024 確信
■確信■
しゃー。
カフェのドアが開き、和人は、店員の高原を探した。
「えーっと、確か、高原さんて名前じゃなかったかな・・・」
「いっらしゃいませ・・・」
(あ、あの変体男・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
美紗緒は急にトーンダウンした。
「あの・・・」
「はい・・・。お召し上がりのもの、なんにしましょう?」
「高原さん・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「え?」
女性店員はドン引きした。
がたっ・・・。
(やっぱり、コイツ、そういう趣味だったんだ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「あ、いや、いつものカフェラテで」
「カ、カフェラテですね?サイズはいかがしましょうか?」
「トールでお願いします」
「トールですね」
美紗緒は和人に視線を合わせないように復唱した。
「それで、高原さん、いませんか?」
和人は和人で、なるべく美紗緒を刺激させないように気を遣った。
「高原ですね・・・。彼、シンクにいますんで呼びますか?」
「はい。ぜひ、お願いします。どうしても大事なお話があって・・・」
「わ、わかりました」
美紗緒はそう言うと、そさくさと奥に引っ込んでいった。
たったった・・・。
「慎二、あいつよ。あいつ」
「だれだい?」
「だから、いつもの奥の席でニタニタしてる変体オタク」
「あ、彼ね・・・」
ちら・・・。
「あなたを指名してきたわよ」
美紗緒は高原のスマートで筋肉質の上半身を眺めた。
「指名?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そうよ。ここをマッチョクラブかなんかと勘違いしてるんじゃない?」
「おまえこそ勘違いしてないかぁ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「それで、なんて言ってるんだい?」
「それが、あなたに会わせろって・・・」
「重大なことかな?」
「話をさせろって」
「わかった、今出て行くよ」
「気をつけてよね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あはは。大丈夫だよ」
高原はシンクから出て、和人の前に現れた。
「あ、天・・・」
「こんにちは。お忙しいところ、すみません。どうしても確認したいことがあったもんで・・・」
「お忘れものですか?」
「いや。そんなんじゃなくて・・・」
「ま、席にどうぞ。いつもの奥の席空いていますよ」
「どうも・・・」
二人は置くの席に行った。
「宇都宮と申します」
和人はセレアムの名刺を高原に差し出した。
「あ、どうも、高原と言います」
ぺこ。
高原は一礼した。
「それで、なんのセールスでしょうか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ち、違います。あなたの見たことをそうしても確認したいんです」
「はぁ・・・」
「早速なんですけど、あなたはユティスがお見えになりましたよね?」
「ユティス?」
「ええ。白いの着て、ダークブロンドのポニーテールで、身体からオーラみたいなのが出てて、あなたが天使だと言ってた女の子のことです」
和人は高原の反応を待った。
「ええ。天使のような女の子を確かに見えましたが・・・」
ささっ・・・。
高原は周りを確認すように見渡して、そっと答えた。
「本当に天使だったんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いえ。彼女は精神体なんでそのようなものですが、れっきとした人間です。大宇宙のどこからか知りませんが、別世界から精神だけを地球に来させているんです。信じられないかもしれませんけど・・・」
「え・・・?」
あまりのことに、高原はポカンと口を開けていた。
「じゃあ、現実にいるんだ彼女・・・」
「そうです。でも、ここしばらく、わたしも会えていないんです。それで・・・」
高原はピンと来た。
「それでしたら、なおのこと・・・、ユティスさんですよね?」
「はい」
「大宇宙の天使さんはいますよ。わたしもしっかり見えてましたし、声も聞きました。あれが幻だなんて絶対に違います。宇都宮さん、あなたもそうです。現実です」
「あ、ありがとうございます」
ぎゅっ。
ぺこり。
ぺこり。
和人は高原の右手を両手で握り、何べんも礼をした。
「おえーーー、慎二の手を握ってるぅ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
シンクの中から美紗緒がそれを見て顔をしかめた。
「それが重要なことなんでしょうか?」
「はい。彼女が突然なにも告げずに消えるとは、思えないんです」
「どうしたんですか?」
「一言もなく、わたしの目の前からいなくなってしまったんです」
「どのくらい前からですか?」
「そろそろ1週間になります・・・」
「それ以来、天使からは音沙汰なしなんですね?」
「はい」
「しかし、わたしにはどうにもお助けできませんが・・・」
高原は、申し訳なさそうに言った。
「いえ、違うんです!そんなことをお願いするつもりはありません。ただ、わたしは確信を得たいんです」
「はぁ・・・」
「わたしと高原さんの経験が同じとしたら、それは、やっぱり現実だった。その確信が得たいんです」
「そうですか・・・。わかりました。それで?」
「ありがとうございます。もう、要件は済みました」
「わたしも見たということがわかったからですか?」
