312 宙泊
「はぁ、アンニフィルドです。大分空けちゃったけど、お話は続くわよ。この夜は二宮にとってもラッキーだったけど、どうなるかなぁ・・・。えへ」
■宙泊■
「エージェント・ユティス、みなさまには汗を流せますように、お風呂と着替えを用意しています。お帰りになる前にご利用ください」
アンデフロル・デュメーラが言った。
「お風呂?」
和人が聞き返した。
「リーエス、コンタクティー・カズト。今からお家に戻られても、お風呂を準備して、みなさんがすべて済まされるとなると、とてもお時間がかります」
「なるほど・・・。では、頂戴するとしよう」
フェリシアスが頷いた。
「ねぇ、ねぇ、アンデフロル・デュメーラ・・・?」
きらきら・・・。
目を輝かせながらアンニフィルドがきいた。
「なんでしょうか、SS・アンニフィルド?」
「それ、当然、混浴なんでしょ?あは」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いい・・?」
和人がびっくりして、ユティスを見た。
「うふふ」
「アンニフィルド、き、きみはなにを言ってるんだ。未婚の男女が一緒にお風呂だなんて!」
たちまち、フェリシアスが文句を言った。
「いいじゃない。一緒に入るくらい。もう、気心知れてる仲なんだし」
「キャムリエル、あなたも一緒に入る?女の子と一緒にお風呂に入れば、それだけでその塞ぎ虫も治るわよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド、ボクは・・・」
「ダメ、ダメ!」
「ダメに決まってる!」
フェリシアスと和人は猛烈に反対した。
「はぁ、はぁ・・・」
「冗談よ、冗談。おバカさんねぇ」
ぱち。
アンニフィルドはウィンクをした。
「お風呂は、一応、男性女性と分けておりますので、ご安心ください」
アンデフロル・デュメーラが言った。
「ほっ・・・」
「良かった・・・」
がくん・・・。
フェリシアスと和人は見合って一息ついた。
夜も既に2時を回っていた。
(くっそう・・・。ちっとも眠れない・・・)
イザベルのマンションで、図らずとも一泊を過ごすことになった二宮は、イザベルが寝ている隣の部屋のソファーベッドの上で、悶々としていた。
ごろり・・・。
(だはぁ・・・。一気にキッスしてそのままなだれ込んじゃってもよかったんじゃないのかなぁ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
イザベルとキッスした経験はゼロではなかったが、和人とユティスのような仲にはまだなっていない二宮は、それがまだまだ道のり遠く感じていた。
(こっちは、もう、プロポーズだってしたんだから、イザベルちゃんだって、嫌なら、即嫌って言うよなぁ・・・」
ごろり・・・。
二宮は寝返りを打った。
一方、イザベルはイザベルで、二宮の隣の部屋で、やはり眠れない夜を過ごしていた。
(もう、寝ちゃったかしら、二宮さん・・・)
イザベルは二宮には聞こえないようにして、寝室と隣の部屋とを隔てている壁にそっと耳を近づけた。
ごそ、ごそっ・・・。
(い、いけない、音を立てないようにしないと・・・)
イザベルは、そうっと壁に耳をつけると、聞き耳をそばだてた。
(・・・)
(なにも聞こえないわ・・・。二宮さん、本当に寝ちゃったのかしら・・・?)
イザベルは耳に神経を集中させるために、目を閉じた。
しーーーん・・・。
電気の消えた部屋は真っ暗でだったが、街明かりか外灯の影響かわからなかったが、カーテンに窓枠の影が映っていた。
アンデフロル・デュメーラで一浴びした和人は、地上のエルフィア大使館に帰ろうとして、アンデフロル・デュメーラに言った。
「あの、オレたち、そろそろ・・・」
「リーエス、コンタクティー・カズト。お休みの時間ですね。船内にみなさまの寝室をご用意していますので、そちらをお使いください」
「ええ?家に返してくれるんじゃなかったの?」
和人はユティスを見た。
「うふふ。大使館では人数が多過ぎてベッドが足りませんわ」
ユティスは微笑んだ。
「それに、もう2時近いのよぉ。電車もタクシーもないわぁ。どうやって帰るつもり?」
「ここは宇宙空間です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは。そうだったわねぇ、トレムディン」
アンニフィルドがおどけて手を広げた。
「そうそう、こっちでゆっくりした方が身体にいいわよ。もちろん、精神的にも・・・」
クリステアがにやりとしてユティスを見た。
「んふ?」
にこ。
--- ^_^わっはっは! ---
「あのねぇ・・・」
和人はアンニフィルドに文句を言いかけた。
「あそこじゃ集中睡眠システムがないから、短時間で十分に休息が取れないわ」
エスチェルが言った。
「リーエス。ベッド台数はともかく、広さはみなさんがお休みになるに十分ありますから。さぁ、こちらへ」
アンンデフロル・デュメーラが言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「台数はともかく広さって・・・、まさかとは思うけど、あのぉ・・・、ダブルベッドとかじゃないよね・・・?」
