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269 身内

■身内■




株式会社セレアムでは真紀の朝礼が始まっていた。


「みんな、集まってもらったのは、直接ビジネスに関してじゃないけど、どのみち、わたしたちが係わざるをえないことを伝えるためよ」


「ユティスになんかあったのね?」

岡本が早速言った。


「ええ、その通り。彼女たちを狙って、Z国が国際紛争を起こすかもしれなかったの。エルフィア本星から応援が来て、ことに当たってたんだけど、今もって、収拾には至っていないわ」


「ユティスたちは?」

「そう言うことで、しばらくは、そっちに当たることになるわね。ただ、クリステアは負傷して、療養が必要になってるんで、当分、ここには復帰できそうにないわ」


「大丈夫なんすか?」

二宮がきいた。


「ええ。二宮、気にしてくれて、ありがとう。とにかく心配しないで。エルフィアの医療は地球と比べ物にならないくらい進んでるから、命とかに別状はないのよ。けど、無菌の専用のセルの中で、3、4日は集中治療を余儀なくされるわね」


「お見舞いに行かなくていいっすか?」

二宮が心配そうに言った。


「ありがたいけど、32000キロ上空に行けるんなら、そうしてもいいわよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「へっ・・・?それ、宇宙空間じゃないっすか?」

「そうね。それで、クリステアの臨時交代要員が来てるんだけど、午後には、ここに現われることになってるわ」


「なんて方ですか?」

石橋が尋ねた。


「キャムリエルって男性よ、石橋」


「ち、男か・・・」

がくっ。

二宮が肩を落とした。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ここからは、お願いなんだけど、わたしも俊介も、遠地出張が入っちゃって、明日から10日程度、会社を不在にせざるを得なくなったの。代理の権限は、岡本と茂木に頼んであるから、旅費や支払いの決済するものがあるなら、二人に依頼しなさい。もし、トラブりそうなことが予想されるものがあれば、早めにわたしか俊介に言っておいて」


「はぁーーーい」

「うーーーす」


「それで、本当にもしもの場合は、アンニフィルドに言って。彼女なら俊介とコンタクトがつくから」

「はぁーーーい」


「でも、どうして、アンニフィルドなんすか?」

二宮はいぶかった。


「バッカねぇ。以心伝心っての知らないの、二宮?」

茂木が言った。


「で、真紀さん、どこに行くんすかねぇ?」

「大伯母さまのところ」


「て言うと、セレアム・・・?」

「海外かぁ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ま、そんなとこね」

「うぁ、いいなぁ・・・」


「お二人はクォーターなんでしたよね?」

「そうよ。それで、緊急連絡があれば、和人たちに頼んで」


「和人たち?」

「そ。ユティス、アンニフィルドに、キャムリエルよ」


「また、なんで?」

「彼らにしか、連絡が取れないからよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「へ・・・?」

「海外仕様のスマホ持ってかないんですか?」


「たぶん、使い物にならないから・・・」

「まさか、お国にスマホの通信インフラがないとか?」

「ええ。その通り。ないの」


「ない?これは意外だわ・・・」

「真紀の国って、そんなに遅れてるの?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ふふふ。違うわよ。ギガ帯の電磁波インフラなんて、古過ぎて、1万年以上前に廃棄になってるだけ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「はいっ?」


「ま、そんなことどうでもいいから、後、よろしくね。午後は、わたしたちも準備で忙しいから、なるべく午前中にしてちょうだい」


「はぁーーーい」

「うーーーっす」


「キャムリエルか、どんな男だろうね?」


「そうそう、キャムリエルは、エンジニアだから、地球の情報処理マシンにも興味を持ってるそうよ。システム室が彼の担当になるから、開発部のみんなは、ちゃんと挨拶しときなさい」


「はぁーーーい」

「うーーーっす」


「じゃ、みんな仲良くやってね」

「はぁーーーい」

「うーーーっす」




クリステアの容態はひとまず落ち着き、フェリシアスの見守る中、あとは回復を待つだけになっていた。


「アンデフロル・デュメーラ、準備はいいかい?」

「リーエス、SS・キャムリエル。いつでも秒読み開始できます」


フェリシアスとキャムリエルは、エストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラの転送室で、和人とユティスの二人を見送りに来ていた。


「さぁ、ユティスも和人もアンニフィルドも、先に地上に戻ってくれたまえ。ここに何人いたところで、クリステアの回復が早まるわけじゃない。それより、アンニフィルド、ブレストとシェルダブロウの行方を捜査しなくてはならん」


