294 眠姫
■眠姫■
エルフィア大使館では、クリステアが和人とユティスに二人を見守っていた。
「熱もすっかり引いてるから、もう、そろそろ気づいてきてもおかしくないわ」
クリステアは和人に言った。
「リーエス」
「わたし、ちょっと下にお水を取りに行ってくるわ」
すくっ。
クリステアは立ち上がった。
「リーエス。パジューレ(お願いするよ)、クリステア」
かちゃ。
すたすた・・・。
クリステアは部屋を出ると階段を降りていった。
「アンニフィルド、キャムリエル・・・・?」
クリステアはリビングのソファに腰掛けると、早速、カフェ。スターベックスで寛いでいるSSの二人を精神波を使って呼んだ。
「なぁに、クリステア?」
「クリステア、どうしたの?」
「お水を冷蔵庫に取りに来たついでといっちゃあなんだけど、大事は話しなの」
「大事?」
「いいわよ、続けて」
アンニフィルドとキャムリエルは、上の空のようだった。
「ちょっとぉ、あなたたち、まじめにやってるの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしは、まじめよぉ。ドクターとキャムリエルをちゃんとカフェに案内して、ブルマンをご馳走してあげてるんだから」
アンニフィルドがすぐに答えた。
「で、あなたは、キャムリエル?」
「あは。ボクはカレンを一緒だよ。気分転換。発想を変えなきゃと思ってね」
キャムリエルが陽気に答えた。
「気分転換はできたの?」
「それが、ボクはいいんだけど、カレンが・・・」
石橋は少々うんざりという表情をして、アンニフィルドを見た。
--- ^_^ わっはっは! ---
「トレムディンと張り合ってるのよ・・・」
アンニフィルドが答えた。
「まったく・・・、大丈夫かしら?」
「リーエス。もう少しだから」
キャムリエルは石橋に微笑んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにがもう少しよぉ。スタートラインから後戻りしたんじゃない?」
アンニフィルドは石橋の困ったような顔を見て同情した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうでもいいけど、二人とも、ちょっと聞いてよぉ」
「リーエス」
「リーエス」
二人はすぐに真顔になって、クリステアの言葉を待った。
「あの二人の居所がわかったわ」
「ええ?」
アンニフィルドがキャムリエルを見た。
「あなた、リッキーの記憶の痕跡から調べるって言ってたけど、それはダメだったんでしょお?」
アンニフィルドはキャムリエルを見つめた。
「リーエス・・・」
「で、なんで、クリステアが先に知ってるわけぇ・・・?」
「あは。すごいんだね。さすがクリステアだ」
「そこで感心する、普通・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドはあきれた表情になった。
「あなたの役目じゃないのぉ?」
「あははは。ボクは単なるA級だから・・・」
こりこり・・・。
キャムリエルは頭を掻いた。
「あなた、二宮そっくりになってきてるわよぉ・・・」
「へっくしょい!」
「大丈夫ですか、二宮さん・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
さささっ。
道場の前のコンビニでミネラルウォーターを調達していたイザベルは、二宮にハンカチを差し出した。
「うっす。ありがとうございます」
「ユティスさんが風邪をひかれてるから、二宮さんも気をつけてくださいね・・・」
「うっす。心配かけてすいません」
二宮はありがたくハンカチを使わせてもらっていた。
「いい香りっすね?」
「ええ?」
「あ、これ・・・、洗濯して、明日返しますから・・・」
二宮はハンカチを見ながら、鼻を近づけた。
「あれ、いい香りするっす・・・。イザベルちゃんの手から香水の匂いが移っちゃってるっす・・・」
ざぁーーー。
二宮の囁きは、コンビニのドアの開く音で、イザベルに聞こえなかった。
「いいんです・・・。二宮さんがお持ちになってください」
「ホントにいいんっすかぁ?」
「はい・・・」
イザベルは少し嬉しそうな顔になった。
「じゃ、せっかくだから、イザベルちゃんの手に当たってたところを、すりすりしちゃおうかなぁ・・・?」
すりすり・・・。
二宮はハンカチを頬ずりした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「きゃあ!ダメです、そんなことしちゃぁ!まだ買ったばっかりですったら!」
「ここんところは、イザベルちゃんがしっかり手で触ってたもんねぇ・・・」
