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「SS・フェリシアス、SS・クリステアは体細胞の修復は完了していますが、体力的に回復するはまだ2日は必要です。ここで、彼女のリハビリをサポートすることをお願いします」


「リーエス、アンデフロル・デュメーラ。わかったよ。言うとおりにする」

フェリシアスは、意外なほど素直に、エストロ5級母船のCPU擬似精神体に答えた。


「地上には、SS・キャムリエルがいますので、当面は問題ないと思われます」

「リーエス・・・」


そう言うと、フェリシアスは、ベッドの上でまだ完全に体力が回復していないクリステアの上半身をそっと起こした。


「痛むか?」

「ナナン・・・」

クリステアはゆっくりと呼吸をして、肺の状態を確かめた。


「ずっと、側にいてくれてたの・・・?」

すとん・・・。

クリステアは下を向いて自分の足先を見つめた。


「ナナン。何回かは、お手洗いに行ったよ」

「うふ。おバカさんねぇ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ちゃんと手は洗ったぞ」

「うふふふ」


--- ^_^ わっはっは! ---


ふぁさっ・・・。

クリステアは身体を捻って、フェリシアスを正面から見つめた。


じぃ・・・。


「嬉しい・・・」

「ん?」


「嬉しいの・・・」

クリステアは繰り返した。


「わたしもだ。きみが回復してくれて、本当に嬉しい」

「違うわ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「違う?なにがだ?」

フェリシアスは、自分がよくわからない時に見せる、困った表情になった。


「わたしが嬉しいと言ったのは、あなたが側にいてくれてること・・・」

「・・・」

クリステアは長身のフェリシアスを見上げた。


「ねぇ、ベッドの上に座って・・・」

「あ、リ、リーエス・・・」


ふぁさ。

フェリシアスはクリステアの脇に腰掛けた。


じぃ・・・。

「アルダリーム(ありがとう)、フェリシアス・・・」


「礼には及ばん・・・。わたしには、他にできることがないからな・・・」

「ナナン・・・。最高の贈り物よ・・・」


すぅ・・・。

クリステアの両腕が静かにフェリシアスの首を目指した。


「ん、ん・・・」


ぎゅ・・・。

「オーレリ・ディユ・アルトゥーユ(わたくしの聖なる神さま)・・・」


「クリス・・・!」

ちゅ・・・。


「・・・」

「・・・」



「お取りこみ中、失礼します。アンニフィルドとキャムリエルです。お取次ぎしますか?」


ぽん・・・。

「お取りこみ中よ・・・。バイバイ・・・」


ひらひら・・・。

アンデフロル・デュメーラに片手を振ってそう言うと、クリステアはまたフェリシアスとのキッスに戻った。


ちゅぅ・・・。


--- ^_^ わっはっは! ---




「SS・アンニフィルド、SS・キャムリエル、クリステアは体細胞再生後の体力リハビリ・プログラムに入っているところです」


「ああ、リハビリ中なのかい?」

「リーエス。正確には、SS・フェリシアスの精神サポート実行中です」


--- ^_^ わっはっは! ---


「そっかぁ・・・。邪魔しちゃ悪いんだけど、繋ぐことはできないのかい?」

「止めなさいったら。キャムリエルのおバカ!」

直ちに、アンニフィルドがキャムリエルを制した。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ええ?どうしてさぁ?」


「いいから、あなたは黙ってなさい。セレアムとの会見のことは後で報告すればいいわ。そうでしょ、アンデフロル・デュメーラ?」

「リーエス。わたしもそちらの方がよろしいかと・・・」


「え?なんだい、なんだい?ボクだけ知らされてないみたいだ」

ぷっくぅ・・・。

キャムリエルは不満そうに鼻を膨らませた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「キャムリエル?」