「リーエス」

アンニフィルドは頷いた。


「リーエス。お二人とも先に行っててよ。ボクも後で行くことになるから」

「リーエス、キャムリエル。お待ちしていますわ」


「じゃあ」

「ええ」

「それじゃあ」


アンデフロル・デュメーラのカウントダウンが始まり、ゼロのアナウンスと同時に、白い光に包まれて、3人は地上のエルフィア大使館に戻っていった。




二日後は、大田原太郎こと、セレアム人トアロ・オータワラーの実の姉、エメリアが、弟トアロと50ぶり奇跡の再会することになっていた。


また、政府高官で今回は10日も余裕のないトアロに代わり、孫の国分寺姉弟がセレアムに旅立つ日であった。それに合わせて、ぎりぎりになって、国分寺姉弟は、セレアムの社員に留守中の業務を任せる指示を終え、今朝は、大田原太郎を事務所に迎えていた。


「着いたぜ、じいさん」

「わかった。降りよう」


株式会社セレアムの事務所に黒塗りのメルセデスから、俊介が降りると、その後からテレビで見たことのあるロマンスグレーの背の高い男が出てきた。


しゃーーーっ。

ドアから事務所に入ると、男は微笑んだ。


にこり。

「みなさん、仕事は、はかどっていますかな?」


セレアムの社員たちは、一斉にドアから入った男を見て、声を上げた。


「大田原太郎・・・」

「大田原太郎さんだわ・・・」

「ええ?あの・・・、あの影の官房長官、大田原太郎かよぉ・・・?」

俊介は入るなり、二宮を呼んだ。


「二宮、じいさんの車を車庫に案内してやれ」

「うっす」

二宮は事務所から出て運転手に指示をしに行った。


「みんな、一応紹介しておくが、これは出来る限り内密にしてくれ」

「できる限りって、なによ、それ?」


「守らんやつを犯罪人にしたくない」


--- ^_^ わっはっは! ---


「と言うのは冗談として、これは、大田原太郎、本人だ。そして、なにを隠そう、彼こそは、オレと姉貴の祖父。つまり、オレたち姉弟のじいさんだ」

俊介の爆弾発言で、セレアムの社員たちは仰天した。


「あの大田原太郎が、俊介と真紀のおじいさんですって?」

「本当なの、真紀?」

茂木が眼を白黒させて、姉弟を見つめた。


「ええ、本当よ」

「うむ」

大田原太郎はゆっくりと口を開いた。


「突然押しかけて、みなさんを驚かせてしまったようだね?。申し訳ない。俊介の言った通り、わたしは大田原太郎で、真紀と俊介の実の祖父です。みなさんは、すでにご存知の通り、日本政府は地球外知的生命体、エルフィア人と積極的に係わること決定しました。エルフィア人たちは、コンタクティーである宇都宮和人の職場である株式会社セレアムを一つの活動基点としています。ですから、政府にとって、ここは、とても重要なところなんです・・・」


大田原は一呼吸置いた。


「そして、わたし個人としても・・・」

「大田原さんが・・・?」


「左様。ここのシステム室には、世界各国が咽から手が出るくらい欲しがる、ある超高性能通信機があります。どのくらい超高性能かというと、半径3億光年を一瞬でカバーできるものです。理屈は説明することはできませんが、こういうことです」

大田原が手を上にかざした。


「夜空で、肉眼で見える最も遠い天体は、アンドロメダ銀河ですが、そこですら240万光年です。3億光年というと、その遥か100倍先までです。そういう気の遠くなるような遠方の銀河にまで、メッセージが届くということなのです」


「じゃ、そこと一瞬で話ができるってことですか?」

石橋が大田原に質問した。


「おっしゃる通りです、お嬢さん」

「信じられない・・・」


「わたし個人としも、これは大変重要でして、どうしても、これで会話しておきたいところがあるからです」


「エルフィアですか?」

「そこもですが、第一義的には、ノーです。この会社と同じ名前のところ、つまり、セレアムなのです」


「セレアム・・・?」

「ここと同じ名前じゃない。なんで?」


「セレアムとは、この地球から5400万光年先の銀河にある世界です。この会社の名前の由来となった世界です」


「じゃ、真紀や俊介は・・・」

岡本はあらためて国分寺姉弟を見つめた。


「お察しが鋭いですな。二人の生まれはここですが、わたしは違います。わたしが生まれたところは、セレアムなのです」


「セレアム生まれ?」

「てことは、あなたは、そのぉ・・・、宇宙人なんですか?」

「はっはっは。わたしから見たら、あなたこそ宇宙人なんですが・・・?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ははは・・・」

「あはは・・・」

事務所内に笑いが広がったが、どことなく緊張を孕んでいた。


「そういう訳で、ここの超時空通信システムを利用して、故郷と連絡できるのは、ここだけなんです。わたしがここに来た理由はそう言うことです。今から、システム室をお借りすることになりますが、どうか、みなさんは、今後とも、これに慣れていただきたい」


