278 帰省
■帰省■
「この小型連絡用宇宙機は、母船と惑星上を行き来するためのものです。性能的には恒星系内の移動にも利用できますが、宇宙放射線や浮遊物を避けるためにも、普通は、より電磁場を強く発生することができる母船を利用します」
セレカはそう言うと、右手を広げて、直径3メートルの透明で円筒状の室内を指した。
「この部屋は、乗員の搭乗や降機のためにある転送質です。定員は5名ですが、転送能力は10名くらいまではできます」
しゅん。
セレカはみんなを転送室の幅1メートルの通路から外の一つの部屋に案内した。。
「この宇宙機は円形をしていますので、各部屋は扇形をしてます。この宇宙機は2つの大きな部屋と3つの小部屋に分かれています。これからご案内するのは、この宇宙機のメインデッキにあたる制御室です」
セレカは窓一つないその扇形の部屋に皆を入れた。
「壁は制御一つで前面スクリーンになります」
ひらり・・・。
セレカが右手を振ると、壁に外の様子が映された。
「わぉ・・・」
ジョーンズは声を上げた。
「スクリーンは任意に倍率を変更できます。只今、約3倍ですが、惑星10000キロ上空からでも1ミリ四方を判別できる解像度があります。音声も中継できます」
セレカがまた右手を一振りすると、途端に下の様子が伝わってきた。
「キャムリエル、おまえ、意外と面白いヤツだなぁ」
二宮の声が飛び込んできた。
「きみこそ、ユーモアのセンスたっぷりじゃないか」
「そうかぁ?」
「リーエス。二宮は、和人にユーモアのセンスを伝授したって話し、聞いてるよ」
「えへ。そんなに?」
「リーエス。エルフィア超銀河団の中じゃ有名だよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わはは。いやぁ、そっかぁ。オレは宇宙的に有名なのかぁ・・・」
二宮の笑い声が響いた。
「だって、それでトルフォをコテンパンにやっつけっちゃったわけだからね」
「ああ。トルフォのことなら聞いたことあるぞ。体はでかいらしいが、お頭はからっきしだって・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なにしろ、オレの直伝のジョークを理解できなかったらしからな」
「でもさ、トルフォも、単に地球語の表現を知らなかっただけじゃないかなぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「地球語?」
「違うのかい?」
「ああ。アンニフィルドだって知ってる地球語を知らないなんて、トルフォって、エルフィアでも随分田舎の出身なんだなぁ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。やっぱり、ニノミヤ、きみは本当に面白い男だよ」
「ありがとよ」
「まったく、あいつら、なに惚けたこと話してるの?」
アンニフィルドがスクリーンに映った二宮とキャムリエルにあきれた。
「二宮さんらしいね、ユティス?」
「うふふ。そう思いますわ」
和人とユティスは二宮とキャムリエルの会話に笑った。
「でも、エルフィア超銀河中って本当なの?」
和人は、自分のユテイスに対する女神さま宣誓が、自分が思ったより遥かに大きな反響を得ていることに、気後れしていた。
「え、本当なんですか?」
ユティスも思わずアンニフィルドに振った。
「ああ、あれね・・・。地球で言うゴールデンタイムの看板ニュースキャスターが取り上げたヘッドラインみたいなものよ。そりゃあ、みんな知ってるわよぉ」
「げげげ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そういえば、宣誓は中途半端で終っちゃってるんでしょ?いつ完成させるの?あんまり時間を空けると、エルフィア大教会が騒ぎ始めるわよぉ」
ぱち。
アンニフィルドがウィンクをした。
「そ、そんなぁ・・・」
どっきんっ。
「ユティス、あなたもよ。わかってるでしょ?」
「リ、リーエス・・・」
かぁ・・・。
タイミングを逸した二人は、あれから宣誓についてほとんど話したことがなかった。お互いの気持ちはわかっていたのだが、あらためて宣誓をし直すとなると、既にみんなが期待してるだけに、どうにも小っ恥ずかしかった。
「で、和人がしたって言う、その女神さま宣誓ってなんのことだぁ?」
二宮がキャムリエルにきいた。
「え、知らないの、女神さま宣誓のことを・・・?」
「いや。そんな宣誓をさせる秘密結社なんて、聞いたこともないな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「秘密結社なんかじゃないよ」
「わかった。カルトだろ?」
