265 激突
■激突■
地球上空32000キロに待機するエストロ5級母船では、SSのキャムリエルが、リュミエラたちとの対決に備えていた。
「アンデフロル・デュメーラ。アンニフィルドの言う通り、Z国大使館の周りをシールドしてくれるかい?」
「リーエス。SS・キャムリエル」
「位置は、確認できる?」
「リーエス。ロックオン。目標、捕捉しました」
「やった?」
「リーエス。続いて、シールド設定」
「急いでくれ。今にも、フェリシアスとリュミエラの戦いが、始まりそうなんだ」
「リーエス。地球座標、経度XXXXXXX。経度XXXXXXX。高度XXXXXX。建物の周囲10メートル立方を完全シールド完了」
「アルダリーム(ありがとう)。アンデフロル・デュメーラ」
「パジューレ(どういたしまして)」
「ぼくは、フェリシアスに報告する」
「どうぞ」
「フェリシアス。周囲のシールドを完了です」
「よくやってくれた。礼を言う」
地球では、国分寺俊介が実の祖父、大田原太郎と会話していた。
「じいさん、オレだ」
「俊介、なんだ、そんなに慌てて?QBやってたにしちゃ、ちと、騒ぎ過ぎじゃないか?」
「ああ、まったくだ。ターゲットはみんなマークされ、前を塞がれた上に、左右からブリッツを喰らう寸前だぜ」
「それで?」
「Z国の連中、ついにやってくれた。ユティスを大使館内に奪い去ったんだ」
「なんだと?」
「エルフィア人のSSたちが対応中だが、あちらさんにも、地球反対派のエルフィア人のSSが付いているんだ。それも4人も」
「どういうことだ?アンニフィルドたちがいたんじゃないのか?」
「言い訳は後でする。とにかく、それで、Z国大使館は、じきに戦場になりそうだ。SSたちがドンパチすれば、核爆発級のエネルギーが解放される」
「バカな・・・」
「アンニフィルドから頼まれた。Z国大使館から200メートル以内の住人を避難させて欲しい」
「200メートルか?」
「ああ。アンディーが大使館に時空バリアを張ってるから、まさかとは思うが、それでも安全を期したい」
「うむ。了解だ」
大田原はすぐに冷静になった。
「不発爆弾が見つかったとか、なんでもいい。大至急だ」
俊介は大田原を急がせた。
「わかった」
一方、Z国大使館の大広間では、フェリシアスとリュミエラが睨み合っていた。
「もう、和人には構わないでいいわ、ファナメル。ゾーレ、わたしの脇を固めて」
「リーエス」
「やってしまえ、リュミエラ!」
今まで様子を見ていたブレストが叫び、リュミエラは急に苛立ちを覚え、ブレストを振り返った。
きっ。
「外野は、黙ってなさい」
むっかーーー!
「外野だとぉ?」
ブレストは、たちまち真っ赤になった。
「あなたたちは、はっきり言って、じゃま・・・」
さっ。
リュミエラはブレストに一瞥くれると、右手を一振りした。
「な、なにをする!」
がん!
「うっ!」
どん!。
「ぎゃぁーーーっ!」
どたっ。
くたぁ・・・。
ブレストはリュミエラの強烈な神経パルスを受け、一瞬で失神し、あっけなく、その場に崩れ落ちた。
「ふふ。これで、じゃまものはいないわ。勝負といきましょうか、お二人さん?」
リュミエラは、フェリシアスとクリステアに、自信たっぷりに言った。
「こんなことをして、なんの意味があるんだ?」
「意味?」
「わたしたちは、元のSSに復帰したいだけ。委員会の決定に従って、エージェントの回収の協力に来ただけよ」
「なにを言ってる?」
「委員会へのプレゼントよ。ユティスを連れ戻せば・・・」
「ばかな・・・。トルフォが、言ったのか?エージェントの早期送還に協力すれば、SSへの復帰を約束するとか・・・」
「リーエス。まずは、委員会の決定に基づき、危険なカテゴリー2の世界に派遣された、あるエージェントをエルフィアに戻さねばならない。あなたも知ってることよね?」
「バカな・・・。委員会は、そんな決定などしていない」
「ふふふ。おトボケを決め込むつもりでしょうけど、そうは問屋が卸さないわ」
「誤解だ・・・。きみは、完全に誤解している」
「どのみち、ユティスの引き上げは、決定されるわ。ミューレスのこと、忘れたわけじゃないでしょ?地球は、ミューレスと瓜二つ・・・。危険極まりない」
「違う。地球は、ミューレスとは違う!」
「とにかく、ユティスは頂くわね」
フェリシアスは、なぜリュミエラがトルフォに加担し、ユティスを拉致したかを、概ね理解した。
「それで、ユティスを・・・」
「リーエス。SSのわたしたちを差し置いて、最高理事の娘と言う立場を利用して、ただ一人、エージェントに復帰した・・・」
「それは、違う。ミューレスの担当エージェントは、ユティスではなかったんだぞ!」
「ふふふ。最終的には、彼女だったじゃない。違う?」
「違う。違う。彼女は、みんなを助けようとしたんだ。ユティスに責任などない!」
「そうかしら?」
「ユティスは、無断でミューレスに行ったんでしょ?」
