300 帰化
「アンニフィルドです。今回で、ついに300話を達することになったわぁ。うん、少しはやったぁ、という気分ね。でも、ちゃんとお話の結末は考えてあるから、中途半端では終らせないわよぉ。あは!」
■帰化■
「その辺は、きみらに任せよう。和人もいないと横畑の再現にはならんからな」
フェリシアスが和人に確認させた。
「本気なのぉ・・・?」
「キャムリエル、きみはここでドクターたちと待機していたまえ」
「リーエス」
キャムリエルは既に任務モードに入っていた。
「アンデフロル・デュメーラ、パジューレ(お願いしますわ)」
ユティスはエストロ5級母船に転送を依頼した。
「リーエス、エージェント・ユティス」
ぽわぁーーーん。
「アンデフロル・デュメーラ、少しお待ちになって。やりたいことがありますわ」
ユティスはそう言うと、アンデフロル・デュメーラの転送を中止させた。
「リーエス、エージェント・ユティス」
しゅん・・・。
「空軍基地の空中に、わたくしを映し出していただけますか?」
「リーエス・エージェント、ユティス」
アンデフロル・デュメーラはすぐにユティスの言うとおりにした。
タラップの最後を降りると、ブレストとシェルダブロウは、大統領と国務長官に向き合った。
「ようこそ、ブレスト大使。ミスタ・シェルダブロウ」
大統領は右手を差し出し、ブレストはそれを握り締めた。
「大統領、まいりました」
「うむ」
がしっ。
そして、大統領はブレストと抱き合った。
「ミスタ・シェルダブロウ」
「大統領・・・」
がし。
そして、シェルダブロウとも・・・。
ぴとぉ。
国務長官は、二人に頬を添え合った。
「よく、決心なさいましたわね」
「イエス、マム」
ブレストは複雑な表情をしていたが、国務長官はそれがこの歓迎式典と何千人もの観客のせいだと、勝手に思っていた。
「さぁ、来たまえ」
大統領は二人を呼び寄せると、演説台に上り、観客の方を向いた。
「マイ・フェロー・シティズン(親愛なる市民諸君)・・・」
大統領が口上を述べ始めた時だった。
ぽわぁーーーー。
「な、なんだ・・・?」
「おお!」
「あれを見ろ!」
群集が口々に叫んだ。
ぽわぁーーー・・・。
にっこり・・・。
空に映し出された巨大な立体スクリーンにぼんやりと、若い女性の笑顔が浮かんできた。
「合衆国のみなさ、、こんにちわ。それに大統領、国務長官さん。わたくしを覚えておいでですか?」
にこっ。
ばっ。
SSやMPたちも一斉に、35度上の空に写しだされた柔和な微笑みに釘付けになった。
「ユティス大使・・・」
大統領は腰を抜かさんばかりに驚いた。
「ユティス・・・」
「お久しぶりですわ、大統領。ご機嫌いかがですか?」
「あ、はい・・・」
「たいへんな賑わい振りですわ。今日はなにか特別なお祭りでもございますの?」
「そりゃ、わたしが来たからだ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、それでは国務長官さんが可哀想ですわ」
「いや、そういうわけじゃない」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わは。今日は、この基地の年に一度のオープンハウスなんです」
大統領がすぐに微笑んで言った
「まぁ、それは幸運ですこと。ブレスト参事もシェルダブロウも喜んでいることでしょう」
ユティスは二人がここにいることを強調した。
「ああ。もちろうん、そう願いたいね。わはは」
さぁ・・・。
大統領はブレストとシェルダブロウを見て、少し手を上げた。
ぺこり。
ブレストとシェルダブロウは、それに応えるように、浅い会釈をした。
「大統領、わたくしがこうしてお目にかかっていますのは、ぜひとも、もう一度大統領にお会いしたいからですわ。あの時と同じく、アンニフィルド、クリステア、和人さん、そして、今日はもう一人、フェリシアスをお連れします。いかがです、お受けいただけますか?」
「あ、それは、大使はもう、合衆国の市民権をお持ちですか、問題もなにも・・・」
「では、和人さんとフェリシアスはどうされますか?お二人は、わたくしのような合衆国市民権はお持ちしてませんわ」
ユティスはにっこりと微笑んだ。
「あの、理由は・・・?」
国務長官がユティスの意図を測りかねて問いかけた。
「わたくしが申しあげましたとおり、和人さんはエルフィアの国賓です。地球の代表ということに変わりはございません。わたくしは地球と共に、また、常に和人さんと共にありたいと思っています。それが、わたくしの第一の務めですわ。そして、フェリシアスは、シェルダブロウの上司です。もし、シェルダブロウが合衆国に永住すると言うならば、ぜひとも最後のご挨拶をさせていただきたく・・・」
