306 処遇
■処遇■
「あー、いや、それは大いなる誤解だ・・・」
「ん、ん!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんだ、そういうことだったんですかぁ・・・。わたしは、てっきり・・・」
「きみは、もういい。下がりたまえ」
藤岡の一言で、第一秘書は首相の執務室を出ていった。
空軍基地には、まだブレストが迷っていた。
「ユティスたちが戻ったら、わたしたちは日本に戻るわよ」
クリステアが静かに言った。
「ああ、わかっている・・・」
「ま、それも生き方ね。委員会の処遇はどうなるかだけど、合衆国市民をどうこうしないのは保証するわ。エルフィアは現地の法律を遵守するから・・・」
アンニフィルドもブレストに言った。
「わたしは、まだ署名など・・・」
ブレストは宣誓書のことに触れたが、クリステアがあっさり答えた。
「でも、シェルダブロウみたく返す必要はないわ。持っておきなさい。フェリシアス、そうでしょ?」
「リーエス。わたしは今回の騒ぎを解決するために来た。当初の使命であるユティスを取り戻すことは済んだ。後は容疑者の確保だが、シェルダブロウは自首という形でケリがついた。そして、ブレストは地球で奉仕することに自ら志願し、服役の身に就いた。委員会にはそう報告するつもりだ」
フェリシアスは冷静に話した。
「よかろう・・・。わたしは地球で服役中ということだな・・・?」
「逃亡中の方がいいの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドがにやりとした。
「ナナン、服役中でいい・・・」
「ならば、地球の支援に協力してもらうことになる」
「リーエス」
「そして、エルフィ人としての力、精神波通信を除き、すべてを封印してもらう。異論はないと思うが?」
「それで手を打とう。力は封印する」
ブレストの話しを聞くと、フェリシアスはエストロ5級母船を呼んだ。
「アンデフロル・デュメーラ、ブレストが、力の封印処置に同意した。わたしに協力してくれたまえ」
「リーエス、SS・フェリシアス」
フェリシアスはブレストに向き直り、両手をブレストにかざした。
ぽぉーーー。
ブレストの身体が薄いピンクの光に包まれ、ほとんど姿が見えないくらいまでになった。
「なんだ、なんだ・・・」
基地の群集が騒ぎ出した。
「下がって!」
司令官がみんなを後ろに下げさせた。
ぽわぁーーー。
そして、数秒後に、光は薄くなり、消えた。
「済んだぞ、ブレスト・・・」
フェリシアスがブレストを見つめた。
「精神波通信以外は力を封印してあるが、安心するがいい、力を失ったわけではない。それが再び必要になった時と判断されれば、アンデフロル・デュメーラが解除するだろう」
フェリシアスはそう言うと、前に向き直った。
「来るぞ・・・」
「ええ。戻って来たわ」
エルフィア人たちは、わずかな時空の振動をとらえていた。
ぽわぁーーーっ。
大統領のために用意されていた演説台の後ろで、空気が揺らめいた。
ぶわん。
次の瞬間、4人の影が現われ、それはあっという間に実体になった。
ちゃ、ちゃ!
がさっ!
