030 承認
■承認■
エルフィアでは、ユティスの担当する地球への予備調査への報告が行われようとしていた。エルドはそこでユティスが直接発言することで、中立派を引き込もうと考えていた。
「取り込み中に、申し訳なかったね、ユティス」
「ナナン。大切な用件でしょうから」
「そうなんだ。例の地球の件、今後のことを委員会で正式に会議にかけることになった」
「それは良かったですわ」
「不安はないのかい?」
「ナナン。地球より条件の悪いところはたくさんありますもの。それでも、委員会はコンタクトの継続を承認していますわ」
「リーエス。きみの言うとおりだ」
「会議には出席しないといけませんね?」
「ああ。よろしく頼むよ」
「リーエス」
ユティスは快く引き受けた。
「しかるに、ユティス、あなたは今後ともカテゴリー2の地球という世界と継続してコンタクトを取る、と言うんですかな?」
「リーエス」
ユティスは答えた。
「で、その地球とは、最初、どんな風に?」
「わかりません。ある時、偶然、気づいたのです」
「その通信にですか?」
「リーエス。わたくしとの通信は偶然です。地球においてなんらかの超時空通信が作用して、和人さんのメッセージがわたくしに届いたのだと思います」
「超時空通信を偶然にかね?」
ざわざわ・・・。
数人がお互いに見合った。
「ほとんどありえない確率ですわ」
「信じられん・・・」
「カテゴリー2である地球に、どうしてそのようなことが・・・?」
「わかりません」
「さらに、エルフィアの支援システムにアクセスしたわけよね?」
「リーエス」
「IDとか、パスワードは、どうやってクリアしたんだろう?」
「それは、わたくしの名前でしたので・・・」
「では、その地球人は、きみの名前、いや、アクセス・パスワードを事前に知っていたというのかね?」
「ナナン」
「ですから、そこが偶然だということよ」
「なるほど・・・」
「ユティスにコンタクトした地球人はなんという名前だったかな・・・?」
「ウツノミア・カズト?」
「ウツノミア・・・。お淑やかな、柔らかい響きのある女性らしい名前ですわね?」
「すみません。和人さんは男性です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「男性?」
「リーエス。ウツノミヤ・カズトだ」
「カズトが彼自身の名前で、ウツノミヤは家族名だそうだ」
「そうでしたか・・・」
「いったい何ものかな?」
「地球では、一番多い、ごくごく普通の会社員です」
「会社員?なんだね、それは?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「多大な労働時間を提供することをまったく厭わない、心のできた人たちですわ」
「まさかとは思うが、奴隷なのか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。報酬をお金を得ています」
「では、まだ貨幣経済ですわね?」
「いつか、破綻するぞ」
「破綻しないように、地球中の賢人たちが毎年経済サミットなる会議を持っています」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それはご苦労なことで・・・」
「地球の宇宙座標は未確認ですわね?」
「リーエス。わかっていません」
「なぜ、そこと通常コンタクトできてるのかなぁ・・・?」
「要調査だわね」
「ユティスのメッセージはどこまで届いたのだ?」
「天の川銀河よ」
「天の川銀河の地球ね?」
「天の川銀河、いったいどこにあるのかしら?」
「不明ですわ」
ざわざわ・・・。
「なんで、地球のことが今まで我々に知られずにすんだのだ?」
「地球人もエルフィア人そっくりではないですか?」
「地球人のDNA構成はまったくといっていいほどエルフィア人と同じらしいですぞ」
「またか・・・。やはり、すべてを愛でる善なるものの計画ということだろうか・・・?」
がやがや・・・。
