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314 免疫

「アステラム・ベネル・ローミア(こんにちわ)、アンニフィルドよ。お話も大分長くなっちゃったわね。ユティスと和人の恋路には多くの障害が出てきたけど、フェリシアスとシェルダブロウに、ストーリー展開上必要なちょっとしたおさらいしてもらうことにするわね。あは。じゃ、またね!」

■免疫■




そして、アンデフロル・デュメーラの中では、シェルダブロウはことに至った経緯をフェリシアスに話し始めた。


「ことの起こりはミューレスの一件が終って2年後でした」

「ふむ・・・」


「わたしとリュミエラたちはSSの資格を一時停止され、エルフィアにて無期待機を余儀なくされていました。そんな時、ユティスのエージェント・ライセンス復活を知ったのでした」


「それで?」

フェリシアスははやる気持ちを抑え、シェルダブロウの話を遮ることのないように注意した。


「リュミエラ以下、わたしたちも当然ライセンスの復活を委員会に対して要求しました。しかし、SSたちにはその許可が下りませんでした」

「リーエス」


「それで、なおも委員会に説明を試みたわたしたちは、ライセンス一時停止から完全停止に変更されてしまいました」

「ふむ・・・」


「そこにトルフォがSS訓練センターの教官の話をもってきたのです」

「なるほど」


「そして、それは現場復帰がほぼ絶望的になったわたしたちにとって、とても魅力的に思えたのです」

「少なくとも、SSたちに自分の経験やノウハウを教えることができれば、よい気紛れにはなろうからな・・・」


「その通りなんです、フェリシアス」

シェルダブロウはそれを肯定した。


「それで、トルフォはそれで終らなかった?」

「リーエス。半年くらい経ち、ユティスが地球に予備調査で派遣されることを知ったトルフォは、フェリシアス、あなたもご存知のように、妨害工作を幾度か試みたわけです」


「地球人の和人が、ユティスの力で精神体としてエルフィアに来たことに対しては?」

「リーエス。はじめは気にも留めていなかったと思います」


そして、シェルダブロウは和人の『女神さま宣誓』の一件に触れた。


「でも、ウツノミヤ・カズトがユティスへの宣誓を口にしたことが公になり、トルフォがそれを知るとたちまち激怒しました」


「トルフォは『女神さま宣誓』の真の意味を知っていたのか?」

最後の宣誓以来、4000年経っていた。

「ナナン。わたしはそうでないと思います」


「うむ。4000年の間、だれもこの宣誓をしていない」

トルフォが宣誓の本当の意味を知っているとは、フェリシアスには思えなかった。


「だれかに教わったようでしたね」

シェルダブロウは、その教えた人間がアンニフィルドだとは知らないようだった。


「リーエス。きみの言うとおりだ。最初、トルフォはカズトの精神体とやりあった時、宣誓など鼻にもかけていなかったが、アンニフィルドから宣誓の本当の意味を聞かされて真っ青になったらいしい」

フェリシアスはシェルダブロウに真相を話した。


「アンニフィルドでしたか・・・」

シェルダブロウはなるほどと思った。


「ああ。それで、カズトに対して憎悪を持ったんだ」

「そうでしたか・・・。宣誓の一件が引き金に・・・」

「リーエス。それでトルフォは強攻策を取った」


「強行策ですか?」

「リーエス。極めて稀な確率ではあるが、地球を2つのスーパーノバが襲った」


「ガンマ線放射ですか?」

シェルダブロウは真剣な眼差しでフェリシアスを見た。


「ああ。極方向から出る純粋なガンマ線放射ではないが、X線を含む超新星爆発のエネルギー放射だ。直撃すればオゾン層や地磁気は相当なダメージを受ける。ユティスもエルドも地球を救うために、地球の宇宙座標が必要だった。地球は80億人の人間がいる。そこに偽の情報を流したんだ」


「80億人も・・・。そこの偽の情報を送るとは・・・」

シェルダブロウは、即座に一歩間違えば大惨事では済まされない。ミューレスの悲劇をさらに上回る事態になったかもしれないことを想像した。


「なんと恐ろしい・・・」


「そして、カズトの宣誓へのユティスの答えは返されていなかった」


「フェリシアス、宣誓は未完だったということですか?」

「リーエス。宣誓は一度行なわれると、何人とも変更も取り消しもできない。しかし、宣誓への返答がなされる前に男性が事故や病気で亡くなった場合、例外的に宣誓はデフォルトに戻る。もちろん、殺されたのでは宣誓は有効だ」

