290 珈琲
■珈琲■
「キャムリエル、あなたの追っかけているというお仲間、見つかってないんだって?」
岡本たちが事務所で考え込んでいるキャムリエルに話しかけた。
「うん。そうなんだよ。あれ以来、ぴたって彼らの足取りが消えちゃって・・・」
「それで今日は?」
ぱちっ。
キャムリエルは石橋の横で片目をつむった。
「よし。発想を変えるために、違うことをしよう」
「違うことですか?」
石橋は変なことを言うなぁと思いながら、キャムリエルを見つめた。
「リーエス。ねぇ、カレン、みんな噂してるんだけど、スターベックスってカフェに行ってみないかい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「スターベックスですかぁ・・・?」
「うん。変かなぁ・・・?」
石橋はキャムリエルがなにを考えてるかよくわからなかった。
「行こうよ、カレン。あのブルマンっていう飲み物を二人で飲んだら、違った方法が見えてくるんじゃないかなぁ・・・」
「あははは。それ、単なるサボりでしょうが、キャムリエル」
--- ^_^ わっはっは! ---
岡本が笑いながら、二人の側にやってきた。
「サボリ?」
きょとん・・・。
キャムリエルは不思議そうに岡本を見た。
「あ、いい。いい。キャムリエルも地球のことよくわかんないだろうし、もともと天然の不思議くんみたいだから、ほれ、石橋、あなたキャムリエルとスターベックス行ってあげなさいよ。発想の転換とやらができたら、それはそれで、あなたもエルフィアに役に立つことになるんだから」
「はぁ。そういうもんですか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
石橋は今ひとつ納得していないようだった。
石橋はキャムリエルを連れて、スターベックスへ来ていた。
「あのさ、カレン、岡本さんの言ってた天然の不思議くんて、なんのことなの?」
「あのぉ、わたしよくわかりません・・・」
「だよね?」
にっこり。
--- ^_^ わっはっは! ---
キャムリエルはじゅうぶん不思議くんの本領を発揮していた。
「うーーーん、いい香りだ。これがブルマンって飲み物かい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
くんくん・・・。
キャムリエルは香ばしい匂いに鼻をひくひくさせた。
「と言うより、コーヒーなんですけど・・・」
「ええ?ブルマンって飲み物じゃないのかい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いえ。ブルマンはブルマンなんですけどぉ・・・」
「はい?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ですから、コーヒーという飲み物のブルマンという種類のものです」
石橋はキャムリエルに説明を試みた。
「なんだぁ、そういうことか。やっとわかったぞ。アンニフィルドったら、ボクに適当なこと言ったんだな・・・」
「そうなんですか?」
しかし、それは石橋にとってはどうでもいいことだった。
「ねぇ、カレン。きみはブルマン好きじゃないのかい?」
「わたしは、コーヒーはよくわかんないですから・・・」
石橋は無邪気にきいてくるキャムリエルに、どう言ったらいいか迷った。
「ボクは好きだよ、カレン。とっても香ばしくて、アンニフィルドが夢中になるのもわかるなぁ・・・」
「エルフィアにはないんですか?」
「コーヒーかい?それともブルマンかい?」
「あの、どっちでも似たようなもんだと思うんですけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうだよね。どうせ、どっちもないもの。あはは」
「だと思いました・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
石橋はやれやれという表情になったが、キャムリエルはそれを完璧に誤解した。
「カレン、どうしたの、体の具合でも悪いんじゃないの?」
「え?」
「アンデフロル・デュメーラ!」
「リーエス、SS・キャムリエル?」
「カレンの具合が良くないらしいんだ。診てくれないか?」
「リーエス」
アンデフロル・デュメーラはたちまち擬似精神体となって、二人の前に現われた。
ぎょ!
