268 特命
「アンニフィルドです。あはは、ここで、一旦第5部の終了だってこと、言うの忘れてたわぁ・・・。ごめんね。エルフィアからフェリシアスとキャムリエルの応援で、ユティスも奪い返したのはいいんだけど、クリステアが重症を負っちゃって、わたしも大変っだったんだから・・・」
■特命■
フェリシアスの目の前に、エルドの精神体が現れていた。
「フェリシアス。リュミエラ、他3人は、確認したよ」
「リーエス。しかし、まだ、シェルダブロウとブレストが・・・」
「うむ。だが、あの3人が収容された今となっては、二人では、どうもできんだろう」
「リーエス」
「それに、クリステアのことは、気の毒なことをした」
エルドは心配そうにフェリシアスを見つめた。
「お気遣いありがとうございます。エルド」
「まだ、治療にはかかるのかな?」
「リーエス。最低あと3日は、カプセルから出られません」
「そんなもんで済むんだ・・・」
「ユティスが、致命的な傷への緊急処置をほとんど終えていましたから」
「なるほど・・・」
「SSが、エージェントに命を救われるとは、あべこべです」
「馬鹿を言っては困る。予想できないケースにチームで当たったんだから、大いに満足すべき結果ではないかね?」
「エルドが、そうおっしゃられるなら・・・」
「なにはともあれ、一応、この件は、一段落ついたんだ。地上のことは、ユティスとアンニフィルドに任せて、きみは、クリステアのそばにいたまえ」
「そんな暇はありません。後片付けが、まだまだ残っています」
さっ。
エルドは、急に真顔になった。
「だめだ。最高理事特命を発動する!」
はっ。
「エルド・・・」
「超A級SS・フェリシアス。アンデフロル・デュメーラに残留、ならびに、負傷治療中のSS・クリステアの保護。すべてに優先して、これらを遂行することを命ずる。期限は、超A級SS・クリステアの現場復帰が妥当と思われる期間。以上!」
がたっ。
「エルド!」
フェリシアス困惑した表情になった。
「はっはっは!」
エルドは大声で笑った。
「こうでもせんと、言うことを聞かんだろう、きみは?」
「エルド・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「今、この時間を大切にするんだ。きみにとっても、クリステアにとっても、二度とない大切な時間なんだ」
「リーエス。すいません・・・」
にっこり。
「クリステアは、きみを必要としてる。わかるな?」
「リーエス・・・」
「その代わり、キャムリエルをこのまま地上ミッションに就かせる。異議はないな?」
「リーエス。仰せのとおりに」
「エージェント・ユティス、SS・アンニフィルド?」
「はい。なんでしょう、アンデフロル・デュメーラ?」
「エルドから、現場復帰の要請が来ています」
「リーエス。つないで」
「リーエス」
「ユティス、この度は、大変だったな。察してあり余るものがある」
「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)。クリステアはもう大丈夫ですわ」
「ああ、二人とも、本当にありがとう。わたしこそ、きみたちに感謝するよ」
「パジューレ(どういたしまして)。わたくしも嬉しいですわ」
「そうね」
「キャムリエル一人で、地上に和人を残したままでは、また、隙を窺われるかもしれん。クリステアは、フェリシアスに見守らせることにした。アンデフロル・デュメーラには、一層の監視を指示したから、二人は、大使館に戻って欲しいのだが」
「リーエス」
にっこり。
「ふうーん。あの恥かしがり屋の堅物フェリシアスが、クリステアのもとにねぇ・・・」
アンニフィルドはゆっくり微笑んだ。
にこにこ。
「意外ですわ。よく同意されましたね?」
「わっはっは。まったくだ」
エルドは嬉しそうに言った。
巨大なエストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラの白い大部屋には、3人のSSが実質監禁されていた。
「リュミエラ、わたしたち・・・」
ゾーレが不安げに、リュミエラとファナメルを見た。
「ゾーレ、覚悟を決めなさい。じたばたしたって、どうしようもないわ。わたしたちの負けは確定したのよ」
リュミエラが言った。
「嫌・・・。わたしは、絶対に嫌よ・・・」
「黙りなさい。往生際が悪いわよ!」
リュミエラはゾーレを叱りつけた。
「しっ。リュミエラ、ゾーレ、だれか来るわ・・・」
ファナメルは、一見、壁となんら変わらないところを振り返った。
じーーーっ。
しゅうっ。
SSたちが壁を凝視する中、今まで壁だったところが開き、長身の男と3人の女性、そして、精神体の男と擬似精神体の女性が、ゆっくりとした足取りで、近づいてきた。
「フェリシアス・・・」
リョミエラは長身の男を認めると、じっと見つめた。
「潔いな」
