346 学食
「今朝もアンニフィルドです。エルフィア大使の記念講演の懇親会場が学食ってのは最高ね。日本政府の迎賓館や高級ホテルの外交パーティー会場のようにはいかないけど、この素朴さと自分たち感がわたしたちT大を会場に選んだ理由にもなってるの。懇親が十分にできればいいんだけど・・・。俊介ぇ!」
■学食■
そして、エルフィア大使ユティスの公演を記念して、懇親パーティーが行なわれようとしていた。
「引き続き懇親会会場にご案内いたしますので、関係の方々は少々お待ちください」
ユティスたち、また、公演の特別招待客と大学側の代表、そして、ミニコンサートのスタッフたち、総勢300名ばかりが、案内に連れられ大学の用意した会場、つまり学食に集まっていた。
「さっすが、大学。学食が懇親会場とはオツですな」
「いや、だからいいんですよ」
ぞろぞろ・・・。
ぺちゃら、くちゃら・・・。
「それでは、エルフィア文明促進推進支援委員会のユティス大使の講演を記念いたしまして、日本政府より非公式参加の大田原が一言、ご挨拶申しあげます」
そこには大田原太郎が秘密裏に参加していた。
「非公式でも大田原であります」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わははは」
「あははは」
会場は大田原のジョークを受け入れた。
「ユティス大使より、文明の意義とかカテゴリーどうのこうのと難しくもありがたぁーいお言葉をいただきましたが、要はエルフィアがわれわれに望むものは、継続した実践ができるかどうかの一点です」
大田原の目はいつになく真剣だった。
「われわれは植物を見習おうではありませんか。植物の種は、岩に落ちれば割れ目に芽を吹き、終いには岩を砕きもします。水がなければ、何十年、いや何千年もの間命を保ち、水を得れば芽を吹きます。芽吹くのを決して諦めることはありません。いや、植物に限らずです。野生の動植物は諦めたりはしません。ただし、今晩の自分の食事のことで、他の動植物の食事まで考慮することはしませんが・・・。がう!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは」
「わははは」
「カテゴリー0といえど、そこから、われわれが学ぶべきものは多々あるということです。ユティス大使が、繰り返し、文明カテゴリーはあくまで文明支援の分類上のこと、とおっしゃっているのはこう意味でしょう。カテゴリー2になったからと言って、カテゴリー1的なところが無くなっているわけではないのです」
大田原はパーティー会場を見渡した。
「われわれは思いがけもなく地球上空32000キロから地球を眺める機会も持てました。みなさん、一人一人が大きな感動を味あわれたことと思います。どうか一生このことを忘れないでいただきたい。ユティス大使、今日はどうもありがとうございました」
ぺこり・・・。
大田原は深々とユティスに礼をした。
「えー、続きまして・・・」
司会のT大の学生がマイクを持った時だった。
「いいから、さっさと乾杯させろよぉ!」
「そうだ!」
「そうよ!」
「ユティス!乾杯!」
「ユティス!乾杯!」
T大の学生たちがユティスたちを囲んで勝手にシュプレヒコールを上げた。
「乾杯ったって・・・」
(しまった、決まってなかった。音頭取りをだれにしようか・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
司会は困ったように会場を見回し、最後に俊介と目が合った。
「よぉーし、OBのオレが乾杯してやる!」
俊介は右手に持ったグラスを高々と上げた。
「きゃあ、イッケメン!」
「かっこいい!」
「だぁれ、あの人?」
「伝説のQBの国分寺さんよぉ!」
「きゃあ、ステキぃーーー!」
T大の女学生たちが一斉に俊介に注目した。
「こら、あの娘たちだれよ?」
ちょん。
アンニフィルドが早速チェックを入れた。
「ただのチアたちだよ」
「チアたちって、タダなわけ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「こら、セクハラだぞ!誤解するような言い方はするな!」
慌てて俊介はアンニフィルドに抗議した。
「はぁーーーい、チアでぇーーーす!」
「あはは、元気そうだねぇ、きみたち」
「はい。先輩!」
「いつもお世話になります!」
ぺこ。
「あ、どうも」
「ふうーーーん。あの娘たちをいつも世話してるの・・・?」
