241 発券
■発券■
一方居酒屋では、二宮が首尾よくイザベルのリクルート・ミッションをこなしていた。
「あーあ、酔っ払っちゃったぁ・・・。大丈夫かな・・・?」
頬を赤く染めて、イザベルは二宮に微笑みかけた。
にっこり。
「とっても美味しかったです。二宮さん」
「うん。イザベルちゃんが、喜んでくれて、オレも嬉しいよ」
「そろそろ、時間ですね?」
イザベルはもうすぐ9時になろうとしてることに気づいた。
「うん。もう、こんな時間なんすね。あっという間です」
「帰りは電車ですか?」
「そうっす」
二宮はそう答えながら、ポケットから一枚の紙切れを見た。
「はい。これ・・・」
さっ。
二宮は、イザベルからもらったドリンク無料特別券を、彼女の目の前に出した。
「うふ・・・。今、使うんですか?」
「さっき、使えなかったから・・・。期限切れかなぁ・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
にこっ。
「構いませんよ。特別サービスです。すいませーーーん。ピーチサワー、もう一つ」
イザベルは最後の注文をした。
「へーい。3番さん、ぴーーーち」
「あーーーい」
ふふふ・・・。
二宮はイザベルを見つめた。
「なに?それが、特別ドリンク?」
「はい、そうです」
でん。
「はい、お待ちぃ」
「あの、ストロー、2本」
「へい。ストロー、2本」
「あーーーい」
すぐにストローが2本届いた。
イザベルは、2本のストローをピーチサワーに挿した。
からん、からん・・・。
ピーチサワーの中で、氷が快い音を立てた。
「こうして、顔をくっ付け合って、飲むのって、どうですか?」
ちゅう、ごっくん・・・。
ちゅう・・・、ごく・・・。
にこっ。
「あ・・・。うん、いいかも・・・。かなり、刺激的・・・」
「で、ストローを入れ替えるんです・・・」
「ええ?」
「はい」
--- ^_^ わっはっは! ---
イザベルは、自分が口を付けたストローと、二宮のそれを、さっと交換した。
「んーーー。美味しい・・・」
ちゅーーーう。
ごっくん。
イザベルは、さっさと、二宮のストローで、ピーチサワーを飲んだ。
かぁーーー。
「そ、それって・・・」
にっこり。
「間接キッス・・・」
イザベルは、飲みかけのストローをそっと指で蓋をし、グラスから取り出した。
「な、なに・・・?」
二宮はなにが始まるのかわからなかった。
「次に・・・」
イザベルは、ストローの中身が外に出ないように用心して、二宮の口元にかざした。
「・・・」
「あーーーん、してください、二宮さん」
「ええーーー?ひょっとして、ここで・・・?」
「うふ。止め・・・ま・・・す・・・か?」
「でも、でも、みんなが、見てるっすよぉ・・・」
「大丈夫です。はい、あーーーん。二宮さん」
二宮は決心した。
「はい。あーーーん」
しゅわぁーーーん。
その瞬間、二宮の口の中にピーチサワーが注がれた。
(か、間接、口移し。スッペッシャル・サービスだぁ・・・。オレ、死んでもいい・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「お帰りなさい、クリステア」
「ただいま」
夜11時になって、クリステアはやっとエルフィア大使館に戻った。
「そんなこと約束して、大丈夫なの?」
和人が心配そうに言った。
「ぜんぜん。赤子の手をひねるようなものよ」
「あーん、面白そう。わたしも、そっちに出たい」
「アンニフィルドまで」
和人が心配そうに言った。
「だって、こっち、退屈なんだもの」
「平和でいいじゃないか?」
「なによ。人の目の前で、ユティスといちゃついてばかりいて、いい気なもんね?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「だ、だれが、いちゃついてるってんだよぉ?」
和人はアンニフィルドに文句を言った。
「あー、それ、オレが取ってあげるよ。とことことこ。あ、それは、オレが持ってきてあげるよ。とことことこ。ほら、どうだい、これなんか?とことことこ。まぁ、和人さん、リーエス。ちゅっ」
アンニフィルドは独り芝居をした。
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、アンニフィルドったら・・・」
「だから、それのどこが、いちゃついてるんだよぉ?」
「盛りの付いた雄鶏よ。フェミニストのスケベ」
「なんだってぇ!」
「止めなさい、二人とも」
「はいはい」
「これ、明日の招待券」
