270 麦酒
「アンニフィルド登場よ。ここから第6部ね。これも言うの忘れてたわぁ・・・。ホント、申し訳ないわ。俊介たち、セレアムに一度帰るんだけど、当然、わたしは地球でユティスたちを守らなくちゃいけないの・・・。10日くらいどうってことないじゃないかって?それね、恋する乙女の気持ちを逆撫でだからね!」
■麦酒■
会社と異星人たちに関する重要機密について、真紀の説明が続いていた。
「と言うことで、ここがいかに重要かつ大切なところか、わかったと思うわ」
「そうね。でも、こんな一会社の事務所じゃ、狙い放題じゃないかしら?」
岡本が心配そうにアンニフィルドを見た。
「リーエス。そこで、ここを時空制御し、生態認証ID及びPWの設定をしまぁーす」
「関係者以外は、入れなくするというのね?」
「はい、ご名答。付け加えて言うなら、銃弾、砲弾も入れなくなるわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そんなのが入ってくるのは、絶対、お断りよ」
茂木が目を吊り上げた。
にこっ。
「ま、心配しないで、社員のみんなに迷惑かからないようにするから」
アンニフィルドは微笑んだ。
「もう十分おかけいただいておりますが・・・?」
二宮はアンニフィルドを見て、目を細めた。
きっ。
「二宮、あなたは特別よ。早くから和人に係わってきたし、不幸を呼び寄せる暗黒のエネルギーに包まれてるわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「冗談じゃない!」
「はいはい、そのくらいにしてよ。で、どうするの?」
真紀がみんなを静めた。
「わたしが、パスワードと言ったら、こっそり、それをアンデフロル・デュメーラに伝えて。そうしたら、自動でセキュリティが設定されるわ。気をつけて欲しいのは、8音節以上の言葉で言うことね。わかったぁ?」
「アンデフロル・デュメーラ?」
「それって、だれよ?」
ぽわんっ。
「リーエス。わたくし、エストロ5級母船のCPUで、擬似精神体です」
突如、社員の目の前に、アンデフロル・デュメーラが擬似精神体として現れた。
「ぎゃあ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「な、なに?」
「だれよぉ?」
いきなり、アンデフロル・デュメーラが現われたので、事務所の人間たちは、腰を抜かさんばかりに驚いた。
一方、エルフィアでは、ユティス拉致とクリステア障害の容疑者について、残る2人を速やかに捕捉するため、エルドが考えを巡らせていた。
「ふむ。ブレストとシェルダブロウは逃走したか・・・」
エルドはアンニフィルドの報告についてメローズに話した。
「リーエス。クリステアとフェリシアスが作戦を離脱しているので、アンニフィルドとキャムリエルの2人で継続するしかありません」
「まぁ、Z国大使館から逃げ出したところで、シェルダブロウがジャンプしたとしても、そう遠くへは行けまい」
「リーエス。もし、ジャンプしても、ファナメルのシールドがない今は、アンンデフロル・デュメーラの時空歪センサに探知されてしまいます。逃げられませんね」
「そう言うことだ。となると、必然的に行動範囲は狭まるな」
そこにアンデフロル・デュメーラから、経過報告が入った。
しゅん・・・。
「ん?」
「エルド、わたしです」
「やぁ、アンデフロル・デュメーラ、どうっだったね?」
「シェルダブロウもブレストも超時空ビーコンを装着している様子はありません」
「そうだろうな・・・。ということは、彼らの軌跡はリアルタイムで掴めないわけだ」
「リーエス」
「日本に潜伏しているのなら、後は時間の問題だろう」
「リーエス」
「アンデフロル・デュメーラ、二人に投降を呼びかけてくれたまえ。こちらも彼らをこれ以上傷つける意図はない。お互い時間と精神の無駄だ」
「リーエス。それで、Z国の人間はいかがするおつもりで?」
「地球人のことは地球人に任そう。これをかれらが上手く処理するというのも、カテゴリー2文明の条件になる。首尾よく処理できれば、地球の文明は確実に前進するよ」
エルドは自分に言い聞かせるように言った。
「アンニフィルドに数日間指揮を任せるように伝えてくれ。キャムリエルは彼女に従うように」
「リーエス」
「うむ」
「しかし、この大変な時期に姉弟揃って海外旅行すっかぁ?いいっすよねぇ・・・」
二宮は羨ましそうに、俊介と真紀を交互に眺めた。
ぱこーーーん。
「海外旅行じゃない。銀河間旅行だ!」
俊介が早速二宮の頭を新聞紙で打った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「痛ぁ。なにすんですか、常務?」
「おまえの無知も極まれりだな」
「そうよ、二宮」
「あ、真紀さんまでも」
「あのね、セレアムは地球のどこかでもないし、太陽系周辺どころか、天の川銀河にすらないのよ。5600万光年という距離がどれくらいか、ぜんぜんわかってないわね?」
真紀があきれたように言った。
「どうせ、宇宙船でジャンプするんでしょお?『お船に揺られて1ヶ月』じゃないんっすから、大したことないじゃないっす」
「それでも、片道2日やそこらかかるんだぞ」
「アルゼンチンやチリあたりに行くのと同じじゃないっすかぁ」
「もう、夢がないわねぇ、あなたって人は・・・。あははは」
--- ^_^ わっはっは! ---
真紀はそう言って、二宮の真剣な表情が可笑しくなった。
「しかしな、二宮、今回の騒動はZ国がからんでるとは言え、大方はエルフィア人自身のことなんだ。逆にわれわれがタッチできるようなことじゃない。あちらさんも、妙に気を遣ってきていてな・・・」
「そうよ、俊介の言ったとおり、エルドから、逆にセレアムに行くべきと言われちゃったわ。アンニフィルドたちもいることだし、後のことは任せろってね」
「そうっすか。なるほど・・・」
二宮は頷いた。
「で、車のことだが、オレたちがいない間、前にも言ったように、おまえが面倒見てくれないか?」
「うっす。本当にいいんっすかぁ?」
