266 戦闘
■戦闘■
突然、和人に呼びかける叫び声がした。
「こら、和人!」
「アンニフィルド・・・?」
「あなた、童貞のまま、死ぬところだったのよ!」
再び、アンニフィルドの叫び声がした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「へ?」
「人工呼吸よ」
「アンデフロル・デュメーラに運ぶ前に応急処置したのは、わたし!」
「マウス・ツー・マウスのことかい?」
キャムリエルは、当然のように言った。
「夢じゃなかったんだ・・・」
和人はアンニフィルドを見た。
「そんなに責めないでよ」
「責めてなんかいない。ちょっとびっくりしてるだけ・・・」
「だって、しょうがないじゃない・・・」
アンニフィルドは少しためらいがちに言った。
「それとも、フェリシアスのほうが良かった?」
「ええーーー?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド、きみが最高だよ!」
「あは。そう言ってくれると思ってたわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「でも、オレ、きみとキッスしたことになるんだ・・・」
「なんだ、そんなことを気にしてたの?」
キャムリエルが言った。
「だって、和人は女神さま宣誓をしたんだから・・・」
「そんなこと言ったって、事情が事情なんだからさ」
アンニフィルドは和人に向くと頭を下げた。
「ごめんなさい。わたしよ。わたししか、いなかったのよ・・・」
「よしてくれよ。謝ることなんかないよ。命の恩人なんだから。きみは・・・」
和人は、感謝の眼差しをアンニフィルドに向けた。
「優しいのね、あなた・・・」
「バ、バカ言うなよぉ」
「えへ、思い出しちゃった・・・」
「なにを?」
キャムリエルは無邪気にきいた。
「あなたには関係ないことよ」
アンニフィルドは和人に向き直った。
「和人、あなたの唇、温かくて柔らかいのね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
かぁーーーっ。
「こ、こら・・」
和人は真っ赤になった。
「あははは。どうせそんなことだろうと思ってたよ」
キャムリエルは可笑しそうに言った。
「えへ、わかった?」
「リーエス」
「どうせなら、もっとディープにするんだった・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドは和人の唇の感触を思い出しながら言った。
「おいおい、なにを言ってんだよ、こんな時に・・・」
和人は急に恥ずかしくなった。
かーーーっ。
「和人はシャイなんだね?」
「キャムリエルまで、からかわないでくれよぉ・・・」
それを見たアンニフィルドは、ちょっとイタズラ気分になった。
「ねぇ、もう一度、後で確かめてみない?ユティスと、どっちがいいか?」
アンニフィルドは目を閉じて、和人にキスするように唇を突き出した。
ちゅぅ・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
「んーーー」
「アンニフィルド!」
「あははは、ごめん、ごめん。冗談よ」
「わかってるよ。気を使ってくれて、ありがとう・・・」
「いいわね、ユティス。あなたのような人に愛されて・・・。うらやましいわ・・・」
「そんな、照れるじゃないか・・・」
「もう大丈夫かしら?」
「うん。本当にありがとう、アンニフィルド」
「さてと、Z国大使館では、SSたちがユティスをめぐって戦ってるわ・・・」
「アンニフィルド、きみは、行かなくていいの?」
「ええ。フェリシアスとクリステアで十分。わたしの役目は、あなたを守り通すことよ。あいつらに、二度と、さっきのようなマネはさせないわ!」
アンニフィルドは裏をかかれて憤慨していた。
「和人、あなたは、ユティスでハイパーラインで呼びかけて。ハイパーラインなら、ファナメルといえども、シールドしたりロックしたりなんかできないわ」
「そうなの?」
「リーエス。恋人たちのハイパーラインを盗み聞きするなんて、万事極刑よぉ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドはおどけてピストルで撃つ真似をした。
「大げさだよ・・・」
和人はアンニフィルドににやりとした。
「やっと、普通に戻ったわね」
「ありがとう、アンニフィルド」
「お互いさまよ」
「さぁ、ユティスを呼んで」
「リーエス」
ぶわんっ。
その時だった。
「はい。取り戻したわ」
クリステアは気を失っているユティスを抱えて、和人たちの目の前に現れた。
「ユティス!」
「クリステア!」
「ユティスを、お願い。フェリシアスが、一人であいつらに対応してるの」