会議はあっちにふらりこっちにふらりと迷走していた。
「ユティス、地球はカテゴリー2になったばかりの世界だな?」
「リーエス」
「諸君、文明レベルでカテゴリー4とはいえ、所詮、エルフィアとて万能にはほど遠い。謎解きは科学チームにまかせて、われわれは地球人というものを、をもう少し知るための努力をしようではないか?予備調査のためのエージェント本格常駐を提案したい」
理事の一人がこの会議を本筋に引き戻した。
「予備調査本格開始に、わたしは賛成だ」
「わたしもよ」
「賛成」
「賛成」
「わたくしも」
臨時理事会では、地球における調査を推進する声が圧倒的になった。
「しかし、地球との通信がどうして成立しているかわからないのも、情けない話だな」
「通信成立理由も、まったく不明か?」
「仰せのとおり」
「通信履歴のトレースは?」
「進んでいません」
「困ったな。今の状況は、要するに、時空のいたずら、偶然の産物ってことになる」
「いかにも・・・」
「超A級サイコ・セラピスト、兼、超A級ヒーラー、ユティス。ファースト・コンタクトをしたきみに心当たりはあるかね?」
「ナナン。申し訳ございません。報告の通りです。天の川銀河、並びに、地球の座標に関するものはなにも・・・」
「仕方がないわね」
「とにかく、コンタクティーとお話を継続させていただくことにします」
「よかろう」
「予備調査開始について、エルドは何か?」
「みなさんの決議内容でけっこうです」
「では、委員会は、地球の文明促進支援につき、2年間の予備調査を正式に決定する。派遣時期は別途相談。また、専任エージェントはユティス。彼女をサポートするセキュリティ・サポートは、超A級SS2名。こちらは早々にアサインすることにする。これでよろしいですかな?」
「リーエス」
「異議なし」
「異議ありませんわ」
「同意する」
エルドは自らの権限を利用した決議を迫ることなく、議案をなんなく通すことに成功した。
和人は顧客回りに出かけるため、車に乗り込んだ。ユティスも助手席に座った。
「二宮さん、大丈夫でしょうか?」
「いつものことだよ。心配ご無用」
「それなら、いいんですが・・・」
かちゃ。
和人は運転席に着くと、シトベルトを締めた。
「そうっかぁ、きみにはシートベルトはいらないね」
「リーエス。うふふ」
「ケガすることもないし、警官に見えるわけじゃないしね」
「リーエス。警官とはシートベルトの着用を見張る方のことですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちょっと違うかな。悪いことする人がいないか、見張るんだよ」
きょとん・・・。
「善人が悪いことをするのをですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。きみにとっては、人間はみんな善人だもんね」
「ふふふ」
「あはは」
「和人さんもそうですが、二宮さんもとても愉快な方」
「先輩、さっき、恐らくユティスの声が聞こえてたんだよ」
「うふふ。そのようですわね。和人さんがハイパーライン構築にご協力いただいたからですわ」
「でも、姿は見えない」
「んふ」
「意外だなぁ。ユティスがジョーク好きだなんて・・・」
「リーエス。ユーモアは大好きです。でも、悪意のあるブラックユーモアや皮肉は好みません。他の方にご迷惑をおかけすることはしたくはありませんわ」
「ははは。心配しないで。きみはとっても優しくて、礼儀正しいよ」
「まぁ・・・」
「でも、さっきは、傑作だったね。先輩のあわてた顔。朝から楽しくしてくれて、ありがとう。ユティス」
「あら、それが、今日のつぶやきでしょうか?」
「うん!」
「うふふふふ」
「楽しくなったかい?」
「リーエス。とっても!」
「あははは」
「うふふふ」
しゅうーーーん。
「ただいま戻りました」
和人は、疲れた様子で事務所に戻ってきた。
「お帰りなさい」
事務所のみんながコーラスした。
「どうも・・・」
どさっ。