「なんだい、アンニフィルド?」


「そんなんじゃ、あなた恋人できないわよぉ」

「ええーーー?」


--- ^_^ わっはっは! ---




「首相、大田原さんからです」

「うむ。出してくれ

かちゃ。


「ああ、首相、報告が遅れていました。どうも、申し訳ありません」

電話の向こうで大田原の声がした。


「おう、セレアムの件だな?」

「はい」


「で、どうだった?きみは故郷に帰りたかったんじゃないのか?」

「ご配慮感謝したします。セレアムにはわたしの代わりに、孫たちを派遣することにしましたんで・・・」


「それで?」

「地球の文明測深支援はエルフィアとも合意しました。基本的な舵取りはエルフィアが行い、セレアムはサポートに徹します。


「ふむ。懸命な処置だ」

「どうも」


「エルフィア大使は日本に留まるのだな?」

「はい。そういうことです」


ほ・・・。

藤岡は胸を撫で下ろした。


「Zの連中はどうなった?」

「ははは。それも成功です。高速道路でのトラップにまんまと引っかかりましたぞ」


「ではセレアムとの会見には・・・」

「はい、もちろん、まったく間に合わなかったでしょうなぁ」


「滞りなく会見できたんだな・・・?」

「ええ。そのとおりです、首相。感謝申しあげます」

大田原の声は明るかった。


「それに、合衆国からの緊急応援も、実にタイミングがよろしくて、宇宙機の中まで案内しました」


「なに、円盤の中を案内したのか?」

「左様。みな、仰天しておりました。


大田原のセレアム会見談はそれからも続いた。




「イザベルちゃん、ここはね、こうするといいんっすよぉ」

二宮はプレゼンツールを駆使して、イザベルに図の描き方を指南していた。


「はい、二宮さん」


すすすーーー。


「はい、そこでコピペ」

「はい」


ぴっ。

かち。

ぱっ。


「はい、できましたぁ!」

イザベルは喜びの声を上げた。


「でしょぉ?」

「はい、二宮さん」

イザベルは嬉しそうに資料作りを続けた。




「先輩たち、楽しそうに仲良くやってるね?」

和人はそんな二宮たちを眺めて、ユティスに耳打ちした。


「リーエス。でも、本当にイザベルさんがアルバイトに来てくださって、良かったですわ」


「あは。会社にとってかい?」

「うふふふ。二宮さんにとってですわ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「あはは。仕事の効率、すっごく下がっちゃってるけどぉ?」

「いいんですのよ、和人さん。午後にはうんと効率アップしますわ」

にこ。

ユティスは微笑んだ。


「ひょっとして、頭脳効率化プログラムを適用するの?」

「ナナン。そんなことをすれば、二宮さんのお楽しみを奪っちゃいますから。うふ?」


--- ^_^ わっはっは! ---




そんな中、エルフィアの医療チームが地球人の体細胞から採取したDNAについて分析を終えようとしていた。


「エルド、見てください。地球人のDNA先端のテロメア減少率です。わたしたちエルフィア人の10倍の早さで、テロメアが減少してしまいます」


「なんだって?」

エルドは、信じられないという顔で、振り向いた。


「ドクター・エスチェルが、採集された地球人の口内粘膜を分析をしました」

「つまり・・・、どういうことなんだ?」

「地球人は、エルフィア人の10倍以上の早さで老化し、人生を終えるのです・・・」


「ま、まさか・・・」

「鑑定はしてませんが、宇都宮和人も、例外ではないでしょう・・・」


「そ、そんな・・・、信じられん・・・」


「平均寿命は、地球上の多くの地域では、せいぜい50、60年。先進地域ですら、80年がやっと、というところかと・・・。それに、ある時期、例えば、50歳前後に、著しく老化が進んでくるようです・・・」


「なんということだ・・・」

「要因は、生物科学的に、また、医学的見地から、究明中です」


「確かか?」


「リーエス。今まで、平均寿命が200歳、300歳という世界は、いくらでもありました。しかし、カテゴリー2でありながら、地球人がこれほど短命だとは・・・。100年にすら、到達してない・・・。正直、夢想だにしていませんでした」


「彼らの競争的精神が、多分に影響しているのかもしれん・・・」


「そうか・・・。ドクター・エスチェルを呼んでくれたまえ」

「リーエス」




「入りますよ」

「パジューレ(どうぞ)」

エルドの要請で、ドクター・エスチェルが説明にやって来た。


「地球人の時間は、われわれエルフィア人と比べて、極端に短いのです」

「リーエス。しかし、ドクター、急いては、ことをし損じる」


「この場合、急くとは、いったいどのくらいの時間ですか?」


「わたしにもわからん。だが、地球人の寿命を越えることだけは確かだ。新しい考え方や価値観が根付くのには、少なくとも3世代はかかる。地球人の1世代が40年と考えても、100年やそこらは必要だ」