クリステアはにこりともせずに、早口に言った。
「加勢しようか?」
「ナナン。アンニフィルド、あなたは、ユティスと和人を守って」
「大丈夫。ここは地上3万キロなのよ」
「油断しちゃ、ダメ。向こうはSS4人なんだから。ユティスと和人を戻すのは、あいつらをここに収容して、エルフィアに送還してからよ」
「リーエス。わかったわ」
「それから、アンデフロル・デュメーラに転送準備させて、待機してもらって」
「リーエス」
「あいつらを一網打尽にしてやるわ。合図を送るから」
「リーエス。心強いわね」
「じゃぁ、戻るわ」
ぽわーーーっ。
クリステアは、白い光に包まれた。
「クリステア、ちょっとぉ!」
ぶわん。
クリステアはすぐに戻っていった。
「SS・アンニフィルド。当初の作戦通りに、待機します」
「あ。アンデフロル・デュメーラ、お願い。ファナメルたちのシールドが敗れたら、すぐに行動して。合図は、フェリシアスたちが、タイミングをとるから」
「リーエス。SS・アンニフィルド」
ぶろろろろーーーっ。
黒塗りのメルセデスが2台、Z国大使館に近づきつつあった。ナンバーは、外交官用のものではなかったが、中の4人は、明らかにZ国の人間らしい顔つきをしていた。
「止まれ!」
メルセデスの前で、2人の日本人の警官が警察手帳をかざした。
「なんですか?」
「ここから先は立ち入り禁止です。免許証を」
「見てわかりませんか、われわれは、日本と友好関係のZ国大使館通商部の・・・」
つんつん・・・。
「言われた通りに、免許を見せろ」
サングラスをかけた男が、後ろの席から静かに言った。
運転席の男は、一瞬渋い顔をしたが、すぐに気を取り直し、免許証を警官に提示した。
「なにかあったんで?」
「不発弾が発見されまして、撤去するまで、だれも通してはならないと・・・」
「なるほど・・・」
「しかし、われわれの大使館は治外法権じゃあ・・・」
「例外なくです。お国の大使には、外務大臣経由で事情を説明しております。日本でお国の外交官のみなさんが負傷でもなさった日には・・・」
「きみが首になるか・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いえ、決してそういうわけでは・・・」
「不発弾処理で間違いなどないでしょう?」
「しかし、万が一ということもありますので・・・」
「お国の自衛隊は極めて優秀でしょう?」
「そりゃ、もちろん」
「念には念を入れて、ということかね?」
後部座席の黒眼鏡の男が言った。
「そういうことです。行き先は、Z国大使館で?」
「そうだ・・・。いわば、家に帰るだけだ。わかるよね?」
「は、はい!」
「われわれは、これを外交問題にはしたくないんだが・・・、きみ個人としては、そう思ってないようだね?」
黒眼鏡の男は、低い声で、ゆっくりと確認するように言った。
「おい、ここは知らなかったで済ませた方がよくないか?」
警官の一人が言った。
「わかった・・・」
「で、どうなんだね?」
にやっ。
黒眼鏡は結論を求めた。
「め、滅相もない・・・。後ろの車もお連れですか?」
「そうだ」
「一応、あちらも、うかがっときます。なにしろ職務なもんで」
「どうぞ」
警官は後ろのドライバーの免許証も確認した。
「行っていいかな?」
「よろしいです。どうぞ」
二人の警官は2台のメルセデスを解放した。
「出せ」
サングラスの男が言うと、2台はゆっくりその場を去っていった。
ぴぴっ。
「はい。こちら7号車」
「封鎖区域には、だれも入れるな。Z国大使館に入ろうとするなら、職員だろうがなんだろうが、しょっ引け」
「部長・・・、そんなこと、今、言われても、もう、行っちゃいましたよ」
「なにぃ・・・?」
「2台黒塗りのメルセデス。ボスらしいのがサングラスかけてて、顔つきまではわかりませんでしたが、Z国の連中です」
「外交官ナンバーだったのか?」
「はい、確かに。申し訳ありません・・・」
「一番通しちゃいけない人間を通したと言うんだな?」
「しかし、外交問題になってしまうと・・・」
「とっくになっている!裏では、政府は合衆国と連携して、ヤツラと一戦交える準備を進めてるんだぞ」
「せ、戦争をおっ始めるんで?」
「火器を使わない局地戦だ。合衆国はそのために、エキスパートをよこしてきている」
「SSですか?」
「そうだ。ジョーンズたちが、張り付いているだろ?」
「彼らがSSですか・・・?」
「ああ。Z国のヤツラが、日本で超法規的手段に訴えるなら、あの二人を使え」
「あいつら、こっちの命令なんか聞きませんよ」
「目的は一緒だろ。おまえたちで、なんとかしろ!」
「部長!」
ぷつっ。
「こうしちゃいられない。すぐにここをシールドしてロックをかけなきゃ」