和人は、カバンを机に置き、椅子にへたり込んだ。
「和人さん、大丈夫ですか?」
石橋が心配そうに和人を見た。
「あ、はい。すみません、お気を使っていただきまして・・・」
「あまり、無理なさらないでくださいね」
「はい。ありがとうございます」
ぱか。
和人は、そう言うと、カバンからPCを取り出し、メールのチェックをはじめた。
「あ・・・、先生からだ」
和人の大山電子専門学校の進路主任からだった。
「なになに・・・。明日は、都合がつかなくなったので、申し訳ないか・・・・」
「どうしたの?」
真紀も和人の様子が気になっていた。
「先生のスケジュールが、合わないってメールが・・・」
「そう。残念だわ・・・」
「あ、待ってください。今日の夕方からでもよければ、1時間くらいならって・・・」
「今日?」
「はい。いきなりで、申し訳ありませんがって・・・」
「夕方って、4時、5時?」
「さぁ、聞いてみないと・・・」
「じゃ、ぜひそうして。わたしは5時ならなんとかなるわ」
「そうですか。じゃ、やってみます」
「和人、あなた辛そうだけど、体の調子はいいの?」
「オレは、構いません」
「よし、決まりね。すぐに返事をして」
「はい」
ここは和人の母校、大山電子専門学校の進路指導室。
とんとん。
「どうぞ」
がらっ。
「失礼します」
「お、イザベルくんか。さ、入りたまえ」
「ありがとうございます」
喜連川イザベルは和人と同じ大山電子専門学校の生徒で、来春卒業を控える2年生だった。和人とは2年ずれていたため、直接、彼女と学校で一緒に過ごしたことはなかった。
「この前ちょっと話した、セレアムって会社の件かね?」
「はい。うちの先輩がお一人いるって話でしたけど・・・」
「うむ。先輩の話を聞きたいのかね?」
「はい。どんな様子かとっても興味があります。サラリーマン風じゃないって、どういうことなのかよくわからないんです」
「そうだな・・・」
そこで進路主任はにっこり笑った。
「イザベルくん、今日の夕方、1時間くらい空いてるかね?」
「今日ですか・・・。稽古があるんですけど・・・」
「そっかぁ、それは残念だ」
進路主任は残念そうに腕を組んだ。
「なにか?」
「実は、そのセレアムの女性社長ってのが本校にリクルート説明に見えられるんだよ」
「セレアムの社長さんですか?」
「うむ。直接聞けるいいチャンスだと思うんだが、どうするかね?」
「うーーーん。困りました・・・」
イザベルはしばらく迷っていた。
(女子部は5時からだから、これにでちゃうと、7時半からの第3部の稽古なら出れるか・・・。ビジネスマンクラスよね・・・。また、二宮さんとか来るのかなぁ・・・)
イザベルは結論を出した。
「わかりました。稽古は第三部に出ることにします。7時までなら・・・」
「ははは。そんなにはかからないよ」
「先生に学生募集の説明ですよね?」
「ああ。そのセレアムの社長さんってのが、例の卒業生、宇都宮和人と一緒に、わが校にリクルート説明に来ることになっているんだ」
「宇都宮先輩も来られるんですか・・・?」
「うむ」
「やったぁ、すごい・・・」
にこっ。
イザベルは笑顔になった。
「ああ。一緒にどうだ?質問もできると思うが?」
「あ、ぜひ。あのぉ、宇都宮先輩にも聞きたいことがあるんで」
「わかった。じゃ、5時にまたここに来てくれたまえ」
「はい。ありがとうございます」
「さてと、時間よ。和人」
「はい」
「あれ?真紀社長、今から、和人と二人して、どっか行くんですか?」
二宮が、意外だという顔をした。
「また、あなた、二宮?」
「こんな時間に、二人で?」
「いけない?」
「なんか、怪しいですねぇ・・・」
「はいはい。どうとでも。さ、行くわよ和人」
「はい」
さささ・・・。
「じゃ、先輩、お先です」
「おう・・・」
「行ってらっしゃあい」
事務所の女性たちが二人を見送った。
「行ってきます」
ぶろろろろーーーっ。
真紀は、車をスタートさせた。
