289 行方
■行方■
「フェリシアス、アンデフロル・デュメーラだって目を光らせているのに、どうして、こう見つからないの?」
キャムリアエルはフェリシアスに不満そうに言った。
「待て。まだ辛抱するんだ。あいつらだって、食料や寝場所に困ってるはずだ。じきに、しっぽを必ず出してくる。
「それまで、じっと待つの、フェリシアス?」
「別に踊って待ってたってかまわんぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「フェリシアス、ボクをからかわないでくださいよ」
キャムリエルはフェリシアスに言った。
「アンデフロル・デュメーラ、きみの探知システムになにか反応はないのか?」
フェリシアスが尋ねると、エストロ5級母船から即座に回答がきた。
「ナナン、SS・フェリシアス。超時空ジャンプも検知していません」
「ジャンプしてないか・・・」
フェリシアスは不思議に思った。
「どうしたんですか、フェリシアス?」
キャムリエルはそれが意図的なものかどうか、確かめようとするもの、フェリシアスの表情は相変わらずだった。
「ジャンプしてないということは、ここからそう遠くないところにいるということだ」
「なるほど・・・」
「どうして、そうする必要があったのだろう・・・?」
フェリシアスには、それが大きく引っかかっていた。
「女の子に見とれてたんじゃないかなぁ・・・」
「ありえん!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンデフロル・デュメーラ?」
「リーエス、SS・フェリシアス。なんでしょうか?」
「二人の痕跡はジャンプばかりとは限らん」
「リーエス。モニタリング周波数帯を拡大します」
「うむ。いいぞぉ・・・」
エルフィアの二人を乗せて、リムジンは横畑に向かっていた。
「なぜ、ヘリコプターとかいう空中輸送機を使わない?」
ブレストはワイズマンに訪ねた。
「民家がひしめく上空に、合衆国の安全なヘリを飛ばすのは極めて危険だと、市民がエンジン以上にうるさいんでね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「新聞社やテレビ局は、ジェットヘリをしょっちゅう飛ばしてるって言うのにですかい?」
ジョバンニがにやりと笑った。
「きみの言うとおりだな。しかも、そのヘリはほとんど合衆国製だ」
ワイズマンは答えた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なるほど・・・。ここの住人はあまり論理的思考はしてないんだな」
ブレストは目を細めながら言った。
「それはそうと、横畑に着く間、ちと、お話をさせてくれませんかね、大使?」
「かまわんぞ」
「ミスタ・プレジデント(大統領)、日本大使のワイズマンから、例の二人を確保したと、連絡が来ました」
大統領秘書がそっと耳打ちをした。
がばっ!
大統領は思わず秘書を振り向いた。
「なに、確保したか!わははは」
大統領は満面に笑みを浮かべた。
「現在、横畑に向けて移動中であります」
「そうか。でかしたぞ、ジョーンズ、ジョバンニ」
秘書も思わず笑顔になった。
「これで、切り札を持つのは日本だけではないな・・・」
「左様です」
「して、WPにはいつ到着予定だ?」
大統領はすぐにスケジュールを調整する必要を感じた。
「途中の2回、すべてタンカーから空中給油をしますので、その時スピードを落とすだけです。しめて、6時間強というところでしょう」
「うむ」
大統領は満足そうに頷いた。
「すぐにWPに向かうぞ」
「わかりました。ヘリで空港までお送りするよう手筈を整えております」
「うむ」
「で、ワイズマンと言ったな?」
ブレストは横畑に向かうリムジンの中で、駐日大使に尋ねた。
「イエス。これから大使には地球でもっとも進んだテクノロジーに触れていただきます。ええ、そりゃ、もちろん、あなた方のエルフィアには比べ物にならんでしょうが、日本に比べると月とすっぽん。正真正銘の地球一進んだテクノロジーです」
「その、超音速輸送機とやらのことか?」
「ふふ。とりあえずは、そういうことです。合衆国は太平洋を挟んだ日本のちょうど反対側の大陸にあり、面積は20倍以上あります。人口は3億2千万人。日本の倍は住んでいます」