「ああ。ただし、あんまし私的に使うなよ。一応会社名義だからな」
「かかった費用は会社につけといていいわよ」
「あ、どうも。私的にって、どのくらいの範囲っすかねぇ?」
「まぁ、遅くなった時のイザベルの送り迎えくらいなら、許せるわね」
「そうだな。会社で車で通勤してないのはおまくらいだからな」
「ありがとうございます。じゃ、オレ、車見てきますから」
「おう、頼むぞ。ほれっ」
ぽーーーん。
俊介は車のキーを二宮に投げ渡した。
「うーーーっす」
ちゃりん。
二宮は、俊介たちが不在中にワゴン車を任されることになった。
「あは、あんたも10日くらいは車のオーナーってわけね?」
にこ。
「洗車とワックスがけ頼まれただけでしょ?」
にこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
岡本と茂木が二宮に微笑んだ。
「ま、そういうことにしときましょう。わはははは」
(イザベルちゃんの送り迎えならよしっと。途中、海に寄って、お泊りしたらいかんとは言わなかったもんなぁ。寄り道OK。えへへへへ・・・)
二宮は愉快そうに笑った。
--- ^_^ わっはっは! ---
(さぁ、どこの宿、予約しようかなぁっと・・・。やっぱ、天然温泉だよなぁ・・・。うふ・・・。うふ・・・。ぐふふふふ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「しかし、ソヨタのワゴン車の中って広いんっすよねぇ。掃除が大変そうだなぁ・・・」
二宮が考えてることとはまったく別のことを独り言していると、岡本と茂木が突っ込んできた。
「掃除が必要なくらい、中でなにを散らかそうっていうのかなぁ?」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうそう。イザベルと二人でドライブし放題ね」
ずっきん!
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、いや、これ公用車っすから、一応・・・」
「ばればれよ、二宮。イザベルを泊りがけで海ドライブに誘ってるんだってぇ?」
「ええ・・・?ち、違いますよぉ。まだ、誘ってなんかいませんったら」
二宮は慌ててそれを否定した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あは。まだ、誘ってなんかないって、それ、これから誘うんだってことでしょ?」
「げげげ、墓穴掘っちまったぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ち、違いますったっら。イザベルちゃんのバイトの送り迎えに使っていいって、真紀さんから聞いただけっすよぉ・・・」
「バイトの送り迎え・・・?怪しいぞぉ・・・?」
岡本が茂木を見た。
--- ^_^ わっはっは! ---
「送り狼、二宮祐樹!」
「だぁ!違うってば!」
「で、ホントに決まったんだ、イザベルのバイト?」
急に岡本が真顔になった。
「あ、岡本、ついさっき、真紀から聞かなかった?」
「いや、知らないわよぉ」
「えへへへ。オレ、オレ、オレの手柄。ばっち、決まったんっすよぉ」
でれでれ・・・。
二宮は得意満面に言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「知ってる、岡本?まったく、イザベルを絶対に説得するからって、来る問い合わせに全部決定済みだって、言ってたのよ。しかも、石橋まで使って、自分が事務所を空けてる時は、そう答えろって」
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮、それホント?」
「いや、それは、そのぉ・・・。あははは、そういうことかなぁ、なぁーんて・・・。えへ」
二宮は照れ隠しした。
「アホ・・・」
ぽかり。
「あ、茂木さんまで」
「真紀が広告代返せって言ってたわよ、二宮」
どき・・・。
「ホントっすかぁ、その冗談?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「冗談なんかじゃないわよ。1週間分だから、10万円以上はかかってるわね。来月の報酬から天引かれるんじゃないの?」
茂木が面白がって言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「そ、そんなぁ・・・。真紀さんと常務が出かける前に、ちゃんとイザベルちゃんがバイトに来てくれることを、期待されたとおり決めたじゃないっすかぁ・・・」
二宮は泣き顔になった。
「期待してたのは、あんたじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「違いますったら。常務から直々に頼まれたんすからね」
「どうしようもなく日程が押してしまって、イザベル以外、他に当てがなくなったからでしょ?」
茂木が真相を暴いた。
「うっ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「で、どうやって、イザベルを口説いたのよぉ?」
岡本が身を乗り出し、二宮に興味津々できいてきた。
「ホント、そっちの方が興味あるわよねぇ・・・、岡本」
「うん。うん。こら、二宮、ちゃんとホントのことを言いなさい」
「ひえーーー。どうやってく口説いたって・・・、別に、ただイザベルちゃんにお願いしただけっすよぉ・・・」
「『イザベルちゃん。オレと一緒に働いてくれ』って?」
茂木が二宮の代わりに答えた。
「ぷふっ。茂木ったら、なぁにそれ?ぜんぜんロマンチックじゃないわぁ!」
岡本が吹き出した
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは・・・」
「はははは・・・」
「あ、こら、バカにしてぇ!」
(ちゃんとプロポーズしたんだからなぁ・・・。今に見てろよ、この二人・・・。イザベルちゃんと絵に描いたようなナイス・カップルになってやる!)
