336 恩返
アンニフィルドです。聞いてよぉ!やっぱり、俊介戻ってきてるんじゃない!わぉーーー!嬉しいなったら、嬉しいなぁ!うーーーんと甘えちゃおうっと!「これ前書きだろ」って・・・?え・・・?きゃは。あら、イヤだ・・・。もう、恥ずかしいじゃない!ユティス、早く続けてよぉ!
■恩返■
ぶわぁーーーん・・・。
「エミリアナ、ソル星系周辺域まで到着です」
国分寺真紀と俊介を乗せたセレアムの宇宙船は地球のすぐ手前まで来ていた。
「うふふ。さすがエルフィアですわね。行程にかかる日にちが半分以下になりました」
「エルドたちに感謝しなくては・・・」
「そうですね。ここからはアンデフロル・デュメーラの指示に基づいて、地球上空32000キロにジャンプします」
「了解です」
「アンデフロル・デュメーラに繋いでくださる?」
「了解です。エメリアナ」
一方、大講堂ではユティスの講演が続いていた。
「エルフィアでは、文明を6つのカテゴリーに分けて考えています。カテゴリー0は、科学文明を持てるような生物の現われていない、完全にジャングルの法が支配する弱肉強食の世界です。現世人類、ネアンデルタール人やクロマニョン人、いわゆる新人は登場してきません。この世界にあるのは奪い合い、騙し合い、そして殺戮だけです。地球では石器や動物の骨を利用した完全な狩猟採集生活、ピテカントロプスやシナントロプスなど、原人の登場、数万年前までの数億年がそれに相当します」
しーーーん・・・。
ユティスは地球の学術用語を利用して説明しはじめたので、T大の学生をはじめとするインテリ集団は冗談を飛ばすのを止めて、それに聞き入った。
「次はカテゴリー1です。これは、その世界、つまりその惑星の外
に飛び出すことができるまでの文明のことです。科学技術が発達して、実際にそうできる技術がない限りは、一括してカテゴリー1に該当します。原始から農耕文明、そして青銅器文明、鉄器文明、その間、かなりのテクノロジーに進化が認められますが、これらの時代の細かな区分は文明カテゴリー的には、意味を持ちません」
さぁ・・・。
ユティスはそこで聴衆の反応を確かめるように会場を見渡した。
ざわざわ・・・。
「原始人と19世紀の文明が同じだというのか・・・?」
「どういう意味なんだ・・・?」
会場は再び騒がしくなった。
「みなさんは不思議に感じられていることでしょう。どうして、それがカテゴリー1なのかと・・・。んふ?」
ユティスは少し首を傾げた。
「その前に、もう少しカテゴリーを進めてみましょう」
「了解、続けてぇ!」
会場前列にいた女子学生が叫んだ。
「リーエス。では、カテゴリー2について解説いたします。カテゴリー2とは自分たちの母星を脱出することができるテクノロジーを確立した世界のことです。創造的なお話や理論的な学説が存在していても、実際にそのテクノロジーがない世界はカテゴリー1です。自分たちの惑星を外から実際に見ることのできる世界でないと、カテゴリー2にはなれません。この経験というものが文明カテゴリーのキーとなっています。」
ユティスは続けた。
「でも、ご安心してくださいね。うふ」
にっこり。
「地球は間違いなくカテゴリー2です。なぜならば、地球の方は液体水素と液体酸素を燃焼させるロケットを開発し、地球上空空の周回軌道にまで人工衛星を打ち上げ、母なる惑星、地球を外から見ることを実現しました。実際に地球の衛星、月に人類を送ったり、他の惑星や小惑星、そして彗星に探査機を送り、そこのサンプルを回収も実現しました。さらに、母なる太陽の荷電粒子が届く範囲、ヘリオポーズを超えて、他の恒星や天の川銀河系の影響をより受ける星域まで、探査機を送ることに成功されています」
「ボエジャー1号、2号のことじゃないか?」
「そうだ・・・」
聴衆は頷いた。
セレアムの宇宙船では最終アプローチに向けての会話がアンデフロル・デュメーラとやり取りされていた。
ぽわぁーーー。
「こちらセレアムの宇宙機『エメリア・エメリアナ』。アンデフロル・デュメーラ、ご指定の宇宙域にジャンプ完了しました」
地球上空32000キロで直径2000メートルのエルフィアのエストロ5級母船のわずか数百メートルにそれより小さな宇宙船が音もなく静かに近寄っていった。
どうゎーーーん!
