255 対面
■対面■
ブレストたちはリッキーたちの表情や動作を観察していた。
(目は口ほどにものを言う。しかし、口も目も嘘を言う。筋肉の動きや無意識の動作は真実を語るか・・・。今のところ、このッリッキーに偽りはないようだ)
(わたしも同じくよ、ブレスト)
(リーエス。よかろう)
シェルダブロウとファナメルはZ国の人間の精神波を探り、ブレストに報告した。
「リッキー、前任者たちの正確な居場所、及び今後の行動予定は、把握しているかな?」
ブレストはおもむろに言った。
「エルフィアの前使節団はこちらです」
ぴっ。
リッキーは、プロジェクターに映し出された地図にレーザーポインタを向け、丸を描いた。
「ここから、そう遠くないな・・・」
「そうです。これが、その様子です」
今度は、エルフィア大使館となった和人の家が映った。
「時空セキュリティがかかってるはずよ」
リュミエラが言った。
(きれいな澄んだ声をしている・・・)
リッキーはリュミエラの声に無性に嬉しくなった。
「当然だな。PWは入手できてるか?」
「ナナン。それは無理と言うものよ。生体認証じゃ、本人以外は入れない」
(なるほど、そういうことだったか・・・)
リッキーは納得した。
「主な拠点は、もう一つある。彼女らの仕事場、株式会社セレアムです」
「仕事場?」
「カムフラージュです。地球人に溶け込み、警戒心を煽らないように・・・」
「場所は?」
「ここです」
リッキーはセレアムの住所を指した。
「それに、ユティスは単独行動はしていません」
「というと?」
「常に、コンタクティー、いえ、前コンタクティーの宇都宮和人と二人のSSのどちらか一人と常に一緒にいます」
「24時間ずっとか?」
「はい。さすがにバスやトイレは違うと思われますが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「他に、よく行くところは?」
「近くのカフェです。エルフィア人3人と宇都宮和人の4人でほとんど毎日で利用しています」
リッキーはスターベックス・カフェを示した。
「ということは、まだ、ユティスは本格的な調査に取り掛かってないな・・・」
ブレストはリュミエラを見つめた。
「さぁ、どうだか。行くとこ、見るもの、聞くもの、すべてが調査対象よ。アンデフロル・デュメーラ経由で、状況は委員会に送ってるんじゃないの?」
「ふむ。なるほど。一理ある・・・」
「それに、不定期ではありますが、スーパーマーケット、本屋、図書館、レストラン、空手道場、銀行、金座のシャデル、ホテル・ベネチアン・ベルメール、公園、スポーツ、遊園地、温泉宿、海水浴場、空港、駅、神社仏閣等々です」
「はっ、あきれた・・・。観光旅行と言われても仕方ないわね」
ファナメルが初めて口を開いた。
「お止めなさい、ファナメル。エージェントが、政府に顔を出して、偉そうな態度を取れば、正確な情報が取れるとでも言うの?」
「だって、娯楽施設なんでしょ?」
「だからよ。委員会の知りたいのは、一般の人の一般の生活状況。どんなテクノロジーが、どれだけ人々に浸透しているか、テクノロジーと精神の歩調がどうなっているのか、それらを見極めること。そして、人々の価値観や心の健康状態を調べること。ユティスのやってることは、まったく理に適ってるわ」
「どうだかねぇ・・・」
ファナメルは不満そうな顔をした。
「わたしたちがミューレスで失敗したのは、それを軽く見たからよ」
リュミエラの静かだが、断固たる口調にファナメルは黙った。
「リュミエラ・・・」
ゾーレが話の先をいくように合図した。
「いいわ。話を先に進めて」
「現地のSSスタッフの状況は?」
リュミエラの言葉を受けて、ブレストは次の質問をリッキーに投げかけた。
「日本国のSSは常時2名が二人を監視中。その他、行く先々で警備に当たっている警察官が何人も。合衆国も2名をアサインしました」
「ふむ・・・」
「直近のスケジュールは?」
「シャデルです」
「それは、どういうところだ?」
「ファッション店ですよ。えらく高価ではありますが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「特権階級の御用達ということか・・・」
「面白そうじゃない?」
ファナメルが興味を示した。
「そこに行く目的は?」
「ショッピングではないらしい。彼女らのビジネスの一環だと思われる。中でも、彼女たちのボスで、会社常務の国分寺俊介は、シャデルの日本支配人と仲が良い。ちょくちょく一緒に飲んだり、パリに行ったりしている」
Z国はパリのオークションで、俊介にクリスタルボールを落札され、入手しそこなった苦い経験があった。
「それで、それは、どこにある?」
「ここです」
俊介はスクリーーーン地図上でそれを示した。
「現地での交友関係は?」
「株式会社セレアムの人間が中心です。中でも、国分寺姉弟、二宮祐樹、石橋可憐、そして、来年極めて高い確率で入社するであろう、現在は専門学校生徒の喜連川イザベル」
ぱっ。
ぱっ。
ぱっ。
