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308 満員

■満員■




エルドと交信を終えたフェリシアスが席に着いた。


「悪いな、遅れてしまって・・・」

フェリシアスは、みんなに頭を下げた。


「よしてよ、フェリシアス」

すぐにクリステアが言った。


「シェルダブロウ、今夜からきみはここにしばらく泊まってもらうが、今夜は一緒にできる最初で最後の食事なる。なにかと思うところもあろうが、そのヒアリングは明日にしよう。ワインは地球製のシャンパンを用意した。きみも楽しんでくれ」


さ・・・。

フェリシアスはそういうと、かつての部下にグラスを渡した。


「お注ぎしますわ、シェルダブロウ」

ユティスがロイ・ルデレールのブリュットを持って、シェルダブロウの横に来た。


「ユティス・・・?」

シェルダブロウは信じられないような顔をして、ユティスを見つめた。


「もう、お友達に戻りましたもの。違いますか?」

にこ。

ユティスは優しく微笑んだ。


「しかし、わたしはあなたを・・・」

「今もそうしようと思っておられるのですか?」

ユティスは微笑を引っ込め、真面目な顔になった。


「ナナン。そういうわけでは決して・・・」

シェルダブロウは慌てて否定した。


「でしたら、お友達・・・」

にっこり。

ユティスは再び、今度はもっと優しい眼差しになった。


「でも、それはそれ・・・。償いはちゃんと果たして下さいね。あなたなら、きっと乗り越えられると信じています」


シェルダブロウはユティスを見つめたまま、ゆっくりときいた。

「あなたは、わたしを疑わないのですか?」

「どうしてですの?」

ユティスは不思議そうに聞き返した。


「一旦寝返ったものは、また寝返る。二重スパイは三重スパイでもある」

シェルダブロウはユティスをじっと見つめた。


「なんですか、それは・・・?」

「あるカテゴリー1の世界の教訓です」


「それでは、あなたはご自分が3重スパイだとおっしゃりたいの?うふふ」

ユティスは、シェルダブロウの言葉をまったく信じようとはしなかった。


「ナナン・・・。では、あなたがそういう風に疑わない根拠はなんですか?」

「うふふ・・・」

ユティスはしばらく黙って微笑んでいた。


「あなたの生体エネルギー場ですわ。わたくしには、Z国大使館でお会いした時と比べて、とても嬉しそうな色をされてるように見えます」


「わたしの生体エネルギー場が見えてるんですか?」

シェルダブロウは驚いた。


「リーエス。感情はウソをつきませんわ。感情は生体エネルギー場となって人間の周りに放射されます。幸い、わたくしは、他の方より生体エネルギー場をはっきり見ることができますので、だいたいその方の感情はわかります。今のあなたは、黄色が優勢になってきています。黒く灰色がかった影はありませんわ」


ユティスはそう言うと、ロイ・ルデレールを注ぎ始めた。

しゅわぁ・・・。

シャンパンは泡がはじける音と共に、シェルダブロウのグラスを満たしていった。


「ユティス・・・」

「リーエス。んふ、召し上がれ?」

にっこり。


「リーエス」

シェルダブロウはグラスを口元に持っていくと、静かにシャンパンを一口飲んだ。


ごくん・・・。


「どうですか?」

「とっても美味しいです・・・」

シェルダブロウは言葉少なに頷くと、グラスの半分を一気に飲んだ。


「どうして、委員会の許可が出るまでお待ちになれなかったのですか?」

ユティスは、シェルダブロウの横で、少し悲しそうな表情になった。


「あなたは、すぐに復帰した・・・」

シェルダブロウは、ユティスと共に、惑星周回上の母船から、惑星ミューレスの最後を見届けた一人だった。


「ナナン。わたくしも数年の待機の時を経ています」

ユティスは静かに首を横に振った。


「それでも、われわれより前に復帰しました」

「まぁ、強引な結論ですこと・・・」

ユティスは少し拗ねたような表情をした。


「すいません、ユティス・・・。でも、わたしにはそう思えました・・・」

「うふ。かまいませんわ。人それぞれ感じ方は異なります。あと少しというとことでしたのよ・・・」

ユティスの言葉を、シェルダブロウは信じられないという表情で、聞いていた。



「それは本当だ、シェルダブロウ。エルドも他の理事も、きみたち4人のSS復帰を内々には了承していたんだ。早まったな・・・」

フェリシアスは残念そうに言った。


「わたしは、あなたを信用しているわ。同じSS仲間としてね」

クリステアが言った。


「わたしもよ、シェルダブロウ」

アンニフィルドもシェルダブロウに微笑みかけた。


「クリステア、アンニフィルド・・・」


「SSなんてのはね、厳しい精神チェックを受けてないとなれないのよ。あなたはそれに見事パスしてSSになった。惑星滅亡というシミュレーション上の最高難度のケースを難度も行なったわよね?」