「大きいですね・・・」
エメリアは自分の名前を冠した宇宙船の司令室からアンデフロル・デュメーラの滑らかに輝く白銀色の船体を見つめた。
「そんなこと言ったって、この船だって700メートル近くあるんだろ?アホくさ・・・」
俊介があきれ返ったように言った。
「ええ、そうですよ、俊介、真紀。さぁ、乗船準備はできて?」
「あいよ」
「大丈夫よ、大叔母さま」
「エルフィアの概念では、地球は完全にカテゴリー2なのです」
地球がカテゴリー0やカテゴリー1ではないと聞いて、聴衆は少しほっとしたようになった。
「このカテゴリー1と2の間は、自分たちの惑星を脱出できるどうかで分けられますが、この境界はみなさんが思われている以上にはっきりしていて、極めて強固なものです。カテゴリー1からカテゴリー2に行くにはとても大きな壁が立ちはだかっているのです」
こっくり・・。
ユティスの言葉を理解できている人間がどれくらいいるかしれなかったが、概ね理解しているように頷く姿があちこちで認められていた。
「まず、理論確立に続いて、現実的に惑星の重力加速度に打ち勝つだけの推力源を持つ必要があります。もし、原子レベルの酸化を主とする化学反応によるエネルギーでこれを実現しようとするなら、とてつもなく大きなエネルギーを生み出すための巨大な推進機と、膨大な燃料と酸化剤が必要となります。このような推進システムは、搭載重量の90%以上が燃料というとても効率的なものといえませんが、それでも十分に用は足していますわ。宇宙空間まで、これを制御して思いのままに扱うとなれば、どれだけのテクノロジーが必要でしょうか。カテゴリー1においては、このようなエネルギーを生み出し制御することはできません・・・?」
ユティスはそこで間を置いた。
「なるほどね・・・」
聴衆には頷くものも多かった。
「しかし、このように基礎的な理論だけでカテゴリー2になるわけではありません。実現できてこそカテゴリー2なのです。その意味はこれからみなさんにもお感じいただくことになりますけど・・・」
ユティスは少し間をおいた。
「ん・・・?」
「なにを感じさせるって・・・?」
意味深なユティスの言葉に、聴衆には小首を傾げるものもいた。
「次にカテゴリー3について申しあげます。カテゴリー3とは恒星間航行を可能にした世界です。光の速度をもってしても何年もかかる時空と、電磁場や重力場、そして素粒子レベルの各種の力場、光や電磁波を完全に理解できてこそ実現できるテクノロジーです。カテゴリー2とカテゴリー3の間には、カテゴリー1と2における壁とは比べものにならないくらいの強固な壁が立ちはだかっています」
「うーーーむ・・・」
「カテゴリー3か・・・」
「はぁ・・・」
科学者の卵たちは溜息混じりに唸った。
「相対性理論によると、移動体はいかなるものも光速を超えることはできん・・・」
超光速とはいったいどういうものなのか、聴衆は実際の姿について想像もつかなかった。
「まず、光の速度で何十年、何百年、また何千年ということは、電磁波で現在見えているこれらの星々たちがその瞬間にはその位置にいないばかりか、超新星となって消え去っているかもしれないということです。わたくしたちはそれも考慮しなければなりません。カテゴリー3では、電磁波による星々の位置把握は、リアルタイムということにおいて、ほとんど意味がありません。どうしても時空の壁を超えて星々の位置を把握する必要が出てくるのです。これを実現している世界がカテゴリー3です。これも理論だけではカテゴリーは3ではありません。カテゴリー2のままです」
「なんという・・・」
「実証が必要か・・・」
「ふむ・・・」
「はぁ・・・」
「とても恒星間旅行など夢の夢・・・」
あちこちで溜息が起こった。
「うふ。地球のみなさんは、その基本原理である時空をある程度理解されていますわ。そいう意味でカテゴリー3への道を既に歩み始めていると、エルフィアは理解しています・・・。そうですわね、高根沢教授?」
くるり。
にっこり。
ユティスはそこで壇上の特別招待席の高根沢教授を振り返って微笑んだ。
すく・・・。
「えーーー、僭越ながら地球を代表して同意申しあげます。あーーー、いたく恐縮です」
ぺこり。
高根沢教授は思わず中腰になり一礼をした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは!」
それがあまりに滑稽でユーモアたっぷりだったので、会場は爆笑の渦となった。
「でも、ある程度ってことは・・・?」
「完全に理解はしてないってことだよな・・・?」
