316 首都
「はぁい。アンニフィルドよ。前回のお話から、また時間を空けちゃってごめんなさいね。俊介は姉の真紀とセレアムに行っちゃったけど、なにしてるのかしら?ちょっと心配かな・・・。ナナン、もう少し心配かな・・・。ナナン、やっぱり、とっても心配だわ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
■首都■
ききーーーっ。
株式会社セレアムの事務所の前に黒塗りの高級セダンが止まった。
ばたむ。
運転手が車を降りると、後部座席のドアを開けた。
「うむ。ありがとう」
車の中から出てきたのは、内閣特別顧問、地球名は大田原太郎、実の名をトアロ・オータワラーと言う地球人に帰化したセレアム人だった。
「おはようございます」
岡本と茂木以下、電話応対の1人を除き、事務所の人間は自分の席で立ち上がり、お辞儀をして大田原太郎を迎えた。
「悪いな、例のものを使わさせてもらうよ」
「もちろんでございます」
例のものとは、大田原にシステム室に置いてある超時空通信システムで、そのハイパートランスポンダーはもともと大田原のものであるのに、彼はわざわざ礼を言った。
「お久しぶりですわ、トアロさん」
ユティスがにこにこして大田原を迎えた。
「おお、ユティスさん、ご機嫌麗しゅうございますな」
「リーエス。わたくしにご同席を希望されたとかで・・・」
「ええ。真紀たちとの通信に、あなたも出ていただきたい」
「まぁ、それはそれは・・・」
「じゃ、オレは外で待ってるよ」
和人は大田原とユティスをシステム室に案内して、セキュリティドアを開けた。
かち。
「なんだね、きみも一緒じゃないのか?」
大田原は和人がてっきりユティスと一緒に来るものと思っていた。
「大田原さんのプライベート通信でしょうから・・・」
和人はさらに遠慮する素振りを見せた。
「ははは。なにをしゃちほこばっているんだね。遠慮はいらん。きみはユティスさんのパートナーだろ?セレアムのことも一緒に知ってもらいたいんだ」
大田原はそう言うと、和人も一緒に来るよう手招きした。
「パートナーって、エージェントのコンタクティーってことですか・・・?」
「それもそうだが、要は夫婦みたいなもんじゃないのか。なにを今さら恥ずかしがるんだね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
大田原は楽しそうに言った。
「ふう・・・、夫婦みたいなものって・・・、それ・・・」
どっきん・・・。
かぁ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ。和人さん、大田原さんの言うとおりにしてくださいな」
ユティスも和人を呼んだ。
「でははじめよう」
大田原がなにやら唱えると、ハイパートランスポンダーに薄っすら光が発生した。
ほわぁん・・・。
そして、次の瞬間、システム室の空中に真紀の立体映像が浮かび上がった。
「やぁ、真紀、セレアムはどうかね?」
大田原は笑いながら真紀にきいた。
「まぁ、おじいさま、思ってた以上にとってもステキなところよ」
「そりゃ、良かった。エメリアに親戚中を引きずり回されたんじゃないのか?」
「うふふ。大叔母様はそんなことなさらなかったわ。向こうから来ていただいたから、それは大丈夫よぉ」
真紀はにこにこしながら答えた。
「もう少ししたら、大叔母様もお話し出てくるわよぉ」
「うむ。そうしてくれたまえ」
「しかし、じいさん、エメリア大叔母さんにゃ、連日何百人って合わされてるんだぜ。親戚があんなにいたんじゃ、覚えきれっこないぜぇ・・・」
俊介が困りきったように言った。
「そんなにいたかなぁ・・・?」
にこ。
大田原は愉快そうに微笑んだ。
「しょうがないじゃないの、美人の姉を持ったんだから」
にっこり。
---^_^ わっはっは! ---
「オレは姉貴の付き人かよぉ?」
「自覚してるじゃない」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うへ・・・」
「ははは。とにかく、おまえたちも相当注目を浴びているらしいな?」
大田原は楽しそうに言った。
「まったくだよ。それが、300歳以上のおじさんばっかりでな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ひどい言い方ね」
真紀が俊介をたしなめた。
「たまげたことに、姉貴のもてることもてること。このまま姉貴を地球に返したら、せっかくの縁談がなくなっちまうぜ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「言ったわね、俊介!」
きっ!