アンニフィルドの目が幾分険しくなった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そういう意味じゃないったら!社交辞令だろ、そんなの!」
俊介は再度抗議の声を上げた。
「こら、なにやってんだぁ、国分寺?」
「言ったんなら、さっさと出てこい!」
「はいよ!」
つかつか・・・。
俊介はアンニフィルドから離れると司会と並んだ。
「おい、マイクを貸してくれ」
「あ、はい・・・」
さっ。
俊介は会場にアメフト部員が何人かいるのを見つけて、司会からマイクを取り上げた。
「えーでは・・・、OBの元アメフト部QB、国分寺俊介が乾杯の音頭を取ります。元気でやっているかぁ、お前らぁ?」
「おす!」
「国分寺先輩!」
卒業後何年かたってはいたが、T大アメフト部を学生1部リーグに昇格させた伝説のQB国分寺俊介を、アメフト部とチアたちに知らないものはいなかった。
「ほんじゃあ、ユティスと和人のほぼご婚約に、乾杯!」
「ええーーー!?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わっはっは!」
「あっはっは!」
「乾杯!」
「乾杯!」
かちぃーーーん。
かちーーーん。
あちらこちらでグラスの触れ合う音が響いた。
「記念するものが違うんでぇのぉ?」
「うるさい、現役1号!ユティスに乾杯には違いないだろ?」
「そういう問題かぁ?」
「うるさい、現役2号!」
「わははは!」
「おう、いい体格してるな」
大笑いしたビッグガイに俊介は話かけた。
「きみはどこのポジションだ?」
「ラインバッカーです」
「わっはっは。男に抱きつくのが得意なんだな!」
「そんなぁ、国分寺先輩!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレはQBだからな、抱きつかれるのは御免だね」
ひょい。
俊介は後輩の脇をすっと通り抜けた。
「おっとぉ。きみはチアかい?」
「は、はい、そうです。国分寺先輩・・・」
とろん・・・。
ダンディな俊介に見つめられた女子学生はうっとりした表情になった。
「アメフト部の応援、頑張ってくれよ!」
ぽん。
俊介は彼女の肩を軽く叩いた。
「はい。国分寺先輩!」
とろぉーーーん・・・。
つかつか・・・。
アンニフィルドが俊介に近づいた。
「わたしも、あなたの肩を叩いてあげるわ」
「げげ、アンニフィルド・・・。よせ。絶対によせ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
株式会社セレアムの地球人一行もパーティーに参加していた。
「それにしても、ユティス、すごかったね」
ごくん・・・。
岡本がセレアムで固められたテーブルでワイングラスを傾けた。
「うん。うん。宇宙人って頭でっかちのタコ・インベーダーばかりってイメージだったけど、完全にひっくり返っちゃったわ」
茂木が大きく頷いた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「宇宙人が地球より遥かに進んでるとしたら、侵略はありえないっしょお?」
二宮が自信たっぷりに言った。
「どうしてさ、二宮?」
茂木がきいた。
「できるんなら、とっくにそうしてるっす」
けろり。
二宮は特に驚いた様子もなく平静さを保っていた。
「なるほど、大物だわ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「で、たった今そういう連中が初めて来てるんだとしたら?」
茂木は目を細めて二宮を見やった。
「オレのカラテを見て、みな恐れをなして、すたこら逃げていくっす」
「それかい・・・。二宮の顔は宇宙兵器並ってわね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違いますったら、武道っすよぉ!」
「あなたの道場は顔も鍛えてくれるわけね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お!さすが段なし万年茶帯!」
むっ。
「今度こそ黒帯取ってやるっす!」
ぎろっ。
冷静だった二宮が目をひん剥いた。
「でもさぁ、10人組手でイザベルをたおさないといけないんでしょ?」
にたぁ・・・。
意味ありげに茂木が二宮に流し目を送った。
「おす、一発決めて、必ずたおすっす!イザベルちゃんだろうと、だれだろうと!」
きりっ!