「お一人、一つのベッドです」
和人の疑問にアンデフロル・デュメーラが答えた。
「え?」
「お部屋割りは特に同部屋をご希望されない限り、お一人お一つです」
アンデフロル・デュメーラが一同を見回した。
ちらり・・・。
ほっ・・・。
和人とフェリシアスは見合って安堵の息をついた。
「わたくしは、和人さんとご一緒がいいです・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
突然、ユティスがぼそっと言った。
「ええ?」
「だぁーーー!ユティス、きみはみんなの前でなにを言ってるんだぁ?」
和人は慌てて言ったが、アンデフロル・デュメーラは冷静な調子で、ユティスに答えた。
「そうおっしゃると予想しておりましたので、そのように手配清みです」
---^_^ わっはっは! ---
「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)、アンデフロル・デュメーラ」
「ちなみに、SS・クリステアとSS・フェリシアスにも同じご用意をしております」
「アルダリーム(どうもね)、アンデフロル・デュメーラ」
クリステアはにっこり笑って答えた。
「お二人のベッドは通常の3倍以上の睡眠効果を得られる、集中睡眠システムになっています。1時間でも3時間。2時間でも6時間分の睡眠を得ることができますので、目覚めの時にはすっきりした気分で起きることができます」
「いつか、ユティスがオレにしてくれた処置と同じだね?」
「リーエス。和人さん」
「それでは、よいお眠りを・・・」
アンデフロル・デュメーラの擬似精神体はそう言うと、空中にかき消すようにと溶け込んでいった。
「和人さん?」
「ダーメ。朝まで数時間だろ?早く眠らなきゃ、あっというまに朝になっちゃう。二人して眠そうな顔してたら、みんなが怪しむじゃないか?」
「なにを怪しむのですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そりゃあ・・・」
「それは・・・?」
ユティスは小首をかしげた。
「コンタクティー・カズトが意気地なしだってことがバレてしまうんですよ」
「ア、アンデフロル・デュメーラ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ・・・。そんなことでしたのぉ・・・?」
「SS・クリステアとSS・フェリシアスは仲良くお休みされてますよ」
「ええ、もう?」
「リーエス。この集中睡眠システムは即効性なのです。どんなかたも2分以内にはノンレム状態の熟睡をされています」
「じゃぁ・・・」
「なにをお考えなんですか、和人さん?」
「なにをって・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「SS・アンニフィルドとSS・キャムリエルたちも熟睡状態になりましたわ」
「そうやって、みんなを覗き見してるのかい?」
「ナナン。アンデフロル・デュメーラはみなさんの健康状態モニターをしているのです。ただそれだけですわ」
ユティスがアンデフロル・デュメーラを弁護した。
「リーエス。みなさまのプライベートは遵守いたします」
「なるほど・・・」
「ドクター・トレムディンとドクター・エスチェルもお休みになられました」
くるっ。
ユティスはそれを聞いて、和人を振り返った。
「ほら、和人さん、起きてるのはわたくしたちだけですわ」
「うん・・・」
和人は目の前のダブルベッドに目をやった。
「さ、お二人とも・・・」
ごそっ・・・。
「では、わたくしはお先にまいります」
がさっ。
ぶわん。
ユティスがベッドに潜り込んで、顔だけを出して和人を見つめた。
にこっ。
「とっても気持ちがいいですわよぉ」
「そうだろうね・・・」
和人は観念して、ユティスの横に離れて潜り込んだ。
「なんにもなしだよぉ・・・」
ふぉっさ・・・。
「リーエス・・・」
ごそ・・・。
「・・・」
ぴと。
「わぉ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ご、ごめんなさい、和人さん。手を握りたかっただけなんです」
「ホ、ホントに?」
「リーエス・・・」
ぎゅ・・・。
ユティスが和人の手を握った。
「これくらいはいいかな・・・」
「お時間です。お二人とも目をお閉じください」
アンデフロル・デュメーラの静かではあるが、有無を言わさぬような声が響いた。
「リーエス」
「身体を楽に・・・」
「リーエス・・・」
どよぉーーーん。
和人とユティスはたちまち睡魔に襲われた。
「3つ数えます。ご一緒にお数えください」
「リーエス・・・」
「1」
「1・・・」
「2」
「2・・・」
「3」
「3・・・」
かくん・・・。
こて・・・。
くぅ・・・。
「単純な方たちで、よかったです」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人とユティスは、アンデフロル・デュメーラのカウントと同時に、たちまち熟睡していた。
次の朝、二宮が目が覚めると、見慣れぬ部屋だった。
(あれ?ここはどこだぁ・・・?)