クリステアはレジーナの観戦招待券を差し出した。
「ひ、ふう、みい・・・、10枚もですか?」
「いくら欲しいんだって言ったから、冗談で、10枚くれって言ったら、くれたのよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リングサイドじゃないか・・・」
にやっ。
「かぶりつきって言うんだそうよ」
アンニフィルドが答えた。
--- ^_^ わっはっは ---
「だーーー。どこで覚えてくるんだよぉ。そんな特殊な単語?」
「俊介」
「どっちが、スケベなんだよ。まったく・・・」
エルフィアのシェルダブロウから、Z国のリッキーへ近々に地球に現れる旨の通知がはいった。
「エルフィアのシェルダブロウだ。起きているか、リッキー?」
「あ、はい、シェルダブロウ・・・」
レジーナの前夜祭から、Z国大使館近くのマンションに戻ってきたリッキー・Jは、何日かぶりにシェルダブロウの声を脳裏に聞いた。
「大丈夫です。いま、汗を流したばかりで休憩をしていました」
リッキーはそう言うと、ミネラルウォーターを飲んだ。
「わかった。長らく待たせたが、ようやく委員会の認可も取れ、明後日の昼、われわれ新メンバーが地球に派遣されることが決定した」
「ついに・・・、ですか?」
「そうだ。時間はそちらの時間で10時から12時の間、場所はユティスたち旧メンバーの住む家からそう遠くない公園だ」
「公園ですか?なぜ、われわれの大使館ではないのですか?」
「いきなり現れると、きみらの警備員を刺激することになりかねん」
「なんと・・・?」
「心配するな。その日のうちにそちらの大使館には挨拶に行く。まずは派手に登場するのは避けておきたい」
「わかりました」
リッキーは同意した。
「きみにとっては前日に大きなイベントがあるようだが、それで支障はでるようなな?」
シェルダブロウは女性版異種格闘技レジーナのことを知っているようだった。
「レジーナでしたら問題はないと・・・」
「けっこう。では、その時お目にかかろう、リッキー・J」
「はい。了解しました」
そして、シェルダブロウの声は消え、リッキーは大使館の外商部に特殊周波数帯の暗号電話を入れた。
「はい。外商部」
「オレだ。リッキー・・・」
「こんばんわ。こんな時簡にどうしたんですか?」
外商部のエージェントの一人が言った。
「部長のマイクを起こしてきてくれ。大至急だ」
「あ、はい。まだ、起きておられることは確かです」
「とにかく一刻を争う」
「わ、わかりました」
1、2分後には、マイクが電話に出てきた。
「わたしだ。リッキー」
「部長。いきなりですが、令のエルフィアの新使節団が、明後日の昼にユティスのうちの近くの公園に現れます」
「なにぃ、地球にやってくるというのか?」
マイクは驚いた様子で、声がひっくり返っていた。
「ええ。そういうことです。受入準備を大至急お願いしたい」
「受入準備か?」
「ええ。部屋、調度品、衣装、セキュリティシステム、通信システム、その他、前もってわたしが指示していた品々だ」
「うむ。わかっている。若干のもがまだ整っていないが、明後日の朝までにはなんとかする」
「なら、いいんだがね。揃っているのがただの言い訳であれば、大変な結末になるぞ」
「そんなことは。わたしも十分に承知している」
「オレには言い訳はいらん。本国の元首閣下に直接言うんだな」
「な、なにを・・・」
外商部長はリッキーの言葉にことの重要さを再認識した。
次の日、いつものように株式会社セレアムの日課が始まった。
かたかた・・・。
ぴーーー・・・。
ぽんっ。
「あーあ、このPC、そろそろ買い換えた方がいいんじゃないの?」
クリステアは二宮のPCを診ていた。
「どうして?まだ、使えるじゃないか?」
「だって、見てごらんなさい。OSは古いし、メモリもディスク容量も限界よ。少しはディスクの整理してるの?」
「ええっ?2テラあるんだぜ、なんで、もう容量がないんだよぉ?」
「知らないわよ。あなたが、女の子の高解像度動画ばかり溜め込んでるからでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「イザベルとか、イザベルに似てる女の子とか、イザベルって名前の女の子とかの・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「イザベルちゃん以外は、入れてなんかない!」
「ほれ、やっぱり入れてるんじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