フェリシアスは慎重に話を進めた。


「つまり、事故で命を失うならば、カズトの宣誓は無効になると・・・?」

「リーエス。だから、地球もろともカズトがなきものになれば・・・」

トルフォの動機について、フェリシアスは確信を持っていた。


「・・・」

ぶるっ・・・。

シェルダブロウはその一人よがりで残酷な意図に、声を失い身震いした。


「もし、そうだとしたら、トルフォもブレストもエルフィア人ではない・・・」

「証明はできない。だが、偽の情報を流すよう指示したのはトルフォだと確信している」


「でも、もしそうであれば、ブレストの地球の合衆国亡命など、絶対に認めるべきではありません。エルフィア、いや、大宇宙の倫理に反しています」

シェルダブロウはショックを受けていた。


「だが、それは単なる放射軸のズレという幸運も手伝ってはいたが、大方はカズトとユティスの努力によって未遂に終った。地球もカズトも無事だったのだ」

「しかし、その意図は明らかにありますよ・・・」


「リーエス。そして、地球の危機は去り、ユティスは地球に派遣された」

「ユティスは実体でカズトに会えたわけですね・・・?」

「リーエス」


シェルダブロウは、なぜトルフォがそこまでしてユティスをエルフィアに戻そうとしたのか、ようやく理解できた。


「シェルダブロウ、その時、きみはきみたちが地球に送られることを明かされていたのか?」

「ナナン。少なくとも、わたしは知りませんでしたし、リュミエラもそうだったと思います。彼女はSSたちの教育以外に関心がないようでしたから・・・」


「なるほどな・・・。しかし、思いつきとも思えん・・・」


「しかし・・・」

「しかし?」

フェリシアスはシェルダブロウが言おうとすることに耳を傾けた。


「リーエス。トルフォは、それからすぐに。委員会の要請で支援世界に視察に行ってしまったのです」


「ふむ・・・」

フェリシアスは考え込むように腕を組んだ。


「と言うことは、それまでに、トルフォとブレストの間では、なにかしらの話し合いがついていたと考えるべきだな・・・」

「リーエス。わたしにはわかりませんが、あなたからすべてを聞いてわかりました。われわれミューレスのSSは踊らされていたんです・・・。ふぅ・・・」

シェルダブロウはフェリシアスを見つめ、溜息をついた。


とんとん・・・。

ドアがノックされ、フェリシアスとシェルダブロウはそっちを振り向いた。


「入るわよ・・・」

「リーエス、クリステア」

シェルダブロウが言った。




るるる・・・。

株式会社セレアムに電話がかかってきた。


「はい。株式会社セレアムです」

電話に経理マネージャーの茂木が出た。


「大田原と申しますが、宇都宮さんはおられますかな?」

「はい・・・」


くる。

茂木は岡本を振り返った。


「だれ?」

「大田原さんよ。真紀たちのおじいさま。内閣特別顧問よぉ・・・」

くいっ。

茂木は顎で和人の席を指した。


「わかった。代わって」

茂木は受話器を岡本に渡した。


「少々お待ち下さい。宇都宮は外出しておりますので、関連部署のものに代わります」

「そりゃ、どうも。よろしくお願いします」


「はい、大田原様、いつもお世話になっております。岡本と申します」

「おお、真紀の同期のチアリーダーのキャプテンさん・・・」

「あ、はい。お久しぶりです。うふふ」


岡本は、俊介によく似た大田原の60歳台とはとても思えないダンディーな姿に、男の魅力を感じていた。


「いや、こりゃ朝から楽しくなりますなぁ・・・」

「まぁ、お世辞はいりませんわ」


「今日、そちらのハイパートランスポンダー経由で真紀たちから通信が入ることになっているんです。13時にそちらにお伺いたい。その場に、宇都宮さん、エルフィア人のユティスさん、アンニフィルドさんも同席をお願いしたいのだが、どうか連絡をお取り願いたいんですが・・・」


「はい。承りました。このお電話の後、すぐに連絡をお取りし、本人よりお返事をするようご伝言申しあげます」

「それは、有難いです」


「お電話番号は・・・?」

「うむ。こちらは公用番号ですが、こちらでけっこうです」

「わかりましたわ、大田原様」


「それでは」

「はい。失礼いたします・・・」


かちゃ。

岡本は受話器を置くと、茂木に微笑んだ。


うっとり・・・。

「やっぱり、大田原さん、ステキねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はいっ・・・?」

茂木はなんのことかわからなかった。




「お、来るぞ・・・」

突然、二宮がPCから目を話して入り口の方を見た。


「ユティスさんたちですか?」

イザベルも入り口を見つめた。


しゅわん。

白い光が浮かび上がると急に強さを増した。


「来た・・・」

「あ・・・」


事務所のほとんどの人間はそれが意味することがなになのか知っていた。


「みんな、ユティスたちが戻って来たわ」

岡本が一同に注意をうながした。


ぱあっ・・・。

光の中に何人かの人影が浮かび上がると、光はあっというまに消えた。


ふぁん。


「ただいま戻りましたわ」

にっこり。

真ん中にいたユティスが微笑んだ。


「おかえりなさい」

事務所の人間たちは一斉に彼らを迎えた。


「ごめんね、仕事に穴を開けちゃって・・・」

アンニフィルドが岡本に言った。


「大丈夫よ」


「あれ、フェリシアスは・・・?」

二宮がフェリシアスがいないのに気がついた。


「ちょっとヤボ用よ。ユティス拉致事件の後始末。片付いたら、また戻ってくるわ」

クリステアが言った。


「あなたが地球に残ってるから独りで帰れないってわけね?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「アンニフィルド、あなたこそどうなのよ?ただただ俊介を待ってるって辛いんじゃない?」

