249 ログ
「アンニフィルドよ。エルフィアの地球支援反対派の陰謀が渦巻く中、ついにミューレス担当だった元SSたちが地球に転送されてしまったわね。なんの目的かしら。わたしもクリステアも気を引き締めないといけないわ。あー、因みに、ミューレスってのはカテゴリー2になったばかりの世界で、エージェントが消されちゃった怖いところよ。ユティスが後を引き継いだんだけど、結局、対抗勢力同士、熱核爆弾の応酬で3日もしないうちに滅んだの。エルフィアは悲しみに包まれたわ。直ちにユティスもSSたちもエルフィアに強制帰還させられたんだけど、みんな大変なショックを受けて、何年も精神的リハビリ生活を余儀なくされたの。もちろん、ライセンスは停止になったわ。地球は絶対にそうさせたくないわ・・・」
■ログ■
「おはよう、アンデフロル・デュメーラ」
「おはようございます。最高理事エルド」
「地球の具合は?」
「SSたちが合流して、ユティスは、行動がし易くなったようです」
「それは良かった」
「わたくしに、なに用でしょうか?」
「よく聞いてくれた。実は、エルフィアで、超時空転送システムを、なにものかが無断で利用して、エルフィアを発った。そこで、きみにぜひ協力してもらいたい」
「リーエス。わたしにできることは?」
「もし、地球に、だれか転送されていたなら、その痕跡がないか調べてもらいたいんだ」
「リーエス。その無断転送が行われたのはいつのことですか?」
「つい、昨晩のことだ。人数。名前。資格等々も、わかれば・・・」
「リーエス。最大努力いたします。それで、地球に来た可能性は高いのですか?」
「わからん。だが、地球支援を反対する一派が、やったとしたら・・・」
「エージェント・ユティスも危険になりますね?」
「わたしも、そう思っているところだ。彼女の強制送還を企んでいるのかもしれん」
「リーエス。ただ、今のところ、地球側ではそのような気配を察知してはいません」
「そうか・・・」
エルドは予想が外れたかと思った、と同時にほっとした。
「しかし、最高理事・・・」
「なにかあるのか、アンデフロル・デュメーラ?」
「だれかが、転送時間を予め設定し、その時に、時空の揺らぎをシールドしていたとしたら、わたくしでも、察知できません」
「なんだと・・・?」
「時空シールドがあらかじめ設定してあれば、わたしには検知不可能と申し上げました」
「その設定は、エルフィアから可能なのか?」
「不可能ではありません。転送システムは、一つではありませんから。それらを、完全に同期させ、お互いをシールドし合うようにすれば、可能でしょう」
「そんなことを設定するとなれば、一発でわかってしまわないか?」
「リーエス。でも、メンテナンスのタイミングを利用すれば、怪しまれずに、ことを済ますことは、十分に可能です。システム室にも、メンテナンス要員であれば、アクセスできるかもしれません。しかし、これは、あくまで、2システムを設定日までにメンテナンスできるという前提ですが」
「では、今回のことは、複数の転送システムが絡んでいると?」
「それは、わかりません。または、強力なSS、例えば超A級クラスの人間が、同時に転送されていたとすれば、十分シールドできます」
「超A級SSか・・・?」
「リーエス。どうも、いろいろ教えてくれてすまない。アルダリーム(ありがとう)。アンデフロル・デュメーラ」
「パジューレ(どういたしまして)、最高理事」
(ふむ。97日以内に、ここの他に、転送システムの同時メンテが、その時あったかどうかだ・・・。それに超A級SSか・・・)
転送室では、エルドの指示を受けた秘書のメローズが、係員と会話していた。
「それで、ここのシステムと同じように、97日以内にメンテナンスがあったかどうか、調べろと?」
「その通りです。忙しい時に、申し訳ありませんが、ご協力いただけます?」
「リーエス。超銀河間転送システムは、ここを入れて、16台しかありません。もし、該当するものがあれば、すぐにわかるでしょう」
「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)」
「それで、メンテナンス要員、もしくは、エンジニアの件ですが・・・」
「該当者らしき人物はいた?」
「ナナン。恐らく、人物ではありません・・・」
「人物でない・・・。いったい、どういうことかしら?」
「システム自体ですよ・・・」
「システム自体って・・・。益々、わからないわ・・・」
メローズは首を横に振った。
「転送者情報に、委員会承認済みの下、派遣日程が設定されていて、システムに、その人物を転送するよう指示すれば、システムは、パスワード一つで、目的日時に、確実に転送を開始します。もちろん、システムにアクセスできて、システムにそれを指示できるのは、委員会に相当精通した人物かと思われますが・・・」
「・・・」
メローズは黙って聞いていた。
「あなたは、委員会内部の人物と言ってるの・・・?」
