279 不在
■不在■
大田原太郎の実の姉、セレアムのエメリアの会見が終わり、政府の都合でどうしてもセレアムに戻れなかった大田原は、代わりに孫の国分寺真紀と俊介の姉弟を使いに出した。
その間、リュミエラとの攻防で、クリステアは酷い負傷し、アンデフロル・デュメーラの集中医療カプセルの中で、3日を過ごしたのだった。
ぴーーー。
「SS・クリステアの治療を正常終了。意識を戻します」
アンデフロル・デュメーラのアナウンスが集中医療室に響いた。
「リーエス。やってくれ給え。アンデフロル・デュメーラ」
「リーエス、SS・フェリシアス」
じーーー。
白い霧のような光が、カプセルの中を満たした後、カプセルの透明な蓋がゆっくりと開き、クリステアの体が現れた。
「クリステア・・・」
フェリシアスは、カプセルのそばで、クリステアが目覚めるのを待った。
「室内の照明を2段階落とします」
しゅーーーん。
アンデフロル・デュメーラは室内の照明を落とした。
「リーエス」
クリステアが、目覚めた時に、目を慣らしておかねばならなかったからだ。
ぴくっ・・・。
クリステアの右手が動いた。
「クリステア・・・」
フェリシアスはクリステアの名前をそっと呼んだ。
「クリステア、聞こえるのか?」
「・・・」
しかし、返事はなかった。
「クリステア・・・」
フェリシアスは再び名前を呼んだ。
ぴくっ。
今度は明らかに反応があった。
ぱぁ・・・。
やがて、ゆっくりとクリステアのまぶたが開いていった。
ぱち。
「クリステア・・・」
フェリシアスは、左手を優しくクリステアの背中に回し、そっと名前を呼んだ。
「フェ・・・リ・・・シ・・・アス・・・?」
クリステアの鈴を転がすような弱い声が、集中治療室に小さく響いた。
「クリステア、ゆっくりだ・・・。さ、手をかそう」
さっ。
クリステアはゆっくりとカプセルの中で起き上がろうとした。
「フェリシアス・・・」
にこ・・・。
クリステアは、それがだれかはっきりとわかると、嬉しそうに微笑んだ。
「クリステア、わたしがわかるか?」
「リーエス・・・」
するする・・・。
フェリシアスが呼ぶと、クリステアは両手をフェリシアスの首に回し、フェリシアスは、クリステアを、いたわるように、そっと抱きしめた。
きゅう・・・。
「フェリシアス・・・」
ちゅ・・・。
クリステアはフェリシアスにそっとキスをした。
惑星ケームでは、一人の元エルフィア人エンジニアのランベニオが、甥のトルフォと会話していた。
「わたしだ」
「おお、トルフォ、なにか心配事か?」
トルフォは超時空通信システムで、ケームの叔父のスクリーンに等身大で映っていた。
「計画がバレて、SSたちが捕捉された。洗い浚い話されて、こっちにも捜査が及んでいる。ランベニオ、そっちにも、次期に捜査の手が回ってくるぞ」
「ふん。わしになんの関係がある?」
「関係がない?なにを言ってる、わたしや、あんたに、委員会の手が伸びるのは時間の問題だってことは、明白だ」
「なぁに、心配はいらんて。ふふふ」
ランベニオアはまったく気にも留めていない様子で笑った。
「なんだ、その余裕は?」
「わたしは、可愛い甥のために、今一つ、決定的な仕掛けをしておいた」
「決定的な仕掛け?」
「リーエス。おまえは知らんだろうが、次にエルドの娘御を転送したが、最後だ」
「なんだとぉ?」
「ふっふっふ。悪いようにはせんよ、トルフォ。わしは、久々に楽しんでおるんだ。それより、どうだ?おまえも支援世界の視察とやらに出かけてみては?」
「なにを呑気なことを言ってる?」
トルフォはさっぱり先が見えなかった。
「ナナン。おまえのためだよ」
「さっぱり、訳がわからん。どういうことか、話してくれ」
「なぁに、超時空転送システムを何百年も扱ってきたわしだ。なにをどうしたいか、おまえの気持ちも知っている。となると・・・?」
「先を言え!」
「おまえも、こっちに来たらどうだ。面白いぞ」
「バカなことを言うな。わたしが、そこで、あんたと一緒に暮らすことの、どこが面白いと言うんだ?」
「だれも、わしと一緒と言っとらんだろう?」
「あんたとでなきゃ、だれとだ?」
「ふっふっふ・・・。さっき言ったではないか・・・」
「だれだ?」
トルフォは確信がなかった。
「ふふふ・・・」
「ユティスか・・・?」
「どういう名前だったかなぁ・・・?」
「ユティス・・・、そうなんだな?」
「名前はどうでもいい。おまえの手に入れたい娘には違いない」
「はっきり言うんだ、ランベニオ!ユティスか・・・?」
