302 眺め
■眺め■
大統領はユティスを見つめた。
「イエス。地球の自由を守り、それに反する脅威から地球を守るのは、合衆国の使命です」
「おおお!」
「いいぞぉ!」
「大統領!」
ぱちぱち・・・。
拍手と大歓声が巻き起こった。
「正当性が認められるなら、大統領のお話を承りましょう」
「・・・!」
ユティスはそれを条件付でOKした。
「さて・・・。大統領、それに国務長官さん、合衆国の仮想敵国とは、どこになりますか、具体的に教えていただきたいのですが、よろしいですか?」
「けっこうです」
ユティスは前置きをして、さらに細かいことを質問した。
「合衆国はもちろんのこととして、その海外信託統治領、同盟国及びその信託統治領、友好国及びその信託統治領。他国の侵略を受け庇護を求めている国や地域などです」
「わかりました。では合衆国はどのくらいの地域を指すのですか?」
ユティスはさらに聞いた。
「具体的にここだとお示しくだされば、わかり易いと思うのですが・・・」
ユティスの口元には、どことなく悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。
ちょん・・・。
「なにか企んでるわね?」
クリステアが軽くユティスを突いた。
「まぁ、企むだなんて・・・。教えていただきたいことがあるだけです」
「どう言う風に示せばよいでしょうか?」
大統領は両手を広げて、群集へもアピールした。
「わぁわぁ!」
「大統領!」
群集もそれに応えた。
「合衆国の国としての範囲というものは決まってますよね?」
「ええ。もちろん」
「地球の表面はよしとして、上空も領土なのですか?」
「領土とは言いません。領空です!」
つん・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
国務長官がさっきの反撃を開始した。
「あら、失礼しましたわ。うふ」
ユティスはすぐに謝った。
「それで、合衆国はお空も所有しているのですか?」
「無論です。わが国の領空をなんぴとも無断で飛ぶことはできません」
国務長官が言った。
「国務長官の言うとおり、地球では、それぞれの国が国際法によってその上空の領有が認められています。海についても、時刻の海岸線から12海里は領海といって、その国のものです」
「そうですか・・・。わかりましたわ」
にっこり。
ユティスは微笑んだ。
「領空と言っても、お空は随分上までありますが、どこまでなのですか?」
ぎゅーーーんっ。
ばりばりばり・・・。
最初の展示飛行を予定していた戦闘機3機が滑走路を駆け抜けていった。
「安全保障上必要な高度までです」
大統領は空を見上げていった。
「どこまで必要ですか?」
「テクノロジーとともに拡大しています。昔は数十キロで十分でしたが、宇宙時代の今となっては、最低でも衛星軌道を含む数百キロは防空圏内であり、そこまでは領空になります。そして、もし、エルフィアの文明支援でさらなる発展があるとすれば、近いうちに数千キロになるでしょう」
「わかりました。領空が技術と共に、合衆国の領空をご主張されるのでしたら、どこまで合衆国の領空なのかをはっきり教えていただきたいですわ。今ここで、わたくしにお示しくださいますか?」
「ええ?」
大統領は困ったような顔になった。
「では、大統領・・・。しばらくお時間をいただけますか?」
「ええ?なにをなさるんで?」
「しばらく、といっても5分くらいですけど、ご一緒いただけます?」
ユティスは大統領の同意を求めた。
「一緒?え、まぁ、5分くらいなら・・・」
「国務長官さん、あなたもご同行いただけます?」
「わ、わたしがですかぁ・・・?」
国務長官はユティスを見つめ、そして大統領を助けを求めるように見つめた。
「リーエス。どうせなら、ご一緒の方がよろしいですわ。わたくしもとても光栄です。きっと一生の思い出になりますわ」
「ま、そういうことでしたら・・・」
「リーエス。お二方とも、感謝申しあげます」
ぺこり。
ユティスは丁寧に礼をした。
「それで、ユティス大使、どこに行かれるおつもりで・・・?」
「お空です」
「空?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「合衆国の領空を見にいくのですよ。地上にいても仕方ありませんこと?」