「そうなると、ウツノミヤ・カズトをコンタクティーとした、われわれの支援プログラムは、根本から考え直さねばならないかもしれませんね・・・」

ドクター・エスチェルは、静かに言った。


「どうして、今まで気づかなかったんだろう・・・?」

「地球はカテゴリー2でも、カテゴリー1からようやく出た世界です。エージェントやSS、ナナン、わたくしたちにも、余裕がなかったとしか・・・」


「・・・」

エルドは考え込んだ。


「ユティスには?」

「ナナン・・・。まだ、エルド、あなたにだけ。他は、われわれのチームの者だけです」


「うむ・・・」

エルドは大きな衝撃を受けていた。


「和人、ユティス、わたしは、ユティスのことを考えると胸が痛む。彼女は、地球人の和人を深く愛している。和人といつまでも幸せな生活ができると夢見ている。少なくとも、エルフィア人の時間で、何百年もの間・・・。あわよくば、千年くらいは・・・」


突きつけられた現実の恐ろしさに、さすがのエルドもなすすべもなく震えた。


「エルフィア人の寿命はゆうに地球人の10倍以上あります。これはユティスにとって死ぬより辛い事実を突きつけることになるかもしれません」


「ドクター・エスチェル。和人は地球人だ。ユティスの目の前であっという間に老いていき、先に逝ってしまうに違いない・・・」

エルドは悩んだ。


「まさか、地球人がこんなにも短命だなんて。だれが想像したでしょう」

「ドクター・エスチェル。人間は自分に起こることは他人にも適用されると信じて疑わない。エルフィア人もそうだった。地球人もエルフィア人と同じように何百年も生きると思っていた。姿かたち全てがエルフィア人と同じなのに・・・、なぜ?」


ドクター・エスチェルは、エルドを真っ直ぐに見つめた。


「エルド。寿命、老い、これらは生物個々の何十兆個細胞のひとつひとつに組み込まれた プログラムです。DNAの先端にあるテロメアが細胞分裂の回数、つまり、細胞の寿命を決めます。細胞が分裂する度にテロメアは減り、設定された分裂回数がくると、細胞は自ら分裂を止めてしまい死に至るのです。そして、この細胞の連鎖反応が一気に始まると、DNAは自ら各細胞に活動停止を指令します。そして、統一した生体の死を迎えるのです。寿命は、人間個々により開きがあますが、それでも特別に長生きしたとしても、地球人は、せいぜい150年あたりが限界であることが判明しています。しかも、老いては正常な日常活動など、ほとんどできないのです」


「どうすればいい・・・?」


「それは、われわれではなく、地球人の問題です。私も考えはしましたが、支援世界への寿命介入は、惑星の生命バランスを大きく揺るがすことになります。委員会の重要禁止行為として、エルフィア文明支援憲章に触れています」

ドクターはエルドの考えを読んでいた。


「ああ、わかっている。地球の生態系を大きく変えることになる・・・」

「一度、それを行なったら、地球人類そのものを永久に変えかねない危険も孕んでいます」


「人類が別生物に変貌すると・・・?」

「可能性は、多いにあります」


「地球を滅ぼすことはできない・・・」


「エルド、わたしが申しあげたいのは、問題はあなた自身にも深く係わっているということです。あなたは、この件に関して、決して第三者のお立場にはなれません」


「リーエス。きみは、ユティスと和人のことを・・・」

「事実は、お伝えすべきと・・・」


「それについては・・・。とにかく、伝えてくれてありがとう。感謝している。で、ドクター・エスチェル、わたしにどうしろと・・・?」

「事実を隠し通すことはできません。ナナン。そんなことは、逆に恐ろしい結果を招くだけです。早々に、本人たちに・・・」


「ユティスたちに通知しろと・・・?」

「リーエス。そして、和人にも・・・」


「和人にもか・・・」

エルドは苦しそうに答えた。


「他に道はありません」

「わかったよ、ドクター・・・」

エルドは苦渋の選択を迫られていた。

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