「まったく、二宮ったら、こういう時だけ、感が鋭いんだから・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい。先輩に言わせれば、一応、武道をたしなむ身でしょうから・・・」
「煩悩にたしなまわれているって方が、当たってない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「確かにそうです」
「あなたの出身校にリクルートに行くって言ったら・・・」
「先輩、きっと、『オレも行きます』、てことになるでしょうねぇ・・・」
「うふ。ビンゴよ」
「けど、二宮先輩、確か一社にプレゼンするとか言ってましたが・・・」
「C社ね。俊介も、気にしてたわ」
「それで、真紀社長、うち、来年の新卒者を何人採るつもりなんですか?」
「できれば、4人」
「4人もですか?」
「ええ、そうよ。男手が足りないから。期待してるわよ、和人」
「そうですね・・・。あはは・・・」
「石橋さぁ、あの二人、どこに行ったの?」
二宮は事務所に残され、石橋とおしゃべりを決め込んでいた。
「さぁ、はっきりとはわかりませんが、来年度の新卒リクルートとかで学校回りだそうですよ」
「ちぇ、仕事じゃないのか、やっぱり」
「あら、それだって立派な仕事じゃないの?」
経理マネージャーの茂木が会話にからんできた。
「どこがですか?」
「あなたが首になる前日には、後釜用意しとかなきゃ困るじゃない」
--- ^_^ わっはっは ---
「い、い・・・、イジメだぁ!」
二宮は茂木に抗議した。
「バカ。和人が今のペースで仕事を決めてきたら、うちでさばけなくなるの目に見えてるでしょ?」
「ヤツ、そんなに?」
「そうよ。二宮、あなたも、ちっとは仕事取ってきてるの?」
「ええーーー!ちっととは、ひどいじゃないですか?『ラブリー』とか『ビーナス』とか、ちゃんと取ってきてるじゃないっすかぁ・・・」
「萌えとかアダルトばっかしじゃない」
--- ^_^ わっはっは! --
「あ、それ、差別だ!」
「どうでもいいけど、このままじゃ仕事こなせなくなるのよ」
「そうっすか・・・」
「そういうこと」
「うす」
二宮は納得した。
「で、真紀さんたち、どこの学校に?」
「和人の母校よ」
「和人の母校ってことは・・・。ひょっとして?」
「なによ?」
「そんなぁ!」
二宮は地団太を踏んだ。
「なに、勝手に泣いてんのよぉ!」
「だって、和人の母校いえば、大山電子でしょう?ソーシャルメディア科には・・・」
「そっかぁ!喜連川イザベル!」
「そう。イザベルちゃんが・・・」
「なによ、あなたが会社説明に行きたかったの?」
「オレ、その役やりたかったっすよぉ・・・」
「それで、めでたく、イザベルはよその大企業に就職が決まると・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「茂木先輩!」
「あなたじゃなく、和人でよかったわねぇ。可能性は残っているわ」
「そんな、殺生なぁ!」
「うふふふ・・・」
二人は大声で会話していたので、事務所中にまる聞こえだった。
「あはっは・・・」
「うふふ・・・」
いつもの二宮のことに、一同は笑いの渦に包まれた。
「うるさいぞ、みんな!」
常務の俊介の喝で事務所は静けさを取り戻し、FMラジオがかすかに流れるだけになった。
「それでだな、二宮」
「おす」
「C社への説明、オレと行くのか、行かないのか、どっちなんだよ?」
「おす。ヘ・・・、へ・・・、へっくしょい!へくしょい!」
「どうした?」
「おす。なんか噂されてるような・・・」
二宮はムズムズする鼻に手をやった。
「そんなことどうでもいい。オレは一緒に行けばいいのか?」
「おす。お伴いたします」
--- ^_^ わっはっは! ---
「バカもん。お前の客先に行くのに、『おまえがお伴』ってのはないだろう?」
「おす」
「だれが主役だ?場を仕切るのはおまえの役目だろ?」
俊介はあきれ顔になった。
「おす」
二宮は叱られている時は、常に『おす!』だった。