「付き人として忠告してやったのさ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、なんてこと言うのよぉ。あなたこそ、ロリロリ女子高生みたいな、また従姉妹たちとよろしくやってたんじゃないの?」
「よせやい。あの娘たちは100歳過ぎてるんだぜぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなの関係ないわ。地球年齢に換算すれば、未成年じゃない!」
「無茶苦茶言うな、姉貴・・・」
「アンニフィルドには真っ先に報告ね!」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「隠してもダメ。知ってるんだからね、ぜんぶ」
「な、なにを言ってるんだ?」
「ミリエルとデートの約束してたでしょ?」
「違うぜ。昼飯の招待を受けただけだよ」
「二人きりとわかってて?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなこと、オレが知るもんか」
「わたしは知ってるわ。ミリエル本人が嬉しそうに話してきたもの」
「ええ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お姉さまって・・・」
「お姉さま・・・?」
「そう。これからは、そうお呼びしますからって・・・」
「あのお喋り娘め・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おいおい、セレアムまで行って姉弟喧嘩とはな」
大田原は嬉しそうにやんわりと言った。
「俊介が悪いのよ」
「姉貴だろ?人のプライバシーばかり突っ込んできて」
「こら、その辺で止めたらどうだ?」
大田原は真面目な表情に戻った。
「そうよ、みっともない」
ぷぃ。
「へっ!」
ぷい。
「あのなぁ、真紀、俊介、おまえたち二人は代表的地球人と見られてるんだぞ。少しは自覚してもらいたいもんだ」
大田原は優しい中にも毅然とした態度で二人に接した。
「わかったわよ」
「OK・・・」
「それで、セレアムの暮らしとか文明とか、どんな感じかな?」
にこっ。
大田原は一転して微笑んだ。
「とにかく先進都市世界という感じね」
真紀は円錐形の摩天楼が立ち並ぶセレアムの首都にいた。
「正直、おったまげたぜ。ニューヨークがさらにニューヨークになった感じだ・・・」
「んん・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「よく理解できんが・・・?」
「未来的な大都会が広がってるってことよ」
「ああ、そういう意味か。でも、それはおまえたちが首都にいるからだよ」
「じゃあ、ここが、すべての中心だな?」
「ああ。だが、すべてのじゃなくて、セレアムのだ」
---^_^ わっはっは! ---
「悪かったな、じいさん」
「俊介、お前は本当に地球人だなぁ。はっはっは」
むっ。
俊介は大田原の笑いに一瞬むくれたような顔になった。
「で、真紀、お前はどんな気がするかね?」
にっこり。
「それに人々はとてもファッショナブルよ」
真紀は大田原に微笑んだ。
「む、さすがに真紀は女性だな。ちゃんと観察の対象が人間だ」
「それが女性的なの?」
真紀は意外そうな顔になった。
「ああ。一般的に言って、男は無生物、例えば機械や乗り物に、より興味を示すが、女性は生物、人間や動物の方に、より興味を示すってことだよ。特に地球人はな」
「ふうん、それホント?」
「どうかな・・・。機械は御し易く、お前ほど文句は言わんからなぁ・・・」
「まぁ、おじいさまったら!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わっはっは!姉貴、じいさんに一本取られたな?」
俊介はしてやったりの顔になった。
「おじいさま、それ、セクハラじゃない?」
「失敬、失敬。ちょっと口が滑ってしまった。勘弁してくれ、真紀」
「まぁ、許すわ。1回目だし」
にこ。
真紀はそう言うと、大田原に微笑んだ。
エルフィアのエルドの執務室では、フェリシアスのトルフォに対する報告が続いていた。
「しかるに、委員会として、トルフォの正確な居場所は把握できていないと・・・?」
かくん・・・。
フェリシアスは予想してはいたが、肩を落とした。
「理事休暇特権と言ってしまえばそれまでなんだが、こちらからは一方的に受け身でいるしかない・・・」
「では、トルフォの支援世界への公式訪問というのは、どういう理屈になっているんですか・・・?」
フェリシアスはエルドに喰らいついた。
「きみが不審に思うのも無理はない・・・」
フェリシアスはエルドが訳ありそうなので、突っ込んで質問を試みた。
「では、エルド、あなたもそう思っていたということでしょうか?」
「・・・」
一瞬の沈黙のうち、エルドは答えた。
「現地の元首からの理事たちへの訪問要請に対し、だれも名乗りを上げなかったんだよ・・・」
「だれも・・・?」
それはおかしな話だった。
「なぜ・・・?」
いくら個人的な事情があるにせよ、エルフィアの文明促進推進委員会はエルフィアの対外活動の中心的な組織であり、ましてや相手は国家元首であった。
「あまりに急な話で時間がなかったんだ。既に理事たちの予定は埋まっていたのだ」
「あなたも?」
「くっく・・・」
エルドはフェリシアスに苦笑いした。
「それも考えた。最終的に候補が決まらなければね。国家元首の招聘とあれば最低でも訪問日は伝えねばならん」
「しかし、その場にトルフォはいなかったのでしょう?」
