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262 強欲

■強欲■




「あ、うーんっ・・・。和人さん・・・」

ユティスは和人の呼びかけで意識が戻り、自分がブレストの腕の中にいるのに気づいた。


はっ!

「ブレスト参事・・・!な、なにをなさっているのですか!」


じたばた!

ユティスは即座にブレストの腕の中で、大きく身をよじらせた。


「ユティス、気づいたのか?」

「お放しください!」


「待て。暴れるんじゃない。ユティス」

「降ろしてください。ブレスト参事!」


ブレストはずっとユティスを抱えていたので、そろそろ両腕がだるくなっていた。


「ちっ・・・」


トルフォがいない間、せっかくの感触をこれ以上堪能できないと知って、しかたなく、ユティスの足を床に下ろし立たせた。


「きみは、気を失っていたんだ」

にこ。

ブレストは助けてやっているんだとばかりに、ユティスに笑いかけた。


「ナナン」

しかし、ユティスは、シャデルでの拉致のことを思い出すと、それを否定した。


「お二人とも・・・」

ユティスは、ファナメルとリュミエラとゾーレを見つめた。


「そうですね?」

「・・・」

「・・・」

SSの三人は表情一つ変えず、何も答えなかった。


「いずれにせよ。きみは、わたしたちのもとに来たわけだ。大いに歓迎するよ」

「わたくしの意思ではありません」


--- ^_^ わっはっは! ---


にやり。


「ユティス・・・」

ブレストは両腕を広げ、一歩近づき、再度ユティスを抱きしめようとした。


「ブレスト参事、それも、トルフォ理事のご指示ですか?」


--- ^_^ わっはっは! ---


ユティスは冷静にブレストを見て、敢えて職制で呼ぶことで、彼の感情の高ぶりを抑えようとした。そして、それは、トルフォの名前も伴って、ある程度成功した。


「い、いや・・・。では、立っているのも、なんだ。そこに一緒に腰掛けないかね?」

「遠慮申しあげます。わたくしには、両親からいただいた、足というものがあります。立ったままでけっこうですわ」


りん!


--- ^_^ わっはっは! ---


「では、お好きに・・・」

ブレストが苦虫を潰したような顔になり、そっけなく言った。


「ブレスト参事、このまま、なにもなく無事にエルフィアにお戻りになれるとは、お思いではないでしょうね?」

ユティスはブレストの答えを待った。


「・・・」

ブレストは一呼吸置いて答えた。


「ふっふ。われわれには、別の道が開かれている」

ブレストはにたりと笑った。


「紹介しよう。地球の正規コンタクティー、リッキー・Jだ」


「ようこそZ国大使館へ。Z国は、エルフィアの大使のみなさまを、こころより歓迎申しあげます」

どこからともなく、リッキー・Jがユティスの前に現れた。


「どういうことですか?」

ユティスは落ち着いて状況を把握しようとした


「見てのとおりだよ、ユティス」

ブレストは勝ち誇ったように言った。


「エルフィアのコンタクティーは、宇都宮和人さんです。どうして、Z国のリッキーさんなのですか?」

ユティスはブレストをしっかりと見据えた。


「Z国・・・。そうだよ、ユティス。彼らこそ、われわれの友人だ」

ブレストとリッキー・Jは、お互い見合ってにやりと笑った。


「・・・」

それに対し、ユティスは、冷たくするでもなく、しょうがない人たちというように言った。


「ブレスト参事、ご存知のはずですね。委員会の重要禁止条項を。公認エージェントを差し置いて、コンタクティー以外の地域や国と勝手に裏取引をされるのは違法ですわ・・・」