一斉に、カフェ。スターベックスの客と店員が振り向いた。
「ま、また、天使が現われた・・・。この前と違うけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
その頃、事務所では、二宮とイザベルも仲良く仕事をしていた。
「あのぉ、二宮さん、失礼かもしれませんが、質問していいですか?」
「おっす。言いに決まってますよぉ!」
でれでれ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「これ機密事項なんでしょうけど、二宮さん、あのトップブランドのシャデルのお仕事をされてるんですか?」
イザベルは世界に冠たるファッション界の女王、シャデルのことはよく知っていた。
「おす。そんなんすよぉ。イザベルちゃん、なんで知ってるんすかぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あの、二宮さん?」
「うっす?」
「わたしの母、一応パリジェンヌで、姉もフランス航空のオテス・ド・レールなんですけど・・・」
普通の人間なら、それで説明は十分だったが、さすがは二宮だった。
「いやぁ、そうっだったんすよねぇ。忘れてました。ユティスたちのビデオのおかげで、シャデルも最近パリに進出して、でっかいお店を出したそうですよぉ」
「・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮さん、シャデルってフランスの会社だってご存知ですよねぇ?」
「おす、もちろんすっよ。日本シャデルのフランス法人でしょ?」
「・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ブレスト大使、これが、現状、地球の最先端輸送機です」
横畑基地についた一行は、一見ただの戦闘機に見える機体の前に立って、それを眺めた。
「随分と、刺激的な形をしているな・・・」
ブレストはその流線型のボディと尖ったノーズ部分を見て言った。
「マッハ2.5で巡航します」
「マッハとはなんだ?」
ブレストは説明した男に質問した。
「大気中の音速の何倍かを表す、速度の単位であります」
「たったその程度か・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、地球ではこれが精一杯のところですんで・・・」
「大使、お時間です」
「わかった。案内してくれたまえ・・・」
ブレストが言うと、そこにいたスタッフたちが敬礼した。
ささっ。
「よろこんで!」
たんたん・・・。
かつかつ・・・。
ブレストとシェルダブロウは簡易式のタラップを上ると、輸送機の中に入った。
「せまいですね・・・」
「上にお気をつけください」
シャルダブロウは頭を天井にぶつけないように注意をされた。
超音速機の中は通常のビジネスジェットよりも、さらに一回り狭く、キャビンの内装も質素だった。
かち。
ブレストたちは席に着くと、シートベルトで身体を固定した。
「大使、これで6時間飛行しますが、ご心配なく、狭くとも装備は一流です」
「わかった」
ブレストは短く答えると、周りを素早く観察した。
「大使、快適な旅を」
ジョーンズとジョバンニが機から降りると、ドアが閉められていった。
ぱたん・・・。
ひゅぅーーーん。
ひゅーーん。
ひゅん、ひゅん、ひゅん・・・。
ドアが完全にロックされると、APU(補助動力エンジン)から4機のエンジンの一つ一つに空気が送られると、エンジンがスタートした。
エルフィア大使館では、和人やドクターたちが、ユティスの容態が完全に良くなったことを確認していた。
「ドクター、オレがユティスを診てるから、アンニフィルドたちとカフェに行って来ていいよ」
にっこり。
和人はエスチェルに微笑んだ。
「あら。そんなに、気を遣わなくたっていいわよ」
「でも、もうユティスは大丈夫だから」
和人はかすかな寝息をたてて、安らかな表情のユティスを見つめて安心した。
「リーエス。アンニフィルド、案内してくれる?」
クリステアが言った。
「いいけどぉ。クリステアは?」
「わたしなら、和人たちを見ているわ。同時に二人ともいなくなるのはまずいから」
アンニフィルドの疑問に、クリステアが答えた。
「リーエス」
「わたしもよろしんですか?」
にっこり。
トレムディンが微笑んだ
「もちろんよ。さ、行くわよ」
「リーエス・・・」
トレムディンはそう言いかけて、アンニフィルドを見た。
「どうしたのよ?」
「あ、いや、ジャンプはしないのかって・・・」
「あきれた・・・。行き先がどこかわかってるの?」
「いや、だから、どこかなぁーーーって・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは。行き先くらい、事前に確認してなきゃねぇ・・・」
エスチェルが可笑しそうに言った。
「たかだか十分ちょっと歩くだけじゃない。歩きましょうよ」
「リーエス」
エスチェルたちがカフェに着くと、アンニフィルドはたちまちキャムリエルと石橋を見つけた。
「あいつら・・・」
「どうしたの、アンニフィルド?」
「しーーーっ」
アンニフィルドは人差し指を口にもってくると、静かにするよう指示した。
「あれよ、あれ・・・」
アンニフィルドはキャムリエルの方に目を向けた。
「あーーーん・・・。キャムリエルのヤツ、女の子と二人っきりでなにやってるのぉ?」
エスチェルは目を細めてそれを見つめた。
「仕事をサボってるのよぉ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド、きみも人のこと言えないんじゃないのかな?」
「まぁ、失礼ね。わたしはお客様をご案内してるんじゃない」
「あはは。リーエス。そうそう、わたしたちはお客様よぉ」
エスチェルが笑った。
「にしても、だれだろう、あの可愛い娘ちゃん・・・?」
トレムディンは石橋を見て、思わず声に出していた。
「うちの社員の石橋・・・。石橋カレンよ」
アンニフィルドが答えた。
「あなたの好きなタイプね?」
