303 C2
「はぁい、アンニフィルドよ。今回のタイトルの『C2』ってのは、『カテゴリー2』のことよ。なんだかタイトルを2文字に決めちゃったもんだから、今回もそうしなきゃあと思ったんだけど、さすがに2文字じゃ今回のタイトルを
表せなかったわ。ブレストの一件から、どんどん、話しが進んじゃって、大統領と国務長官とのネゴがどうなるのかしら・・・」
■C2■
ユティスは和人を見つめて、同じ質問をした。
「和人さんは、これをどうお思いですか?」
「どう思うって・・・、太平洋の小島に流れ着いた数人が、棒っきれで浜に線引きし合ったり消し合ったりして、互いに自分の領地だと言い合ってるのを、空から見ているって感じかなぁ・・・。100メートルも離れたら、もう彼らがなにをしてるかわからないし、引いた線も見えなくなってる。もっと上空に行ったら、小島さえ点になっちゃって、人がいるなんてまったくわかんないよぉ。たぶん・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、なんてことを!合衆国を小島の漂流者に例えるだなんて!」
「す、すいません・・・」
和人は恐縮した。
「うふふ。では、国務長官のご感想は?」
「うう・・・」
国務長官は、和人の感想の後、下手なコメントは言えないことを悟っていた。
「わたしは・・・、わたしは、ミスタ・ウツノミヤの意見に賛成だな・・・」
大統領がぼそりと言った。
「アンデフロル・デュメーラ、地球から少しずつ離れていただけますか?」
ユティスは頃合を見て、エストロ5級母船に指示を出した。
「リーエス、エージェント・ユティス」
ふわん・・・。
いきなり大窓に映った地球が半分の大きさになった。
「な、なんなんっだぁ・・・?」
和人がびっくりして、ユティスを見た。
「うふふ。ここは地球から6万キロ宙点ですわ」
ユティスは3人に微笑んだ。
「6万キロ・・・?」
大統領は信じられないようにユティスを見つめた。
「だ、だって、一瞬だったぞぉ・・・」
「はい。揺れはお感じになれませんでしたでしょ?」
「まったく揺れなかった・・・」
大統領は大窓から半分の大きさになった地球を見つめた。
「・・・」
国務長官は声を失っていた。
「うわぁ・・・。地球が半分になっちゃったね、ユティス」
和人は思ったことをそのまま、口にした。
「リーエス。では、もっと先に行くことにしましょうか?」
「ええ?」
国務長官が顔を引きつらせた。
「アンデフロル・デュメーラ、お願いします」
「リーエス、エージェント・ユティス」
ほわんっ。
もう、地球は野球のボールくらいの大きさだった。
「ここは、地球上空30万キロ宙点ですわ」
「ということは・・・、秒速24万キロ以上ということ・・・。そんな、バカなぁ・・・」
大統領は計算が示す速さに、頭を振った。
「時空エネルギーを利用し、その波動に乗って、一瞬で時空を抜けます。飛行機のように時空の中を徐々に移動するわけではありませんから、秒速いくらという数値は意味がありません」
アンデフロル・デュメーラが説明をしたが、3人の地球人の理解を完全に超えていた。
「どうですか、和人さん、どこが日本かわかりますか?」
「うーん、雲がかかってるし・・・。たぶん、あそこかなぁ?」
和人は青い野球ボールの右端を指差した。
「正解です、コンタクティー・カズト」
アンデフロル・デュメーラが言った。
「合衆国は、そうすると・・・」
大統領が、左端を見て頷いた。
「わかったぞ。あれだ!」
「正解です、大統領」
「わはは。そうだろう。そうだろう。うむ」
アンデフロル・デユメーラに言われて、大統領は気を良くした。
「あは。あれは、月じゃないのかい?」
和人は地球の少し離れたところにある銀色のゴルフボールのようなそれを指した。
「そうです。月ですよ」
国務長官も肯定した。
「月は、今、地球の手前にありますから、幾分大きく見えているはずですわ」
ユティスがにっこり微笑んで言った。
「まるで、色の違う兄弟星みたいだね?」
和人が感慨深げに言った。
「合衆国は、唯一そこに人類を送り込んだんだ」
大統領は誇らしげに言った。
「それは素晴らしいですわ」
にこっ。
ユティスが微笑むと、大統領は得意になった。
「大使、あなたも素晴らしくお美しいですぞ」
「まぁ!」
かぁ・・・。
ユティスがはにかむと、国務長官は大統領言った。
「大統領、別にあなたの功績ではないでしょ?」
国務長官はへそを曲げた。
「きみの功績でもない。わははは」
--- ^_^ わっはっは! ---
「われわれの父祖を称えようではないか、ベス」
大統領はすぐに話題を変えた。
「大使、国境を確認するなど無理です。降参します。しかし、これのどこに意味があるのですか?」
「お三方をここにお連れしたことにでしょうか?」
「そうです。貴重な体験をいただき感謝しますが、国境のことなら、もう十分ではないですか?」
