261 裏切
■裏切■
エルフィア娘たちがシャデルから、一瞬で消えてしまったことが、昼のワイドショーで生中継されていたが、レポーターのキャシーはいつもの調子でハチャメチャだった。
「そこで切るか?アホ!」
「キャシーめ!まだ、カメラ回ってるじゃねーか!」
「取材終わらせたヤツは、さっさと引っ込んでろ!」
「番組が滅茶苦茶だぁ!」
「バカ野郎。あれでいいんだよ。どうせ、バラエティだし、暇人しか見てるかってんだ。今、これ見てるアンタ!例外じゃないぜ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「昼下がりのプログラムにうってつけだな」
「もう一度、コマ送りでプレイバックしろ!」
「了解!」
番組は3人が白い光に包まれて消えたところで静止画になり、次のレポーターの番に写った。
Z国大使館では、首尾よくユティスを手に入れた面々が集っていた。
「ユティスが手に入ったんだから、わたしたちの仕事は終わりね」
「ご苦労だった」
「じゃ、一緒にエルフィアに戻りましょう。準備して」
リュミエラが当然のように言ったが、ブレストは楽しそうに笑った。
「はっは。それはできんな」
「どいういうこと?ユティスの地球ミッションは、中止になったんじゃないの?」
たちまち、リュミエラの表情が険しくなった。
「きみらは、ここに留まるのだ」
「ユティスを、わたしたちと一緒に、エルフィアに連れ戻すんじゃないの?」
「ふっふ。だれが、そのようなことを?」
ブレストはずるがしこく笑った。
はっ。
「なに言ってるのよ?」
「どのみち、転送システムを動かすヤツは、おらん」
「えっ?」
リュミエラは、ブレストの意味するところが、とっさに理解できなかった。
「ふっふ・・・。きみも他の三人も、エルフィアには帰れんということだ」
ブレストの不気味な笑いに、リュミエラは棒立ちになった。
(ブレスト、騙したわね・・・)
しかし、リュミエラは激情の声を出して言うほど愚かではなかった。
「あなたは、理事会の使用許可を取ったと言ったわね・・・。地球の支援は無期延期で、エージェントは緊急撤収だと・・・」
「ふっふっふ・・・」
リュミエラはブレストを見据えた。
「すべて、ウソだったのね・・・」
リュミエラは静かに言った。
「簡単なことさ。転送システムは、人間とは違う。ちょいと優しく教えてやれば、間違いなく、命令を実行する。命令をした人間に係わらず、不平も言わずにね・・・」
「あなたが、そうしたのね?」
「そう。わたしが、依頼したのだよ」
ブレストも声を荒げることなく、リュミエラに静かに言った」
「・・・というわけだ」
「つまり、エルフィアは、われわれのことを・・・」
(なんてこと・・・。転送システムの違法利用者としてばかりじゃなく、ユティスを拉致し、強制送還に手を貸したことに・・・。指名手配してるってわけね)
リュミエラは怒りが湧き上がるのを抑えた。
(ここは、賢明な対処をしないと・・・。SSに復帰申請どころか、完全にユティス誘拐の首謀者として、こっちが、ブレストとトルフォの罪までかぶることになるわ・・・)
リュミエラは文明促進支援の理事たちにSSを更迭されて、ある種の恨みをいだいてはいたが、エルフィアの文明促進の意思自体を裏切ることは、その意に反していた。
「あなたたち、知っていたの?」
リュミエラはゾーレとファナメルそしてシェルダブロウにきいた。
こっくり・・・。
二人は無言で頷いた。
「どうして・・・?」
「ふっふ。あの三人が、きみより賢いということさ」
ブレストは両手を広げて、作ったように、申し訳なさそうな顔をした。
「はっ・・・。わたしだけか・・・。バカをみたのは・・・」
「そうでもないぞ。リュミエラ、本当はきみは賢い。今、わたしにつくなら、SS以上の、一生楽な地位と生活を保証するが・・・」
ブレストはにたりと笑うと、リュミエラに答えを迫った。
「そんなもの・・・!」
リュミエラは言いかけて途中で叫ぶのを止めた。
(どうせ、ブレストの言葉は空手形。用済みになったわたしたちは、どうなったって構わないってことだわ。今、ブレストに答えるのは懸命ではない・・・。時間稼ぎをするしかないわね・・・)
「ふふふ・・・」
リュミエラは、一転して薄笑いを浮かべて、慎重に答えた。
「考えさせて。突然、そう言われてもねぇ・・・。今の今、即答はできないわ・・・」
「ふふ。よかろう。変な気は起こすなよ」
ブレストは、残るSS三人に目配せした。
