322 塩焼
「ベネル・ロミア(おはよう)、アンニフィルドです。今日もまた朝が来たわね。さて、お話も動き出したわよぉ。トルフォの御仁がユティスにお熱なんだけど、しばらくエルフィアから一人離れてるのよねぇ・・・。委員会理事としての支援先世界へ招聘されちゃったんだけど、なんか臭うのよ。エルドがちゃんとSSの言うことをきいてくれればいいんだけど・・・」
■塩焼■
エルドは地球上空にいるアンデフロル・デュメーラを呼んだ。
「アンデフロル・デュメーラ、ユティスたちの現在地点は?」
「リーエス。ヤキトリバーで夕食の真っ最中です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「けっこう。わたしが精神体で現われても大丈夫そうかね?」
「直接ご連絡ですか?」
「左様。ついでに、ヤキトリバーというものを是非見ておきたい」
--- ^_^ わっはっは! ---
「その場にいれば、欲しくはなりませんか?」
「その時は、きみがヤキトリとビールなるものをエルフィアに転送してくれたまえ」
にやり。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱち。
エルドはアンデフロル・デュメーラの擬似精神体に片目をつむった。
「リーエス。パジューレ(どうぞ)、エルド」
アンデフロル・デュメーラはすぐに答えた。
「エルド、ユティスとSSたちに警告ですか?」
メローズが言った。
「うむ。それでだ、リュミエラ・・・」
くるり。
エルドはリュミエラを振り返った。
「タリアじゃなかったの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
くすくす・・・。
リュミエラが笑った。
「これは失敬。タリア、まず、きみはトルフォの軌跡の分析に、メローズと一緒に加わって欲しい」
「リーエス。わかったわ」
「では、わたしたちは、分析に入ります」
メローズはタリアに合図すると、二人はエルドの執務室から出ていった。
地球のそこそこ有名なヤキトリバーでは、ドクター・エスチェル他、エルフィア人ご一行のオプショナル・ツアーの真っ最中だった。
「それで、ヤキトリバってのはいろんな肉とか野菜のバーベキューだってわけね?」
「リーエス、ドクター。味付けは、塩とタレを選べるのよ」
アンニフィルドが言った。
「エルフィア人って、菜食主義者じゃないんですか?」
和人がエスチェルに確認した。
「ふふ。基本そうだけど、別にタブーじゃないから。一生に一度や二度食べたからと言って、だれも気にはしないわ」
にこ。
エスチェルは和人に微笑んだ。
「一生に一度や二度って、エルフィアにお戻りになったら、その後は、もう、お食べにならないんですか?」
イザベルがきいた。
「あなたたちがビールを送ってくれるんなら考えてもいいわね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「確かに、ヤキトリにはビールよね」
アンニフィルドが二宮にウィンクした。
「お、おう。そうっすよぉ、ドクター・チェリー」
「チェリー?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違いましたっけ?」
「エスチェルよ、エスチェル。人の名前くらい、ちゃんと覚えなさいよぉ」
ドクター・エスチェルが二宮に言った。
「チェリーってのはね、ジョーンズから教わったんだけど、彼らの国、合衆国じゃあ、ヴァージンって意味があるそうよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアがエスチェルにそっと言った。
「ヴァージン?」
エスチェルはわからないというような表情になった。
「それ、地球語?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「地球語には違いないですけど、英語っていう方言ですわ」
ドクターにユティスが答えた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんて意味よ?男共がにたにたしちゃってぇ・・・」
エスチェルは二宮とキャムリエルを見た。
--- ^_^ わっはっは! ---
「処女よ。処女」
クリステアがあっさりと言った。
「なぁるほど・・・」
エスチェルは平然と頷いた。
「チェリー・ボーイって、男にも使うらしいわよ、ミノニヤ」
クリステアはさらに付け加えた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「きゃ!」
イザベルが小さな叫びを上げた。
「な、なに言ってるんっすか、クリステア!イザベルちゃんの目の前で!」
「きゃあ、二宮さんのエッチ!」
「ごめん、イザベルちゃん」
ばさ、ばさっ!
二宮は大慌てで両手で反応した。
「で、ヤキトリは美味いっすかぁ?あはは・・・」
この店を選んだ二宮が話題を変えようとした。
「リーエス、とっても美味しいわ。アルダリーム(ありがとう)、ミノニヤ」
エスチェルは二宮の方を向いて礼を言った。
--- ^_^わっはっは! ---
「あの、ドクター?」
「なぁに?」
「オレ、ニノミヤっす!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だから、ミノニヤでしょ?」
「ニノミヤ!」
「ミノニヤ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ドクター・チェリー、わざとやってるでしょ?」
二宮は憮然として言った。
「あなたもね、ミノニヤ」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮はだれからからも可愛がられる得な人間だった。
ぴぴっ。
そこに、エルドからハイパーラインでユティスとアンニフィルドとクリステアのSSの二人に連絡が入った。
「まぁ、エルドですわ」
「わたしにも」
「わたしにも来たわ」
ぽわぁーーーん。
みんなの前にエルドの精神体が現われた。
ぎょ!
