293 雑談
■雑談■
クリステアがジョバンニに語りかける少し前だった。
「それで、あの二人を確保したのが合衆国だと言うの?」
フェリシアスの言葉を聞いて、クリステアはとても信じられないように言った。
「ナナン。証拠はない。しかし、可能性としてはあったと思う。調べてみるだけの価値はあると思う・・・」
「根拠は?」
「ユティスときみたちが合衆国の大統領と会見した時、彼はなにをしようとしたか覚えてるか?」
「リーエス」
クリステアは頷いた。
「エルフィアとのアソシエーション的条約締結だ。それをユティスは一も二もなく直ちに拒否した」
「それで?」
「未練があるのかもしれん・・・」
「なんの未練よ?」
「自分たちがまずエルフィアの文明を支援してもらう優先権、ないしは独占権に対してだ」
フェリシアスは言った。
「大した自信だわねぇ・・・」
「それに、リュミエラたちを確保した時、合衆国はZ国大使館の回りに、あのSS二人を置いていた・・・」
「ジョバンニとジョーンズ?」
「リーエス」
「あの時、ジョバンニはわたしたちとも交信してたわ」
クリステアは慎重に反論した。
「でも、きみは結局、あの時重症を負って離脱するしかなかった」
「リーエス・・・」
クリステアはそれを自分の不注意だと思っていた。
「悪い、クリステア・・・。思い出させてしまったな・・・」
「ナナン。いいのよ。でも、あのことを言われるのは、正直辛いわ・・・」
「とにかく、ジョバンニはそれについて・・・」
「一言も触れてない。わたしは、彼からなにも聞いてないわ・・・」
「連絡してないのか、あれから・・・?」
「リーエス。ほとんどね・・・」
「わかった。では、余計にそうしてもらうことが出てきたな。ジョバンニきいて欲しい」
「きけと言われても、彼が話すかどうか、わからないわよ」
「きみは彼と専用線敷いたんじゃないのか?」
フェリシアスは、クリステアに思い出させた
「そうだけど・・・」
「もし、なにかあれば、彼はためらうはずだし、それをきみがわからないわけがない」
「リーエス・・・」
クリステアはジョバンニへの聴取を承知した。
クリステアはフェリシアスの予想通りの展開になりそうだと思った。
「やっぱり・・・」
「マムには、下手なウソも上手なウソも通用しないのを知ってますよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
実際そうなのだった。クリステアの精神対話にかかると、意識下無意識下に係わらず、真実の情報を取り出されてしまう。
「お利口さんだことぉ・・・」
クリステアの超えの調子は変わらなかった。
「聞かれるまでは黙っていました。一応、オレにも立場がありますんでね。合衆国の人間なもんですから」
「あら、そういうことなら、わたしだって一応そうよ。合衆国大統領から国籍を付与されているもの」
--- ^_^ わっはっは! ---
「イエス、マム。で、今日はどっちに忠誠を?」
にや。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなことどうでもいいわ。わたしは地球のために、真実を知りたいだけ。あの二人は地球に取って決して福音にはならない。もちろん、エルフィアのためにもね。もし、あの二人を確保することで、それをエルフィアの委員会、ユティスに対するなんらかの切り札にしようと考えているんだったら、即刻、止めることね」
「それを、わたしから大統領に進言しろと?」
「ははは。そんななの期待してないわよ。彼がどういう男か、最初の会見で十分わかってるわ」
クリステアはジョバンニも大統領も責めている様子はなかった。
「もう、二人を合衆国に招待したってわけ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「強制はしてません。お二人に鉛の招待状を見せたわけではないですよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふふ。あなたも、だいぶジョークが飛ばせるようになったわぁ」
「どうも」
「で、今、どこよぉ?」
「二人の居場所ですか、マム?」
「リーエス」
「今は太平洋上で超音速移動中です」
「それって速いの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いえ。地球人にしてはです。マムの世界においては歩いてるのと同じでしょう。アンデフロル・デュメーラなら造作もないことですよ」
ジョバンニは答えた。
「太平洋上で超音速飛行ねぇ・・・。そんな飛行体なら見間違えようないわ。アンデフロル・デュメーラには電磁波通信を識別させるから、念のため機体識別コードを教えてくれる?」
「コールサインってことですか、マム?」
「リーエス。あなたたちはその機体をなんて呼んでいるの?」
「エルジー・7159」
「わかったわ。ご協力ありがとう、ジョバンニ。後、あなたには決して迷惑がかからないようにするわ」
「サンクス。ご配慮ありがとうございます、マム」
