252 部隊
■部隊■
「挨拶は、それくらいでいい。わたしには、抱擁もキスもいらん」
フェリシアスは手でエルフィア娘たちを制した。
「じゃ、キャムリエルにするわ・・・。キャムリエル、ようこそ、地球へ」
ちゅっ。
クリステアは、キャムリエルの背中に腕を回して抱擁し、頬に口づけした。
「あ・・・」
かぁーーー。
たちまち、キャムリエルは、真っ赤になり、困ったようにフェリシアスを見た。
「おっほん!」
--- ^_^ わっはっは! ---
フェリシアスは一際大きい咳払いをし、説明を続けた。
「よろしいか、諸君?」
「リーエス。どうぞ」
「トルフォ、ヤツの狙いは、まず、ユティス。次は和人だ。ユティスは、われわれも警戒していると、相手もわかっている。しかし、和人はどうかな?」
「あら、わたしじゃ、役不足ってこと?」
アンニフィルドは不満げに言った。
「ナナン。気を緩めてはならないということだ。和人こそ、しっかり守らねばならない」
フェリシアスはすぐに冷静な声に戻った。
「和人さんですか?」
「オ、オレですか?」
「和人ですってぇ?」
ユティスと和人とアンニフィルドが同時に言った。
「リーエス。理由は3つ。1つは、ユティスを獲得するうえで、ユティスを誘き出すオトリと人質の確保、ことが済んだら、邪魔者は処分」
「処分?」
和人が聞き返した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、ひどい・・・」
ぴと。
ユティスが和人に寄り添った。
「2つ目は、エルフィアで侮辱されたことへの単なる報復」
「仕返しね?」
「うむ。この場合、報復の対象者は消去」
「消去?」
和人はまた聞き返した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、本当にひどい」
ぎゅ。
ユティスは和人の腕をしかりと握った。
「3つ目は、宣誓の無効化。宣誓への返答は、宣誓した本人が、存在しなくなれば、例外的に無効になる。その場合、トルフォにも、ユティスに言い寄る機会が残される。宣誓者は事故と見せかけ、処理」
「処理?」
和人はまたまた聞き返した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、なんてひどいことを」
ぎゅぎゅ・・・。
ユティスは左手で和人を抱き締めた。
「ホント、ひどいことするわね」
「まだ、されてなんかいないぞ、アンニフィルド!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わたしがさせてないからよ」
「へっ?」
--- ^_^ わっ八は! ---
「なぁーーーんてね。あは」
「いずれにせよ、和人を無事では済ませはしまい」
フェリシアスは続けた。
「こっちの情報は?」
「まだ、彼らが、われわれが動いたことは、知ってはいまい」
「どうせ、知ってなくても、向こうから、おべんちゃらを言ってくるに違いないわ」
クリステアが言った。
「そうそう。この前は、大変失礼したとかなんとか、へらへら顔で言ってね」
アンニフィルドも相槌を打った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティス。軽々しく、気を許しちゃだめよ」
クリステアは心配げだった。
「リーエス。みなさんに従います」
「トルフォは、プライドだけは人一倍高い男だ。和人に恥を掻かされたことを、決して忘れてはいないだろう。ブレストたちは、ユティスを拉致するだけでなく、必ず和人に復讐してくるはずだ」
「どうやってするというの、フェリシアス?」
「宣誓の無効化という必要条件からすると、事故に見せかけて、和人の命を奪うという可能性が一番高い・・・」
「生死を問わずですって。エルフィア人の血が通ってるの、アイツ?」
アンニフィルドは激怒した。
「和人にみんなが注目している隙をはかり、ユティスを奪い、自分のものにする」
「もし、わたしたちにひどいことしたら、エルフィアで、のうのうとなんかさせないわよ」
ぷりぷり!