フェリシアスではなく、精神体の男が、静かに言った。
「エルド、来てたの・・・?」
「こうして、きみたちに会うのは、しごく残念だ、リュミエラ、ゾーレ、ファナメル・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
3人は黙り込んだ。
「こうなったからには、今回の事件の真相について、きみたちに協力をしてもらうと、非常にありがたいんだが、そのつもりはあるかね?」
エルドは3人を見回した。
「・・・」
3人は沈黙したままだった。
エルドはそれを見て、単刀直入に言った。
「こちらで提示できる条件は、なにもない。だが・・・」
「だが、なに?」
リュミエラが最初に反応した。
「きみたちの良心には、非常に有意義になるだろうな」
「ふっ、なにが良心よ。そんなもの・・・」
ぷいっ。
ゾーレがエルドか眼を逸らせて、一人毒づいた。
「きみらは、どうなんだ?」
フェリシアスが、リュミエラとファナメルを見つめた。
「・・・」
「・・・」
エルドたちは辛抱強く彼女たちの返答を待った。
「リーエス。いいわ」
数分の睨み合いにも似た沈黙の後、リュミエラがおもむろに口を開いた。
こっくり。
こくん。
ファナメルとゾーレも、それに無言で頷いた。
「うむ。よかろう・・・」
エルドが満足そうに言うと、更に続けた。
「まず、きみらに言っておくが、きみらは、今現在、エストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラの中にいる。この部屋がある区域は、ESPバリアが張られているので、逃げ出したり、超時空通信をしたりはできない。もし、そう言う気を持っているのなら、早々に捨て去ることだ」
「・・・」
「きみらは、近日中にエルフィアに送還されることになるが、それまでの間、ここに滞在してもらう。また、この大部屋の裏には、バスルームを備えた個室がある。なるたけ、普段と変わらないような調度を用意しているので、少しは落ち着けるだろう。各人が、どの部屋を使うかは、きみたちにまかせる。それにもう一つ。必要最低限のプライバシー以外は、常時監視されていることを忘れないでもらいたい」
「プライバシーか・・・、そんなものがあるって言うの?」
ゾーレが冷ややかに言った。
「きみが信じようが信じまいが、バスルームにはモニターシステムの類は装備されていないし、きみたちに恥をかかそうというつもりもない。もちろん、防災のための60度以上の熱源感知はできるがね」
「で、なにを協力すればいいわけ?」
ちら・・・。
リュミエラがフェリシアスを見た。
「きみらが、ことに及んだ理由。そして、計画プラン。首謀者。委員会の関係者。それらを正直に話してもらいたい」
「拒否しても、黙秘しても、無駄ですよ、リュミエラ」
今まで、かつての教官であるリュミエラに遠慮していたアンニフィルドが、言った。
「ふぅ・・・。リーエス。いいわよ。なんでも聞けばいいわ」
リュミエラはアンニフィルドを見つめて、溜息をついた。
「ありがとう・・・」
アンニフィルドは、安堵したように言った。
「結構。われわれも強制聴取しなくて済むものなら、それに越したことはない。きみたちの協力に感謝する」
エルドが最終確認をした。
「お好きなように。甘んじて罰は受けるわ」
その言葉に、エルドは素早く反応した。
「リュミエラ、罰を受けるというように考えないでもらいたいな」
「でも、罰を喰らうには違いないでしょ?」
「罰を受けるという意識では、マイナス部分を補おうということだけだ。覆水盆に返らず。どんなことも、一旦、エントロピーを増大されたものは、完全には元に戻らん。表面上だけを繕っても、中身は変容している。人間精神においては、なにをや言わんやだ。精神的な傷は長く尾を引く。被害者だけでなく、加害者にもだ。忘れることがいいとわかっていても、そうそう忘れらるものではない。エントロピーの法則を知ってるな?」
「能書きはよしてよ・・・」
リュミエラは、もう、たくさんだと思った。
「わたしは、きみたちにマイナスになったものをゼロにするだけの意識じゃなく、プラスにしていく意識を持ってもらいたいんだ。当然、償いはしなければならない。だが、それが未来へのステップアップになるようにしてもらいたいんだ。もちろん、われわれも、それなりの支援をする覚悟だがね・・・」
「で、結局は終身刑を宣告するんでしょ?」
「エルド、どこの世界に行かせるの?」
「どうせ、死ぬまで、そこに行くわけでしょう?」
SSたちは口々に言った。
「きみたち、待ち給え。早合点してもらっては困る。これからのことは、まったく未定だ。先走って勝手に想像したところで、手に入るのは不安だけだぞ」
「わかったわ。心配なんかしてない。ただ、文句が言いたかっただけよ。エルフィアに転送されるのに、後、どれくらい日があるの?」
リュミエラはエルドに答えを急がせた。