シェルダブロウ、ゾーレとファナメルは、元超A級SSリュミエラの実力を十分に知っていた。なにしろ、あのフェリシアスの右を努めたミッションは、一つや二つではない。三人とも、A級SSではあったが、前最高理事直下配属の超A級SSとの実力差は、歴然としていた。
「ファナメル、リュミエラの思考波をブロックしろ」
だしぬけに、ブレストがファナメルに目配せした。
「リーエス」
「あっ!」
ファナメルのシールドで、リュミエラが、エルフィアと交信できる道は、一瞬にて、絶たれた。
「ファナメル、なにをするの!」
リュミエラは一瞬驚いたが、すぐに冷静に判断した。
「わたしが・・・、信用できない・・・、というのね?」
「返事を聞くまではな」
ブレストはにやりと笑った。
「わかったわよ。あなたにはなにもしやしないから」
リュミエラは両手を広げた。
にたっ。
「やはり、きみは賢いな」
ブレストは一転してリュミエラに微笑みかけた。
「で、ユティスを手に入れたのはいいけど・・・、どうするつもり、あなた?」
リュミエラはすぐさま話題を変え、これ以上、ブレストの懐疑心を大きくしないようにした。
「当然、エルフィアに帰すさ」
ブレストは簡単に答えた。
「だれが、どうやって?」
「わたしだよ」
「あなたが?」
(リーエス。おまえら狂ったSSから彼女を救った英雄としてな・・・)
なでなで・・・。
ブレストは、無意識にユティスの足を愛撫した。
(ただのスケベオヤジじゃない・・・)
「いつまで、そうやってる気、ブレスト?」
--- ^_^ わっはっは! ---
リュミエラは、ユティスを両腕に抱えたブレストをからかい気味に言った。
エルフィア大使館では、真紀も交えて、アンニフィルドたちが、ユティスの行方を捜していた。
「ごめんなさい、真紀さん」
「アンニフィルド、あなたがいくら謝っても、なにも解決しないわ。もう一度、ユティスが消えた状況を思い出してよ」
和人は順を追って話した。
「とにかく、化粧室がキーなわけでしょ?」
「リーエス」
「ユティスがさらわれたのは、そこしかないわ」
「でも、消えた痕跡がないのよ」
アンニフィルドはその時の状況を言った。
「ユティスは、化粧室から出てこなかったんです」
和人は確信を持っていた。
「わたしたちも、アンデフロル・デュメーラも、超時空ジャンプを検出してないわ」
「でも、一人の若い女性が出てきた・・・」
「若い女性?その女どんなだったの?」
真紀が和人を見つめた。
「なんてことない金持ち風の若い女性でしたけど・・・?」
「その女性なら、わたしも見た。結構、上背があったわ。わたしと和人の中間くらい」
アンニフィルドが言った。
「わたしもよ。化粧室から出ると、店の中で店員と話しながら、ものを確かめてたわ」
クリステアが言った。
「じゃ、アンニフィルド、その女性は一人で入っていたの?」
「リーエス。化粧室で会った時はそうだったわよ。あそこで、男の連れがいたなら、わかったはずよ。悲鳴が聞こえてくるはずだから」
--- ^_^ わっはっは! ---
「もし、ユティスをさらったのなら、二人で出てくるんじゃない?」
「あなたたち、その女性の顔、思い出せる?」
真紀は三人を見比べて言った。
「リーエス。アンデフロル・デュメーラ、手伝って!」
「リーエス、SS・クリステア」
和人とSSの二人は、その女性の顔を思い出しながら、イメージをアンデフロル・デュメーラに送った。
ぼやぁ・・・。
ぽわん。
部屋の中央に、空中スクリーンが現われ、その女性の顔や姿をぼんやり映し始めた。
「大体、近くなってきたわ」
ほわぁ・・・。
「いい感じよ、アンデフロル・デュメーラ」
「リーエス、SS・アンニフィルド。もう少し、細部を思い出していただけますか?」
ぽわぁ・・・。
三人の思い出すイメージから、スクリーンに立体的な姿が浮かび上がっていった。
かちっ。
三人は、それに従い、アンデフロル・デュメーラは、最終的なイメージを固定した。
「これで、99%の確率で、本人の顔と全身を確定いたしました」
そこには、一人の女性が映し出された。
「もしかして、あなたたち、知ってる人じゃない?」
真紀が、アンニフィルドとクリステアにきいた。
「そうねぇ・・・」
「あの3人の一人に見える?」
「絶対に、リュミエラじゃないわ」
クリステアが断言した。
「ゾーレでもなさそう」
アンニフィルドが言った。
「じゃ、シェルダブロウ?」
「あはは。あいつは男よ。女性に化ける趣味もないと思うわ」
-
-- ^_^ わっはっは! ---