「はい。お礼申しあげます」
ぺこぉ・・・。
和人は、高原に深々と頭を下げた。
「よしてくださいよ、宇都宮さん・・・」
「でも、本当にありがとうございました」
「わたしはなにもしてませんってば。では、ごゆっくりしていってください」
「はい」
「あの・・・」
高原は和人を見つめて微笑んだ。
「もう一度、大宇宙の天使のユティスさんに会えたら、わたしにも挨拶させてください」
「はい。もちろん。彼女も喜ぶと思います」
「おえ、おえーーー!慎二、あいつに手を握られたまま、笑ってるぅ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
シンクの中から美紗緒がそれを見て仰天していた。
セレアムの事務所では、石橋が恋に悩んでいた。
「はぁ。和人さん。だれが好きなのかしら?わたしじゃないことだけは確か・・・」
石橋はため息をついた。
(そろそろ、石橋も限界ね・・・)
真紀はそんな石橋を見て近づいた。
「石橋、二人で飲みにいこうか」
真紀が石橋を誘った。
「でも・・・」
「予定があるの?」
「いえ、そういう訳では・・・。奢ってくださるんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「いいわよ」
「やったぁ!」
けろっ。
「よかった。今日は全部聞いてあげるからね」
「真紀社長・・・」
「もう退社時間よ。1時間も前から」
--- ^_^ わっはっは! ---
「は、はい」
石橋と真紀は近場の居酒屋に入っていた。
ぐびーーーっ。
ばんっ。
「和人のバカ。なんで、こんないい女をほっとけるのよぉ!」
石橋は目の前のカクテルを飲み干した。
「そうだ、そうだ!」
(石橋ったら、やっぱり、和人に相当入れ込んでたのね。しかし、石橋、お酒入ると性格変わるわ・・・)
「で、和人とはなんにもないわけ、ハイキング以来?」
「ないです。なにもないです。ないから警察呼びます」
--- ^_^ わっはっは! ---
「警察?穏やかじゃないわね・・・」
「だって、なんにもしてくれないですもん・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんなのよ、それ?」
「知りません・・・」
「ねぇ、石橋、大丈夫?」
「ダメです・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あたしを落ち込ませて楽しいですか、真紀さん・・・」
「なに言ってんのよ。そんなつもりはないわ、石橋」
「うわーーーん!」
石橋はいきなり泣き始めた。
「ど、どうしたの?石橋ったら・・・」
「和人さん、好きな人がいるんです。ユティスさんって名前で、外人さんか、ハーフかなんかです。あたしなんかより、ずっとキレイで、可愛くて、ステキなんです。彼女」
「見たことあるの?」
「ないです!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「じゃ、どうしてそんなこと言えるの?」
「わかるんです。わたし都合のいい時、テレパシー能力が目覚めるんです」
--- ^_^ わっはっは! ---
「随分と便利ね」
「わたしにとっては、良くないです・・・」
「そんなことないわよぉ。きっと役に立つから、競馬場に行く時は一緒に来てよね」
「はいっ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「みんなもウワサしているんです。第一、和人さんの目には、わたしなんかぜんぜん入ってこないんです。わたしの存在なんか電子みたく小さいんだから・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ずいぶん大袈裟ねぇ」
(こりゃ、かなり重症だわ・・・)
真紀は聞くことに専念することにした。
「わかったわ。今日はとことん話して。付き合うわよ」
「ありがとうございます。真紀さん」
一方、俊介に言われて和人を連れた二宮も、偶然、真紀と石橋がいる飲み屋にいた。
「おい、和人」
「なんすか先輩?」
「あれ、あれ・・・。あそこにいんの」
二宮が指したところには、真紀と石橋がいた。
がた・・・。
「なんで、あの二人がここに?」
二宮は二人に挨拶しようとしたが、席を立ちかけて思いとどまった。
「ありゃ・・・。石橋、泣いてるのか?」
「先輩?」
「ちっ・・・」
(やばい、和人のバカだって?まずいとこに居合わせちまったぜ)
なんとなく事情を察した二宮は舌打ちした。
「和人、オレたちあの二人は見なかった。ここにも居なかった。だよな」
「はい、先輩がそういうことにしたければそうしますが・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「絶対にそうしろ」
二宮は和人がユティスを好きなことを知っていたし、石橋が秘かに和人を思っていることも知っていた。
(和人の夢にはユティスが現れてる。石橋は和人をバカって呼んで・・・。こいつはなんかありそうどころではないぞ。もし、ここで、オレたちが同席しているところを、石橋たちに見られでもしたら・・・。やばい・・・。絶対絶命の大ピンチだぞぉ・・・)
がたっ。
「出るぞ」
「あ、はい・・・」
ぽんぽん。
二宮は真紀たちに背を向けて立ち上がると、和人の肩を叩いた。
「おあいそ」
二宮は小声で勘定を頼んだ。
「喜んで!3番さん、おあいそ!」
「はい、喜んで!」
ハッピ姿の店員たちは大声でレジ係と確認し合った。
(こら。おまえら、二人に気づかれちまうだろうが。でかい声出すなっつうの・・・!)
