025 再開
■再開■
「ウツノミヤ・カズトの行動と精神のモニタはどうだね?」
「エルド、普通ですよ。日常的な仕事を真面目にたんたんとこなしています」
「自分の経験と他人の意見との葛藤に苦しんでいるような兆候は?」
「ナナン。自分の経験を信じていますね。これは彼が自分自身を大切に思っているという一例でしょう。彼にはそれが根底にあるから、精神的に安定を保てるのです」
「彼はユティスに対して疑いを抱いてるかな?」
「ナナン。まったくありません。それより自分にどういう非があるかあったのかを考えている様子です」
「例えば?」
「そうですですね、ユティスの言葉を聞き逃したとか・・・」
「なるほど・・・」
エルドは報告に聞き入った。
「ただし、少々、寂しがってはいますけどね」
「当然だろうな・・・」
「適合テストはあと半日ですが、わたしは彼がパスすると思います」
「うむ。それならいい」
エルドは満足そうに頷いた。
「大したものですよ。現実を見ながら経験を客観的に証明しようとしています・・・」
「ユティスの精神体とのコンタクト経験を信じているんだな?」
「リーエス。カフェでの店員との会話で、コンタクトが事実であったことを再認識してからというもの、ユティスとのコンタクトが途絶えてもなお、取り乱すようなことはありません。よほど、ユティスを信頼している様子です」
「うむ。このままなら反対派たちも納得せざるをえんだろうな」
エルドは満足そうに頷いた。
「リーエス。彼に精神的な欠陥は皆無ですよ。専門のわたしが保証します。大体において、こんなことを言い出した人間は、いったいだれなんですか?」
「理事の一人だ」
「理事・・・、トルフォでしょう?」
「まぁな。だが、賛同者も少なからず出たよ。参事も含めてかなりの人数だった」
「それでですね・・・?」
「うむ。だが、きみのおかげでそれも払拭できそうだ」
「リーエス。お礼には及びません。こういう他人の心を覗き見するなんて、趣味が悪すぎます。まるで、カテゴリー1じゃないですか?」
「そう言うな。ミューレスのことがあったばかりだ。理事たちが心配してるとおり、地球をミューレスの二の舞にするわけにはいかん」
「リーエス。それに、あなたにとってユティスは特別でしょうから、慎重の上にも慎重に、ことを進めませんと・・・」
「うむ。ありがとう。きみも少しは休み給え」
「リーエス。ありがとうございます、エルド」
ちんたら、ちんたら。
(ちっ、明日、会社休もうかな、オレ)
「イザベルちゃん、ごめん」
二宮は手を合わせた。
「先輩、どうしたんですか?」
「うるせい。この件、以後、触れることは許さん」
--- ^_^ わっはっは! ---
「先輩?」
「うるさい!たった今からオレは機嫌が悪くなったんだ!」
(イザベルさんが来る予定、先輩知らなかったんだ)
二宮の不機嫌の理由ははっきりしていた。
「この前、確か、イザベルさんと、しっかり飲んだんじゃなかったんですか?」
「それを言うな!」
「ひょっとして、当てが外れたとか?」
「うぉーーーっ!」
二宮はうなった。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぽかりっ。
「なにするんですか?痛いじゃないすかぁ・・・」
「黙れ。オレと席は離れるわ。電話が入って急用だとかで30分で先に帰るわ。なんで、オレの前に来ながら帰っちゃうんだよぉ!イザベルちゃーーーんっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「またしてもお気の毒です」
「文句あっかぁ?さんざんだったんだからなぁ!」
「ぷっ・・・。それは残念でしたね・・・」
和人は思わず噴出しそうになった。
「しかし、和人、おまえも、相変わらず空気を読むのが下手だなぁ」
「どこか、おかしかったですか」
「バーカ、社長と石橋がいて、石橋が泣きながら、おまえのことバカだって叫んんだぞ」
「オレ、石橋さんに仕事中何か失礼しましたっけ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
(アホか、こいつ・・・)
「石橋はなぁ・・・。やっぱ止めた」
(ここは関わらんほうがいい。ロクなことにならん)
「なんですか、先輩?」
「何でもない。小数点以下1万桁全部忘れろぉーーーっ!」
二宮は吼えた。
「忘れろったって、忘れろっていうことこそ、憶えていたりして・・・」
「そうなんだよなぁ。他人の秘密とか、おまえの秘密とか」
--- ^_^ わっはっは! ---
「憶えろっていうことこそ、憶えてなくてなぁ・・・」
ぽりぽり。
二宮は頭を掻いた。
「人に借りたお金でしょ?」
「それは1円も思い出せない」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わははは」
「あははは」
こんこん。
「エルドだ。入っていいかね?」
「リーエス」
「合格だ、ユティス。和人が頼もしい青年だと確信できた」
「それはエルドご自身の意見ですか、それとも委員会の意見ですか?」
ユティスの微笑は引っ込んでいた。