ヤキトリバーの店員と客は、エルドの姿は見えないし、声も聞こえなかったが、なにものかの気配を感じて一瞬身体を緊張させた。
「な、なんだ、今のは・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
店員と客は当たりをうかがった。
「ベネル・ロミア(こんばんわ)、諸君。ステキな夕食中にお邪魔したかな?」
「ナナン。ようこそおいでくださいましたわ、エルド」
エルドの挨拶にユティスが答えた。
「エルド、いきなり現われたら、周りが驚いちゃうじゃない」
アンニフィルドが言った方にはだれもいなかった。
「それはすまなかった。わたしも忙しいんでね」
「ただ、ヤキトリバーでわたしたちの夕食を眺めに来たわけじゃないんでしょ?」
クリステアがエルドに言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「どう、エルドも?」
さっ。
精神体のエルドには食べることができないことをわかっていて、エスチェルはカシラの塩焼きを客には見えないエルド、つまり空中に1本差し出した。
「なんだぁ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「エスチェル、きみはわたしが食べることができないのを知ってて、そうしているのかね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あら、わたしは、アンデフロル・デュメーラに転送させるつもりだったのよ。戻ったら試してみれば?」
「リーエス。わかったよ。メローズとリュ・・・、いや、3人分をお願いするよ」
「3人ですって?第四秘書でも来たの?」
アンニフィルドが怪しむように言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「冗談じゃない。秘書はメローズだけしかいないよ、ドクター」
「そりゃ、少な過ぎるわ。地球の大統領とか、首相とか、なんたら大臣さんとか、とにかく政治の偉いさんたちには、女性秘書だけでも3人はいるんだって。もちろん、サキソフォンの名手ばかりね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まいったね。ただのお客さんだよ。それでだ。きみたちSSに伝えたいことがあるんだが・・・」
にこ。
エルドは微笑んで、話題を変えた。
「アンデフロル・デュメーラ、聞こえたでしょ?」
エスチェルが天井に向かって言った。
「リーエス、ドクター・エスチェル。カシラ3本とハツ3本、それに、シシトウ3本でよろしいですか?」
「じゃあ、牛串3本と、そこのジョッキ3杯も追加して」
「リーエス、SS・クリステア」
ぱっ。
アンデフロル・デュメーラの擬似精神体が頷くと、テーブルにあったそれらが一瞬で消えた。
「およ?」
「き・・・、消えた・・・!」
隣の客が目をしばたいた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「皿とジョッキは終ったらお店に戻すのよ」
アンニフィルドが追加指示を出した。
「リーエス、SS・アンニフィルド」
「まず、伝えたいことがある。悪いが先にエルフィア語で話させてもらうよ」
エルドは、二宮、イザベル、石橋たちには頭を下げた。
「いいっすよぉ。業務通達なら、存分にしてくださいっす」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしも気にしませんから」
「わたしも・・・」
石橋とイザベルが続いた。
「早速だが・・・」
エルドはエルフィア語で話し始めた。
「SSの二人は、ユティスと和人の警護を今以上に丁寧にしてくれたまえ」
「リーエス」
アンニフィルドとクリステアがコーラスした。
「Z国、まだ諦めてないの?」
アンニフィルドが言った。
「恐らくそうだろうと思うが、最大の脅威ではない。リッキー・Jやジェニー・Mは本国に戻っている。問題はトルフォ、いや、ブレストだ」
「ブレストですって?」
「だって、彼は合衆国に亡命したのよ」
SSの二人は納得できないように言った。
「こちらで、彼らに関する動きを調査している。フェリシアスはシェルダブロウをエルフィアに送還した後、すぐに地球に戻らせ、ブレストのウォッチに当てる。キャムリエルも同様に地球で警護に当たって欲しい」
「リーエス」
キャムリエルが嬉しそうに言った。
「エルフィアに帰るのが嫌なんでしょ?」
にたり。
クリステアが、キャムリエルの隣の石橋とその隣のクレムディンを見て、口元に笑いを浮かべた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「きみはフェリシアスが合衆国なんで離れ離れになるのかい?」
「ハートは繋がってるわよぉ。4000億ガウスの磁石みたいにね」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱち。
アンニフィルドがウィンクした。
「ばか言ってぇ。たかだか2万キロでしょぉ?」
クリステアは意に介さずだった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス、SS・クリステア。地球上のことですよ。いつだって瞬間移動できます」
アンデフロル・デュメーラが真面目腐って言った。
「もう、冗談が通じないわねぇ・・・」
アンニフィルドが不服そうに言った。
「ドクター・エスチェルとトレムディンも不測の事態に備えて、地球に待機をしてもらいたいが・・・」
「エルフィア大使館ね?」
クリステアが言った。