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮は苦虫を潰したような顔をした。
そろり、そろり・・・。
二人は席を立って、目立たないように二人の脇を通り、静かに出口に向かった。
「振り向くなよ、和人」
「はい・・・」
まさにその時だった。
がらーーーっ。
「あ・・・」
「おーーーっ。二宮じゃないか!」
戸を開けて、辺り中に聞こえる大声で二宮の名を呼ぶ、一人の男が現れた。
(げ、げー。なんてタイミングが悪いんだ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「お、おっす。師範・・・」
「二宮、なにやっとる、稽古もせんで?」
なんと、二宮のカラテ道場の師範、足利尊道が入ってきたのだ。足利師範は二宮の行方を塞ぐと、大声で話し始めた。
「今日のところは、用事があるもんで・・・」
「ほう・・・。それで、もう終わりか?」
「おっす。ちょぃっと、ここ、まずいんすよぉ・・・」
「不味い?おまえが美味いっていうから来たんだぞ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「お、おす。そうじゃなくてですねぇ・・・」
「後から、みんな来るぞ。おまえも一緒にどうだ?」
師範は大声で言うと、二宮の肩を叩いた。
ぽんぽん。
--- ^_^ わっはっは! ---
足利師範は身長185センチ、体重はゆうに130キロはあろうかという大男だった。
「おす・・・。師範、声がでかいですってば・・・」
「なに、わけわからんことを言っている?気合が足らんぞ、二宮!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おす。ホント、今日んとこは、ちょっと・・・」
二宮は真紀たちを気にしながら、背を向けた。
「そうか・・・?」
「あーーーっ!」
師範の野太い大声に、石橋は目をやった。
「二宮さんだ。和人さんもいる!」
石橋は二人に気づいた。
(ち、バレちゃったじゃないか・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「ちょっと、二宮、いつからいたの?」
真紀がまじめな顔をした。
(やべーーー、真紀さんのこの顔、まじ、やべーぞ)
「あれぇ?あはは・・・、偶然ですね、真紀さん。それに石橋も。お二人、今来たんすか?ここ、にぎやか過ぎるんで、場所変えようようかなって・・・」
「質問をはぐらかすの上手いわね、二宮・・・。全部聞いてたの?」
「なにをです?そ、それじゃ、失礼します」
がらぁ・・・。
「どこらせっと・・・」
二宮は戸を開け、右足を外に踏み出した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「待ちなさい、二宮!」
「おっす、師範も、また道場でよろしくお願いします」
二宮は聞こえない振りをして真紀を無視した。
「おう、残念だな。後で喜連川も来るんだが、いいのか、先に帰って?」
どっかーーーんっ!
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええーーっ?お、おす。イザベ・・・、いや、喜連川さん、来るんっすか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
二宮は思わず師範を振り向き、危うく喜連川初段をファーストネームで呼ぶところだった。慌てて、二宮はその言葉を飲み込んだ。
「うむ。喜連川が珍しく来る気になっとるというのに、二宮が同席せんとは、そういつは残念だなぁ・・・」
「おす・・・。そ、そうなんすかぁ・・・」
がっくり。
二宮は肩を落とした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは!」
それを聞いていた真紀は思わず笑った。
(神は二宮を見放したもうた)
「残念ね、二宮。行っていいわよ、あなたたち」
「おっす。和人、出るぞ」
(くっそう・・・)
逃げるようにして、二宮は和人を外に連れ出した。