「手厳しいな・・・。わたしのだよ」
「それで?」
「午後の会議で和人ときみのコンタクト再開を認めさせる」
「そうですか・・・」
にっこり・・・。
ユティスはようやくゆっくりと微笑んだ。
「どうも、エルド。アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございますわ)」
「トルフォはきみになにか言ってきたかね?」
ぷるん・・・。
ユティスは首を振った。
「ナナン。ご心配なさらなで。トルフォ理事にはとても丁寧に接していただいています」
「そうか。了解した。で、すぐに委員会決議の結果を知らせるよ」
「リーエス。地球時間の今夜、和人さんの下に精神体でまいります。和人さんには、いろいろと謝罪しなくてはなりません」
ユティスは早くも和人に思いを馳せていた。
「そうだな。わたしもきみに謝罪しなくてはならん」
「エルドがですか?」
「ああ。1週間も連絡を禁止して済まなかった。詫びるよ」
「ふふふ。最高理事らしくありませんわよ」
「ナナン、わたし個人としてだ。許して欲しい」
ぺこり・・・。
エルドはユティスに深く頭を下げた。
「どうか面をお上げになって、エルド。わたくしに謝る必要はありませんわ」
ぎゅぅ。
ユティスはエルドに寄るとその腕に抱かれた。
二宮と和人は場所を変えて飲み直していた。
「それはさておき、おまえが夢で見たユティスとかいう女の子、3日間同じように現れたんだろう?」
「そうです、先輩」
「マジか・・・。地縛霊とかじゃないのか?」
「絶対に違います。まだ疑ってんですか?」
「だって、心配だろうが、会社まで追っかけてきて化けて出たら・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「大丈夫です。もう、ちゃんとした姿になりましたから」
「へっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちゃんとした姿って、どういうことだ?」
「もう、ぼやっとじゃなく、はっきり人間だってわかりますから」
「まぁ、いいが。そのユティス、なんか訴えてこなかったか?」
「どんなことを?」
「例えば・・・、貸した金を返してくれとか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーーー。それで、思い出した。先輩、千円」
「そうだったな。早く返してくれ」
「だーーーっ。貸したのはオレでしょうが!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「後でな。それで彼女とは?」
「いいえ。いろんなことを話しましたが、そんなことは一切なかったです」
「そんなに、たくさんの話をしたのか?」
「ええ」
「で、足はあったのか?」
「はい」
「セクシーだったか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「先輩!」
「わかったよぉ。今晩、オレが一緒にいてやる。幽霊かどうか確かめようぜ」
「ちょっと待ってください」
「なにか問題でもあるのか?」
「大ありです」
一方、真紀と石橋は続きをしていた。
「石橋・・・」
「うぇーーーん」
--- ^_^ わっはっは! ---
(石橋ったら・・・)
「泣かないでよ」
「は、はい。でも・・・」
「もう、すっかり和人に入れ込んじゃって。で、いつからなの?」
「前世の前世の前世で、神様に告げられた時からですぅ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、そう・・・」
「うぇーーーん・・・」
「で、今のあなたは、何回目の生まれ代わり?」
「わかりません。和人さんと結ばれるまで、続くんです!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はぁ・・・。宇宙が終末を迎えなきゃいいけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「もう、自分じゃどうしようもないんです!」
「ちょっと、声が大きいわ、石橋。周りに聞こえちゃうわよ」
「はい・・・」
「全部聞いてあげるから、場所変えましょ。ね?」
「はい。和人さんがいるところがいいです・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はいっ・・・?でも、今はよした方がいいわ。ニノミヤって怪しい生命体がいるから」
「わかりました・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
エルフィアの文明促進推進委員会では、地球人コンタクティーの宇都宮和人の精神テストの結果をめぐって決を取ろうとしていた。
「ユティスとのハイパー通信ラインを利用して、収集したデータを十分に分析しましたが、ウツノミヤ・カズトの行動には十分にしっかりした意思が認められます。懸念される浮ついた気分や、妄想的な考えはありません。エージェントとの接触停止で精神的なショックや負担があったにも係わらず、日常生活に乱れは認められませんでした」
