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244/408

244 寸止

■寸止■




「下がって!」

主審はクリステアをコーナーまで下げさせ、倒れて足を押さえているジェニーに屈みこんだ。


「立てるか?」

主審がジェニーの側に屈み込んだ。


「ううっ・・・」

ジェニーは苦痛というより、足に感覚のないことで面食らっていた。


「立てないなら、KOになるぞ」

主審はジェニーに通告した。


「立つわ。立ってみせ・・・」


がくん。

どたーーーんっ。


ジェニーは立とうとしたが、感覚のない方の足に体重をかけた途端、そのままマットに倒れた。


「ゴング!ゴングだぁっ!」

リッキーがリングの中にタオルを投げ込んだ。


かんかんかんーーーっ!

ゴングが打ち鳴らされ、リッキーたちはジェニーのもとに駆け寄った。




「やったぞ!」

二宮はガッツポーズを取った。


「自爆ですね・・・」

イザベルが冷静な声で言った。


「ジェニーさんのキックが当たる一瞬に、身体を硬直させたのですわ」

ユティスが簡単な説明をした。


「どういうこと、ユティス?」

和人が不思議そうに言った。


「そういうことです」

イザベルは目をリングに釘付けのまま言った。


--- ^_^ わっはっは! ---


「ジェニーは、言わば鋼鉄の柱にキックを見舞ったってわけさ」

二宮がわかり易く説明した。


「リーエス。それに神経的な刺激を与えられました」

ユティスはさらに補足を入れた。


「と言うことは?」

「足が痺れていて、とても立つことなどできないな」


「それ、痛いのぉ・・・?」

顔をしかめて真紀が尋ねた。


「いいえ。痛みも外傷も内傷もありません。しかし、恐らくジェニーさんの感覚はありませんわ。純粋に神経的なショックです」


「じゃ、骨折はしてないのね?」

「リーエス」




リング上では、主審がクリステアの右手を高々と上げた。

「勝者、クリス・ジニンスカヤ!」


「うわぁーーーっ!」

「クリス!」

観客は大騒ぎだった。


たったった・・・。

ぎゅぅ。

セルジは、リングに駆け上ると、クリステアを抱きすくめた。


「いいぞ、クリス!きみは、なんてすごいんだ。こんなの見たことないぜ!」


「やったわね!」

セルジの後から、アンニフィルドもやってきた。




「ジェニー、大丈夫か?」

リッキーたちはジェニーの肩を抱きリングに立たせたが、ジェニーの軸足はぶらぶらの状態だった。


「感覚が戻らない・・・」

「そうっとだ。そうっと」


リッキーは足をいたわりながら、ジェニーをリングの外に連れ出した。


「担架だ!」


かたっ。

すぐに担架が運ばれ、ジェニーはそこに横たわった。


「クリスはテレパスよ。あの女、ひょっとして・・・」

「エルフィア人だ・・・」


リッキーは必死で頭を回転させた。

「そうに違いない・・・」


「うっ・・・」

「悪い。痛むか?」

ジェニーの足に触れたリッキーは、ジェニーを上から覗き込んだ。


「ぜんぜん感覚がないわ。なんか自分の足じゃないみたい・・・」


がつん。

担架がリングに触れた。


「おい!気をつけて運んでくれ!」

「了解です」

ジェニーは担架で運ばれていった。




選手控え室では、場内放送で試合の状況が逐一知らされていた。


「予定通り、クリスが勝ち進んだようね・・・」

「ああ。キャサリン。準決勝じゃ当たらないが、今年は格段にパワーアップしているぞ」

セコンドはキャサリンの足をマッサージしながら、放送を聞いていた。


「ハイキックを当たる寸前で止めたみたいだな?」

信じられないような表情をして、セコンドがキャサリンを見上げた。


「ええ・・・。相当なめた真似をしてくれてるようね・・・」

「スピードも上がってるらしい」


「らしいじゃないわ。確実に、しかも極度に上がってるのよ」

「ま、きみの方が数段上だろうがね」


「冗談でしょ?」

「なにが冗談だよ?きみのスピードとパワーには負けてるぜ」


「冗談じゃない。あれが、人間業とは思えないくらい速いってことが、わからないの?」

ぶるっ・・・。


「キャサリン・・・」

「大丈夫。武者震いよ・・・」




「いやぁ、すごい技でした、クリス・ジニンスカヤ選手」

「あれ、そのシーンのリプレイが映し出されるようです」

テレビ解説者が期待するように言った。



「ビデオチェックよ」

クリスチナが興味津々でテレビに身を乗り出した。


「ああ。見てろよ、みんな腰を抜かすぞ」


どかっ。

ジョバンニもクリスチナの側に来た。


「そんなに速いの、あのキック?」

「見ろよ」

ビデオがスロー再生された。


クリステアの右足が上がり、次の瞬間、上段蹴りが繰り出されるように、右足がぶれて映し出された。


「ああーーーっ・・・!」

テレビ解説者は悲鳴にもにた声を上げた。


「消えてる・・・。ぶれた膝から上の部分が消えています・・・」

そして、次の瞬間、ジェニーの顔のすぐ横で、足が完全に静止していた。


「そして、次のコマで完全に止まっています」

「ありえないんじゃないですか?」


「この目で見てなきゃ、信じられません」

テレビは大袈裟でなく真実を伝えていた。



「はっはっは!。いわこっちゃない!」

ジョバンニは、呵呵大笑した。


「待ってよ、これ、ぶれてるというより、完全に消えてるじゃない・・・?」

クリスチナには、それがどれほどの速度か、検討もつかなかった。


「それくらい速いってことだ」

「わかってるわよ。けど、カメラに映ってないのよ・・・。人間業じゃないわ・・・。とても、信じられない」


「クリス、カメラは1秒に30コマ撮るんだぜ。室内の競技じゃシャッタースピードは遅くても500分の1だ」

「その1コマの間のことだって言いたいんでしょ?」

「ああ。そうだとも」



「これは、すごいことになりました。カメラでもクリスの蹴りを捉えることができてませんでした」


「どういうことで?」

「単純計算すると、足の移動が、コンマ03秒でも映らなかったくらい速いということです・・・。ですから、つまり・・・」

解説者は素早く計算して言った。


「つまり、クリスのキックのスピードは、コンマ03秒で2メートル以上あるということで・・・」

「時速いくらなんですか?」


「1秒で60メートル以上ですから・・・、時速は・・・」

テレビの解説者は必死で計算していた。

「約200キロ。もしくはそれ以上」



「完全に消えてたことを考えると、ざっとその倍近くはあるな」

ジョバンニは、面白そうに、解説者のコメントに付け加えた。


「時速400キロのキックですって・・・?」

「変か?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ありえるわけないじゃない!200キロでもありえないのに、冗談もほどほどにしてよ!」