「ええ、そういうことみたい・・・」
ユティスはそれに答えた。
「それには時空と言うものの理解が必須となります。時空をなにもないただの空間と思ってる方もいらっしゃるでしょう。でも、事実はそうではありません。地球の物理学者ディラックさんの方程式から導き出される真空という時空がどのようなものであるか、地球の科学者さんたちはその可能性をお認めになられています。真空とはなにもない時空ではありません。プランクサイズの素粒子と反素粒子が生まれ、互いに打ち消しあっているとても騒々しいところなのです・・・。これは地球の科学のとても素晴らしい成果ですわ」
ユティスは、どうやって入手したのか、T大の講演に相応しい地球の宇宙物理学の最先端の研究成果を交えながら、カテゴリー3についての話しを続けた。
「では、真空という時空と素粒子の関係はどういうことでしょうか・・・?」
そこでユティスは会場を見渡した。
しーーーん。
会場は沈黙に包まれた。
「時空的にあるものとないもの・・・?」
「そもそも時空はだな・・・」
「エルフィアの言う時空ってなんなのかしら?」
「うふふ・・・」
ユティスは微笑むとその後を続けた。
「これは地球のみなさんが実際に確かめなければならない宿題です。わたくしが答えを申しあげてもよろしいのですが・・・、それを鵜呑みになさるのはとても科学的とはいえなせんし、答えを聞いてよしとするのは、本当に理解したといえるでしょうか・・・?」
ユティスは会場に問いかけた。
「では、答えは教えないと・・・?」
「ナナン。うふふ。ここに入るには過去問題の答えを早々に見た方がよろしいかと思いますけど・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは・・・」
「くっくっく・・・」
偏差値70を超える超難関を突破したとだけあって、効率的勉強法に身に覚えのあるT大の学生たちがあちこちで笑い出した。
「うふふ。支援というのは答えを教えることでも、解法を教えることでもありません。どこがどうわからないのかと気づかせてあげることです。気づきのない方にとっては解法も答えも単なる暗記対象でしかありませんから・・・。違いますか、みなさん?」
「そうだ!」
「そうだ!」
「暗記は学長の試験前だけでいい!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わははは!」
「うふふ。ここにおいでのみなさんは暗記がお得意のようですわね」
「そう、そう。きみの言ったことは一生忘れないよぉ!」
男子学生の一人が叫んだ。
「あら、そんなことおっしゃってもよろしいんですか?」
「ええーーー、まさかボクを嫌いだなんていうんじゃないよねぇ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あっはっは!」
「はははは!」
会場は爆笑の渦となった。
「うふふ・・・。ナナン、違います。今日、あなたは『カテゴリー3とはなにか』を体験しますわ。お忘れにならないでくださいね」
にこ。
ユティスは優しく微笑んだ。
「はい・・・?」
「あははは!」
「それでは、次にカテゴリー4について申しあげます」
ユティスは彼からゆっくりと視線を中央奥に戻すと、そのまま話を進めていった。
「カテゴリー4とは・・・、わたくしたちエルフィアがそうですが、銀河間航行を宇宙船なしに直接行き来できる世界のことです。時空についての完全なる理解だけでなく、それを制御できるテクノロジーを確立していることが必須となります。カテゴリー3と4の間にも今まで以上に大きな壁が立ちはだかっています。カテゴリー3は銀河内の恒星間旅行は実現していますが、銀河間航行は銀河内ほど容易ではありません。また、カテゴリー3では、宇宙船なしでは恒星間の行き来はできません」
「なんかぶっ飛んでるぜ・・・」
「さっぱりイメージできないわ・・・」
さすがのT大の学生たちも、少しでも多くユティスの言葉を理解しようと、必死に聞いていた。
「目的の星を目指す時、カテゴリー3では、銀河内ですと、お互いの相対距離は母星の固有運動だけを考慮していればよいのです。しかし、カテゴリー4になると、たとえ近隣といえる銀河団でも、それは数千万光年の距離があり、お互いの正確な位置を割り出すには、銀河間の秒速千数百キロという後退速度をも加味しなくてはなりません。加えて、カテゴリー4では、宇宙船に依存することなく、時空アンカーを用いて数億光年先でも誤差数センチ以内に、正確に人間を望みのところに送り込めるのです」