「コンタクトが絶たれた後の精神は?」
「寂しがっている感情が大きいですが、この範囲ならば極めて正常です。これが今までのモニターした値です」
ぴ、ぴっ。
ぴぴぴーーー。
ぱちぱち・・・。
スクリーン上に、それが表示されると、会議場は拍手に包まれた。
「・・・」
「トルフォ、意見がおありですか?」
議長がトルフォを見た。
「ナナン・・・。ない」
「しかるに、1週間前にトルフォより懸念事項として出されたコンタクティーの精神的な支障については問題なしと結論します。ウツノミヤ・カズトの精神に重大が欠陥があるとは思われません」
精神専門家たちのデータ分析結果が伝えられた。
「リーエス。同意する」
「わたくしも同意いたしますわ」
反対した理事たちも、今回の結果に納得したようだった。
「では、ユティスのコンテクティーへの接触再開を許可します」
議長はそういうと、エルドと抱擁した。
「ありがとう」
「当然の結果だよ、エルド。トルフォめ、まったく、面倒くさいことをさせよって・・・」
「しかし、早めに確認が取れてよかった」
エルドの安心した表情に、議長は理解できないという顔をした。
「早め?どういうことだ、エルド?」
「プロジェクト、いや、ことが進んでから、『きみの精神はユティスのパートナーとしての資質に欠けている』とは言えまい?」
にやり。
「なるほど・・・」
ぱちん。
議長はエルドに方目を閉じて答えた。
「やっと、トルフォの対抗馬を見つけたね、エルド?」
「ふふ。ご想像通りだ」
二宮と和人はまだ飲んでいた。
「あれ以来、ユティス、ぜんぜん現れてないのか?」
「それどころか、連絡すらないんです。なんで1週間も連絡して来ないんでしょう?」
「そりゃ、成仏できたからだろう」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だから、ユティスはですね、幽霊なんかじゃありませんってば」
「ほう。じゃ、おまえ、オレの前で彼女を呼んでみろよ。で、もって現れたら、おまえの言い分を信じてやる。でなきゃ、成仏。オレの言う通り、幽霊女は極楽浄土へ昇天・・・。ナンマイダ、ナンマイダ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「縁起でもない。先輩、怒りますよ」
「いいから、今晩はおまえの部屋に泊まるぞ」
二宮は本当に和人の部屋におしかけるつもりだった。
「その前に買出し、買出し。酒に、つまみに、カップ麺と」
「ちょっと、先輩、勝手に決めないでください。OKって言ったわけじゃないんですよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なに言ってんだ。ちょうど1週間。今晩が一番危ないんだ」
「なんでです?」
「オレ様がそう言うからだ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「幽霊だったら、ホント今晩あたりナニを抜かれちうぞ」
「ナニって」
和人はあわてた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「魂に決まってるじゃないか」
「魂か、ほっ・・・」
「他に抜かれちゃ困るもんがあるんだっけ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「先輩!」
「わっははは」。
二宮は笑いこけた。
やっと二宮も飲み屋を出ることにし、和人のアパートに二人で戻ってきた。
ぎしっ。
ぎしっ。
歩くたびに床が鳴った。
「こいつは、なんか出てきそうな感じだなぁ・・・」
「先輩がオレの部屋、ここに決めてきたんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「人聞き悪いこと言うなよ。オレは下見をしただけ。決めたのは真紀さんだよ」
「でも、社長に、それでいいって言ったのは、先輩でしょ?」
「それは違うな。『それでもいいんじゃない?』だ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「一緒でしょうが・・・」
和人のアパートは築30年以上はするボロアパートで、確かに女の幽霊が出るとしても不思議ではない雰囲気があった。会社が和人の部屋を借り上げ、会社の寮としていた。部屋の広さこそ1DKで二宮と同じだったが、とにかくお世辞にもいいところとはいえなかった。
みしっ。
みし、みしっ。
「階段も廊下もミシミシいっているぞ」
二宮がわざと床を鳴らした。
「いいんです。雨漏りもないし、隙間風も来ませんから」
「でもなぁ。部屋変えてくれって、言ってやろうかぁ、常務に」
「同じアパート内じゃ、意味ありませんけど・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「しかしだなぁ。確かに、ひどすぎる・・・」
がらっ。
「ちゃんと玄関閉めといてくださいよ」
「ああ」
パキっ!
