028 純真
■純真■
和人は現実的な問題に気づいた。
(ユティスが和人のもとに来る・・・。ここに来て、オレと一緒にいるってことは・・・。オレのアパートに来る・・・。当然この1DKの部屋だから・・・。まさか、一緒に暮らすってなんて言い出すつもりじゃないだろうなぁ・・・?)
「リーエス!」
「わーーー!」
ユティスの返事が思考中の和人の頭に響き渡った。
「どうかしましたか?」
「あのさ、実際地球にきみが来る時なんだけどさぁ・・・。念のためにきくけど、ユティスはどこに住まうつもりなのかなぁ・・・?」
にっこり。
「もちろん、ここですわ」
「はいっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「げげげ・・・。やっぱり・・・」
「んふ?」
ユティスはしごく当然のこというような表情をした。
「あのさぁ・・・、オレ、一応、独り身の男なんですけど・・・」
「はい。それで?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「きみは女の子・・・」
「はい。男性ではありませんわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのぉ・・・。いいかい、ユティス?」
「はい」
にっこり。
「きみがここで、オレと一緒に住むってことはだね、毎日、朝昼晩、オレと一緒にいるってことだよぉ・・・。寝る時も、食べる時も、着替えてる時も・・・、ナニする時も・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「本気で言ってるのぉ・・・?」
「リーエス。あ、はい」
にこっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにか、問題でもおありでしょうか?」
「大ありだよ」
かぁ・・・。
和人はあれやこれや想像を逞しくして、真っ赤になった。
「エルフィアでは、気の合った男性と女性が一緒に暮らすことは、とても自然なこととされていますわ」
にっこり。
ユティスは微笑んだ。
「だって、それって同棲ってことでしょ?」
「ルームシェアリングの一つの形態ではないのですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい?」
「人間、お部屋はこのくらいの広さのものが一つあれば十分ですわ。広すぎてもお掃除が大変ですし、多すぎてもお部屋にたどり着くのに迷ってしまいますでしょ?」
「迷うのかい、このアパートで・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それに、二人一緒なら、たくさんお話もできますわ。ね?」
にこっ。
「一緒にいる意義とか?」
「はい」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人はユティスの感覚が地球人と相当ずれていることを認識した。
「ユティス?」
「リーエス?」
「あのぉ、兄弟姉妹でもない未婚の年頃の男女がだねぇ、そういうことするってことは、本人たちだけじゃなく、世間一般にもだねぇ・・・。とにかく、大変なことなんだからね」
「同じお部屋にいることが、そんなに努力を要することなのでしょうか?」
「あのねぇ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
(オレ、理性ふっとびそう・・・)
「あのぉ、そういうのも見越して、和人さんが選ばれたのですけど・・・」
ユティスは困ったような顔になった。
「そういうことって?」
「あんなことです・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「もしかして、オレを信用するっての?」
「リーエス。すべて委員会の承認を得ています」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふ」
ユティスは優しく笑った。
「こっちは得てない」
「じゃ、得ましょう?。お手伝いしますわ。どなたに申告しますか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「オレ自身!」
「まぁ、それならとても簡単なことですわ。うふふ・・・」
「だから、それが一番難しいんだってば・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「大丈夫です。すべてうまくいきますわ」
ユティスはまったく心配していない様子だった。
「ぐ、ぐおぅ・・・。ぐびっ!」
その時、隣で二宮が大いびきをかいた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あらあら・・・。うふふ。こちらの愉快な方はどなたでしょうか?」
にこにこ。
ユティスは二宮に関心を移し、この話題は結論が出ないまま切り上げられた。
「それは二宮さん。会社の先輩さ」
「とっても楽しそうな方ですこと」
「うん。ホントに面白い人だよ」
「イ、イザベルちゃん!待って!」
二宮はうわ言でイザベルの名前呼んだ。
(先輩、またイザベルさんに振られてる夢見てるな・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
(しかし、これは現実なんだろうか・・・?)