ばさっ。
MPとSSたちが一斉に銃を構えた。
「待て!」
司令官はそれを制した。
「だ、大統領だ!」
「国務長官もだ」
「エルフィア大使もいるぞ!」
完全に実体化すると、大統領は、ゆっくりと演説台に立った。
「マイクだ」
司令官が指示すると、大統領の声があたりに力強く響いた。
「諸君、わたしだ。今、戻ってきた」
「わぁーーー!」
「大統領!」
大歓声が基地を揺るがした。
「諸君、静かに!静かにしてくれたまえ!」
大統領は両手を広げて聴衆を制した。
「この巨大スクリーンで、諸君も、わたしと同じ体験をしたと思う・・・」
大統領はゆっくりと話し始めた。
「わたしと国務長官は、地球から離れていた。そして見たのは・・・、地球だった。はじめはちゃんとした球形で、なんと美しいことかと感動した。しかし、それもたかだか、数十秒に過ぎなかった。次にもっと遠ざかると、故郷は真っ暗闇に寂しくポツンと浮かぶゴマ粒だった。しかし、よく見るとまったく孤独というわけでもなかった。側には、銀色の月がもっと小さなゴマ粒となって寄り添っていたからだ。しかし、さらに遠ざかった。なんと、そこは隣の恒星系で、もう、さんさんと降り注ぐ、馴染みの太陽はなかった。一面の夜空に、無数の星々が瞬くだけだった・・・。云々・・・」
そして、大統領の話は、概ね藤岡首相と同じような内容だった。
「実は、最初、わたしは、ユティス大使の言われるカテゴリー2というものがどういうものか、正直ぴんとこなかった。だが・・・、今はよくわかる・・・。さっきの日帰り出張で・・・」
「わっはっは!」
--- ^_^ わっはっは! ---
大統領は、そこで群集の笑いを取った。
「つい10分前に、合衆国の領空だの防衛圏だの言ったが、もっと別な方法もあるんではないかと、そう考える価値はあるんではないかと、そう思っている・・・」
「わぁーーー!」
「大統領ぉーーー!」
「すぐには実現は難しい。どうやら、わたしにはカテゴリー2の資格が与えられたようだ。時間がかかろうが、一つ一つ進めたくなってきた・・・」
にやり・・・。
「わぉーーー!」
「きゃぁーーー!」
しゅわぁーーー。
しゅわぁーーーん。
大統領が話し終えると、基地内は、展示飛行に備えている何機かだけが、エンジン音を轟かせていたが、周りは静かだった。
「ユティス大使、あなたの言わんとすることは、わかりましたぞ」
「んふ。でも、当初の予定の内容とは、全然違う声明になりましたわ」
にっこり。
ユティスは大統領に微笑むと言った。
「いや、合衆国が間違いなく支援を受けられると、双方で確認できたことは、なににもまして、大きな成果であり、これこそがわたしの生命です」
「ミスタ・ウツノミヤ、きみは、このようなすばらしいユティス大使と一緒にいられるなんて、なんと幸運なんだ!」
ぽん。
大統領は数との方を叩いて、和人を称えた。
「なにか、わが合衆国市民に一言くれないかね?」
どっきん!
「ええ、ここでですかぁ・・・?」
和人はたちまち緊張した。
「そうだよ。きみは地球を代表するコンタクティーとして、言いたいことが山ほどあるんじゃないのかね?」
「コンタクティーとしてと言われても・・・」
かぁ・・・。
和人は何千人もの観衆に一斉に注目された。
「あらあら、普通におっしゃってくださいな、和人さん」
ユティスはにこやかに言った。
「なんで、普通の人間が選ばれたかってのは、大統領も知ってるわ。だから、なんで普通でいられるのかってのを、言えばいいんじゃないの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱち。
アンニフィルドがユティスにウィンクした。
「うふふ。それはいい考えですわ」
「普通でいられるかって・・・。特別に良いことはしてないからですよぉ。そんなに悪いこともしてないと思うけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いや、これは名答だな。気に入った。わははは」
大統領は和人の方を笑いながら見た。
「後は、そうですねぇ、それに自分に起こった良いことだけを記す日記みたいのをつけるといいんじゃないかと思います。いろいろ気付かせてくれますよ」
「良いことだけを記すとは、これはまた、妙な日記ですなぁ・・・」
大統領はその先を聞きたがった。
「どうしてですか?」
また、国務長官が話題を独占しようとした。
「自分を好きになっていくからです」
「はぁ・・・?」
国務長官は首をかしげた。
「まぁ、やっていただければわかると思います。やらなければわかりません。たぶん」
「それで、他にあるの?」
和人は答えたが、国務長官はそれを放っておくことにした。
「わたしは自分を好きになるということは、自分を大切に思えるということでもあると思うんです。自分を大切にしない人は、他人や物も大切にしないんじゃないかとも思うんです。だから、地球も同じです。地球が大切思える人なら、宇宙のどこに行っても星も異星人も大切に思える。これが、カテゴリー2の精神なんだと思います・・・」
そこで、和人は一呼吸置いた。