すりすり・・・。
「うーーーん、とってもいい匂いがするっす!」
「ダメですってば!」
「いいなじゃいすかぁ?」
ちゅ。
二宮は、そこにキッスした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ダメ、ダメぇ!きゃあ、きゃあ!」
イザベルは二宮からハンカチを取り返そうとした。
がらぁ・・・。
「おう、二宮。店ん中で、なにしてんだぁ?」
「げげげ・・・。西方さん・・・」
そこに道場では師範の下で門下生の指導をしている、西方二段が入ってきた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、西方さん。おす」
イザベルはすぐに二宮から離れて、西方に挨拶した。
「おう、喜連川かぁ。女子部に出てたのか?」
「いえ。ここ二週間はバイトがあって」
「おう、そうっだったな。しかし、二宮、5時過ぎたばかりだぞ。今日はえらく早いくないか?おまえ、こんな時間に道場に来れるのかぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おす。あはは。客の打ち合わせが予定外に早く終ったんで・・・」
「サボる時間ができたわけか。なるほど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おす。ウチは裁量制なもんで、細かい時間拘束はないっすよぉ」
「そっかぁ。そいつは知らなかった」
「うす」
「それで、なんでおまえたち二人がここでじゃれあってたんだ?」
西方二段は、イザベルと二宮の一件を知ってはいたが、こんなに仲良くなっているとは思わなかった。
「あははは・・・。たまたま、一緒になりましてぇ・・・」
二宮は誤魔化しにかかった。
「あ、はい。たまたまです。たまたま・・・。おす」
きっ。
ぺこ。
イザベルは下を向くついでに西方に十字を切って礼をした。
「たまたま?」
にたぁ。
--- ^_^ わっはっは! ---
かぁ・・・。
「もう、エッチなんだから、西方さん!」
「いや、失敬。悪かった。オレもドリンク買ったら道場に行くんで、先に行ってろよ」
「うっす」
「おす」
どかどか・・・。
西方はそう言うと、ドリンクコーナーの方に向かっていった。
「リッキーの居所がわかったって、それ本当なの?」
アンニフィルドはクリステアにきいた。
「リーエス。ジョバンニから聞いたわ」
「ジョバンニ?」
「あのSSかい?」
キャムリエルがきいた。
「そうよ。あの合衆国SSのジョバンニ」
アンニフィルドがキャムリエルに答えた。
「やっぱりでしょ・・・?」
アンニフィルドはなるほどと思った。
「なんとなく、なにかありそうとは思ってたけど・・・」
「あなた、感づいてたの?」
「リーエス。クリステア、あなたがZ国大使館で負傷した時よ。フェリシアスがリュミエラたちを収監してる最中に、どこかに雲隠れした・・・。もし、ジャンプしたなら、その痕跡をアンデフロル・デュメーラが察知しているはず。それもなかった。ということは、歩くか、走るか、車で逃げるか、はたまた、匍匐後退したか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドは言った。
「リーエス。あなたの考えてたとおりよ」
「で、ジョバンニとジョーンズは、二人が大使館から逃げ出したところを確保し、車で合衆国大使館に連れ去った。そんなところでしょう?」
「リーエス。まさにそのとおりだわ」
「うん。大使館に逃げ込めば、だれも手出しできないからね」
キャムリエルが大きく頷いた。
「リーエス」
クリズテアは肯定した。
「今、どこに隠れてるの?」
アンニフィルドはブレストたちの居場所が気になった。
「それで、既に二人は合衆国向かう超音速機の中なの。今頃、太平洋上にいて、じきにアラスカ沖に差し掛かかるわ」
「アラスカ・・・?」
「リーエス。日本から何千キロか離れた、北極に近い氷の世界よ」
「わおぉ・・・」
アンニフィルドがその様子を思い描いて、声を上げた。
「ええ・・・?あの二人、日本にいないんだぁ・・・」
キャムリエルがきいた。
「リーエス。しっかりしてよ、キャムリエル」
「リーエス。面目ない・・・」
「そんなのはいいんだけど、行き先は合衆国内奥にある空軍基地よ。そこなら、他国の干渉を受けることはまったくないでしょうからね」
クリステアは続けた。
「ブレストたちを捕まえるのはそこで大統領と会見する時よ。機中で奪えば、こじれるわ」
「リーエス。了解したよ。フェリシアスとそこに行けばいいんだね?」