「無断ではない。許可は出ていた・・・」
「あーーーら。歯切れが悪いわねぇ・・・」
リュミエラは目を細め、してやったりとばかり、フェリシアスに笑った
「エージェント復帰は、当然のことだ」
「ナナン。わたしは、地球の支援は反対よ。トルフォも一緒。彼は言ったわ。ユティスのエージェント復帰と地球担当は、間違いだったことが、査問会で証明されたってね・・・」
「査問会だって?そんなものは、行なわれていない!」
「当事者の事情聴取は、あったんでしょ?」
「リーエス・・・」
「それじゃ、あったも同じことよ。エージェントの地球の派遣は、間違いだったということが決定されたのよ」
「本気にしたのか、そんなことを?」
「地球は危険すぎる。ミューレスの二の舞は目に見えてるわ。委員会は、査問会の事情聴取に従って、派遣決定を覆すわ」
「ばかな。エルドが、そんなでたらめな間違いを下すわけがない」
「あら、委員会も人間の集まりよ。誤ることだってあるんじゃないの?」
「そんな話を真に受けたのか?」
「確かめたわよ」
「だれに・・・?」
「そんなこと、どうでもいいわ。わたしは、SSに戻りたいのよ」
「こんなことをして、戻れると思っているのか?」
「戻って見せるわよ。ユティスを無事に届けてね」
「リュミエラ、きみは、なんということを・・・」
「まさか、あなたが来てるなんて思わなかったけれど」
「致命的な誤算だな。きみは、二度とSSには復帰できないぞ」
「復帰?何百年?あなたにわかって?誤解、冤罪。エルドの独断!」
「誤解してるのは、きみの方だ」
「もう、能書きはたくさん。いくわよ!」
ばしーーーんっ!
リュミエラは、神経パルスをクリステアにぶつけた。
「うっ!」
がくっ。
ユティスをかばっていたクリステアは、ショックで膝を落とした。
「クリステア!」
「大丈夫。リュミエラをお願い。わたしは、あとの2人を相手にするわ」
「リーエス」
「ブレーキング・ニュースをお伝えします」
昼間のテレビは、すべてのチャンネルで、Z国大使館近くで不発弾が見つかった旨、緊急ニュースを伝えていた。
「本日、Z国大使館周辺で、500キロ爆弾と思われる不発弾が、工事現場で発見されました。警察により、発見場所から200メートル以内の立ち入りが禁止された他、住民の避難勧告が出されました。では、現場から中継いたします」
「こちらは、現場からちょうど200メートル離れた場所です。ご覧いただけるように、警察によりロープが張られ、これより先には行けないようになっています。付近の住民のみなさんが、不安そうに、このロープの外から、Z国大使館の方を覗き込んでいます」
現場レポーターは、眉間に皺を寄せながら、勿体つけて語った。
「この先にZ国大使館がありますが、とうに連絡されているはずですが、まったく動く様子はありません。あーー、あれは、警察に引率されて、エリア外に出て行こうとしている住民の方のようです」
カメラが、数人の人間を捉えた。
ばしーーーんっ。
突然、鋭い否妻が空気を切り裂くような音が、Z国大使館の中でした。
「始まったな・・・」
「どうした、ジョバンニ?」
「クリステアたちだ。中で派手にやらかしてる」
「こっちも、いつでもスクランブルできるようにしよう」
「ああ」
ぴ、ぴーっ。
「出ろ。ボスだ」
「ジョーンズか?」
「イェッサー」
「Z国大使館周辺は、エルフィア人によって時空封鎖されている」
「心得てます」
「大使館からは外に出られんと思うが、もし、奴らが出てきたなら、ドンパチにならん程度で、速やかに任務を遂行してくれ」
「イエッサー」
「それから、Z国大使館周辺半径200メートルは立ち入り禁止になった」
「オレたちもですか?」
「いや。おまえたちは、日本の警察と同扱いで、立ち入りはOKだ」
「ミスタ・フジオカの特別な計らいってヤツですか?」
「まぁ、そういうことだ」
「で、当局の言う立ち入り禁止の理由は?」
「日本じゃ、たまにある理由だ」
「美女がスッポンポンで、町中を走り回ってるとかですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「残念だが、ハズレだ。不発弾処理とか、こじつけをでっち上げたらしい」
「なるほど。オレのじいさんが、1世紀近く前に、信管を入れ忘れたってわけだ」
「冗談を言ってる場合ではないぞ。許可は取っているもの、おまえたちも、退去の対象地域内いるんだ。職務質問に合う前に、IDを見せるんだ」
「OK。そうします」
ふぁん、ふぁん、ふぁん・・・。
辺りにはパトカーが何台も集まってきた。
「始まったぞ」
Z国大使館内では、エルフィア人SSたちが、互いに攻撃を仕掛け始めていた。
「これでも喰らいなさい!」
「そうは、いかないわ!」
今度は、リュミエラとファナメルのダブル攻撃が、クリステアを襲った。ゾーレは、3人の前にシールドを張った。
ばーーーんっ!
