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031 求人

■求人■




「どうぞ、おかけください」


すす・・・。

和人の出身校の進路指導の先生は、真紀と和人を応接室に招き入れた。


「ありがとうございます」


とんとん。


「入っていいよ」

「失礼します」


ドアを開けて、一人の可愛らしい女学生が入ってきた。


(げげっ・・・)

(あら、確か、彼女、喜連川イザベルだわ。どうしたのかしら?)


「さ、きみもかけなさい」

「ありがとうございます」


「どうも、はじめまして。株式会社セレアムの代表の国分寺真紀と申します」

ぺこ。


「同じく、株式会社セレアムのマーケティング担当の宇都宮和人です」

ぺこり。


「わたしが、進路主任の犬塚です。こちらは、情報科2年の・・・」


「喜連川イザベルと申します」

ぺこ・・・。


(イザベル・・・?)

(やっぱり、イザベルさんだ・・・)


「どうも・・・」

「本日は、新卒者採用の件で、弊社の説明をする機会をいただきまして、誠にありがとうございます」


ぺこり・・。

真紀はイザベルに丁寧に頭を下げ、和人も礼をした。


「これは、これは、ご丁寧に。お美しい女性社長さんとお聞きしてたんですが・・・、いや、正直、驚きました・・・」


真紀はにっこりと微笑んだ。

「この業界、けっこう女性の社長は多いんですよ」


「そうですか?」

「ええ」


「それで、今日はどういった学生というか、専攻とか?」


「はい。情報科の学生さん対象でお願いに参りました。わたくしどもは、Web情報サイトの管理運営と、EC他、サイトのマーケティング支援を主にやっております。時勢はすでにスマホに完全に移行しておりますが、多くの会社は対応が遅れているんです。それで商機を逃しているんです」


「遅れを取っていると?」


「はい。グローバル・ジャイアントのママゾンや、フォースブック、モーグリ、ECベイなどが、とっくに映像音声支援システムで、市場を席巻して顧客を根こそぎ持っていっているです。それなのに、日本はここでも相当な遅れをとっています」


「映像音声支援システムですか?」

「はい」


くるり。

真紀はイザベルに向き直った。


「例えばね、イザベルさん、あなたが、ネットショッピングするとするわね?」


にっこり。

真紀はイザベルに微笑んだ。


「あ、はい」


にこっ。

イザベルも微笑み返した。


(うん。確かにめちゃ可愛い。この笑みに悩殺されたのか、先輩・・・)


--- ^_^ わっはっは! ---


真紀はイザベルに説明を続けた。


「例えば、『ピンクのスカートで、膝上30センチのミニ、サイズは10号、襞はなしで、素材はカシミヤ、価格は12万円。メーカーは、シャデル。明日には届けてね』ってな具合ね」


ところがイザベルは困ったような顔をした。


「あのぉ・・・」


「なにかな?遠慮なく言って」

「はい。膝上30センチって、それ、パンツ丸見え状態じゃないでしょうか?」


「え?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ん、ん」

進路主任の犬塚が咳払いした。


「おほほほ。例えです。例え」

「そ、そうですよね。ふふふ」


「で、スマホに向かってそんな風に言うんですか?」


「そうです。一々、手で画面にタッチすることすらないんです。すると、スマホが勝手にECサイトから、該当商品を引っ張ってきて・・・。『ご要望の製品は、10通りあります。お選びください』というわけで、ずらりとスマホに表示するんです」


「なるほど・・・」


「そして、自分のサイズを事前に登録していたら、それを身につけたらどうなるかってことも3D表示されて、あらゆる角度からじっくり眺めることもできるんです。そして、『あ、これ!』って言うだけで、発注完了です」


「支払いはどうするんですか?」


「利用者は、これまたグローバル決済代行会社に登録するだけで、済むんです。例えば、有名なのはパルパル」


真紀は続けた。


「それから、『支払いは、いつものパルパルで、やっといてね』てな具合です。世界中、どこでも、どんな通貨だろうが、まったく気にしないで、1分以内に完了です。あらかじめスマホも、声紋照合で個人特定できていますから、セキュリティも万全です」


「たまげましたね・・・」

進路主任の犬塚は感心した。


「ええ。日本企業はこの海外のシステムを無視して自力で開発できるだけの力も時間も持っていません」

「ふうん・・・」


「いっそのこと、これに乗っかってしまう方が、コストも、時間もかからないってことですね?」

イザベルが確認した。


「ええ、そうです。これは、あくまで一つの例ですが、そういったWebサイトのマーケティング支援をしているわけです。それで、わたくしどもは需要が増加して・・・」


「人材の確保が急務に必要になっている、ということですか?」

「仰せのとおりです」


「なるほど、わかりました」

犬塚は大きく頷いた。


「それに、わたくしたちは業務委託方式を採っています。ですから、社員、あ、これは、あくまで表の話ですが、実はみんな個人事業主なんです。いわば、社長。ですから、みんな横並びの対等な立場で仕事を進めています」