クリスチナは本気で叫んだ。


「本気だ。昨晩、あんたにも寸前で止めてなかったら、首から上が引き千切られてるぜ」

ジョバンニは当然のように答えた。


「その威力あるキックを、彼女は鼻先寸前で、ぴたりと制御したんだぜ。こっちの方がよほど難しいとは思わんか?」

「ううっ・・・」

クリスチナは、昨夜、クリステアにテストしたことを大いに後悔した。


--- ^_^ わっはっは! ---




興奮冷めやらぬ間に、1回戦の第4試合が始まっていた。


「わーーーっ!」

「裕子ぉっ!」


観客はほとんど全員小金井裕子の応援だった。


「あーーーっ。最後の日本人選手、小金井裕子、イラリア・テシェイラに捕まったぁ!」


小柄な小金井は、その小柄さゆえのスピードで、イラリアの攻撃をかわしていたが、終に第ラウンド2分過ぎて、イラリアのパンチに足が止まってしまった。


「あー、小金井裕子、ダメです。足が止まってる!止まってはいけません」


小金井は身体を左右に振り、なんとか逃れようとしたが、イラリアの長い手足がそれを許さなかった。


「しいやっ!」

どかっ。

「うっ!」


ばしっ。

「はっ!」

ぼかっ。


「小金井裕子、コーナーに追い詰められています!」


かーーーんっ。

「ここでゴングだ。小金井、ダウン寸前、ゴングに救われました!」




「イラリアが、小金井をダウン寸前まで追い込んでるぞ」


にやっ。

トレーナーが場内放送を聞きながら、キャサリンに笑いかけた。


「これで、準決勝のクリスの相手は、イラリアで決まりね」


キャサリンは、控え室で、自分の準決勝の相手のニコレットのビデオから、目を離した。


「次は、きみだ、キャサリン」

「ええ」


「ニコレットは、きみと同じく長身だ。手足の長さを考えとけよ」

「わたしだって、長いわよ」


「そうだったな。で、ニコレットの前蹴り対策はできてるな?」

「ええ」




るるるーーーっ。

「イエス、マム」


ちゃ。

「あんたに電話だ、クリス」

ホテルの自室で待機中のクリスチナに電話が入った。


「だれ?」

「心配ない、ボスだ。どうしても話したいことがあるらしい」


「わかったわ」

クリスチナはクリステアの電話を受けた。


「ご免なさい。ホテルにかけるのはマズイから、ジョバンニの携帯にしたわ」


「それはわかったけど、なんなの?」

「それだけど、わたし、決勝は途中で棄権するつもりよ」

「え?」

クリステアの言葉にクリスチナは驚いた。


「左手首を捻挫することになるわ」

「なんですって、どうしてよ?」

「あなたも、他人の力で優勝なんかしてもらいたくないでしょ?」

「そんなこと言っても・・・」


「いい。わたしは十分に楽しませてもらったの。あなたの名誉も、事務所のファイトマネーも問題ないわ。それに、あなたのケガの説明をどうするつもり?」

「それは・・・」


「じゃ、そういうことで。わたしのことなら、心配しないでいいわ。地球人のスピードはわかってるから」


--- ^_^ わっはっは! ---


「なによ地球人って・・・?はぁ・・・」

クリスチナはスマホをジョバンニに返す際に、大きくため息をついた。


くるっ。


「クリステアって、ホントに人間なの?」

「火星人やBEMに見えるか?」

ジョバンニがクリスチナにきいた。


「見えないから、聞いたんじゃない」


--- ^_^ わっはっは! ---




結局、第4試合は、3ラウンド48秒に、イラリアの猛烈なパンチで小金井がコーナーに追い詰められ、スタンディングダウンを取られて、イラリアの勝利となった。


「残念でしたねぇ、蓮田さん」

「ええ。しかし、あの体格で小金井裕子はよくやりましたよぉ」


「そうですねぇ。1ラウンドで、小金井のフットワークにイラリアは攻めあぐねていましたからねぇ」

「まったくです。小金井は軽量級の選手ながら、パンチもキックも強く、日本予選はKO勝ちもある正統派です」


「クジ運もありましたからねぇ」

「新人のボノかジェニーに当たってたら、1回戦を勝ち上がってたかもしれません」




「和人さん、クリスの準決勝はどなたになるんでしょうか?」