アンニフィルドは怒りで真っ赤になった。
「ヤツに、そんな脅しは通じん。ブレストが地固めをした後、自分が地球にやってきて、ちゃっかり、支配者におさまるかもしれん。もちろん、ユティス込みでた」
「なんですって?」
きっ!
アンニフィルドは目をつり上げた。
「日本以外の他に地域、例えば、Z国と連携することは、最も可能性の高いオプションだ」
フェリシアスはかれらが出る可能性をかいつまんで話した。
「冗談じゃないわ!それは、委員会の重要禁止事項でしょ?コンタクティー以外との裏取引。エルフィアの信用は、根底から覆るわ」
アンニフィルドは大嫌いなトルフォの名前が出たのでヒートアップしてきていた。
「とにかく、ユティスを強奪されてしまうと、最悪の事態になる」
「わたくし・・・」
ユティスはきっぱりと言った。
「絶対にトルフォ理事には、お従いいたしかねます!」
「そうそう、頼むわよ。ユティス」
クリステアがユティスに念を押した。
「だが、トルフォの最終目的がきみである限り、ギリギリまで、きみに物理的危害は控えるだろう。きみを連れ合いにして、委員会の最高理事の地位を確実に手に入れたいんだ」
ぶるぶるっ・・・。
フェリシアスの冷静な言葉に、ユティスは身震いした。
「和人、そういう訳だから、しっかりしてよぉ・・・」
クリステアが言った。
「う、うん・・・」
和人はSSが4人も来ると聞いて、どんなに大変なことになるのだろうかと思っていた。
「エルフィアで精神体の時は、カッコ良かったじゃないの?」
アンニフィルドが場を明るくするように言った。
「でもなぁ。あん時は、身の危険なんて、考えなくてもよかったし、きみのようなのがあと4人も来て、それに対抗するなんて・・・」
和人はアンニフィルドを見た。
「それ、どういう意味よぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「べ、別に・・・」
「んっ!しかるに、作戦はこうだ」
フェリシアスが和人をさえぎった。
「わたしとキャムリエルは、ブレストたちをウォッチする。クリステア、きみとアンニフィルドは、ユティスと和人のガードを」
「リーエス」
「彼らを見つけ出したら、捕捉し、アンデフロル・デュメーラで、エルフィアに強制送還する」
「そんなに単純にいくの?」
「それは、きみたち如何だ。心を引き締め、油断なきよう、肝に命じ給え」
「リーエス」
「国分寺と大田原へは?」
「これは、純粋に、われわれエルフィア内部の問題だ。地球人に迷惑をかけるようなことは極力避けたい」
フェリシアスはびしっと言った。
「そうは言っても、和人も絡んでるし、知らせない訳には、いかないでしょう?」
「そうよ。好むと好まざるにも、地球で処理しなきゃなんないんだもの」
「無許可で、じゃんじゃかやってしまったら、大騒ぎよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「地球じゃなんだってお上の許可がいるのよぉ。たとえ内輪もめでも」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それにね。ここでは、あなたたち、二人とも、不法入国の大罪を犯してるのよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ぼくたちが?なんで?」
「市民権をもらうために、税金払ってないでしょ?」
「税金・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。頭のできにいい悪いに関係なしに、徴収されんだったわよね、和人?」
「言うにしても、例が悪すぎるじゃないのかい、アンニフィルド?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうですわ、アンニフィルド。和人さんの方を向いておっしゃられなくても・・・」
ユティスは和人の完全弁護に着いた。
「じゃあ、だれを向いて言えばよかったのかしら?」
にたり・・・。
「鏡なら貸そうか?」
むっ!