「なるほど・・・」


「そこが、お聞きしたかったところなんです」

イザベルが前に乗り出してきた。


「ちょうどいいタイミングだったんですよ。うちの学生も御社のようなところを探していたというわけで」

「それはなんという幸運でしょう」


「ええ。で、こちらの女子学生も、その一人というわけでして」

「どうも」


双方とも互いに打ち解けて、和やかな雰囲気のうち、真紀の株式会社セレアムの説明は終わった。


「しかし、喜連川さんは大きな目が愛らしくて、とっても可愛いわ」

「まぁ、そんなぁ・・・。社長さんもステキです。あの、さっきから気になっていたんですが、ひょっとして、ハーフですか?」

イザベルは気になっていたことを聞いた。


「まぁ、そんなところね。半分当たり。クォーターよ。祖父が外国人だから」

「やっぱり・・・。奇遇ですね。わたしは、母が・・・」


「フランス人でしょ?」

「ええ?どうして、ご存知なんですか?」


「うちに、道場に通ってる二宮って人間がいてね、彼がしょっちゅう話すのよね、あなたのこと」


「に、二宮さんて・・・?」

「二宮祐樹。知ってるんでしょ?」


「はい。うふふ・・・」

イザベルは思い出し笑いした。


「よく知ってるんでしょ?」

「はい。二宮さん、とにかく、『オス、オス』なんです。ウイの時も、ノンの時も」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ほーんと。『いったい、どっちなのよ?』って、聞き返さなきゃならないのよねぇ・・・」

「はい。それで聞き返すと・・・」


「やっぱり、『おす!』、なんですよ」

和人が答えた。


「ぷふっ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「わっはっは」

「あははは」

「うふふ」


和人の言葉に、4人は吹き出した。


「あははは」


「同じなんですね、二宮さん。どこにいても?」

「ええ。根は正直なのよ。ただ、ちょっと、おっちょこちょいでね」

「ふふ、わかります」


「それなら話は早いわ。今度、会社説明会をするから、二宮に案内させるわね。ぜひ、いらして」

「はい、そうします」


「お友達も連れてきてくれたら、なお嬉しいなぁ・・・」

「はい。声をかけます。貴社には何人か興味を持ってますんで」


「ホント?すごい。ありがとう。嬉しいわ」

真紀は笑顔で答えた。




和人と真紀は事務所に戻り、応接室のソファーに座っていた。


「まさか、イザベルさんがいるなんて・・・」

「びっくりだわね。和人、今日のことは、二宮には内緒よ」


「はい。1時間もイザベルさん一緒に話していたなんて言ったら、殺されてしまいます」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うふふ。みじん切り、間違いないわ」

「あはは」


「うふふ。今日はありがとうね、和人」

「いや、話してたのは、ほとんど真紀さんですから」


「いいえ。コネとアポは、あなたのお手柄よ」

「手柄なんて・・・」


「はい、ご褒美」

真紀は小さな包みを和人に渡した。


「なんですか、これ?」

「未開部族の鹿の骨製鼻ピアス。20世紀前半の年代物よ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ええっ!」

「穴明けサービスはオプションだけど、それもしてあげようっか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「け、けっこうです」

「冗談よ」


ほっ・・・。


「本当はなんですか?」

「開けて見て?」


「はい・・・」

和人が包みを開けると、USBメモリーが一つ入っていた。


「USBメモリーじゃないですか?」

「ええ、そうよ。でも、問題はその中身」

「なにが入ってるんですか?」


「うちのハイパートランスポンダーを介したある交信記録なんだけど、一つだけ見れるようにできたの。でも、世界中のどの言語でもないのよねぇ・・・。そもそも、見たこともない文字だし・・・」


「なんで、そんなものをオレに?」

「その原文は、日本語なの」


「日本語?」

「そうよ。あんまりパッとした名前じゃないけど、署名があったわ・・・」


「だれなんです?」

「宇都宮和人」


「ええーーーっ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なにを書いているかはわかるんだけど、何語でどこへ送ったのかは、あなたに聞かなきゃね・・・」

「何語って、外国語なんか知らないですよ。英語だってカタコトだし・・・」


「わかってるわ。とにかく、その翻訳文を見た感想を報告しなさい。いいわね」

「はい・・・」




C社に向かうワゴンの中では、二宮が俊介相手に真紀たちの行方の詮索をしていた。


「常務、真紀さんと和人、リクルート説明で、和人の学校に行ったというの本当ですか?」

「ん?そうなのか?」


「あ、ご存知ないならいいんです」


「それより、もうすぐC社だ。プレゼン・ストーリーの確認くらいしたらどうだ?」

「おす・・・」


「あのな、二宮、C社は確かに大手でもないし、お得意様でもない」

「おす」


「だからこそ思いっきりプレゼンできるんだろうが?」

「おす」


「ちっとはイザベルを口説くつもりで、全力でやってみろ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おす。でも、口説く相手はおじさんたちっすよ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「アホか!オレが言ってるのは、プレゼンでの情熱だ。パッションだ」