これは聴衆にとってまったく想像もできないことだった。
「あははは・・・。数千万光年だってぇ・・・?」
「数億光年で数センチの誤差って・・・、まっさかぁ・・・」
「ありえん・・・!」
「冗談だろ・・・?」
だれもが口々に叫んだ。
「ナナン・・・。わたくしたちもそうやって地球に来ました・・・」
ユティスは壇上で静かに首を横に振った。
「おお・・・!」
「なんだってぇ・・・?」
ざわざわ・・・。
会場は大きくどよめいた。
「カテゴリー4とは、かようにとてつもなく進化しているのか・・・」
科学者たちは、地球と絶望的なほど隔たりのあるエルフィアの科学力に言葉を失った。
「それでもなお、わたくしたちエルフィアのカテゴリー4が文明の最終カテゴリーではありません。それどころか、この大宇宙にはエルフィアを遥かに凌ぐカテゴリー5と呼べる文明があります・・・」
「この上にさらに文明段階があるというのか・・・?」
「想像もできないわ・・・」
ざわざわ・・・。
会場はまたまた大きくどよめいた。
「この宇宙は有限ではありますが、宇宙の地平線は観測できません。なぜなら、時空の膨張が光より遥かに早いためです。一般的に光より早く移動する物体はありえませんが、時空はそれ自体移動しているわけではなく、自身がすべての位置において同様の膨張しているわけで、結果、全体でみると光速を超えることになるということです。これは地球の科学者のみなさんも認められることです。観測点から見ると、最果ての銀河の後退速度から逆算して、宇宙の年齢と現時点での宇宙の果てを計算することはできますよね?でも、どうでしょう?宇宙の果ての形状は予想どおりの曲面を示す値だったでしょうか・・・?」
ユティスは両手を広げて聴衆を見つめた。
「彼女の言うとおりだあ・・・」
「ああ。閉じているはずなのに、観測では平坦だ・・・」
科学者たちはユティスの言葉に頷いた。
「リーエス。もし、宇宙が閉じているなら、値はそれを示すはずです・・・。ところが、観測結果は宇宙がどこまでも平坦に広がっているというところではないでしょうか?その観測値を信じるなら宇宙の広がりは数兆光年だと・・・。一方、銀河の後退速度から逆算される宇宙の年齢とそれから導き出される現在の宇宙の最果ては、半径500億光年くらいだとされていませんか?それ以上にはなりません・・・」
「そうなんだ・・・」
「有限なのに、平坦ということは矛盾している・・・」
「宇宙の本当の姿はいったいどうなっているんだろう・・・?」
「それに、宇宙が広がる速度はどんどん加速しています・・・。これはどちらが本当なのでしょうか?それともどちらも間違い?それとも、どちらも正しい・・・?」
「それは本当なのか・・・?」
「うふふ。これはお教えすることはできません。地球の皆さんの宿題です」
にんまり・・・。
ユティスは悪戯っ子のような愛嬌のある笑みを浮かべた。
「ここまで言ってケチくさいぞぉ!」
「途中で止めないでよぉ!」
早速、学生たちが不満の声を上げた。
「最後まで行かせてくれぇーーー!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わっはっは!」
「あははは!」
「それは知的なご要望ですか?」
「うん、痴的な要望だよぉーーー!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ!」
「あははは!」
「では、最後まで知的に申しあげます。カテゴリー5についてですわよぉ?」
男子学生たちの卑猥な誘いをユティスはユーモアたっぷりにかわした。
「つまり、カテゴリー5とはそういうことも、実際にすべてをクリアした世界です。地球のみなさんもご存知のとおり、計算式上では多次元並行宇宙が無限にある可能性が示されています。わたくしたちエルフィアにも・・・、正直申しあげますが・・・、この宇宙の法則に従ってる以上、真実はわかりません。この宇宙の外には出られないのです。確かめようがないのが実情です」
「さすがのエルフィアも限界ということか・・・」
「うむ・・・」
「つまり、カテゴリー5の世界とは、今ある宇宙のさらに外の宇宙にも行き来ができる・・・、そういう世界なのかもしれません・・・」
ユティスは静かに結論を出した。
「ええ?」
「わかんないわけぇ?」
「リーエス。仰せの通りですわ。わたくしたちは自分たちの知っている以上のことは想像できません。エルフィアとて、この宇宙の外がどうなっているとか、そこに行くとか、そのようなことは実現していないのです」