「エルフィアの信用に係わると、言ってるつもりかな?だったら心配はない。このブレストこそ、エルフィアの公認エージェントだ」

ブレストはお決まりの文句を続けた。


「ナナン。そのような肩書きが重要なのではありません。真意は異なりますわ。支援先の世界を混乱に陥れることになる、ということです」

「混乱?はっは。もともと、地球は混乱だらけの世界ではないか?」

ブレストはいかにも楽しそうに笑った。


「それに輪をかけることが、文明促進支援なのですか?」

ユティスはひるまなかった。


「まぁ、なんとでも言われるがいい。あなたのような生ぬるいやり方では、地球の文明は促進どころか、よくて停滞、悪ければ衰退するやもしれませんよ」


「しょうがない方。あなたは、そのZ国にコンタクトをして、地球をどうご支援なさるおつもりですか?」

「知れたことです。統制のとれるリーダーがいる国こそ発展するのです。Z国こそ地球の代表に相応しい」


「まぁ、なんて、あきれた理由でしょう。統制の取れるリーダーとは、ブレスト参事、あなたご自身のことをおっしゃってますわね?」

「さすがに、超A級エージェント。いかにも、その通り。わたしは、Z国を、地球一の文明国にして、地球を大いに進歩せしめるリーダーにするつもりです」


「あなたの支配下に置いてということですね・・・。なんということを・・・」


「ユティス、考え直さないか。わたしと一緒に来たまえ。トルフォもなにも関係ない。きみには、ここでの素晴らしい地位を用意しよう」

「興味ございません」

ユティスはピシャリと打ち消した。


「わたしの右の席を進ぜよう。二人の国。二人の星だ」

ブレストは右手をユティスに差し出した。ユティスは、ブレストに手を取られないように注意した。


「あなたの右も左も欲しくはありません」

「これは結構。前がよいと言われるか?」


「前も後ろも、上も下も、要りません。わたくしは、ある方から、既に聖なる永久の愛の誓いを受けている身です。そのようなお戯れには、お付き合いいたしかねます」

ユティスは、ブレストに、和人の女神さま宣誓を受けたことを匂わせた。


「ふふ。しかし、きみは、それには、正式には応えておらんだろう・・・。知っているぞ。わたしは調べたんだ。宣誓は完結しているわけではない。違うのかな・・・?」


にたり。

ブレストは余裕たっぷりに笑った。


「わたくしが、その方への宣誓へのお応えをしようがすまいが、他の男性が、わたくしに愛を語ることはできません」

ユティスは静かに言った。


「だが、宣誓をした男がいなくなれば、未完成の宣誓は無効になる。よって、わたしの提案は、現状、十分実現可能なわけだ。違いますかな?ふっふっふ」

ブレストは自分のやるべきことをほのめかした。


さぁーーーっ。

「そ、そんな・・・。なんという恐ろしいことを・・・」

ユティスの顔がたちまち青くなった。


「それにだ。近々に、わたしはエルフィアを代表して、このリッキー・Jを通じて、Z国の代表と会談をする予定だ」


「その通りです。ブレスト大使」

リッキー・Jは頷いた。


「わが国は、トルフォ様が代表するエルフィアと文明促進支援の条約に調印することになっています」

リッキー・Jが、ユティスとブレストを見つめながら、嬉しそうに言った。


「ブレスト参事。あなたは、いつからエルフィア代表を名乗れるようになったのですか?それに、ご自分で勝手にZ国と、アソシエーション的な条約を調印なさるだなんて・・・。許されることではありませんわ」

ユティスは、リッキー・Jに向き直った。


「リッキーさん。ブレスト参事は、エルフィア代表ではありませんよ。彼にそのような権限はございません。それに、アソシエーション的な関係を築いても、あなた方は、決して幸せにはなれませんわ。大変重要な、一番大切なものが、完全に抜け落ちていますもの」


しかし、リッキー・Jはユティスを相手にしなかった。


にたにた・・・。

「エルフィア人なら、トルフォ様の他にも、たくさんご賛同をいただいておりますよ」


「リュミエラ、シェルダブロウ、ゾーレ、ファナメルですね?」

「それだけでは、ありません」


「まだ、他にもいらっしゃるのですか?」

「もう一人は、次期理事が確定しているわたし自身だ」

ブレストはにやりと笑った。


「あなた方だけで、どのようなご支援をなさろうというのです?」

「はっは。Z国の望みどおりのものを。テクノロジー、精神エネルギー、ハイパー通信。いくらでもござれじゃないか」

ブレストはにやりとした。


くるっ。

ユティスはブレストからリッキーに向き直った。


「リッキーさん、この方たちは、文明促進支援プログラムの専門家ではございません。文明促進のご支援はできませんわよ。テクノロジーの推進支援、エルフィアの正規プログラムは、そのようなものではありません。手順を間違えると、ご自身の破滅につながります」


