285 代理
■代理■
ユティスの状態は回復に向かったので、ドクター・エスチェルとトレムディンはひとまず緊急対応終了を宣言した。
「それで、ドクターは本当に地球見物をするの?」
和人はエスチェルに言った。
「当たり前じゃない。現地感染病に係わったんだから、少なくとも1週間程度は感染判定がマイナスでないと戻れないわ」
「リーエス。まぁ、大船に乗った気で見物させてあげてください」
「トレムディン。それを言うんだったら、オレが言う台詞じゃないのかい?」
和人は両手を広げた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「失礼」
「じゃ、明日の夕方行くから待っててよ」
和人はアンニフィルドとクリステアを見た。
「あのさ、アンニフィルド、夕方に行くから一緒に来てよ」
「リーエス。いいわよ。でも、ユテイスはどうするの?」
「ユティスなら、明日のお昼には完全復帰するわよ」
ドクターは太鼓判を押した。
「良かったじゃない、和人」
クリステアがにこやかに言った。
「うん、みんな。アルダリーム・ジェ・デール(ありがとうございます)」
「パジューレ(どういたしまして)、和人。明日から、キッスも解禁するわ」
エスチェルは微笑んだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「いっ!」
「あなたへの感染は認められませんでしたからね。大丈夫ですよ」
にこにこ。
トレムディンが言った。
「それで、フェリシアスとキャムリエルは、まだアンデフロル・デュメーラなのかい?」
和人はこれ以上話題が発展しないよう、別の話題に変えた。
「そうね。一応、クルステアも復帰できたことだし、まだユティスの強奪事件の容疑者2人の収容が済んでないし、まずはそっちに当たるはずよ」
アンニフィルドがそれを察したかどうかは別にして言った。
「そうね。ブレストとシェルダブロウは、Z国の庇護を受けてる可能性もあるから、そうなると意外に収容はややこしくなるわ」
クリステアが慎重に言った。
「じゃ、フェリシアスたちは本来の仕事に戻ったんだ?」
「そうね。でも、アンデフロル・デュメーラに捜索を依頼しているから、そうのうちあの二人も収容できるんじゃない?」
「リーエス。キャムリエルはフェリシアスの補佐だけど、当分はアンデフロル・デュメーラとフェリシアスでこと足りるはずよ」
クリステアはみんなを見回した。
「じゃ、キャムリエルは、しばらくセレアムにやっかいになるわけ?」
「任務を兼ねてね」
和人の疑問にクリステアが答えた。
「任務となにを兼ねるの?」
ドクターが割り込んできた。
「あは。観光旅行じゃないの?」
アンニフィルドがおどけて言った。
---^_^わっはっは! ---
「ひどい言い方だわ。視察よ。視察」
ドクターが弁護した。
「とにかくそういうわけだから、明日の夕方はみんな空けといてね」
和人が締めくくった。
岡本と茂木は真紀たちの留守中、しっかりとその役目をこなしていた。
「岡本さん、この提出仕様書に社判をいただけませんか?」
石橋が顧客に持っていく契約仕様書を差し出した。
「いいわよ。見せて」
ささ。
「はい」
ぺらぺら・・・。
石橋の提出した契約仕様書は20ページくらいあった。
「あのさ、これって、先方の要望をまとめたもので、契約を決めるための仕様書でしょ?」
「はい。実際は契約書をかわしていますけど、最終的な金額を提示するためのものですから、そういう解釈もできます」
「あ、そう・・・。まずいわねぇ・・」
岡本は考え込んだ。
「契約書はそうだけど、これも、先方に収入印紙を貼るよう要求されなかった?」
「収入印紙?」
「そうよ、契約書に係わる税金で、契約金額ごとに段階があるの。この場合200円だと思うけどさぁ・・・」
「いいえ。特に先方からはきかれてませんけど・・・」
石橋は困った顔になった。
「これ、契約仕様書でしょ?」
「はい。契約しようっしょ!です」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。言うわね、石橋も。冗談はさておき、困ったわぁ。契約祖をかわしてるのに、仕様書まで印紙を貼ることを一回やっちゃうと、税務監査時、洗い浚い調べられて、それこそ契約1件毎に、全部税金を持ってかれちゃいかねないわねぇ・・・」
「はい。今まではったことなんかないですよ・・・」
「だから心配しているのよぉ・・・」
岡本は経理の茂木に相談することにした。
「茂木!ねぇ、茂木ったらぁ?」
「はーい、なぁに、岡本?」