--- ^_^ わっはっは! ---
「それはどうでもいいけど、きみたちだってエルフィア人なんだから、不法滞在になるんじゃないのかい?」
キャムリエルが尋ねた。
「ナナン。わたしたちは、既に、地球市民の資格を得てるわ。タダで・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ?地球の市民権をもらったんだ。なんか特別なことでもしたのかい?」
「ちょっとぉ、どういう意味よ、キャムリエル?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「こら、二人とも、いい加減にしたまえ」
フェリシアスがぴしゃりと言い放った。
「キャムリエル、きみには話してなかったが、クリステアとアンニフィルド、それにユティスの3人は、地球の市民権を持っている。つまり、法的には地球人でもあるんだ」
「そう。だから、どこでも好きなところに行けるのよ」
にこっ。
アンニフィルドが得意げに言った。
「リーエス」
にっこり。
ユティスとクリステアは同時に微笑んだ。
「歩こうが、走ろうが、飛んで行こうがね」
ぱち。
アンニフィルドがウィンクした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「では、アンニフィルド、きみたちから、地球の関係者に簡潔に説明してほしい。どういう形であれ、不法入国扱いを受けるのは、われわれの本望ではない。いきなり、わたしが彼らの前に出ると、説明が余計ややこしくなる」
「確かにね」
「じゃ、やっぱり、国分寺も大田原も、知らせなきゃ」
アンニフィルドはフェリシアスを見た。
「わかった。言うとおりにしよう。一刻を争う事態だ。無駄な時間を浪費したくない」
「リーエス」
「ここのセキュリティ・システムがどこまで有効かわからないが、頭数以外にも、実効的な応援をしてもらえるなら人材がいるなら、心強い。特にZ国への対応は、地球人に任せた方がよかろう。われわれが直接手を下すと、ろくなことにならん」
「リーエス」
「それから、ユティス。もしもの場合に備えて、きみは、力の封印を解きたまえ」
「よろしいんですか?」
ユティスはフェリシアスの言わんとするところを確認したがった。
「超A級、A級SSが4人いるんだ。Z国と協同で、神出鬼没の陽動作戦に出られたら、われわれだけでは対応し辛い。ユティス、もしきみが力の封印を解いてくれれば、われわれにとって、大変ありがたい」
「ユティスの力の封印って?」
和人は不思議そうにきいた。
「ユティスは、エージェントなんだろ?」
「リーエス。でも、わたくしの共感力は大変強力なのですわ」
「共感力?なんだい、それ?第一、武器なの?」
「ふふふ」
ユティスは和人の質問に笑って答えなかった。
「ユティスが思いを強くするとね、半径1kmくらいにいる人は、感情を強烈に刺激されてしまうの」
クリステアがユティスに代わって和人に説明した。
「感情の刺激って?」
「早い話、あっという間に、あたり一面で、バッタバタ、人間が大量失神するってわけ」
アンニフィルドが、続けた。
「ユティスの力をリュミエラたちは知らないはずだ。万が一、ピンチに陥ってどうにもならなくなった時には、決定的な切り札になる」
「でも、影響が大きいから、地球人を巻き添えにしちゃうわね」
クリステアが言った。
「そうそうは、使えないわよ」
アンニフィルドが頷いた。
「1キロ四方の人間が、瞬時に失神だって?」
和人は、よくよく考えると、それがとてつもなく強力なものだと気づいた。
「リーエス」
「それって、心理的核爆弾じゃないか・・・。ユティスって、そんなにすごいんだ・・・」
「当ったり前じゃない。ただの可愛い娘ちゃんが、カテゴリー2の世界を相手に、専任エージェントに選ばれるわけないがないわ」
「ユティスは、エルフィア文明促進委員会の最高理事、エルド直下の超A級エージェントなのよ。忘れてないでしょうね?」
アンニフィルドは当然という顔をした。
「エルド直下の超A級エージェント・・・」
「ユティスはね、こんなだけど、本当はものすごく強いわよ。お尻に敷かれないようにね、和人」
--- ^_^ わっはっは! ---
クリステアが冗談を言った。
「ユティスのお尻・・・?」
かぁーーー。
和人は民宿の露天風呂を思い出して、真っ赤になった。
(えへ。きれいだったなぁ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーーーっ!露天風呂のことを思い出したでしょう?わかるんだから。和人、思いっきり敷かれてみたいって顔してるわよ」
アンニフィルドが笑顔で言った。
「あっ、人の考え、また盗み読みしたな!」
「なに言ってんのよ。あなた、自分で、大声でしゃべったんじゃない!」
「アンニフィルドが、正しい」
クリステアが言った。
「まあ、和人さん・・・。本当に、ご一緒にお風呂をご希望ですの?わたくしは・・・、和人さんなら構いませんわ・・・」
ぽっ。
にっこり。
ユティスは赤くなりながらも楽しそうに言った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「だーーーめっ!寮規則で、混浴は禁止されてるじゃないか」
ぷるぷる・・・。
和人は首を振った。
ばんっ、!