「ふふふ。その精神の進化やらとなら、その不足分のプログラムは、きみの仕事だよ」

ブレストがにやりと笑った。


「お断り申しあげたはずです」

ユティスは今度もまったく怯まなかった。


「どうしても・・・、と言うのなら、きみには、ぜひ考え直していただくことにしよう。ファナメル、あれを・・・」

「リーエス」


「な・・・、なにを、なさるのですか・・・?」

たちまち、ユティスは不安になった。




「どうだ、アンデフロル・デュメーラ、わかったか?」

フェリシアスの鋭い声が、エルフィア大使館内に響いた。


「リーエス、SS・フェリシアス。エージェント・ユティスの頭脳波を捉えました。Z国の大使館内です。あのリッキー・Jもいます」


「よくやった!」

「リーエス」


「あうっ!」

ばたっ。

その時、いきなり和人が気を失って倒れた。


「和人!」


ほわんっ。

ふさっ。

間一髪、アンニフィルドの精神波のおかげで、和人は頭を床に打ち付けずに済んだ。


「しまった。和人への精神攻撃だ。狙われたぞ!」

フェリシアスが叫んだ。


「和人!」

クリステアとアンニフィルドも、和人に駆け寄った。


「どうしたのよ?」

「だめ、和人の頭脳波にシンクロできない!」

フェリシアスが首を振った。


「先を越された!」

「頭脳波をシールドされたんだわ。ファナメルの仕業よ」

「ユティスのいない隙を突かれたんだ」


「もう一度、呼びかけてみて!」

アンニフィルドはクリステアに頼んだ。


「無駄よ。完全シャットアウトだわ・・・」


「方法はないの?」

「そうね・・・。ユティスのハイパーラインだけしか和人にアクセスできないわ」


「でも、そのユティスも・・・」

「そう・・・。お手上げだわ」

「次のターゲットは、やはり和人だったか・・・」

和人のうつろな目を確認すると、フェリシアスはSSたちに告げた。


「この様子だと、精神をどこかに持って行かれているな。ただシールドされただけではない。それに、和人が狙われたということは、ユティスに相当無茶な要求を飲ませようとしているに違いない。和人は人質だ」

フェリシアスはたちまちにしていろんな状況を推理した。


「ユティスを自分のものしたいだけじゃないの?」

アンニフィルドは苦虫を潰したような表情で言った。


「いや、地球に来て、さらに欲が張ってきた。それが真相だろう」

「懲りないヤツ・・・」




「Z国とは、なんなんだ?」

フェリシアスは、SSたちに説明を求めた。


「地球の一地域よ。政府は一部の特権階級の欲望のまま、惑星のすべてを手に入れようと、侵略計画を着々と実行しているわ。当然、そこの住民には、自由などないに等しい。甘んじて殺されることを望む自由を除けば、どのような権利も、一切保証されてないわね。それを正当化するため、曲がった宣伝と教育には、極度に熱心よ」


「うっ・・・。吐き気がしそうだ・・・」

たちまち、フェリシアスはあまりの嫌気に気分が悪くなった。


「そんなことを聞いて、よく平気だな、きみたちは・・・?」

「10回も吐けば、慣れるわよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「うっぷ・・・」

フェリシアスは手で口を押さえた。


「加えて、地球上のあらゆるところから物、人、技術を、非合法的に入手し、すべてを軍事力強化に注ぎ込んでいるわ。外交の切り札は、この軍事力をバックにしたテロ行為よ。技術的には、カテゴリー2に入っているけど、精神は、カテゴリー1のレベル2以上ではないわ。もし、ブレストが、エルフィアのテクノロジーの一部でも、ここに与えようものなら・・・」


「気違いに刃物ね」

アンニフィルドが最後に締めくくった。


「極めて危険だな・・・」

口を真一文字にして、フェリシアスは、表情を硬くした。


「もし、彼らが自暴自棄になったら、惑星ごと道連れにするわよ。ミューレスのように」


「・・・」

「・・・」


クリステアの言葉に、SSたちは沈痛な面持ちで、見詰め合った。


「それだけは・・・。それだけは、絶対に阻止しなければならない」

フェリシアスは断言した。


「ともあれ、わたしたち、またしても。しくじったわね」

クリステアが唇を噛んだ。


「なんてこと・・・」

アンニフィルドはフェリシアスを見つめた。


「どうするの?」

「まず、和人を守るべきだ。リュミエラは、必ずやって来る」


「ブレストの計画を先読みすることだ。ヤツの動きに気をつけねば・・・」

「和人の意識をターゲットにされたわ。精神攻撃の探知なんて、無理よ」


「そんなんで。大丈夫?」

「やるしかないな。これに味をしめて、精神攻撃を連続して仕掛けてくるつもりだ」


「やってくれるわねぇ・・・、連中も・・・」

「ファナメルは、A級SSだが、精神共感力は、超A級レベルだ」


「やっかいね。あたしたち以上だというの?」

「その点に関しては、そうかもしれん。わたしでも対抗できるか・・・」

フェリシアスはそう言うと和人の体を抱き起こした。


がさっ。


「アンニフィルド、クリステア、ちょっと手伝ってくれ」

「リーエス」


「まずは、和人を安全にしないと・・・」

「リーエス」


「そっちに横にしよう」


どさっ。

フェリシアスとSS二人は、和人を抱えるとソファーに移し、安静に寝かせた。


しーーーん・・・。


「待てよ・・・」

「どうしたの、フェリシアス?」

「なにか、おかしい・・・」


しーーーん。


ばっ。

フェリシアスは、和人の胸に耳を近づけ、それが上下していないのに気づいた。

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