すたすた・・・。
岡本はその仕様書を持って、石橋と一緒に経理マネージャーの茂木のところにやってきた。
「この契約仕様書だけどさぁ・・・。なんとかなんない?」
岡本の持ってきた契約仕様書を見て、茂木は即答した。
「それさ、名前を納入仕様書とかに変えれば済む話しよぉ」
「納入仕様書?」
「そうよ。だって、契約書は交わしてるんでしょ?」
「うん。どうなの、石橋?」
「はい、もういただいてます」
「じゃあ、税金を二重に払う必要なんてないわ」
茂木はにっこり笑った。
「真紀だって、そう指示してなかったっけ?」
「いえ。判子はいつも真紀だったから、確認したことなんてなかったわ」
「じゃ、今度からはそうして。いい、石橋?」
「はい」
「あなたがここで仕様書に印紙貼ったら、うちの会社、今後未来永劫そうなっちゃうわよ。1回200円と侮らないでね。ものすごく支払うことになるんだから。節税できるところは確実にね。いい?」
「はい」
「岡本も」
「はい」
「それじゃ、他のみんなも徹底できるようにするため、この件に関して、わたしは真紀の代理で通達を出すわ」
かくして、この二人はきびきびと職務を遂行していった。
ぶわんっ。
「カレン?」
「はい?」
石橋はキャムリエルお声がした方に振り向いた。
「きゃあ!」
「ぎゃ!」
岡本と茂木は、目の前で空中からいきなり現われたキャムリエルに、仰天した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「もう、脅かさないでよ、キャムリエル!」
「どっから湧いて出てくるのよぉ?」
茂木と岡本はキャムリエルに文句を行った。
「あはは。そんなに可笑しいかい?」
「可笑しいじゃなくて、びっくりしたのよぉ!」
「おかしいのは、あなたでしょうが!」
--- ^_^ わっはっは! ---
くるり。
キャムリエルはそんなことを少しも気にしないで、石橋に向き直った。
「カレン、やっぱり、その困ったような表情、最高にステキだよぉ」
「ええ?キ、キャムリエルさん・・・」
ぽん!
「それ、それ!」
岡本と茂木は顔を見合わせた。
「ふぅーーーん・・・」
「なるほど・・・」
「あのさ、そんな書類さっさと、和人か二宮にくれちゃって、ボクの仕事を手伝ってくれない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「キャムリエルさんのお仕事ですか?」
「そうそう。情けない話だけど、ユティス拉致を企んだエルフィア人容疑者の二人が、まだ見つかってないんだ。きみなら手がかりが掴めるかもってね」
「ええ?どうして、わたしが・・・?」
「それなんだけどさぁ、きみは一度Z国のリッキーに・・・」
さっ。
「ストップ・・・!」
キャムリエルと石橋の間にクリステアが手を入れた。
「キャムリエル、あなた、石橋の気持ちを無視してるわ」
「ボクがぁ?」
「そうよ。石橋はそのこと思い出すのも嫌なのよ。わからない?」
「あのぉ、わたし、なんのことか・・・」
石橋は困惑したように、二人を見比べた。
「ごめんよ、カレン。ちゃんと説明するから、聞いてくれないか?」
「なんか、妙な話になってきたわねぇ・・・」
岡本が茂木に目配せした。
「どうする?」
「納入仕様書ってタイトルだけ変えてさ、書類に判子押して、二宮に預けたら?」
茂木が書類を岡本に返した。
「わかった、そうするわ」
二人は自分たちの仕事に戻っていった。
「カレン、協力が要るんだ、どうしても・・・」
キャムリエルは真っ直ぐに石橋を見つめた。
「わたし・・・」
「あのね、ユティスを拉致した二人はZ国のリッキーと繋がってたんだ。だから、行方がわからない今、リッキーを監視すれば、ひょっとしたら彼らが会うかもしれない。そうすれば、二人をエルフィアに連れ戻せる・・・」
「それで、どうして、わたしが?」
石橋がその理屈がわからなかった。
「リッキーのきみのへの暗示は、ユティスが取り除いたけど、彼の頭脳振動はきみにも記録されてるんだ。それを調べれば、リッキーの思考を読むことができる。その後は芋づる式に彼らに辿り着ける」
「ま、待って下さい・・・」
ぞくっ。
ぶるぶるっ。
「わたしの頭脳を調べるの?」
石橋は身を震わせた。
「思考を弄繰り回したりしないさ。リッキーの振動波形を参照するだけだよ。それをもとにリッキーを監視する。二人の居場所さえわかれば、こっちのものさ」
「よくわかりませんけど、そうしないと、キャムリエルさんのお仕事は達成できないのですか?」
「リーエス。どうしても、あの二人は捕まえないと・・・」
「・・・」