「単なる担当レベルでは、システムは決して命令を実行しませんよ」
「権限のある参事以上・・・、いえ、参事クラス以上ってこと・・・?」
「可能性は、非常に低いと思いますが、論理的帰結です」
メローズはややあって意を決したように言った。
「極秘に、第一級セキュリティ体制を敷くよう、エルドに進言します。そして、このことは、他言しないように。いいですね?わたくしが、ここに来たことも」
「リーエス。その方がよろしいかと・・・」
「アルダリーム(ありがとう)」
「パジューレ)どういたしまして」
エルフィア大教会では、転送システムのログの復元が続けられていた。
「これで、いいのかしら?」
「リーエス。ご協力感謝いたします」
「ことらこそ、お役に立てて幸せです」
「では、失礼します」
「汝に幸あらんことを」
「ア・リーエース」
ぴっ。
ようやく、エルフィア大教会のパリティ情報を復元し終え、転送室では、係員たちが、転送ログの解析に入っていた。
「いくぞ」
「リーエス」
さーーーっ。
「トレース開始」
「リーエス」
さーーーっ。
さーーーっ。
ぴっぴぴっ。
さーーーっ。
ぴぴっ。
ぴーーーっ。
「完了だ」
ぴ、ぴ、ぴ・・・。
空中3次元モニタにログ解析結果が表示され、システムの声がした。
「超時空転送システム8号機の転送ログ解析を終了しました。転送先は、エルフィア超銀河団内部、天の川銀河、ソル恒星系、第三惑星、テラ。転送者5名。文明促進支援委員会所属、委員会参事、ID番号XXXXX7XXXX0XXX、XXXト。ID番号XXXXXXXX3XXX3X、A級SS、フXXXX。同じく、ID番号X3XXX2XXXXXXXX、A級SS、XXレ。同じく、ID番号XXXXX8X0XXXXX、超A級SS、XXXXラ。同じく、ID番号XXXXXXXX56XXXX、A級SS、XXXXXXウ。以上」
しーーーん。
システムの答えに一同は声を失っていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「地球だって?」
「ユティスの派遣先だ・・・」
「どういうことなんだ?」
「間違いないのか?」
「リーエス。間違いありません」
「委員会参事に、SS4人、内一人は、超A級・・・」
「ID番号と名前のマスクは、外せないのか?」
「だめですね。データが上書きされてます。推測するしかありません」
「しかし、ここまで判明していれば、じきにわかるのではないのか?」
「リーエス」
「大変だ・・・。委員会に知らせないと・・・」
「待て。早まるな。報告する相手が、これを画策してた張本人ということも、考えられる」
「リーエス」
「報告は、依頼人のエルドか秘書のメローズ以外に、してはならない」
「リーエス」
「委員会を疑うのですか?」
「事情が事情だ。わたしも本意ではない」
「リーエス」
「首謀者は、委員会内部の人間なんですね?」
「可能性は高い」
「しかも、SSが4人も・・・。一人は、超A級SS・・・」
「この4人のSS、資格と人数・・・。ひょっとして・・・」
「わたしも、そう思っていたところだ。確か・・・」
「全員、ミューレスで、ライセンス停止を喰らった、人間じゃないのか?」
「もし、そうだったら・・・」
「とんでもないことになるぞ・・・」
「早まるんじゃない。結論は、調査が終ってからだ」
「しかし・・・」
「ぐずぐずしてられないぞ。もうこの5人は、地球にいるんだ・・・」
「リーエス。とにかく、すぐにメローズに知らせてくれ」
「リーエス」
「メローズ、よくお出でで・・・」
「知らせをありがとうございます。緊急事態です。本件は、すべてに優先します。わたくしの個人的なスケジュールは、考えていただかなくて結構です」
「リーエス」
「それで、転送システムのログ解析が終了しました。これが、結果です」
ぽわんっ。
「・・・」
空中の3次元スクリーンに浮かんだ、ログを見て、メローズは息を潜めた。
「ふう・・・。なんということ・・・」
「悪い予感が、的中したみたいですね?」
「予想もしてなかったわ・・・」
「リーエス。転送システムのプログラム設定者も、まだわかっていません」
「そうですか・・・。でも、転送者のメンバー職制を見れば、これが大変憂慮する事態だとわかります。地球の支援を白紙に戻したい輩は、まったく諦めてなどいません」
「リーエス」
「引き続き、ID番号と名前の特定を急いでください」
「リーエス」
「ユティスたちは、大丈夫でしょうか?」
「わかりません。エルドとフェリシアスと、大至急、策を練りましょう」
「そうしていただくのが、最良です」
「システムのオペレーションについては、いかがですか?」
「プログラム操作者については、もう少しかかりそうですが・・・」
「可及的速やかにお願いします」
「リーエス」
「この情報は、どこに?」
「極秘情報ですので、あなた以外で知るものは、われわれだけです」