「ファナメルかしら?」
「違うと思う・・・」
彼女たちは、ファナメルが丁寧にメークして、巧みに正体を偽っていたと気付かなかった。
「こうして見ると、結構、メーク強いけど、素顔はどんな顔してんだろう?」
和人がぽろっと口にした。
「それよ!アンデフロル・デュメーラ!」
アンニフィルドが、叫んだ。
「リーエス。SS・アンニフィルド。メイク落とし修正を加えてみます」
しゅわっ・・・。
アンデフロル・デュメーラが言うと、その画像は、化粧に左右されない、素顔の表情を浮かび上がらせた。
「ひょっとしたら・・・」
「ねぇ、アンデフロル・デュメーラ、髪の色と形も修正して。髪は濃い目のブラウン。前髪は上げて、額を見せて」
クリステアが注文した。
「リーエス」
ぱっ・・・。
「髪が肩まで届いてるわ。もう少し短めにして」
ぱっ。
「そう。そんな感じ・・・」
「全体のボリュームを少なめにしてみて」
「リーエス」
ぽわんっ。
「あ・・・」
「ファナメル!」
アンニフィルドとクリステアは同時に叫んだ。
「フェリシアス!」
クリステアはハイパー通信でフェリシアスを呼び出した。
「どうした、クリステア?」
「ファナメルよ。お店にいた女、ファナメルだったの」
「変装してたんだな?」
「リーエス。髪形を変えてたの。お化粧も、ルージュやマスカラ等、地球人風にこってりとつけてね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふうむ・・・。女性は、化粧で別人になる」
フェリシアスは考え込むように言った。
「ファナメルにはしてやられたわ」
「彼女は、さぞかし、楽しんでたんだろうな?」
「ホント、癪に触る。わたしたちの前で堂々とお店で、ドレスを物色していたのよぉ!」
「やはりな・・・」
「わかってたの?」
「可能性としてね・・・。ジャンプしたんじゃないなら、歩いて入ったんじゃないかって、考えていたところだ」
「じゃ、わたしたちがお店にいる前に、ファナメルたちは既にお店に入って、2階に潜んでいたってこと?」
「リーエス。そういうことになる」
「いいなぁ。いろいろ試し着してたんでしょうねぇ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「クリステア、ひょっとして、きみは羨ましがってるのか?」
「一応、わたしも女性ですからね」
「だんだん、きみもアンニフィルドに似てきたな・・・」
「はいっ?」
「どう、和人?」
真紀が心配げに言った。
「だめです。ユティスにアクセスできない・・・」
和人は、ユティスにハイパーラインで呼びかけを続けていたが、ユティスからは、いっこうに返事がこなかった。
「もう一度!」
アンニフィルドは言った。
「ユティス、ユティス、オレだよ。わかるかい?和人だよ」
和人は、優しく赤ん坊に語りかけるように言った。
「もっと、ユティスが、あなたと感じるようなこと言ってよ!」
アンニフィルドが、和人に催促した。
「そんなこと言っても・・・」
「女神さま宣誓を、もう一度唱えなさい!」
クリステアが言った。
「ま、待ってよ。それ、タブーじゃないのか?」
「緊急事態よ」
「やんなさいよ、和人」
「そう言ってもなぁ・・・」
和人は赤くなって、二人を見た。
「恥ずかしがってる場合じゃないわ。どうせ、ここにいるのは、わたしたちだけじゃない」
「わかったよ・・・」
和人はもう一度目を閉じて、ユティスの笑顔を想い描いた。
ふわーーーんっ。
そうすると、和人は、ユティスへのあらん限りの想いが自然に溢れてきて、泣きたいくらい胸が一杯になった。
じわーーーっ。
「ユティス、ユティス。オーレリ・デュール、ディア・アルティーア・・・」
「うーーーん」
「ディア・アルティーア・・・」
「うーん、か、和人・・・さん・・・?」
和人の想いは、ハイパーラインでファナメルのシールドをかいくぐり、ユティスに届いた。
「和人さん?」
今度は、はっきりとユティスは答えた。
「ユティス!オレの声が届いたんだね!」
じんわーーー。
和人は涙があふれそうになり、上を向いた。
「和人さん、和人さん。ああ、和人さん!」
「よかった、ユティス、無事なんだね?」
「リーエス。和人さん。でも、ここは・・・、どこでしょうか?」
ユティスは自分のいる場所が、どこなのか皆目検討わからなかった。
「ユティス、ハイパーラインを切らないで。アンニフィルドたちが、きみの頭脳波をキャッチするから。そうしたら場所も特定できる」
「リーエス」