なにか、乾いた音がした。
びくっ・・・。
「ポ、ポルダーガイストだ・・・」
二宮は身を震わせた。
「大丈夫です」
しかし、隣部屋の住人がドアを開けて出てきて陰気に挨拶した。
ぺこり・・・。
「こんばんは・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
(なんだ、隣の住人かよ)
二宮はほっと肩をなでおろした。
(しっかし、なんて陰気なヤツだ。生理的に合わないぜ、こういう低エネルギーのやから)
二宮は、たまたま運が良く築3年の新築物件が見つかったのだった。
「二宮、これ新築物件なのよぉ。あなたラッキーねぇ」
「おす、ありがとうございます」
「一生の幸運を使い果たしたかもよぉ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぎぇーーーっ!そりゃ、冗談じゃないっすよぉ!」
会社は社長の国分寺真紀が女性のためか、男性社員は常務の国分寺俊介を除くと二宮と和人だけで、他の12人は女性ばっかりの自宅通勤者だった。
「二宮、今年の新人は、念願の男よ」
「決まったんですか?」
「そう。嬉しい?」
「そりゃ、もう。女所帯で、2年いじめられ続けましたから・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それ、わたしへの当て付け?」
「め、滅相もない!」
「で、その和人だけどさ、こっちには一人で出てくるのよ」
「じゃ、寮を探すんですか?」
「そういうこと。お願いできる?」
「おす。それはいいんですが、オレのアパートいっぱいになっちゃって・・・」
「あなたのアパート満室になっちゃったの?」
「そうなんですよ・・・」
「仕方ないわねぇ・・・」
そういうわけで、寮住まいはこの二人だけだった。
和人の部屋に来た二宮は、結局、酒をあおりはじまた。また、カラテ選手権のイザベルのビデオを見ては、自分の話題に終始した。
「すっげー、見たか、和人。二人が3メートルくらい離れているだろ」
「ええ・・・」
「そっから、一気に飛ぶように間合いをつめ、左上段蹴りを決めるんだ。ほれ、ここ」
すうーーーっ。
「シイヤッ!」
ばしっ。
どたん。
さっ。
3人の審判から一斉に白旗が上がった。
「1本!喜連川!」
「うわぁ、いつ見ても最高のノックアウト・シーンだぜ」
「先輩も、そのステキな1発を喰らったんでしょ」
--- ^_^ わっはっは! ---
がさっ。
「ぶっ殺すぞ、和人」
和人は適当に付き合っていた。
「今、何時だ?」
「11時5分です。丑三つ時にはまだですが・・・」
「あーあ、まだそんな時間かよ」
二宮は大きなあくびをした。
「先輩、シャワー浴びないんですか?」
「朝にする。今日はもう面倒くさい。トイレ行ってくる」
「そうですか」
「おう」
二宮は和人の部屋に戻ると、大きなあくびをした。
「ふわぁーーー。なんか、幽霊女が現れるって感じでもないなぁ。眠くなってきたぜ」
「だから、幽霊なんかじゃないですって、先輩。寝るんなら、布団出しますよ」
「おう、よろしく」
和人は押入れから1人分の布団を出して、二宮のそばに敷いた。
「サンキュー」
二宮は上着とズボンを脱ぐと、布団にもぐりこみ、あいかわらずカラテのビデオを見ていた。
(しかし、ユティス、1週間近く現れてないんだ。そんなにタイミングよく現れてくれるのかなぁ。とにかく、ユティスを信じて呼んでみよう)
和人は静かに目を閉じた。
(ユティス、ユティス、聞こえるかい。オレだよ。和人。ねぇ、聞こえたら、応えてくれるかなぁ・・・)
今晩も、和人が呼んでも、ユティスからの連絡は来なかった。
(ユティス、出ないなぁ・・・)
やがて、二宮は眠ってしまい、和人は彼に毛布をかけてやった。
(12時5分前。しかし、よく飲むよなぁ、先輩も・・・)
そうして、和人も毛布をかけて寝ようとした途端、ついにユティスから声が届いた。