「結構です。秘密裏にお願いします。地球支援反対派には、こちらの動きを、絶対に、知られたくありません」
「リーエス」
「それと、直ぐに、エルドと対策会議をします。ヨルカ、あなたも出ていただきたいのですが、都合はつきますか?」
「リーエス。もちろんです」
「会議は、ここでします。よろしいですか?」
「リーエス」
「では、わたしは、エルドと連絡を取ります。2時間後、また、来ます」
「では、後ほど」
エルドはメローズの報告に一つ一つ頷いた。
「なるほど・・・。そういうことか・・・」
「リーエス」
「だが、複数の転送システムを同期させる設定を、メンテナンス時に行なうことができたのは、いったいだれだろう?」
「限られた人間です。しかし、システム室には、関係者に心当たりはないと・・・」
「もう、随分と長い間、一緒に仕事をしている仲間だからな・・・」
「リーエス」
「その・・・、まさかという人物は、いないのかね?」
「調査中です」
「うむ。それにしても、大変気がかりなのは、A級以上のSSが4人。その内、一人は、超A級だ・・・」
「リーエス・・・。人物の特定はできてませんが、地球には、あなたの直下配属の超A級SSが二人います。その二人を相手にするとなると・・・、確かに、このくらいは集めないと、なりませんね」
「メローズ。至急、フェリシアスにも伝えてくれ給え。わたしは、彼の出番が必要になると思う・・・」
「リーエス。1時間後に、転送システム室で、対策会議をします」
「うむ。直ちに支度する」
転送システム室では、システムの無断利用を企み、地球に行った人間たちにどう対応するかを、関係者たちが極秘に話し合っていた。
「システム室の思考シールドは、完全ですか?」
「リーエス。ご安心ください、メローズ」
「わかりました。では、早速・・・」
会議では、矢継ぎ早に対応策が出され、一つ一つ慎重に検討された。
「エルド。そもそも、地球への支援は、予備調査段階ということですよね?」
「いかにも。ミューレスの失敗を踏まえねばならない」
「同意します。本当に、エージェントは、ユティスで、良かったんでしょうか?」
「わたしは、そう思っている」
即座にエルドが答えた。
「今回のイレギュラー要因は、トルフォよ。絶対に裏で糸を引いてるわ」
「ナナン。ブレストやトルフォの意見にも一理あります。エージェントのユティスが、コンタクティーの宇都宮和人に、個人的な感情を持っていること自体は、事実です。査問会にこそなりませんでしたが、事情聴取が行なわれたこと、それが、支援プログラムの支障になる可能性を示唆しています。これが、トルフォの個人的感情と、交差したということです」
「ユティスへの横恋慕か・・・」
「リーエス。最高理事のエルドには、申し訳ないと思いますが、今回、この問題を過小評価しては、なりません」
「リーエス。わたしは、査問会の提案に、もう少し冷静に、対応するべきだった」
「ナナン。エルド、あなたの取った行動は、正解です。わたしは、立派だと思います」
「どうも・・・だな・・・」
「それと、ミューレスの一件で、ライセンスを停止されているSSたちのあせり・・・」
「だが、まだ特定できてないんだ。結論を急ぐは良くない」
「リーエス。同意する」
「もし、ミューレスのSSたちが、からんでいるとしたら?」
「その4人は、今、なにをしてるんだね?」
「全員、トルフォの下で、新SSたちの教育に当たっているところです」
「確認が必要だな」
「わたしが行こう・・・」
エルドが静かに言った。
「万が一、彼女らだったとして、その4人の心情的な、動機はあるんだろうか?」
「確認できないことの推測は、意味がない」
「慎重もいいが、手遅れになると、取り返しがつかなくなるな」
「リーエス。その線も、一応、考えておこう」
「リーエス」
「ミューレスの悲劇の後、SSもエージェントも、トラウマ化を避けるため、十分な精神ケアを取ることと、委員会がそうと判断できるまで、一時的なライセンスを停止を、要求された」
「ユティスは、早々に、ライセンスの復活を果たした」
「当然だ。そもそもミューレスは、彼女の担当ではない。どうにもならなくなって、やむをえず、引き継いだのだから・・・」
「だが、どういう形であれ、後からとは言え、同じミッションに就いていたユティスが、先にライセンス復帰を果たしたというのに、SSの4人は、自分たちだけは休養を継続させられ、一線を退くことを余儀なくされていた・・・」
「どう、フェリシアス?SSとしての意見を聞かせてくれない?」
フェリシアスはおもむろに口を開いた。
「SSの使命は絶対だ。内容も激務になる。現実問題として、例の4人が、地球に行った理由が、もう少し、はっきりしないことには、対応を誤る可能性があります。もし、その超A級SSがリュミエラだとして・・・、彼女とは、何度も一緒に行動したので、彼女の考えなら、だいたいわかります」
「どういうことかね?」
「SSとしての使命感です」