「慣れるって、なににですか?」

「身の回りに、宇宙人がいるということにです」


「はぁ・・・」


--- ^_^ わっはっは! ---


「エルフィアだけでも驚きなのに・・・」

「大田原太郎が、宇宙人だったなんて・・・」

「なんか、とんでもないことになりそう・・・」


「みなさには、だれよりも真っ先に知る権利があると思います。わたしの個人的な内容はさておき、セレアム、エルフィアの地球への想い、それは、報告をしましょう。本日の通信は、真紀と俊介の里帰りの件です」


「里帰りって・・・?」


「バカ。真紀たちがセレアム人だとしたら、その5000キロ先の世界に行くってことじゃない?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「5000万光年よ。慌て者ね」



システム室に、大田原太郎、国分寺姉弟が入って行き、そのセキュリティ・ドアには、黒のメルセデスの運転手兼ボディーガードが陣取った。


「さ、始めるぜ、じいさん」

「うむ」


ぴーーーっ。

ほわぁ・・・。

ぴ、ぴ・・・。

そして、その像はいきなり立体化した。




「ごきげんよう、みなさん」

その女性は、大田原太郎こと、トアロ・オータワラーの実の姉であり、国分寺姉弟の伯母であった。


「元気そうですね。何事もなくて、なによりです」

「大伯母さまこそ、お変わりなく、なによりですわ」

「まぁ、嬉しいこと」


「それで、セレアム行きのことだが、明日の夜、どこに?」

「トアロ、その件ですが、地球人はまだまだ宇宙機に慣れていないのでしたね?」


「うむ。突然、夜空にピカピカ光を点滅させながら、高速移動と急停止を繰り返しながら降りてくるというのは、あまり感心できないな」

「わかりました。なるべく、人里離れたところに降ろすことにします。以前送っていただいた地形図を頼りに、都市部にほど近い山間部にしました」


「そんなところに宇宙機を降ろせられるのか?」

「ええ。宇宙機といっても、恒星系内航行専用の小型機です。母船は地上の遥か1万キロで、そこから地上へ迎えに参ります」


「じゃ、そんなにないんだ?」

「わかった。時間は?」

俊介がきいた。


「そちらの時間で、夜11時30分に参ります」

「了解した」


「ところで、大伯母さま、今、そちらはどの辺なの?」

「天の川銀河にほど近いとことろよ。銀河の様子が目の前に広がって、とてもステキな眺めだわ」

「見てみたいわ、わたしも・・・」


「ええ。すぐにそうなるわ。でも、宇宙空間は、いろんな危険が隣り合わせなの。特に、星のひしめき合っている銀河内に入ると、細心の注意が必要だわ。宇宙機は独自の保護フィールドに守られていて、浮遊惑星や岩石に対しては、効果が得られるけど、重力波や電磁波は想像もできないくらい強烈なの。それを防ぐのは、とても大変だわ。運悪く、ガンマ線バーストに当たれば、その瞬間、終わりね。だから、できるだけ、宇宙機は、太陽のような安定した恒星系から出ないようにしないといけないのよ」


「なるほどな。太陽の系外は、どうなってるんだ?」


「恒星や銀河の放つ様々な電磁波の海よ。恒星系内では、その恒星のプラズマの風が、銀河風を吹き飛ばしてくれるし、地球の磁場もそれを逸らしてくれるけど、一旦、宇宙機で恒星系から出れば、銀河の内外から来るガンマ線やエックス線等、強烈な電磁波の容赦のない攻撃にさらされるの。あっと言う間に、致死量の何倍もの放射線を浴びることになるわ。銀河内で地球くらいの位置だと、銀河風も含めて、かなりの放射線量になるから、素のままの宇宙機で旅することになったら、人類は3日持つかしら」


「そんなに強いんだ」


「ええ」

「宇宙機は、強力な電磁場で、プラズマから守ってるんじゃないの?」

真紀が尋ねた。


「そうよ。だけど、なるべく銀河内の長期航行は避けることが鉄則ね。できれば、エルフィアみたく、プラネット・ツー・プラネットというのが、最も望ましい移動よ」


「しかし、それは、とんでもなく難しいと思うけど?」

「確かにそうね。セレアムも、エルフィアのように、数億光年を宇宙機無しで、人を送り込むことは、未だに実現できてないわ」


「てことは、エルフィアってのは、本当に大したところなんだ・・・」

「そうよ。しかし、そのエルフィアとて、カテゴリー4だと言ってる。それは、ただの謙遜なんかじゃないわ。もっと進んだ文明を持った世界があるんですもの」


「気が遠くなりそう・・・。ふぅ・・・」

真紀は溜息をついた。


「ふふふ。さて、わたしたちは、後、2回のジャンプでソルの太陽系に到着するわ」


「どのみち、すごいことだわ」

「ふふふ。すぐに会えるわよ、真紀」

「そうね、大伯母さま」


「トアロ、そういうわけだから、きっと来てね」

「ああ、もちろんだとも」


大田原は実の姉をじっと見つめた。その顔は50年前と一つも変っていないように思えた。

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