「その娘とここで生涯暮らすのは、楽しいのではないか、トルフォ?」
「ここでだと・・・?ご免こうむる!」
「ダメか、この計画?」
「なにを狂ってる?エルフィアを離れて、ユティスを一緒になったところで、最高理事の地位は手には入らん!」
「なら、すべてお仕舞いだ。ふふふ・・・。転送プログラムに解除信号を送るまで・・・」
ランベニオは含み笑いをした。
「どう言うことだ?」
「転送プログラム変更・・・」
「しかし、もう転送システムは・・・」
「ふっふ。だれも気付きはしまいて。ユティスとかいう娘の固有振動は既にシステムに記憶させている。調べたって無理さ。わしほど転送システムに通じた人間はおらん。次に、転送システムが彼女を転送しようとすると、即座に、彼女だけ転送先が変更される。その転送先とは・・・」
「しかし、転送システムが、ユティスだけを単独で転送などするわけがない」
「それが、素人と言うもんさ。わしの頭と経験を舐めるでないぞ、トルフォ。転送時間を分割設定するなど、訳もないことだ。ユティスだけ、ここに移してみせるのもお手のものさ。ふっふっふ・・・」
「気でも狂ったか・・・?」
「はっは。あくまで、信用せんか。いいだろう。だが、それが、おまえの本当の望みではないのか?」
「うっ・・・」
「図星か・・・。選ぶんだ、トルフォ。最高理事か、ユティスの連れ合いか・・・。天秤にかけるなら、どっちだ・・・?」
「そ、それは・・・」
トルフォは言葉に詰まった。
「ふっふっふ。迷うようじゃ、最高理事にはなれんな。やはり、わしの設定は正しかったようだ・・・」
「本当に、そう、セットしたのか・・・?」
「わしをみくびるでない!」
ランベニオの口調が鋭くなった。
「しかし、地球からの転送は、アンデフロル・デュメーラがコントロールしてるんだぞ」
「エストロ5級母船のことなら、予想済みだ。アンデフロル・デュメーラの転送システムなど、エルフィア本星のものに比べれば、赤子みたいなもんだ」
「では、間違いなく・・・?」
「ああ。ユティスはここに現われるさ。一人だけとなってな。もちろん、その時に、おまえがいれば、独りじゃないがな・・・」
「うむ・・・」
「気に入らんか?」
「しかし、最高理事の座は・・・?」
「はっはっは。おまえの親父も欲は深かったが、血は争えんものよのぉ。おまえも、なかなかどうして、実に可愛いぞ」
「真面目に聞け!」
「ユティスが手に入ったら、最高理事の地位など、簡単じゃろう?」
「なにが、簡単だ。彼女の心は、ウツノミヤ・カズトにあるんだぞ!」
「ならば、おまえに仕向ければよい」
「それができれば・・・」
「ほーーーう。男として自信がないかぁ。こりゃ、致命的だわい」
ランベニオは愉快そうに言った。
「うるさい!」
「はっはっは。とにかく、わしを信じるのか、そうでないのか?」
「く・・・」
トルフォはとっさに答えられなかった。
「うん?」
「わ、わかった・・・。とにかく、状況を知らせてくれ・・・」
トルフォは取り合えず切り抜けた。
「リーエス。はじめから、そのつもりだ」
国分寺姉弟の10日間の外遊の間、事務所の決済はすべて、開発部マネージャーの岡本と、経理部マネージャーの茂木が権限を委任され、すべてを代行することになっていた。
さささっ。
「イザベルちゃん・・・?」
「あ、はい?」
「あの、今日なんだけどさぁ・・・」
「はい・・・」
そんな二人に当然、女性たちにチェックが入らないわけがなかった。
「こらぁ!真紀や俊介がいないからって、サボるんじゃないわよ、二宮」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うーっす」
二宮は首尾よくバイトに誘い込んだイザベルに片目をつむった。
「まぁ、二宮さんたら・・・」
イザベルは茂木や岡本に睨まれないように、すぐに書類に目を移した。
「二宮先輩、あからさまなんだもんなぁ。イザベルさん、よく我慢できるよなぁ・・・」
和人がユティスとアンニフィルドを見ながら言った。
「あら、好きな男に見つめられて嫌な気なんてしないわよ、普通」
アンニフィルドが答えた。
「ええ?」
「なんなら、ユティスにきいてごらんなさい?」
ぱち。
アンイフィルドはユティスにウィンクした。
「アンニフィルドの言ったこと、本当なの?」
和人はユティスを振り向いてきいてみた。
「お試しされますか・・・?」
じぃーーー・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぴぴぴぴ・・・・!