ユティスがまったく心配していない様子で和人に尋ねた。


「今勝った南米代表のイラリアだね」

「とっても身体能力が高そうです」

イザベルがすぐさま分析した。


「混血はいいとこ取りだからなぁ。手足は長いし、バネもありそうだ」

二宮も自分の感想を述べた。


「しかし、クリスにとっては、だれが出てこようが、あまり関係ないんじゃないか?」

俊介が言った。


「リーエス。超A級SSの実力がありますから。うふふ」

ユティスは俊介に微笑んだ。


「なんだ、その超A級ってのは?」

二宮がユティスにきいた。


「スーパー美人ってことだよ。な、ユティス?」

ぱちっ。

俊介が片目をつむった。


「はい・・・?」

「そっかぁ・・・。じゃ、イザベルちゃんは、超々A級ってとこだね?」

「二宮さん!」


--- ^_^ わっはっは! ---




準決勝の第一試合は、キャサリンとニコレットが、3ラウンドを戦ったが、甲乙つけ難く、判定に持ち込まれていた。


「どっちだと思う、ジョバンニ?」

「さぁな。オレにとっちゃ、あんまし関係ないが・・・」

ジョバンニは淡々と続けた。


「マムにとっちゃ、どっちだろうが、屁の河童だ」

「屁の河童?」


--- ^_^ わっはっは! ---


「訳もないということだな」

「なるほど。わたしは、ニコレットに方が組み易いと思うわ」


「じゃ、そっちを応援するのか?」

「ふふ。まさかぁ。応援するのは、クリスだけよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「確かに」



「さて、判定が出たようです」

テレビでは主審が、キャサリンとニコレットを呼び、両手で二人の手を掴んだ。



「どっちにしろ、かなり微妙だわ」

「さぁ、主審が、副審たちを見て、頷きました。いよいよです」


さっ。

主審はキャサリンの手を上げた。


「キャサリンだ!勝者、キャサリンです。キャサリン・グリーン、昨年に続き決勝進出!」


「わぁーーーっ!」

会場は歓声に包まれ、キャサリンのセコンドが飛び出してきた。


「ニコレットとキャサリンは、リングの中央で笑顔で抱き合い、健闘を讃え合った。


「あは。思ったとおりだわ」

準決勝の第2戦は、クリステアとイラリアの勝負となった。


「クリス、イラリアはとにかくタフだ。全速力で打って蹴って、まったく疲れない。威力も衰えない。打たれても蹴っても、少しも堪えない。とにかく、バケモンだ」


「ふうーーーん」

クリステアはアンニフィルドを見た。


「それで、なんでイラリアは去年は決勝にもいけなかったわけ?」

アンニフィルドが尋ねた。


--- ^_^ わっはっは! ---


「いい質問だよ。反則負けしたんだ。キャサリンと熱くなってね。打ち合いになったのはいいが、彼女にヘッドバットを喰らわしたんだ。どっかーーーんってね」


「きっと、酷く不味かったのよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


「ああ。審判たちには不評を買った」

「あははは。あなたもユーモアあるわね?」


「いや、アンニフィルド、きみこそよく知ってるじゃないか?」

「別に知ってるってわけじゃないけど・・・」


「じゃ、いつ仕入れたんだ、そのことを?」

「耳から聞こえるより、少しだけ早く、頭の中に届くのよ」


--- ^_^ わっはっは! ---


ぱちっ。

アンニフィルドは、クリステアにウィンクをした。


「わははは。きみは面白いことを言うね?」

セルジはそれを冗談と捉えた。


「それで?」

クリステアが話を戻した。


「おかげで、イラリアは、審判全員からレッドカードを出された」

「で、イラリアには、ヘッドバットに気をつければいいわけ?」


「ああ。他にも反則ぎりぎりの汚い手を使ってくるかもしれん」

「了解よ。1ラウンド、きっかり3秒で片付けるから、彼女が仕掛けてくる暇ないと思うわ」

にこっ。


--- ^_^ わっはっは! ---

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