ばんっ!
「おほん!諸君、非常事態だぞ!もう少し、真剣な会話はできないのか?」
むっ!
ついに、フェリシアスが憮然とした表情で言った。
「いいじゃない。冗談はね、頭の回転を早くする地球のマナーなの。そうでしょ、和人?」
アンニフィルドは和人にウィンクした。
「ああ・・・、そうそう。その通り」
「うふふ」
ユティスは笑い声をあげた。
「おほん!」
フェリシアスは、苦虫をつぶしたように顔をしかめた。
「地球に来て、ごくわずかだというのに、きみたちは、すっかり変わってしまったな」
「お褒めに預かり、光栄ですわ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドがユティスの口調を真似した。
「おほん。それを褒め言葉として受け取ったのなら、明らかに間違いだ」
「ケチ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アンニフィルド。きみを超A級SSに推薦したのは、間違いだったかもしれん」
「いいわよ。超々A級に訂正してくれるんでしょ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ありえん!」
「アンニフィルドは、みんなをリラックスさせようとしてるのよ。緊張したところで、いい考えや行動は取れないってこと、あなたが教えてくれたんでしょ、フェリシアス・・・?」
じーーーっ。
じーーーっ。
じーーーっ。
クリステアはじっとフェリシアスを見つめた。
「んん・・・っ。おどけ過ぎるのはさらによくないと思うが・・・」
フェリシアスの声は次第にトーンダウンし、尻すぼみになっていった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「同じじゃないの?」
クリステアは、フェリシアスをそのまま見つめて、ゆっくり顔を近づけ、微笑んだ。
にっこり。
「ねぇ、ねぇ・・・。違う?」
フェリシアスの冷静な顔が、徐々に崩れかけた。
「あ、いやぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
その頬は明らかに赤くなっていた。
「あ、うん、おほん・・・。ま、それは、そうとして・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「この二人をホントに、育てたの、フェリシアスが?特に、アンニフィルドときたら、まったく正反対というか・・・」
和人は信じれないという顔で、ユティスを見た。
「文句ある?」
きっ。
アンニフィルドが和人を睨んだ。
「い、いや。ありません」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうでしょうか。とにかく、お二人とも実力はすごいんですのよ。クリステアもアンニフィルドも」
「そっかぁ・・・」
「はい。お二人を上回るSSは、フェリシアスくらいです」
キャムリエルはユティスに片目を閉じて、にっこり笑った。
「そ、そんなにすごいの?」
和人は驚いたように二人を見た。
「はい。このお家では」
ユティスはキャムリエルのジョークがわかっていた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーははっは。確かに!ユティスもジョークがうまくなったよね?」
和人は大笑いした。
「あなた、わたしをバカにしたでしょ!」
すこんっ。
アンニフィルドが、右足で和人の足を払った。和人は、見事にひっくり返った。
ごってん!
--- ^_^ わっはっは! ---
「痛ぁ!なにすんだよう!」
「ごめん。精神パワーが漏れちゃった」
「どこが精神パワーだよ!」
「シュワッチ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
アンニフィルドの真剣な構えを、横目で見ながら、和人は、腰をさすって立ち上がった。