国務長官が言い終えると、ユティスはさらにエストロ5級母船に指示を与えた。
「アンデフロル・デュメーラ、もう少し先に行ってくださいな」
「リーエス、エージェント・ユティス。2天文単位付近でよろしいですか?」
「リーエス、アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)。よろしいですわ」
ユティスが言い終わると、また大窓に映る宇宙の様子ががらりと変わった。
ほわん。
ぱ・・・。
「うわっ・・・」
和人は、一面の星の海に声を失った。
「な、なんだね・・・、これは・・・?」
「どこなの・・・?」
国務長官は、見慣れた地球の姿がないので、不安になった。
「地球がないよ、ユティス・・・」
「うふふ。よぉくご覧になって、和人さん。そこの明るく青く光る星がそうですよ」
にこ。
ユティスはそれを指差し、大統領と国務長官にも説明した。
「あれですわ、国務長官さん」
「ええ・・・?あの小さいのがですか・・・?」
国務長官は、そのあまりの小ささに驚いた。
「ここは、地球からどのくらい離れてるんですか・・・?」
大統領が不安そうに言った。
「2天文単位、地球から太陽までの距離の2倍のところです」
アンデフロル・デュメーラが回答した。
「それで、もう、こんな風に点にしか見えないのか・・・」
大統領はショックを受けているようだった。
「国境は見えますか?」
ユティスがまたきいた。
「見えるわけがない・・・」
大統領はぽつりと言った。
「あの点みたいなところで、オレたちは暮らしてるんだね・・・」
和人が言った。
「周りには、なにもないのね・・・」
「ああ、ベス。それに一切の音もない。真っ暗な空間があるだけだよ。一面の星は何百、何千光年もの遥か先にある・・・」
大統領は国務長官に答えた。
「でも、まだ青く光ってるから、言ってもらえば、なんとかわかるわね」
「もし、言ってもらわなければ・・・?」
ユティスがきいた。
「わかりようもないな。あんなちっぽけな星なんだから・・・。ふぅ・・・」
大統領は溜息をついた。
「あの点みたいなところに70億もの人が棲んでいるなんて、ここからじゃぜんぜんわかんないよ」
和人はユティスに向かって言った。
「リーエス。地球はこんなに小さいんです。そして・・・」
「そして、なんですかな?」
大統領がその先をきいた。
「エルフィアも同じく、とても小さいんです。そして、わたくしたちエルフィア人は、だれもがそれを実際に自分の目で見て知っています。自分たちのエルフィアがこの真っ暗宇宙の中に、ポツンと浮かんでいる点のようなものだと・・・」
ユティスはそう言うと、3人の地球人を見つめた。
「憐れだな・・・」
大統領が、またぽつりと言った。
「憐れ?なにがです?」
国務長官は大統領にそれを正した。
「われわれだよ、ベス」
大統領は国務長官に向き直った。
「地球があの点なのだということを、だれもわかってないし、知ろうともしない。あの点の中で、点をめぐって覇権争いに明け暮れて・・・、これが憐れでなくて、なんだと言うんだ・・・?」
大統領は肩を落としていた。
「ユティス大使、これをわれわれにお見せしたかったわけですな?」
「リーエス」
にこ。
ユティスは優しく微笑んだ。
「今の大統領、あなたのその感情こそが、カテゴリー2の精神です。地球の文明促進推進支援のプログラムの第一ステップはこれから始まります」
ユティスは静かに言った。
「支援プログラムの第一ステップですと?」
大統領ははっとして、ユティスを見つめた。
「リーエス。人は感じることのないものに対して、真に理解しようとはしません。いくら学んでも、心に残らないとしたら、それは実践されないでしょう。実践されないとしたら、そういう教育は無駄だったということです」
「ユティス大使・・・」
「わたくしは大統領にカテゴリー2の精神を真にご理解いただきたかったのです」
「カテゴリー2の精神か・・・」
「言葉ではいくらでも説明できますが、実際に見て感じた方が、遥かにマシではありませんこと?」
にこ。
ユティスはまた微笑んだ。
「いや、確かに、大使のおっしゃるとおりです」
大統領は頷いた。
「さて、国務長官、もう一足先にまいりますので、よぉくご覧になって」
ユティスがそういうと、またまた、大窓の景色は一変した。
ふわん。
ぱ。
「ここはどこです?」
もう辺りはまったくの星の海だった。
「地球は?地球はどこです?」
天の川はよりはっきりと見え、国務長官は慌てていた。
「地球から4光年ばかり離れた、あなた方地球人の言う、アルファケンタウリという太陽から一番近い恒星系の端っこです」
アンデフロル・デュメーラが言った。
「4光年先だってぇ・・・?」
和人がすっとんきょうな声をあげた。
「4光年を一瞬で移動したと言うのか・・・?」
大統領は口をぱくぱくさせた。
「リーエス。先ほど申しあげましたが、ジャンプに時間は意味がありません。どの様な距離も一瞬は一瞬です」