「しかし、実際経験すると・・・、なにもできなかった。なにもね・・・。そんな訓練は役に立たなかったんだ」


「そんなことはないんじゃないかなぁ・・・」

そこに和人が割り込んできた。


「ウツノミヤ・カズトか・・・」

シェルダブロウは和人を見つめると小馬鹿にした表情を浮かべたが、すぐに引っ込めた。


「オレは、結果が悪けりゃ過程が悪かったからだという、プラグマティズム的な考えは一見科学的だと思うけど、その逆はどうなんだろうとも思うよ」


「結果が良ければ過程が正しかった・・・、ではないのか・・?」

シェルダブロウは、はっとして和人を見つめた。


「リーエス。何の偶然が関与しているかわからないもの。それをすべて考慮するなんてできやしないよ。ものごとを法則化しようとすることは科学的だけど、単純化し過ぎると、事実とかけ離れてしまう。本当は、ぜんぜん別だったりする。だから、同じことをしても、同じ結果になるとは思えない・・・。だから、たまたま訓練が現実にそぐわなかったからといって、意味がないなんて思わない方がいいと思う。オレの営業という仕事もそうだから・・・」


「わたしは、和人に賛成だ。そのため、訓練プログラムは常に更新しているんだ」

フェリシアスは和人を見つめた。


「ふっふ。では、運が悪いだけなのか・・・」

「それも違うと思う・・・」

和人はまた言った。


「だれだって、運が悪いと思えることはよくあるさ。オレだってね。きみだけがその特権を持っているわけじゃない」


--- ^_^ わっはっは! ---


「しかし・・・」


「うふふ。わたくしから質問させてください。いいですわね?」

ユティスがみんなを見回した。


「パジューレ(どうぞ)、ユティス」

エスチェルが言った。


「では、シェルダブロウ、あなたにはいいことが一つも起こってないのですか?」

「それはない・・・。こうして、ユティス、あなたの寛大さで、ここでもてなしを受けている・・・」


「いいことは、あなたにもあるってことですね?」

「ほんの少し、些細なことについてだけです・・・」

シェルダブロウはユティスを見つめた。


「ということは、あなたの関心が悪いことばかりにいってらっしゃる・・・、てことじゃないのですか?」

にこ。

ユティスは微笑んだ。


「悪いことばかりにですか・・・?」

「リーエス。それに感謝をお忘れになられています・・・」


「感謝・・・?」

「リーエス」


「だれに・・・?」

「ご自分に・・・」


「自分に・・・?」

「リーエス・・・」

ユティスは、シェルダブロウを優しく見つめた。


「それを理屈でおわかりなろうとしても、とても難しいですわ。おわかりならないなら、もう一度、それをおやりになるといいですわ。実践こそ、理解への最短の道です。きっと、あなたにも幸せが感じられてくるはずです」