スクリーン上に次々と人物が映し出された。
「止めろ」
「はい」
ぴっ。
「イザベル・・・、最後のはだれだ?」
ブレストはイザベルのところで、スライドを止めるよう指示した。
「宇都宮和人が在籍していた専門学校にいる女です。現在は2年生。二宮と同じ空手道場に通ってます」
「わかった。ありがとう」
「とんでもない」
リッキーは頭を下げた。
「Z国は、ユティスを確保しようとしたことが、一度ならず何度かあるな?」
ブレストはリッキーを見つめた。
「はい。いずれも不成功に終わりましたが・・・」
(ほう・・・。Z国は自分たちの利益のためなら、嘘も騙しもなんでもありと聞いていたが、リッキー・Jという男、これまでのところ真実を語っている。意外だな・・・)
ブレストはシェルダブロウから精神波でのチェック結果を受け、面白そうにわらった。
「ふっふっふ。リッキー、きみは正直だな」
「どうも。もう、わたしが正規コンタクティーとなったのであれば、隠し立てする必要もありませんから・・・」
「なるほど、いい心がけだ。Z国は、なんとしてもエルフィアのテクノロジーが欲しい。そういうことだな?」
「はい。なんとしても・・・。世界に冠たるテクノロジーで人類に貢献することが、わが国の希望です」
「結構。期待してくれていいぞ。その際は、Z国が地球のリーダーとなれるよう、十分支援を行なう用意がある」
「はい。ありがとうございます、大使」
エストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラは、地球上空32000キロで、キャムリエルと共にユティスたちの様子を見守っていた。
ぴっ・・・。
「アンデフロル・デュメーラ、どうしたんだい?」
「SS・キャムリエル、一瞬、かすかな時空の揺らぎを捉えました」
「一瞬のかすかな揺らぎか・・・。いかにも、隠したがってる感じだね?」
「わたくしには、結論を出しかねます。エルフィア人5人の頭脳波は、依然、キャッチできてませんから」
キャムリエルは慎重に考えた。
「なんか怪しいぞ・・・。位置はわかるかい?」
「リーエス、SS・キャムリエル。座標をチェックします」
ぴっ、ぴぴっ。
ぱらぱらーーー。
アンデフロル・デュメーラは空中スクリーンに、それを映し出した。
「地球上の位置は、日本国、Z国大使館付近半径100メートル、80%の確率です」
「やっこさんたちかな?」
「現時点では、不確定です。SS・フェリシアスに通知します」
「リーエス。そうしてくれ。ぼくは、アンニフィルドたちに連絡する」
「リーエス、SS・キャムリエル」
しゅんっ。
フェリシアスはZ国の動きを監視するために、Z国大使館の周辺に現われた。
ぎょっ・・・。
すたすた・・・。
突然出現した長身で長い金髪をした男が近づいてくるのを見て、ビールを配達中の酒屋の親父は、大いに慌てた。
「あわわわ・・・」
--- ^_^ わっハッは! ---
酒屋の親父は、トラックの荷台からビールのコンテナを降ろした姿勢で、フェリシアスを見入った。
すたすた・・・。
「お晩です」
ぺこっ。
--- ^_^ わっはっは! ----
フェリシアスは、酒屋の親父のすぐ目の前で止まると、丁寧に頭を下げた。
ぺこっ。
「へぇ・・・。けど、真昼間なんですが・・・」
親父も礼をした。
--- ^_^ わっはっは! ---
ぎしっ・・・。
「あ、痛・・・」
親父は屈めた腰を伸ばした。
「あんた、今、わしの前で、ぱぁーーーと・・・」
親父は同意を求めるように言った。
「まぁ、人生長くやっていると、たまには、そういうことに出会うかもしれん」
「ほえっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「驚かせたのなら、謝る。わたしは、あなたに危害を加えるつもりは毛頭ない」
「あはは・・・」
すうっ・・・。
フェリシアスは、彼の手がまた、ビールのコンテナに掛かかるのを見て、次に、車から降ろされたカートを見た。
「な、なにをする気だ・・・?」
酒屋の親父は今にも腰を抜かさんばかりだった。
「重そうだな、親父さん。手伝おう」
--- ^_^ わっはっは! ---
「え?」
「後、いくつ積むのだ?」
「あ、4ケースだ・・・、どうしようって・・・?」
「わたしに任せておきなさい。昼間に腰を使いすぎると、夜使えなくなる」
にたっ。
--- ^_^ わっはっは! ---
フェリシアスはそう言うと、左手をトラックのビールのコンテにかざした。
ごとっ。
ビールのコンテナは、一度振動すると、フェリシアスの手に従うように、トラックの荷台から浮かび上がった。
ほわっ。
「ぎゃ・・・」
すぅーーー・・・。
がたんっ。
がたがた・・・。
フェリシアスは、それを親父が積もうとしていたカートの上に置いた。
ごと。
「これでいいのか?」
「あ、すまん・・・」
フェリシアスはにこりともせずに踵を返した。
「親父さん、達者でな」
すたすた・・・。
去っていくフェリシアスの後姿を見ながら、酒屋の親父は、首を振った。