「リーエス。場所の詳細は、アンデフロル・デュメーラにまかしてあるから、彼女にジャンプを手伝ってもらって。それから、現場には、わたしが同行するわ。大統領に会見したメンバーがいなければ、とぼけ通そうとするだろうから」
「ユティスはいいの?」
アンニフィルドがきいた。
「そうだよ。アンニフィルド、きみも行くべきさ。彼らの目の前でぐの音も出ないようにしたらいいんだ」
キャムリエルは主張した。
「ナナン。そんなことをすれば、逆効果になるわ。こっちも時空封鎖を話さざるを得なくなる。そんなことになれば完全に決裂よ。反対派の思うツボ。委員会はユティス引き上げざるを得なくなる。地球の支援は頓挫するわ・・・」
「ダメじゃないか・・・」
「それを言ったのはあなたでしょうが、キャムリエル」
アンニフィルドがしかめっ面になった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「それで、二人が空軍基地着くのは4時間後。すぐにそこを引き上げて、エルフィア大使館に戻って。フェリシアスも呼ぶわ。エルドも参加させる」
「リーエス」
「ユティスは?」
「眠れる美女は、もうじき目覚めるはずよ」
「王子様のキッスで?」
「間違いないわね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃ、そろそろ部屋に戻るわね?」
「二人の邪魔をしないようにね、クリステア」
「まっさか、ホントにぃ?」
「あは。和人のタイミングの悪さは天性だから」
クリステアが下のキッチンに水を取りに行ったので、和人とユティスは二人きりになった。
「ユティスと二人っきりになっちゃった・・・。眠ってるけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ホントに可愛いだけじゃなくて、天使のような優しい清らかな表情をしてるよなぁ、ユティス・・・」
ぴく。
ユティスのまぶたが動いた。
「ユティス・・・?」
和人は無意識に和人の手を握り締めているユティス手の感触に感動していた。
「うーーーん・・・」
そして、ユティスのかすかな声がした。
そぅ・・・。
「なに、ユティス?」
和人はユティスの声を聞き逃すまいと、ユティスの口に耳を近づけた。
「和人さん・・・」
ユティスの最初の声は、和人の名前だった。
「ユティス?」
和人はユティスの口から耳を離そうとして、顔をゆっくりと回した。
さぁ・・・。
ぴ。
そして、和人の唇がユティスの唇をかすめた。
「あ・・・」
どきん!
たったそれだけのことだったが、和人が動揺するには十分だった。
「ダメよ、当分、ユティスにキッスしたりしちゃ。ウィルス性の風邪があなたにも移っちゃうわよぉ」
ぱち。
ドクター。エスチェルは悪戯っぽく和人にウィンクした。
「キッスしちゃったぁ・・・。ドクターから止められてたのに・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
そして、それは何週間ぶりのことだったろうか。
ぴくぴく・・・。
ユティスのまぶたがまた動いた。
「アンニフィルドたちが来てから、ユティスとキッスできる機会はほとんどなかったもんなぁ・・・」
和人は独り言を言った。
「和人さん・・・」
その時、ユティスはゆっくりと目を開け、和人の名前を呼んだ。
「ユティス、気づいたかい・・・?」
「リーエス・・・」
「よかったぁ・・・」
にこ。
和人はほっとした。
「和人さん、今、わたくしに・・・」
にっこり。
ユティスは嬉しそうに和人の目に焦点を当てた。
「あ?」
「キッスされましたわ・・・」
「え?」
--- ^_^ わっはっは! ---
にっこり・・・。
「嬉しい・・・」
「ええ・・・?」
「大好きな人のキッスで目覚めるのって・・・、最高にステキです・・・」
「ああ・・・」
--- ^_^ わっはっは ! ---
かぁ・・・。
和人は大いにうろたえた。
「あ、ごめん、ユティス。決して下心とかじゃなくて・・・。そのぉ、顔を回したはずみで、あのぉ、これは事故なんだ・・・。事・・・」
ぴた・・・。
ユティスに人差し指が、和人の口に当てられた。
「それなら、もう一度、ちゃんとしてください。和人さん・・・」
ユティスはベッドの上に寝たまま、両手を胸に置き静かに目を閉じた。
ごっくん・・・。
和人がもう一度身体を屈めると、ゆっくりとユティスの両手が和人に巻きついてきた。
ぎゅぅ。
どさ・・・。
ちゅう・・・。
そして、その瞬間、優しく柔らかく、そして暖かで甘い感触が和人の唇に伝わってきた。
かちゃ。
「和人、お水・・・」
ぼとっ・・・。
クリステアがミネラルウォーターのペットボトルを落とした。
--- ^_^ わっはっは! ---