「情熱で口説くんですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「バカもん!企画部長を口説けば、この案件はウチの有利に進むんだ。ぐちゃぐちゃ言ってないで、さっさと資料の最終確認をしろ!」

「おす・・・」




「・・・てな具合で、きっと俊介に絞られてるわよ、二宮」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ははは。先輩らしいです」

「ホント。そんなにイザベルが気になるなら、さっさと告白すりゃいいのにねぇ」


「いやぁ、そりゃ、ちょっと厳しいかも。一度上段蹴りでのされてますからねぇ・・・」

「イザベル相手じゃ、恐くて手足どころか口も出せないか・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そんなこと、オレの口からは言えませんよ」

「そこまで言ったら、最後まで言ったのと同じよ。ふふふ」


「あははは」


--- ^_^ わっはっは! ---


「やっぱり、来たかったんだろうなぁ、先輩・・・」

「とりあえず、イザベルと『同じ空気を吸っていたい』ってね」


「それって・・・?」

「んでもって、あの部屋でお互いの吐いた空気が混ざり合って、それをまたお互いに吸う・・・。ウィルスやら雑菌も一緒にね」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うっぷ」

「間接エア・ディープキッスだわ・・・」


「おぇーーーっ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


「真紀さん、描写が生々し過ぎます」

「あは。科学的には間違ってないと思うわ」


「ですけど・・・」

「そっかぁ・・・。二宮のバカ・ウィルスが蔓延するわけだわ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「でも、わかりますよ。先輩の気持ち・・・」

和人はユティスのことを頭に浮かべた。


「ふうん、和人、妙に二宮の肩を持つわね。どういうことかしら?」

「どういうことって・・・。だれしも、好きな人とは、時間と場所を共有したいと思うんじゃないんですか?」


「じゃ、あなたもそうなの?」

「え?オ、オレがですか?」


ぽっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ええ。まるで現在進行形って言い方だわよ」

「ええ?」


「うふふ。恋かぁ。いいわよねぇ、恋愛って・・・」

「真紀さんも、ですか?」


「こら。人のことは詮索しなくていいの」


ぽかり。


「あ、はい」


「恋はね、傷つくこともあるけど、人のこと理解しようってきっかけにはなるわ」

「そうですね」


「あなただって、理解しようとしてる女の子がいるんでしょ?」

「え?」


「正直に言いなさい」

「真紀社長、それってパワハラですよぉ」


「知ってるわよぉ、和人。ユ・・・、ユティ・・・」


どきっ。

「な、なんですか?」


にやにや・・・

「ふふふ・・・。なんでしょうねぇ・・・」




C社の帰りのワゴンの中では、俊介が期限悪そうにハンドルを握っていた。


「常務、今日のプレゼン完璧でしたね」

「オレのフォローがな」


むすっ。


--- ^_^ わっはっは! ---


「おす。いやぁ、チームとして最高ということで」


ぽかり。


「アホ。あそこで、笑うとはなにごとだ?」

「笑顔は、営業の・・・」


「バッカもん!向こうは、こっちの実績が少ないということで不安なんだぞ。その答えが『えへへ』か?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「おす。ですから、笑顔で、にっこり・・・」


にこにこ・・・。


「そういうのは、自信のなさの誤魔化しって言うんだ」

「でも、真紀さんも言ってるじゃないですか?営業は、いつもスマイルでって」


「馬鹿者!TPOをわきまえてしろ!」


--- ^_^ わっはっは! ---


俊介は二宮の能天気さに声を荒げた。


「実績が少ないのは事実だ。だが、質問に対し笑いで誤魔化すとはなんだ、ドアホ」

「うっす・・・」


「そういう場合は、事実は事実として認め、しかし、少ない実績でも、顧客から評価してもらっている具体的部分をあげてだな・・・」


「うーーーっす」

「聞いてんのか、二宮?」


「うっす。反省してます・・・」

「気分悪いぜ、まったく・・・」


「申し訳ないっす・・・」

「まぁ、いい。あちらさんも、一応、納得したみたいだし。運が良けりゃ、お呼びがかかるさ」


「オレの方も、常務にお呼びをかけさせてもらえれば・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ん・・・?なに企んでる?」

「ですから、気分直しに・・・」


「ヤキトリか?」


にやり・・・。


「うっす。今日は、オレが奢りますんで・・・」

「当ったり前だ。行くんなら、さっさとしろ。二度と今日みたいなマネすんなよ!」


すりすりすり・・・。

「うっす。おカバンお持ちしましょうか、常務殿?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「見え透いたゴマすりすんな、アホ」


ぽかり。

「うっす」


俊介はワゴンをマンションの駐車場に止め、二宮と駅前の飲み屋街に徒歩で向かった。

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