「腰が抜けちまった・・・。どこのだれだか知らんが・・・。さっさと片付けて、家で一杯やろう・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぽわぁーーーんっ。
「アンニフィルド、クリステア。ボクだ」
キャムリエルの精神体がエルフィア大使館の居間に現れた。
「ああ、キャムリエル。また、緊急連絡?」
「リーエス。アンデフロル・デュメーラが、Z国大使館周辺で、かすかな時空の揺らぎを捉えたんです」
はっ。
「それって、ブレストたち?」
「可能性は大いにあります、クリステア」
「フェリシアスには?」
「アンデフロル・デュメーラから伝えてあります」
「これから、俊介たちとシャデルに出かけようって考えてたけど・・・」
「それは、最優先の用事ですね?」
キャムリエルはクリステアにきいた。
「そりゃ、最優先って言われれば、ねぇ・・・?」
クリステアはユティスを見た。
「リーエス。どうしますか、アンニフィルド?」
ユティスが、アンニフィルドに確認を求めた。
「断れるわけないわ・・・」
アンニフィルドは渋い顔になった。
「常務さんのお誘いですものね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そういうことですか」
ユテイスたちだけでなく、キャムリエルも頷いた。
「なによ、みんなして納得しちゃって!」
「ご忠告、ありがとう、キャムリエル。3人いるから、十分気をつけるわ」
「リーエス。きみたちなら、大丈夫だとは思うけど、くれぐれも気をつけてください」
「了解よ」
キャムリエルは、ユティスに少なからず未練があったので、自分の最大の関心事に触れることにした。
「いつもユティスと一緒にいる、和人は、どこですか?」
キャムリエルは和人いないのをいぶかった。
「ははーーーん。来たわねぇ?」
クリステアが鋭く言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「な、なんですか、クリステア・・・?」
キャムリエルは素早く誤魔化そうとした。
「そう言えば、いつの間にかいなくなっちゃったわねぇ・・・」
アンニフィルドは辺りを伺った。
「和人さんはお部屋でPCでお仕事中ですわ」
ユティスが答えた。
「仕事をしてるんですか?」
「リーエス、キャムリエル。和人さんは、常務さんのお迎えが来るまでに、それを片付けたいとおっしゃってましたの」
「感心だなぁ・・・」
にやっ。
「あなたは、手伝ってあげないんだ・・・?」
クリステアが悪戯っぽく、ユティスに流し目した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「うふ。そうしてさしあげたいのはやまやまですが、お客様のマーケティング資料だから、だれにも見せられないんだと・・・」
「守秘義務の履行ってわけね?」
「リーエス」
「で、その客って?」
「二宮さんのお客さんです」
「二宮の客?」
「リーエス」
アンニフィルドとクリステアは、顔を見合わせた。
「ひょっとして、ラブリー・エンタープライズって、萌えキャラの会社?」
「リーエス。それが、どうかしましたか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーーーっ、はっはっ!」
「ひーーー、ひっひっひ!」
二人はいきなり笑い転げた。
「どうしたんですか、お二人とも?」
ユティスとキャムリエルは、わけがわからず、おろおろした。
がたっ。
どたどたどた・・・。
「ひーーーっ、これが笑わずにいられますかって!」
アンニフィルドはお腹を抱えて苦しそうに笑った。
「あのね、ユティス、そこのマーケティングってのはねぇ・・・」
ばーーーんっ。
「ストーーーップ!だれが、ラブリーですか!」
血相を変えて、和人が居間に入ってきた。
「おや、仕事熱心だわねぇ。目が真っ赤よ、和人」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーーーっはっは!クリステア、あなた突っ込まないでよぉ!」
なおも、二人は笑い転げた。
「どうしたんだい、二人とも?」
キャムリエルが困ったように和人とユティスを見た。
「わたくしにも、わかりません・・・」
「こら、二人とも、これはまじめなビジネスなんだぞぉ!バカにするな!」
「はいはい」
くいっくいっ。
「キャムリエル。いいから、ちょっと、来なさいよ」
クリステアが右手でキャムリエルを手招きした。
「リーエス。なんでしょうか?」
「和人、あなたになら、見せてくれるかもよ、その資料・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「え、部外者のボクにかい?」
「ナナン。あなたは男性。部外者じゃないわ」
「え?」
「あーーーっはっは!」
またまた、二人は笑い転げた。
「ん、もう、いい!この資料は二宮さんに、すぐに返す!」
和人はすっかり臍を曲げていた。