ぽわぁーーーん。
エルドの精神体が、和人たちの前に現われた。
「まぁ、エルド!」
にこ。
ユティスは嬉しそうに顔を崩した。
「ベネル・ロミア(ごきげんよう)、諸君」
にっこり。
エルドも笑顔で答えた。
「国分寺姉弟がセレアムに行く日だね?」
「リーエス。わたくしたちも、大田原さんより会見に立ち会うことをお願いされましたわ」
「うむ。わたしに代わって、しっかり、セレアムの使節団に挨拶してくれたまえ」
「リーエス」
「あのぉ、エルド・・・」
「なんだね、アンニフィルド?」
「Z国が、また動いてます。ジョバンニから情報を伝えてもらったの」
「合衆国のSSだね?」
「リーエス。どうやら、二宮から情報が行ったようなの。石橋みたく深層心理をコントロールされているのかもしれないわ」
「本当か?」
「わからないわ。でも、セレアムとのランデブーにあいつらが一枚噛んでくるのは間違いないと思うの。どういう形でくるのか、これから、ジョーンズたちと確認するわ」
「リーエス。護衛は最小限にしたまえ。地球人の問題は地球人で片付けるべきだからだ。そうしないと、そこから学ぶべきことを学ぶことができなくなる」
「リーエス。わかってるわ」
「和人、ユティス・・・」
「リーエス」
「リーエス」
「大変だと思うが、セレアムの一行にはぜひよろしく対応してくれたまえ。わたし自身が行けないのはしごく残念だが、まだブレストとシェルダブロウの捕捉が終っていない。わかったね?」
「リーエス」
「リーエス」
「アルダリーム(礼を言うよ)」
「姉貴、7時だ。そろそろ、時間だな」
辺りがすっかり真っ暗になり、俊介は時計を確かめた。
「ええ。二宮を呼んで」
「了解」
「おーーーい、二宮、車、出せるか?」
「うーーーす。ガソリン満タン、トランクもなにも積み込み終了です」
二宮はワゴンの中を最終確認した。
「カズトとユティスも来るんだろう?」
「うーす。でも、和人は自分の車でユティスたちと行くそうです」
「じゃ、この車にはオレたちだけか?」
「そおっすね」
「ユティスと和人が来たら、すぐに出るわよ」
「うっす。真紀さん」
ぴっ。
ぴぴ、ぴっ。
二宮はGPSでルートの確認をした。
「なんか、いいっすね?」
「なにがだ?」
「夜のドライブっすよ。なんか悪戯っ子に戻った気分っす」
「あなたは、いつもそうじゃないかしら?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「大田原さんはどうしてるんだろう?」
和人が気をもんだ。
「リーエス。予定では、大田原さんは黒塗りの専用車で、もうインター過ぎた最初のパーキングエリアで待機してますわ」
ユティスが言った。
「そういうことなら、すぐに出発しよう。まず、常務たちのマンションまで行こう」
「リーエス」
ぶろろろ・・・。
きぃ・・・。
和人はユティスと一緒に真紀と俊介のマンションに着いた。
「おう、来たか、二人とも」
ちょうど二宮と俊介がビールを積み終わったところだった。
「どうも、二宮さん、常務」
「こんばんわ、お二人さん」
「アステラム・ベネル・ナディア(こんばんわ)」
「やぁ、ユティス。もういいのかい?」
二宮が言った。
「リーエス。わたくしのことでしたら問題ございません。真紀さんはどちらにおいでなんですか?」
「姉貴なら、メイクを直してる最中だ。呼ぶか?」
俊介が部屋の方に顔を向けた。
「ナナン。お待ちしますわ」
「いいって。どのみち、もう時間だ。ちょっと待ってみな」
そう言うと、俊介は真紀を連れに行った。
「しかし、ビール何缶積んだんですか?」
和人が山積みのビールを見て感心した。
「20ダースくらいかな・・・。常務が飲んでなきゃだけど」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ!うふふふ」
「セレアムには酒の関税はないんだとか・・・。持っていけるだけ、持って行くんだと、常務がいってたんすよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮は淡々と語った。