「ま、まぁ、そういうことであれば・・・」
ユティスの澱みない言葉に、大統領と国務長官は頷くしかなかった。
「それで、事前確認をしたかったのですわ。もし、ダメだとおっしゃるなら、わたくしとアンニフィルド、クリステアだけでお伺いしたいのですが、そちらも拒否なさいますか?」
ユティスは先読みして交渉を進めた。
「国務長官さん、入国をお認めくださいますか?」
「しかし、そのようなことは空港の入国管理官でないと・・・」
国務長官は口を濁した。
「大統領もそれで、よろしいのですか?」
にこ。
ユティスは微笑んだ。
「ベス!なんとか言いたまえ!」
大統領は国務長官に、和人とフェリシアスの扱う責任を投げた。
「と、特例として認めます。これっきりですからね。ここでの会見後は速やか出国してもらいます。どう出国するかはお任せしますが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふ。アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)、国務長官さん」
ぺこり。
ユティスは礼をした。
「と、いうわけです。今度こそ、転送を頼みますわ、アンデフロル・デュメーラ」
「リーエス、エージェント・ユティス」
ぽわぁーーーん。
アンデフロル・デュメーラが応えると、再び5人に白い光が纏わりついてきた。
「いってらっしゃぁーーーい」
キャムリエルたちが言った。
ぱぁーーーっ。
たちまち5人は白い光に包まれた。
「がんばってらっしゃいね、ユティス」
にっこり。
ぱらぱら・・・。
ドクター・エスチェルが手を振った。
「じゃぁね!」
ぱち。
白い光の中で、アンニフィルドがキャムリエルにウィンクした。
ぶわんっ!
そして、5人はあっと言う間に空中に消え去った。
(SS・シェルダブロウ。エージェント・ユティスをお望み通りお呼びしましたが、いかがなさります?)
アンデフロル・デュメーラは精神波でブレストの横で絶ったままのシェルダブロウに話しかけた。
(わたしは・・・、亡命など希望したくない。大統領の申し出を断るわけではないが、もし、フェリシアスがわたしを連れて行くと言うなら・・・)
(甘んじて、従われますか?)
(リーエス、アンデフロル・デュメーラ。わたしは罪を犯した。償いはせねばならない。エルフィアの法でも、合衆国の法でもなく、わたし自身の誇りにおいて・・・。そして、わたし自身の良心と、すべてを愛でる善なるものの愛において・・・)
シェルダブロウは群集を見つめたまま、アンデフロル・デュメーラに答えた。
(わかりました。それを大統領のお計らいを十分考慮してお話願います)
アンデフロル・デュメーラは静かに言った。
(それで、ブレストは・・・?)
シェルダブロウはブレストのことが気になっていた。
(ブレスト参事でしたら、あなたと同じくサインはされてません。書かれているものは、あなたと同じ言葉ですわ・・・)
(では・・・)
(『以上、無期限に保留することに同意する』ですわ)
アンデフロル・デユメーラは頷いた。
(緊急時の訓練が、こんな時に役立つとはね・・・)
(しかし、エルフィア語の専門家を抱える合衆国が、それを翻訳するのに、数日かかるとも思われません)
(リーエス。ことは電撃並みに速やかに行なう必要があるな・・・)
(リーエス)
「おーお、やってる。やってる」
キャムリエルは、エルフィア大使館のリビング中央に映し出された空中スクリ-ンを見つめて、ユティスたちの行動を見守った。
「しかし、シェルダブロウの表情、妙に硬いわねぇ・・・」
エスチェルがトレムディンに言った。
「そうですか?わたしには同じように見えるけど・・・」
トレムディンが答えた。
「いや、ドクターの言ってることは正しいんじゃないかなぁ」
キャムリエルは、トレムディンの顔の筋肉の僅かな動きものがすまいと、じっと空中スクリーンを見上げた。
「そろそろよ」
ぽわん。
「ほら、来た・・・」
大統領と国務長官の斜め目に、白い光が集まってきた。
「大統領!」
ささっ。
かちゃ。
シークレット・サービスの一人が、斜め前の白い光を認めると、さっと大統領の前に身体を入れ、銃を確認した。
ぽわん。
白い光は一瞬強烈になるとすぐに消えた。
すくっ。
そこには女性3人を含む5人が、優しい微笑みを称えて立っていた。
ふわっ・・・。
いや、地上20センチ上に浮かんでいた。
--- ^_^ わっはっは! ---
ちゃ。
MPたちの銃がユティスたちに向けられた。
「その恐ろしいものをお収めし、わたくしたちの入国をお認めくださいますか?」
ふわり、ふわり・・・。
にこ。
ユティスは、落ち着いた声で、大統領と国務長官に確認を依頼した。
「も、もちろんですとも、大使・・・」