ジョバンニはクリステアの言葉に内心ほっとした。
「最後に聞くけど、あの二人を確保するのは基地で大統領の目の前でするわよ。それでいいわね?」
「だれのせいでもなく、それがエルフィアの力だということを証明するわけですか?」
「リーエス。途中で二人が消えたら、だれかさんが始末書を書かされるんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「イエス、マム」
そして、クリステアはジョバンニに聞こえるように言った。
「アンデフロル・デュメーラ聞いたぁ?」
「リーエス。SS・クリステア。既に当該超音速機を識別しました。このままウォッチしています」
「というわけよ、ジョバンニ」
「降参しますよ、マム。うまくまとめてくださいよ。大統領にはメンツというものがあるんですから・・・」
「リーエス。わかってるわ。ジョバンニ、あなったって本当に良い子だわ。ちゅ」
にっこり。
「ジョバンニ、あなた独身?」
「え?さっきのが最後の質問じゃぁ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
ジョバンニは否定しなかった。
「野暮な質問はあれが最後。ロマンチックな質問はまだでしょ?」
「いや、マム、それは・・・」
「わたしは恋人がいるからダメだけど、紹介してあげてもいいわよ。あなたがエルフィアに来れた時に」
--- ^_^ わっはっは! ---
「招待していただけるんで?」
「転職するつもりある?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「さぁ、これで今日は終りよ」
にこっ。
岡本がイザベルを開放した。
「だいぶ、資料作りがうまくなったわね?」
「はい、みなさんのおかげです」
イザベルは岡本に頭を下げた。
「ニ宮の貢献度はゼロね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなことはありません。二宮さんだってパワポとか教えてくれてます・・・」
「でも、あいつパワポすっごい苦手のはずだけどぉ?」
「いろいろコピペでスライドの作り方を習いました」
「コピペか・・・。要は、それだけね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃ、わたしこれから、道場へ・・・」
ぺこり・・・。
「この時間、女子クラスまだやってるの?」
「いいえ。ここのバイト5時半までだから間に合いません。今週はビジネスマン・クラスに出ているんです」
「そっかぁ、じゃ、二宮も一緒?」
「あ、はい・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぽ。
イザベルは頬を染めた。
「となると、二宮は客先から道場に直行ということか・・・」
「たぶん、そうだと思いますけど・・・」
「たぶんね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ。いいわよぉ。いってらっしゃい」
にこ。
岡本はイザベルに微笑んだ。
「ありがとうございます」
そう言うと、イザベルはバッグを片付けた。
「それで、二宮の昇段審査近いんでしょ?」
「はい・・・」
「あなたも10人組手の内の一人なの?」
「一応・・・」
イザベルと二宮は同じカラテ流派の門下生だった。
「組手審査の時、あいつに手は抜かなくていいからね」
「そ、そんなぁ・・・。わたし、そういうことは嫌いです」
ささ・・・。
どたばた・・・。
イザベルはそう言うと、そさくさと事務所を後にした。
「ありゃ・・・?」
岡本は、どうしてイザベルが機嫌を損ねたのか首をひねった。
「岡本ぉ、あなた、バカじゃない?」
茂木が岡本に言った。
「なによぉ?」
「イザベルの微妙な立場、理解してる?」
「微妙な立場?」
岡本は眉間に皺を寄せた。
「そう。一回目、二宮の昇段を阻んだのは、あいつの未熟さで済むけれど、二回目は、イザベルを強盗から救ったためよぉ・・・」
茂木はイザベルの出て行った方を眺めた。
「うん、そうだったわぁ。あの重症で、審査をフイにしちゃったわけよねぇ・・・」
岡本は頷いた。
「そう。でもさぁ、本人の過失ではないからということで、急遽、二宮の昇段審査が行なわれることになったの。けど、今度はイザベルがねぇ・・・」
「イザベルがぁ・・・?」
「しっ!」
茂木は人差し指を、真一文字に結んだ口にもっていった。
「今度は、なんなのよぉ・・・?」
岡本は小声で茂木にきいた。
「イザベルが二宮にホの字になっちゃったってわけよぉ・・・」
「なぁるほどぉ。助けてもらった男に、きゅんとなる女の子、いるからねぇ・・・」
「あなた、図星を突いちゃったわけ」
茂木が結論した。
「で、茂木さぁ、二宮はどうなのよぉ?あれ以来、二人は両思いだって言ってたじゃない?」
「それがねぇ、どっかおかしんだよねぇ、このカップル・・・。ふふ」
岡本はにたにたし始めた。