「少なくとも、後、3日は必要だ。エルフィアでの裁判は、ブレストとシェルダブロウが揃った時点でないと、行なえない」
「3日以内に、あの二人を捕捉するってわけね」
「必ずな・・・」
エルドの決意に、3人は本当にそうなることを疑わなかった。
「次は、ブレストとシェルダブロウですね?」
「ああ、キャムリエル。あの二人を捕まえる・・・」
「フェリシアス、あなたはクリステアのそばを離れちゃダメよ。ユティスと和人は、わたしたちに任せて」
アンニフィルドが言った。
「うむ」
「じゃ、行ってくるよ」
キャムリエルはフェリシアスに告げた。
「ユティス、カズト、アンニフィルド、それに、キャムリエル、本当にすまない・・・」
フェリシアスは4人に向かって頭を下げた。
「止めてください、フェリシアス」
和人はフェリシアスを制した。
「まじで、止めて欲しいわね。謝ってるあなたって、ぜんぜん絵にならない」
「しかし、アンニフィルド、この大切な時に、わたしは・・・」
「フェリシアス、別に、あなたが責められるようなことをしたわけじゃないですわ」
ユティスがフェリシアスを慰めた。
「ユティス、きみには本当に助けてもらった・・・」
「だれもが助けを必要としています。お気持ちだけで十分ですわ」
にこっ。
「さ、今度は、こっちがZ国やブレストたちに引導を渡してやらなくちゃ」
「ふふ。えらく鼻息荒いな、キャムリエル?」
「えへ。やっと出番ですからね」
「念願のユティスの警護ができるんで、舞い上がってんじゃないのぉ?」
アンニフィルドがからかった。
「まぁ、アンニフィルド。それは、あんまりですわ」
にこっ。
ユティスが笑みをこぼした。
「そうだよ。名誉なことだって、思うのがいけないんですか?」
「名誉ねぇ、愛を語ることもできないのに?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド・・・」
ユティスは頬を赤らめた。
「まぁ、確かに、和人の女神さま宣誓で、ボクはユティスに愛を語れくなったけど、言葉を口にしなきゃいいんでしょ?手を握ってダンスして、見つめるのは、禁じられてないもんね・・・」
ぴっ。
キャムリエルは、片目を閉じて、アンデフロル・デュメーラに合図した。
ささぁーーー。
「麗しのきみよ、一曲お相手を」
キャムリエルは、ユティスに一礼すると、踊りを申し込むような仕草をした。
「さぁ、いかがですか、ユティス?」
じゃんじゃんじゃーーーん。
どこからともなく、心地よいリズムに乗った音楽がかかってきた。
じーーーぃ・・・。
キャムリエルは両手を広げて、ユティスを待った。
「あの、わたくし・・・」
ユティスは困ったように、キャムリエルを見た。
じゃんじゃんじゃーーーんっ。
「さぁ、ユティス・・・」
うるるる・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「キャムリエル・・・」
ユティスは困った表情のまま、キャムリエルの手をそのままにした。
「ユティス・・・。お願いだよぉ・・・」
キャムリエルは今にも泣きそうな顔になった。
「ぷふっ。あんなこと言わせていいのか、和人?」
フェリシアスが表情を崩した。
「リーエス。ユティスを好きな人が沢山いるのは、オレにとっても喜ばしいことですから・・・」
にこっ。
和人は微笑んだ。
「なにぃ?」
「和人、本気で言ってるの?」
フェリシアスとアンニフィルドは、驚いて和人に聞き返した。
「リーエス」
和人は心底から言っているようだった。
「考え方次第なんです。もう、オレもカテゴリー1的な独りよがりな意識は卒業したいんです。逆にですよ、もし、ユティスを嫌いだなんて人がいるなら、こんなに悲しいことはありません。違いますか?」
「ふむ・・・。確かに、一理あるな」
フェリシアスは感心して頷いた。
「和人さん・・・」
ユティスは尊敬の眼差しを和人に向けた。
「あは。忘れちゃったの、ユティス?いつか、きみがオレに言った言葉だよ、それ・・・」
「ええ?」
「なんだ、やっぱり受け売りか」
アンニフィルドは安心したように言った。
「なんだよ、なんだよ。みんなして、和人ばっか・・・」
キャムリエルが文句を言った。
「和人さんは、バッカではありませんわ、キャムリエル」
ユティスがキャムリエルに抗議した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「い、いや、そう言う意味じゃなくて・・・」
「あははは!ユティスの天然、いきなり炸裂ね」
アンニフィルドが大笑いした。
「あの、わたくしには、さっぱり・・・」
「いいの、いいの。とにかく、あなたの負けよ、キャムリエル」
アンニフィルドは、キャムリエルにダメを押した。
「みなさん、エルフィア大使館に転送準備に入ります」
みんなが落ち着いたところで、アンデフロル・デュメーラのアナウンスが響いた。
「リーエス」