和人は自分の目の前にいるユティスの精神体を見つめて、そして目を伏せた。
「うふ。和人さん、わたくしは夢なんかではありませんわ」
ゆらゆら・・・。
ユティスの精神体はうっすらと虹色に輝いていた。
「え、オレの考えが読めるの?」
「ナナン。聞こえてくるだけです。読むわけではありません」
「どっちにしろ、オレの考えたことがわかるわけだ」
「リーエス。そういうことでしたら、そうですわ」
「じゃ、さっきオレが考えてたこと・・・」
「わたくしと一緒に住まうってことでしょうか?」
「げ、やばい・・・」
「うふ。ご意見しっかり拝聴いたしましたわ」
「そ、そう・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「男って、そういうものなんだよ・・・」
「リーエス。男性はプログラム上、バグとは無関係に、そのようなことをお思いになるということを存じあげております」
「プログラム上のバグ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうかといって、そのように行動される方はそんなにも多くはないということも。一瞬のお考えだけでは、その方が本当にどうなのかはわかりませんわ。それに・・・、和人さんの本質的なところが変わるわけではありませんもの」
ユティスは優しくそう添えた。
「オレの本質的なところって?」
「正直、努力、勤勉、誠実、優しさ、愛情、感謝。もっとありますが、申しあげますか?」
かぁ・・・。
「照れちゃうなぁ・・・。そんないい人間じゃないよ、オレ・・・」
「まあ。ご自分のこと、まるでわかってらっしゃらないのですね。例えば、ほら。お酒に酔ってしまった二宮さんを優しく介抱さしあげて、こんな風にご自分のお部屋にお泊めになられていること」
「これは先輩が勝手に・・・」
「でも、ちゃんとお布団をかけて、風邪などひかないように気配りをお忘れになってない」
「それは、普通、だれだってそうするんじゃないの?」
「さあ、そうでしょうか?お手元のお水は?」
「これは、もし先輩がのどが渇いてしまったら・・・」
「そうですわ。お酒は召しあがりすぎると、アルコールを分解するために身体が水分を必要とします。ですから、二宮さんもお目覚めになると、きっとお水が欲しくなりますわ。お水がお手元にあるのとないのと、どちらが二宮さんにとってより好ましい状況なのでしょうか?」
「それは・・・」
「うふ、そういうところですわ。和人さんの本質的なところというのは」
「まいったなぁ。きみにかかると、みんな善人になっちゃうよ」
「うふふ。お世辞がお上手ですこと。とにかく、お認めくださって感謝いたしますわ」
にっこり。
ユティスは和人に優しく微笑んだ。
「まいったよ・・・」
「うふふ」
(こりゃ、無条件降伏だよ)
ぽりぽり・・・。
和人は頭を掻いた。
「ナナン。わたくしは、攻めたり、侵略したりはしませんわ」
「ホント?女性は最終兵器だって聞いてるけど?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、ひどい。お接しのし方次第ですわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも、降参。降参だよ」
「ふふふ。和人さん・・・」
にこにこ・・・
「ユティス、きみは・・・」
和人はユティスが天使に思えた。
(夢なら、絶対に覚めないでくれ・・・)
時計はとっくに5時を示していた。
「ふぁ・・・」
和人はあくびが出そうになった。
「和人さん・・・」
ユティスはすぐにそれに気づき、和人を気遣った。
「申し訳ございません。時間を気にせず、お話してしまいました。これでは和人さんのお体によくありませんわ。短時間でもぐっすり熟睡できるようにいたしますので、リラックスしていただけますか」
「う、うん・・・」
「我願う。宇都宮和人、彼の者に体と魂の安らぎを与え、目覚めの時には、体も精神も力を蓄えんことを・・・。フェルミエーザ、エルフィエーザ、ユティス・アマリア・エルド・アンティリア・ベネルディン」
ユティスは短時間回復睡眠プログラムを和人に適用した。
「和人さん、2時間でたっぷり8時間分の睡眠がお取りできるるようにいたしました。今から5分以内に眠くなりますから、どうか、お布団の中にお入りくださいね」
「うん」
「必ずですよ」
「ああ、そうするよ」
「ふわぁ・・・」
かっくん。
ユティスの言ったおり、5分経つと和人は猛烈に眠気をもようした。
「眠い・・・」
ごそごそ・・・。
急いで毛布にもぐり込むと、堕ちるようにして眠りに入った。
「和人さん、ごめんなさい。次回からは気をつけますわ・・・」
ユティスは和人が規則正しい寝息をたてたのを確認すると、和人に一礼し、エルフィアに戻っていった。和人の隣では、正体もなく二宮がいびきをかいて眠りこけていた。
「ぐぉー・・・、待って!イザベルちゃーーーん!」
--- ^_^ わっはっは! ---
ユティスは地球から意識を戻すと、カプセル状のベッドから起き上がり、エージェントやSSたちの集まる部屋に足を向けた。
すっすっ・・・。
ゆっくりと部屋に入ると、一人の女性がユティスを認めた。
「ベネル・ロミア(こんにちわ)、ユティス。今、戻り?」
「リーエス、アンニフィルド」
アンニフィルドはすらりと長身の美女だった。彼女を特徴付けているのは、まず、その背中まである長いプラチナブロンドであり、ルビーのような濃いピンクの目だった。
「1週間てのは酷かったわね?」
アンニフィルドはユティスに近寄ってきた。
「リーエス。でも、もう済んだことですし・・・」
「ふーうん。それで、コンタクティー君はいかが?」
「概ね、了解していただきました」