エスチェルがにっこり微笑んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ?」
「うぁお。ライバル出現ってところね」
にこ。
アンニフィルドはそう言うと、エスチェルと見合って微笑んだ。
「ライバルって、どういうことですか?」
トレムディンはアンニフィルドの言葉が気になった。
「あの様子じゃ、キャムリエルはユティスから石橋に乗り換えたようねぇ・・・」
「リーエス。あんなに一生懸命に女の子を口説いているキャムリエルは初めて見るわ」
エスチェルはアンニフィルドに合図した。
「はぁい、キャムリエル、お隣いいかしら?」
エスチェルがアンニフィルドとトレムディンを連れて隣にやってきた。
「あ、ドクター・・・、それに、アンニフィルド・・・」
ぺこり・・・。
石橋はアンニフィルドに気づくと、小さく頷いた。
「みなさん、エルフィアからお越しに・・・?」
さささ・・・。
石橋は脇に寄りながら、3人が隣に入れるようにした。
「アルダリーム(ありがとう)、カレン」
トレムディンが石橋に礼を言った。
「トレムディン・・・」
キャムリエルはデートを突然邪魔され、眉間に皺を寄せた。
「なんですか、キャムリエル?」
「きみは、もうカレンと知り合いなんだ?」
キャムリエルはあまり嬉しそうな顔ではなかった。
「いえ、わたしが存じ上げてるだけです」
トレムディンはなに食わぬ顔で言った。
「ふうん・・・。それで、もうカレンて呼んでいるの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「間違えてますか?」
「え?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だって、ボクはこんな風に呼びかけるのに、カレンの承諾を得たんだよ。きみはそれを得たのかい?」
キャムリエルは、自分こそがカレンと呼びかけるに相応しい、と言いたげだった。
「ちゃんと名前を呼のがいけないのですか?」
トレムディンは少しも動じなかった。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぱちぱち・・・。
見えない火花がトレムディンよりキャムリエルに放たれた。
「あのぉ・・・」
石橋が困ったような表情になった。
「リーエス?」
「リーエス、カレン?」
ばちばちばち・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ・・・」
「は・・・」
アンニフィルドとエスチェルは見合って、声にならない声をあげた。
エルフィア大使館では、既に落ち着いたユティスの側で、和人がその様子を見守っていた。
「和人?」
クリステアが言った。
「なんだい、クリステア?」
「あは。あなた、ずうっと近くでユティスの寝顔を見てるんだけど、飽きてこないのぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「飽きないって、飽きるわけないよ。ユティスだったらずっと眺めていたい・・・」
にっこり。
和人はクリステアに笑みをこぼした。
「はいはい。あなたがどれだけユティスのことを思ってるか、よぉくわかってるわ・・・」
クリステアはからかうんじゃなかったと思った。
「あのさ、きみだってフェリシアスのこと見てたら・・・」
逆に和人の質問を受けてしまった、
「しっ!」
クリステアは、すぐに和人がその先を言わせないようにした。
「わたしは、フェリシアスをずっと見つめたりなんかしない・・・」
クリステアは和人だけに打ち明けるように言った。
「ええ?どうしてだい?」
和人は不思議そうに言った。
ぽっ。
冷静なクリステアが頬をほんのり染めた。
「絶対、目を閉じちゃうもの・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
石橋の前にキャムリエルとトレムディンが座った。
「この二人、やり会う気かしら?」
エスチェルがアンニフィルドに囁いた。
「もう、びっくりだわ・・・。どうやら、本気らしいわよぉ・・・」
「あの、あのぉ、キャムリエルさん、トレムディンさん、わたし・・・」
石橋はエルフィア男性二人にアプローチを受け、うろたえていた。
「カレン、どうしてキャムリエルと一緒にここにいたんですか?」
トレムディンが尋ねた。
「ボクの発想を転換するのを手伝ってくれるためさ。きみのためじゃなくね」
石橋の代わりにキャムリエルが答えた。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぷち・・・。
「じゃ、もう発想転換は完了したわけですね?」
「どうしてさぁ?」
「きみは、きみ自身の本来の使命をすっかり忘れています」
「なんだってぇ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
きっ。
「きみこそ、使命をほったらかしにしてるじゃないか?」
「ナナン。ユティスは回復しました。もう、わたしの役目は終りです。ここにいるのは、ウィルス感染者接触にてエルフィア帰還が延びているだけ。この間は法定観察期間。つまり自由時間です」
にこ。
トレムディンは石橋に微笑んだ。
「ウィルスをできるだけたくさん集めようってことだねぇ」
キャムリエルは反撃した。
ぴき・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたし、なんのことか、よくわからいんですがぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いいんだよ、カレン。ぼくたち二人ともよくわかってるから」
「そうですよ、カレン」
「ねぇ、止めなくていいの?」
エスチェルがアンニフィルドにきいた。
「リーエス。このままじゃ、お店から追い出されちゃうわ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---