「ほう。お国の自慢話かね?」
ブレストはそれを軽く聞き流した。
「いや、そんなつもりはありません。事実を申しあげたまで」
ワイズマンはまったく気にした様子もなかった。
「それで、わたしに聞いて欲しいと言うことは?」
ブレストはあらためてワイズマンを見つめ直した。
「エルフィアの文明支援についての手順、手筈、準備に係わるものを・・・」
「・・・」
ブレストは一瞬黙り込んだ。
「もちろん、合衆国を手始めにお願いしたい。そのための合衆国国籍付与です」
「まず・・・」
ブレストはもう一度間を置いた。
「まず、エルフィアの文明促進推進支援委員会だ。彼らに、わたしをどう報告するつもりかね?わたしとて、わが身は可愛い。身の保証の話を無視して、進めるわけにはいかん」
「イエッサー」
ワイズマンは大きく頷いた。
「もちろんです、大使。エルフィアとの交渉はお任せください」
「どう、任せるというのだ?」
「あなたは今後合衆国で暮らしていただきます。もちろん、それ以外の国への渡航もけっこうですよ。いつでもお好きな時に。ただし、これは認識していて欲しいですけど・・・」
「なにをだ?」
ブレストはワイズマンを見つめた。
「地球から外へは出られないということです」
「なんだと?」
ワイズマンの言葉はブレストを捕らえて話さなかった。
「地球から出られない?どういうことだ?」
「ブレスト!」
横からシェルダブロウがブレストを素早くつついた。
「わかっている!」
ブレストはワイズマンを見据え、その目の奥底を覗き込んだ。
「エルフィアがこちらの条件を飲むとしたら、それしかないでしょう。あなたはとにかくエルフィアの法を犯した。地球を出るとなると、たちまちその捜査の網にかかるでしょう。わたしはエルフィアの法も、それを犯した時の償いの方法も知りません。しかし、ユティス大使をかどわかそうとしたこと、彼女のSSの一人に重症を負わせたこと、いや、よしんばそれはあなたでなかったとしても、その全体における責任はあなたにあるわけでしょう?」
「・・・」
ブレストは黙って聞いていた。
「しかしです。もし、あなたが覚悟を決め、地球に、そして合衆国に留まるなら、彼らもあなたにこれ以上の追及をすることはできないわけです」
「治外法権か・・・」
「それにもう一つ・・・」
ワイズマンは一呼吸置いた。
「あなた方には、エルフィアに対してエルフィア人であることを放棄する旨、念書をいただきたい。それと共に、われわれの大統領の書簡をエルフィア大使に渡します」
「エルフィアを放棄し、交渉をユティスに託すと言うのか・・・?」
ブレストは一瞬冷や汗が出そうになった。
「イエス。彼女は寛大です。ここはそれに乗っからない手はないですからな。しかし、あなた方がエルフィアに戻ることにこだわり続ける限り、われわれ合衆国にもあなた方を救う手立てはありません。よくお考え願いたいですな、ブレスト大使。エルフィア人であることを諦めて、この地球で国賓待遇の自由を満喫するか、エルフィア人であることに固執し、委員会の懲罰を受けることになるか・・・」
「エルフィアの規定違反に対する諸罰則を知っているようですよ・・・」
シェルダブロウがブレストに言った。
「うむ・・・」
「ついでに言わせてもらえば、われわれのSSたちはすべてを把握しております。Z国の連中は頭を使うよりは腕を使いたがります」
--- ^_^ わっはっは! ---
「失敗は当然でしょうな。合衆国は違いますぞ。地球の冠たるリーダーとして、地球を導くことができるのは合衆国だけです」
「本気か?」
ブレストは今一つ信じられなかった。
(エルフィアがわれわれを地球に残すなんて考えられん・・・)
(後で、エルドに引き渡すつもりでしょう・・・)
シェルダブロウがブレストに言った。
(リーエス。彼らならなんのためらいもなくやるだろうな・・・)
「あと30分で横畑に到着します。その間、わたしが申し出ましたことを、シェルダブロウさんとお考えください。ジャンプしようとしても無駄ですよ。あなたがたのSS、フェリシアスとキャムリエルの二人が、母船の精神波センサーとともに、あなた方を追っています。われわれが彼に知らせなくとも、ジャンプの痕跡は母船には知られるでしょう」
「しかし、われわれで、なんのテクノロジーを授ければよいというのだ?」
「なんでも。地球にない先端技術についての知識、それで十分です」