「では、地球に行くことにしたのね?」
「リーエス。でも、しばらくは精神体でのコンタクトになりますわ」
「ふうん。そりゃ、また、いったいどうして?」
アンニフィルドはSSのスペッシャリストの一人で、エージェントが文明支援で訪れる世界において、エージェントとそのコンタクティーの身を守るのが使命だった。
「うふふ。いきなり、わたくしがおじゃましたら、みんなびっくりなさるだろうって・・・。だから、慣れていただく時間が必要なんですわ」
「それで、精神体ってわけ?」
「リーエス。それに、和人さんったら、とっても恥ずかしがり屋さんなんですよ。わたくし、和人さんのところにおじゃまして、いつもご一緒します、と申しあげたら、それは大変なことだって・・・」
「ええっ?いきなりそんなこと言ったの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あら、いけませんか?」
「そりゃ、びっくりするでしょうね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。少々慌てておいででした。うふふ」
ユティスは楽しそうに話した。
「それ、おかしくない?」
「そんなに変でしょうか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティス、あなた純真すぎるのよ」
アンイフィルドは両手を広げた。
「どういう意味でしょうか?」
「カテゴリー2以下の世界では、男性は本能の力に抵抗できないの」
「本能ですか?どのような?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティス、あなたは女性でしょ?」
「リーエス」
「あなたの今までのコンタクティーは、相手が女性だったからそんなこと考えなくて良かったんでしょうけど、今度の地球人のコンタクティーは男性なんでしょ?」
「リーエス」
「血気盛んなカテゴリー2の若者が、若くて可愛くて美しい女性と二人一緒にいるということはね、種族保存の原始の血が騒いでくるの・・・。くわぁーーーっ、てね・・・」
「くわぁーーー、ですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。それで?」
ユティスは首をかしげた。
「そのぉ・・・、本人の意思とか、愛情とか、そんなのとは関係なく、身体の方がおかまいなしに・・・」
「おかまいなしに?」
「あなたを求めちゃうのよ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わかるでしょ?」
「キッスしたくなるということですか・・・?」
ばんっ!
アンニフィルドは目の前のテーブルを叩いた。
「それもだけどさぁ。キッスだけじゃ収まらなくなるというか・・・ナナン。そんなことしちゃうと、なんというか、もっと要求しちゃって、とにかく、とんでもないことに・・・。ん、もう、言わせないでよ!」
「はぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。そういうことでしたら大丈夫ですわ」
「大丈夫って、本当にわかってるの、ユティス?」
「ですから、大丈夫ですわ」
「なにが、大丈夫なのよ?」
「和人さんはわたくしをとても大切に思ってくださいます。それに・・・、和人さんは・・・。わたくし、とってもステキな方だと思います・・・」
ぽっ。
そこまで言って、ユティスは顔をほんのりと赤く染めた。
もじもじ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティス、あなた・・・」
アンニフィルドはユティスの頬に赤みが差したのにたちまち気づいた。
「あのね、ユティス。予備調査段階でも、エージェントは安全を期してエストロ5級の母船が惑星上に待機するのよ。みんなそこからコンタクティーに会うの。それがが普通でしょ?」
「リーエス。でも、コンタクティーのお側にいるということは、とても便利ですし、別に規則を破っているわけでもありませんわ。ご本人の了解もお取りしましたし・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そりゃ、エージェントがどこに待機しようが、その裁量に任されてはいるけど、本格支援が決まってるわけでもないのに、どうして予備調査の段階で、わざわざコンタクティーの側に四六時中いる必要があるの?」
「わたくし、いたいんです。和人さんのお側に・・・」
「ええーーーっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
じーーー。
アンニフィルドはユティスを穴が開くほど見つめた。
「本気の本気?」
「リーエス・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ・・・、あっきれたぁ・・・」
「はぁ・・・?」
「ひょっとして、ユティス、あなた、その和人が好きになったって言うんじゃ・・・」
「リーエス。大好きですわ。それに、和人さんと一緒にいたいという感情も、嘘ではありません・・・」
ユティスは正直に打ち明けた。
「だって、あなた、まだ実体で会ったこともない男よ・・・」
「精神体では、ちゃんと何度もお会いしています・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぽっ・・・。
ユティスはもっと赤くなった。
「ユティス・・・、あなた・・・」
「リーエス?」
「わかったわよ。エルドはなんて言うかしら・・・」
アンニフィルドはユティスが恋に落ちていることを確信した。