アンデフロル・デュメーラが答えた。
「そ、そんなぁ・・・。ウソでしょう?」
国務長官は手が震えていた。
「地、地球はどこぉ・・・?太陽はどこなのよぉ・・・?」
「ベス、落ち着けよ」
大統領が国務長官をなだめた。
「ここから、お三方には太陽をご覧いただきます」
「ははは・・・。そんなこと言ったって、太陽が夜空の星の一つになっちゃったんだろ?わかるわけないじゃないかぁ・・・」
和人の笑いは引きつっていた。
「すでに太陽が視野に入るように、機体の位置を修正しております。目の前に太陽は見えています」
アンデフロル・デュメーラが言った。
「じょ・・・、冗談でしょぉ・・・?こ、これが隣の恒星系、4光年離れているアルファケンタウリからの星空だって言うの?」
国務長官はそれを信用しようとはしなかった。
「ふむ。言われなければわからんな。しかし、どことなく、星の位置がおかしいぞ・・・」
大統領は首をかしげた。
「和人さんは、おわかりですか?」
ユティスの優しい微笑みに和人は降参した。
「ダメだ。わからないよ。教えてくれるかい?」
すく・・・。
「うふふ。それでは正解をお教えいたしましょう」
さぁ・・・。
ユティスは前に進み出て、ある一塊の星を指した。
「あの星たちをご存知ないですか?」
それはW字を象ったような5つの星だった。
「リーエス。わかったよ・・・。カシオペアだ・・・」
和人が叫んだ。
「でも、なんか変だ・・・。あれは、ひょっとして超新星じゃないのかい?」
和人の指すところは、カシオペアの近くにあり、黄色みをかすかに帯びた白っぽい明るく1等星だった。
「ナナン。超新星ではありません」
アンデフロル・デキュメーラの落ち着いた声がした
「まさか・・・、あれが太陽だなんて言うんじゃないでしょうね・・・?」
国務長官はユティスを見つめて、恐る恐る尋ねた。
「リーエス。ご名答ですわ」
にこ。
ユティスは嬉しそうに言った。
「合衆国が見えますか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふぁ、はっはっはっは!」
突然、大統領が大笑いした。
「ユティス大使、あなたは大したユーモアの持ち主だ。降参します。降参です!」
そう言うと、大統領は国務長官の方を叩いた。
ぽん。
「ベス。きみが信じられないのも無理はない。かくもエルフィアの科学は進んでいて、われわれは野蛮人なんだ。わからないか?人類で、ここまで来たことのある人間はいないんだ。わたしとベス、そして、コンタクティーのミスタ・ウツノミヤ。どれだけ素晴らしく、名誉なことなのか、わからないわけないだろう?」
「信じられませんね。映画のように、どこかの撮影所のスタジオの中ではないと、言い切れますか?」
「なんだ、まだ疑ってるのかぁ・・・?」
大統領はしょうがないように、国務長官を見つめた。
「では、わたくしがご案内しますから、船外に出てみますか?」
アンデフロル・デュメーラが国務長官にきいた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「じょ、冗談じゃないです。宇宙服なんて着ませんからね!」
国務長官はユティスを挑戦的に見つめた。
「うふふ。宇宙服など必要ありませんわ。アンデフロル・デュメーラの周りにはいろんな場があります。もちろん重力も。空気もありますわ」
「しかし、致死量を超える強力な宇宙線が降り注いでいるのでは?」
「それも彼女の場がありますので、跳ね除けていますわ」
にこ。
ユティスは国務長官に微笑んだ。
「い、いや。やはりけっこうです」
「リーエス。承知しました。今度の機会にはぜひ・・・」
ユティスは丁寧に言った。
「ところで、これも、基地のみんなに中継してるのかね?」
大統領がユティスにきいた。
「リーエス。空軍基地のみなさまは、大統領のご覧になっている情景を、そっくりそのままご覧になられていますわ」
「では、われわれの声は姿も・・・」
「もちろんです」
ユティスは軽く答えた。
「もうしばらく、眺めていたいなぁ・・・」
和人が言うと、アンデフロル・デュメーラがユティスに確認した。
「エージェント・ユティス、約束のお時間の5分がそろそろ経とうとしていますが、もう一つのことは、いかがいたしますか?」
「リーエス。わかりました。わたくしが、ご案内いたしますわ、アンデフロル・デュメーラ」
ユテイスそう言うと、3人についてくるように合図した。
「どうぞ、こちらへ・・・」
3人がユティスについて部屋を出ると、広い廊下があり、ユティスはそこで壁に向かって手を上げた。
しゅぅーーーん。
「うわぁ!」
大統領がびっくりして、後退りした。
「か、壁が・・・」
そこまで壁だったところがいきなり開いて、ドアになった。
「どうぞ・・・」
ユティスは3人をその大部屋に案内すると自分も部屋に入った。
かつん、かつん・・・。
4人の足音に気づいて、その男は振り向いた。