「・・・」

シェルダブロウは、ユティスの言葉を噛み締めるかように、黙りこくった。


「そろそろ、その辺にしといたら?」

クリステアがユティスに言った。


「リーエス。お食事はみんなで一緒に楽しみましょう」


「そうそう。あ、それ取ってよ、アンニフィルド」

キャムリエルがくったくのない笑顔で言った。


「リーエス。いいわよお皿をかしなさい、キャムリエル」


ふぉっさぁ・・・。

アンニフィルドはサラダと玉子のスフレのようなものを、キャムリエルの皿に盛って渡した。


「パジューレ(どうぞ)」

「アルダリーム(ありがとう)、アンニフィルド」


「わたしにもお願い」

「リーエス、ドクター」

アンニフィルドは、エスチェルの皿にもそれを盛った。


もぐもぐ・・・。

「美味しいわよ、アンデフロル・デュメーラ」


「アルダリーム、SS・アンニフィルド」

エストロ5級母船の声は、いつものように冷静だったが、少しだけ嬉しそうに聞こえた。


「では、地球映像とバックミュージックをおかけします」

しゅわぁん。


アンデフロル・デュメーラが、前方の壁を透明な窓に変えると、そこにまたあの丸い全球の地球があった。


「うわぁ・・・」

和人はまた、感嘆した。


「うふ。地球はとても美しい星ね」

「リーエス。ここまで美しい星はそんなにはないですね・・・」

エスチェルの言葉にトレムディンが頷いた。


「あのさ、ユティス。大統領と国務長官たちとここに連れてきてにこれを見せた時、なにを考えてたんだい?」


ごくん。

和人はシャンパンを一口飲んで言った。


「さぁ、忘れてしまいましたわ。うふふ」

ユティスは悪戯っぽく微笑んだ。


「決まってるじゃない、そんなこと」

アンニフィルドが和人に言った。


「なんだい?」

「5分の約束守れるかなぁって・・・」


「ホント?」

「うふふ。そうではありませんが、多分、もっと先に行かなくては、とは思

いました」

ユティスは正直に言った。


「そうね。彼らは月まで行ったこともあるし、地球の周回軌道には無数の宇宙機を飛ばしてるもの。ね?」


にこ。

アンニフィルドは和人に微笑んだ。


「見慣れた光景ってとこよ」

クリステアが言った。


「それでも十分感動的なはずなんだけどなぁ・・・」

エスチェルはドクターらしからぬ感情に触れる言い方をした。


「たぶん、きみのことを考えてたんだよ、アンニフィルド」

トレムディンが言った。


「わたしのことぉ?」

「リーエス。彼、ちらちら、ずっと見てたよ」


「あは。やっぱりそうか。いい女は罪作りよねぇ・・・」

るんるんるん・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---


「違うな、トレムディン。彼が見てたのは、アンニフィルドの向こうにいたユティスだ」

フェリシアスが冷静に訂正した。


「ええ?」


--- ^_^ わっはっは! ---


むっかぁ・・・。

「ああ、そう。もう、二人のお料理取ってあげない」


ぷい。

アンニフィルドは和人に向き直った。


「まぁ、アンニフィルドったら・・・。うふふ」

そんなやり取りを見て、ユティスは微笑んだ。


「アンニフィルドは、とてもステキですわ。だって、俊介さんも・・・」

「ユティス、ストォーーープっ!」

慌ててアンニフィルドが両手を広げて、みんなを制した。


「シュンスケ?」

「だれよそれぇ・・・?」


にたぁ・・・。

エスチェルが興味津々でアンニフィルドに流し目を送った。


「ああ、あのセレアムに行った・・・」

キャムリエルが答えた。


「こら、人のウワサ話ばかりして!」




電車のドアが閉まり、ニ宮は家とは反対方向の電車に押し込まれてしまった。

がたん・・・。ごとん・・・。


すぐに電車は動き出し、ニ宮はもがくのを止めた。


ぴとぉ・・・。

その時、イザベルがニ宮のすぐ側に立っているのに気づいた。


「ニ、ニ宮さん・・・」

イザベルは驚いて、ニ宮を見つめた。


がばぁ。

「あはぁ・・・。無理矢理押し込めらちゃいましたぁ・・・」

ようやくニ宮はイザベルの方に首をを回すことができた。


「無理矢理・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


イザベルは期待するような目になって、ニ宮を見つめた。


「じゃない方がいいですか・・・?」

「ええ?」

イザベルはうろたえた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはは。次の駅で反対側に乗り換えますから・・・」

「え、そ、そうですよねぇ・・・」


がたん、ごとん・・・。


「次はぁ、XX。次はぁ、XX・・・」

車掌のアナウンスがあると、しばらくして電車はブレーキがかかった。


きーーー・・・。

ごとん・・・。

どぉーーーん。


前方に向けて人が流され、ものすごい圧力となって、イザベルを押した。


「きゃあ!」

「痛ぁーーーい!」


ど、どど、どぉーーーっ。

イザベルはそのまま、ニ宮の脇をすり抜け、前方に流されていった。


「イザベルちゃん!」


ニ宮は手を伸ばそうとしたが、人ごみの中、その手がイザベルに届く前に、イザベルは前方に将棋倒しのようになり、どんどん、流されていった。


ききーーーっ。

そして電車が止まると、今度はその反動で、乗客は後方にいっきに押し戻されていった。


ざざざぁーーー。


「きゃあ!」

「うっ・・・」


どどどぉーーーん。

イザベルはニ宮の側に戻ってきた。


「あは。おかえりなさいっす」

にこ。


「ばか・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


しゅわーーーっ。

ドアが開き、一斉に乗客が降り始めた。


どどどーーーぉ。

「痛い!」


そんなイザベルの悲鳴など無視して、われ先に乗客は降りていった。

ぐりん。

二宮は一回転して、ドアから電車の外に放り出された。


「きゃあーーー!」

続いて、イザベルがつまづきそうになりながら、放り出された。


がしっ。

「危ない!」


ぐいっ!

ニ宮はイザベルの手を掴むと自分の方に引っ張り上げ、イザベルが転びそうになるのを防いだ。


「ニ、ニ宮さん・・・」


イザベルはよろめきながらも、なんとか持ちこたえて、ニ宮の脇に立った。


「大丈夫っすかぁ・・・?」

「ええ・・・」

ニ宮はまだ、イザベルの手を握ったままだった。


--- ^_^ わっはっは! ---


どどどど・・・。

今度は、電車に乗り込む客が二人の脇をわれ先にすり抜けていった。


「危ない!」

ぎゅっ。

二宮は思わず、イザベルを庇い、半ば抱き締めるような格好になった。


「ニ、ニ宮さん・・・」

イザベルは真っ赤になった。


「危ないです!次の電車をご利用ください!」

駅員の怒鳴るような声が飛んだ。


「あはは・・・。乗ります?」


ぱしゅう・・・。

ぱしゅ・・・。

ニ宮は腕を解こうともしないで、電車のドアが閉まりそうになったり、開いたりしているのを見やった。


「こんなんじゃ、とても乗れません・・・」

イザベルは答えた。


「そうっすよねぇ」

ニ宮は笑いながら、イザベルに頷いた。


「電車、発車します。黄色い線までお下がりくださぁーーーい!」

駅員の必死の声がホーム中に響き渡った。


がたん、ごとん・・・。

電車は超満員の乗客と共に動き出した。

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