「二宮・・・?」
「うす?」
「イザベルに一発決めて倒すってのは、とっても危なく聞こえるんだけど・・・」
「へ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「きゃ!二宮さんたら・・・」
かぁ・・・。
イザベルはそれを中の良い友人の冗談とわかっていたが、茂木の思わせぶりな言葉に顔を赤らめた。
「ほら、ユティスさんたち天使みたいだったし、エルフィア人は本当に素晴らしく優しい人たちです。他の宇宙人さんもきっとそうですよぉ」
そんな二宮を尻目に石橋は、和人の妹の亜矢と遊ぶユティスを見つめた。
「宇宙人にさんづけかい?」
「様づけの方が良かったでしょうか?」
「あのねぇ、石橋・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティスさんが和人さんのパートナーになるんだったら、わたし・・・、許しちゃいます・・・」
石橋はワインにほんのり赤く染まって夢見るような表情だった。
「おお、石橋、ついに和人終息宣言かぁ・・・?」
茂木が少し驚いたように言った。
「だって天使には敵わないです・・・」
「そっかぁ・・・」
こくり。
茂木は右手を顎につけると頷いた。
「そうっすよねぇ。でも、石橋、お前最近すごくきれいになったと思うぜ・・・」
二宮の目はそれが真実であることを正直に語っていた。
「そんなことないです・・・」
かぁ・・・。
たちまち石橋は赤面した。
「そんなことある」
二宮は深く頷いた。
「それは本当ね。石橋、あなたはもともと素材はいいんだから・・・。ユティスのお仲間のキャムリエルってのが追っかけてるんでしょぉ?」
「トレムディンってのもね」
岡本も茂木に続いた。
「すっげぇなぁ、石橋・・・。宇宙に通用する美貌だぜぇ」
「いや、恥ずかしい、二宮さん・・・」
かぁ・・・。
石橋はそれを聞くとうつむいた。
「天使かぁ・・・」
「イザベルちゃんだって大天使っすよぉ」
でれでれ・・・。
ちん・・・。
二宮はワイングラスをイザベルのそれにそっと付けた。
「まぁ、二宮さん、みなさんの前で恥ずかしいです・・・」
かぁ・・・。
イザベルは真っ赤になった。
「自分も恥ずかしいっす・・・」
かぁ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーーー、知らん、知らん」
「どこぞのアホは放っておいて、ユティスたちのところに行こう」
「そう、そう」
セレアムの社員たちはグラス片手ににやけた二宮を置いて、ユティスのところに進んでいった。
「戻ったよ」
にたり。
ユティスの側でエルドの精神体が笑った。
「まぁ、エルド、お帰りなさい」
「ははは。あっちもきみの講演のことで話が持ちきりだ」
「委員会はどうお考えなのでしょうか?」
ユティスは少し心配そうに言った。
「大胆極まりない・・・。とね・・・」
ぱち。
エルドはユティスに片目をつむった。
「まぁ、どなたですの、そのようなことをおっしゃるのは?」
「わたしに決まってる!」
にや。
「まぁ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「実際、並み居る理事や参事たちも、非常に面白がっている。こういう試みは初めてなんでね。どういう風になろうが、結果を楽しみにしているんだ」
「そうでしたの。わたくし、心配しましたわ」
「わはは。それは悪かった。謝るよ」
エルドはそう言うと和人に向き直った。
「ところで・・・、和人よ、きみの家族を紹介してくれたまえ」
エルドは和人を振り返った。
こく。
「リーエス。どうぞ、こちらへ」
和人はエルドの依頼を快く受けると、ユティスと共に肉親たちのいるテーブルに彼を案内した。
「これって・・・、ユティスとわたしと・・・、それに親子同士の引き合わせってことは、やっぱり、そういうことなんですか、エルド・・・?」
「それも兼ねとるが、養子の話よりそっちをメインにしても差し支えないよ」
「あ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、ちゃんと和人さんのご両親にわたくしをご紹介いただけるんですね?」
にっこり。
それを聞いてユティスは微笑んだ。
「あははは、話がすり替わっちゃいそう・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は墓穴を掘った。
「ところで、父さん、母さん、なんで和服なんかを・・・?」
和人は両親のいつもとは違ういでたちに頭を抱えた。
「向こうの親御さんとの引き合わせの席に、ジーンズにティーシャツじゃ合わんだろ?」
「そうですよ、和人。おほほほ・・・」
「やっぱり・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「もう、どうにでもなれだ・・・」
和人は覚悟を決めた。
「エルド、これがわたしの家族です」
にこにこ。
「父の正人と母の明日香です」
「和人の父の宇都宮正人です」
ぺこり・・・。
しずしず・・・。
二人は由緒正しき日本の伝統的な和服に身を包んでいたので、エルドはそれに目を見張った。
「エルドです。こちらは末娘のユティスです」
ぺこり・・・。
エルドはそれに倣って静かに頭を下げた。
「ユティスです。不束者ではありますが、よろしくお願いいたします」
しずしず・・・。
ぺこり。
(こりゃ、どう考えても完全に見合いか結納かって雰囲気だぞぉ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、そんなに堅苦しくしなくても・・・」
父親はユティスに声をかけた。
「リーエス・・・」
にこ。
「なんともまぁ、可愛らしいお嬢さんだ・・・」
にこにこ。
「息子をよろしくお願いしますね、ユティスさん」
「リーエス・・・」
ぺこ。
そして、今度は母親がエルドに向き直った。
「和人の母の宇都宮明日香です」
「エルドです」
ぺこ。
「ユティスです」
ぺこ。
「ほんと、これ以上のステキなお嫁さんはいないわぁ・・・」
にこにこ。
和人もユティスも母親の言葉をまったく否定しなかった。
「うふふ。お母さまにそうおっしゃっていただいて、とても嬉しいです・・・・」
「あら、嬉しい。もう、お母さまだなんて」
「はい、お母様・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
親同士の挨拶で、いきなり、ユティスと和人が婚約者同士ということが既成事実になってしまった。
「ご両親はご機嫌いかがですかな?と言っても、先ほどお会いしてから数十分しか経っておりませんが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、ご冗談がお上手で」
「で、こちらは姉の沙羅で、こちらは妹の亜矢です」
「おお、それは、それは・・・。エルドです」
にこ。
長身でダンディー、しかもエルフィアの最高理事であるエルドに見つめら
れ、沙羅はたちまち緊張した。
「ど、どうも、よろしく・・・。姉の沙羅です」
かちん、こちん・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わぁーーーい、ユティスお姉ちゃん!亜矢だよぉ!」
たったったっ。
ぴょん!