「カルト?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「人をはばかるエロチックな儀式をやるやつさ。女神と言えば、女教祖!そうだろ、キャムリエル?」
にたぁ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「飛躍しすぎだよ、ニノミヤ。エロチックなんかじゃないよ。普通に抱擁し合って、キッスするだけだよ。地球でも、これくらいするだろ?」
「だから、それをスッポンポンでするんだろ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「スッポンポン?」
「わはは。キャムリエル、知ってて知らない振りしてもダメだぞぉ」
にやり。
「なんのこと?ボクにはさっぱりなんだけど?」
「和人はユティスとそこまで進んでるってわけだな?」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
エメリアが大田原にしばしの別れの挨拶をした。
「時間です、トアロ・・・」
「エメリア・・・」
ぎゅっ。
エメリアと大田原は抱きしめ合うと、頬をに寄せ合って名残を惜しんだ。
「ニノミヤさん、ユティスさん、和人さん、アンイフィルドさん、そしてキャムリエルさん。わたくしは、あなた方のことを決して忘れませんわ」
「大叔母様・・・」
ひらり・・・。
エメリアに船長のシャディオンが合図した。
「行こう、エメリア。あまり長居をすると、反対勢力の連中がここを嗅ぎつける」
「ええ。わかったわ。あなたの言うとおりにするわ」
ついに、真紀と俊介が、セレアムに向かう時間が来た。セレアムの宇宙機の側で、俊介たちは、最後の挨拶をしていた。
「行ってくるぜ、アンニフィルド・・・」
にっ。
俊介はアンニフィルドを見つめて笑った。
「どうぞ」
「え?それだけかい?」
「たった10日なんでしょ?」
「きみは平気なのか?」
「あなたは平気なの?」
相手の質問には答えないで、そのまま返すという最強の切り替えしで、アンニフィルドは答えた。
「平気なわけないだろ・・・?」
「そうなの・・・」
「きみが側にいてくれないとな・・・」
俊介はしんみりと言った。
「ええ?」
どきっ。
アンニフィルドは思ってもない俊介の優しい言葉にぐっと来た。
「俊介・・・」
にやり・・・。
「でないと、女の子がいっぱい寄ってきて困るだろ?」
「ばか!さっさと行けばいいんだわ!」
ぷいっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あらあら・・・。俊介ったら、自分で言っておきながらはぐらかしちゃって・・・。自分の恋人だってのに、らしくないんじゃないの?」
エメリアはそんな二人を見て少しからかいたくなった。
「あれは、どう見ても、俊介の方が照れ隠しをしているな。はっは」
大田原は、姉のエメリアにそっと耳打ちした。
「素直じゃないわねぇ・・・」
エメリアも苦笑した。
「あれで、俊介はけっこうナイーブなんだよ、エメリア」
「あなたに似てるわね?」
「さぁ、昔のことは忘れたな」
「調子のいいこと!」
すたすた・・・。
エメリアはそう言うと、アンニフィルドのところに行った。
「アンニフィルド、ごめんなさいね・・・。俊介は照れてるのよ」
そして、エメリアはアンニフィルドを抱擁した。
ぎゅ。
「はい、エメリア大叔母様・・・」
「あなたもきっとセレアムに来てくださいね。わたくしは、あなたのことは大好きですよ。とっても愛情に溢れた優しい女性。俊介もいい奥さんを選んだわぁ・・・」
「あの。まだ奥さんじゃないんですけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふふふ。いいじゃない?わたくしには、わかりますよ」
「はい・・・」
「あのね。あの子は本当はあなたに完全にノックアウトされてるのよ」
「恐らく・・・」
「うふふ。いいこと、アンニフィルド。俊介が宇宙機に乗り込む前に、まず、思いっきり横っ面を張りなさい」
「ええ?」
アンニフィルドはびっくりした。
「そして、その後は、わかるわよね?」
「・・・」
「トアロ。お会いできて本当によかったわ。あなたの無事な姿を見て、幸せです」
エメリアは実の弟を抱擁すると、頬にキッスした。
「今度は、必ず戻ってきてくださいね?」
「ああ、エメリア。必ず・・・」
「お願いします!」
エメリアは右手を大きく上げた。
ぴかぴか・・・。
それに答えるように、小型宇宙機は光を点滅させた。
いよいよ、国分寺姉弟がセレアムの宇宙機に乗り込む時が来た。
さくさく・・・。
真紀と俊介たちは、小型宇宙機の真下へと歩いていった。
つかつか・・・。
「俊介・・・」
アンニフィルドは俊介のところに歩み寄った。
「はは。やっぱり最後は・・・」
ぱしーーーーんっ!
