247 空似
■空似■
ばちばちばち!
「きゃはははは!やってくれるじゃない、キャサリン!」
ホテルの自室でテレビで観戦していたクリスチナは、手を売って喜んだ。
「ショーとしちゃ、最高の盛り上がりだな」
びくんっ!
クリスチナの後ろでジョバンニの声がし、クリスチナは振り返った。
「わっ!びっくりさせないでよぉ!」
「そんなんじゃ、優勝は本当に無理だぜ」
「うるさいわねぇ。で、どこに行ってたのよぉ?」
「特等席でショーを見てたのさ」
「特等席?」
--- ^_^ わっはっは! ---
その時、クリスチナはジョバンニの黒ずくめのスーツに気付いた。
はっ・・・。
「あなた・・・、まさか、あのリングの中で・・・」
にやり。
「そうだ」
「信じられない・・・。レフェリーに立てついていた葬儀屋さんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ドクターだ。訂正しろ」
「そうとも言うのね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「左手を出せ。包帯を巻いてやる」
しゅるしゅる・・・。
ジョバンニはクリステアにしたように、クリスチナにも包帯を巻いた。
きゅきゅっ。
「1回、2回・・・。6回、これでよし・・・」
ジョバンニは手際よく包帯を巻いていった。
にっ。
「クリスにしたのとまったく同じ巻き方だぜ」
「ありがとう・・・」
クリスチナはジョバンニをじっと見つめた。
「さてと、わたしたちはちょっと用事があるけど、あなたたちはどうする?」
真紀がイザベルと二宮を見た。
「オレたちは・・・」
二宮はイザベルの機嫌を窺った。
「わたしは・・・」
「食事でもしようよ、イザベルちゃん。さっきの試合の話しでもしながら」
「あは。そういうことなら、そうします。社長さんたちと!」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「信用は一日にしてならず。だな、二宮?」
俊介が二宮にウィンクした。
「じゃ、一緒に来て。でもね・・・」
真紀は立ち止まって、二人に向き直った。
「これからのことは、絶対に秘密よ。国家機密に係わることだから・・・」
「国家機密・・・?」
ごっくん・・・。
二宮は息を飲み込んだ。
「じゃ、いいです・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ダメ、もう二人とも知ったわけだから。イザベル、あなたも来ること」
「あ、はい・・・」
イザベルは心配そうに頷いた。
「アンニフィルド、クリステアに連絡してくれ」
俊介がアンニフィルドに言った。
「リーエス。みんな、そこの部屋に入って」
アンニフィルドはスタジアムの中の空き部屋にみんなを入れた。
「な、なに?」
イザベルは不安になり、無意識に身構えた。
「ところで、クリステアは?」
「後ろを見な」
「後ろ?」
クリスチナが振り返ると、そこにあんぐり口を開けたセルジとクリステアが立っていた。
「・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「セルジ・・・、いつ現われたの?」
「きみこそ、いつ現われたんだ?」
「あなたが現われたんじゃない!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「セルジ、クリスチナ、二人ともよく聞いて」
クリステアが、真面目な顔になった。
「わたしたちは、ある極秘のプロジェクトに携わっているの」
「極秘プロジェクトだって・・・?」
「リーエス。だから、このことは絶対に内緒にして欲しいの」
「わかった」
「クリスは?」
「わ、わかったわ・・・」
「いつかは、みんな真相を知ることになるけど、今は、まだ公にはできないわ。地球全体にとって、とても大切なことなの」
「わかってるな。クリスが入れ替わってたことが、バレりゃ、あんたらもタダじゃ済まないことも」
「了解した・・・」
「わたしたちは、瞬間移動装置を実用化したの。何万年も前のことだけど」
「んん?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「移動は、このシステムのおかげ。純粋に科学の成果だわ。呪術や妖術、おまじないの類ではないから、少しも恐れることはないわよ」
「はぁ・・・、そうは言っても・・・」
「そうよ。この目で見なけりゃ、とても現実とは思えない・・・」
「アンデフロル・デュメーラ、アンニフィルドと繋いで」
クリステアは両手を広げて天井を見つめた。
「リーエス。SS・クリステア、只今、お繋ぎます」
しゅん。
間髪入れず、エストロ5級の母船CPUの擬似生体イメージ体が現われ、それに答えた。
「だ、だれ?」
「ぎゃあっ!」
「アンニフィルドを呼び出しました」
アンデフロル・デュメーラの落ち着いた声が心地よく部屋に響いた。
ぽわーーーん。
部屋の真ん中に立体スクリーンが出現した。
「はぁーーーい、クリステア。手首はよさそうね?」
アンニフィルドとユティスたちが、手を振っていた。
ぎょっ・・・。
「な、なんだ!今度は・・・?」
びくっ。
「だ、だれよ、こいつら?」
「最新プロジェクトの一つ、空中スクリーンに映った立体映像だ」
ジョバンニが言った。
「合衆国のテクノロジーなの?」
「すげぇ・・・」
「といいたいところだが、実は・・・」