「リーエス。今のところでは、全員がプライバシーを確保しながら生活するには、ここは少々、スペースが足りない。この段階で、国分寺姉弟やトアロに負担を掛けるのも、あまりしたくないしな・・・」
エルドは申し訳なさそうに、ドクターたちを見つめた。
「きみたちはアンデフロル・デュメーラでしばらく待機してはもらえないだろうか?」
「リーエス」
エスチェルは了解した。
「わたしもですか?」
トレムディンは残念そうに言った。
「リーエス。そう願いたい」
「よかったね、トレムディン、地球に残れて」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこっ。
早速、キャムリエルが笑顔になった。
「キャムリエル、きみもだよ。地上の警護はアンニフィルドとクリステアに任せる」
「ええーーー?」
--- ^_^ わっはっは! ---
今度は、トレムディンが笑顔になる番だった。
「よかったですね、キャムリエル、ご一緒できて嬉しいですよ」
がく・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
トレムディンの一言で、キャムリエルは世にも情けない顔になった。
「お二人とも、宇宙船にお戻りになるんですか?」
ちらちら・・・。
なんとなく会話の意味を察した石橋は、左右の二人を交互に見た。
「あなたがお先に、キャムリエル」
--- ^_^ わっはっは! ---
間髪入れずにトレムディンが言った。
「ナナン、SSは常に最後だからね。きみに先を譲るよ」
「ナナン、お構いなく」
「お二人は、ドクター・エスチェルと同時にお連れします」
アンデフロル・デュメーラから冷静な回答があり、これに決着がついた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「みんな、お楽しみ中に悪いが、どうしても話しておきたいことがあるんだが・・・」
アンデフロル・デュメーラの言葉が終ると、エルドは真面目な顔で話し始めた。
「大切なお話ですわ」
ユティスはそれがなんだかわかっているようだった。
「後、1時間くらいはかかりそうね」
クリステアが状況を確認しながら言った。
「リーエス。きみたちがエルフィア大使館に戻ったら、また連絡するよ」
エルドはそういうと、手を振った。
「エルド、またね」
すぅ・・・。
アンニフィルドが応えると、エルドの精神体は微笑みながら姿を消した。
しゅうぅーーーん。
「SS・フェリシアス、シェルダブロウのエルフィア送還準備が整いました」
アンデフロル・デュメーラの擬似精神体が、フェリシアスとシェルダブロウの前に現われた。
「本当に大丈夫なのか?」
フェリシアスがアンデフロル・デュメーラに確認を求めた。
「転送システムに異常はありません」
「リーエス。エルドと会話したい。繋いでくれたまえ」
「リーエス。SS・フェリシアス」
ひゅーーーん。
ぱっ。
空中にスクリーンが現われ、エルドの顔が映った。
「フェリシアス、シェルダブロウ、帰還準備が完了したのか?」
エルドは二人を見つめた。
「リーエス」
「しかし、トルフォたちの転送システムのデータ関与の確認作業はまだです」
フェリシアスは心配そうに言った。
「ナナン。アンデフロル・デュメーラの転送システムのテストなら、先ほど完了したよ」
「ええ?」
ぱっ。
ぱく。
もぐもぐ・・・。
エルドは何かを右手に持つと一口ぱくついた。
ぐいっ。
そして、小麦色の泡の出る飲み物を飲み始めた。
ごくごく・・・。
ぷっふぁ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにをしてるんですか、エルド?」
「これは失敬した。エスチェルからの地球土産だよ。転送は正常だったぞ。ほれ、ヤキトリとビール、これはなかなかいけるな。きみも地球にいる間に試した方がよくないか?」
「エルド!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「転送システムに介入すること自体、天文学的確率で不可能だ」
「わかっています」
「転送ターゲットは絞り込まないと、とてもじゃないが何一つできんさ」
エルドは言った。
「なるほど・・・。確かに、ユティス以外の人間にそんなことはできないでしょう。例えそれが間違いであるにしろ、一度、転送したら、彼らの計画を教えるようなものです。あくまで、ターゲットはユティスに絞り込んでいるはず・・・」
フェリシアスは冷静にしゃべった。
「そうかもしれんが、そうではないかもしれん・・・」
エルドは考え込むように顎を撫でた。
「もう一度、転送テストをしたらどうです?」
「なにかをアンデフロル・デュメーラからエルフィアに送るというわけかな?」
エルドは、にやりとした。
「リーエス。そうか・・・。ちょうどいいな。今度はシャンパンはどうかね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「エルド、冗談を言ってる場合じゃないですよ」
フェリシアスは真顔だった。
「知ってるぞ、そっちの保湿冷蔵室にアンニフィルドがロイ・ルデレールを数ダース溜め込んでいるの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルドがぁ・・・、いつ?」
「リーエス。俊介を招待した時のために用意するんだとか」
ぱち。
エルドはあきれ顔のフェリシアスにウィンクした。
「ヤキトリも、さらにいくつか同時転送してくれると、なお有難いんだが」
「エルド・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「特に塩だな。これはなかなかいける・・・」