クリステアは表情を変えないで、アンニフィルドに言い返した。


「ええ?」

アンニフィルドと俊介の関係はみんなが知ってはいたけど、クリステアの言葉には驚いてしまった。


「アンニフィルド、そうなのぉ・・・?」

茂木がアンニフィルドにきいた。


「わたしはSSよ。まずは、ユティスと和人を守らなくちゃ。そこに俊介が入ってくる隙間なんてないわ」


「本当?」

みんながアンニフィルドに注目した。


「だって、彼わたしより大きいのよ。ユティスと和人の間に入る隙ある?」

「んん・・・?」


「ほれ!」

にたり・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


そう言うと、アンニフィルドは、手を握り合ってぴったりくっついているユティスと和人にみんなの注目を集め、茂木の追撃をかわすことに成功した。


「あ・・・」


二人は事務所公認の仲とはいえ、微笑み見つめ合っている様子は、それでもなお、ラブラブだった。


「お二人、くっ付き過ぎです・・・」

石橋がめずらしくユティス和人に注文をつけた。


どきっ。

「石橋・・・」


岡本は、和人に思いを寄せる石橋を気遣ったが、石橋は逆ににっこり微笑んでいた。


「ええ、どうした・・・」


ぎゅっ。

茂木が石橋に言いかけたところで、岡本につねられた。


「痛いじゃないの、岡本!」

「石橋のハートはもっと痛いのよ。わからないの・・・?」

岡本は茂木の耳元で囁いた。


「あ・・・。そりゃそうだけど・・・」


つかつか・・・。

ぎゅ。


しかし、石橋はユティスに近寄ると抱擁し合ってしまった。


ちゅ。

ちゅ。


ユティスと石橋は抱擁し合ったまま、頬を寄せ合いキッスの音を軽く出した。


「和人さん?」

石橋は和人にも抱擁を求めた。


「ええ・・・?」


和人はびっくり仰天して石橋を見つめ、すぐにユティスを見つめ返したが、ユ

ティスは微笑んでウィンクした。


「おかえりなさい」


ぎゅ。

石橋はそんな和人に構うことなく、和人を軽く抱き締めると、同じように頬を寄せた。


ちゅ。


「うわぉ・・・」

アンニフィルドはその大胆さに驚いた。


「あなた本当に可憐・・・?」

「リーエス・・・」


ちゅ。

石橋はアンニフィルドにも同じようにした。


ちゅ。

「あなたの肌、きめ細かく柔らかくてすべすべしてて、赤ちゃんみたいだわ・・・」


「石橋・・・」

事務所中がそれに仰天していた。


「さて、それはそうとして、せっかくだから、ここの人たちの対ウィルス処置をしたいんだけど・・・。どうかなぁ・・・?」

ドクター・エスチェルが事務所のみんなを見回した。


「リーエス。みなさん、この処置をすると風邪をひきにくくなること間違いなしですよ」

トレムディンが説明を始めた。


「どういうことなの?」

茂木がユティスを見つめた。


「はい。こちらのお二人は、ドクターです。わたくしが未対応の風邪ウィルスにかかって体調を崩していたところを、こちらのお二人に助けていただいたのです」


「そういうことなのね」

にっこり。

岡本がエスチェルたちを見つめて微笑んだ。


「ワクチンを注射するんすか?」

二宮があからさまに嫌な顔をした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「地球でいうワクチンとは違うものです。エルフィアの対ウィルス処方は、人間本来の持つ免疫力を劇的に上げるものなんです」

トレムディンは説明を続けた。


「ワクチンはある特定ウィルスだけにしか対応できません。ウィルスはDNA構造を次々に変化させますので、それだけでは風邪を防ぐことは難しいのです」


「インフルっすっかぁ・・・?」

「そうよ二宮」

クリステアがドクターに代わって答えた。


「対ウィルス免疫向上処置で、新パターンのウィルスが身体に侵入しても、すぐにそのパターンを読み取り体の中で抗体を作ります。その結果、その新ウィルスを無力にして増殖を防ぐのです」


「で、要は注射するんすよね?」

二宮は嫌な顔をした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あら、そういう原始的な投与方法を希望するんなら、特別にしてあげるけどぉ・・・?ふふ」

エスチェルは嬉しそうに笑った。


「遠慮しときます・・・」

「一瞬で終るわ。さぁ、二宮、あなたからよ」

エスチェルはなにやら医療器具らしいもの手にすると、二宮に腕をまくるように要求した。

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