦って火星やイオに急いで微生物を発見することもありませんわ・・・。微生物どころか、われわれと同じ人類が宇宙に溢れていると言うんですから・・・。はぁ・・・」
「いかにも。まったくお話になりません」
「それどころか、いい物笑い。大学の教師はみな失職です」
「ETI(地球外知的生命体)探査のSETIも閉鎖ですかなぁ・・・?」
「みなさん、それは言い過ぎです」
太田学長が静かに言った。
「そういう地道な努力があってこその今なんですから。結果がすべてというプラグマティズム的な考えはエルフィアには受け入れられないと思います。間違いも失敗も受け入れること。なにかを学ぶためには、いえ、学ぶ姿勢として、必要なことかもしれません。ユティス大使自身も失敗を告白されています。エルフィアは試行錯誤を含めてわれわれの歩みを非常に大切に思ってくれているわけです。だからこそ、ここでの後援を提案していただいたんです。冒頭、わたしもああは言いましたが、地球に政治的経済的宗教的に独立を保てるわれわれがいることは、大変意義のあることです」
ごくん。
そう言うと太田学長はワイングラスを飲み干した。
「おお・・・!」
「なんと!」
一同はどよめいた。
「では、ユティス大使から講演を希望されたと?」
「左様。正確に言えば、ここの卒業生の国分寺姉弟を通してですが・・・」
太田学長は乾杯の音頭を取った長身の若者を遠目に見やった。
「わたしはエルフィアに教えを請います。エルフィア大学に留学を希望しますわ・・・」
女性教授のジルがコーネロ大学のサンダース教授に言った。
「いや、それは簡単ではないですぞ」
サンダース教授がそれに答えた。
「あら、どうしてですか?」
ジル教授は不満そうにサンダースに言った。
「ユティス大使はこう言っておりますぞ。『答えも解法も教えるつもりはない。自分で見つけるものだ。エルフィアはそれを支援するだけ』」
ぱち。
サンダースは旧友の高根沢教授に片目をつむってみせた。
「では、わたしを、そして、この地球をどう支援するというのですか?」
ジル教授は高根沢教授に視線を移した。
「さて・・・。それを一緒に聞きに行こうではありませんか?」
にた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふふふ。それじゃ、結局・・・」
高根沢教授の冗談にジル教授も吹き出した。
「いかにも。問答すること自体は禁じておられません」
「そして、エルフィアに渡ること自体も・・・」
高根沢の後にサンダース教授が続けた。
「わたしは、ユティス大使に希望を伝えましたよ。大学じゃレベルが高過ぎるんで、幼稚園の年少組みに空きはありませんかな、と・・・」
高根沢教授も太田学長にに倣ってグラスを飲み干した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「幼稚園・・・?」
ジル教授はその大きな目をぱちくりさせた。
「まだ、レベルが高過ぎましたかな?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱち。
高根沢はジル教授にウィンクをした。
「い、いえ・・・。でも、高根沢教授、あなたがですか・・・?」
「はい。あなたもですよ。年少組みのジルさん」
ぴく・・・。
高根沢教授はジル教授を見て左の眉を上げた。
--- ^_^ わっはっは! ---
すっすっす・・・。
「まぁ、ジルさんはともかく・・・、高根沢さんを見て、エルフィアの可愛い園児たちが卒倒しなければいいんですが・・・」
ジル教授の側に来ると太田学長が静かに言った。
「ん、ん!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わっはっは!」
「あははは!」
「ふふふふ」
アカデミックな輪が爆笑に包まれた。