「それはそうですが。上に昇っても国境など見えませんよ」
国務長官が言った。
「なぜです?前にお見せいただいた地図には、国境線があったと思いますが・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あれは、仮想線です。実際に引くなんてことできません」
国務長官が言った。
「リーエス。では、お空にも線は引いてらっしゃらない?」
「あ、当たり前です!」
国務長官はユティスに馬鹿にされたと思った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「実際に確かめてみたいですわ」
にっこり。
ユティスは国務長官に向かって微笑んだ。
「どうやって行くおつもりですか?領空と言っても、歩いてはいけませんよ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
いくぶん気分を害したように、国務長官は言った。
「リーエス。歩いて行くつもりはございませんわ」
にっこり。
ユテイスは余裕綽々で微笑むと、エストロ5級母船を呼び出した。
「アンデフロル・デュメーラ、聞こえて?」
「リーエス。エージェント・ユティス」
「お聞きのとおり、大統領はわたくしに同行いただき、合衆国の領土をお示しいただけるそうです」
「リエース」
「和人さんも同行いただけますか?」
「オ、オレが・・・?」
「リーエス。地球の一般市民代表ですわ」
にっこり。
ユティスは和人に微笑むと両手を空に向けて大きく広げた。
「わたくしたちを、あなたの司令室までご案内いただけますか?」
「リーエス。もちろんです、エージェント・ユティス」
「アンデフロル・デュメーラ、アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)」
「パジューレ、エージェント・ユティス(どういたしまして)」
エストロ5級母船との会話が終ると、ユティスは大統領に向き直った。
「さぁ、大統領、領空の国境線をご確認にまいりましょうか?」
「あ・・・、う・・・。行くといっても、どうやって・・・?」
「わたくしにお任せください。そちらのいかなる輸送機よりも速く移動できますわ」
愚問だった。
「アンデフロル・デュメーラ?お二人と和人さんとわたくしの4人ですわ」
「リーエス。みなさんを転送いたします」
「て、転送・・・?」
国務長官は途端に恐怖に襲われた。
「大丈夫ですわ、国務長官」
ユティスが微笑むと同時に白い光に4人は包まれた。
ぽわーーーん。
「ちちょっと、待って、ユテイス大使・・・」
国務長官がそういい終わらぬうちに、たちまち4人の姿が消えた。
「いない!いないぞぉ!」
「大統領が、消えたぞ!」
「ど、どこにいったぁ?」
「国務長官も消えた!」
辺りは大騒ぎになった。
ばぁーん。
「ここより中に入るな!」
「大統領が消えたんたぞぉ!」
「出ろ!出るんだぁ!」
ばん、ばん・・・。
SSやMPたちがバリケードを作り、輪の中に群集を入れまいと必死でガードした。
その時、そこにいるみんなは、市民も含めて何千人という人間がそれを見た。
ぽわぁーーーっ。
アンデフロル・デュメーラにより、空が巨大なスクリーンになったのだ。
ぶわん。
そこには大統領と国務長官と、そして和人とユティスが立体的に映っていた。
「ここは、どこだ・・・?」
そして、大統領の声も直接頭に響くような感じで、はっきりと聞こえたのだった。
「中継だ・・・」
「あれは、なんだ・・・?」
「す、すげぇ・・・。なんのしかけだぁ・・・?」
「どうやってるんだぁ・・・?」
ほとんどの市民は、それが合衆国空軍の差新鋭テクノロジーだと信じて疑わなかった。
「なんと素晴らしい!」
「さすが、合衆国!」
「ブラボー、ユーエス、エアフォース(合衆国空軍、万歳)!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ボス、大統領が・・・!」
しかし、その下では、シークレット・サービスが青くなっていた。
「探せ!大統領を探せ!」
「空です!空にいます!」
「空だとぉ?」
なんと30度くらいの角度だ、空に3人の立体映像が大きく浮かんでいた。
「どうなってやがる・・・?」
「探せ、必ず、基地内にいるはずだ!草の根分けてでも探し出せ!」
だっだっだ・・・!