アンニフィルドはそう言うと、ユティスと和人を真ん中に置き、自分たちの回りの時空をシールドした。
「これで、よしと」
「アンニフィルド、これは?」
和人が不思議そうに言った。
「ああ、これね。この光の中は、周囲から独立した時空になってるの。念には念よ。アンデフロル・デュメーラの中だけど、これなら、もう、リュミエラたちは手出しできないわ」
「でも、時間が他と変わってしまうんじゃないの?」
「ええ、でも、数分程度よ。人生に影響はないわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「数分もかい?」
「損した気分になる?」
「ちょっと・・・」
「ばかね、和人。進んだと見えるのは、まわりの人間からあたしたちを見た時。あたしたち自身にとっては、1秒は1秒よ」
「よくわからないよ」
「いいのよ、わかんなくて。説明しはじめると、太陽が赤色巨星になっちゃうわ」
「ひどいなぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは」
「よくもやってくれたわね・・・」
リュミエラは表情を変えずにフェリシアスをじっと見つめた。
「きみが間違いをし続けるのは、見るに忍びない」
「はぁっ!」
ファナメルの声とともに、リュミエラとゾーレのエネルギー波が、フェリシアスを襲った。
ばしーーーんっ。
Z国大使館は、地震が襲ってきたように大きく揺れた。
「うっ!」
フェリシアスは、両手でシールドを支え、やっとのことで、これを防いだ。
「はぁーーーっ!」
第二弾が、隙を与えず、今度はフェリシアスの後ろから襲った。
「な、なに?」
フェリシアスは、ふいを突かれ、避け切ることができなかった。
びしーーーんっ。
ごろごろ・・・。
エネルギー波は、フェリシアスの背中をかすり、フェリシアスは、そこにもんどり打って転げた。
「ゾーレか・・・」
フェリシアスは、エネルギー波を時空移転させたことを知った。
「ふふ、まだまだ序の口よ。どうせあなたは、攻撃してくる心配はないものね」
リュミエラは少しだけ笑った。
「・・・」
「SS規定、第46項。万が一、SSのメンバーが委員会の意図とは反する行動に出た場合、それを阻止するためには、SSを傷つけることなく収容すること。ただし・・・」
フェリシアスは続けた。
「最高理事の権限にて、これを許可する場合、その限りではない・・・」
「ふーん。エルドは、それを適用するってわけね」
ばしーーーんっ。
今度は、フェリシアスの頭上からエネルギー波が落ちてきた。
どかっあーーーんっ!
「あう!」
フェリシアスは、自分の周りの時空を屈折させていたので、エネルギー波は、かろうじてそれた。しかし、それは、床に直撃し爆発した。
「やめるんだ、リュミエラ!」
「はぁーっ!」
ぐにゃり。
ファナメルの強烈な精神波が、フェリシアスを襲い、フェリシアスは視覚と聴覚を撹乱された。
「うっ・・・」
フェリシアスは、目の前がぐにゃりと曲がり、平衡感覚を失った。
ぐるぐる・・・。
「うわぁ!」
フェリシアスは、すぐに目を閉じ、超感覚に全身を委ねようとした。
「だめだ。ぐるぐると世界が回転しているようだ」
ぐるぐる・・・。
「うっ。ぐっ」
フェリシアスは腰を下げ、両手を膝に置いた。
(強烈な、吐き気が・・・。うぐっ!)
フェリシアスは吐きそうになるのを懸命にこらえた。
「フェリシアスの平衡感覚を乗っ取ったわ!」
ファナメルが叫んだ。
「でかしたわよ。ファナメル!」
ゾーレが叫んだ。
「ゾーレ、今よ!」
「リーエス!」
リュミエラの合図で、ゾーレは、フェリシアスにエネルギー波を見舞った。
ばしーーーんっ。
強烈な音がして、ゾーレのエネルギー波は、フェリシアスの手前で砕け散った。
「なにぃ?まだ、シールドできているとは・・・」
フェリシアスは、上下左右そして前後もさっぱり、わからなくなっていた。
「くっ、目も耳も役に立たん・・・」
その時、アンデフロル・デュメーラに待機していた、キャムリエルのハイパー通信による声が、フェリシアスに届いた。
(フェリシアス!超感覚です!)
(うっ。キャムリエル・・・、わかった・・・)
フェリシアスは、ファナメルに乗っ取られた5感覚をあきらめ、精神を集中させた。
(フェリシアス周辺のイメージを頭脳に直接投影します!)
アンデフロル・デュメーラから得た映像から、キャムリエルは、部屋の状況をフェリシアスの超感覚に投影した。
「うぉーーーっ!」
ぱぁ・・・。
(来た!)
次の瞬間、フェリシアスの脳裏に、部屋の様子が正確に映し出された。
(今です。フェリシアス!)
「そこだぁ!」
フェリシアスの右の手のひらから、強烈な光が発せられ、ゾーレを直撃した。
ばーーーんっ!
「うわぁ!」
ゾーレは、間一髪、シールドで光を逸らした。