「つまり、エルフィアも想像できない世界というわけか・・・」
「この宇宙の中にあるものは、その宇宙の法則に例外なく従うという単純な理屈です。エルフィアがその法則の中にあることは疑いありません。しかし、カテゴリー5はそれを打ち破ることのできる世界なのです。間違いなく、カテゴリー4とカテゴリー5の間の壁は並行宇宙を突破するくらい無限に厚いのです・・・」
聴衆は、カテゴリー5というものがどのようなものなのかようやくわかってきた。
「わたくしたち、エルフィアとてカテゴリー5の世界に比べたら、生まれたての赤ちゃんにもなっていませんわ。お母さんの子宮にようやくたどり着いた受精卵・・・。その程度でしかありません・・・」
「エルフィアは、カテゴリー5の世界の人に出会ったことあるんですかぁ!?」
「カリンダはカテゴリー5になってるんじゃないのぉ?!」
誰かが叫んだ。
「ナナン。確証はありませんわ・・・。ただ、エルフィアの恩人たるカリンダの人は、わたくしたちに文明支援をし終えた後、こう言い残しました。『わたしたちとは比べものにならない超高文明世界が大宇宙を見守っています。カリンダに恩を感じるなら、あなたたちもカリンダにではなく次に続く世界を慈しみ支援しなさい。それがわたしたちカリンダに対する恩返しであり、さらにその先の文明に対する尊敬の念です』と・・・」
「う・・・」
「あ・・・」
「・・・」
聴衆はまたしても声を失った。
「エルフィアをカテゴリー3に引き上げていただいた伝説の超高文明世界カリンダ・・・。彼らがエルフィアにそう語ったのです。もう、何万年も前のことです。今や、エルフィアもカテゴリー4になりました。時が経ち、かのカリンダがカテゴリー4を脱し、カテゴリー5になったかどうか・・・、わたくしたちには知る術はありません・・・」
「どうして?」
「そうよぉ!」
「なんでだよぉ?」
学生たちは納得いかないようだった。
「なぜなら、カリンダは決して自分たちの宇宙座標を明かしてはくれなかったからです。わたくしたちは何度もそれがどこなのか尋ねました。そして、教えていただけないその訳も・・・。恩返しを考えずにはいられなかったからです。しかし、カリンダの人々の答えは微笑みだけでした・・・」
ユティスは遠くを見つめるような目になった。
「『知ってどうするのですか?子が親に恩返しをしようと思ってもできませんよ。親から受けたことを親に返すことはできません。ただ、親にしてもらったことは、自分の子供にならそっくり同じことができます。カリンダがエルフィアに文明支援するのは当然のことです。エルフィアは言わばカリンダの子。わたしたちの恩返しですから・・・。エルフィアもいずれ時が熟すでしょう。その時にこそ、自分たちの親に恩返しをしようとするのではなく、自分たちの子供たちに愛情を注ぎなさい』と・・・。カリンダの人々はそういい残し、自分たちの次なる子のために宇宙の何処へとまた消えていきました・・・」
にこ・・・。
すぅ・・・。
ユティスは笑みを湛えて広い会場の斜め上を見つめ、あたかも、そこにカリンダがあるのではないかというように左手を差し伸べた。
「・・・」
「わたくしたちは、そこにその大いなる意志を感じ取りました・・・」
そして、ゆっくりと聴衆に視線を戻した。
「人、ナナン、生物としてはあまりにも当たり前の『親の子に対する愛』、『愛の連鎖』、『善の連鎖』と言うべきものです・・・。カリンダも恐らく・・・。それが、この大宇宙を通じて何万年も、何十万年も、もしかしたら、何億年もの間、脈々と受け継がれてきたのかもしれないということを・・・」
聴衆はユティスの話に引き込まれていった。
「子は成人し、いずれ独立しなければなりません。そして、エルフィアもカテゴリー3から4に移った時、その時が来たことを自覚しました。まずは、エルフィア銀河内で文明支援を無償で行なうことを始めました。何万年もの前のことです。そして、さらに時が経ち、わたくしたちは宇都宮和人さんにより地球と巡り合いました」
にこ・・・。
そこでユティスは和人を振り返って優しく微笑んだ。
「はら、そこで微笑返しする」
ちょん。
アンニフィルドが和人を突っついた。
「わかってるって・・・。あは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこ・・・。
す・・・。
和人はユティスに笑みを送り、右手を少し上げた。
「わざとらしいわねぇ・・・」
クリステアが言った。
「悪うござんした・・・」