ささ。
「司令官・・・」
大統領は司令官を見た。
「諸君、銃を降ろしたまえ!」
「イエッサー」
司令官はMPに銃を降ろすよう合図した。
ちゃ、ちゃ・・・。
「失礼しました、大使・・・」
「ナナン。この方たちは職務に従っただけ。こちらこそ、突然お伺いして、驚かせてしまいましたわ」
すぅ・・・。
すとん。
5人は入国を許され、エプロンに着地した。
--- ^_^ わっはっは! ---
ざわざわ・・・。
「あの5人、空中に浮かんでたぞ・・・」
「なんなんだ、今のは・・・?」
エプロンを遠巻きにしている群衆が騒いでいた。
すうっ・・・。
「本当にお久しぶりです、大統領」
ユティスは大統領を抱き締め、そっと頬を合わせた。
「また、お目にかかれて光栄です、大使」
「んふ」
ユティスは微笑むと今度は国務長官に同じようにした。
「ご機嫌麗しく、国務長官」
アンニフィルドヤクリステアたちも同じように、大統領と国務長官に対して挨拶を行なった。
「そして・・・」
ユティスはブレストの前に進み出た。
「ブレスト参事、またお会いできて嬉しく思いますわ。シェルダブロウも・・・。その時には、とてもひどいことになりましたが、お二人ともお元気そうでなによりですわ」
ユティスは心からほっとしたように言った。
「ユティス、きみは・・・」
「わたくしでしたら、大丈夫ですわ。ほら、ご覧のとおりです」
ユティスはにこやかに両手をばたつかせた。
「わたくしがここにまいりましたのは、あなたとシェルダブロウをエルフィアに戻すためではありません。まず、それについてお話しておきます」
ユティスは最初に、それを言った。
「では、なんのために、わたしに面会を求めてきたんだ?」
ブレストはユティスの考えがまったく読めなかった。
「お別れです・・・」
ユティスは微笑を引っ込めた。
「あなたとシェルダブロウは、エルフィア人であることを放棄し、合衆国国民となられました。それで、間違いございませんね?」
「それは・・・」
ブレストはもごもご口を濁した。
「エルフィアの法は、地球では適用されません。あなたが地球人におなりになるのなら、わたくしはエルフィア人としてあなたに、お別れのご挨拶をいたします」
「う・・・。ユティス・・・」
ブレストは口ごもった。
「シェルダブロウ、あなたもブレスト参事と同じく、合衆国への帰化をご希望されますか?」
「ナ、ナナン・・・。わたしはエルフィア人だ。どんなに文書で合衆国市民だと保証されようが、わたしがエルフィア人であることは、永遠に変わろうはずもない・・・。文書でエルフィア人であることを捨てたとしても、わたしがエルフィア人であることには変わりない。それは人間が作った決め事で遊んでいるだけだ。昨日はエルフィア人だが明日は地球人。大宇宙の真実に照らせば、それがいかに無意味なものか、わからないわけがない」
シェルダブロウはユティスを真っ直ぐに見た。
「わたしは、合衆国民としてここで生きることに、不満があるわけではない。しかし、エルフィア人であることを捨てるつもりはない。アソシエーションは人間が作り出したものだ。大宇宙の自然が決めたことを覆せるわけがない・・・」
シェルダブロウはそう言うと、大統領に向き直った。
「大統領・・・」
「なんでしょうかな・・・?」
「この度のご配慮、誠に感謝いたします。受け賜った合衆国市民の権利は謹んでお受けいたします。わたしが合衆国市民であること、合衆国憲法に従うこと、それは心より尊重したします。しかし、エルフィア人を捨てるということは、エルフィア市民権を捨てるという意味ならお受けしますが、エルフィア人という生物学的な意味も、エルフィア人としての心という意味も、エルフィア人の文化という意味も・・・、それをすべて捨てろと言う意味であるなら・・・、大変申し訳ありませんが、わたしには到底できません」
大統領はシェルダブロウを見つめたまま、彼の次の言葉を待った。
「もし、それも捨てろとおっしゃるなら、エルフィアの文明支援自体も捨てろということです。わたしになにができるのでしょう・・・?」
シェルダブロウは大統領を真っ直ぐに見つめた。
「申し訳けございませんが、宣誓書は白紙にさせていただくことをお許しください・・・」
「あ!」
ひらひら・・・。
シェルダブロウがそう言うと、一度士官に渡していた宣誓書が勝手に中に舞って、シェルダブロウの手に収まった。
「合衆国憲法を尊重するだけでは不十分ですか・・・?」
「ははは。シェルダブロウのヤツ、ユティスが言いたいことを全部いっちゃったじゃないか。あーあ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
キャムリエルがドクター・エスチェルとトレムディンに笑いながら言った。