「日本なのか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「さすが、ロボットが作ったロボットが、ロボットを作るだけあるわ」
「といいたいところだが、本当のところは・・・」
「違うの?」
「エルフィアのテクノロジーよ」
にたっ。
「エルフィア?」
にこっ。
「エルフィアよ」
にっこり。
「エルフィアねぇ・・・」
にんまり・・・。
「そうだ、エルフィアだ・・・」
セルジとクリスチナは、ゆっくりと顔を見合わせた。
「知らない」
「オレも・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
ゆらゆら・・・。
「それに、この一杯やって揺れてるお嬢さんは、だれなんだ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
セルジは、イメージ体のエストロ5級母船のCPU、擬似精神体に向き直った。
「わたしは、アンデフロル・デュメーラ」
「彼女は、わたしたちを技術的にサポートしてくれるエストロ5級母船のCPUよ。会話する時には、こうして擬似生体のイメージ体で現われるの」
「はい?」
「わからんでもいい。そのうちに慣れる」
ジョバンニは言った。
「とにかく、これが現実だということ、そして、内緒にしておいて欲しいということよ」
空中立体スクリーンの中から、アンニフィルドが答えた。
「信じられない・・・」
「じゃ、こういうことよ」
アンニフィルドは右手を挙げ、優雅な動作でなにか指示を出した。
ぽわーーーっ。
ぱっ。
スクリーン中のアンニフィルドたちが、白い光に包まれると、突然消えた。
「げっ!」
「き、消えたわ!」
同時に部屋に白い光が充満し、一瞬の後、そこにスクリーンに映っていた面々が立っていた。
「はじめまして、クリス。あは」
アンニフィルドが微笑んだ。
「よぅ!」
俊介が右手を上げた。
「他人の空似にしても、ほんとにそっクリッスね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、二宮さんったら!」
「ふふ。二宮、寒いわよぉ」
真紀が笑いながらイザベルに同意を求めた。
「どう、びっくりした?」
クリステアがクリスチナたちを見つめた。
「こんばんわ。うふふ」
ユティスが微笑んだ。
「ようこそ、日本へ」
和人が握手しようと手を差し伸べた。
「どうも・・・」
クリスチナは和人の手を軽く握ったが、やっとそう言っただけだった。
「あの・・・、ここは・・・?」
和人が辺りを見回した。
「わたしの部屋よ」
クリスチナが答えた。
「クリスチナ」
クリステアがクリスチナを呼んだ。
すくっ。
クリスチナがソファーから立ち上がり、クリステアと並んだ。
「どう?」
「クリス・ジニンスカヤさんが、二人いる・・・?」
イザベルがクリスチナとクリステアを見比べて、困惑したように言った。
「クリステア、その髪型・・・」
「えへ。クリスと同じでしょ?」
「ええ?双子だったんですか、あなたたち?」
イザベルが目を白黒させた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「実の母ちゃんでも、見分けがつかないよ」
セルジがあらためて言った。
「まぁ、そう言う訳だ。わざわざ、クリステアが左手首を捻挫したのも、よんどころない事情があったってことだな」
俊介は両手を広げた。
「じゃあ・・・、その、リングで戦ってたクリスさんて・・・」
二宮はイザベルと顔を見合わせた。
「お察しの通り、わたし・・・。因みに、手首の捻挫は、もう治ってるわよ」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ほれ」
ぎゅっ。
クリステアは二宮の手を左手で握り締めた。
「あ痛たたたーーーっ!」
ひらひら・・・。
「な、なにすんるんだよぉ!」
二宮は手を振った。
--- ^_^ わっはっは! ---
「わっはっは!」
「負傷したのは、わたしの方なの・・・。試合で出れないと、いろいろ困ったことになって・・・」
「それで、なんという偶然か、ボクがクリステアに出会ったということさ。天から助けとは、まさにこのことだね」
「ところで、セルジ、なんで飲み屋街をうろついてたの?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なに疑ってるんだ?ボクは、きみを探し回ってたんだぞ」
「ありがとう、恩に着るわ、クリステア」
「どうも」
「なんで、そうなるんだ?彼女を見つけ、とっさに判断し、説得したのはボクだぞ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「とにかく、そういうことで、どこかでつじつま合わせが必要になったんですわ」
「ユティスの言う通りね。クリスが左手首を検査でもされた日には、たちどころにバレちゃうわ」
アンニフィルドがクリスチナにウィンクした。
「ええ。本当にありがとう。心より感謝してるわ」
「それでなんですね。左手首を負傷したように・・・」
「ええ。騙してて、ご免なさい」
「でも、それ、立派な詐欺じゃないのか?」
二宮が言った。
「そう。詐欺だわ。だから、替え玉のわたしが、優勝する訳にはいかなかったの」
「わかります。それに、あのキャサリンさんのベルト返上とコメント・・・。今、やっと納得できました」
「ものわかりがいいわね、イザベル」
「もし、わたしがキャサリンさんだったら、きっと同じことをしてると思います」