びーーー!
ユティスのうるんだ瞳が、和人にロックオンした。
どっきん・・・!
ごっくんっ・・・。
かぁ・・・。
ずきゅぅーーーん!
ユティスの眼差しは和人ノハートを完璧に射抜いた。
「こ、降参!」
和人はたちまち白旗を挙げた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「こらぁ、そこぉっ!」
茂木の赤外線レーダー網に、和人の熱くなったハートがたちどころに引っかかった。
ひゅぅーーーん・・・。
しゅわしゅわ・・・。
しゅん・・・。
和人の消化班がかろうじて火を消し止めた。
「宇都宮さん、どうしたんでしょうねぇ?」
イザベルは無邪気に、二宮に尋ねた。
「ユティスに見とれてばっかりで、しかられたんじゃないっすか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
[まぁ!二宮さんと同じじゃないですかぁ!」
アンニフィルドが舌を出して、イザベルにウィンクした。
--- ^_^ わっはっは! ---
一方、クリステアの療養のための一時リタイヤと、フェリシアスの付き添いリタイヤで、キャムリエルはクリステアの代役として、地球上のセキュリティー任務に携わっていた。
「あは。きみ、すっごく可愛いね。だぁれ?」
キャムリエルは屈託のない笑みを浮かべて、石橋に話しかけた。
「ええ・・・?わ、わたしですか?」
「うん、そうだよ」
「あのぉ、わたし、石橋可憐といいます・・・」
石橋はいきなりで、びっくりしたが、キャムリエルの笑顔になんか憎めないものを感じていた。
「ステキな名前だね。本人も名前のとおりだよ」
「あなたは?」
「こりゃぁ、失礼。ぼくは、キャムリエル」
「きゃあ、ムニエル・・・。ですか?」
「変かなぁ?」
「お魚みたい・・・」
「へぇ?」
--- ^_^ わっはっは!---
「まぁ、いいや。きみのことカレンて呼んでいいよね?」
「あ、はい・・・」
「よかったぁ。きみみたいにステキな女の子と一緒に仕事できるなんて。ぼくは、アンニフィルドとクリステアと同じ、SSなんだ。今日は、一緒に仕事とかで、よろしくね」
「SS?」
「あれ、カレン、SSのことを知らないの?」
「と言われても、わたし・・・」
「ごめん。SSってのは、セキュリティー・サポートの略で、要は用心棒ってことだよ」
「ええっ・・・?用心棒って、あなたたち、裏のお仕事をしてるんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「裏の仕事・・・?用心棒がかい?」
「おヤクザさんじゃないんですか・・・」
「オヤクザ、なんだいそれ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違うんですか?」
「オヤクザってのが、なんなのか知らないけど、ぼくたちは要人の護衛をするのが使命なんだ。つまり、ユティスとカズトの身の回りの危険を察知して、速やかにそれを排除する」
「じゃ、護衛官さんということですか?」
「そう。そう言うことさ」
「よかった・・・」
石橋は心底ほっとしたようだった。
「それが、そんなにいいことなの?」
「はい。因縁つけられて、何百万円も要求されるのかと思い、冷やっとしました」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは。因縁だなんて。まさっかぁ!それじゃ、まるで、ぼくは山賊じゃないか」
キャムリエルはわざと恐い顔をした。
「こらーーーぁっ!そこのお嬢さん、有り金全部置いてけ!もし、できればですけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
「きゃあーーーっ!」
「あははは!カレン、きみは面白いね。それに、とっても可愛いよ」
「可愛い?」
「リーエス。とってもね。ぼくは、きみのその困った表情、可愛いくて、ステキだと思います」
ぱちっ。
キャムリエルは、片目をつむってみせると、再び愉快そうに笑った。
「あはは・・・」
「もう、笑わないでください。わたし、本当にびっくりしたんだから」
「ごめん。ごめん。もう、しないから」
「エルフィア人男性って、あんまし地球人と変わんないんですね?」
「そうかな?」
「はい。二宮さんそっくりです」
「ぼくが、彼そっくりだって・・・?似てないと思うけど・・・」
キャムリエルは、壁に掛けてある鏡を覗き込んだ。
「違います。顔じゃなくて、性格です!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いやぁ、顔が似てるって言われたら、どうしようかって。真剣にびくびくしてたよ、カレン」
--- ^_^ わっはっは! ---