アンニフィルドは俊介の横っ面を張った。
「な、なにすんだ・・・?」
「・・・」
「ああーーーっ!」
それを、ここにいるみんなが目撃した。
「俊介・・・」
「アンニフィルド!」
「わぉ・・・!」
「痛っそう・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
みなは口々に驚きの声を上げた。
じいっ・・・。
アンニフィルドは俊介を睨みつけた。
「・・・」
「・・・」
さあっ。
エメリアは右手で宇宙機への転送を一時控えるよう合図した。
とん・・・。
ぎゅっ。
出し抜けにアンニフィルドは俊介に寄りかかると、両腕をその首に絡めた。
「平気なわけないじゃない・・・」
ちゅ・・・。
アンニフィルドは目を閉じると俊介の唇に優しくキッスした。
「・・・」
ぎゅ・・・。
俊介はアンニフィルドを抱きしめると、自分から彼女の唇を求めた。
「・・・」
「やれやれ・・・」
ジョーンズは二人から目を背けた。
「アンニフィルドったら・・・」
ユティスもびっくりしていた。
「常務とアンニフィルドが恋人だって言ってたのホントだったんっすね・・・」
二宮もあっけにとられていた。
「そのまんま、一緒にセレアムに行かせちまえばいいんじゃないのか?」
ジョバンニがユティスに言った。
「いけませんわ。職務放棄になり、SSライセンスを停止されてしまいます」
ユティスはすぐに反論した。
「キッスはいいのか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。女性からリクエストのあったキッスには、男性はかならずお応えする慣わしです」
ユティスは当たり前のように二宮に説明した。
「ひょえーーー。すっげぇ、いい習慣じゃなっすかぁ!」
二宮は羨ましそうに、俊介とアンニフィルドを見つめた。
--- ^_^ わっはっは! ---
しばらく抱き合っていた俊介とアンニフィルドは、やがてお互いに開放した。
「いってらっしゃい・・・」
さくさく・・・。
アンニフィルドは微笑みながら、俊介から後ずさりしていった。
「いってきます」
俊介は右手を高く挙げた。
ひらひら・・・。
二人の会話を確認すると、エメリアは宇宙機に待機しているスタッフに合図した。
ぽわぁ・・・。
俊介、真紀、そしてエメリアたちセレアム人は、黄色味がっかった白い光に包まれていった。
ぽわぁ・・・。
「常務たち、行っちゃうんだね・・・?」
和人がユティスに言った。
「リーエス」
さくさく・・・。
そこにアンニフィルドが戻ってきた。
「お帰り・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは。ばか・・・」
にこ。
和人の冗談は、アンニフィルドに伝わっていた。
ぱぁーーーっ。
俊介たちを包む白い光は一段と強くなり、俊介たちの姿は見えなくなった。
ぱっ。
そして、次の瞬間、全員が消えていた。
「下がるんだ。発進するぞ!」
大田原は、一同に警告を発した。
ふわっ・・・。
小型宇宙機は全員の頭上20メートルに停止していたが、さらに2、3メートル浮かび上がった。
そして、一同は、頭脳のなかにエメリアのメッセージを聞いた。
「地球のみなさん、エルフィアのみなさん、短くも本当にステキな会見をありがとうございました。わたくしたちは、国分寺真紀、国分寺俊介を伴い、しばらくセレアムに帰還します。数日の滞在を経て、再び地球に戻ってまいります。地球はアソシエーションが人々を支配する難しい局面にありますので、正面切って堂々宇宙機を着陸させることができませんでした。いつかは、お互いの信頼関係が確立した折には、いつでも地球に来れますので、その時には、みなさまのうち何名かをセレアムにご案内できるでしょう。では、本当に短い時間でしたが、ごきげんよう。セレアムの友人、地球のみなさ・・・」
ひゅぅーーーん。
ぱっ。
ぱぱ・・・。
そして、エメリアのメッセージが消えると、宇宙機はあっという間に数百メートる上昇し色を変えながら点滅を繰り返した。
「いってらっしゃい、俊介・・・」
ひゅーーーんっ。
アンニフィルドが思念波を俊介に送った瞬間、宇宙機はゆっくりと色を変えながら上昇していった。
ぴかぴか・・・。
しゅん!
宇宙機は最後の点滅を繰り返すと、あっと言う間に他所らに吸い込まれていった。
「母船に収納されたわ・・・」
アンニフィルドが俊介たちの連絡用宇宙機が、セレアムの母船に収納されたことを告げた。
ぴかぁーーーっ。
突然、夜空に黄色い光の点が満月のように輝くと、激しく色を変えて点滅した。
「いくぞ!」
大田原が叫んだ。
ぱっ。
そして、その瞬間、セレアムの母船は夜空に溶け込んでいった。