「リーエス。それだよ。欠席裁判。だれかが、トルフォを名指しにすると、みんな挙って彼を訪問理事に推薦したんだ・・・」
「エルド、あなたもですか・・・?」
フェリシアスはさらに突っ込んできた。
「ナナ・・。いや、リーエスだな・・・。わたしは肯定したわけではなかったが、はっきり反対を唱えたわけでもない。」
「つまり、決議を容認したと・・・?」
「うむ。正直、みんなの決議をひっくり返すメリットがなかった。ところが、トルフォがどういうわけか、あっさりそれを承諾してしまった・・・・・・」
エルドはすまなさそうに言った。
「ナナン。それは仕方のないことだと思います」
フェリシアスは、委員会の理事たちがそこに行きたがらないのは、行くべきものがその世界にないからなのか、単に行く気がしないということだけなのか、推し測ることができなかった。
「いずれにせよ。あれと言う間に、トルフォの訪問が決まったのだ」
「トルフォは無条件で受けたわけではないでしょう?いったい、どんな要求を・・・?」
「休暇だよ。彼はプライベートな休暇で、どこかの世界に行くつもりだったらしい。それで、その休暇を訪問の最中に取ることを要求したんだ」
「どこに行くと?」
「それは聞けない。理事の休暇スケジュールは完璧に守られている。ただ、その口ぶりからは、複数あるらしいことは容易に伺えた」
エルドは少し苦々しげに答えた。
「わたしがもっとしっかりしていれば・・・」
「ナナン、エルド。あなたはよくやっています。とにかく、トルフォの訪問先を調べることはできるんでしょうか?」
「公式訪問先であればな・・・」
「いたし方ありません」
フェリシアスは頷いた。
「メローズたちが既に知人関係は抑えてあるが、偽名を使われていたら、その先はかなり手こずるだろう」
「リーエス。でも、調べてみるしかありません。転送システムに関連する人物が浮かび上がるかもしれません」
フェリシアスはそう言うと、シェルダブロウの身柄について続けた。
「シェルダブロウは、わたしとの話し合いに応じています。できる限りの話をするそうです。トルフォの行動でなにか役立てられればいいんですが・・・」
「アルダリーム(ありがとう)。リュミエラたちも大人しくしている」
「そうですか・・・」
「シェルダブロウをこっちに護送したら、彼女たちに会ってみるつもりかね?」
「リュミエラ・・・」
フェリシアスはかつての自分の右腕と呼ばれた、美しい女性のSSを思い浮かべた。
(悪いが、きみの愛情を受け止めるわけにはいかない。わたしには、クリステアという大切な女性がいる・・・)
「ナナン。止めておきましょう。彼女とて、あいう事件を起こしたからには、これ以上わたしには会いたくないでしょう・・・」
フェリシアスは沈痛な思いで、リュミエラに会うことを遠慮した。
「うむ・・・」
エルドも下を向いたフェリシアスの肩を軽く叩くような仕草をしたが、もちろん、その肩にエルドの手が触れることはなかった。。
「きみの判断を信じることにしよう・・・」
にこ。
「さて、わたしはシェルダブロウを護送する準備がありますので・・・」
「けっこう。では、また」
「リーエス、エルド」
しゅん・・・。
フェリシアスの精神体は空中に溶け込むようにして消えていった。
くる。
「メローズ、来てくれないか?」
「リーエス」
エルドが秘書を呼ぶと、すぐに彼女は執務室に入ってきた。
真紀、俊介姉弟と大田原たちとは、セレアムでの話題に花を咲かせていた。
「見るものみんな目新しくて、まさにSF世界ね」
真紀は自分たちの背景に、セレアムの都市を映し出していた。
「だが、おまえたちにはある程度想像できる範囲ではないかね?」
セレアムはカテゴリー3で、もう少しでカテゴリー4へ入るという世界だった。
「ハリウッドのSF映画で描かれているものによく似ているな・・・」
にこ。
俊介は大田原に笑顔で答えた。
「唯一残った最後の大都市だよ・・・」
大田原はセレアムが変わりつつあることを俊介たちに認識させようとしていた。
「わかってるわ、おじいさま。衣食住をシステムにより自動化して労働から開放されているのね。資本主義経済からボランティアによる持続可能な世界に変わったセレアムには、人が経済を優先して、土地をめぐる使用権の競争は意味のないこと・・・」
真紀が感慨深げに言った。
「そうだな。人々は大都市よりもっと自然豊かで落ち着ける環境を好むようになった。その結果、惑星上に経済中心の都市は次第に田園都市へと変貌していったんだ」
「じいさん、そうなると、この大都市もセレアムにはここだけなんだな・・・?」
俊介はとても信じられないように、自分たちのいる都市を窓越しに見回した。
「セレアム風の世界遺産というわけね?」
「まぁ、そういうことだ。セレアムの文明の遺産として、首都だけは大都市の景観を残すことにしたんだ。これ一つくらいなら、なんとか環境は自己修復していける。だが、惑星中に大都市がいくつもあった頃は、たちまちヒートアイランド現象を招き、深刻な事態になった」
真紀と俊介には、大田原の話しが現在の地球のことを言っているように聞こえた。
「ふぅ・・・ん・・・」
真紀も俊介の隣で、不思議そうに街を眺めた。
「今は、もうそうじゃないのね?」
「うむ。大都市は最早首都だけとなり、その首都にもビルのそこかしこに大々的に緑が確保されているし、ほかの幾万という町には家同士十分な距離と緑が確保されている。ヒートアイランド現象は影を潜め、異常気象が起きることは滅多にない」
「そう言えばそうだなぁ・・・」
「街路樹も地球とは比べ物にならないくらい多いわぁ」
真紀たちは、それまで見てきたセレアムの首都の印象を思い起こしていた。
「大都市はここだけかぁ・・・。不思議な感じだ」
「もっとあるのかと思ってたわ・・・」