「クリステア!」
フェリシアスは、すぐさまクリステアにシールドを張った。
ばちっばちっ。
ものすごい音がして、クリステアとユティスの前で、紫色のプラズマが炸裂した。
「うっ、フルパワーじゃないか・・・」
フェリシアスはやっとのことで持ちこたえた。
「なによ、それ?あなたの実力はそんなものなの?」
「クリステア、ユティスを!」
フェリシアスは一瞬微笑むように口の端を上げて、クリステアに言った。
「ユティスをアンデフロル・デュメーラに転送したまえ!」
「わかったわ」
ばーーーんっ。
びしっ。
「くっ!」
「アンデフロル・デュメーラ!」
「リーエス、SS・クリステア」
ばしんっ!
必要に、二人に攻撃がやってきた。
「きゃあ!」
クリステアがユティスを抱えたまま、身をよじらせた。
「クリステア!」
「はぁ、はぁ・・・。だ、大丈夫よぉ・・・」
フェリシアスはあまり時間がないと感じた。
「リュミエラの注意を一瞬そらす。それが勝負だ」
フェリシアスは、懸命に攻撃を逸らしながら、クリステアに指示した。
「それじゃ、あなたが・・・」
「だから、すぐに戻ってきてくれたまえ」
「リーエス!」
「わたし一人じゃ、とてもじゃないが、彼女たちは手に負えない。きみが必要だ」
またしても、フェリシアスは、クリステアに向けて、リュミエラには見せたことのない目をした。
(フェリシアス・・・。あなた、本気で愛してるのね、この小娘を・・・)
ぎゅっ・・・。
リュミエラは唇を噛み締めた。
「クリステア、いくぞ!」
「リーエス!」
「いいか、チャンスは一瞬しかない!」
「リーエス」
リュミエラは、そんな息の会った二人を見て、大いに気分を害した。
(フェリシアス・・・)
「いくぞ!」
「リーエス!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、受けてみなさい!」
リュミエラの言葉に、ゾーレとファナメルも同調した。
「はぁーーーっ!」
3人の両手がシンクロナイズし、高くかざされた。
「今だ!」
「リーエス」
しゅっ。
がしっ。
フェリシアスは、一瞬でリュミエラの前に移動し、リュミエラの両腕をつかんだ。リュミエラは、構えの途中でエネルギーをフル充填することなく、フェリシアスに阻止された。
「痛い!」
リュミエラは、フェリシアスに手を捻られ、身をよじった。
「リュミエラ!」
ばしーーーんっ!
ファナメルの援護が、間髪入れずにフェリシアスを襲った。
ばし、ばしっ!
「うぉーーーっ!」
フェリシアスは、強烈な電撃を浴びて、リュミエラの手を離した。
ぱっ。
「クリステア、早くしたまえ!」
フェリシアスはクリステアに叫んだ。
「アンデフロル・デュメーラ、今よ!やってぇ!」
「リーエス」
ぶわんっ。
アンデフロル・デュメーラは、リュミエラの時空シールドが弱まった瞬間をねらって、クリステアとユティスを転送した。
「げほ、げほっ・・・」
「和人、しっかり!」
キャムリエルは和人の後ろに周り、背中をさすり、呼吸するのを助けた。
「あ、あなたは・・・?」
「ボクはキャムリエル。気づいたんだね?」
「げほっ。ありがとう・・・」
「息、できる?」
「ああ、おかげさまで」
「よかった・・・」
キャムリエルは、少し微笑んで、和人を確認し、これなら大丈夫だと思った。
「ボクは、地上3万キロ上空の母船から、みんなを見守る役なんだ」
「リーエス。わかりました」
「大丈夫かい?」
「リーエス。急に、息ができなくなって・・・、目の前が真っ暗になった。ずっと、底なしの海の底に沈んでいっているような気がして・・・」
「それで?」
「とても恐ろしかった。足から冷気が伝わってきて・・・。本当に死ぬと思った・・・」
和人はキャムリエルを見つめた。
「そしたら・・・、誰かが息を吹き込んでくれて、・・・それで少し楽になったんだ・・・。キャムリエル、きみかい・・・?」
和人は躊躇いがちにきいた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ナナン。アンニフィルドだよ、それは」
ほっ・・・。
(よかった、男とキッスしたのかと思ってた・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---