一瞬、二宮はなにがなんだかわからなかった。
「二宮さん、お目覚めですか?」
がばぁっ。
起き上がろうとして、二宮の目に飛び込んできたのはイザベルの笑顔だった。
にこ。
「うふふ。わたしの部屋です」
きょとんとしている二宮が、ここがどこだか思い出してないのは明白だった。
「うす・・・。なんで、イザベルちゃんが・・・」
「まぁ・・・。ちっとも覚えてないんですか?」
「うす。イザベルちゃんが無理矢理自分を部屋に連れ込んだとか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴき・・・。
「違います!電車事故を装って、押しかけたのは二宮さんじゃなかったんですか?」
「電車事故ぉ・・・。ああ、電車事故ねぇ!思い出しましたっす。あははは」
「それはともかく、そろそろお仕事ですよ」
イザベルは時計を見ながら言った。
「うす。9時前かぁ・・・」
二宮は面倒くさそうに言った。
「ダメです。今日もちゃんとしないと、わたしだって、生活費がかかってるんですから」
イザベルは二宮の布団を剥がしにかかった。
「それ!」
ばっ。
くいっ。
「きゃあーーー!」
どっさ・・・。
二宮は毛布を掴んだままだったので、イザベルはそれに引っ張られて、二宮の上に倒れ込んだ。
「あ・・・」
イザベルの顔が二宮のすぐ前にあった。
どっきん・・・!
どき・・・。
二人の息がかかり合い、イザベルが身体を屈めると二人は当然のように唇を重ねた。
ちゅ・・・。
「おはようございます」
「おはようございます」
9時から徐々に、株式会社セレアムでは、社員たちが出勤を始めていた。
「おはようございます」
「おはよう、石橋」
岡本は石橋に答えた。
「真紀さんたち、いつ戻ってくるんでしょうか?」
石橋がそれとなく岡本にきいた。
「さぁて、いつかしらね・・・。戻ってきたら、みんな知らない人たちで、自分は白髪になってたりして・・・」
---^_^ わっはっは! ---
「あはは。それじゃ、浦島太郎じゃない?」
茂木が突っ込んできた。
「冗談じゃないです。岡本さん。真紀さんたちが帰ってこないなら仕事がこなせなくなってしまします」
石橋は真面目に答えた。
「大丈夫よ、その間わたしたち二人が代行してるんだから」
「あ、はい。でも・・・、やっぱり困ります」
「相変わらず真面目ね、石橋は」
「うーっす」
「おはようございます」
そこに二宮とイザベルが一緒に入ってきた。
「・・・」
事務所の視線が一斉に二人に合わさった。
「なに・・・あれ・・・?」
「同伴出勤じゃない?」
「相手はイザベル・・・」
「相手って・・・?」
「ありえない。ニ宮よぉ・・・?」
「でも、この目の前に広がった光景はなに・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「バイトの女の子に手を出した・・・」
「うーっす」
しかし、二宮はどこふく風邪で、イザベルを先導して自分たちの席に着いた。
ばーーーん。
どっか。
二宮はカバンを置くと、イザベルのためにイスを引いた。
ささ。
「イザベルちゃん、いいっすよぉ」
「はいありがとうございます」
ちょこん。
イザベルは二宮の引いたイスの上に座った。
「わ、わたし、お茶入れてきます!」
「イザベルちゃん!」
たったったった・・・。
事務所の視線を感じて、イザベルは足早にパントリーに消えていった。
「二宮?」
岡本が二宮を呼んだ。
「おす。なんすか、岡本さん?」
「結局、真紀たちのワゴン車、あなた使ってるの?」
「うっす。2回っすかねぇ・・・」
「あっそう。で、今日はイザベルと歩きで同伴?」
「うっす。なんかおかしいいっすか?」
「おかしい。はっきり言っておかしい」
岡本は笑いを堪えているようだった。
くすくす・・・。
それを見て、事務所の人間も、忍び笑いを始めた。
「な、なんっすか、みんなして?」
二宮は不安になって、時計を見た。
(9時30分。ウチはフレキシブルだといっても、あんまし遅い出勤だと、目を付けられちゃうからなぁ・・・)
二宮はあたりを見回して言った。
「あれ、和人たちも来ていないじゃないっすかぁ・・・」
「連絡があったの。昼前には来るそうよ」
「ふぅん・・・」
「なんでも、エルフィア内のゴタゴタを片付けるのに大変だったとか・・・」
「そうっすね」
「あなたも大変だったようね?」
「ええ?なんで大変だって、わかるんすか?」
二宮は岡本を見つめた。
「電車は架線事故で止まるし、そのようすじゃ野宿でもしたの?」
「いや、野宿って訳でもなかったんすけどぉ・・・」
「ふうん、どっか眠れるベッドでも見つけたわけ?」
「うっす。ベッドってわけでも・・・」
すたすた・・・。
「はい、コーヒーです、二宮さん」
そこにイザベルが入って、二宮にコーヒーを出した。