亜矢はエルドなどどうでもよくて、いきなりユティスに抱きついた。
ぎゅ。
ぽよよぉーーーん。
「ユティスお姉ちゃん、すっごくキレイ。胸もふっかふかだぁーーー!」
すりすりぃ・・・。
(う・・・、うらやましぃ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ!亜矢さんったら。うふふ・・・」
きゅ。
ユティスは亜矢を抱きしめた。
「これからもよろしく頼むよ、沙羅に亜矢」
エルドは姉妹に笑顔で言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「あ、エルドのおじちゃん、よろしくね!」
亜矢はユティスに抱きついたまま、屈託なくエルドに向けて挨拶した。
「これ、エルドさんに失礼だよ、亜矢」
父親が亜矢を嗜めた。
「よい、よい。よろしくな、亜矢。ユティスに可愛い義妹ができるわけだ。わははは」
エルドも心から喜んでいる様子だった。
「まぁ、嬉しい。うふふ」
ユティスは亜矢を見つめて笑った。
「きゃ、きゃっ、ユティスお姉ちゃん、大好き!」
ちゅ。
亜矢はユティスの首筋にキッスした。
「あらあら・・・。うふふ」
ぎゅう・・・。
ユティスは亜矢を抱き締めて微笑んだ。
「あーーー、キッスマーク付けちゃだめじゃない亜矢!」
どたばた・・・。
沙羅が慌てて亜矢を制した。
「大丈夫ですわ、お姉さま」
「お、お姉さま・・・?」
くるっ。
沙羅はユティスを振り返った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。お姉さまはとってもステキでいらっしゃいますわ」
「わたしが・・・ステキ・・・」
くらぁ・・・。
沙羅はユティスの愛らしさと美貌に目眩がしそうだった。
「ちょっと、ちゅってしただけだもん!」
亜矢は得意満面だった。
「あのぉ・・・、随分と話が一人歩きしてませんか・・・?」
その様子を唖然としてみていた和人はエルドと家族を見つめた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「一人歩きなんてしとらんさ。みんな同意の下だ。なぁ、母さん」
にこにこ。
「そうですとも、一人だけ着いてきてないのはあなただけよ、和人」
にこにこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「さて、ご両親には和人を養子に迎えることの意義をお伝えしなければならないが、これがどういうことか、正直、わたしはとても複雑な気持ちだ・・・」
エルドは笑みを引っ込め真剣な眼差しで和人の両親に訴えかけるように見つめた。
「どういうことですか?」
母親が少し不安そうな顔になった。
「沙羅、亜矢、ちょっと席を外してくれないか?」
エルドからそう依頼されてるかのように父親は娘二人に目配せした。
「お父さん・・・」
「悪いな、沙羅、亜矢・・・」
姉妹はなにか重要なことであることを察してそれに頷いた。
「わたくしは亜矢さんといますわ」
「オレも行くよ」
ユティスと和人はそういうと、姉妹と一緒にテーブルを離れていった。
「ほう、あんたたちがいるなんて、どういう風の吹き回しだい?」
ぴた・・・。
ジェニー・Mとリッキー・Jの横で、長身の健康そうな褐色の女性が立ち止まった。
びく。
「キャサリン・・・」
ジェニーはサングラスを取ったキャサリンを驚いて見つめた。
「あんたこそ、どうしてここにいるんだ?」
すかさずリッキーが聞き返した。
「あたし?仕事に決まってるだろ。そっちは?」
キャサリンはそのジャブを軽く受け流した。
「招待を受けたのよ、エルフィアの最高理事から」
ジェニーは事実を言った。
「へぇ、客ってわけかい。お国がよく出してくれたもんだね。ふふふ」
Z国の事情をよく知っているキャサリンの口元が上に曲がった。
「で、あんたの仕事とやらは?」
リッキーは表情一つ変えずにキャサリンを見つめた。
「お守りだよ、エルフィア大使の」
「ユティスのだと?」
リッキーは聞き返した。
「そうさ。彼女は合衆国市民だからね。あんたたちのような胡散臭い連中を見張ってるというわけさ」
にた・・・。
キャサリンの声なき笑いにジェニーは裏を読もうとした。
(どういうこと、リッキー?)