「それで、アルファケンタウリまで行って、一人ぼっちの太陽や地球に思いを馳せたら自然に涙が出てきました。暗くて、寂しくて、恐くて、今にも消えそうに頼りなくて、そして悲しくて・・・。それが地球で太陽なんだって。人類はそこが家なんです。そこに棲むしかないんです。前の超新星のように、なにかちょっとでも外からあったら、みんな終わりなんです。ケンカに勝った人も負けた人も、あっという間に終るんです。大統領も藤岡首相もショックをお受けになられたよでしたね?違いますか?」
和人は自分の気持ちを素直に述べた。
「・・・」
が、それは大統領の胸に突き刺さっていった。
「ミスタ・ウツノミヤ、きみはただものじゃないな・・・」
にやり・・・。
「ええ。だから普通の男なんです」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ・・・?わっはっは!」
一瞬の後、大統領をはじめ、そこにいる人間は大爆笑になった。
「うふふふ」
「まいった。まいった!」
それから、しばらく大統領や国務長官の話しが続いた後、ユティスが壇上に進み出た。
「そういうことで、大統領と国務長官さんには少しご足労いただきましたが、相互に理解し合えて嬉しく思いますわ。それでは、みなさん、また、お会いできる日まで・・・」
「ええ?もう、帰ってしまわれるんですか・・・?」
大統領は意外だという顔になった。
「リーエス。シェルダブロウはエルフィアに戻られることに、ブレスト参事はエルフィア籍を白紙に戻され、合衆国民としてみなさまの下でお暮らしになられる、このお二方の処遇がはっきりしましたからには、もう、ここに留まる理由もございません。わたくしは合衆国市民である前に、日本人です。そして、エルフィア人です。やるべきことを残しておりますので、この辺で失礼させていただきたいと思いますわ」
にっこり。
ユティスの微笑みは優しさにあふれていて、その言葉に偽りがるようには、とても思えなかった。
「わぁーーー!」
「行くなぁ!」
「ユティスぅーーー!」
群集の声が急に大きくなった。
「うふ。ありがとうございます。でも、やはり、お時間ですもの・・・。ふふふふ」
そう言うと、ユティスは優雅に両手を目に差し出し、そして天に向かって広げながら上げていった。
「アンデフロル・デュメーラ、お願いですわ」
「リーエス、エージェント・ユティス」
ぽわぁーーーん。
白い光がユティスたちを包み込み、その一瞬後にはそこに姿はなかった。
「ふ・・・、いってしまったか・・・」
しゅうん・・・。
そして、空中の大スクリーンも消え、大統領は、ブレストを見た。
「ようこそ、合衆国へ」
「ありがとうございます」
ブレストは頭を下げた。
ユティスたちが戻ってきたのは、既に夜の7時を過ぎていた。
「お帰り」
「ただいまぁ」
「戻りましたわ」
「お疲れさまね、ユティス」
「ふぅ・・・」
「あー、お腹すいた・・・」
キャムリエルがアンニフィルドたちを見て言った。
「まぁ、あなた、なにもしてないのにお腹だけは空くのね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは、それは違うよ、アンニフィルド。お腹が空く関数は、運動量掛けることの時間だよ。なにもしてなくたって、運動量はゼロじゃないしね」
「時間が経てば、自然とお腹が空くってことね」
ドクターが答えた。
「役に立たない方程式だこと」
--- ^_^ わっはっは! ---
「今日は時間がありませんわ。アンデフロル・デュメーラに用意してもらいましょう?」
ユティスが言うと、すぐにアンデフロル・デュメーラが答えた。
「リーエス、エージェント・ユティス。あと4、5分お待ちいただけますか?船内のリビングにお食事を用意いたします」
「ええ?アンデフロル・デュメーラってそんなことまで、してくれるのぉ?」
和人は感心して言った。
「リーエス。わたしの船内の農場で採れた天然食材になりますので、ご安心ください」
「へぇ・・・。すっごいんだね・・・」
「和人さん、エストロ5級母船は、直径2000メートルはあるんです。中には1000人が3ヶ月以上くらせるだけの食料や農場があります。ワインも揃ってますわ。今夜はみなさん揃ってステキなお食事になりますわ」
ユティスがそういうと、みんな笑顔になった。
「シェルダブロウ、あなたもいかが?」
「いいのですか?」
シェルダブロウが意外だというように言った。
「きみは、しばらく、アンデフロル・デュメーラにいてもらうことになる」
「取調べか・・・?」
シェルダブロウが言った。
「まぁ、そう思いたければそれでいい。わたしは委員会へ報告するためのヒアリングをせねばならない。キャムリエル?」
「リーエス、フェリシアス!」
ぴし。
キャムリアルは地球の軍隊のように敬礼をした。
「どこで習ったのぉ?」
クリステアが言った。
「テレビニュースさ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんか偉そうにしてる男にみんなそうやってた」
「どんなニュースなの?」
「ああ、それZ国の記念式典です」
「軍事パレードだな、それ・・・」
和人が言った。