「われわれは、本格的なエージェントとは違うぞ・・・」
ブレストは委員会の理事であり、エージェントではなかった。
「けっこうです。なにも今日、明日に、テクノロジーを伝授しろなど言いいませんよ。大切なのは、それを受け取ることのできる確固たる保証です」
「ブレスト・・・」
シェルダブロウは不安そうにブレストを見た。
「ジョバンニ、おまえのエルフィアの女ボス、腰を抜かすぞ」
ジョーンズが相棒に言った。
「いや、あれでいて大そう肝っ玉の太い女だからな、クリステアは・・・」
「そういや、おまえの思考を読み取られてんじゃないのか?」
ジョーンズがにたにたしながらいった。
「恐らくな・・・」
ジョバンニは彼女を何も会話してないような口ぶりだった。
「なに?連絡して来てないのか?」
「ああ。ここ数日は音沙汰無しだ」
「振られたのか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「抜かせ」
どんっ。
ジョバンニはジョーンズの胸に拳を軽く入れた。
「で、彼女にはどう話すりゃいい?いずれこのことはバレちまうぞ」
ジョバンニはジョーンズに言った。
「追って指示あるまでは、とぼけ通すしかないだろうな」
ジョーンズはにやりと笑った。
フェリシアスはエルドに状況を報告していた。
「ご苦労だな、フェリシアス」
「リーエス。ご心配をおかけしまして申し訳ありません」
「気にするな。だれにでも失敗はある」
エルドは優しく言った。
「それで、ブレストとシェルダブロウについてですが・・・」
フェリシアスは本題に入った。
「うむ。まだ行方がわからんようだな?」
「リーエス。アンデフロル・デュメーラのセンシングにもかかりません」
それを聞いたエルドは腕組みをした。
「あの戦闘状況で抜け出せるのはジャンプくらいのものだと思っていたが?」
「リーエス。通常ならジャンプです。ブレストとシェルダブロウなら、苦もなくできたことでしょう」
フェリシアスは続けた。
「わたしは、これには地球人が係わっているような気がするんです・・・」
「地球人が?」
エルドはまさかという顔をした。
「リーエス。あれ以来、彼らはZ国とも接触していないことを確認しています。しかし、あの二人が数日間とはいえ、この地球に身を隠すことは容易ではないはず。誰かの協力なくては、寝食にも困るでしょう・・・」
「ふむ。確かに一理あるな・・・」
エルドは頷くと先を聞きたがった。
「それで、きみの意見はなんだ。おおよそは見当をつけているんだろう?」
にた。
エルドは口の端を上げた。
「Z国でないとしたら、この日本でそれができるのは、日本自身、そして合衆国。どちらもわれわれをよく知っていますし、ユティスとは双方とも国家元首が、ここ日本で直接会っています。EUも大統領が会っていますが、EUは国家元首ではありません。可能性は低いと思われます。そして、もし日本政府であるとしたなら、既に、トアロ・オータワラー、つまり大田原太郎が知っているはずで、こちらに宇都宮和人を通じて連絡を入れてくるはずです」
フェリシアスは静かに言った。
「それでゃ、合衆国だと言いたいのかね?」
「断定はできません。可能性としては20%強くらいのところです」
フェリシアスは慎重さも併せ持っていた。
「しかし、いくらエルフィア人だからといって、あの合衆国がブレストとシェルダブロウの犯罪人をかくまうなど、理解できんが・・・?」
エルドはいぶかった。
「エルフィア人の感覚ではそうでしょうが、ここは地球です。カテゴリー1的な価値観が存続しているところです。われわれがブレストたちを追っていることも百も承知していますし、そのためにわたしやキャムリエルが任務に就いていることも知っています」
「して、動機はなっだと思うんだね?」
エルドは一番聞きたいところを尋ねた。
「文明支援の確実な遂行でしょう」
「予備調査で、落とされては困るということだろうか?」
エルドはフェリシアスを真剣な表情で見つめた。
「まぁ、どう出てくるかです」
「場合によっては、予備調査に大きく響くことになるかもしれんぞ・・・」
エルドは心配そうに言った。
「委員会の反対派には、支援中止を提案させる格好の材料になります」
「フェリシアス、すまんが、大至急、その線を洗ってみてはくれまいか?」
「リーエス、エルド」
フェリシアスは頭を下げた。