「イエス!」
大統領と国務長官はホールのような明るい部屋にいた。
「ここはどこなんだ・・・?」
基地上空の超巨大スクリーンに映っているとも知らず、大統領はユティスにきいた。
「地球上空32000キロ。あなた方、地球人が言うところの静止衛星を軌道に乗せるところですわ」
「地球上空、32000キロだとぉ・・・?そんな、バカな・・・」
大統領は顔を引きつらせていた。
「これをご覧ください」
すぅ・・・。
ユティスが言うと、ホールの壁の一つが見る間に透明になり、目の前には巨大な青い球体が浮かび上がった。
「な、なんだ・・・?」
「地球ですわ、大統領」
にこ。
ユティスは優しく言った。
「地球・・・?」
「リーエス、国務長官さん。これは地球です」
それは息を呑むような美しさと迫力で、二人の眼前に迫っていた。
「す・・・、すごいよぉ・・・」
和人は生で見る地球の大迫力にすっかり魅せられていた。
「テレビかね?」
大統領がきいた。
「ナナン。この映像は、アンデフロル・デュメーラの外壁にある観察用の大窓から、直接ご覧になっているものです」
「じゃ、本物のナマ映像かい?」
「リーエス。和人さんは生映像をご覧になっているのです」
「信じられないような美しさだ・・・」
大統領は大窓に釘付けになった。
「ええ。宇宙のオアシスと言うに相応しいです・・・」
国務長官も頷いた。
ぴ・・・。
その時、かすかな電子音とともに、一人の美しい等身大の女性立体像が現われた。
「大統領、わたくしたちは、訓軍基地と映像が繋がっています。なにかメッセージがおありでしたら、ご感想など、ご遠慮なくお申し付けください」
アンデフロル・デュメーラの擬似精神体が、大統領と国務長官に付き添った。
「あ、あなたは?」
「今、大統領がいらっしゃる地球上空32000キロの軌道を周回するエストロ5級母船のCPU、アンデフロル・デュメーラです」
ぺこ・・・。
擬似精神体は大統領に礼をした。
「それで、この状況は、基地のみんなに中継されていると?」
「え?わたしが驚いていたところもですか?」
国務長官は幾分赤くなった。
「リーエス。アンデフロル・デュメーラの投影する空中立体スクリーンをご覧になられたと思いますが、そこにそのままお届けしています」
アンデフロル・デュメーラは誠実だった。
「だったら、基地の人間はみんな見ているんだな?」
「リーエス、大統領」
「それならそうとおっしゃってください。スタイリストにお化粧を直すよう、お願いしましたのに・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「申し訳ありません、国務長官。事前におっしゃっていただければ、どんな方も最高にステキな女性にするよう準備できたんですけど・・・」
「あなた、それ、わたくしがステキではないとおっしゃりたいの?」
国務長官はむくれた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「失礼しました。わたくしはそうは思いませんが、お国では、そう思われてるんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンデフロル・デュメーラの言葉は最高に強烈であったが、もちろん、彼女が意図した言葉ではなかった。
「あははは!」
「わっはっは、ベス長官、墓穴掘ってやがんの!」
基地では、合衆国のテクノロジーと信じている観客が、この特別ショーに大いに沸いていた。
「合衆国市民のみなさん、わたしは、今、諸君の上空32000キロにいる。ユティス大使の宇宙船の中から地球を眺めている」
大統領は続けた。
「それは、もう、信じられないくらいの美しさだ。ユティス大使、これを市民に見せたいんだが、できるかね?」
「リーエス。アンデフロル・デュメーラ、お願いしますわ」
「リーエス、エージェント・ユティス」
ふわん!
ばっ!
「おおお!」
「わぁお!」
空軍基地の空に、突然映し出された宇宙からの地球に、基地にいる群集は驚嘆した。
「素晴らしい・・・」
アンデフロル・デュメーラの作り出した空中立体スクリーンは、観客に青く美しい地球を大迫力で見せていた。
「こ、これが、地球なんだ・・・」
「なんて、きれいなのぉ・・・」
「しかし、ユティス大使、この眺めはすでに地球人ならだれでも知ってますぞ」
大統領が言った。
「それはステキですわ。地球は紛れもなくカテゴリー2ということですもの。それで、合衆国の領空はどこまでなんですの?」
にこっ。
ユティスは微笑みながら、大統領に尋ねた。
「見えるかなんて、そりゃ無理ですよ、大使・・・」
大統領は苦笑いした。
「和人さんは?」
「一般人にも見えないよ、ユティス・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「当たり前です。だれだって、こんな上空から見えるわけがありません」
国務長官はもっと強く言い放った。
「んふ。ではもっと近づけば見えるんですか?」
「そ、それは・・・」
国務長官は詰まった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ですから、大使、それは仮想的なものなんです」