「そうかもしれんな。クリステアにあれだけスピードと技を見せつけられ、圧倒的に押されてたんだから。キャサリンとしては、腹が煮えくり返るだろうな」
俊介が頷いた。
「その相手に、手首の故障で、はい、棄権です。チャンピオンベルトは持ってっていいわよ。じゃ、納得しないわよ。武道家のプライドってものがあるでしょ?」
アンニフィルドも加わった。
「うん、うん・・・」
「それに、こっちの理由もある」
ジョバンニはクリステアに目配せした。
「合衆国にも、なにか理由があるんですか?」
二宮はびっくりしたように言った。
「まぁな」
「初戦のジェニー・M、彼女はZ国の通商部のエージェント。超最先端技術の鍵を知っているユティスの拉致を企んでいる、その一味なの」
クリステアは真顔になった。
「ええ?」
「もし、ユティスを拉致されるようなことがあれば、国際問題、いや超銀河間問題に発展しかねない」
「超銀河問題って?」
「超銀河問題ですって?」
イザベルと二宮、そしてクリスチナとセルジは、同時に聞き返した。
--- ^_^ わっはっは! ---
「とにかく、ユティスは大統領並みのVIPと言えば、わかるか?」
ジョバンニが4人を見つめた。
「そんなぁ・・・。ユティスさんが、超最先端技術の秘密を知ってるVIPだっただなんだって・・・」
イザベルは仰天していた。
「そうよ、イザベル。なにがあっても、ユティスたちをZ国には奪われてはいけない」
真紀が慎重に言った。
セレアムの社員たちは、ホテルを後にした。
「ほら、みんな乗れよ。帰るぞ」
俊介がみんなを急がせた。
「はぁーーーい」
「でも、どうして、まだ入社してもいないわたしなんかに、そんな大変な秘密を打ち明けたのですか?」
「それはな、イザベル。きみがセレアムに入ることもわかってるし、ここで、大事な役目を担うこともわかってるからだ。しかも・・・」
「オレとスーパーカップルになることも・・・」
「二宮とぉ?バカップルの間違いじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ひどぉーーーい、アンニフィルドさん!」
「あははは。イザベルはともかく、カップルじゃくても、コイツはアホだからな!」
「常務!イザベルちゃんの前で、あんまりじゃないっすかぁ・・・」
「で、イザベル。わたしたちは、仕事もそうだけど、あなたを高く買ってるの」
「ええ・・・?なにかの間違いじゃないですか?」
「いいや。姉貴の言ったことは本当さ。オレたちは、きみが口が堅いことを知ってるつもりだ。いずれ、彼女たちのことは、世間に公表される。きみには、いわば、ちょっとしたテストも兼ねてるんだ」
「なんのテストですか?」
「地球外超高文明世界の生命体と接触して、なお、平静で日常生活を続けられるか・・・」
「ど、どういうことですか・・・、その、地球外超高文明世界って・・・?」
「平たく言えば、宇宙人ってことよ」
「ええっ!」
イザベルは目を大きく開き仰天した。
「宇宙人・・・。ユティスさんたちが・・・?」
「なになに?宇宙人ですって、聞き捨てならないわね。人を怪物みたいな言い方してぇ」
「ち、違うぜ、アンニフィルド」
「俊介、あなただって、四分の一、宇宙人でしょうが!」
「ええ?」
今度はイザベルに加えて二宮が腰を抜かす番だった。
がたっ。
「常務が、宇宙人だってぇ・・・?」
「悪いかよ?」
「おす・・・。なんか実感湧かないんすけど・・・。いつ、なったんですか?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「アホか、宇宙怪人、二宮!」
「オレ、怪人なんっすかぁ?」
「土星の裏から裏ビデオと共にやってきた、宇宙怪人。人呼んで、二宮祐樹!」
「裏ビデオと共にって、どういうことですか?」
「どういうことですか?」
きょとん・・・。
イザベルとユティスが同時にきいてきた。
「あー、ユティスとイザベルちゃんは知らなくていいの。特殊な技術用語だから」
--- ^_^ わっはっは! ---
「技術用語なんですか、二宮さん・・・?」
「そうそう。もう、いいから、いいから・・・」
「で、さっきの質問、なんだって、イザベル?」
俊介が話を元に戻した。
「ですから、みなさん、宇宙人なんですか?」
「変か?」
「ぜんぜん、そうは見えませんけど・・・」
「だろ?」
二宮がイザベルに同意を求めた。
「きっと、地球人に化けてるんですね・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「なんじゃ、それ?」
「化けてなんかないわ。地よ、地。ありのまま。DNAだって同じよ。地球人とは子供だって作れるんだからね・・・」
ぱち。
アンニフィルドが俊介を見て片目をつむった。
「子供?」
「リーエス。欲しいの、俊介?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「おっほんっ!」
「それはそれとして、わたしたち、地球人と同じなの。化ける必要なんてないわ」
にこっ。
クリステアも微笑んだ。
「本当に、化けてないんですか?」
「リーエス。わたくしたちは、ほとんどお化粧はしません」
にこにこ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「あははは!ユティス、あなた天然だわよぉ!」
真紀が大笑いした。
「ぷふっ。面白い、ユティスさん」
「そうですか。良かった、みんな楽しそうで」
「あははは」
「わははは」
レストランへの道中、みんなははしゃぎまくっていた。