「石橋、わたしからもお願いするわ」
クリステアも言った。
「わかりました。どうぞ、アクセスしてください」
「アルダリーム(ありがとう)、カレン」
「じゃ、こっちに来て」
キャムリエルとクリステアは、石橋をシステム室に連れて入っていった。
「はいよ、これ」
岡本は納入仕様書を二宮に渡した。
「できたんすね?」
「あのね、できたじゃなくて、あなたが直すの」
「へ、どこを?完璧じゃないすか?」
「社判がないのに?」
「岡本さん、押しわすれっすよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんで、わたしのせいなのよぉ?あなたが間違ってるから、押せないんだってば!」
岡本は憮然として言った。
「今度は客名、ちゃんと合ってるでしょうが?」
二宮は文句あるかと言う顔で言った。
「威張るな。そんなの当たり前でしょうが!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あの。わたし直しますから・・・」
イザベルが遠慮がちに、岡本に頭を下げた。
「ん?」
「わたし、直します・・・」
イザベルはもう一度言った。
「じゃ、お願い。そこのタイトル、契約仕様書じゃなくて納入仕様書よ。それに直して、もう一度印刷し直してくれる?文書は石橋が共有ホルダにしまってるから、あなたでもアクセスできるはずよ。うふ」
岡本はイザベルに微笑んだ。
「はい」
「それと、契約仕様書って書いていたら全部直しね。注釈とかもよく見てくれると助かるわ」
「はい」
「いいわねぇ・・・。二宮と違って素直だこと。うん、うん・・・」
岡本は満足そうに頷いた。
「ほれ、二宮、突っ立ってないで、あなたは行くところあるんでしょ?」
「うっーーーす」
二宮はイザベルを見た。
ちら。
にこっ。
「じゃ、イザベルちゃん、行ってくるね。もう少しの辛抱だから。この悪いおばちゃんたちから開放してあげるっすよぉ」
「しーーーっ。聞こえてますよ、二宮さん・・・」
イザベルは囁いた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「だれが、おばちゃんですってぇ・・・?」
がたっ。
どたどた・・・。
「行ってきまぁーーーす!」
「いってらっしゃぁーーーい」
--- ^_^ わっはっは! ---
「にしてもさぁ、茂木・・・」
「なによ、岡本?」
「よぉく、二宮ごときの誘いで、イザベルうちにバイトで来てくれたわよねぇ・・・」
「奇跡という言葉が生まれて以来の奇跡だわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも、仕事はちゃんとやってくれて、助かってるわ」
岡本は真実を言った。
「それだからよ。二宮がイザベルを落としたことが信じられない・・・」
「蓼食う虫も好き好きっていうけど・・・」
「し、イザベルに聞こえちゃうわよ」
「うん、いけないっと・・・」
「それでね、イザベルにきてみない、どうやって落とされたかって・・・?」
「ええ?」
「二宮、夕方まで帰って来ないし、カフェに連れ出してさぁ・・・」
「うん。面白そうね」
「そう。決まりね」
「ええ。ふふふ」
「イザベル?」
「はい。これから打ち合わせがあるんだけど、あなたも出てくれない?」
岡本はイザベルにウィンクをした。
「打ち合わせですか?」
イザベルはよくわからないという顔をした。
「大丈夫よ。書記やれなんて言わないから」
「あ、はい」
「じゃ、ちょっと片付けて、外で待ってるわ」
「外ですか?」
イザベルは岡本を見つめた。
「大丈夫、大丈夫。ニ宮が戻ってくる前に事務所には帰ってくるから」
「そうですか・・・」
「じゃ、5分後」
「はい・・・」
カフェ・スターベックスには、岡本、茂木、イザベル、そして石橋がいた。
「いいの、こんなに大勢で来ちゃって?」
茂木は心配そうに言った。
「打ち合わせなんだから、人数少ない方がおかしいわ」
岡本は平然としていた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「で、なんの打ち合わせですか?」
石橋が岡本を見た。
「ふふふ。いかに業務中に休憩を取るかってことよぉ。ここんとこ毎日ハードだったから、精神的な余裕ってもんがなくっちゃってさぁ・・・」
「それって、もしかして、サボリってことですか・・・?」
イザベルが怪訝な表情になった。
「そう思いたければ、それもいいわ。よし、茂木かかれ!」
「はいな!」
にたっ。
茂木はイザベルを見つめて微笑んだ。