「ええ?どこがぁ?」
「それも、二宮が黒帯になれるかどうかにかかってるわね。二宮が無事に黒帯になれれば、普通に戻るかもしれないわ」
茂木は自信ありげに言った。
「どういうことなの?」
「ニ宮、時たま人に聞こえるように、独り言を言うんだよねぇ。『おっと、これは常務には内緒だった』とかさぁ・・・」
「はは。バッカじゃないの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「で、いったい、なにを聞いたって言うの?」
岡本は先を聞きたがった。
「えへ。それがね、二宮、プロポーズするつもりか、もしくは、もうしちゃったか・・・」
「ええーーーっ!」
「しーーーっ」
「なによ、それ・・・?」
「イザベルちゃん、自分より弱い夫は、ノンメルシーかぁ・・・」
「きゃいん!」
がさっ。
事務所のほとんどが岡本と茂木を振り返った。
「しっ、てば・・・」
「はいはい・・・」
「なんで、イザベル動揺しまくりってのが真相よぉ・・・。感だけどぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮、大物じゃない?」
「どうしたんだい、クリステア?」
和人は、ジョバンニとの交信を終えたクリステアに、心配そうに尋ねた。
「あんまりいい話じゃないの・・・」
すす・・・。
クリステアは眠っているユティスの毛布を整えると、和人に向かって静かに言った。
「フェリシアスとキャムリエルは、まだ、捕捉できてない二人のエルフィア人を探さないといけないんだけど・・・、面倒なことになりそうだわ・・・」
クリステアは表情こそ変えなかったが、声の調子は沈んでいた。
「面倒なことって・・・?」
「地球人が彼らを匿っているらしいの・・・」
「Z国がかい?」
「ナナン・・・。それなら、悩んだりしないわ・・・」
クリステアは宙を見つめた。
「じゃあ、いったいどこなの?」
「合衆国よ・・・」
「ええ?」
クリステアの意外な言葉に、和人は驚いた。
カフェ・スターベックスでは、アンニフィルドを掴まえた烏山ジョージが、アンニフィルドを相手に粘っていた。
「さて、アンニフィルド、オレに仕事をさせてくれよ」
烏山ジョージはアンニフィルドを見つめた。
「でもね、それは、あなたの事務所と契約するってことでしょ?」
「そりゃ、そうだよ。ギャラだってはずむぞ」
「あのねぇ、烏山。わたしたちは、歌を歌いにここに来たんじゃないの。前みたく自由に歌って、自由に離れられるのならいいけど、あなたと契約するってことは、わたしたちの時間をあなたに提供するってことでしょ?」
「そりゃ、違うぜ。きみたちを待ち望んでいる大勢のファンだよ」
烏山は心外だというような顔をした。
「ナナン。建前はいくらでもつけられるわ。でも、わたしたちの時間が大幅に制約されるということには変わりはないと思うの。あなたが儲かる儲からないは、さて置いておくとしてもね」
「意外にケチなんだなぁ、エルフィア人は」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あら、他人の時間をかすめ取ろうなんて方が、よほど悪どいわよぉ」
「ひどい言いがかりだぜ、それは。オレは、純粋にきみたちに惚れ込んだんだから、こういってるんだぜ。オレにも夢がある。音楽プロデューサーとして、本当に、オレの音楽を表現してくれるシンガーが欲しい。それが、きみたちなんだ」
「聞くだけ、聞いてあげたら?」
側で聞いていたエスチェルがにんまりした。
「そうだぜ、アンニフィルド。1曲でいい。歌ってくれ・・・」
じぃ・・・。
烏山はアンニフィルドを見つめた。
「菜っ葉が歌ってるようなのはゴメンよ」
アンニフィルドは小川瀬令奈のようなジャンルの曲はダメだった。
「じゃ、演歌がいいのか?」
「演歌?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「男女がペアでコーラスしたり掛け合ったりする恋歌だな・・・」
どきっ・・・。
「男女が一緒に歌う恋歌・・・?」
(俊介・・・)
アンニフィルドのガードが一気に下がった。
「そうだよ。カップルが酒場でカラオケで歌う定番デュエットさ。きみたちのためなら、演歌だろうが一曲書いてみてもいいぜ」
じぃ・・・。
烏山はなおもアンニフィルドを見つめた。
「墓場で、カップルが一緒に歌うデュエット?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どぇーーー!」
「随分と深刻な歌ねぇ・・・」
「曽根崎心中かよぉ!その先は言うんじゃない!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぷふっ」
石橋は思わず笑った。
「墓場じゃないです。酒場ですよ、アンニフィルドさん」
アンニフィルドの脇で、石橋が大きな訂正をした。
「ま、どっちでもいいけど」
「ちっとも良くない!第一、気味悪いじゃないかぁ!」
--- ^_^ わっはっは! ---