(し、しまったぁ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「システム管理者として指導させてもらうわ。二宮祐樹、業務に関係ないものは、一切捨てなさい!」
「入ってない!」
「捨てなさい!」
「入ってない!うーーー」
「うーーー!」
--- ^_^ わっはっは! ---
二人は睨みあった。
「ウソおっしゃい。じゃ、なぁに、その壁紙?ミニスカのイザベルとの合成ツーショットじゃない?」
「壁紙・・・?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あーーー、本人に無承諾で壁紙にしたわねぇ?」
「ち、違う!合成のアイコラじゃないぞ。ちゃんとした国際展示場の一コマだってば!」
つかつか・・・。
「ほーーーぅ。二宮、なんか、やけにイザベルといい雰囲気ねぇ・・・」
岡本がPCを覗き込んできた。
「げげ、岡本さん・・・」
「なによぉ、げげ、だなんて!さっきから大声で、失礼ね」
くるっ。
「とにかく、それにOS変ると慣れんの大変なんだぞぉ」
二宮はクリステアに向き直った。
「わたしに言わないでよ」
「あんたの責任でしょ、二宮」
岡本もクリステアを援護した。
「きみは、そのためにいるんだろ?社内のITの見張り番」
「あなたのPCを変えなさい。これが結論よ」
クリステアは二宮を見つめた。
(ひっ・・・。殺されるぅ・・・)
二宮はクリステアの視線にびびった。
--- ^_^ わっはっは! ---
「二宮、その見張り番のクリステアが、あんたのPCは限界だって言ってるの。もうじき、クラッシュするわよ」
岡本がクリステアの援護射撃した。
「大丈夫です」
「あーそぅ。そん言うんなら、責任持たない」
ぷぃ。
クリステアはそっぽを向いた。
二宮とクリステアは、岡本も交えてPCを巡り言い合っていた。
「あ、俊介、コイツ、どうにかしてよぉ」
「おう、クリステア、なんだい?」
「PC入れ替えろって言ってるんだけど、ぜんぜん、言うことを聞かないの」
「そうなのよ。自分のPCの面倒くを見ようとしないのよ」
岡本は二宮を顎で指した。
「そういうことか・・・。二宮、クリステアたちの言うことは聞いといた方がいいぞ」
「でも、インストールやらセキュリティ設定だとか、超面倒臭くって・・・」
「面倒かどうかなんて関係ないわよぉ。セキュリティ上絶対に必要なことなの。ばっかじゃない。それに、PC、あなたが買うわけじゃないじゃない。それに、マニュアル見れば簡単でしょ?」
「オレは、エルフィア文字は読めません」
「アホ。それは漢字っていうんだ」
--- ^_^ わっはっは! ---
ぽかりっ。
「痛・・・。常務ぅ・・・」
「そんなことより、二宮、イザベル、うちに来てくれそうか?」
俊介は、コーヒーを片手にしたまま、三人に寄ってきた。
「うーす。一つ返事で、OKくれました」
「やるじゃないか、二宮。お前でダメだったら、ユティスをやろうと思ってたところだ」
「おす。うへへへ・・・」
「バカ野郎、鼻の下延ばしやがって。時間通り、ちゃんと彼女をピックアップしろよ」
「おす。任しといてください」
女子異種格闘技世界一決定戦、別名レジーナは、今まさに火蓋を切って落とそうとしていた。その間、クリスチナ・ニジンスカヤは、ホテルの部屋から一歩も出ないように厳命されていて、護衛にはジョバンニが当たった。
とんとん・・・。
「だれだ?」
ジョバンニがきいた。
「あのぉ、ベッドメイクですが・・・」
「待ってくれ、すぐ開ける」
かちゃ。
「失礼します」
「ああ。さっさと、やってくれ」
「はい。あのぉ・・・」
「なんだ?」
「あなたはクリスさんのお連れさんで?」
彼女はクリスとジョバンニを代わる代わる見つめた。
「ボディガードだ」
「あ、左様で・・・。失礼しました」
「いえ、構わないわ」
「そう言えば、試合、今晩なんですよね?」
「そうよ。知ってるの、あなた?」
「ええ。一応、日本選手の応援をしますけど、あなたたち外国人の方の方が体格も力も違うから・・・」
「そんなことわからないわ。日本選手のスピードは、ぴか一じゃない?」
「でもね、正直、体力勝負になる決勝は難しいと思いますよ」
「そんなもんか?」
「恐らくね。もし、日本人選手が敗退して、あなたが勝ち残ってたら、あなたを応援しますよ」
「ホント?」
「ええ。これもなにかの縁だから・・・」
じぃ・・・。
「どうしたの?」
「こうやって近くで見ると、どこかの女優さんかと思っちゃいます」
「あはは。ありがとう、マム」