ジェニーはテレパシーでリッキーに意見を求めた。
(文字通りだろう。ユティスは日本国籍を与えられているが、それより先に合衆国は大統領命で国籍を付与している)
リッキーはキャサリンを見つめたままジェニーに答えた。
(一応、筋は通しているわけね?)
(ああ、一応な・・・)
「ここは日本だぞ。いくら合衆国民とはいえ、日本の法律下でなにをするつもりだ?」
リッキーはキャサリンを見つめた。
「おっと、言葉が過ぎやしないかい?そうならないようにお守りをしてるのさ」
(で、キャサリン、単なるボディーガードなの?)
(さぁな。なにしろ、レジーナのファイトマネーだけじゃ楽には暮らせんからな。おまえだって、あれしきで海外を飛び回れると思うか?)
(いいえ、かなり足が出るわね。でも、キャサリンクラスならCM収入とかだってあるでしょ?)
(そうかもしれんが、なにしろ、なんでもありの自由な国、合衆国だ。入るのも桁外れだが、出るのはもっと桁外れだ)
--- ^_^ わっはっは! ---
(かもね・・・)
(そういうことだ)
「にしては、あんたのイタリア系のボスとやらが見えないが・・・」
リッキーは回りを素早く確認し、キャサリンにカマをかけた。
「へぇ、知ってるのかい、黒眼鏡のつるっ禿げ」
キャサリンはあっさりとスキンヘッドのジョバンニを暗にほのめかした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ドクター、兼、葬儀屋、兼、神父か・・・。いい引き際だった」
リッキーがレジーナの決勝戦を思い出させ、キャサリンにクリスの正体をほのめかした。
「あの時は騙されたわ・・・」
ジェニーもじっとキャサリンを見据えた。
「さぁね・・・。あたしはなにも言ってないよ・・・」
キャサリンは目を逸らせた。
「心配することないわ。オフィシャルに言ったりはしないから・・・」
「なんのこと?」
にやり。
キャサリンはとぼけた。
「知ってるんでしょ?レジーナは異種格闘技よ。だれが参加しようと、出てくるヤツは倒すのが流儀。そして、負けは負け。わたしにチャンプにもの言う資格はないわ。クレームするなんて恥の上塗りになるだけ。論外ね」
ジェニーはけっこうさばさばした様子だった。
「あたしにしたって同じことさ。勝負にならなかったんだ。あたしもベルトは返上したよ。今年のレジーナは空位だね。決着は来年だ」
キャサリンもあっさり言った。
「けれど、来年はもうチャンスが来ないかもしれないわよ・・・」
ジェニーはまたまた意味ありげに言った。
「あんたにかい?」
にやにや・・・。
「あなたにもね、キャサリン。クリスが復活すれば、二人とも敵じゃなくなるわ」
「あのクリスが復活だってぇ・・・?ふふふ・・・」
キャサリンも意味深に笑った。
「ありえないね・・・」
ジェニーはそれまでレジーナのクリスが実は別人ではないかと疑っていたが、キャサリンの一言でそれを確信した。
「クリステアか・・・。確かにクリスに違いない・・・」
ぴく。
にや・・・。
リッキーは結論を確認すべくキャサリンに眉を上げた。
「壇上で見たけど、髪の色と形を揃えたら、まるで双子の姉妹だわね・・・」
にた・・・。
ジェニーが悪戯っぽく微笑んだ。
「あたしは、なにも言ってないよ」
キャサリンはとぼけ通すつもりのようだった。
「まぁ、いい。われわれはここで一悶着やらかすつもりはないからな」
リッキーはその件をうっちゃることにした。




